学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

21th universe どこまでも届け、あたしの歌っ!(01)

 暦は、九月を伝えていた。

 冷夏の穏やかな風の匂いを、そのまま引き継いだような優しい日々。

 そして、学生たちの楽しい夏休みも終わり、二学期が始まった――。


 事件は、昼食の時に起こった。

「バンドやろう!」
 ミルがいつもの通り右斜め上を行くことを言い出したのは、二学期の始業式から数日過ぎた九月二日の木曜日のことだった。
 ……そもそも、何故ミルがそんなことを言い出したのかというと。
 十月二日と三日、土日を通してグラール学園の学園祭が星霊祭と同時期に行われるのだ。その出し物のひとつとして、学生の音楽発表会がある。そこで披露するために、という意味なのである。
 ミルがそんなことを言い出した場所は、星グラール学園の学生食堂。六百席ほどの食堂は壮大なスペースで、端から端まで百メートル近くある。
 そこへ、いつも通りミルとネージュが昼食に向かう。ヴィニーを誘うと、もれなくセルジュがついてくる。エーデルシュタインを誘えば、もれなくカテリーナがついてくる。そして六人で昼食をとっていると、不意にミルがそんなことを言い出したのだった。

「……なんつーベタな」
 ぼそり、と呟くのはヴィンセントだ。彼が「ベタ」と言うのは、学園祭に向けて結成したバンドは知るだけでも数知れないからだ。
「……私、人前に立つのとか得意じゃないし……」
 うつむいたまま言うのは、当然ネージュである。
「おー、いいね。音楽やんの久々だなぁ!」
 食いついたのはセルジュだ。俳優の常として主演作品の主題歌を歌ったこともあり、この中では唯一のプロ経験者である。
「わたくし、クラシック音楽しか経験がございません」
 つっけんどんに言うのはカテリーナ。特別興味は無いように、淡々とした口調だった。
「……楽器演奏は経験が無いわ」
 エーデルシュタインもいつものように、冷静なままでしれっと答える。
「はいきまりー。じゃああたしボーカル、セルジュとエーデル先輩はツインギター。ネージュがベースでヴィニーがドラム、そしてカテりんがキーボードね〜!」
「「「「「話聞けよ!」」」」」
 ミルの言葉に全員が慌ててツッコんだ。いくらなんでも強引すぎる。
「え? だって、セルジュ先輩はイケメンだしエーデル先輩はスタイルバツグンだし、ツインギターで前に出るとサマになると思うんだもん」
「当たり前だ、一応元プロだぞ俺は」
「確かに、楽器演奏も剣と同じで奥の深いものだから、興味が無いとは言わないけど……」
 セルジュもエーデルシュタインも、困惑はしているが悪い気はしていないようだった。……まあ、その思惑の方向性は全然違っていたけれども。
「で、ネージュとヴィニーがリズムパートをやってくれれば、みんな安心できるじゃん。カテりんもピアノ弾けるって言ってたじゃない」
「……音楽でもお前のサポートしなきゃいけないのか、俺は」
「ミル……あたし楽器分からないんだけど……」
「そもそも、ピアノとキーボードは別物ですわよ」
 三人とも怪訝そうにミルを見つめる。だが、ミルはそれに臆することなく、話を続けた。
「はい、じゃあきまり!」
「「「「「きまりじゃないっ!」」」」」
 また、思わず五人の声がハモる。
「えー? 何がいけないのー?」
 口を尖らせながら、ミルが不思議そうな声を漏らす。それにヴィンセントは右手を額に当てて、
「あのなあ、まだ誰もやるとは言ってないだろ……」
 と、呟くように言った。
「いや、俺は別にかまわねぇけど?」
 セルジュは椅子の背もたれにどっかりと体重を預けて、いつもの調子で飄々と言う。
「ギターはバンドの花形だからな。何より、モテるし」
「……やっぱそこかよ」
 ヴィンセントが思わずツッコミをいれる。
「まあ、私も別にいいかな……技術を追求するのは楽しいわ」
 意外にも、エーデルシュタインも悪い気はしていないらしく、少しためらいながらも静かに答えた。
「私は……ミルがどうしても、って言うのなら……」
「お願いネージュ、あたしに協力して!」
 ミルはネージュに飛び付いて、がっしと抱き締める。
「ぁう……あ、あん……ちょ、ミル、耳、耳は、やめてぇ……分かったから、協力するからぁ……!」
 どさくさに紛れて耳に息を吹き掛けるミルに、ネージュは了承の返事を返す。相変わらず台本があるかのようなお約束の流れである。
「まあ、わたくしもどうしてもって言うなら考えて差し上げても構いませんが……」
 カテリーナは今一つ乗り気ではないらしく、どうにも歯切れの悪い答えを返す。
「カテリーナ、手伝ってもらえるかしら?」
「はい、エーデルシュタイン御姉様の頼みを断るわけありませんわ」
 エーデルシュタインの一声であっさりと決まってった。人間関係がいかに大事か、ということがよく分かる一幕である。
 カテリーナも決めたとなると、残るは――。
「……おい、みんなして俺を見るな」
 全員の視線がヴィンセントに集まっていた。ヴィンセントは何か言いたそうな顔でそれを見回していたが、観念したように頭を掻いて、
「……分かった、分かったよ。協力する。本当は展示物とかいろいろ見て回りたかったんだがなあ……」
 と、静かに言った。
「やりぃ! じゃあ、次はバンド名決めよう♪ あたし、候補をいくつか書いてきたんだ!」
「「「「「準備早いよ!」」」」」
 全員がまたツッコミを入れる。だがミルはそ知らぬ顔で携帯端末を取り出すと、その画面を何度か叩いて、空中に文字列を表示させた。
「……GST BAND、GAM PROJECT、フォイエボンバー……なんかどっかで聞いたことある名前ばっかだな」
 それを見たヴィンセントが、訝しげに言った。
「もっとシンプルなやつでいいだろ、"グラール・バンド"とか」
「それはストレート過ぎるでしょう。"グラール・サムライ"とかどうかしら」
 セルジュの声にエーデルシュタインが言う。だが皆は腕を組んで考え込んだような素振りのままである。
「"Famille Splendor"など如何かしら。"華麗なる一族"、という意味ですわ」
「それも悪くないが、ちょうどハロウィンの季節だし"La citrouille Band"とかどうだろう」
「ううむ……」
 だが、考え込んでしまい、全員押し黙ってしまった。
 たかがバンド名、されどバンド名。自分たちを象徴する名前なのだ、いい加減に決めるわけにはいかない。
「なんかこう、勢いのある名前がいいな。"グラール☆ぱにっく!"とか……」
「そういや、そんな名前のブログがあったな。覚えやすくて略しやすい名前がいいよな」
 呟くミルに、ヴィンセントが頷きながら答える。
「じゃあ、"限界突破"とか"超速"ってことで"オーバードライブ"とか……どう?」
「おお、それいい、超早そう!」
 ネージュが呟くのに、ミルが席を立って指差す。それから少し考えてから、指差した右手を天に向けてぐんと上げる。
「"グラール☆オーバードライブ!" 略して"グラ☆ドラ"! これでどうだっ?」
「おおー」
 なんだか勢いに押されてしまったセルジュが、思わず拍手してしまう。それを皮切りにネージュとエーデルシュタインもそれに続き、きょろきょろと見回してからカテリーナとヴィンセントも拍手し始めた。

こちらグラール学園! | 「よっし、学園祭で頑張ろっ! 今日からあたしたちはグラール☆オーバードライブだっ!」
「よっし、学園祭で頑張ろっ! 今日からあたしたちは"グラール☆オーバードライブ"だっ!」
 いつもの勢いで言うミルに、気づけば隣のテーブルの学生たちも思わず拍手をし始めてしまっていた。
 ……今日も星グラール学園は平和である。


「……」
 その人影は、パルムの高層ビルの屋上に立っていた。
 屋上には巨大なアンテナが設置されており、その影に隠れているためその姿はほとんど見えない。ただ言えるのは、とても小柄で細く子供のようだった……ということだけだった。
 その視線の数キロ先に見えるのは、惑星パルム西地区に存在する、同盟軍本部。
 同盟軍の本部は、GRM社の隣にある。敷地内に入る通路はGRM本社に併設された直営ショップの目の前にあり、西地区の大通りから繋がっていた。今はお昼をまわったばかりということもあり、かなりの人数がその近辺を行き来している。
「――目標、未確認」
 人影は小声で呟く。本来は高いソプラノボイスなのだろうが、電子音が混じって押し殺されたそれはどこか現実感が無い。
 それから、辺りをぐるりと見回す。その動きはどこかぎこちなく、まるでロボットダンスを連想させる。何度か周囲を見回してから、突然ぴたり、と動きを止めて、ぼそり、とまた呟く。
「――目標、確認」
 その瞳の先に見えるもの。

 それは、星グラール学園だった――。


 ――普段とは僅かに違う何気ない違和感が、妙に気にかかる時がある。
 エレナはニューデイズに家を持っており――グラール教の敬虔な信者で過保護な父が買い与えたものだ――そこでラファエルと共に住んでいて、身の回りの世話はラファエルに一任している。ラファエルはキャストであるにも関わらずグラール教の信者であり、その縁でエレナの父と出会って信頼され、エレナの世話役となったのだ。
 そんなわけでラファエルの生活を毎日見ているからこそ、エレナは些細なことが気になるのだ。
(……。)
 エレナはラファエルのために設けたキャスト用の簡易ガレージの掃除をしていて、それに気づき何気なく手に取った。何のことはない、キャストのボディを手入れするためのワックスの缶である。表面の細かな傷を取って、光沢を出す用途に使うものだ。
「これは……」
 GRM社のロゴが大きく入った缶。化粧品や服飾でのシェアが大きいスカイクラッド社と提携し共同開発されたもので、一般的なものよりも保護機能が優れ価格も五倍はする高級品だ。
(……?)
 ラファエルは、「どうせ任務ですぐ汚れる」と、ずっと標準的な品を使っていたはずで、ボディの手入れには無頓着な方だとエレナは思っていた。だから、考えても答えは出ず、首を傾げる。
 先月から例のハッカー追跡任務が始まって、忙しくなるためケア用品をいろいろ購入していたのは知っているが、
(――ワックスなどこのタイミングで必要なのでしょうか?)
 と、当然の結論に行き着く。エレナはますます分からなくなって、ため息をつきながらその缶を元に戻した。
「そういえば……」
 今日はたまたまオフであり、ラファエルは朝から出掛けていた。そういえばボディの光沢がいつもより増していたような気がする。
「……何かあるのかしら」
 エレナは呟いてから、壁にかかる時計に目をやった。時刻は午後二時、ラファエルが出掛けてから三時間ほど。日が暮れるにはまだ時間がある。
 だから、エレナは勢い良くガレージを飛び出した。


(……さあ、どうやって陥落すべきかしら)
 ヘレンはそんなことを考えながら、星グラール学園の校門を見つめていた。幸い学園の付近は整備された樹木が多数植えられており、身を隠すのに困ることはない。そこでヘレンは、ステルスモード――自分の周囲の空気密度だけを上げて光を屈折させ、いわゆる透明人間になれる――をとりながら、校門を見張っていた。
 彼女がここにいるのは、もちろんウォルターの指示。少しでも多くネージュの情報を集めるよう言われていたのだ。
(にしても、いい天気なワケ……)
 ふと木々の切れ間から覗く空を見上げながら、ヘレンはそんなことを考えていた。
 ヘレンの心を踊らせるのは、ウォルターの指示で外に出る機会が増えたこと。メセタカードは持たせてもらっていないのでできることこそ少なかったが、一般社会の知識をほとんど持たないヘレンにとってそれは問題にならない。太陽の下を歩くだけでも、飛ぶ鳥を見るだけでも、流れる雲を眺めるだけでも。充分に楽しいことだったのだ。
「……気を抜いている場合じゃないわね。私はより完全に近い存在になるためには、あの娘が必要……ただそれだけ……ってコト」
 かぶりを振りながら、ヘレンは一人ごちる。
 もうすぐ授業が終わり、生徒たちが帰宅し始める。そうなれば例の娘も姿を表すだろう。そこからが本番だ。
 ヘレンはゆっくりと息を吐くと、視線を学園へと戻した。


「ああ隊長、こちらにおられましたか」
「んあ」
 ジムがドアを開けながら言うのに、ヒューバートは適当に答えた。
 ここは同盟軍本部のヒューバートの自室で、彼はデスクのディスプレイに向かって、宙に映し出されるキーボードを慌ただしく叩いていた。
「調査結果をまとめてるんですか?」
「んあ」
 ジムが聞くのに、ヒューバートはまた適当に答える。それにジムは優しく息を吐くと、ソファに腰を下ろした。

 ……確かに、ここ一ヶ月ほどの間は慌ただしかった。

 同盟軍三十四遊撃部隊はウォルターの護衛を担当しているが、そもそもウォルターは外出の際にこちらにはまったく連絡してこない。
 結果として、本人たちに分からないように行動を監視するようになり、今現在もフレデリックとフィオナが護衛についている。そのためにはウォルターの公的な予定を事前に入手し、整理しておく必要があった。
 もうひとつは、ウォルター博士がいやにご執心な、ネージュとかいうビーストの少女の調査。
 いくら探しても、別に本人も家族も特別な経歴などない。ただの一般市民という情報しか出てこないので、ウォルターがそこまで執着する理由が見えないため調査も進まないのである。
 そんなわけで、あれからヒューバートは通常の雑務に加え、情報をまとめなければいけなくなっていたのだった。

「……よし、っと。これで一段落だ」
 不意に手を止めてヒューバートが言いながら席を立つ。くしゃくしゃの紙煙草をくわえながら、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「忙しそうですね」
「あぁ、単なる情報収集ならこれほど苦労しねぇんだがな。あいにく、今の俺らには信用できるモンが無いんでな」
 その言葉にジムもため息をつきながら深く頷いた。

 ……確かにそうだ。

 護衛対象のはずのウォルターは連絡も情報もよこさず、おまけに研究の関連で一般市民にご執心。どれも、積極的に行動するには情報が足りなさすぎる。
 身動きが取れれないからといって、作戦を放棄するわけにもいかない。なんとも面倒な状況だった。
「ガーディアンズには打診したんですか?」
「ああ、それはとっくに。ガーディアンズから星グラール学園にも連絡がいってる。たまたま向こうの担任がフレディと知り合いでな。会ってぶっちゃけ話をしたらすぐに手配してくれることになった。……っと、護衛の状況はどうだろうな。まったく、隊長ってのも面倒だ」
 ヒューバートが悪態をつきながら、耳元のアンテナに触れる。
『はいはーい、現場のフィオナだよ〜! ふくたいちょ〜もいるよ〜』
 アンテナ付近から、フィオナの声が聞こえる。通信内容を外部スピーカーで出力しているのだ。
「状況はどうだ?」
『うん、ハカセは本部にいるけど、ヘレンさんは出掛けちゃった。で、見失った』
「またかクソッタレ」
 フィオナの残念な報告に、ヒューバートは特に落胆するでもなく言う。ヘレンがステルスモードを搭載していたのは知っていたし、これまでも何度か見失うことがあったから、いちいち考えていても始まらない。
 フォトン感知に長けたニューマンならともかく、レーダーと電子的な視界しか持たないキャストにとって、ステルスモードを搭載した機体の追跡は決して楽だとは言えなかった。
「この時間ならまだ学園に生徒がいるだろうから、そっちじゃねぇか?」
『うん、そう思っていま星グラール学園に移動してるとこ〜』
「了解。頼んだぜ」
 言ってヒューバートは通信を切る。ざざっ、と短いノイズ音が走ってから、通信は切れた。
「……だそうだ。まあ、あいつらに期待しつつ、待つとするか」
 ヒューバートは立ち上がりながら、腕を上に伸ばして大きく伸びをする。それからジムに目線を向けて、
「しばらくはこっちにいれんのか?」
 と、聞いた。
「ええ、広報部もだいぶ落ち着きました、夏のイベントシーズンももう終わりましたから。月末から学園祭関連でいくつか仕事入ってきてますけどね」
「なるほど、忙しいな」
「まあ、草の根活動とはいえ、軍の作戦にゃ違いないですからね」
 言ってジムは微笑んでみせる。
「確かに総司令官サマも考えたもんだ。"オペレーション・パパガイ"――スポンサーになっているイベントで、同盟軍兵士から司会進行役を積極的に出すとはな。同盟軍は堅い奴ばかり、っつーイメージの払拭にかなり貢献してるだろ」
「そうですね。まあ悪いことばかりじゃないですよ、顔も広くなりますし。……あ、来週合コンやるんですけど隊長もちろん来ますよね? ガラカバナ花火大会で知り合った現役ガーディアンズで、いいおっぱいしてましたよ」
「GJ、お前は最高だ」
 ヒューバートはにやけながら馴れ馴れしくジムと肩を組む。そういうジムもにやにやといやらしい笑いを浮かべていた。
 ――まあ、当の本人たちが楽しそうなので、これはこれで良し、ということで……。

 

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