「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode4 ライバルには負けへん!(3)

 その頃、ボアギュベール邸の庭を歩く人影があった。ミュリエルである。時間も時間だからか、キャミソールに七分丈のパンツという軽装で髪も後ろで簡単にまとめ、空を見上げながら歩いていた。
 立ちどまってゆっくりと深呼吸して、夏の生温かい空気で肺を満たす。
「……まったくもう、面倒なことになってきましたわ」
 ボアギュベール家が二番手に甘んじているのには、理由がある。
 ギレスベルガー家の当主は、代々カリスマ性の高い者が就いている。今は病に伏せっている前当主も、若い頃は"鋼鉄の王"と称され、理不尽と思われる外部からの要求には決して折れなかったという。ホワイトタウンを守るため、そしてその繁栄を第一に考えてきた、名高い領主であった。
 現当主のクサヴァーはまだ十一歳と若いが、明らかに先代の才能を受け継いでいた。町の利益とならないこと、領民の利益とならないことは絶対に認めない。若いながらも英才教育を受け、ギレスベルガー家当主の名に恥じない働きを見せていた。
 それとは対象的に、ボアギュベール家は女傑の家系である。能力は高い者が多いのだが、最終的には男性であるギレスベルガー家に軍杯が上がってしまうのだった。
「……にしても、クサヴァーくんも立派になったものね」
 ふとクサヴァーの子供の頃を思い出して、うふふ、と微笑む。ギレスベルガー家とボアギュベール家は昔から交流があるので、ミュリエルは物心ついたばかりの頃のクサヴァーをよく知っていた。
("おねえちゃん"なんて、しばらく呼ばれてないわね……)
 数年前にギレスベルガー家の前当主が病に伏せてからは、クサヴァーが当主として全てを行うようになった。それは当然のように二人の距離を遠ざけ、当主同士として付き合うようになったのである。
「あの頃のクサヴァーくんは、私の名前をうまく言えなかったのよね――」

「む……むりえる?」
「違うわよ、ミュ・リ・エ・ル」
 幼いクサヴァーが首を傾げるのに、ミュリエルは笑った。舌がうまくまわらず、「ミュ」の発音がうまくできないのだ。
「む、むりえる……」
 それでもうまく発音しようとして、クサヴァーは繰り返す。
 思えば、初めてクサヴァーと会ったのは六年前、ボアギュベール家の屋敷だった。当時すでにボアギュベール家の当主だったミュリエルにギレスベルガー家前当主が会いに来ており、その際にクサヴァーを連れてきていたのだった。
 確か当時はまだ六歳だったろうか。自分の名前もうまく発音できず、「くさばー」と言っていた。ぷくぷくのほっぺたで、まんまるい瞳は好奇心旺盛。屋敷内の彫刻やら絵画などを見つけるたびに、「これなに?」と聞かれたものだった。
 その一所懸命な姿にミュリエルは微笑んで、
「……いいよ、"おねえちゃん"で」
 ミュリエルはクサヴァーの体をひょいと抱えると、自分の首に乗せてやる。
「おねーちゃん?」
「うん。年上の女の人を、おねえちゃんっていうのよ」
 それにクサヴァーはへぇー、と感嘆の声を漏らす。
「じゃあ、おねーちゃん!」
「よろしくね、クサヴァー」

 思い出にどっぷり浸りながらミュリエルははっとなって、軽くかぶりを振る。今はこういうことを考えている場合じゃない。
「明日の定例会で、クサヴァー様に相談しなくては……」
 ホワイトタウンの当主たちは、月に一度集まって定例会を行っていた。こまめに情報交換を行いその成果を報告して共有することで、町全体としての方針や行いなどを再確認するためである。
 ミュリエルは、庭の真ん中にある噴水の脇を通り抜け、隅に立てられた石碑の前に膝まづく。ここには歴代の当主の名前が掘られており、いわばボアギュベール家のシンボルでもあった。
(……お父様、お母様……どうか私を見守ってください)
 ミュリエルは両手を合わせ、瞳を閉じて祈りを捧げる。幼い頃に亡くした両親へと向けて。
「!」
 ミュリエルは、とっさに振り向いて立ち上がった。腰に下げていた二本のナイフを抜いて、眼前で構える。刃が波打つそれは"クリスナイフ"と呼ばれるもので、柄は象牙で作られており、派手な彫刻が施されている。儀礼用としても充分に耐えうる美しさだった。九十度湾曲した柄は内側に金属製のリングと、レバーらしきものがある。それだけを見ると、まるで銃の持ち手のようだった。
「……誰?」
 石碑の向こうにある一本の樫の木。それに向けて、ミュリエルは静かに言った。

 ……何かいる。

 ミュリエルはその気配を感じ取っていた。
「……さすがはボアギュベール家の当主だけはある。そう簡単にはいかないみたいだね」
 木陰から表れる人影。それを見て、ミュリエルは一瞬絶句した。
「子供……?」
 その人影は、身長百三十センチほどの少女だった。黒髪をショートカットにして、低い鼻に丸顔ではあるが、一見男の子に見えなくもない。薄い赤褐色のチャイナドレスをベースとした上着を羽織っており、その起伏は未熟ながらも女性であることを物語っている。正面のスリットから覗く下腹部はへそが見えており、ホットパンツ履いていた。靴はスポーティなシューズで、白をベースに濃赤のラインが入っている。顔には仮面をつけており瞳は見えないが、そこから除く光は鋭く輝いていた。
「ボアギュベール家は、アダム様の言うことをきかないみたいだね。だから、ぼくがおしおきしてあげる」
「何を言っているのです、当家が逆らうなどと……」
「隠さなくていいよ、執事が全部喋ってくれたから。明日の定例会で全部話すつもりだったんでしょ?」
 その言葉にミュリエルははっとなって、目を見開いた。
「! セヴァス……セヴァスに何をしたのですかッ!」
「さあ? ぼくを倒したら、分かるかもしれないよ」
 言いながら少女は、鍔が球状となった二本のボロック・ナイフを取り出し、両手に持った。全長はわずか三十センチほどだったが、鋭い先端での刺突能力は非常に高い。
(ち……っ!)
 ミュリエルは心の中で舌打ちする。得物は持ってきていたが、防具は何も身につけていない。もし攻撃を食らえば、やすやすと皮膚を貫いてかなりの痛手を負うのは目に見えていたからだ。
 ……だが、やるしかない。
 この場所は庭の端にあり、庭の広さは一万平方メートル以上ある。大声を出した所で誰かが気付くとは思えないし、床につく前にぶらりと出てきたので、ミュリエルが今ここにいることなど家人は誰も知らない。
(なんとしても、屋敷まで戻らなければ……)
 じりじりと移動しながら、二人は距離感を確かめる。お互いの有利な距離に引き込むために。
「はあっ!」
 ミュリエルが仕掛けた。左足を一歩踏み出して、左腕のクリスナイフで外へと大きく凪ぐ。少女はわずかにスウェーバックで避けると、体勢を戻しながら一気に踏み込もうとする。
 それに反応して、ミュリエルは右手のナイフを少しだけ突き出してみせる。少女もそれに気づいて、踏み込むのをやめた。
(……近づかせないようにしなければなりませんわ……)
 身長差がある分、ミュリエルの方がリーチは長い。上手にこちらの間合いで戦えば、少女はこちらに手を出すことはできない。
 だとすればミュリエルにとっては非常に好都合で、飛び込みたがる少女をいかに牽制しつつ、こちらの間合いを守り続けるか。それだけを考えればいい。
(それにまだ……こちらには"切り札"がある……!)
 少女が再度、仕掛けた。正面から来ると見せかけてのフェイントで、右側面へと回りこもうとする。ミュリエルはそれに気づいて、右へ向き直りながら後ろへと飛び退く。
 だが、少女はそれ以上飛び込んでは来ない。
(――!)
 慌てて振り向くミュリエル。
 そう、二重のフェイントだ。真後ろに少女は待ち構えていた。
「この……ッ!」
 ミュリエルは両方の剣先を少女に向けると、柄の引き金に人差し指をかけて迷いなく手前に引く。しゃこっと金属がこすれる音がして、クリスナイフの刀身が中心より上下に別れた。中には柄から剣先まで、金属の筒が入っている。
 ドドン、と銃声が響き渡る。
 クリスナイフから二発の銃弾が発射された。
(……!)
 弾丸が少女の体をとらえた、その瞬間。弾丸はそのまま少女を通り抜け、地面へと突き刺さった。
(まさか……!)
「はっきり言っておくけど、あなたのはただのアソビだね」
 そう、その声は後ろから聞こえてきていた。
(!? 三重フェイント……!?)
「"精・神・注・入!……岩崩しの槌"!」
 少女はぐんと振りかぶった右の拳をぐっと握る。拳はブラウンがかったオーラをまとっていた。
 そのまま、拳がミュリエルの左頬に叩きつけられた。あまりの勢いにそのままふっ飛ばされてしまう。一瞬意識が途切れかけ、受け身をとる間もなく地面に叩きつけられる。
「ああ……っ!?」
 不様にも、ミュリエルの美しい肌は地面でこすれてすり傷だらけになり、服にも泥がつく。
 それでも勢いは止まらず、ミュリエルは噴水の段差に叩きつけられて跳ね上がり、噴水の中に落ちた。
「――弱いよ。でも、アダム様は君の力が欲しいんだよね」
 少女が拳をゆっくりと引きながら、暗い笑顔で言った。
「なんのために……私から何を奪う気なのですか……ううっ」
 ミュリエルはぐらぐらと揺れる視界の中で、かろうじて噴水の縁に手をかける。
「だから……君の力だよ。ギレスベルガー家の影に隠れているとはいえ、女傑一族の能力をアダム様は高く買ってる。さあ、ぼくについてきてもらうよ」
「何を一方的に……う、ううっ……!?」
 不意にぐるりと揺れる視界に、ミュリエルは、完全に混乱していた。まるで、酔いすぎて前後不覚になっているようだ。目の前がぐるぐるとまわり、思考が定まらない。一体、何が起きているのか分からなかった。
 ただ、生存本能だけで水面に落ちそうな顔を上げ、上半身を噴水のへりによりかかるようにして預ける。
「お父様……お母様……!」
 それだけ言うと、ミュリエルはゆっくりと意識を失ってしまった。
「……戦いは相手を殺す気持ちがなきゃ勝てない。絶対にね」
 少女はミュリエルを見下ろして、吐き捨てるようにそれだけ言うと、そのまま暗い夜に姿を消した。

(――クサヴァーくん……)


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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