「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode2 摩訶不思議、学園七不思議!?(3)

 次の日の放課後。
 化学室から、怪しい声が聞こえていた。
「うぅぅううん……」
 ナターリヤである。彼女は白衣を羽織り、腕を組んで険しい顔のままで唸っていた。
 彼女は、"ふしぎ科学研究部"に入っていた。名前は何やら仰々しいが、要は"身近なふしぎを、化学で解明しよう"ということで、内容としては普通の科学部と大差のないものである。
「スリット1と2の光が重なっているから、ちゃんと干渉が生じるはずなんだけど……」
 ナターリヤは目の前にあるダンボール箱に向かって、腕を組みながらぶつぶつと呟いていた。ダンボールはこちら側の面が取り除かれており、その天面には一つの小さな穴が空いている。天面と平行の板がいくつか差し込まれており、それらにもいくつかの小さな穴が開いていた。
「ねぇナターリヤ。そんな難しい顔してど〜したの?」
 そんなナターリヤに声をかける者がいた。部員の一人で、黒い髪をおかっぱのようなショートヘアーにしている。ナターリヤと同学年であるにも関わらず幼さの残る顔立ちで、並ぶと年下に見えないこともない。
「あ、イリーナ。そーなの、実験がうまくいかないのヨ。誰かに聞こうにも、今日はマリレーヌ先生もまだ来ないし……」
「ああ、先生は職員会議があるから今日は来れないって聞〜てるよ?」
 ナターリヤは両手を広げて"お手上げ"を表現してから、がっくりとうな垂れる。マリレーヌはふしぎ科学研究部の顧問であり化学関連にとても詳しいので、ナターリヤはそれを少しあてにしていたのだった。
「ところで、何してるの?」
「ヤングの実験を立証しようとしてるんだけど……」
 それを聞いたイリーナは目をぱちくりとさせて、「何それ?」と聞く。
「一八〇五年頃にトーマス・ヤングによって証明された、有名な実験だよ。知らない?」
 ナターリヤが説明するのに、イリーナは首を傾げて不思議そうな顔をする。
 それも当然の事で、小学校で習うようなものではない。本来であれば高校生以降で習うべきのもので、イリーナが知らないのも当然だった。
「ふぅん、よく分からないけど、そ〜なんだ? でも、根を詰めるのは体に毒だよ」
「それもそうね……ウン、外の空気吸ってくる」
「行ってらっしゃ〜い!」
 手を振るイリーナに見送られて、ナターリヤは化学室から廊下に出た。
 窓を開けて窓枠に頬杖をつき、新鮮な空気を一気に肺に送り込む。化学室はどうしても空気が悪くなりやすいので、外に出ると急に解放されたような気にさえなった。
「うーん、やっぱり新鮮な空気は美味しいなあ」
「ですよねぇ」
 何気なく言った独り言に答えが返ってきて、ナターリヤは慌てて辺りを見渡す。だが、姿はどこにも見えない。
「朝の空気もいいですけど、陽が暮れる前の静かな空気もまた、いいですね」
 ナターリヤは窓から身を乗り出し、下を見下ろす。そこには少し舌足らずな相槌の声の主である、一人の少女が座っていた。
 目立つのはその髪で、長く綺麗な金髪を胸元ぐらいにまで伸ばしている。身長はナターリヤと同じぐらいなのでおそらく年は近いのだろうが、顔立ちは幼く三年生ぐらいにしか見えない。白いブラウスに青いリボンをつけて、ぴっちりと折り目のついたプリーツスカートを履いていて、まるでどこかの制服のようにも見えた。僅かに香るのはサクランボの香りだろうか、はっきりとした甘さが印象的だった。
「……で、あなた誰なのヨ?」
「あ、すいません。私はツェツィーリエといいます。エッシェンバッハ家の者です」
「ワタシはナターリヤ、よろしくね。……エッシェンバッハ家って、ホワイトタウンの貴族? そんな名前があったよーな……」
「まあ、よくご存じですね」
 ウッドシティには、チャイナタウンのように外から来た移民が助け合いながら生きてゆくうちに、やがて町へと発展した区域がある。

 それが、"ホワイトタウン"だった。

 起源は古く、元々は中世時代から続く名家が移住したのが始まりと言われている。ここは現代でも貴族たちが存在し、古くからのやり方で物事を決めていた。さすがに自治権までは認められていなかったが、それでも内部的には徴税などを各家が行っていたのだった。
「当家はそれほど大きい家系ではないですから……まさか知っている人がいるとは思いませんでした」
「一番大きいギレスベルガー家と、二番目に大きいボアギュベール家ぐらいしか知らないのが普通よね。で、そのエッシェンバッハ家のお嬢様が、こんなところで何してるのヨ?」
「はい。ええと、話せば長くなるのですが……」
 ツェツィーリエは立ち上がりながらお尻をぱんぱんとはたいて、立ち上がる。
「とある極秘任務に就いていまして。その下調べに潜入しているんです」
「……それで話は全部じゃないのかなあ」
「それで、その任務というのが……」
「喋っちゃうの!? 極秘なのに喋っちゃうの!?」
 ナターリヤが慌ててツッコむのに、ツェツィーリエはやっと気づいたらしく、「あ」と短く呟いた。
「すいません、それもそうですね。長いのは極秘の部分なので、簡潔にまとまりました」
「ウン、それは喋っちゃダメだと思うヨ……」
 ナターリヤは苦笑して、答える。すさまじいボケっぷりに、対応に困った。
(――この娘、大丈夫なのかしら……)
 気にし始めると止まらないナターリヤの性格が、彼女のフォローをすべきだと声をあげ始めた。この娘を一人で歩かせるのは危険すぎる。ぶっちゃけいろいろな意味で。
「ええと、その、潜入ってどこ行くの? 別にこの学校には、そんな不思議な所はなかったと思うけど……」
 そこまで言って、ナターリヤははっと思い出す。心当たりがひとつ、あったのだ。
「……ひょっとして、旧校舎?」
「ええ、その通りです。さすがはナターリヤちゃん」
 この学校の裏には自然の樹海があり、"ウェルズ樹海"と呼ばれている。面積こそそれほど大きいものではなかったが、その中に旧校舎はあった。樹海は年々拡大しており、かつては旧校舎も外にあったという話だが、真偽のほどは定かではない。
「なるほど。じゃあ、明後日に一緒に行かない? ちょうど土曜日で学校お休みだし」
「え、でも、わざわざ休みの日に出てきてもらうのは……」
「いいのいいの。ワタシはふしぎ科学研究部に入ってるぐらいだし、そういうのって興味あるんだヨ」
 笑顔で言うナターリヤに、ツェツィーリエの顔が徐々に笑顔になってゆく。まるで目の前に現れた神様の存在を、少しずつ認知していくかのように。
「ありがとうございます! 正直、一人で心細かったんですよー!」
「差し出がましくてごめんネ、なんかほっとけなくて。じゃあ明後日の朝十時にここに集合。それでいい?」
「はい! それではよろしくお願いします!」
 明るい笑顔でツェツィーリエは元気に答える。それからナターリヤは立ち去る彼女を見送って、部室へと戻って行った。
(……にしても、あの娘を一人で使いに出した人も、相当勇気あるよね……)
 と、ごもっともな事を思いながら。

 次の日、朝のホームルーム前に、ナターリヤはアッシュたちに旧校舎の事について聞いてみていた。どこの学校にも七不思議の類のものはあるものだし、旧校舎の事が少しは分かるかもしれなかったからだ。
「俺が知るわけないじゃん、転校してきたばっかなのに」
 アッシュはもっともな事を言う。
「俺も詳しくねぇな。何か分かったら教えてくれ、ウララを近づかせないようにする」
「言われなくても気をつけますから……」
 バーニィはウララとの掛けあいを聞かせてくれる。
「あー、陸上部にもそんな話あるで。夜な夜な逆立ちランナーがトラックをぐるぐる回ってバターになるんやけどな。それをマネージャーがホットケーキ焼きながら見てるっちゅう話なんやけど」
 QJもけらけら笑いながら、漫談を聞かせてくれる。
(……要は、誰何も知らないってことネ……)
 がっくりと肩を落として、ナターリヤは苦笑した。過剰にあてにしていたわけではないが、こうまで何も得られないと逆に清々しい。
「ていうか、こういうのはむしろ、ナターリヤの方がよう知ってる思ってたわ」
「ああ、うん……」
「……?」
 ナターリヤは曖昧に答えて、不自然な作り笑顔を見せる。

 ――そう、ナターリヤはホラー系の話が大の苦手なのであった。

 ツェツィーリエには「興味がある」と言ってしまったが、それは彼女に余計な気を使わせたくないから強がってみせただけ。
 それに、下手に頭の良いナターリヤには、化学や計算式で解明できない現象はどうも認めたくない。そんな奴らに驚かされるなんてプライドが許さない。そう思っていた。
「そうやなあ、うちが知ってる他の話やと……壁にかかった絵の目玉が動いたりとか、夜中にピアノが勝手に弾くとか」
 QJはずい、と身を乗り出してみて、あえておどろおどろしい表情でナターリヤに話してみせる。
「……絵の話は、変質者が隠しカメラをつけてたって事で逮捕されたんじゃなかったっけ?」
「うん、そう。ほんでその犯人な、音楽室で全裸でピアノ弾きながら、昼間盗撮した映像を見るのが趣味だったという」
「……QJ、ワタシはそんなうまい小噺を聞かせてとは言ってないからネ?」
 憮然としてナターリヤが言うのに、QJは大笑いしてから、
「まぁ、冗談はさておき。ついさっき陸上部の朝練で聞いた話なんやけどな」
 と、不敵に笑って言う。それから大袈裟に足を組み換えてみせて、期待感を煽った。アッシュやバーニィたちもそれに目線を向けて、QJが話を続けるのを待った。
「最近、学校で買ってる小動物が、姿を消すことがあるらしいねん」
 QJは不意にまじめな表情を見せて、頬にかかるウェーブがかった髪を指でかきあげる。スイートバジルのほのかに甘くスパイシーな香りが、僅かに広がった。
「知っての通り、学校ではウサギやニワトリをたくさん飼ってるんやけど、ここ最近何匹ものウサギが姿を消しとるみたいや。もちろん逃げ出した形跡も、誰かが盗んだ痕跡もなんもあれへん。そもそもカギは職員室で厳重に管理しとるからな。そして、盗まれたウサギは、血を抜かれた状態で旧校舎の近辺で発見される……」
 全員が息を飲んで見守るのに、QJも神妙に頷いてみせる。それからゆっくりと息を吸ってから、続けた。
「先生たちは騒ぎを恐れておおっぴらにはしてへんけど、"神隠し"やっちゅうて話題になっとるみたいや」
 ふぅむ、とナターリヤは唸って、腕を組んで顎に手をやる。
 ……確かに、不気味な話ではある。
 でも、オバケが出るとか誰もいないのに声が聞こえるとか、そういう類のものに比べれば全然大丈夫、とナターリヤは納得していた。
「はい、席についてー」
 教壇横のドアを開けて、マリレーヌが入ってくる。出席簿を教卓に置いて、それから教室を見回した。生徒たちが慌てて自席へと戻ってゆく。
「じゃあ、詳しくはまた後で」
 ナターリヤが言うのに、子供たちは席へと戻って行った。

「なるほど。それで俺らも駆り出されたわけ?」
 後頭部で腕を組みながら、憮然とした表情でアッシュが言った。
「ウン。だってほら、お、面白そうじゃない?」
「まぁ、俺はいいんだけどさ。ウララが危ない所に行かないように、そういう所は調べておきてぇし」
 バーニィは地面にどっかりと座りながら、いつもの調子で答える。
「まあ、うちも別に予定無かったしええけど」
 ナターリヤがツェツィーリエと約束した、土曜日の十時。ナターリヤたちは、約束した場所でツェツィーリエを待っていた。しかし、すでに時間を十分ほど過ぎているというのに、ツェツィーリエは姿を表さない。
「あ、あれとちゃう?」
 QJが言うのに子供たちが視線を向けると、校庭を突っ切ってばたばたと走ってくる影が見える。長い金髪を振り乱し、プリーツスカートをはためかせながら、全力疾走――おそらく、本人はそのつもりだろう――で校庭を横断してきていた。
「すいませーん、寝坊してしま……うわっ!」
 みんなが見守る中、ツェツィーリエが盛大に転んだ。顔からスライディングで地面を滑って、場の空気を凍らせた。
「……今、自分の足にひっかからなかったか、あいつ……」
「受け身もとらずに顔面から……」
「美しいズッコケや……あんな綺麗なフォームはそうそう見れるもんとちゃうで……!」
 予想外の光景に、皆が口をぽかんと開けたまま、思い思いのツッコミを入れている。
「あ、あの娘ちょっと天然なのヨ……」
 慌ててナターリヤが駆け寄ってツェツィーリエを抱き起こす。半べそを書いているツェツィーリエに、ナターリヤは苦笑しながら服を払ってやり、頭を撫でてやった。
「大丈夫?」
「はい、大丈夫です。すごく痛いです」
(それは大丈夫とは言わないんじゃ……)
 ナターリヤは内心ツッコミながらも肩を貸してやって、かくしてツェツィーリエと子供たちの初顔合わせとなったのだった。
「紹介するわネ、この娘はツェツィーリエ。ホワイトタウンのエッシェンバッハ家のお嬢さん。で、こっちは右からアッシュ、バーニィ、QJ」
「ご紹介に預かりました、ツェツィーリエです。どうかよろしくお願いいたします」
 ツェツィーリエは深々と頭を下げてお辞儀をする。ドジではあるが、さすがは貴族の娘で礼儀作法はしっかりしているようだ。アッシュたちが差し出す手を握り返し、挨拶を交わしてゆく。
「あら?」
 バーニィと握手をしながら、不意にツェツィーリエは不思議そうな顔をして、驚きをそのまま言葉にした。
「バーニィさん、優しい雰囲気がクサヴァーさまに似ています」
「クサヴァー……さま?」
「はい、ギレスベルガー家の現当主で、私の婚約者です」
「そっか、婚約者に似て……って」
「婚約者ぁ!?」
 子供たちの声が見事なまでにハモった。予想外の言葉にまた口をぽかんと開けさせられる。
「小学生なのに、もう婚約者がいるの?」
「はい。うちの家系は小さいですし、力のある家系と繋がりを持たなくては生きてゆけませんから……。あ、でも、クサヴァーさまはとても紳士で、カッコよくて、優しくて、私にはもったいないほど素晴らしい方なのです!」
 まさしく夢見る乙女、という雰囲気で拳を握りしめながらツェツィーリエが語るのに、子供たちは何も言うことができなかった。それは彼女が幸せそうな表情だったというのもあるが、未成年のうちから婚約者がいるという、現代では考えられないようなことがホワイトタウンではまだ成り立っているという現実もまた、子供たちを驚かせていた。
「まあ、詳しい話は道中聞くとして、そろそろ行こか」
 QJが言うのに、子供たちは頷いた。まるで遠足にでも行くかのように一列に並び、旧校舎へ向かって歩いてゆく。
 その光景を、そっと見下ろしている者がいた。
「……何か感付いたみたいね」
 職員室に見える人影はカーテンを窓の半分ほどだけ開いて子供たちを見下ろしながら、大きなため息混じりに呟いた。
「まったく、アダム様に歯向かったらお仕置きだと言っておいたのに……先生が、きついお仕置きをしてあげなくちゃ」
 人影は腰に手をあてて怒ったように独りごちると、そのままカーテンを閉めてしまった。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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