「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode2 摩訶不思議、学園七不思議!?(5)

「先生……っ!」
 そこに立っていたのは、赤外線ゴーグルをかけたマリレーヌだった。薄い緑のチャイナドレスをベースにしたもので、長いスカートに深いスリットが入っている。

 そう、それはrue-rue girls!の衣装であった。

「まったく、悪い子ね……先生がお仕置きしてあげる」
 マリレーヌは懐から、三本にまとめられた棒を取り出す。一本を掴んでぐんと振ると、鎖で繋がれた三本が伸びて繋がり、一本の棍となった。
「畜生、何も見えねぇ!」
 アッシュたちが叫びながら慌てふためく。いきなり暗くなったせいもあり、まったく何も見えなくなっていた。
「先生、この間も言ったわよね? アダムさまの邪魔をする者にはお仕置きするって」
「! まさか……!」
 その声で、アッシュの中で全てが繋がった。

 アダム・コーポレーションのビルの前で、アッシュを捉えたうちの一人。
 それが、マリレーヌだったのだ。

「マリレーヌ先生……あんたもアダムの手先だったのかよ!」
「手先とは失礼ね。先生は、アダム様の理想の街を作るのに、協力しているだけ」
「それがドラッグを作ることなのかよ……っ!」
「そうよ、アダム様がこの街を支配するのに、ホワイトタウンの勢力は大きすぎて邪魔なの。だから、先生も頑張って依存性の高いドラッグを開発して、街を崩していっているのよ。資金も稼げるし、一石二鳥なのよね」
 アッシュの声にマリレーヌは微笑んで答える。その笑顔には悪意はなく、心からそれを望んでいるように見えた。
「そんな理由で人を陥れるなんて……許さないわヨ!」
「陥れてなんかいないわ、勝手にドラッグに溺れる人が悪いの。……もちろん、依存性はとても高くしてありますけれどね。隠し味に、ウサギから取り出した、"ジャンプしたくなる"成分と"さびしいと死んじゃう"成分を入れて、それがまたよく効くの」
「ふざけるな! お前らの野望が俺たちが打ち破ってやる!」
(アッシュ、そっちは壁……)
 暗闇で見えないせいで、壁に向かって叫ぶアッシュに、ナターリヤは心のなかでツッコんだ。
「子供だと思って甘く見てたわ、まさかここを突き止められるなんて。わざわざ怖い噂を流して、誰も近寄らなくしていたのに……お仕置きね」
 言ってマリレーヌの目がぎらりと光る。棍をぶんと振り回したと思うと、アッシュの体が衝撃に宙を舞う。バーニィは下から顎を突き上げられ、QJとツェツィーリエは足をすくわれ、一瞬にして転倒していた。
 ナターリヤにも棍が伸びてくるが、かろうじて横に飛んでそれをかわす。
(くっ……早い!)
「うふふ……子供だからといって容赦はしません」
 マリレーヌはだん、と一歩踏み出して、棍をぐんと突き出す。
「!」
 まるでいかづちのような速さで伸びてくる棍。それは的確にナターリヤのみぞおちを貫く。
「かは……っ!」
 あまりの衝撃に呼吸が一瞬止まり、視界がぐらりと揺れた。吹き飛ばされたナターリヤは、テーブルの上の器具をなぎ倒して壁に激しく叩きつけられる。
「うっ……ううっ……!」
 ナターリヤは床にぺたりと座り込み、それからそのまま、ぐらりと前へと倒れ始めた。

「ナターリヤ……ここにいたのか」
 二階から降りてきたレス・レスは、キッチンで調理しているナターリヤの顔を見て、明らかにほっとしたようだった。
「ウン、レス・レスとマイケルはまだぐっすり寝ているみたいだから、朝ご飯作ってたのヨ。どうしたの、そんな青い顔で……?」
「良かった……また僕は置いていかれたのかと思った」
 レス・レスは明らかにほっとした顔でよろよろと近づいてきたかと思うと、ナターリヤの後ろでがっくりと膝を落としてその小さな背中に抱きついた。体格差があるにも関わらず、それは抱きしめたのではなく"すがりついた"としか形容できない。まるで現世に姿を現した天使にでも出会ったかのように、レス・レスは抱きついていたのだ。
「子供みたい」
 ナターリヤはくすりと微笑んで、
「――ジュリエッタとトマスの事、夢に見たのネ?」
 と、聞いた。
「……ああ。あれからだいぶ経つのに、今でも夢に見るんだ。とても鮮明に……僕の目の前で……」
 レス・レスは顔を伏せたまま、静かに言う。かすれて途切れ途切れの声で。
「……レス・レス、アダムを倒そう」
「……え?」
 不意にナターリヤが言うのに、レス・レスは明らかに驚いた顔を上げた。その表情には恐怖も見え隠れしている。
「そんな、倒すといっても僕には……」
「レス・レスには、その"聖なる導き"があるじゃない。それで、ワタシに力をちょうだい。マイケルみたいに」
 ナターリヤは口調こそいつもの平坦な口調だったが、その瞳は真剣そのもので、見つめるレス・レスの瞳を見つめ返していた。
 それからレス・レスはふと視線を落とす。ゆっくりと息を吐いて、それから本音とおぼしき言葉を呟いた。
「……強いな、ナターリヤは」
「強くはないよ。ほっとくとウッドシティはアダムに支配されちゃうんでショ? ――だから、戦おう。仲間もいっぱい集めよう。きっとできるはずヨ」
「ナターリヤ……」
 はっきりと言い切るナターリヤに、レス・レスは言葉に困る。困ったように頭を掻いて、それから続けた。
「……分かったよ、僕も頑張ってみる。だから――一緒に戦ってくれないか」
 その言葉に、ナターリヤは満面の笑みを返した。

「!? ナターリヤ、どこだ! 大丈夫かっ!」
 地面に倒れながら、アッシュはなんとか上体だけを起こして辺りを見渡す。だが、真っ暗なままで目はまだ慣れず、何が起こったのか分からない。
「ううううっ! 私が……私がみんなを守るんです!」
 ここでツェツィーリエが、痛む足で無理やり立ち上がり、ばっ、とスカートをたくし上げる。
「これなら、暗いから恥ずかしくありません! えぇえい!」
 モーニングスターを取り出して、闇雲に振り回す。あさっての方向への攻撃だったが、がしゃんがしゃん、と器具をなぎ倒していった。
「あ、こら! 何してるのよ!」
 マリレーヌが棍を振り上げ、後ろからツェツィーリエの後頭部をごんっ、と叩きつけた。
「ばたんきゅうぅぅ……」
 ツェツィーリエはおかしな声で呻くと、そのままばったりと倒れて気を失ってしまう。
「畜生……明かりさえあれば……!」
「あかんわ、なんも見えへん!」
「ナターリヤ! 大丈夫なのかナターリヤ!」
 バーニィとQJの悔しそうな呟きに続いて、アッシュが叫ぶ。
「うっ……アッシュ……バーニィ、QJ、ツェツィーリエ……!」
 その声は、失われかけていたナターリヤの意識を、なんとか繋ぎとめた。床に両手をついて、倒れそうな上体をなんとか支える。側頭部の髪が少しほつれて、汗ばんだ頬に張り付く。
(明かり……明かりが欲しい。明かりがあればみんな戦える……!)
 ぐっ、と手に力を入れて、ナターリヤはなんとか自分の体を起こしてゆく。
(……どうする?)
 ナターリヤは考える。ランドセルに入っている道具で、何か使えるものはないか……この状況を打ち破れるものはないか……。
 そう、まずは明かり。ツェツィーリエも気を失ってしまったようだし、明かりさえあれば正体がばれるのを気にせず力を使える。
 だが、スイッチの前にはマリレーヌが陣取っている。意識してスイッチを守りつつ、みんな目が慣れる前に倒そうとしているのだ。
 考えながら、ナターリヤはかろうじて立ち上がる。ようやく、呼吸も整ってきた。

 ……やらなくちゃ。私がやらなくちゃ。
 私がみんなを守る。

 だって、ワタシは"お姉さん"なんだから――!

「よっ!」
 ナターリヤはランドセルから、全長一メートルほどはある、巨大なコンパスを取り出す。それをぶんと振り上げて、ドラッグを作っている機器に叩きつけた。
「ちょっと!? あなたまで何しだすのよ!」
 慌ててマリレーヌが一歩踏み出す。だが、それ以上近づいてこない。スイッチから離れようとしないのだ。ナターリヤにとって、これは計算通りだった。それを確認してから、コンパスを振り上げる。
「もいっちょ!」
 がしゃあん。激しい音と共にガラスが砕け、きらきらとわずかな光を反射させて飛び散る。中の液体が飛び散って、ぱしゃっと地面にまき散らされた。
「それ作るの大変だったんですからねっ!」
 さすがにたまらず、マリレーヌが飛び出した。ぐんと棍を振り上げ、ナターリヤに向けて振り下ろす。
 待っていましたとばかりに、コンパスの足を大きく広げた。棍を内側で受け止めつつ、その足を一気に閉じてやる。
「!」
 棍を抑えられてしまったマリレーヌが、一瞬ひるむ。ナターリヤはその隙に、棍の端を掴んだ。
「"こだわりを捨てて……Небольшая надежда(ネボリシャ ナデズダ)"!」
 急に重くなった棍に、マリレーヌの体ががくんと体制を崩す。その隙にナターリヤは全力で飛び出す。一瞬で脇を通り抜け、電気のスイッチを叩いた。ぱっと蛍光灯が点滅したかと思うと、室内に明かりが灯る。
「えぇいっ!」
 ナターリヤは振り向きざまに赤外線ゴーグルをさっと押し上げてから、右手をぐんと振りかぶってワイヤを投げつける。
「!」
 とっさに棍を離して体制を整えようとするものの、わずかに遅い。マリレーヌの腕にワイヤがからみつく。
「アッシュ!」
 左手をランドセルに突っ込むと、ナターリヤは十手を取り出してアッシュに投げる。
「うおおぉぉぉぉっ!」
 アッシュが、飛んだ。
 空中で十手を受け取ったと思うと、そのまま刀身に炎をまとわせる。
 ワイヤにからみつかれ、わずかに反応が遅れたマリレーヌが、目を見開いてそれを見上げていた。
「いたずらしてやるっ!」
 アッシュが勢いを乗せて振り下した十手が、マリレーヌの頭部に叩きこまれる。見上げた顔の額を、完全に捉えた。
「ぐっ……!」
 あまりの衝撃に、マリレーヌの体が腰からがくんと折れた。そのまま両膝をついて、地面に両手をついた。
「さ、先生の負けだ。おとなしく捕まってもらうぜ」
 アッシュとナターリヤが、マリレーヌに近づいた。バーニィとQJも、立ち上がって近づいてゆく。
「ふふ……子供と思ってあなどったのが敗因ね……」
「ごめんネ、先生。これ以上アダムの好き勝手にさせるわけにはいかないの」
 言いながらマリレーヌはゆっくりと立ち上がる。ナターリヤはマリレーヌの左手を掴んで、手錠を振り上げた。
「先生はまだやることがあるのよ。……"その存在を感じさせて……木の精の吐息"」

 次の瞬間。

 マリレーヌの左手が、まるで空気に溶けるように、指先から消えてゆく。
「!?」
 わずか三秒ほどで、マリレーヌの姿は完全に消えてしまった。
「まさか……これがマリレーヌ先生の能力……!」
 辺りを見回しながら、ナターリヤが叫ぶ。それをあざ笑うかのように、マリレーヌの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
「うふふ、ごめんなさいね。先生の能力は、周囲の人に偽りの五感を与えることができるの。それも、近ければ近いほど、強烈にね」
 四人は辺りを見回してみるが、マリレーヌの姿は見えない。声が聞こえるのだから近くにいるのは確かなのだ。だが、その姿を見ることもできず、空気を感じることもできず。もしかしたら、この声だってマリレーヌに近くから聞こえるように操られているのかもしれない。
「じゃあ、先生は忙しいので帰るわ。今度会った時は、もっときついお仕置きをしてあげるからね。……あ、そうそう」
 そこで言葉が途切れる。何が起こるのかと思うと、
「いたっ!」
 ばしん、と音がしてナターリヤの頭が、がくんと揺れた。
「先生、いつも言ってるでしょ、人に迷惑をかけちゃいけないって。せっかく作ったドラッグをあんなに壊してくれちゃって……だから、お仕置き」
「はい、ごめんなさい先生……って、違う! 迷惑なのはワタシたちの方だヨ! アダムが街を支配するなんて言うから!」
「うふふ、あなたたちは子供だから、アダム様の良さはまだ分からないわよ。……それじゃあ、先生はもう行くけど、アダム様の邪魔をする子にはお仕置きよ、忘れないでね」
 それを最後に、マリレーヌの声は聞こえなくなってしまった。場にしんとした静寂が戻る。
「ちぇっ……逃げられちゃったか」
 アッシュが舌打ちしながら、悔しそうに言う。ナターリヤも、大きなため息をついてみせた。
「しょうがない……帰ってレス・レスに報告しよう」
「そうやね。……ほんで、この子どうする?」
 バーニィの声にQJが答えながら、床を促す。
「!」
 それに慌てて、アッシュとバーニィが目を逸らす。
 そう、気絶しているツェツィーリエは、スカートがめくれあがってしまっていたのであった。
「……とりあえず、それ直してやってよ」
「そうだ。早くしまえ」
 背を向けて赤面しながら言うアッシュとバーニィに、ナターリヤとQJは顔を見合わせて笑った。

「皆さん、本当にありがとうございました」
 ツェツィーリエが、四人に深々と頭を下げた。
 一同は旧校舎を出て、いつもの校舎に戻ってきていた。グラウンドの隅にある遊戯場で、シーソーやジャングルジムに座っていたのだった。
「いや、気にしないで。それより、早くその薬を持ち帰って報告してあげたら、きっとクサヴァーさまも喜ぶと思うわヨ」
 ナターリヤは直径三センチほどの小さな瓶に入れたラビットフィーバーを手渡し、その手に握らせてやる。
「はい、ありがとうございます。今回は、ナターリヤちゃんやみんなには、お世話になりっぱなしです……」
 申し訳なさそうに言うのに、アッシュたちは顔を見合わせる。
「水臭いこと言うなよ。俺たち、友達だろ?」
 アッシュはガキ大将のようににやりと笑って、親指を立てた右手を突き出してみせる。それに倣って、ナターリヤもバーニィもQJも、手を突き出した。
 ツェツィーリエは一瞬呆けた顔をしていたが、すぐに微笑んで、同じように右手を突き出した。
「ありがとうございます、皆さん」
「気にするな。それが友達ってもんだろ」
「うう〜やっぱりバーニィさんはクサヴァーさまのように優しいです……」
 それにバーニィは複雑な表情で苦笑する。語彙が無いのか、それともクサヴァーを崇拝しているのか。恐らく両方だろう。
「ああ、そうや。ジブンの名前長いから、愛称とかで呼ぶってのは、どないや?」
「うん、それいいね!」
 QJが言うのに、皆が口々に賛同する。
「皆さん、ありがとうございます。それなら、"ツェッツィ"と呼んでください。昔からそう呼ばれていますから」
 少し涙ぐみながら、嬉しそうにツェツィーリエが言う。それに、皆も微笑み返した。
「……なあ、どうせならもっと分かりやすく、"ふんどし"ってのはどうや?」
 にやけながらQJが言うのに、アッシュとバーニィはぽかんとした顔をする。ツェツィーリエは真っ赤に驚いた顔で、「あ」の形に口を開いたまま固まってしまう。ナターリヤはぷっと吹き出して、それをこらえるのに一苦労だった。
「ちょ、ちが……! 今は"パンドル・ショーツ"っていうちゃんとした名前があるんです! ふんどしって言わないでください!」
 赤い顔のままで叫ぶツェツィーリエに、QJとナターリヤが大笑いする。アッシュとバーニィも意味が分かっているらしく、照れながら視線をそらした。
「……もうパンツの話はいいから……」
「ふんどしって言わないでくださいー!」
 夕焼けに染まりかけた空に、ツェツィーリエの声だけが響いていた……。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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