学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

19th universe サマーウォーーーーーーズ!(07)

「では、かんぱーい☆」
 私服に着替えたミルが楽しそうにグラスを掲げるのに、皆が答えた。
 やや陽も暮れ始めた頃、皆は海辺が見える近くのカフェに移動していた。打ち上げを兼ねてゆっくりと花火を見物しよう、というつもりである。
 カフェは砂浜に隣接していて、そこにもテーブルが用意されており、花火の見物客でごったがえしている。なんとかその一角に陣取っていたのだった。
「くうっ……全身が……ずきずきと痛みますわ……」
「あら、なるべく楽に終わらせるようにしたつもりなんだけど」
 カテリーナがまるでロボットのようにカクカクと不自然な動きでグラスを掲げると、エーデルシュタインはさらりと言ってのける。二人もいつもの私服に着替えていた。、カテリーナはボーダーのパーカにフリルを多様したフレアスカート、エーデルシュタインはゆったりとしたロングスカートという扮装である。
 ……ちなみに決勝戦の結果だが、「エーデルシュタインお姉様と戦うなんて!」と言ってためらっていたカテリーナを、エーデルシュタインが容赦なくフルボッコにして十秒で終わらせたことを、気になる方のために付け加えておく。
 その後、男子の大会を軽く観戦して現在に至っているというわけである。
「か〜っ、やっぱり夏の夜はビールだねぇ!」
「シェス先生……」
 喜んでジョッキのビールをあおるシェスを、ネージュがじとついた視線で見つめていた。
「ちぇ、いいなあ。俺も飲みてぇぜ」
「……一応先生がいるんだ、やめといた方が無難だと思う」
 それを見ながらセルジュが呟くと、ヴィンセントがいつものように冷静にツッコんだ。
 というわけで、総勢七名での花火見物が始まったのであった。
「お前たちもいたのか」
 不意に、そこへ太い男性の声が投げ掛けられた。
「あれ……フランチェスコ先生! どうしたんですか!?」
 見慣れた姿に、ネージュが声をあげた。すぐに席を立って、まるで追従支援機・マドゥーグが持ち主を見つけたかのように走り寄っていく。今日はいつもの物々しいコートではなく、Tシャツと短パンというラフな格好であった。
「いや、花火を見にね。娘がせがむから」
「……娘?」
 予想外の言葉に、ネージュは一瞬呆気にとられてしまう。視線を下に向けると、フランチェスコの大きな右手の人差し指を、小さな手がぎゅっと握っていた。
「娘のルイーザだ。ほらルイーザ、挨拶しろ」
「こんばんあ」
 フランチェスコが促すと、特に表情を変えるでもなくルイーザは舌ったらずに言う。この無愛想さは間違いなくフランチェスコの娘だと、一同は妙に納得してしまっていた。
 だが、外見はフランチェスコにはそれほど似ていない。ルイーザは黒髪の猫っ毛を胸ぐらいまで伸ばしており、白いワンピースを着ていた。ビーストらしい特徴のある鼻と口を愛らしくとがらせ、小さいがぱっちりとした瞳でミルたちを見つめていた。
「きゃあ! かぁっわい〜い!」
 食いついたのはミルだ。ばたばたと駆け寄って、しゃがみこんで顔を近づける。
「こんばんは、あたしはミル。よろしくねー!」
「よろしく」
 ミルは喜んでルイーザの左手を握って、ぶんぶんと軽く振って遊んでいる。だがルイーザはそれに動じることなく、いつもの視線で見つめていた。若い割に肝が座っているのか、それともどうでもいいのだろうか。
「まー、じゃあフランチェスコ先生も一緒に飲みましょうよ」
「シェス先生……確か今日は補導員として祭りを見回りに来ていたのでは……」
 フランチェスコが言うと、しんとなって全員の視線がシェスに集まる。だが、シェスは動じることなく、
「気のせいです」
 と、きっぱりと言う。
「ま、まあいいが……じゃあお言葉に甘えさせてもらうかな」
「あ、ルイーザちゃんの面倒、あたしが見ますからっ」
 フランチェスコをテーブルの方へ押してやりながら、ミルが嬉しそうに言う。いつの間にかちゃっかりルイーザを抱えているが、当のルイーザはやはり無反応である。
「うっひゃー、ほっぺがぷにぷにだ〜! ねぇねぇ、ネージュもこれ見てよ」
 ミルは隣にいるネージュの服の裾をぐいぐい引っ張ってやるが、あいにく反応がない。不思議そうに思って見上げると――。
「子持ち……そうよね、大人なんだし結婚ぐらい……」
 ネージュは両耳をへたりと垂れさせて、うつむきながら何やらぶつぶつと呟いていたのだった。半開きの目は虚ろで、まるで悪霊にでも取り憑かれたようである。
「? ネージュ?」
「はっ……あ、うん、ごめん! なっ、なんでもない!」
「おぅい……?」
 不意にテーブルまでダッシュし始めるネージュを、ミルは不思議そうな視線で見送ったのであった。

 ひゅ〜〜〜〜〜……どおおぉぉぉぉん。
 花火の音が響き渡る。空には大きな光が広がり、空気に溶けるように消えていく。それに見物客が大きな歓声をあげた。
「カーギヤ〜!」
「ターマヤ〜!」
 それに皆が掛け声をかける。これはグラールで花火が普及し始めた時期に最高の腕を持っていた「カギ・ヤ」「タマ・ヤ」という二人の職人の名前に由来するものだ。
「ああー……この美しい光景をルツ様と一緒に見れたらもう死んでもいいのになあ……」
「……浅はかな妄想が口からだだ漏れておりますわよ」
 シェスがほろ酔いで頬を赤く染めながら言うのに、カテリーナが怪訝そうに言った。それにエーデルシュタインとセルジュも大きく頷く。
「何言ってるのよ、あのルツ様と二人っきりよ!? こう、二人寄り添いながら空を見上げてるわけ、そしたらルツ様の手が私の肩を抱いて、『花火より、あなたの方がきれいですよ』とか言っちゃうわけよ! きゃあぁぁん、もう死んでもいい!」
 身振り手振りを交えて一人で盛り上がるシェスに、カテリーナとエーデルシュタイン、それにセルジュが冷たい視線を浴びせる。内心「死ねばいいのに……」とツッコんでいたのは内緒である。
「まあこんなおかしな人は放っておきましょう……それよりエーデルシュタインお姉様にお聞きしたいことがあるのですが」
「え? どうしたのよ急に」
 カテリーナが不意に聞くのに、エーデルシュタインは答えながら首をかしげる。
「ひとつだけ教えてください。何故わたくしは、エーデルシュタインお姉様に負けたのです?」
 カテリーナがいつになく真剣な表情で言うと、エーデルシュタインは視線を上にあげて、腕を組む。それからいつもの冷静な口調で、
「ええと、技量的には申し分ないと思うわ。もし最初からあなたが本気だったら、私も危なかったと思う」
 と、静かに言った。
「それじゃあ、何故!」
 掴みかかりそうな勢いでカテリーナが立ち上がる。

 ……そう、戦いに必要なのは技量だけじゃない。
 実際エーデルシュタインもセルジュから剣を借りて勝ったのだ。そういった友がいて支えられる部分もあることを、彼女自身も分かり始めていた。
 そこで、ふと視界の端をミルが横切ってゆくのにエーデルシュタインは気づく。
「……戦いというものは、一人でするものじゃないわ。実際、私も借りた剣を使ったりしたし。ね?」
 エーデルシュタインが振り向いてセルジュに同意を求めると、
「んあ? まあそうだな」
 と、花火に夢中だったセルジュは適当に答える。
「そういうことよ。――自分一人で戦ってると思わないこと。――そうね、こんないい友達を作ればいいんじゃないかしら?」
 言って、エーデルシュタインは左に座るセルジュの肩をいきなり掴み、右手でそこを歩いていたミルの腕を掴んで引き寄せる。ミルはバランスを崩してエーデルシュタインに胸から寄りかかる形になり、セルジュも不自然な角度で頭から寄りかかってしまう。
「うにゃぁ!?」
「おい、なんだ!?」
「……」
 それにカテリーナはすっかり黙りこんで、うつむいてしまった。
「だから、ミルとも仲直りして。ケンカするのはいいけど、それは友達同士の信頼関係があるから。だから」
 言って、エーデルシュタインはミルの右手を掴んでカテリーナに差し出す。カテリーナは少しためらっていたが、目をきゅっと閉じてうつむいたままで右手を差し出し、
「しょ、しょうがありませんわ、エーデルシュタインお姉様がそう言うのであれば。下賎の娘とも、仲良くしてあげてもよろしくてよ」
 と、頬を赤らめながら言うのだった。
「よくわかんないけど、とにかくよろしくね、カテりん!」
 状況が分からないままのミルはカテリーナの手をぎゅっと握って、大袈裟にぶんぶんと上下に振る。いつもの笑顔にカテリーナは戸惑いながらも、つられてつい微笑んでしまっていた。
「で、エーデルせんぱぁい、あたし話が見えてないんですけどぉ」
「いいのよ、ミルはそのまんまで」
 不思議そうに聞くミルに、エーデルシュタインは微笑みを返す。なんだかよく分からないまま、ミルも微笑み返した。
「あの、ところでせんぱい。それ、そのままでいいんですか?」
「え?」
 ミルが指差すのに、エーデルシュタインは不思議そうに自分の胸元を見下ろす。そこには、急に引き寄せられてバランスを崩したセルジュが、エーデルシュタインの胸に顔からつっこんでいたのであった。
「!」
「おいおい大胆だな……まぁ、そういうのも嫌いじゃないぜ?」
 セルジュは恍惚そうな表情を浮かべて、エーデルシュタインの胸に頬擦りをしている。それにエーデルシュタインはわなわなと震えながら、拳をぐっと握りしめる。
「な、な、な、何してるのよっ!」
 エーデルシュタインは声を荒げながら言って、拳を振り上げる。
 鈍い打撃音とセルジュの悲鳴は、花火にかき消されていった……。


「すごーい……」
 空を彩る花火を見上げながら、ネージュが呟いた。どこか呆けたような、感動した表情で。
「ああ、素晴らしいな」

こちらグラール学園! | 視線は花火に奪われており、完全に見入っているようだった。
 隣に座るフランチェスコが、相変わらず無愛想な声で言う。だが視線は花火に奪われており、完全に見入っているようだった。ルイーザもその腕の中で、驚いた顔でずっと空を見上げている。
「この一瞬の儚さが、花火の一番の魅力だな」
「うふっ、先生、まるで詩人みたい」
「ああ、これでも語学が専門だからな。文章を書くのは好きだ」
 少し微笑みながらフランチェスコが言うと、ネージュもそれに微笑み返す。
(やっぱり可愛いなあ♪)
 その微笑みに、ネージュは胸いっぱいになってしまっていた。思わず顔がほころんで、まるで支えがなくなったかのように緩んでくる。危うくよだれが垂れそうになって、ネージュはそこでやっと我に返った。
「あ……もしかして、だからルイーザちゃん? 小説家のルイーザ・バッジオから……」
 そのネージュの言葉に、フランチェスコは予想外のリアクションをする。
「あっはっは……!」
 なんと、フランチェスコは不意に、何が楽しいのか大笑いをし始めたのだ。
「え? わ、私、なんかおかしいこと言いました……?」
「ははは……いやぁ、すまんすまん。違うんだ、実は逆なんだ」
「逆……?」
 ネージュは目をぱちくりとさせて、その言葉の意味が分からず復唱する。それから首を傾げながら、恐る恐る口を開く。
「逆、ということは……ルイーザ・バッジオの名前がルイーザちゃんから取ってるってこと……?」
「ああ。……学校には内緒にしておいてくれ」
 フランチェスコはそこで言葉を止め、ゆっくりと息を吸う。それから、いつもの口調で続けた。

「ルイーザ・バッジオというのは、俺が作品を発表する時のペンネームなんだ」

「ふ……ぅうえぇぇっ!?」
 ネージュは思わず立ち上がって、素っ頓狂な声をあげる。幸い花火がその奇声をかき消してくれた。
「ちょうど、この子が生まれた頃、趣味で書いていた作品を気に入ってくれた編集者がいてね。それでまあ、デビューすることが決まってな。学校にバレないようにと考えるうちに、女性名で発表した方がいいんじゃないか、ってことになってね」
 ネージュの頭の中をぐるんぐるんといろいろな思いが巡る。それを知ってか知らずか、フランチェスコは静かに続けた。
「だから、ネージュが俺の本を持っていた時は驚いたよ、あっはっは」
 だがその声を聞いているのかいないのか、ネージュは放心状態で耳をぺったりと垂れさせ、視線は一体どこを見ているのかさえ、分からないような状況だった。
「お陰様で映画も二作目が今月公開だ。良ければチケットぐらい用意するぞ、作者特権で。……って、聞いてるか?」
 ネージュがあまりに固まったままなので、フランチェスコがその肩を揺する。そこでやっとネージュは我に返って、
「ぁう……はっ! あ、はい、うん、大丈夫です」
 と、怪しい返事を返すのだった。
「ならいいが。チケットは何枚でもいい、友達と見に行くなら必要な数だけ用意する」
「あ、はい、ありがとうございます。……じゃあ、ミルの分と……ふあぅぁっ!」
 そこで、ネージュはあることに気づいた。その考えが自分にしては突拍子もないものだったので、またも怪しい声をあげてしまう。それにフランチェスコは慣れてきたのか、驚きもせず見守っていた。

(これ……映画に誘うチャンス……!?)

 ネージュがまた奇声をあげて固まってしまったので、フランチェスコは不思議に見ながら元に戻るのを待つ。やがてネージュはぴこん、と耳を跳ね上げながら目を見開いたと思うと、ぐっと拳を握りしめて頬を赤らめながら、
「あ、あの、せっかくですから、先生も一緒に行きません……?」
 と、どもりながら詰め寄った。
「あ、そのっ! 変な意味じゃなく! ミルも一緒ですし、ルイーザちゃんにも見て欲しいというか! その、せっかくですからみんなで行った方が楽しいから!」
 その勢いにフランチェスコは唖然としていたが、我に返って優しく微笑むと、
「……それもそうだな」
 と、優しく答えたのだった。その言葉にネージュはぱあぁぁっと明るい顔になって両手を祈るように重ねる。
(ありがとう星霊さんっ! 本当にありがとう!)
 ネージュはグラール教信者でもないくせに、都合の良いものである。
「まあ、あれだ。とにかく学園には内緒でな。バイトをしていることも生徒たちと出掛けることも、ばれるとまずい」
「は、はいっ、もちろんです!」
「分かった。……まあ、今は花火を楽しもう」
 やけに元気のいいネージュを不思議そうに見ながらも、フランチェスコは空を促す。今のネージュには、花火の明るさが数倍に見えたに違いない。
 余談であるが、ルイーザはネージュのおかしな動きを特に興味深そうに見つめていたことを付け加えておく。


「その……昼間はすまなかった」
 花火が良く見えるポイントを探して、マイペースに一人でうろうろしているミルに、不意に声がかけられた。ヴィンセントである。
 どこか挙動不審でためらいがちな声は、彼にしてはとても珍しかった。
 だがミルはいつもの調子で、
「え? 何が?」
 と、あっけらかんと答えるのだった。
「……あ、いや、水着コンテストの話」
「ああ、うん、あたしこそごめん。たかだか後輩の水着なんて、よくよく考えれば普通はあんまり見ないもんだよねぇ」
 ミルはいつもの笑顔でさらりと言うが、それにヴィンセントはちょっと困った顔をする。無意識的にプレッシャーを与えているのに、本人はまったく気づいていないのだろう。
「あ、あそこ花火がよく見えるかも。ヴィニーもおいでよ」
 ミルはそんなヴィンセントの様子を気にせず、砂浜の端へ駆け出したと思うとヴィンセントを手招きする。ヴィンセントはそれに従って、素直に歩き出した。
「いや、なんというか。元々あんまり女性は見てないところがあってね」
 砂浜に座るミルの隣に腰を下ろしながら、ヴィンセントは言う。だがミルは驚いた顔で振り向くと、
「え、もしかしてヴィニーって女の子にキョーミないの? 腐男子ってやつ? セルジュとデキちゃってたりする?」
 と、冗談めかして言うのだった。
「違う! セルジュだってそういう趣味がないのは見れば分かるだろ」
「うん、分かってるよ、あはははっ」
 ミルがけらけら笑いながら、ヴィンセントの背中をばしばしと叩く。それにヴィンセントは、ばつが悪そうに苦笑した。

(あー……なんというか、調子狂う)
 ヴィンセントは、どうにもやりにくい、まるで霞の中を歩いているかのような感覚を覚えていた。
 ミルは、今まで会ったいろんな女性とはどこか違う。分かりやすく言ってしまうと、“ペースを崩される“のだ。
 ヴィンセントはいつも自分のペース、もっと言えば自分の世界を持っている。その中では冷静さを保てるのだが、その反面そこから出るとアドリブがきかない。いつも、気づくとミルのペースに持っていかれてしまっているのだった。
 特に、ミルに興味を持っていることを自覚してしまったから、なおさらやりにくさはつのるばかりだ。

(あは……面白いなっ)
 かくいうミルも、最近はヴィンセントの扱いに慣れてきていた。
 最初はとっつきにくさのあったヴィンセントだが、彼は自分の距離感を守りたいがためにコミュニケーションが片寄ってしまうということをミルは体感的に理解していたのだ。だからこそ、自分のペースに持ち込むとヴィンセントは途端に動揺する。
 まあ一言で言ってしまえば、“からかうと面白い“ということに気づいたのであった。

「じゃあさ、なおさら女の子の水着もちゃんと見ないと。誤解されちゃうよ?」
「ああ、確かにそうだな。次の機会にはちゃんと見ておくようにするよ」
「……じゃあ、今見せてあげよっか?」
 ミルがイタズラを思い付いた小悪魔のように微笑みながら、自分のスカートに手をかけた。ヴィンセントはそれにぎょっとした顔を上げて、目を丸くしてミルを見つめる。経験上、おそらくロクなことにならないであろうことは想像がついたからだ。
「お、おい――!」
「いいのいいの、水着だから。――ほらっ♪」
 明らかに動揺するヴィンセントの方に膝を向けて、ミルは自分のスカートをちらり、とまくり上げる。思わずヴィンセントは照れながら顔を逸らした。
「おい、やめろ!」
「あはっ、全然見ていいよ? 武闘大会でも下に着てたの知ってるでしょ」
「それは知ってる。でも――あれだ、水着を着ているのを見るのはかまわんが、そういう状態で水着を見せられるのは、非常に照れる」
 ヴィンセントはもっともなことを言っているのだが、それは逆にミルのイタズラ心をくすぐるだけにすぎない。ヴィンセントがミルの瞳を見ていたら、一瞬きらり、と輝いたことに気づいたかもしれない。
「もう、遠慮しなくていいの、ちゃんと見て感想ちょーだい!」
 ミルは両手を伸ばすと、ぐい、とヴィンセントの頭を掴む。それから強引に引っ張って、そっぽを向くヴィンセントを振り向かせようとする。
「いてて、首が!」
 非力なニューマンとはいえ、両手で頭を捕まれ引っ張られるとさすがに厳しい。両手で砂浜にしがみつくヴィンセントだったが、砂でふんばりがきず――まるでひっこ抜かれるかのように、ミルの方へと引き寄せられてしまった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
 力一杯引っ張られていたので、勢い余ったヴィンセントはというと――。

 顔から、ミルの下腹部に突っ込んでしまい、太ももの上に乗った形となっていた。目の前には、ミルの水着のアンダー。頭にはスカートの裾が乗り、要するにスカートの中に頭を突っ込んだ体勢になっていたのであった。
こちらグラール学園! | 顔から、ミルの下腹部に突っ込んでしまい、太ももの上に乗った形となっていた。


「……」
「……」
 その光景に、二人は硬直した。事の原因であるはずのミルも、予想外の状況に動けなくなってしまっている。
 恐る恐る目を開くヴィンセントの視界には、昼間も見た白地にエメラルドグリーンのボーダーの入ったミルの水着が広がっている。夜の暗い中でもその柔らかそうな白い肌は透き通るようで、それを一枚の薄布が包み込んでいた。
(落ち着け俺、これは水着だ――! すぐに体を起こして、何もなかったかのように振る舞う、それしかない! ……ん?)
 ……と、ヴィンセントは思ったが。
 ふとした違和感に気づく。暗い中だからよく見えていないのだが、どうにも違和感を感じる。
(水着って、水を吸わない光沢のある素材で作るよな、普通……?)
 そう、目の前に広がるミルの水着は、ヴィンセントの目にはそう見えなかった。光沢があれば、わずかな光でももう少し輝くもののはず。
 だが、目の前に見えるそれは単なる薄布にしか見えない。光沢もないし細かな生地のしわも多く、肌の凹凸を普通に表している。
 そこで、ヴィンセントはひとつの結論を導き出す。

(ま、ま、まさか……!)

 ヴィンセントは慌ててがばっ、と飛び起きて、
「いったぁ……」
「おい、ミル!」
 やっと我に返るミルに、ヴィンセントは真顔で両肩を掴んで、真剣な口調で続けた。
「ほぇ……?」
 予想外のリアクションに、ミルがぽかんとした顔で答えた。
「あー、なんだ、その……非常に言いにくいことなんだが」
「……?」
 いやに真面目な顔でヴィンセントが言うので、ミルは勢いに押されて少し後ずさろうとしてしまう。
「……それ、本当に水着か?」
 ミルがその言葉の意味が解るまで、たっぷり五秒はぽかんとしたまま、時間が止まった。
 それから我に返ったように、肩を掴むヴィンセントの腕を振り払って、座ったままで体をぐるんと後ろに向ける。
 そして、自分のスカートをそっ〜とめくって覗き込んで……。

「……。」

 わなわなと体が震え始めて、ゆっくりとヴィンセントの方を振り向く……。

「ヴィンセントの……えっちぃっ! ばかあっ!」
「俺じゃない、無理矢理引っ張ったのはミルだろ! というか、着替えたことを忘れるんじゃない!」
「うわぁぁん! またぱんつ見られたー!」
 ミルは両手を顔に当てながら、大袈裟に泣き出す――泣き真似ではあったが。ヴィンセントはそれに思わずぶっ、と吹き出してしまう。
「ぶはっ、ちょっと待て! 前回も今回も、悪いのは俺じゃない!」

(――そうだ、前の実地研修でもこんなことがあった。なんでまあ、毎回毎回こんなことが起こるんだ……)

 そんなミルを見ながら、ヴィンセントはふと昼間のことを思い出していた。

(どこか拗ねたような表情、それに俺はミルのいろいろな面を見たいと思った自分に気づいたんだ――)

 いつも笑っているミルも、先程までのイタズラな表情も、泣き真似をしているところも武闘大会での戦いの様子も。

 全てが、俺の心をくすぐる。
 もっといろいろな一面を見たいと顔をもたげる。

「……そうだな」
「?」
 ヴィンセントは、思わずミルの顔をまじまじと見つめてしまっていた。その視線に気づいて、ミルが不思議そうに見つめ返す。泣き真似をやめながら、小首を傾げてみせた。
「最近さ、ミルのいろんな一面を見るようになって、もっといろんな面を見たいと思うようになったんだよな」
 ヴィンセントが少し照れながら、素直な思いを静かに言う。ミルはそれに呆気にとられた顔をして、
「それって……ぱんつ以外も見たいってこと……?」
 と、相変わらずズレたことを言ってヴィンセントを苦笑させる。
「違う。昼間は気分の悪い思いをさせて悪かった。でも、知らない一面を見せてくれたことには感謝してる。これからも、お互いのことをいろいろと知って、いい友達でいてくれ。そして、俺にいろいろな自分を見せて欲しい」
 ヴィンセントの静かな告白に、ミルは唖然としたままで差し出された手を見つめている。言葉の意味は理解できないようだが、ヴィンセントの素直な気持ちは伝わった、という所だ。
「よく分からないけど……“これからもよろしく“ってこと?」
「――ああ、そういうことだ」
 ここでミルはやっとヴィンセントの言いたいことに納得したらしい。差し出された手を握り返すと、いつものようにまた微笑んだ。
(……潤んだ目だと、可愛く見えるから不思議だ)
 ヴィンセントは冷静にそんな感想を抱きながら、ミルの手をしっかりと握る。柔らかい手の感触が伝わってきて、それにヴィンセントはまたミルの新しいことを発見した気分になるのだ。
 そう、見るだけじゃない。

 ――“触れる“ことはとても大事だということを、俺はよく知っているはずなのに。

「こちらこそよろしくね、ヴィニー」
 ミルはそれを知ってか知らないでか、微笑みながら言う。それにヴィンセントも微笑みを返すのだった。
「――でもね……もうぱんつは見せないからね……?」
「……見たくて見てるんじゃなくて、毎回お前が勝手に見せてるだけだろ……」
 相変わらずなミルにヴィンセントはがっくりと肩を落として、疲れきったような声で言うのだった――。

 

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