「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
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Episode1 Childlike wonder、参上!(4)

「あははっ! ひどいあたま〜!」
 ナターリヤがテレビを指さしながら、笑い転げていた。
 ここは、郊外にあるレス・レスの家だった。木材をふんだんに使った住居で、一見大型のログハウスのように見えるかもしれない。そのダイニングキッチンは二十畳はある大部屋で、ナターリヤとマイケル、それにQJとバーニィがテレビを見ていた。
 QJとバーニィはマスクを取っており、素顔になっている。バーニィは短い赤毛をぼさぼさなままにしており、腫れぼったい瞼の細い目が印象的だった。QJは切れ長の瞳で、健康的な褐色の肌にウェーブがかった長い黒髪を胸あたりまで伸ばしている。
 テレビに映っていたのは、先ほどの爆弾魔だった。頭がアフロヘアーになっており、服もぼろぼろに破けている。
 そう、爆弾魔が逮捕されたというニュースを皆で見ていたのだった。
「ありがとう、子供たち」
 ドアが開く音に続いて、レス・レスが入ってきた。マスクから覗く瞳は優しく細められ、穏やかな微笑みを浮かべているのだろう。
「あ、レス・レス! うまくいったね♪」
 ナターリヤが得意げに微笑んで駆け寄り、その右腕を絡めて笑顔で言う。レス・レスはそれに笑顔を返し、頭をそっと撫でた。
「うんうん、本当にありがとう。――そうだ、良い子にはご褒美をあげるよ」
 レス・レスは内ポケットに手を入れて、一つの飴玉を取り出した。そしてそれを器用に両手でキャッチボールしてから、握った両手をナターリヤに差し出す。
 ナターリヤは指を唇に当てて、むー、と真剣な顔で拳を見比べる。それを見守るマイケルたちもまた、真剣な表情だった。
 それをレス・レスはにこにこと微笑みながら見守っている。
「こっち!」
 ナターリヤが右手を指さした。
「こっちでいいかい?」
「ウン!」
 レス・レスがにっこりと微笑みながら、ゆっくりと右手の指が開かれてゆく。
 その途端。
 掌からこぼれ落ちて来るのは、たくさんのお菓子。
 甘い安らぎをくれるキャンディ、とろける美味しさのラムネ、お口の恋人チョコレート、舌の色が変わるジェリービーンズ……。ナターリヤは、わあぁ、と羨望と歓喜の混じった声をあげる。マイケルもその状況を驚きながら見ていた。

『"Childlike wonder"とかいう奴が、俺にちょっかいをかけたいらしい。用があるなら今夜うちに来い、赤い血のワインでも振舞ってやろう』

 不意にテレビから流れてきた言葉に、全員が慌てて振り返る。そこには、アダム・コーポレーション本社ビル前で行われた惨劇がニュースで流されていた。
「あれは……アッシュ?」
 倒されたカメラが、アッシュとヴィクトワールの戦いをずっと撮っていたのだ。
「……動きは悪くないかもな、あいつ」
 バーニィが頬杖をついたまま、ぶっきらぼうに言う。
「せやけど、あの女の剣はかなりのモンや。技量が違いすぎるで」
「ああ。出会う時期を間違えたな」
 QJが真面目な顔で言うのに、バーニィが同意して深く頷いた。
「ちょっと……まずくない?」
 不意に、ナターリヤが真剣な口調で呼びかけるのに、全員の視線がテレビに集まった。そう、それはちょうどアッシュがビルの中へと連れこまれてしまう所だった。
「! 面倒なことになってきやがったぜ……」
「勝てへんと分かってるやろうに、なんで飛び込んでいったんや……」
 ため息をつきながらバーニィが言うのに、QJがぼやく。確かにその通りだった。

(ママが言ってた。『困っている人を助けなさい』って)

「……」
 レス・レスは、アッシュの言葉を思い出していた。

 もし彼が、その理念に従って行動したのであれば。
 もし彼が、一方的な虐殺を受ける報道陣を守るために行動したのであれば。
 その行動には感服するしかない。

「……みんな、彼を助けよう」
 レス・レスの言葉に、子供たちがはっと顔を上げる。
「彼はきっと、報道陣を助けるために飛び込んだんだ。だとすれば……放っておくわけにはいかない」
 子供たちは迷った顔を見合わせてから、もう一度レス・レスへ視線を向ける。
「ウン、いいよ。レス・レスは助けたいんでショ?」
「そうなんだ。僕のわがままかもしれないけど……彼を助けたい。彼を仲間に加えたいと思うんだが……みんなはどうかな?」
 子供たちがまた、顔を見合わせる。それは迷っているというよりも、誰が一番最初に言い出すか、そういう雰囲気だった。その空気を読み取ったのか、ナターリヤが最初に口を開く。
「ワタシはちゃんと"お姉さん"として接してくれればいいけど。みんな、どう?」
「俺は構わねぇよ、一度戦ってみたい」
「うちもかめへんよ。誰とでも仲良うやれるやろし」
「マイケルは……賛成みたいだネ」
 見ると、マイケルが嬉しそうに腕をぶんぶんと振り回している。
「よし。じゃあ早速、出かけよう。――彼を助け出し、アダムを倒すために。……悪いおとなには?」
「いたずらしてやるっ!」
 子供たちが声をあわせて楽しそうに言うのを、レス・レスは優しく見つめていた。

「しっかし高いビルよネ……」
 望遠鏡を覗いていたナターリヤが、言った。
 レス・レスたちは今、百メートルほど離れたビルの屋上から、アダム・コーポレーションのビルを見上げていた。
「しかしまあ、自己顕示欲のカタマリだなー。ほんと、金持ちはロクな事考えねぇぜ」
 隣で見ていたバーニィが、率直な感想を述べる。
 彼がそう言うのも無理もない。ビルは高く大きいのはもちろんだが、外観は微妙にカーブがかかっており、真ん中がへこんでいる。その真ん中は円形にくり貫かれて大きなガラスが張ってあり、それを取り囲むように高さ3メートルほどの輪が、まるで土星の輪のようにビルを囲んでいた。
「……そもそも建築法違反じゃないのか、アレ……」
「そうでなくてもウッドシティでは自然を生かした街作りをしなきゃいけないのに。そんなのも無視してるみたいネ」
 バーニィが呟くのに、ナターリヤが答える。
「だから、ついた名前が"恐怖の豚の塔(ピッギーホラータワー)"だそうヨ」
「豚小屋にしては、ルームサービスが良さそうだな」
 ナターリヤの声にバーニィは冗談めかして答えて、続けた。
「とにかく、早く潜入しよう」
 その言葉に、全員が頷いた。
「じゃあ、これを見て」
 ナターリヤがランドセルから何枚かの紙を取り出し、床に広げてゆく。
「設計士のデータベースをハッキングして、設計図を入手したの。そのデータを元に立体図を起こして、内部の地図を作ったのヨ」
 ぴゅう、とバーニィは口笛を鳴らせてから、「さすがは天才少女」とおどけて言った。
「これを見るとね、地下には謎の部屋が多数あるのよ。設計図からは全貌を把握できなかったんだけど、その空調や水道、それに下水道の設備から、明らかに牢屋っぽいのよね。だとすれば、おそらくそこにアッシュはいるのヨ」
 全員が紙を見ながら頷く。ナターリヤは返事を待たずに、言葉を続けた。
「で、アダムはビルの最上階に住んでる。この時間は警備員しかいないはずだから、この専用エレベーターで出入りしてるのよネ」
 ナターリヤが指さす所を見ると、確かに全ての階へと繋がっている直通エレベーターが存在している。正面から入る通常の会社部分とはドアで一応繋がってはいるが、明らかに隠す意図のある場所に設置されておりその存在を知っている者はそういないだろうと思えた。
「ありがとう、ナターリヤ。それでは、まずは地下へ向かってアッシュを助け出して、それから直通エレベーターで最上階へと向かおう」
「分かった!」
「よし、じゃあ行くぞ!」
「おーっ!」
 全員が元気に答えてから、五人は夜の闇に紛れてビルへと向かっていった。

「……っく……」
 ぴちょん、と水滴が落ちる音が耳に入ってきて、アッシュは呻きながらゆっくりと目を開き始めた。
 明かりは無く薄暗い部屋に、アッシュは居た。
「……?」
 だが、不自然だ。
 いま寝ているのは普通のベッドで、部屋も広さ四畳ほどの普通のワンルームのように見える。ベッドだけではなくテレビや机、さらには冷蔵庫まである。
 不自然なのは一点だけで、仕切りの無い洋式トイレが室内にあるということ。どうやら、留置所や牢屋のようなものだろうとアッシュは思った。
 ただ、妙な事に入り口のドアは鏡張りだった。おそらくマジックミラーなのだろうが、アッシュはそんな事など知るはずもない。ドアノブも存在せず、こちらからは開けられない仕組みになっているのだろう。
 ドアの横には、高さ一メートルほどのところに三十センチ四方のくぼみがある。奥には板が張ってあったが押すとわずかに動いたので、どうやら食事や物の受け渡しはこの小窓から行うのだろう。
「どういうことだろ……」
 見ると、胸には包帯が巻かれ、しっかりと手当が行われていた。僅かに痛みは残るが、普通に動く分には何の問題も無い。
 入り口近くのスイッチを入れると蛍光灯が光り、室内を明るく照らし出す。
「目を覚ましたか?」
 それに気づいたのか、小窓が空いて聞き覚えのある声が聞こえる。ヴィクトワールだ。ちょうどアッシュの視線と小窓の高さが同じなので、向こうから覗きこむヴィクトワールの顔が見えた。今は仮面をつけておらず、切れ長の鋭い瞳ときりりとシャープな細い眉毛が見えていた。
「おい! 俺を閉じ込めてどうするつもりなんだ!」
「まあ、落ち着け。殺すわけではない」
 噛みつくアッシュに、ヴィクトワールは至って冷静に答える。その口調はあまりに淡々としており、感情が見えなかった。
「むしろ、逃がそうと思っている」
「……はぁ?」
 予想外の言葉に、アッシュは目を白黒させた。その意味を理解するのに、たっぷり五秒はかかってしまう。
「だから、お前を逃がそうと思う」
 言うが早いか、ウィーンという機械音の後、かちりと音がして、ドアがこちら側へと開く。
「……?」
 疑いながら、アッシュはゆっくりと部屋から出てゆく。
「なんで……俺を?」
 不思議そうな顔で見上げながら、アッシュが呟くように言う。
「理由が必要か?」
「当たり前だ! なんで俺を逃がすんだよ? 俺はアダムの敵になるかもしれないんだぞ!」
「アダム様には敵が多い。今更一人増えた所で何の問題も無い、我が剣の錆となるだけだ」
 あっさりと答えられてしまうのに、アッシュはまた呆気にとらてしまう。
「だから、さっさと行け」
 言って、ヴィクトワールは傍らにあった配膳ワゴンから一本のフォークを手に取る。それを握って振り上げると、ためらいなく自分の腕に突き立てた。
「! 何を!?」
「貴様に食事を渡そうとしたら、不意をつかれて刺された。その隙にカードキーを奪われ、逃げられた――ということだ」
 言いながらも、ヴィクトワールは表情ひとつ代えずぐりぐりと傷口を広げてゆく。透き通るような白い肌に赤い血がしたたり、地面へとこぼれていった。その光景は、不謹慎ながらとても美しい調和を見せ、そこだけが異世界なのかと思えるほどだった。
「さあ、これぐらいでいいだろう。ここを右へまっすぐ向かえば、階段がある。そこから地上に出ることができる」
 言いながら、ヴィクトワールはフォークを引き抜いて放り捨て、配膳車からトレイに乗せた食事を手に持った。それからためらいなく、小窓の下に向けて放り投げる。地面にぶつかって椀が跳ね、中身が無残にぶちまけられた。
「あ〜……もったいない……」
「問題ない。後でスタッフが美味しく頂く」
「スタッフ?」
「そうだ、この独房を任せている者たちだ。……さあ、行け。この音を聞いてスタッフが気づくだろう」
 言うが早いか、遠くからばたばたと走り寄る足音が響き始めた。
「……分かった。いつかこの借りは返す!」
「返して欲しいとは思っておらんよ」
 走りながら言うアッシュに、ヴィクトワールは静かに答えた。その後ろ姿が見えなくなるまで見守ってから、ヴィクトワールはふと視線を落とす。
「……理由か。強いて言うならば」
 ヴィクトワールはゆっくりと瞳を閉じて、続けた。
「昔を思い出した、という所か……」
 独りごちるヴィクトワールは、僅かに笑っていた。
 普段は絶対に見せない、優しい笑顔をたたえていた……。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

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