「俺は守りたいんだ、仲間を!」 不思議な能力を持った子供たちが送るアクション活劇、ここに開幕! わるいおとなにいたずらしてやるっ!
文章・web製作→勇魚 イラスト・デザイン→やしち

HOME > Episode1 Childlike wonder、参上!(3)

Episode1 Childlike wonder、参上!(3)

「はっ、はっ、はっ……!」
 夜の公園の中を、一人の男が走っていた。激しく息を切らし、髪を振り乱して。
 男はビジネススーツに身を包み、髪を短く刈り上げている。体躯がとても細いため、多少不健康に見えた。
「畜生……話が違うじゃねぇか……なんだよこの検問の多さは……!」
 男はぶつぶつ言いながら、針葉樹に囲まれた公園の道を走り抜けてゆく。
 夜空は赤く炎がうねり、大きな陽炎を描く。パトカーのサイレンが鳴り響き、人々のざわめきとあわせて夜の沈黙を破っていた。
「くそっ……アダムさんよ、安全に逃がしてくれるって話じゃなかったのかよ……!」
 愚痴りながら、男はゆっくりと速度を落として立ちどまった。両手を膝に置いて、肩で息をする。
「はぁ、はぁ……ん?」
 ふと、男は顔をあげる。
 今、何かがわずかに、視界の端を横切った気がした。
 暗いので何かは分からない。ただ、何かが動いて、それがわずかに月光を反射したような気がしたのだ。
「……気のせいか」
 独りごちて、男は歩き続ける。
 やがて道は開けて、公園の中央にある噴水に行き当たる。周りに街灯が多数あり、噴水の水流をより美しく見せるためのライトアップも行われていた。赤や青の小さな光が噴水を照らし出し、夜の雰囲気に合わせて穏やかな装飾で彩られる。
「……」
 男は、辺りを見渡す。
 ……こんなに明るい場所だ。自分の顔はすぐに分かるだろう。そして、それが警察署の前に貼られている、"連続爆弾魔"の指名手配書と一致するのには、それほど時間がかからないだろう――。
 もっとも、その悪名のお陰でアダムから声がかかり、大好きな爆弾を大量に爆発させる事ができたのだが……。
 男が、そんな事を考えながら歩いていた次の瞬間。
「!?」
 音もなく、街灯が消えた。噴水を照らすライトアップも全て。公園内の明かりという明かりが、全て消えたのだ。
「――!?」
「せーの、"トリック・オア・トリート"!」
「うおおおおおおおぉぉぉぉっ!?」
 後ろから襲う突然の声。男は慌てて飛び退いて振り返る。
 身長百三十センチほどの、小さな人影がふたつ。マイケルと、ナターリヤだ。ナターリヤはピーマンのマスクをすっぽりとかぶって、顔が見えなくなっている。
「な……なんだ? 何故子供が?」
「ねぇねぇ、お菓子くれないといたずらしちゃうヨ!」
 ナターリヤが明るい声で言い、二人は男の周りをぐるぐると回り始める。その明らかにこの場に不似合いな状況に、男は苛ついた。
「うるせぇ! 今忙しいんだ後にしろっ!」
 言いながら男は右腕を振り上げて、マイケルをその拳で殴りつけた。マイケルはその衝撃で無様に転んでしまう。
「あー! おじさんひどーい!」
 ナターリヤは、マイケルを抱え起こしながら大きな声で喚く。だが、男は答えなかった。その右の拳を見つめたまま、押し黙っている。
(感触が……?)
 かぼちゃのマスクは、ジャック・オー・ランタンを模して、本物のかぼちゃを切り抜いたもの……のはずだ。
 だが、拳に伝わった感触は、どこかおかしい。
 ふと、かぼちゃ顔に視線を戻して、男は嫌な汗が吹き出るのに気づく。

 たった今、殴ったかぼちゃ顔。
 かぼちゃそのものが赤く腫れている。

 汗が頬を伝う感覚が妙に冷たく感じられた。ゾッとする嫌な空気が圧し掛かる。
 それから、弾かれたように慌てて辺りを見渡した。

 ……なんだ、この場を包む威圧感は……?

「ねぇ、今の見た? ひどくない?」
「ああ……許せねぇな」
 ナターリヤが腕を振り回して言うのに、男の背後からバーニィの声が答えた。
「ほんま、やったらあかんことぐらい分からんのかいな……」
 それにQJの声が続く。二人は、男の背後に回りこんでいたのだ。
「そうよ、爆弾で建物を壊してたのヨ! おまけにさっき、マイケルを殴った!」
「うるさい、うるさい! ガキどもには関係ねぇだろ!」
 ナターリヤがぎゃあぎゃあと喚き散らすのに、男が怒鳴りつける。
「関係ないわけないですよ……みんなにとって大事な街や人が壊されるのは、良くないことです」
 レス・レスが、バーニィの後ろから姿を表した。歩きながら言って、両手を広げて首を横に傾ける。
「う……うるさいっ! お前ら、何者だあっ!?」
「僕たちは、お前みたいなダメな大人に"いたずら"する正義のヒーロー……"Childlike wonder"」
「チャイルドライク・ワンダー……!?」
 男は一歩後ずさった。そんな名前を聞いた事は無かったが、そこまで堂々と名乗りを上げられるのに、飲まれてしまっていた。
「悪いおとなには、いたずらしなきゃ。ほら、マイケルも怒ってるヨ」
 ナターリヤそれに続けた。隣のマイケルも、腕をぶんぶんと振り回して怒りを表現していた。
「マイケル!」
 レス・レスが言うのに、マイケルは両手を天に伸ばしてから、ぐっとその手を握る。それから、一気にぐんっと引っ張った。
「うおぉぉっ!?」
 男は何が起こったか分からない。視界がぐるんと回転したと思ったら、空中に吊り上げられていた。全身を固定されたまま逆さ吊りにされており、身動きが取れない。
「な、なんだ!? 離せえぇ!」
「うふふ♪ ワタシ特製の単分子ワイヤーは切れないヨ! おまけに、マイケルの怪力には誰も勝てないんだから!」
 男は思い出す――さっき視界の端で何かが動いたように見えたのは、このワイヤーだったという事に。
「じゃ……さっそくいたずらをしておあげ」
「ウン!」
 レス・レスが言うのに、子供たちは男に近づいてゆく。その表情が見えないのに、妙に明るい声なのが恐怖感をより煽っていた。
「……!」
 男は気づいた。
 彼らの手に、何かが握りしめられているのを。
「わるいおとなには?」
 レス・レスが問いかけると、ナターリヤとマイケル、それにQJとバーニィも両手を振り上げる。それから全員が、答えた。
「いたずらしてやるっ!」
 子供たちが手に握っていたのは、そう。
 爆竹だった。
「ひ……ひいぃぃぃぃぃっ! 助けてえぇぇぇぇっ!」

 パパン、パパン、パパパパァン!

 夜の街に、爆竹の弾ける軽快な音と男の悲鳴が響き渡った……。

「……やはり相手にはならなかった……か」
 公園の横に建つビルの屋上から、それを無言で見下ろす人影があった。
 闇のわずかな切れ間に除く影は、豊満で荘厳な女性のシルエットだった。風が長い髪とスカートを弄んでおり、ゆらゆらと揺れている。滑らかな凹凸を持つ体はすらりと伸び、女性であることを主張していた。
 そう、ヴィクトワールである。仮面の間から覗く切れ長の瞳は鋭く、その視線はまるで射抜くようであった。
「……アダム様に報告せねばならぬな」
 透き通るソプラノボイスを押し殺してぼそりと呟くと、彼女は、ふっ、と姿を消した。


※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。何かに似ていたりどこかで聞いた気がしても、きっと気のせいですので気にせず寝てしまいましょう!

※全年齢向けで書いてるつもりなんですが、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているので、ちょっぴり暴力だったり性的な表現があったりします。あまり気にしないでください。

※本サイトは全ての利用者に対して「エンターテインメイト小説」として娯楽を提供するものであり、閲覧についての保障などは一切いたしません。読んでたら目が痛くなったとか言わない方向で。