学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

18th universe サマーウォーーーーーーズ!(06)

 ――大丈夫。

 勝敗を決めるのは、自分を信じるか信じないかの究極の選択。
 重要なのはどちらを選ぶかだ。

 だとすれば――迷いはない。

「……負けを認めるのは、あなたの方でしょう。あなたの動きはもう見切っているわ」
 エーデルシュタインは少し腰を落としながら、左手の剣先をリコにつきつけながら言う。右手は肘を軽く曲げて、胸の横へと持って来る。
「口ではなんとでも言える――やってごらんよ!」
 リコが飛んだ。すぐにチャクラムを放つ。エーデルシュタインはそれに動じることなく、左手の剣で体を守る。ひとつは剣で弾かれ、もうひとつは軽くホップして髪をかすめて飛んでいく。
 だが、エーデルシュタインの視線はリコを捉えたまま。微動だにせず、ただまっすぐに、貫くように見ているだけ。

(――私には、剣しかない。それを貫き通すのみ……)

 リコのダガーが襲う。
 逆手に持たれた刃が、まるで肉食獣の牙のように突き立てられる――。

「……行動がワンパターンすぎるのよ」

 エーデルシュタインは呟きながら、後ろへ大きく飛んだ。リコは両手に伝わるはずだった感触が無いことに戸惑いながら、着地する。そして、エーデルシュタインは大きく屈んだ体勢から、地面を蹴って雷のように飛び出した。
「!」
 エーデルシュタインは、右手の剣で大きく左へと薙ぐ。脛を斬りつけられ、リコがぐらりと体勢を崩す。
 左へ振った勢いを、左足で踏ん張って止める。それから今度は左の刃を右へと振って、脇腹から肩へと斬りつける。

「――私は誰にも負けない、それが私の生き方だから……"ζ(ゼータ)カトラス"!」

 今度は右足を踏ん張って、左へ勢いを振る。右手の剣を大きく振って、その顔面を一文字に薙いだ。衝撃でリコの赤い眼鏡が宙を舞う。

 ――ここまで、ほんの一瞬。

 観客だけでなく、リコも何が起こったのか気づかなかった。

 エーデルシュタインの姿が一瞬で突進したかと思うと、リコが動きを止めた……その程度の認識しかできなかった。

こちらグラール学園! | フォトンブレードの起動が残す、大きく描かれたΖの文字。
 フォトンブレードの軌道が残す、大きく描かれた"Ζ"の文字。
 それが何を意味するのか、分かった者はほんの一部の手練の者だけだった。

「――っ!」
 吹き飛んだ眼鏡が、からん、と地面に落ちた。それとほぼ同時に、リコはがくりと膝をつく。
 それから、スローモーションのようにゆっくりと――前に突っ伏した。

「しょ、勝負あり! エーデルシュタイン=アンシュラーク!」

 ジムの声に、やっと会場に時間の流れが戻ってくる。
 観客たちも我に返ったように、盛大な拍手を送る。
 その喝采に、エーデルシュタインはやっとこちらの世界に帰ってきたように。ゆっくりを顔を上げて。湧き上がる観客たちをゆっくりと見渡してから。
 安心したような、それでいて満足感が漏れる様にも似た、小さな吐息を静かに吐いた。
「大丈夫ですか、エーデルシュタイン御姉様!」
「エーデルせんぱい! 大丈夫ですか!?」
 ステージの裾へ戻るエーデルシュタインに、カテリーナとミルが飛び出してくる。だがエーデルシュタインはそれを気にすることなく、
「ええ、全然たいしたことないわ」
 と、けろりと言うのだった。確かに制服はぼろぼろになってはいるが、幸い浅い傷ばかりであるようだ。
「攻撃を見切りながらパターンを見ていたのよ。あれだけ早いと、一撃で決めないとこちらが危ないから」
「さすがは御姉様……一方的にやられていたわけではないのですね」
「さすがはエーデルせんぱい……話が難しすぎる……」
 エーデルシュタインは違う意味で唖然とする二人に小さくため息をつきながら、
「それより、次はあんたたちなのよ。準備できてるの?」
 と、あきれたような声で言う。それにミルとカテリーナは顔を見合わせると、不自然な微笑みで首をかしげた。
「それでは準決勝第二試合! ミル=ウジェーヌ対カテリーナ・アンドレエヴナ・グロムシキナ!」
 ジムの声に客席がわっと湧いて、拍手が起こる。
「……さ、頑張ってね。私は着替えてくるわ」
 エーデルシュタインは完全に他人事という様子で、手をひらひらと振りながら、ステージを降りてゆく。
「……そうね。わたくしはこの下賎の娘をどうやって倒すか……それだけを考えていればいいのですわ」
「えー、そんなにムキになんないでしよ、友達でしょ?」
「失礼な! わたくしはグロムシキナ家が長女、そのわたくしが下賎の娘と交友を持つはずなどございません! その言葉、我が家系に対する愚弄と受け取りますわ!」
 カテリーナはずかずかと大きく足を踏み鳴らしながら、ステージの中央へと向かってゆく。ミルはその背中を不思議そうな顔で見つめていた。
「? 何をあんなに怒ってるんだろ……ま、いっか」
「ミル! 無理しないでね、怪我しないようにね」
 ネージュがミルの手を掴んで、真剣な目で言う。ミルはそれに大きく頷くと、
「うん、あたしはあたしのできることをするだけ」
 と、いつものように微笑んでから、ステージへと向けて駆け出した。
「それでは、準決勝第二試合、ミル=ウジェーヌ対カテリーナ・アンドレエヴナ・グロムシキナ! 準備はいいですか?」
 ステージの上で向き合った二人に、ジムが高らかに口上を述べる。カテリーナは緊張した顔つきで、目の前に立つミルを睨みつける。
「あなたはただのフォース。比べてわたくしはハンターとしてもフォースとしても完璧……勝負の結果は決まりきっておりますわ」
「あはっ、そうかもしれないけど、やるからには一生懸命やってみる」
 ミルはそれを気にすることなく、いつもの笑顔で明るく言う。闘志剥き出しのカテリーナとは対極的で、それが二人の個性を明らかにしていた。
「これで勝った方がエーデルシュタイン御姉様と仲良くできる……いいですか、負けたら二度とエーデルシュタイン御姉様に近づくことは許しませんわ」
「もう、カテりんったらまたそんな難しいこと言って〜」
「だから、わたくしは下賎の娘と交友を持つつもりはないと言っているでしょう! というか、"カテりん"などと気安く呼ばないで頂きたいですわッ!」
 開始の合図を待たずに、カテリーナは杖を取り出して構える。今にも飛び出しそうな勢いが溢れていた。
「まったくもう、なんでそんなムキになってるんだろ……。まあいいや、あたしはあたしらしく頑張ろっと!」
 それに倣って、ミルもロッドを取り出す。くるくると頭上で回転させてから、眼前に構えた。
「それでは、準決勝第二試合……はじめ!」
 ジムの声と同時に、カテリーナは飛び出した。まずは杖頭を右上から振り下ろす。ミルは杖を回転させてそれを弾く。
 カテリーナはそのまま中心を軸に回転させ、今度は柄頭を上へと振り上げる。これもミルは杖で軽く弾いてみせた。
「さあ、すぐに追い込んで差し上げますわよッ!」
 カテリーナの連撃が始まる。上下左右から杖が襲いかかり、ミルはそれを受け流すだけで精一杯だ。
(ネージュに比べたら一撃は軽い……けど速いなあ……)
 そうだ、テクニックを放つには集中する時間が欲しい。この連撃の中では難しい。
「まあいいや……撃ってみよ。燃えちゃえ――フォイエっ!」
「!?」
 回避行動中であるにも関わらず、いきなりの詠唱。ミルの杖先は上に向けられていたこともあり、拳大の炎はぽぉん、と斜め上のあさっての方向へ飛んでゆく。
「ありゃ、やっぱまっすぐ飛ばすのは無理かぁ」
「そんな状況で撃つ方がおかしいですわ! テクニックはこうやって放つものッ――闇の鎮魂歌(レクイエム)を、罪深き者に……メギド!」
 カテリーナは杖を握った両手をぐんと突き出して、詠唱を行う。目の前に闇の塊ができたかと思うと、ゆっくりとミル目掛けて飛び出した。
「!」
 距離は目の前、回避行動を取る暇などない。咄嗟に顔の前で腕をクロスさせ、杖をかざすのが精一杯だ。そこへ闇の塊がゆっくりとぶつかって通り抜けてゆく――。
「なにこれ――! 力が吸われる……!?」
 塊が触れた腕の皮膚が、ちりちりと痛む。まるで薬品でもかぶってしまい毛穴の奥から痛むような、そんな感覚。それが緩やかに、体の中を通り抜けてゆく。
「をーっほっほ! このテクニックは触れる生命体の生命力を全て奪う! ニューマンの生命力など、すぐに全て食らい尽くしてしまいますわ!」
 闇の塊がミルの体を通り抜け、背中から姿を現す。それからヴン、とぶれると、そのまま空気に溶けるように消えてしまった。
「く……」
 ミルは全身を貫く倦怠感に、思わず声を漏らした。メギドの闇の塊は全てを吸い尽くしてしまう――はずだった。

(……あれ?)

「さあ、あなたの体力はもう限界のはず! 早く負けを認めなさいな!」
「あれ、そんなに辛くない……こんだけ?」
「!?」
 カテリーナは、不思議そうに言うミルに思わず目を見開いてしまった。
 先ほどの戦いでも見た通り、この闇の塊は人の生命力を奪い尽くす。食らえばそうそう耐えられるものではないはず――。
 だが、ミルは当の本人も不思議そうな表情で、頭上にハテナマークを浮かべながら自分の胸元や腹などを触っていたりする。
「何故? テクニックが失敗……いえ、完璧なわたくしが失敗などするはずがありません。では……?」
 カテリーナはすっかり考え込んでしまっていた。テクニックが失敗していない以上、他の外的要因が何かあるはず。
 シールドラインに防がれた? それは無い、シールドラインは最低限の出力しか出していない。
 何らかの防御効果のある装備をしている? それも無い、拡張ユニットによる機能拡張は取り付けるシールドラインの能力に依存する。この下賎の娘が着けているシールドラインはどこにでも手に入る低いグレードのもので、それほど効果のあるユニットを装備できるはずがない。

(……ならば、考えられるのは)

 ――この娘本人の、体質。

 ヒトに様々な体質があるように、テクニックの耐性に関しても個人差がある。特にフォトンの扱いに長けたニューマンだ、テクニックへ対する耐性は他の種族に比べて高いはずだ。
「どちらにせよ――」
 カテリーナは左右にかぶりを振って、もう一度杖を構え直した。
「テクニックが効かないのであれば、肉弾戦を行うのみですわッ!」
「ちょっ!?」
 ミルは、いきなり飛び込んできたカテリーナに咄嗟に構え直した。右から左への連続攻撃を、杖を構えてなんとかいなす。いなしたと思えば、的確に顔面を狙った突き。ミルは上体を後ろに逸らしてかわし、そのまま両手をついてバク転でかわす。スカートの裾が大きく広がりアンダーパンツ代わりの水着が見えて、観客は違う意味での歓声をあげた。
「ネズミのようにちょこまかと!」
 カテリーナは距離を離させない。大きく前に飛んで、その勢いで杖を降り下ろす。ミルは咄嗟に横に転がり、それをかわす。杖が地面を叩く音が響き渡る。
「爆発しちゃえ――ラ・フォイエっ!」
「!」
 横に転がりながらも、ミルは杖を振りかざす。彼女の周囲に炎の壁が起こり、カテリーナは反射的に後ろへ飛び退く。
「燃えちゃえ――フォイエっ!」
 その隙をミルは逃さない。起き上がりながら杖を突き出し、炎の塊を飛ばす。咄嗟に杖を眼前で回転させ、それを叩き落とす。
(しまった――!)
「――いっけぇ、炎たち! "フー・ダルティフィス"!」
 カテリーナが気づいた時には、すでに遅かった。ミルの杖からは長く赤い火線を描きながら、数えきれないほどの炎の塊が飛び出し始める――。
「くぅ……!」
 カテリーナは杖を高速で回転させ、それをはじき落としてゆく。だがその膨大な数に押され始め、いくつかの塊が体を打つ。
「不本意ではありますが――仕方ありませんわ」
 ぼそりと呟くと、カテリーナは予想外の行動に出た。杖の回転をやめたかと思うと、杖頭をミルに向けて突き出したのだ。炎の塊が体を打ち、服と肌を焼いてゆく。シールドラインの防護を破り制服が焼けて、白い肌とピンクのチェック柄の下着が露出し始めていたが、カテリーナはそれに動じることなく瞳を閉じたまま。
「――氷よ、わたくしの敵へ死の輪舞(ロンド)を! ダム・バータ!」
「きゃあっ!?」
 ミルには、一瞬何が起こったのか分からなかった。足に冷たく鋭い痛みが走ったと思うと、衝撃で体が浮いた。
 足元から突き出す、三十センチほどの氷の刃。それはミルの足元から生えていたのだ。ソックスとシューズを切り裂いて、その皮膚に切り傷を残す。
「そうか――あれならばフォイエの弾幕など関係なく直接術者を攻撃できる――考えたわね」
 ステージの袖でそれを見ていたシェスが、驚きながらも納得した口調で呟いた。
(シェス先生……なんだかよくいるやられ役みたいになってます……)
 ネージュは内心そう思ったていたが、あえて何も言わないことにした――。
「そして、あなたができることはわたくしにもできる――それをお忘れではなくて? ――さあ、今宵は円舞(ワルツ)を躍り続けましょう、貴方が力尽きるまで……ラ・バータ!」
 カテリーナが言いながら杖をかざすと、ミルの胸元で小さな爆発が起こり、氷の結晶をばら巻いた。
「をほほほ――そうですわね、最大のフォトンを練り込めないのなら、連発すればいいのですわよね?」
 カテリーナが杖を突き出すたびに、ミルの体表でいくつもの爆発が起こる。腕、腰、足――爆発の衝撃が伝わるたびにミルは一歩ずつ後ずさり、表面には薄い氷の膜が残る。少しずつではあるが、その動きがどんどん制限されてゆく――。
「きゃああぁっ!」
 顎を突き上げられるように爆発が起こり、衝撃でミルは上体を後ろにはね飛ばされた。その勢いで大きくバランスを崩し、無様にステージの端へ倒れこむ。転倒の衝撃で、まるで霜柱を踏みしめた時のように、ぱきぽき、と氷が折れる軽い音が響いた。
「をほほ……なんともまあ、無様であられもないお姿。下賎の娘にはお似合いですわ」
 カテリーナは手を顎に添えて笑いながら、ミルを見下ろしながら高らかに笑う。
 ミルは慌てて自分の体を見下ろす。
 そう、転倒した衝撃で凍りついた衣服が砕けてしまっていたのだ。ソックスはあちこちぼろぼろで、袖も所々穴が空いており、左手に至っては肩からもげた布が手首の方へと垂れ下がってしまっている。スカートもほとんどが折れてちぎれてしまい、水着を隠しきるほどの長さと面積が無い。上半身も所々が砕けており、水着がほとんど露出してしまっていた。
 それに会場が違う意味で湧いて、カメラのフラッシュが包み込む。
「え……きゃああぁっ、何これ、ほとんど裸じゃん! ていうかママにどう言ったらいいの〜!」
こちらグラール学園! | 転倒した衝撃で凍りついた衣服が砕けてしまっていたのだ。

「あら恥ずかしい。素直に降参した方が良いのではなくて?」
 ミルが赤面しながら胸元を手で隠すのに、カテリーナはけらけらと馬鹿にして笑いながら、冷たい目線で見下ろした。
「負けないもん。ちゃんと下に水着着てるから恥ずかしくないし!」
 "根本的解決になってないけど、それがいいんです――"と、会場の心がひとつになった。
 つくづく戦闘以外での食いつきがいい観客たちである。
「まだまだ、あたしはまだやれるっ! ていうかカテりんの方が下着だから恥ずかしいじゃん!」
 ミルは立ち上がって杖をカテリーナに突きつける。それにカテリーナはわざとらしく両手を開いてため息をつくと、
「わたくしの下着はスカイクラッド社のデザイナーに作らせた特注品。むしろ見せることに価値がございますわ」
 その言葉に観客たちは、「もっとー!」「ぬげー!」と、すでに武闘とは関係の無いヤジを飛ばしている。緊張感はまるでなく、平和なものだ。
「にしても……さすがは下賎の娘、雑草のような生命力ですわね。さあ、次はどのような技を見せて頂けるのしら?」
「負けないもんっ!」
 言ってミルは、勢い良く足を出して杖を掲げる――が。

 ミルは、目に映る光景がおかしなことに気づいた。視界がぐるりと回転し、青い空が広がっている。

(……あっれぇ?)

 そのまま上へと視界は変わり、ステージの向こうに集まる観客たちが逆さまに見えたと思うと……激しい痛みが頭と首に走る。一体何が起こったのか、分からなかった。
 会場もしんと静まり返り、誰しもが目を見開いて見つめている。

「しょ、勝負あり! 勝者、カテリーナ・アンドレエヴナ・グロムシキナ!」

 ジムの声が響いても、誰も動こうとはしなかった。
(あれ、なんであたしが負け……?)
 ミルは状況がまったく分からない。逆さまになった視界が横に倒れて体に砂浜の感触が伝わってから、やっと自分が地面に倒れていたことに気づいた。首を起こしてみると、ステージの外に倒れている。
「え……リングアウトしてる……?」
「ぷぷっ……をーっほっほっほ! なんともまあ、滑稽すぎますわ!」
 そんなミルを指差して、カテリーナは腹を抱えて大笑い。それを、ミルはただぽかんとしたまま見つめていた。
「氷が溶けると水になるのをご存じないのですか? 足を滑らせてリングアウトなど……無様にも程がありますわ!」
 ……そう。ミルが踏み出した足は見事に水で滑り、その勢いで後ろへぶっ倒れたのだ。ステージの端だったこともありステージから転落し、おまけに頭から地面に突っ込んだ……というわけである。
「あっれぇ……?」
 ぽかんとしたままのミルを置いてきぼりにして、会場は拍手で勝者を称える。
「さあ、下賎の娘。これでエーデルシュタインお姉様に関わるのはやめて頂きますわよ!」
「……もう、カテりんは執念深いなあ」
 高らかに宣言するカテリーナをジト目で見つめながら、ミルは独り言のように呟く。
「をーっほっほ! 何事にも執着するからこそ、完璧を目指すことができるのですわ!」
「むー。……じゃあもういいや、好きにすればいいじゃん。カテりんと話すの面倒!」
「ちょっと!? 面倒とはなんです、面倒とは!」
 疲れた顔で控え室に向かうミルを、カテリーナは慌てて追いかけたのだった……。


「まったく、ジムが連絡をくれて助かったぜ」
 花火大会運営本部の応接の貧相なソファにどっかりと腰かけながら、ヒューバートはため息と共に言った。
「……まったくです・あれほど単独行動はしないように言っておいたのに」
「はかせはさ〜、フィオナのこといっつも邪険に扱うんだよね〜」
 その声に、フレデリックとフィオナも困った顔で同意する。
「でも隊長がすぐ動いてくれて助かりましたよ、あはは」
 向かいに座るジムはいつもの調子でそれに答えて、
「まあ、今のところは問題ないですから。私のレーダーにも妙な反応はないですし」
 と、穏やかに答えた。
「ばっかやろう、なんかあってからじゃ遅ぇだよ! ただでさえ軍内じゃ肩身が狭えっつーのに!」
 ヒューバートは紙煙草をくわえたまま、いつもの口調で怒鳴り散らす。それにフィオナが顔をしかめながら「うにゃぁ」と呟いて、大袈裟に耳を――いや、耳に相当する場所を、両手でふさいだ。
「……それに・"目標"はレーダーでは捕捉できないと聞いています。あまりアテにはできそうもありません」
「そういうことだ。こないだの映像も、解析しても特に有益な情報は得られなかったしな」
「……はい。全長百五十センチほどであること・女性型であること……その程度しか・分かりませんでした」
「結局自分の目とカンに頼るしかねぇんだな、これが。……ところでジム、なんか怪しい奴等を見かけたりは?」
 ヒューバートが聞くのにジムは腕を組んで、
「いえ、ステージ上から客席全域がを見渡していましたが、特に何も」
 と、両手を広げながら残念そうに答えた。
「フツーはこんだけ人いるとこには姿表さないもんだけどね。パルム市街での一件があるから油断しちゃだめだお」
 フィオナがいつになく真剣な目で言う。それに全員がゆっくりと頷いた。
 それからヒューバートは灰皿に煙草を押し付けてから、机に散乱していた写真を一枚手に取って、じっくり見ながら静かに口を開く。
「しかしまあ、紙の写真たあ古風だな。で……博士はこの娘さんの個人情報を入手して、一体どうするつもりなんだ?」
「実験に協力してもらうそうですが。詳しい話は教えてくれそうにない雰囲気でしたね」
 ヒューバートはジムに視線をやってから、また写真に戻してゆっくりと頷く。その手元をフレデリックとフィオナが覗き込んだ。
「きゃははっ、博士ってやっぱロリコンだね! そんなにぢょしこーせーが好きなのかあ〜?」
「……見る限り・特別なビーストだとは・思えません」
「ですねぇ。なんでそんなに執心してるのか……私にもさっぱり」
 全員が口々に感想を述べる。それにヒューバートも深く頷いて同意した。
「まあ、博士が何考えてるかは知らねぇが、この娘も一応警戒対象としとくか。ジム、この娘の個人情報を部隊で共有するよう手配しといてくれ」
「了解です、隊長」
「……あとはまあ、近辺を調査したら帰るか。めんどくせぇな」
 言ってヒューバートは、その写真をテーブルに放り捨てると、ひらり、ひらり、と揺れながら落ちる。

 ――その写真には、グラール学園の制服を着て、笑顔を見せる少女が映っている。
 正門から出たばかりで、友達と楽しそうに歩いている。
 目線はこちらに気づいていない様子で、どうやら隠し撮りされたものらしい。

 褐色の肌に、紫の髪の少女。

 そう、写っているのは――ネージュ。

 ネージュ=ブリュショルリーであった――。

 

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