学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

15th universe サマーウォーーーーーーズ!(03)

「エントリーナンバー、十二番! 若さ溢れる女子高生コンビの登場です。ニューデイズはオウザ市より来て頂きました、ミルちゃん&ネージュちゃん!」
 集まった観客たちは“女子高生コンビ“の辺りから大きな歓声を送り始め、二人が舞台の裾から姿を表した時にはマイクの声をかき消していた。
 二人はステージの中央に立って、集まった観客たちに一瞬唖然とした。激しいフラッシュが二人の姿を明るく照らし出し、視界に広がるのはヒトの山。一体何万人が見に来ているかなど、想像もできない。
「ひ、ひ、ひ、ヒトがまるでゴミのよう……。あうぅ……写真撮られてる……もう死にたい……」
 ネージュはぎこちない笑顔で、ネガティブ極まりない言葉を呟く。だが隣のミルはいつも通りかそれ以上の笑顔でぶんぶんと大きく手を振って、歓声に応えていた。
「ほら、ネージュも手を振って! サービスサービスぅ!」
 あまりに楽しそうなミルにつられて、ネージュもまた手を振り始める。だがやはり恥ずかしくて、控えめに少し手を振るのが精一杯。それが後に“清楚っぽくていい“という評価をもらうことになるのは、また別のお話。
「さて、お二人は星グラール学園のガーディアンズ科の生徒さんだそうですが。ええと、ネージュ=ブリュショルリーさん、身長176センチ、スリーサイズは上から98-62-97……いつも厳しいトレーニングを続けているのが、その溢れんばかりの素晴らしいおっぱいの秘訣ですか?」
 ジムがネージュにマイクを向けて、露骨なことを言う。それにネージュは胸の前で手を組んで隠しながら、むぅー、と唸りながら睨みつけた。
「怒った顔もいいですね。早く立派なガーディアンズになってください、私と二人っきりで任務に行きましょう」
 さすがは名司会、この状況をさらりとかわして、今度はミルにマイクを向ける。
「こちらは肉感的というより可愛い系ですね、たまらんです。ミル=ウジェーヌさん、身長158センチ、スリーサイズは上から84-58-85……犯罪ですね、この数字は」
 すでに進行というより自分の欲望を口にしているだけのような気もするが、逆に観客の心を鷲掴みにしている……のかもしれない。
「ありがと! でもあたし、もっと胸大きくなりたいんだよねー」
 ミルは自分の胸を両手で持ち上げながら、困ったような口調で呟く。ひときわ激しいフラッシュが瞬き、ステージを包んだ。
「うお! これは思わぬサービスショットォッ! 今度、私がおっぱいを大きくするいい方法を手取り足取り教えます!」
「はい!」
 いつも通りミルはよく分かっておらず、元気な返事を返す。それに観客がどよめいたが、ステージ上の三人は気にもしていなかった。
「さて、じゃあ最後に皆さんに向けてアピールとかしてもらえます?」
「はいっ!」
 言ってミルとネージュは、ナノトランサーからお手製の看板を取り出して掲げる。
「Cafe六月館はパルム西地区で営業中! 美味しいコーヒーが自慢なので、是非来てくださいね!」
「はい、これ終わったら一緒に行きましょう。それでは、どうもありがとうございましたー」
 盛大な拍手が響く中、二人は手を振りながら舞台の袖へと入って行ったのだった。
「うぅ……恥ずかしかったよぉ」
 入ってすぐ、ネージュはがっくりと壁に寄りかかって、大きく息を吐きながら呟いた。
「そう? なんかお祭りって感じで楽しかったけど」
「もうやだ……胸はじろじろ見られるし、すっごい下から写真いっぱい撮られるし……」
「あはは、確かに。でも、あんなに写真撮ってどうするんだろうね」

 ……それは深く考えない方が、皆が幸せになれることなのである。


「いやー、たまんねぇな、こりゃ」
 砂浜に適当に並べられた椅子に腰かけてウチ・ワでばたばたと仰ぎながら、セルジュは下品な笑みと共に言った。
「ああ、たまにはこういうのもいいな」
 ヴィンセントは手に持ったカメラをステージに向けながら、それに答える。
「おいおいヴィニー、そんな冷めたリアクションはやめようぜ。誰のおっぱいが良いとか、誰の尻がたまらんとか、もっといろいろあるだろ?」
「ああー……」
 ヴィンセントは答えながら考え込んでしまう。女性に興味が無いわけではないが、正直そこまでがつがつしていない。自分の生活に必要とはあまり思っていないのである。
「俺、あまり胸や尻は見ないな。まずは足を見て、それから腰。最後にうなじを見る」
「……分からん。相変わらずマニアックだな」
「お前がストレートすぎるんだ。まあ、正直外見はあまり見てないのかもしれないな」
 言ってヴィンセントは小さく息を吐く。今更ではあるが、異性の外見は思ったより見てないものだな、と本人もやっと自覚したのである。
 健全な一男子として、セルジュの気持ちも分かるしそれを別に否定もしない。ただ、それを自分が行動にするかどうかは別問題――そう考えていたのだった。
「ま、いいからちゃんと撮影しといてくれよ、俺のために。――おおっ、これはまた――すげぇ」
 セルジュはとっくにヴィンセントではなくステージに視線を移していて、つられてヴィンセントもそちらにカメラを向ける。ステージ上ではすでにミルとネージュの数人後の参加者が立っていて、観客を大いに沸かせていた。
「えっと、その、こんにちは。エレナ・セラと申します」
 辿々しく挨拶するその姿に、観客は心を鷲掴みにされてしまっていた。
 それも当然で、エレナは白いビキニに身を包み、清純な雰囲気を醸し出していた。大きなバストは標準サイズのブラトップでは完全に包み込むことができずアンダーバストがこぼれ、無理矢理詰め込んだせいか深い谷間ができてしまっている。パンツも深いハイレグが食い込んでおり、かろうじて豊満なヒップを包み込んでいる……いや、ほとんどTバックのような状態になっていた。
「ちょ、これはすごい。色気がだだ漏れている……身長168センチ、スリーサイズは上から100-61-98……もう死んでもいい」
 ジムも混乱しているのか、すでに司会らしい発言はどこかに行ってしまっていた。いや、最初から暴走していた気もするけれども。
「と、とりあえず、自己紹介やアピールをお願いします」
「はい。……私は、グラール教団と星霊のお導きの元、ガーディアンズとして活動しています。様々な人を護るのが使命だと考えています」
「ああ、いいねえ、私もそのおっぱいに包み込まれて護られたいです」
 すでにジムはいつも以上に欲望を垂れ流すためだけの存在ではあるが、観客はそれを気にもしない。理由は簡単で、ステージ上で恥ずかしそうにもじもじと身をよじりながら赤面して話すエレナに、視線を完全に奪われてしまっていたからだ。
「ええと、その……すいません、もう戻っていいですか?」
「え? まだカメラマンたちが満足のいく写真を撮れてないと思うんですけど、どうしてです?」
 だが、エレナは今のヒートアップした会場の状況を気にせず弱気なことを言う。それにジムはさらりと自分都合で答えた。
「えっと、この水着、サイズがちょっと小さいんです。そのせいか、動くたびにごしごしこすれて……痛いんです」
「……」
 これにはさすがのジムも無言になった。もちろん会場もしんと静まりかえって、不自然なほどに静かな時間が場を支配する。
「……え、あ、うんと、私も水着になりたいですねえ」
 さすがはプロ、なんとか我に返っていつも通りの軽口で言う。それにエレナは気づかず、いつも通りの口調で、
「でも……ほんと胸が苦しくて。サイズ間違えたかな……胸をぎゅうぎゅう締め付けられて……」
 と、相変わらず空気を読まずに思うままに答えた。
「いや、できるならむしろ、私がぎゅうぎゅうしたいですけど。まあそれはさておき、最後にポーズとか決めてもらってもいいですか?  できればこう、ぐっと前屈みになって両手で胸を挟み込むような姿勢で」
 それにジムは相変わらずなことを言う。だが、それを聞いたエレナは、首を傾げながらも素直に客席へ向かって、上体を少し屈めると両手を膝に置いてぐっとバストを挟み込んでみせたのだった……。
 それにカメラ小僧たちが一斉にシャッターをきり始め、その他の観客たちからもフラッシュが浴びせられる。それと同時にまるで咆哮のような歓声が浴びせかけられた。
「最高だ……私も前屈みになりそう」
 ジムが悦に入った声でそう言うが、客席はそれを気にせず激しいフラッシュを浴びせかけて、エレナの白い肌をなお輝かせるのであった。
 ふとエレナに視線を向けると、彼女の背中で何か細いものが動いたような気がした。ジムは次の瞬間、観客が大音量で叫んだあたりで、やっと全てを理解することができた。

 つまり。

 エレナのブラトップは背中で結ばれている。もしそれがほどければ、強引に胸を包んでいたブラトップは今まで強引に締め付けていた圧力に反発して、まるで弾け飛ぶかのように前へと飛び出そうとし、そこへ抑圧されたバストの弾力がさらなる力学ベクトルを付与する。そうなれば、脇の下を通してブラトップを固定していた紐はそれに引っ張られ、前へと飛び出そうとする。

「……ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」

 その歓声が何を意味するのか、当のエレナも分からなかった。
 前に出した腕に、はらり、と何かが触れる感触が伝わる。
 視線を落とすと、自分の腕に乗っているのは白いブラトップ。
 エレナはすぐに、肌に触れる潮風がいつもと違う感触であることに気づく。水着で締め付けられている肌とは違う解放感と、潮風が触れる感触。
 下を見下ろして、エレナは完全に硬直してしまった。
 何故なら――エレナはこの大勢の観客の前で。

こちらグラール学園! | その豊満なバストを完全に露出してしまっていたから。
 その豊満なバストを完全に露出してしまっていたから。

 ばしゃばしゃと叩かれるフラッシュ音。
 歓声とは似つかない本能の叫びを発する観客たち。
「き……きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
 エレナは、まるで絹を引き裂くような、悲鳴なのか何なのか。とにかく赤面しながら大声をあげて、両手を体に回してその胸を覆い隠したのだった。
 かくして、観客たちは予想外の嬉しいトラブルに会場は極限の混乱状態からさらに混沌とした状態になったのである。
「お嬢……いくら任務のためとはいえ、やり過ぎだろ……」
「おいシロッソ、エレナ様の裸をしかと見たこの者たちを、我の槍の錆にしても構わんか?」
「……Zzzzzz……」
 最前列に陣取っていたシロッソたちは、予想外の事態に思い思いの感想を抱いていた……。

 ――なお、混乱が収まるまでには水着コンテストの予定時間を相当過ぎてしまったということを付け加えておく。


 運営本部の小屋の前には、救護班用のテントが設けられている。もちろんこの後の武闘大会のためにというのが主目的だが、強い日光で熱射病にかかる者や海で溺れる者、果ては子供同士の喧嘩まで、様々な怪我人の対応を請け負っていたのだった。
 テントの中にはテーブルと椅子を置いて、簡単な診察ができるようになっている。後ろには簡易ベッドと様々な医療器具が並んだ棚があり、治療も行えるようになっていた。
「……なんだか盛り上がっていますわね、エーデルシュタイン御姉様」
 人がいないため、その椅子に座りながら足をぶらつかせてカテリーナは呟いた。
「そうね、去年に比べたら」
 エーデルシュタインはテーブルの上で書類に何かを書いており、そちらに忙しいのか視線も向けずにそう答える。
 二人はいつもの制服ではなく、フードのついた水着に身を包んでおり、左腕には“救護班“と書かれた腕章をつけていた。水着は元々訓練用のもので、水中へ潜る任務での着用にも耐えうるというのがウリである。ただ、まるでスクール水着のようなその形状には極端な賛否があったが、一部の男子生徒には人気があるようだった。
 カテリーナは少しそわそわした様子で、ステージの歓声の方を見てからエーデルシュタインの顔を見る、というのを数回繰り返してから、小さく口を開く。
「……ねえ、お姉様、ちょっとだけ見て……」
「だめよ。今はガーディアンズ救護班の人たちがいないのよ? 私たちがここから離れるわけにはいかないでしょう」
 それをエーデルシュタインは、また視線も上げずに厳しい言葉を投げかける。さすがに学生だけでは不安があるのでガーディアンズ救護班の人間も常駐しているのだが、間の悪いことにたまたま打ち合わせで全員席を外していたのだ。
「おい、怪我人だ! ステージの脇で倒れてやがった!」
 不意に救護班用のテントに飛び込んできたのは、慌てた様子のビースト男性だ。一人のヒューマン男性を肩に担いでいた。
「……!」
 カテリーナは思わず椅子から飛び上がり、エーデルシュタインもテーブルに両手をついて跳ねるように立ち上がる。

 何故なら、肩に担がれて下を向いた男性の頭部から、大量の血液が重力に従ってぼたぼたとこぼれ落ちており、致命的なほど激しく出血しているのが明らかだったからだ。

「早く! こちらに寝かせて!」
 砂の上に血痕を残しながらその男をベッドに寝かせてやると、あっという間に顔面が血で赤く染まってゆく。
「まずいですわ、出血がとても激しい……あれ?」
 カテリーナは真剣な表情で呟いたが、その顔を見て素っ頓狂な声をあげてしまった。
「? カテリーナ、どうしたの?」
「エーデルシュタインお姉様……これ」
 止血道具やガーゼなどを棚から掴み取っていたエーデルシュタインが聞くと、カテリーナは歯切れの悪い声で呟く。それにエーデルシュタインは不思議そうに振り向くと……。
「……鼻血?」
 そう、男性の出血は鼻血だった。予想外の事実に三人は完全に固まってしまう。
「うぅ……エレナちゃんのおっぱ……」
 その空気を読まずか読んでなのか、男性がうわ言のように呟いていた。


「パラカバナ花火大会恒例、水着コンテスト! 優勝者は――エレナ・セラさんです!」
 ジムが高らかに宣言すると同時に、観客たちは立ち上がりながら歓声なんだか怒号なんだか、よく分からない興奮した声をあげる。
 それにエレナは、参加者全員が並んだ列から歩み出て、ステージの中央へと立った。ミルとネージュを含めた列の女性たちもそれに盛大な拍手を送るが、複雑な表情をしている者も少なくはなく「ずるい手を……」などと呟いている者もいたりする。
「いやあ、おめでとうございます。やっぱりおっぱいポロリが効きましたね」
 それにエレナは赤面しながら両手で胸を覆って、涙目できっ、とジムを睨み付けるのだった。ちなみに、先程のようなことを警戒しているのかエレナはTシャツを羽織っており、上半身を完全にガードしているのだが、魅力的なバストを隠しきれてはいない。
「まあ、もちろんそれだけでなく、純粋そうな仕草も人気でしたけどね。……さて、まずは優勝ということで、コメントなど頂けますか?」
「はい……私はガーディアンなのですが、皆様に星霊の加護を分け与えるために任務にあたっています。皆さんも、お困りのことがありましたら是非、チームDeo pomumにお声をかけてくださいませんでしょうか」
 言葉の意味が分かっているのかいないのか、観客たちはより激しい拍手と声援を送る。
「それでは……シロッソ、ラファエル、アンドリュー」
 最前列の彼らに向かって、エレナが手招きをする。多少不本意そうな表情で、三人がステージ上へと登った。
「それでは、どうかよろしくお願いします」
 言ってエレナが深々と頭を下げると、それに倣ってラファエルとアンドリューも頭を下げる。それに観客がどっと沸いた。もう騒げれば理由はなんでもいいらしい。
(……?)
 ふてぶてしく立ったままだったシロッソは、何気なくエレナに視線を向けて、思わずぎょっとなった。エレナは頭を深々と下げているせいで、Tシャツの胸元から胸がこぼれそうになっているではないか。
(……こぼれ……? ちょっと待て。じゃあ水着は……?)
 シロッソはぎょっとなってまじまじと見つめると……。

 ……つけてない。
 エレナはブラトップをつけていないのだ。

 さすがにこれには、いつも冷静なシロッソも驚いた。
「お、おい、お嬢……っ!」
「おい……あれノーブラじゃないか?」
 シロッソが珍しく慌てて声をあげるのと同時に客席からも声が響いて、一瞬だけ場がしんとなった。
「え……?」
 ぽかんとした表情のエレナをよそに、会場は本日最高の盛り上がりを見せていた――。


 さて、すっかり見せ場を取られてしまった我らがミルとネージュだったが。
 いそいそといつもの制服に着替えて、武闘大会の準備を進めていた。目的の宣伝は完了しているし、別に優勝を狙っていたわけでもないので気楽なものである。
「急がないと、武闘大会始まっちゃう!」
「ちょ、ちょっと待ってよミル〜!」
 二人は慌てて更衣室を出て、外へと飛び出す。
「お、お疲れさん」
 ちょうどそこで、ヴィンセントとセルジュが声をかけた。
「あれ、ヴィニーにセルジュ。もしかして出るの待っててくれた?」
「まあね、健闘を讃えようと思って」
 ミルが嬉々として言うのに、ヴィンセントは片手を軽く上げて答える。
「いっやあ、二人ともサイコーだったぜ。特に、ネージュちゃんのバストは素晴らしかった!」
 悪びれず言うセルジュに、ネージュは両手で胸を覆って睨みつけてやる。
「ぁうぅ……この変態!」
「もー、なんで男子って胸ばっか見るんだろ。あたしだって可愛かったっしょ?」
 ミルは少し頬をふくらませてみせて、怒ったそぶりをしてみせる。
「ああ、すっげー可愛いかったぜ。清純そうな雰囲気ってやっぱいいよな。二人っきりの時にああいう格好してくれたらもう、俺マジでやべーよ」
「セルジュ、興奮しているのは分かったから、少しは落ち着けって」
 両手の指をわきわきさせながらヒートアップしているセルジュを、ヴィンセントが制する。さすがに慣れたものである。
こちらグラール学園! | ヴィンセントはその質問の意味が分からず、素直に聞き返す。
「ヴィンセントは?」
「……え?」
 不意にミルは、そのヴィンセントに声をかける。ヴィンセントはその質問の意味が分からず、素直に聞き返す。
「だから、あたしの水着。可愛かったっしょ?」
 微笑みながらずい、とわずかに詰め寄るミルに、ヴィンセントは言葉に詰まってしまった。

 ……確かに、ミルとネージュがステージに立っているのはちゃんと見ていたのだが、あまり細かい部分までは見ていない。せいぜい思い出せるのは水着の柄ぐらいで、どこを誉めるかなど考えてもいなかったのだ。

 僅かに重苦しく固まった空気に、一瞬時間が止まってしまう。セルジュとネージュもこの状況に、ヴィンセントを見つめるしかなかった。
「……あ、ああ、もちろん」
 ヴィンセントが歯切れの悪い回答を返す。だが、その言葉でも重苦しい空気が晴れることはない。
「おいおいヴィニー! ミルちゃんの水着、どんだけストライクだったんだ? 我を忘れるったあお前らしくねえな!」
 それに気づいて、セルジュがおどけながらヴィンセントの首を両手でがっちりときめて、ぎりぎりと締め上げる。
「あいてて! すまん、俺が悪かった!」
 さすがのヴィンセントも慌てて、その締め付ける腕をぱんぱん、と叩く。
 だが、それにミルはいつも通りの明るい笑顔は見せず、
「……そっかぁ」
 と、ただ一言呟いた。

「――!」

 その一瞬だけ見せた表情を、ヴィンセントは見てしまった。

 単なる悲しみではない。怒りでもない。もっと複雑で、深いもの。だがその表情は誰かに見せるためには存在していない。

 そう、ただ“漏れた“、まさしく感情が漏れたのだ。
 それにヴィンセントは、思わず目を見開いた。理由は簡単だ。

 普段明るいミルが、いつもは見せない表情を見せたことに、大いに知的好奇心をくすぐられてしまった。

 笑顔だけでなく、もっといろんな表情を彼女は持っていることに違いないのだ――。

「じゃああたしたち、武闘大会の準備があるから、もう行くね」
 言ってミルは大きく手を振ると、踵を返して走り出そうとする。
「あ、ミル! じゃ、じゃあ、また」
 ネージュも慌てて手を振ると、そのまま二人は走り去ってしまった。
 かくして、ヴィンセントとセルジュは、まるで仲良すぎて気持ち悪い男子二人というような状況で放り出されてしまったのであった。
「……ヴィニー、余計なお世話だとは思うけどさ」
「解ってる。今のは俺が悪かった」
 手をほどきながら珍しく控えめに言うセルジュに、ヴィンセントは静かに答えた。
「ミルは、明るく元気で甘えん坊だからな。もっと前向きに受けとめてやらないといけない」
「ヴィニー、それはちょっと違う。なんでお前はそう、若いのに理屈臭いんだ? ミルちゃんは“お前に誉めて欲しかった“、ただそれだけだろ?」
「……俺に? 何故だ?」
「さぁな、理由は知らんし、単純に会う奴みんなに誉めて貰わなければ気が済まねぇのかもしれねぇが。とにかく、ミルちゃんはお前の誉め言葉を期待してた――それは確かだぜ?」
「……」
 セルジュの言葉にヴィンセントは完全に押し黙ってしまって、言葉を失った。

 ――何故?

 ヴィンセントの頭の中では、その言葉だけがぐるぐると回っていた。

 ……セルジュも観客も、あれだけ誉めてたんだからいいじゃないか。
 何故、その上で俺の賛辞を聞きたがるというのだ?

(……分からない)
 実際、ヴィンセントには分からなかった。それは単純にまだ若く、恋愛経験がほぼ皆無だったのもあるのかもしれない。ミルの感情の意味を理解することも、それを好意的に解釈して自惚れることも、彼にはできなかった。
「……とにかく、後で謝っておいた方がいいと思うぜ」
「――そうだな。気を使わせてすまん」
「いいってことよ、持ちつ持たれつだ」
 セルジュは笑いながらヴィンセントの肩をぽんぽんと叩いて、馴れ馴れしく肩に腕を回す。寄り掛かってくる体重を受け止めてやり、仕返しに空いた腹を軽く殴ってやる。
「……というか、たった今、気づいたことがある」
 セルジュが、殴られた腹をおどけながら大袈裟に痛がっているのを気にせず、ヴィンセントは呟いた。
「……? どうした、珍しいな」
 その口調から真剣味を汲み取ったセルジュも、急に真剣な表情になって聞き返す。普段から知的好奇心のみで生きているヴィンセントは、何かと興味を持っては自己解決することがほとんどで、こういったことをわざわざ言うタイプではなかったからだ。

「……俺はどうやら、あいつに――ミルに興味があるらしい」


 武闘大会の控え室で、ミルとネージュは早速準備をしていた。水着コンテストと武闘大会の間は休憩時間がほとんどなく、両方に出場する者は準備に忙しい。それはもちろん、両方出場する者がまずいないからなのであるが。
(……どうしよう)
 ネージュは、この微妙な空気を感じ取ってしまい、ロッカーに向かいながら制服に着替えるミルに言葉をかけられずにいた。背を向けたままで自分も黙々と着替えを続けている。
 いつも一緒にいる幼馴染みは、滅多に自分のマイナス感情を露呈しない。少々のことならば、いつもの笑顔で完全に隠し通してしまうのをよく知っていたからだ。

 ところが、だ。

 今のミルは明らかに声をかけづらいオーラを醸し出している。こんな彼女を見たのは、小学生の時以来だろうか。ミルが大事に使っていた甲獣戦隊コルトバンの消しゴムを借りた際に、ネージュがまっさらな角でごりごり消してしまったという他愛のない事件以来のことである。
 ネージュは、ミルの沈黙の原因を薄々感じていた。
 ミルは、明るい両親に愛されて育ってきたのだ。良く言えば甘えん坊で、悪く言えばちやほやされていないと気が済まない部分がある。
 だけど、ヴィンセントはどこか冷めていて、それに応えられるキャラクターではない。ミルの言葉にも硬い言葉を返すだけで、決してほだされることがないのだ。
(まあ、確かにワガママって言っちゃえばそれまでなんだけど……)
 とにかく、ミルはそういう人なのだし、女の子らしくて可愛いじゃない……とネージュは思っているのだ。
(……だって、私はどうやってもミルみたいにはなれないし……)
 思えば、子供の頃からミルは社交性が高かった。どんな相手でもすぐ仲良くなってしまうし、大人からも可愛がられる。ほとんどの場合、ネージュは“ミルの親友であるネージュ“という肩書きが付きまとっていたのだ。
「ねえ、ネージュ」
「ふぁ、ふぁい!?」
 そんなことを考えていた矢先に不意に声をかけられたネージュは、飛び上がりそうになりながら振り返って、不自然な声で答える。だが、ミルはそれを気にせず、
「……ねぇ、あたしって、女の子として魅力ないかな?」
 と、いつもより若干トーンの低い声で呟くように聞いた。
「そんなことないよ! 女の子らしくて可愛いし、元気で明るくて、周りの人にパワーを与えてくれてるよ!」
 ネージュは両手を不自然にばたばたと動かしながら、慌てて思いつくままの言葉を連ねる。だがそれにミルは振り返ることはなく、ロッカーのドアに着いた小さな鏡の中に映る自分を見つめながら、ただ静かに答える。
「そう……なのかなぁ」
「ほら、さっきだって客席からすごい歓声だったじゃん! あれって絶対ミルに対しての歓声なんだから! だから、気にすることなんてないよ!」
「でも……」
 ミルは不自然にそこで言葉を切って、少しうつむいた。少し陰りのある表情で、その大きな瞳はわずかに潤んでおり、長い睫毛が下へと伸びている。時々細い肩がぴくりと震えて、自らの二の腕を掴んだ手も同じように震えた。
「……ほら、ヴィンセント先輩はきっと女の子に興味無いんだよ。ガチホモだからセルジュとデキてて、誘い受けなの! うん、きっとそう!」
 だから、ネージュは努めて明るく冗談めかして、人差し指を立てながら無意味にぐるぐると円を描き、挙動不審に言う。だがミルはやはり振り返りもせず、何も言わなかった。
「ささ、早く武闘大会を終わらせて、お茶しにいこ? 回数券もらえるんでしょ?」
「うん……そうだよね。考えても仕方ないよね」
 ミルは小さく息を吐いて、かぶりを振った。少しは元気になったのだろうか、それにネージュは心配する。
(でも……)
 そうだ。原因ははっきりしたけど、ミル自身がどう考えているのか、さっぱり分からない。単純にヴィンセントの冷たい態度がショックなのか、それとも……。

「……ねぇ、ミル。ヴィンセント先輩のこと、気になるの?」

 だから、ネージュは思いきって聞いてみることにした。
「……うーん、どうなんだろ? 興味があるのは確かなんだ、今まで周りにああいう人っていなかったから……」
 ネージュは過去の記憶を思い起こす。確かに、明るいミルの周囲にはいつも人が多かったが、明るくノリのいいキャラクターばかりで、ああいう知的でクールなタイプは居なかった。
「それに、一度危ない所を助けてもらったというのもあるから、ちょっと特別なのかも」
「そっか〜……」
 ミル自身が分かっていないことをネージュに分かるはずもなく、曖昧に答えてこちらも答えようがないことを伝える。これ以上話しても仕方ないのかもしれない。
「……でも、それだけかな、うん。だって、ヴィニーは白馬を持ってないもん」
 ミルがおどけて言うのに、ネージュは思わず吹き出してしまった。まさかここでその話が出るとは思ってもいなかったのだ。
「あはっ、確かにそうだよね」
「でしょでしょ? ……だから、ちょっと何かひっかかってただけ。ごめんね、心配かけて」
 言ってミルはネージュの右手を包み込むように両手で握ると、いつも通りの笑顔で小首を傾げて言った。
「うぅん、いいの。ミルが元気なら、それで」
「えへっ、ありがと! ネージュ大好き!」
 ミルはいきなりネージュに抱きついて、まるで子猫がそうするようにすりすり、と頬を擦り寄せた。
「これでネージュはあたしのものっ」
「きゃ! 臭い付けなんかしなくても、私はある意味ミルのものだよ」
「ありがとっ! 約束だよ、ずっとあたしの側に居てね」
 ミルは見上げながら、いつものように明るく、それでいて真剣な瞳で言う。
(可愛いなあ……)
 ネージュはミルの素直な表情に、そんなことを考えながらついつい見入ってしまった。
「うん。ミルもね」
 ネージュは少し照れながら、ミルを抱き締め返すのだった。


(……とかやってた矢先に、これは何?)

 ネージュは手に握りしめた、数字の六と書かれたボールを見つめながら、ぼそりと呟いた。
 ここはステージの上で、武闘大会の組み合わせが決められている真っ最中。よくある箱の中に入った番号の書いてあるボールを取って、トーナメントを決めるというやつだ。ステージの上には合計八人の参加者が、順番にボールを取っているのだった。
 ネージュの手にあるボールには六番、そして隣に立つミルの手には、五番と書かれている、ということは。
 つまり――。
「あたしたち、一回戦で戦わなくちゃいけないの?」
「……そういうことだよね……」
 二人がお互いの顔を見ながら唖然としていると。
「こんにちは。組み合わせはどうなったかしら?」
「をーっほっほ、相手が誰であろうとわたくしの優勝に間違いはございませんけどねっ」
 エーデルシュタインとカテリーナである。エーデルシュタインは紺のタイ、カテリーナは緑のタイのいつもの制服に着替えていた。
「あ、エーデルせんぱぁい! 先輩たちは何番?」
「私は一番。初戦だわ」
「わたくしの番号を知りたい? どうしてもというなら教えてあげてもよくってよ」
「この子は八番だから、決勝まで誰ともぶつからないわね」
「エーデルシュタインお姉様っ!?」
 カテリーナがショックで驚愕しながらツッコむのをエーデルシュタインは気にせず、
「まあ、正々堂々とやりましょう。誰が勝っても恨みっこなしで」
 と、右手を差し出す。それをミルが握って、続いてネージュが握った。
「……にしても、プロらしい人っていないみたいですね」
 参加者の顔ぶれを見ていたネージュが、ふと気づいて言った。動きを見ていても戦闘慣れしているとは思えない者がおり、全体的なレベルはそれほど高いとは思えない。
「所詮はお祭り騒ぎだから、毎年こんなものらしいわよ。本職のガーディアンズや同盟軍は忙しいし、気づいたら学生と腕に覚えのある一般人が多くなったから、暗黙の了解でプロは出てはいけない、ってなりつつあるらしいわね」
 エーデルシュタインが言うのに三人はへぇ〜、と頷く。
「ミル! 見に来てあげたわよ!」
 ステージの下からの声に気づいて、ミルは振り返った。
「あれ、シェスせんせー?」
「せっかく私がルツ様との時間を我慢してまで教えてあげたんだから。いいとこ見せなさいよ」
「はい!」
 シェスは手に小さな酒瓶を持っており明らかに酔っている様子だったが、それにはあえて誰も触れなかった……。
「それでは、ただいまより一回戦を始めます。一番と二番の方は準備を行ってください」
 アナウンスが流れて、客席がどっと湧く。
 いよいよ、武闘大会が始まるのだ。

 

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