「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode2 摩訶不思議、学園七不思議!?(2)

「あ、マイケル、そこは弱い力でね。雑巾も濡れていないのを使って。木材は水分吸うと腐りやすくなるからね」
 レス・レスが言うのにマイケルは頷いて、乾いた雑巾を取って壁を拭き始める。
 そう、二人は子供たちが学校に行っている間に家の掃除をしているのだった。
「さすがに、人が多いと汚れるのも早いなあ……」
 レス・レスは苦笑しながら室内を見渡して、いろいろと目につく部分を見てゆく。床のフローリングは埃がたまりやすいし、ワックスもだいぶ剥げてきている。壁はみんなべたべたと触るものだから指紋がつき、そこに汚れが付着しやすくなっていた。ダイニングテーブルの周りは、飲み物や食べ物が落ちやすいため、所々ソースなどで汚れがついてしまっている。
「まあ、子供なんだししょうがないか」
 レス・レスは誰に言うまでもなく独りごちていると、マイケルがぶんぶんと手を振りながら呼んでいるのに気づく。
「え? 汚れが取れない? そういう時は、中世洗剤を少しだけつけて、汚れが落ちたら水拭きできちんと洗剤分を落とす。最後に水気がなくなるまで綺麗に空拭きをするんだよ」
 マイケルが頷いて、洗剤を取る。それから濡れ雑巾に少しつけて、壁を拭き始めた。
「マイケルは物覚えが良くて、ほんとに助かるよ」
 それにマイケルは微笑みながら振り返り、親指を立ててみせた。レス・レスも微笑みながら親指を突き出し返す。
(こんな子供たちを戦わせなきゃいけないのか、僕は……)
 そう、アダムとの戦いはまだ始まったばかりだ。今後激化してゆくだろうし、様々な覚悟も必要になる。レス・レスは大人として、子供たちを助けるべき立場にいるのだ。
(……僕にもっと力があればなあ。誰も傷つかなくて済むのに)
 そんな事を考えながら、レス・レスは壁を磨いているマイケルをなんとなく見つめる。

 レス・レスは時々、ふと思い出す時がある。

 そう、目の前で殺された妻と息子の事を。

(あの時、僕に力があれば……)

「パパ……パパっ!」
 アダムの右手に顔面を掴まれ、少年は軽々と持ち上げられていた。短パンにシャツを着た小さな体、柔らかそうな頬に空気をたっぷり含んだ黒髪。少年もがくたびに、その髪がわずかに揺れた。
 マンションの室内は、まるで竜巻でも通り過ぎたかのように荒れていた。窓ガラスは砕けて飛び散り、クローゼットはひっくり返され、床には割れたグラスや倒れた花瓶などが散乱していた。
「トマス……! アダム、やめろッ!」
 レス・レスは地面に這いつくばりながら、その姿を見ている。顔の右半分を覆う傷からは血が流れ出し、視界を塞ぎながら地面を赤く染めてゆく。全身ぼろぼろで、立ち上がる事すらできない状態だった。
「くっ……ジュリエッタ……!」
 そして、レス・レスはその傍らに倒れる金髪の女性へと目線を向けた。ガーリーな厚手のロングスカートにキャミソールを着ている、通った鼻筋の充分に美しい女性だったが、土のような生気の感じられない顔色をしている。乱れた長い金髪がその顔を暗く覆っていた。
「というわけで、"賢者の石"と研究書類は貰ってくぜ、ベイビー」
「くっ……返せ……! それは先祖代々受け継いだ、大切なものだ……っ!」
「代わりに大切に保管しておいてやるんだ。むしろ礼を言うべきだと思うが?」
 アダムは悪びれる事なく言ってから、葉巻を一息吸って、ぺっ、とレス・レスに向けて吐き捨てた。
「パパぁ……パパぁっ」
 トマスが泣きながらもがくが、アダムはそれに一切動じない。葉巻の煙をわざとその顔面に吐きつけて、それにトマスが咳こんだ。
「トマスを……トマスを離せ! その子は関係ないだろっ!」
「関係ある。こいつはお前の後を継ぐんだろ? だったら、早いうちに消しておかねば……な!」
 言うアダムの右手に青い静脈が浮かび、筋肉が隆起し、力が入り始める。みしみしと、骨が軋む音がわずかに聞こえる気がした。
「……パ……パ……!」
「やめろ! やめろおおぉぉぉぉっ!」

 ぽん、とマイケルが肩を叩くのに、レス・レスははっ、と我に返る。
「あ、いや、なんでもない……。え、顔色が悪い? そうかな。ちょっと疲れたのかな、あはは……」
 レス・レスは真っ青な顔で無理に笑ってみせて、額の汗を拭った。その状況にマイケルは不思議そうな顔をして、首を傾げる。
「まかせてばかりでごめんね、僕はちょっと休憩してくる」
 そそくさと逃げるように二階に上り、レス・レスはベッドに体を預けた。それから仰向けになって両手で顔を覆って、
「ごめんね、マイケル……」
 とだけ、呟いた。

 ウッドシティの中心には、市庁ビルがそびえ立っている。アダム・コーポレーションの本社ビルにはかなわないが、それでも六十六階建ては充分に大きな建物だった。
 ビルは、まるでけんだまの剣に球が刺さっているように見え、市民からも愛称である"ジャクジェラ"と呼ばれて親しまれている。けんだまの球にあたる部分は展望台となっており、若い人たちにも親しまれているのだった。
 そんなわけで、舞台は六十階の市長室。夕方になって、レス・レスはここへ立ち寄っていた。アッシュとナターリヤ、さらにはQJとマイケルも一緒である。バーニィはウララを送ってゆくため、こちらには来ていなかった。
「おお、来てくれたか」
 小柄な老紳士が、入ってきたアッシュたちを見て振り返った。白髪に白髭で、顔には年を重ねた皺がたくさん刻まれている。特に目もとの笑い皺が深く刻まれており、優しく垂れ下がった目と合わせて、穏やかな雰囲気を醸し出していた。グレーのスーツに身を包み、決して高級品ではなかったが折り目のきっちりとついたスラックスが清潔感を醸し出していた。
「ご無沙汰しております、プロント市長」
「うむ、すまんの、わざわざご足労願って」
 レス・レスが差し出す手を握り返して、プロントは目を細めて優しく微笑んだ。
「いえ、いつもお世話になっているのは僕の方ですから。それに今日は、新しい子とお会いして欲しかったので」
 言ってレス・レスは振り向き、アッシュに向かっておいでおいでと掌をはためかせる。
「はじめまして、俺はアシュレイ・フィールド。"アッシュ"って呼ばれてます」
「わしゃプロントじゃ。ウッドシティの市長じゃ、よろしくな」
 緊張した面持ちのアッシュに、まるで心を解きほぐすように微笑んでみせて、プロントはアッシュの手を握る。
「それで、俺、なんか全然話が見えてないんですけど」
「おお、そうじゃの。それじゃあ簡単に説明しようかの」
 言ってプロントは微笑みながら振り向き、窓際へと歩いてゆく。それから腰の後ろで手を組んで街を見下ろしながら、静かに口を開いた。
「わしゃ、生まれ育ったこの街が大好きじゃ。常にシティの平和を望んでおるし、そのための努力は惜しんでおらん。……じゃが、それでも問題はいろいろ起こるもんでのう」
 小さくため息をついて、プロントは続ける。
「特に、最近はアダムが勢力を伸ばしておる。もともと汚い手口でビジネスを進めているとは聞いていたのじゃが、尻尾を掴ませてくれない。先週の報道陣への暴力行為も、結局不起訴のまま示談となった。どうやら、警察機関や財界の有力者にも、彼の理念に共鳴する者や手を貸す者が少なくないらしい」
 夕日が顔を照らすのも手伝って、プロントはとても哀愁のある表情を見せる。目を細めて街を見下ろしたままで。
「そこで、わしゃ何か新しいアプローチが無いかと考えた。目には目を……ではないが、法に縛られず動ける手段はないかと、な。そこでレス・レス君と出会い、Childlike wonderを全面的に支援することにしたのじゃ」
 ここでプロントは振り返り、一同に優しく微笑みかけた。
「何から何まで、恐れ入ります」
「いや、構わんよ。この間の爆弾魔といい、充分成果は出ていると思う」
 レス・レスが恐縮して言うのに、プロントは微笑んで返す。
「そんなわけでアッシュ君、これからもよろしく頼むよ。この街の平和のために、力を貸して欲しい」
「うん、分かった。俺、頑張る!」
「ありがとう」
 プロントは笑顔のままで、アッシュの頭に手を乗せて、優しく撫でた。
「……さて、アダムの動きについてじゃが」
 不意に、市長の声が真面目な色を帯びる。にこやかで穏やかな表情だったが、目は真剣そのものだった。
「相変わらず奴がどの程度の力を持っておるかは分かっておらんのじゃが、最近少し動きがある。どうも、この街にドラッグを普及させようとしているらしい。それもとびきりハイなやつをな……」
 残念そうな表情でプロントは首を左右に振ると、ゆっくりとため息をつく。
「それは、どんなドラッグなんです?」
「飛び上がりたいほどハイになり、周りの人を巻き込むほど楽しくなるドラッグらしい。裏社会では"ラビットフィーバー"と呼ばれ、高額で取引されておる。すでに常習者が発生しており、検挙された者が千人を越えた」
「……!」
 レス・レスたちは、予想以上の数字に驚いてお互いに顔を見合わせる。
「最近、盛り場での荒事をやたらと聞くと思っとったら……どうやら、そのドラッグのせいらしい。それについても調査して欲しいんじゃが、頼めるかの?」
「もちろんです、市長」
 レス・レスが即答する。悩む素振りなど微塵も無い、素晴らしい回答だった。プロントが笑顔で差し出す手を、レス・レスはしっかりと握りしめる。
「頼んだぞ、子供たち」
 アッシュがその声に力強く頷く。それに倣って、ナターリヤとQJ、それにマイケルも強く頷いた。
「それでは、早速ですがアダムたちの情報を集めます」
「うむ。こちらも何か分かったら連絡する。気をつけての」
 レス・レスたちが出て行くのを市長は見送った。ドアが閉まってからゆっくりとため息をついて、それからまた窓際に立つ。街を見下ろしながら、ぼそりと呟いた。
「……まさか、あの子がな……運命とは分からぬものじゃて」
 その瞳は優しく温かいままだったが、わずかに哀しみを含んだものだった。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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