「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode2 摩訶不思議、学園七不思議!?(1)

「誰か……」
 ナターリヤは、消え入りそうな声で呟いた。
 街は一面雪が降り積もり、まるで銀細工のように輝く雪景色を見せていた。クリスマスの飾り物が街を彩り、赤と緑と銀の組み合わせが、街並をより美しく見せている。
「誰か……」
 ナターリヤはもう一度呟く。彼女の体はすでに半分が雪に埋もれてしまっており、ぱっと見ただけでは路上に放置されたゴミに雪が積もったようにしか見えない。
 街を歩く人々に誰一人として気づかない事と、全身に走る痛みが、彼女の孤独感を煽る。小さな体は傷だらけで、青あざや血の滲んだすり傷が目立っていた。サンタクロースを模した衣装も、すでにぼろぼろになっている。
 雪が徐々に体温を奪ってゆく。すでに冷たさはあまり感じなくなり、むしろ体温は上がっている。身を包む冷気に、生存本能が抵抗しているのだ。
 だが、急速なエネルギーの消費は同時に彼女自身の生命を確実に削っている。このままでは、あまり長く持たないだろうことは想像がついた。

 ……思えば、儚い人生だったとナターリヤは思う。

 生まれてすぐ両親が失踪しており、ナターリヤの記憶は孤児院から始まっていた。
 ナターリヤは生まれつき知能指数が高く、物事を理解するのは得意だった。だから、成長して世の中を知れば知るほど、世界は不公平である事も分かった。
 だが、それに負けるのも悔しかった。世の中の所為にするのも間違っていると思った。

 だから、戦った。

 八歳の時から新聞配達を始め、奨学金で学校に通うようになった。空いている時間は全て、子供でもできるアルバイトをするようにした。
 今日もクリスマスケーキを売るアルバイトをしていたのだが、酔っぱらったマフィアの下っぱにからまれてしまった。ケーキはめちゃくちゃにされ、ナターリヤ自身もぼろぼろにされた。どういう顔で店に戻ればいいのか分からないし、動く気力も無い。
 このまま路地裏で朽ち果てるしかないのか、と諦めかけていた。

 その時だった。

 どさっ、と音がしたと思うと、目の前の視界が急に塞がれた。
「ったく、アダム様の周りをちょろちょろしやがって」
「これ以上詮索したら、次はただじゃおかねえぞ!」
 ドスの聞いた事が聞こえたかと思うと、足音が去ってゆく。それが完全に聞こえなくなってから、ナターリヤは視界を塞ぐものに目線を移した。
 それは、二十代の一人の青年だった。ぼろを身をまとい、細く繊細な黒髪は汚れて艶もなくなっている。だが、これだけ汚れていてもその美しい顔立ちは隠せなかった。惜しむらくはその顔で、右側を縦に断ち切るように、傷跡が残っている。
「だ、大丈夫?」
 思わず、ナターリヤは上体を起こして彼の肩に手をかけた。
「……いつっ……ああ、人がいたのか……」
 彼は初めてナターリヤに気づき、無理に笑顔を作ってみせようとする。唇の端は切れて血が滲んでおり、痛々しく見えた。
「ねえ、一体何があったのヨ?」
「いや……君こそ何があったのさ……?」
 ナターリヤは、目の前のぼろぼろの青年に、自分の状況を忘れていた。人の事に気をかけていれば、自分の事は忘れられる。そんな性格であることを、ナターリヤは再認識する。
「ワタシはいいから。とりあえず、傷の治療を……」
 肩を貸そうとすると、彼はその手を振り払う。
「いや、歩けるから大丈夫。それより、君の方が先だ……」
「だから、ワタシはいいから!」
 青年が繰り返すのに、ナターリヤは怒って答える。こんなにぼろぼろになっているのに何を言っているのだろうと、ナターリヤは自分の事を棚に上げて思っていた。
「いいから治させてくれ」
 言って青年は、ナターリヤの頭にぽんと手を置く。それからそっと瞳を閉じると、右手がわずかに白い光を放ち始める。
 何が起こったか分からないうちに、全身から痛みが消えてゆく。
「……!?」
「さて、これで君は大丈夫だ」
 ナターリヤは思わず、自分の体のあちこちにぺたぺたと触れる。さきほどあれだけ殴られた傷が、全て治っていた。
「ねえ、これ一体……」
「まあ、いいじゃないか……じゃあ、私はこれで……」
 言いながら青年が体を起こして、歩きだそうとする。ナターリヤは思わず、その青年の上着の裾をむんず、と掴んでいた。
「ちょっと、なんで自分は治さないのヨ?」
「残念ながら、この力は自分には使えなくてね……家に帰って、包帯を巻くとしよう」
「……」
 ナターリヤは、上着の裾を掴んだままで、青年を見上げていた。青年はよろめきながら歩き出そうとするが、服を掴まれており歩き出せないのであった。
 青年が不思議そうに見下ろすのに、ナターリヤはその瞳を見つめ返しながら口を開く。
「家どこ? 送ってく」
「いやあ、いいよ。一人で帰れるから」
「よくない。怪我をした人をそのまま帰せない。怪我を治してくれたお礼もまだしてない」
 ナターリヤがあまりに真剣な瞳で言うのに青年は驚いた顔をしていたが、それからふっと優しく笑う。
「君に恨まれると後が怖そうだな。じゃあ、済まないが家まで着いてきてくれるかな、えーっと……」
「ワタシはナターリヤ。よろしくね」
「ありがとう、僕のことは"レス・レス"と呼んで欲しい」
 ナターリヤが頷くのに青年は微笑んで、二人は並んでゆっくりと歩き出した。
「ところで君は、なんでこんな所に倒れていたんだい?」
「ワタシ……孤児なのヨ。それでまあいろいろあって。……それより、レス・レスこそなんでこんな所で倒れてたのヨ?」
「うん……」
 彼は曖昧に微笑んで視線を逸らす。それからゆっくりと息を吐いてから、口を開いた。
「……君には隠し事はできなそうだ。アダムという男を知ってるかい?」
「うん、聞いた事あるヨ。アダム・コーポレーションの社長でショ?」
「そうだ。僕は彼に貸しがあってね、それを返して欲しいんだ。それで近辺をいろいろ調べてたら、手下に見つかっちゃって」
 レス・レスが苦笑しながら答える。優しいが、どこか自虐的な表情だった。
「……しょうがないなあ。また怪我したら、手当てしてあげるわヨ」
「それは頼もしい」
 ナターリヤがため息混じりにおどけて言うのに、レス・レスもおどけて答えた。

 ぱちっ、と目を覚まして、ナターリヤはいつもの天井が見える事に安心した。
 ベッドの右隣にはマイケルが眠っており、布団を蹴飛ばしてしまっている。ナターリヤはそれを掛けなおしてやると、今度は左隣を見る。
 そこには、いつも通りレス・レスが眠っていた。普段は家でもマスクをしていたが、一週間前にみんなの前で素顔を晒してからは外に出る時だけマスクをするようになっていた。
 レス・レスは体を小さく丸めてナターリヤの方を向き、まるで子供のように静かに眠っている。ナターリヤはその姿に安心して、そっとレス・レスの髪を撫でてみる。くすぐったいのか、レス・レスはむずがゆい笑顔を見せてから、そのまま眠り続けていた。
(あれから、もうすぐ三年も経つのネ。時の経つのは早いこと……)
 ナターリヤは二人を起こさないようにゆっくりとベッドを抜け出して、両手を上げて体をぐんと伸ばす。それからチェック柄のパジャマを脱いで着替えると、静かに部屋を出て行った。

「え、今日から行っていいの!?」
 朝食の席で、アッシュが感激のあまり素頓狂な声をあげた。
「そうだよ。転入準備が終わったから、今日からみんなと一緒に学校に通えるよ」
「うおー! マジかよ! やったー!」
 レス・レスの声にアッシュは明らかに興奮して、眼前に持ってきた拳をわなわなと震わせている。
 アダム・コーポレーションのビルに潜入してから、かれこれ一週間が過ぎた日の朝。レス・レスと子供たちは、ダイニングテーブルで朝食をとっていた。ナターリヤはカウンターキッチンの向こうで、頭にバンダナを巻きピンクのエプロンを着けて、料理を作っていたのだった。
「そっか、アッシュは学校久しぶりなんだっけ」
 ナターリヤがフライパンに乗せた目玉焼きをアッシュの皿に乗せながら、思い出したように言う。
「うん。三年ぶりぐらい」
「そうなんや、それはめっちゃ楽しみやろなあ」
 トーストを口に放り込みながら、QJが笑顔で答える。
「そっか、じゃあとっても楽しみだネ。ちなみに、ワタシたちはみんな同じクラスだから、よろしくネ」
「え、何? そのご都合主義な展開?」
「市長がうまいことやってくれてるのヨ」
 素頓狂な表情と声を今度は驚きに変えて、アッシュは目を見開きながら言う。それから、不思議そうに首を傾げた。
「市長って……ウッドシティの? なんでそこで市長が出てくるの?」
「ああ、市長は我々にいろいろ協力してくれているんだ。この家を用意してくれたのも市長だしね」
 食後のコーヒーをナターリヤから受け取りながら、レス・レスが話に入ってくる。
「へぇ〜……」
「まあ、今日の夕方ちょっと用事で行くつもりだから、アッシュもおいで。直接話をした方が、分かりやすいだろうし」
「うん、分かった」
 アッシュが笑顔で言うのに、レス・レスが微笑み返した。それからアッシュは辺りをきょろきょろと見回して、
「ところで……バーニィは? 一緒に行くんじゃないの?」
 と、全員に聞いてみた。
「ああ、バーニィは"姫君"を迎えに行ってから学校行くのが普通だから。もう出かけたで」
「へぇ、そんなに早く出てくんだ……」
 ちらりと時計を見ると、まだ八時過ぎ。学校は九時からだから、八時半に出れば充分に間に合うはずだった。
「そうそう、マイケル。いいものあげるネ」
 不意にナターリヤが言って、ひとつの蝋燭立てをテーブルに置く。カボチャを模したもので上部に丸い穴が空いており、そこから蝋燭を入れるようになっている。
 それをマイケルは不思議そうに右から、左からとじろじろと見まわしていたが、不意ににんまりと笑顔を作る。
 そう、それは目と口がくり抜かれ、マイケルそっくりだったのだ。
「うふふ、そっくりでショ? あまりに似てたから、昨日買って来たのヨ」
 それにマイケルは、飛び上がって両手をぶんぶんと振り回す。それにナターリヤも、真似して笑顔で腕を振り回した。
「……さて、ごちそうさま、っと。やっぱナターリヤの朝食は美味いわぁ」
「うふ、ありがと♪」
「ごちそうさまやで。……ほなアッシュ、学校の準備しよか。必要なもんは一通り用意してあるから。おいで、手伝ったるわ」
「ありがと! ……あ、ナターリヤは? 準備しなくていいの?」
 二階へと歩き出すQJに、ばたばたとアッシュがついてゆきながら、階段の途中でふとナターリヤへ振り返った。彼女はキッチンで食事の片付けをしたりゴミをまとめたりと忙しくしており、しばらく時間がかかりそうな様子だったのだ。
「もちろん、昨晩のうちに準備済み。食器を片づけたら、すぐ出れるわヨ」
「ははっ、こりゃおみそれしました」
 おどけて言いながら歩き出すアッシュの背中を笑顔で見送ってから、ナタ−リヤはまたキッチンへと戻って行った。

「よし、出発しんこー!」
 ぶんぶんと大きく手を振りながら歩き出すアッシュ。どうもそのテンションについていけないのか、ナターリヤとQJは少し距離を空けて、並んで歩いていた。
「……元気だねぇ」
「まあ、引きこもるよりはええんちゃう?」
 先を歩いていたアッシュが、ふと振り返って口を開いた。
「そういえば、マイケルは? 学校行かないの?」
「ああ……マイケルは、恥ずかしがりやなのヨ」
 その質問にナターリヤは素っ気なく答えて、両手を広げる。
「そっかー、学校ってとっても楽しいんだけどなあ」
 後ろ向きに歩きながら、不思議そうに首を傾げてアッシュは言う。久しぶりに学校に行ける事になったアッシュとしては、その気持ちは分からないようだった。
「ホラ、あれがウッドシティ・ジュニアスクールだヨ」
 ナターリヤが言うのに、アッシュが振り向く。
 道路の向こうには、白く大きな校舎が見えてきていた。道に面する形で大きな正門があり、段差の低い階段が扇状に広がっている。脇には花壇があり、花や樹木が多く育っていた。
「うっわあぁ……」
 まるでショーウィンドーのトランペットでも見るかのように、アッシュは感嘆の声をあげた。
 これから始まる毎日に、想いを馳せながら。

「さて、着いたぞ」
 アダムが、停車する車の中で言った。
 乗っているのは"いかにも"な、黒塗りの大型リムジン。運転席以外の席は取り除かれており、本来後部席があった箇所には豪華なソファーセットが置かれている。アダムはそのソファにどんと座って、葉巻をふかしていた。
 その向かいには人影があるが、カーテンを締め切った車内は午前の淡い日差しを遮り、その人影に暗い影を落としている。
「わざわざありがとうございます、アダム様」
「会社に寄るついでだ。……で、成果はどうなってる」
「上々ですね。予定に比べ、百二十八パーセントの成果をあげています」
 その答えにアダムは満足そうな笑みを浮かべる。それから葉巻を吸って、煙を吐いた。
「分かった、引き続き製造を続けろ。あと、あのガキどもには注意しておけ、嗅ぎつけられると面倒だ」
「大丈夫です、すでに手は打ってありますから……」
 その答えに、アダムはまた満足そうな笑みを浮かべた。

「今日からこのクラスで一緒に勉強することになった、アシュレイ・フィールドです。アッシュ、って呼んでください! 得意なのは剣道で、体を動かす事が大好きです。よろしくお願いします!」
 ウッドシティジュニアスクールの五年B組。朝のホームルームで、アッシュの自己紹介の声が響いた。
 他の生徒たちの拍手が響き、アッシュは少し照れながら、窓側の一番前の席につく。
「さ、みなさん、アッシュ君と仲良くしてあげてくださいね」
 担任のマリレーヌが、笑顔で教室を見渡して言う。彼女はまだ若い教師で、長い黒髪を後頭部でアップスタイルにまとめている。切長の目と尖った顎、鋭利に伸びる鼻筋が、淡泊ではあるがクールな美貌を作り出していた。切り揃えられた前髪が白いセルフレームのメガネによく似合っており、知的な印象を与えている。細身のスーツのジャケットと体のラインそのままのタイトスカートが、彼女をより美しく見せていた。
「じゃあ、アッシュ君の席はそこね」
「……」
「アッシュ君?」
 席を促すマリレーヌを、アッシュは不思議そうな顔でじっと見つめている。マリレーヌもそれに気づいて、首を傾げた。
「アッシュ君、どうしたの?」
 それからマリレーヌは前屈みになって、アッシュの顔を覗きこむ。ミントのようなフレッシュな香りと共に、長い黒髪が揺れた。
「いや、なんか、先生とどっかで会った事があるような気がして……」
 アッシュ自身もよく分からない事を再確認するように、首を傾げて腕を組みながら呟く。
「あら、それって新手のナンパかしら? おませさんね」
 それにマリレーヌは微笑んでみせて、冗談ぽく言う。それにクラスがどっと沸いて、「転校性はスケベだ!」「おっとなー!」などと好き勝手な野次が飛ぶ。アッシュはそれに頭を掻きながら、席へと向かった。
(どっかで会ったような気がするんだけど……まあいいか)
「お疲れさま〜」
 アッシュは机に鞄をかけてから席について、隣に座って声をかけるナターリヤを振り向いた。
「まあ、顔見知りばかりやから気楽にやったらええんちゃう?」
「そうだな」
 後ろから、バーニィとQJの声が届く。そう、アッシュとナターリヤの後ろの席には、バーニィとQJが座っていたのだった。
「ねぇ、バーニィのお友達?」
 バーニィの後ろから、透き通った声が聞こえる。バーニィの後ろに座る少女は長い黒髪にゆるくウェーブをかけており、机に組んだ腕を置きながらバーニィを見つめていた。少し釣り上がった瞳は一重瞼で、薄い唇と起伏の少ない顔つきが彼女を知的に見せている。前髪を止める髪留めはスズランをモチーフにしており、黒髪とのコントラストを見せて良いアクセントになっていた。上半身にはタートルネックでノースリーブのセーターを羽織り、それに黒いキャミソールを合わせていて、下はシャープなラインの七分丈パンツを履いていた。そのシルエットは細く、とてもスマートな印象に見える。
「ああ、そうだ。……アッシュ、彼女はウララ。いろいろあって、俺は彼女を守るために生きてる」
「バーニィ、そんな大げさな……」
「ああ、"姫君"ってウララの事なんだ」
 ここでアッシュは、バーニィが朝いなかった理由がやっと分かり、納得した様子で大きく頷いた。
「そういうこと。彼女を守る事が俺の使命だ」
「なるほど」
 アッシュは頷きながら、二人の顔を交互に見比べる。どういう関係なのかよく分からなかったが、また帰ってから詳しく話を聞こう、とアッシュは納得した。
「まあ、そんなわけで、これからもよろしくネ、アッシュ」
「うん、こちらこそ!」
 微笑みかけるナターリヤたちに、アッシュも微笑み返した。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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