「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode3 君は必ず……俺が守る!(2)

「それじゃあ、ワタシが審判をやるわネ」
 ナターリヤが言うのに、皆が頷く。彼女もいやにやる気満々で、手には軍杯を持って行司の帽子をかぶっていた。
「……競技が違うような気もするけど」
「細かいことは気にしちゃだめヨ。では、赤コーナーあぁぁ、オデット、マリー、ルイーズチーム。白コーナーあぁぁ、ウララ、バーニィ、アッシュチーム!」
 グラウンドに響き渡るような声でナターリヤは言うが、誰もそれについて来ない。むしろ勝手にやらせておけ、といった空気だった。
 六人はチームごとに別れて向き合っている。視線からばちばちと火花を散らせて、今にも飛びかからんばかりの勢いだった。
「相手にハチマキを取られるか、騎手の体が地面についたら負けです。それでは、準備してネ」
 その声に両方の騎馬が作られてゆく。上に乗るのは当然オデットとウララ。二人とも、真剣な顔つきでハチマキを締める。
「では、はっけよーい、のこった!」
 掛け声と共に、ふたつの騎馬が飛び出す。
「ほっ!」
 オデットが身を乗り出して手をぐんと伸ばす。ウララはそれを上体をぐんと逸らしてかわす。それから体を起こしながら右手をぐっと伸ばす。それはオデットの頬をかすめてゆく。
 騎馬が男子二人のウララの方が安定性が高いため有利だと思えたが、オデットの方も予想以上にしなやかな動きをしている。騎馬との息が合うのか、三身一体となった動きは柔軟性に長け、かなりスピードのある動きを見せていた。
「さ、さっさと取られちゃいなよ♪」
「そういうわけにはいきません!」
 オデットが手をのばせば、ウララがそれをよける。ウララが踏み込めば、オデットもひらりとかわす。お互いの実力は拮抗していた。
「あーもう、メンドクサイなあ……」
 オデットが呟いた。なんとなく楽しいノリだったので話に乗ってみたはいいが、思ったよりもつまらなくてすぐに飽きた。ただそれだけの話だった。
「もういいや、片づけちゃお」
「?」
 小声でオデットが呟く。それが何を意味するのか、ウララには分からなかった。
「"パーティが始まるよ……妖精の舞踏会"♪」
(……なに……?)
 オデットが何かを呟き、それにウララが気づいた瞬間。

 ごっ、と空気が動いた。

 局地的な突風が吹いたかと思うと、ウララたちの体を横に押す。
「!?」
 咄嗟にアッシュとバーニィもバランスを取ろうとするが、あまりの突風に足元をすくわれる。ぐらぐらと激しく揺れ、ウララもバランスを立て直すことに集中していた、その時。
「とーった!」
 オデットが嬉しそうに言いながら、白い八ハチマキを掲げた。
「あ……!」
 バランスを崩した瞬間、オデットは手を伸ばしてウララのハチマキを奪っていたのだった。
「さ、これでオデットの勝ち! これでいきもの係はオデットだね♪」
「……分かりました、譲ります」
 ウララは視線を落として歯を食いしばり、呟くような声で言う。その声には悔しさがこもっているのが見て取れた。
「やっほー♪ やっぱり勝利は気持ちいいね! さーて、かえろかえろー」
 オデットたちが去ってゆくのを、ウララは何も言わずに見送っていた。その背中は明らかに落ち込んでおり、声をかけにくい雰囲気を醸し出す。
「おい、アッシュ……」
「……ああ、今の風、おかしかったよな」
 バーニィの問いかけにアッシュは頷いて、真剣な声で答える。二人の考えていることは、同じだった。
「あいつ、ヴィクトワールみたいな不思議な力を持っているのかもしれない……だとしたら、アダムの仲間という可能性が高い……」
「……ああ、警戒する必要がある」
 二人は神妙な顔で、去ってゆくオデットを遠目に見つめていた。
「アッシュ、バーニィ、ごめんなさいね。せっかく助けてもらったのに……」
 申し訳なさそうな顔で振り向きながら、ウララが言った。黒髪が揺れて顔に影を落とし、それがその表情を暗く見せていた。
「いや、気にするな。いい勝負だったじゃねぇか」
「そうだよ。面白かったしいいんじゃない?」
 バーニィとアッシュが微笑みながら答えるのに、ウララも笑顔で返すが、本心から笑っているようには見えない。無理に作り笑いをしているように見えた。
「うん……そうだね……じゃあ私、先に教室戻ってるね……」
 言ってウララがとぼとぼと歩き出す。バーニィとアッシュは顔を見合わせてから、その背中を見送った。
「……ウララって、熱くなると手がつけられなかったりする?」
 アッシュのその問いにバーニィは答えず、両手を広げて首を横に倒すだけだった。

 放課後、それからしばらくして。体育館の裏にオデットと双子がいた。こっそりお菓子とジュースを持ち込んで、ガールズトークに花を咲かせていたのだった。
「だからさ、絶対アッシュとナターリヤはデキてるって。オデットの女の勘がそー言ってる」
 わし掴みにしたジェリービーンズを口に放り込みながら、オデットは言う。
「そうだよねえ、一緒に登校してきてるしね〜」「そうだよねえ、一緒に登校してきてるしね〜」
 双子は同じようにカールした髪先を指で弄びながら、同時に答えた。
「……なんかあんたらと喋ってると、話がビミョーに進まない気がするんだけど」
「え、なんで?」「え、なんで?」
 オデットはそれにため息を返して、ジェリービーンズをもう一度わし掴みにした。
「ま、アッシュとナターリヤは明日からかってやるとしてさ。にしてもウララって生意気だよねー、さっきの顔見た? ざまぁないよね♪」
「そうだよ、金持ちだからって偉そうよね」「そうだよ、金持ちだからって偉そうよね」
「ウンウン、よく言った。だからやっぱり、いきもの係はオデットがやるのが正しいの」
 オデットは大袈裟に天を仰いでみせてから、口の中にジェリービーンズを放り込む。
「でも、なんでそんなにいきもの係がいいの?」「でも、なんでそんなにいきもの係がいいの?」
 双子が同じタイミングで首を傾げながら言った。オデットは眉をひそめて、"何を分かりきったことを"とでも言わんばかりの表情で口を開く。
「決まってんじゃん! 学校で飼ってるウサギのミッヒーちゃんが、すごくカワイイから♪ オデットはカワイイから、オデットの周りをカワイイもので埋め尽くすの♪」
 双子はお互いに顔を見合わせてから、掌を反対の拳でぽむと同時に打って、
「なるほど!」「なるほど!」
 と同時に答えた。
「さ、なんかここにいるのも飽きちゃった。どっかいこ?」
 不意にオデットが立ち上がり、ぐんと背伸びをする。双子はそれを見上げながら右手を上げて、
「うん、さんせーい」「うん、さんせーい」
 と、答えた。
「よし、決まりっ」
 オデットは食い散らかしたものを片づけようともせず、塀に向き直りぴょいとジャンプしてぶら下がる。双子がその間にお菓子とジュースを木のうろに放り込んで片づけていた。
「さ、早く行くよっ!」
 見上げると、オデットはすでに塀の上に仁王立ち、手をぶんぶんと振り回す。
「オデット! パンツ見えてるよ〜!」「オデット! パンツ見えてるよ〜!」
「いーのいーの、出血大サービス中なの♪」
 ミニスカートであることを気にしない大胆な行動だが、オデットはそれを気にもしていない。塀の上で両手を腰に当てたまま、下を見下ろしていた。
「……そう、生意気なお金持ちにはおしおき……ね♪」
 オデットは呟いて不敵に微笑んでから、そのまま向こう側へ、ぴょん、と飛び降りた。

 陽がだいぶ傾いてきた頃、バーニィとウララは下校していた。バーニィはいつも通り、ウララを家まで送り届けてからレス・レスの家へと帰る。いつもの日常だった。
「……バーニィ、ごめんね。私が余計な事言わなければ、不快な思いをさせなくて済んだのに……」
「おいおい、気にするな。全然謝ることじゃねぇぜ」
「……なんだか私、情けない。いつもバーニィに守ってもらってばかりで……」
 後ろを歩いていたウララが、バーニィの上着の裾をぎゅっと掴む。バーニィはそれにあえて何も言わず、そのままにしていた。ウララはうつむいたままで足取りも重く、バーニィに引っ張られるかのようにただ歩いている。
(……別に気にするような事じゃねぇと思うんだけどなあ)
 バーニィは困った顔で頬を掻いて、そのまま歩き続ける。何かを話すべきかと思ったが、それが逆効果になるような気もする。
 だから、あえて何も言わず歩いていた。
「――着いたぞ」
 学校からは子供の足で徒歩十分ほど。気づけば、タチバナ家へと着いてしまっていた。
 タチバナ家は分かりやすい豪邸で、高い塀に囲まれた中には、広い敷地が広がっている。正門から覗いてみても、屋敷は視界の遥か遠く。門から屋敷まで一キロはあるなんて、おいおいどこの漫画の話だよ、とツッコミたくなるほどの大きさだった。
「うん、ごめんね。ありがとう、バーニィ」
 無理に微笑んでみせてから、ウララは中へと入ってゆく。それから振り向いて、格子越しに手を振ってみせた。
「……あー、ウララ」
 不意にバーニィが呼ぶ声に、ウララは首を傾げた。
「?」
「気にするな」
 バーニィはいつものようにぶっきらぼうに言って、踵を返す。右手を頭上でひらひらと振りながら歩き出し、からんころんと下駄の音が少しずつ遠ざかってゆく。
(バーニィ……)
 ウララは目を細めながら、その背中を見送っていた。

 ……いつもだ。

 バーニィはいつも、"気にするな"と言う。
 変な大人たちに危うく誘拐されそうになったのを助けてくれて、自分がケガをしているのにも関わらず。
 彼はどんな時でも必ずこう返す。

 "気にするな"……と。

「私、甘えすぎちゃってるのかな……」
 ウララは独りごちて、屋敷へと歩いてゆく。庭の掃除をしていたメイドが頭を下げ、道具の片付けをしていた庭師が声をかける。だが、それに答えるウララは元気が無く、足取りも重かった。
(……もっと私がしっかりしないと……)
 ウララは、一人っ子で兄弟がいない。その分、両親の愛情を一身に受け、何不自由なく暮らしてきた。
 だがその半面、自分で何かをする、ということがあまり無かったように思う。バーニィが不思議な力を持つようになって助けられるようになってから、同時に自分の無力さを痛感することが多くなった。
 ウララは屋敷の二階へと上がり、自分の部屋へと向かう。
(……しっかりしないと……)
 思いながら、自室のドアを開ける。
 屋敷の玄関側に窓のあり眺めは良い。六メートル四方ほどの大きな部屋だった。
 学習机にカバンをぼんと八つ当たり気味に置いた瞬間。

 ごう、と風が吹いた。

「え?」
 ウララは驚く。窓を開けっぱなしで出かけてしまったのだろうか、と窓の方を見てみるが窓は閉まっている。
 それに、突風が吹き荒れているにも関わらず、室内の物には何の変化も無い。これだけの風なら、部屋がめちゃくちゃになっていてもおかしくないはずだ。
「何? ちょっと、どういうこと……?」
 突風は、ウララの体だけを包み込んでいた。つまり、竜巻に飲み込まれているような状態となっている。
 おそるおそる、手を伸ばして風の壁に押し付けてみる。そこには見えないが確実に壁がある。ぐっと押してみると、風圧でそのまま中に押し戻されてしまった。
「おかえりなさいませ、お嬢様ぁ♪」
「!?」
 聞き覚えのある声が頭上から響く。見上げると、頭上には竜巻の中に浮いている、オデットの姿があった。空中なのに座った姿勢で足を組み、ふわふわと漂っている。
 オデットは学校で見た格好ではなく、ライトイエローのチャイナドレスのような服を着ている。ノースリーブで肩を出し、スカートは鮮やかなひだが設けられたプリーツスカート。それに黒とピンクのボーダーが入ったニーソックスを履いていた。
「オデット……あなた、どういうこと……?」
「えっとね、ウッドシティをせーふくして、街をもっとカワイクするの。そのためには偉い人が邪魔なんだ」
 ウララには、オデットが何を言っているのか意味が分からなかった。彼女の語りが何を意味しているのかも。
「だから、あんたのパパもママも、それにあんたも。邪魔なのぉ♪」
「!」
「大丈夫大丈夫、怖くないよぉ! Childlike wonderを誘い出すエサになってもらうだけ♪」
 オデットの言葉に、ウララは息を飲む。

 自分という存在が、バーニィに迷惑をかけ、敵に協力してしまう……。

「……その変な力、バーニィだって持ってるんだから。あなたじゃバーニィには勝てないんだからっ!」
 ウララはポケットから携帯電話を取り出すと、カバーを開いてボタンを叩こうとする。
「はいはい、そうでちゅね♪ 人質は静かにしててね、舌噛んでも知らないよ♪」
 ごうっという風と共に窓が空いて、二人を包み込んだ竜巻が外へと飛び出す。そのままもの凄いスピードで空を駆けていった。
(バーニィ……!)
 あまりの勢いに、ウララはそのままゆっくりと意識を失っていく。携帯電話はその手からこぼれて、地面に向かって落ちていった。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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