「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode2 摩訶不思議、学園七不思議!?(4)

「そっか、ホワイトタウンでドラッグがねえ……」
 アッシュはツェツィーリエの言葉に、深く頷いた。
「そうなんです、それにクサヴァーさまは心を痛めておいでで、私に捜査を依頼したのです。ドラッグの売人らしき人物がウッドタウン・ジュニアハイスクールの旧校舎付近で消えたのを、ギレスベルガー家の諜報部が目撃しているんです」
 アッシュたちは市長の話を聞いているのでドラッグの話については知っていたが、Childlike wonderのことを知られるのはまずい。なので、さも知らないかのように相槌を打っていた。
 だが、ギレスベルガー家の者がすでにそこまで調べていたというのは初耳で、いかに有能な家系であるかということを思い知らされたのだった。
「それより、極秘任務をワタシたちに喋ってしまっていることが問題のような気がするんだけど……」
 ナターリヤがごもっともなツッコミをいれる。旧校舎まで向かう道中で、ツェツィーリエは極秘任務の内容をすべて喋ってしまっていたのだった。
「いいんです、ナターリヤちゃんたちは信用できると思ったんです。それに、大切な友達に、隠し事をするのは得意ではありませんから」
 大切な友達、という部分でアッシュとバーニィ、それにQJは一斉にナターリヤの方を振り向く。
 だが、そこまで言わせるほどのことは何もしていない。身に覚えの無いナターリヤは自分の鼻に人差し指を乗せて、苦笑しながら戸惑うしかできなかった。
「皆さん、本当に仲が良いんですね」
 その息のあったやりとりを見て、ツェツィーリエはゆっくりと息を吐きながら、言った。どこか寂しそうな微笑みを浮かべて。
「ツェツィーリエだって、友達いっぱいいるんでショ?」
「いえ……私は学校に通っていないので、友達がいないんです。同年代といえば、クサヴァーさまぐらいしかいなくて……」
 ツェツィーリエが無理に笑顔を作りながら言うのに、子供たちは何も答えられなってしまい、微妙な空気が場を支配する。
「え、なんで? これで俺たちも友達なんじゃねぇの?」
 その沈黙を破ってアッシュが不思議そうに言うのに、ツェツィーリエは目を丸くしてしまう。何も言えなくて、驚いた表情のままで固まってしまった。
「少なくとも俺たちはそう思ってるけどな。な、みんな?」
「ウン。ワタシたちはみんな友達だヨ」
「アッシュの言う通りだ」
「そうやで。あんまり深く考えへんでもええんちゃう?」
 皆の優しい言葉に、ツェツィーリエの瞳が潤んだと思うと、ぼろぼろと涙を流し始める。これには、全員が驚いた。
「お、おい、俺なんかおかしな事言ったか!?」
「皆さん、とてもお優しいです……クサヴァーさまにとてもよく似ています」
 どうやら、ツェツィーリエの中で最上級の褒め言葉は"クサヴァーさま"になっているらしい。
「有事の際は、必ず私が皆をお守りします! ご安心ください!」
 いきなり、ツェツィーリエはスカートをまくりあげた。それにアッシュとバーニィが、ぎょっとなって視線を逸らす。
 彼女は別に下着を見せようと思ったわけではない。太股にベルトを巻いており、そこにモーニングスター――棒に鎖で刺のついた球体を取り付けたもの――を固定していたのだ。それを抜いてからぶんと振り回して、眼前に構えてみせる。
「まあまあ、落ち着きぃや。そんな物騒なモン振り回さんと……」
「いえ! 私が皆さんを守ります、エッシェンバッハ家の名にかけて!」
 両肩に手を置いてなだめるQJを気にせず、ツェツィーリエはモーニングスターをかまえたままで力強く言い放つのだった。
「あー、その、盛り上がってるとこ悪ぃんだが……」
「出す時に目のやり場に困るんで、なんとかしてくれないかな」
 バーニィとアッシュが赤面しながら小さく手をあげて言うのに、ツェツィーリエは不思議そうな顔をする。
「? 別に問題ありませんよ、ほら、ちゃんと下にスパッツを履いておりますので」
 ツェツィーリエはスカートをたくし上げながら、不思議そうな顔のままで言う。だが、アッシュとバーニィはまた赤面して、目線を逸らした。
「……? アッシュさんとバーニィさんはウブなのですね」
「いや、そういうことじゃなくてネ……」
「……自分、それただのパンツやで」
「――はぁっ!?」
 ツェツィーリエは慌てて、ばっと自分の下半身を見下ろしす。自分の足を見ると、スパッツなど履いておらず――。
 それからツェツィーリエは真っ赤になって、ばっとスカートをおろして内股をきゅっと閉じ、潤んだ視線でナターリヤを見つめる。
「……えっと、つまり、履き忘れてきたんだネ?」
「うああぁぁん……! ナターリヤちゃあぁぁん!」
 泣きながらナターリヤにしがみつくツェツィーリエ。皆はもう、どうツッコむこべきか、というよりどこにツッコんだらいいのか分からなく、何も言えなくなっていた……。

 旧校舎は、ウェルズ樹海に入って五分ほどの所にあり、怪しい雰囲気を醸し出していた。建物はかなり古い木造で、窓ガラスは割れ壁の板も所々が割れており、"いかにも"な空気を醸し出している。樹海の中は日中でも薄暗く、それがこの建物をよりおどろおどろしく見せていたのだった。建物はよくある"コ"の字型を左に倒した形の建物で、正面のちょうどへこんだ部分に入り口がある。二階建てで、外から見る限り全部で十部屋もなさそうな小さな校舎だった。
「これは……」
 旧校舎を見上げて、ナターリヤは息を飲んだ。見るからに、"出そう"な雰囲気だったからである。タイミング良く――いや、タイミング悪く、屋根の上に留まっていたカラスの群れが、カァカァと不吉に鳴いた。
「なんや、嫌な雰囲気やなぁ」
「そうか? 俺はよく分からん」
 QJが言うのに、バーニィがしれっと答える。どうやらこの二人は、この状況を特に怖がってはいないようだった。
「そうですね、別に怖くないです」
 その様子を見ながら、ツェツィーリエもさらっと言う。
(……こ、これはまずいわネ……!)
 ナターリヤは焦っていた。この状況で誰も怖がらなかったら、自分だけが情けない所を見せてしまうではないか……。
「うわ……なんでみんな平気なんだ? めっちゃ怖いんだけど、ここ……」
 アッシュが青ざめた顔で後ずさりつつ、旧校舎を見上げながら呟いた。その瞬間、まるでネギと土鍋とポン酢を背負った鴨でも発見したかのごとく、ナターリヤが目を光らせる。そそくさとアッシュに近づいて、その両肩をがし、と掴んだ。
「あれ、怖がってるの? アッシュ?」
「うっ……だって、いかにも何か出そうじゃねーかよ! 怖いに決まってんだろ!」
「ウンウン、分かった分かった、ちゃんとお姉さんの後をついてきなさいネ?」
 ナターリヤはにやにやと笑いながら、アッシュの肩をぽんぽんと何度も叩く。アッシュは悔しいのだろうが、言い返せない。わなわなと震える拳を握りしめて、睨み返すしかできなかった。
「ほなまあ、中に入るで?」
 言うが早いか、QJがすたすたと歩き出す。正面のドアに手をかけると、すでに蝶番が壊れていたらしく、ドアがそのまま奥へばたんと倒れた。それに降り積もった埃がぶわっと巻き上がり、視界を靄がからせる。
「なんともまあ……」
 ナターリヤは口元を手で覆いながら、辺りを見回してみる。玄関には靴箱が並び、そのまま左右に廊下が伸びている。廊下には内履きが片方落ちており、カビに腐食された姿が長い時間の経過を物語っていた。
「ほな、どっから調べる?」
「まずは一階。あと、地下室が無いかも調べないとネ」
 ナターリヤが言うのに、皆が不思議そうな顔で見つめている。
「ほら、隠したいものがある時は地下に隠すのがお約束でショ? 心理学的にもそうだし、犬だって穴掘って埋めるじゃない」
「……犬は穴掘る以外に隠す手段が無いからだと思うんだが」
 バーニィがいぶかしげな視線でツッコむ。
「けどまあ、確かにナターリヤの言う通りだと思うけどな」
「うちもそう思うわ。ほな、一階を全部見て回って、それっぽいものを探さへん?」
 アッシュが頷くのにQJが答え、それに皆が頷く。それから、廊下を右へと向かって歩き出した。
 突き当たりには二枚重ねの横に開くスライドドアがあり、中には大きな部屋がある。上にかけられた板には「化学室」と書かれていた。
 QJが遠慮なくドアを開ける。だがドアは軋んで開かない。
「このっ、こしゃくな……!」
 どこかの江戸っ子職人みたいに掌にぺぺぺっと唾を吐きかけると、QJはまたドアを力いっぱい引く。がぎぎぎぎ、と嫌な音が響いて、それからやっと人間一人がかろうじて通れるだけ開いた。
 中は大きな部屋で、実験用の大きなテーブルが六つ並べられていた。それぞれに流し台とガスの元栓が用意されている。窓はガラスこそ残っていたもの、カーテンはすでに腐り落ちており、わずかな日光を採り入れていた。
「なんや、ここもきったないなあ」
「ほんとネ……」
 言ってナターリヤは窓際へと向かう。空気が悪いので、窓を開けようと鍵を探す。鍵はよくあるクレセントで、開いたままの状態だった。
(あれ? 開いてる……ま、いいか)
 ナターリヤは気にせず窓に手をかける。からからと軽快な音を立てて開くが、外の空気もさほど新鮮というわけでもなく、期待していたほど状況は変わらない。
「だめだ、錆ついてて全然動かねぇ」
 アッシュの声に振り向くと、ロッカーを開けようとしていたらしいが、蝶番が錆ついておりまったく動かせない状態だった。
(……?)
 ナターリヤは、違和感を感じる。
 正面のドア、部屋の入り口、それにロッカーは壊れていた。長いこと放置されていたのだから、当然の事だった。

 ――なのに何故、窓はスムーズに開いたのだろう?

 ナターリヤは視線を室内に戻して、しゃがみこんで足元を見渡す。部屋の中は埃が積もっているのだが、明らかに違和感があった。
「ウン、この窓の近辺は明らかに埃が薄い……」
 窓を起点に半径一メートルほどの空間が、埃が薄くなっている。それはさらに幅三十センチほどで伸びており、やがてそれはテーブルへと突き当たる。ナターリヤはそのテーブルの前にしゃがみこみ、手が汚れるのも気にせず埃をはたきだした。
「うわっ! 何してんだよナターリヤ、埃が飛ぶだろ!」
 それに気づいたアッシュが慌てて駆け寄るが、ナターリヤの真剣な表情に首をかしげる。
「アッシュも探して。ここに何かあるはず」
「あ、ああ……?」
 視線を下に向けたままに言うナターリヤにアッシュは気圧されて、言われるままにしゃがみこんだ。
「……ん、これは……?」
 アッシュが触れていたテーブルの下に、床板が一枚外れる所があった。中には持ち手が折りたたまれた、小さなハンドルがある。
「ビンゴ!」
 ナターリヤが言って、迷わずそのハンドルを掴んで、ぐるぐると回した。
「!」
 二人の目の前の床が、こちら側を起点にゆっくりと下へ降りてゆく。そこには、直径一メートルほどの穴がぽっかりと開いた。
「うお……ほんとに地下室があるのかよ」
「やっぱりね。怪しいと思った」
「めっちゃすごいやん。なんで分かったん?」
 アッシュの声に気づいたQJたちが近づいてきて、言った。
「窓がスムーズに動いたの、おかしいと思って。動くってことは、"日常的に使ってる"ってことでショ? 犯人はこの窓から出入りして、ここへと来ていたのよ。きっと歩いた後の埃を一度取って、新しい埃を上からかぶせてカモフラージュしていたのヨ」
 ナターリヤが言うのに、皆はなるほど、と頷く。バーニィが「さすがは天才少女」というものようにおどけて言った。
「とにかく、誰かがこの地下で何かやっているのヨ……さあ、行きまショ!」
 言うが早いか、地下へとナターリヤは飛び込む。
 穴の中はそのまま階段となっており、下へと降りてゆく。一階分ほど下ってから、そのまま道が繋がっていた。
「うう、真っ暗で何も見えません〜」
「え?」
 ツェツィーリエの声に振り返るナターリヤは、ちゃっかり赤外線スコープを着けていたりする。
「あー! ナターリヤちゃんずるい!」
「ごめんネ、これワタシが作った試作品で、一個しかないのヨ」
「……何がいるかも分からないのに、緊張感がなさすぎだろ、お前ら」
 バーニィが言うのに、ツェツィーリエとナターリヤは慌てて自分の口を抑える。それから顔を見合わせて、照れ笑いを見せた。
「あ、ドアがあるヨ」
 ナターリヤがそのまま進み、ドアノブに手をかける。鍵はかかっておらず、引くとドアは簡単に開いた。
「……なんだろう、何かの研究室のような……」
 部屋の中を見渡して、ナターリヤは呟く。部屋の中は五メートル四方ほどの部屋で、四つほどテーブルが置かれている。テーブルの上には試験管やビーカーなどの実験器具があり、ピンク色の怪しげな液体がこぽこぽと泡を立てていた。
「何これ……?」
 ナターリヤは入り口の電気をつけてから赤外線ゴーグルを外して、部屋の中をまた見渡した。
「あっ、これ……!」
 ツェツィーリエは近くのフラスコにたまっているピンクの液体に、ばっと近づいてまじまじと見つめた。
「?」
「これ、"ラビットフィーバー"かもしれません……!」
「なんだと!?」
「クサヴァーさまに見せていたサンプルと、色も匂いも同じです! 間違いありません!」
 ツェツィーリエが興奮した顔で言うのに、子供たちは押し黙る。まさか、学校の中でそんなことが行われていたとは……。
「つまり……ここでドラッグは作られていたってこと……?」
「そういうこと」
 不意に入り口から声が聞こえたと思うと、電気が消えた。同時にバタン、とドアの締まる音が聞こえる。
「……!」
 ナターリヤはとっさに赤外線ゴーグルを着けながら振り向く。
 入り口に立っている人影に、驚愕した。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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