「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode4 ライバルには負けへん!(2)

「……どういう事でしょう?」
 ミュリエル=ボアギュベールは、独りごちるようにゆっくりと口を開いて問い返した。その言葉はまるで、現実に対してではなく、どこか夢心地で言ったかのように現実味が無い。
「……」
 目の前に立っている執事風の初老の男性は、ただうつむいたまま何も答えなかった。閉じた瞳は答える言葉が無いのではなく、差し出がましい回答でミュリエルを困惑させるのであれば、いっそ発言しない方が良い結果を導くと分かっていたようだった。
 ここは中世時代を思わせる、ロココ調の建物。繊細な曲線で彩られた柱、絶妙なカーブを描く階段の手すり。ホワイトタウンには、このような建物が今でも多く残っているのだった。
「……もう一度、聞かせてくださいますか」
 ミュリエルは右手の指で耳にかかった髪を軽くかきあげ、ゆっくりと息を吐いた。
 彼女は胸ほどまで伸ばした長い栗色の髪を、まるで踊る仔馬のように綺麗にカールさせていた。瞳は大きく丸く、下がった目尻が優しく穏やかな雰囲気を醸し出している。自己主張の弱い低い鼻と、ぽてっと肉付きが良く潤いのある唇が、可愛らしさを物語っていた。体には、靴が完全に隠れるほどのドレスをまとっており、肩や胸元にあしらわれたレースや、ふわっと広がったスカートのラインが女性らしい気品と美しさをより演出していた。
「彼は、なんと?」
 ミュリエルはもう一度、噛み締めるように呟いた。執事はそれに視線を落としたままで、ゆっくりと口を開いた。
「……はい。ボアギュベール家でホワイトタウンを取りまとめ全ての領地を統一し、傘下に下れとの事です」
「それを断った場合は?」
「総勢力をもって、街への無差別襲撃、ならびに占拠を開始するそうです。ホワイトタウン壊滅を覚悟しろと……」
 ミュリエルは少し首をかしげて右手を顎に当て、それから口を開く。
「敵の勢力はいかほどですの?」
「正直、よく分かっておりません。このウッドシティを裏で牛耳っているということ、それに私設部隊"rue-rue girls!"を持っていること……その程度しか分かっておりません」
 執事が抑揚の小さい声で答えるのに、ミュリエルは視線も動かさぬまま聞いていた。
「……私たちの騎士団は、せいぜい一万人ほど……全面抗争になっても、勝ち目はなさそうですね」
「……」
 執事は何も答えない。ミュリエルはそれを確認してから、ゆっくりと息を吐いた。
「ですが、あまりに理不尽ではありませんか? 我々が先祖から受け継いだこの土地を無条件で差し出せなど、人を馬鹿にするにもほどがありますわ」
「おそらく、彼はウッドタウンを支配下に置く上で、このホワイトタウンの勢力を恐れているのでしょう。ここには数多くの優れた血筋が長きに渡って受け継がれております。それが抵抗勢力になる事が怖いのです」
「そうでしょうね……」
 ホワイトタウンはかれこれ数百年は続いている。総人口はウッドシティの約二十パーセントを占め、経済や政治にも、大きな発言力を持っていた。
 なぜなら、貴族たちは勢力を維持しながらも、協調を重んじてきたからだ。元々この町は、故郷を離れた人たちが助け合って生きるために生まれた集合体。だからこそ、抗争などを起こさず、共存できたのだ。
 だが、ボアギュベール家はホワイトタウンで二番目に大きな勢力を持つ一族。外から見ても目に止まる事は間違い無く、だからこそこんな恐喝が届いてしまったのだろう、とミュリエルはそう結論づける。
「……セヴァスは引き続き、敵勢力の調査を続けてくださいな。私はなんとか平和的解決をできるよう、明日の定例会で話してみようかと思いますわ」
「分かりました」
 セヴァスチャンが深々と頭を下げながら言うのに、ミュリエルは頷いた。
「……このようなふざけた要求に答えるわけにはゆきませんわ。お父様お母様……どうか私に力をお貸しください」
 ミュリエルは静かに呟くと、下げた拳をゆっくりと握り締めた。

「なんかさ、昔はあんな感じと違ったんやけどなあ」
 QJがぼやくように言ってから、グラスをわし掴みにして、お茶をぐっとあおった。
「アナ・マリア先輩のこと?」
「そうそう」
 ナターリヤが相槌を打つのに、QJはため息をつきながら両手を広げてみせる。
 陸上大会も無事終わり、その夜。レス・レスと子供たちは、夕食を取っていた。今日の食事当番はレス・レスで、彼特製のビーフシチューが食卓を彩っていた。
「確かに昔から、向上心はすごい強かってん。せやけど、あそこまで人を否定したり怖い眼つきをする人ちゃうかってんけど。ここ半年ぐらいで、急にきっつい人になった気がするわ」
「あれじゃないの、六年生になったから偉そうなんじゃないの? ……あ、レス・レス、シチューおかわり」
 アッシュは器の底までパンでしっかりすくい取ってから、元気に器を差し出した。あまり親身になっていないその様子に、QJは小さくため息をつく。
「まあ、それやったら別にええねんけどな……」
「でも、アッシュの言う通りかもしれないネ。六年生になると、いろいろ大変になるし」
「そうだ。後輩の面倒も見なきゃいけねぇし」
 ナターリヤの言葉に、バーニィが同意して頷く。QJはそれに納得したのか、深く頷いてから腕を組んだ。
「まあ、うちの考えすぎかな。なんか暗い話題になってごめんな」
 QJは明るく笑いながら言って、頭を掻いた。

「ふむ」
 クサヴァーは腰に帯びたレイピアを半分ほど抜いて、その剣身に曇り一つない事を確認してから、納得したように呟いた。愛刀"フィオラバンティ"は、当主の座に就くことが決まった際に父から賜った業物で、その装飾や切れ味は名剣と呼ばれてもおかしくない程の一振りだった。
 彼は少年だったが、胸を覆うブレストメイルを着て、腕や足を部分鎧で包み、いかにも騎士然とした服装だった。胸には鷹を象った紋章が刻まれている。肩に届く長い金髪をストレートに伸ばし、薄い眉に細く釣り上がった瞳と彫りの浅い顔は、気品にあふれていた。まだ若い少年ではあったが、その気高い雰囲気は充分に尊厳のあるものだった。
「明日は定例会か……ギレスベルガー家の頭首として、恥ずかしくない振る舞いをしなければな」
 クサヴァーは呟いて、レイピアを鞘に納める。それから髪をかきあげて、ソファに深く腰を下ろした。
 窓からは夜空が見えている。今夜は雲も少なく、北の空には夏の星座である小熊座やカシオペア座が空で瞬いていた。
「お兄様」
 そこでぱたぱたと小さな影が近づくいてきたと思うと、ドアをノックする音と共に聞き覚えのある声が聞こえる。クサヴァーはそれに気づくと、「どうぞ」と答えた。
 ドアを開けて入ってくるのは、ツェツィーリエだった。彼女もまた、胸を覆う金属鎧と、脛を覆う金属の具足の下にアンダースーツを着こみ、騎士らしい格好をしている。胸には虎を模した紋章が輝いていた。
「お兄様、遅い時間にすいませんが、今お時間ございますか? よろしければお聞きしたい事があるのですが……」
 少しためらいがちに言って、ツェツィーリエは目を伏せる。そのためらったような表情はとても愛らしく、誰しも彼女を可愛がりたい欲求が芽生える事は間違いなかった。
「この間の論文の件か?」
 クサヴァーは振り向いて、表情ひとつ変えずに静かに言った。
「はい」
 ツェツィーリエは頷きながら、クサヴァーの目の前へと座る。
「お前の家庭教師は非常に優秀だな、なかなかにいい課題を与える」
「はい。……ですが、私には難しすぎるようなのです」
 クサヴァーは感心して声を漏らすが、ツェツィーリエは目を伏せて、困ったように呟く。
「何、それほど難しい事ではない。カントの哲学論をもう一度読み直せ。ただし、今度は"自分ならどう考えるか"という視点でな」
「自分ならどう考えるか……ですか?」
「そうだ。恐らく大切なのはそれを読んで"どう思ったか"ではない。それを読んでお前が"どうしたいか"なのだと考える。特にカントの哲学書の主題は認識論だ、自分が感じたままに書けばいい。どうせいつものように、優等生的な当たり触りの無い感想文を書いたのだろう?」
 ツェツィーリエはそれを聞いて目を見開き、"なんでそこまで分かるんですか"という顔でクサヴァーをぽかんと見つめた。
「まあ、そういうことだ」
 いつも通りの反応にクサヴァーはわずかに微笑んで、ツェツィーリエの頭に手を伸ばすと、軽く撫でた。それにツェツィーリエは小さな声で「お気遣いありがとうございます」と答える。
「そ、そういえばお兄様。明日の定例会は参加されるおつもりなのですか?」
「もちろんだ。父上が病に伏しているとはいえ、ギレスベルガー家は健在であり不動の存在であることを示さなければならん」
「そうなんですか、それではどうかお気をつけて……あ、あと」
 ツェツィーリエは言って、懐から五センチ四方ほどの小さな紙袋を取り出して、そのまま差し出す。まるで賞状でも受け取るかのように両手を突き出したその姿は、どこかぎこちなく滑稽なものであった。
「これは?」
「東洋で用いられるアミュレット――"お守り"です。少しでもお兄様の助けになるようにと、買い求めたのです」
 突然の事に驚きながらも表情は変えず、クサヴァーは受け取って紙袋からそれを取り出す。紐に小さな布の袋がついており、黒い袋に金糸で高尚に彩られたいかにもお守りといったものだった。
「ありがとう。大切にする」
「はい。……遅い時間に、申し訳ございませんでした。それでは、私はこれで」
 言ってツェツィーリエは、軽く手を振りながら少しほっとした顔で部屋を出てゆく。その背中を見送って、クサヴァーはわずかに目を細めた。

 ……思えば、フィアンセとして会って早三年。
 彼女はまだ幼いが、彼女なりに頑張っているのがよく分かる。
 それを無下にするような事は、したくない。

 出会った頃の懐かしい思い出に浸りながら、クサヴァーはふと、視線をお守りに向ける。
「……!」
 クサヴァーは絶句した。

 そのお守りには、"安産祈願"と書かれていたからだ……。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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