学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

14th universe サマーウォーーーーーーズ!(02)

 そして、二週間が過ぎた八月一日。パラカバナ花火大会当日がやってきた。
 空にはどこまでも青い空が広がり、白い入道雲がそれにアクセントを加える。突き刺すような暑さの太陽はちりちりと砂と肌を焼いて、夏らしい雰囲気をより醸し出していた。
 祭は指定された全長二キロほどの海岸線で行われていた。中央には木で組まれた特設ステージが設けられ、露店が並び、赤や青の原色で派手な飾り付けがされて、祝祭を喜ぶ明るい雰囲気を醸し出していた。会場は家族連れや観光客でごった返して活気に溢れており、この祭りを楽しんでいたのだった。

 ――というわけで。
 夏といえば、海である。
 海といえば、水着である。

 そんな安直な発想で始められたという水着コンテストなのだが、当然の如く参加者からの熱い声援を受け、これ目当ての参加者も決して少なくはなかった。
 本来ならばイベントの大トリを務められるほどの動員数を弾き出してはいたが、主催側の配慮、つまりあくまでウリは花火であることや子供も多く参加するイベントであることなどを考慮して、午後一番に開催されることが例年の倣わしとなっていたのだった。

 会場の傍らに、手狭で簡素な小屋が設けられていた。運営本部、機材置き場はもちろん、水着大会や武闘大会の控え室もここに用意されている。
「――で、なんでその水着コンテストとやらに私が出なきゃいけないの……?」
 その控え室で、訝しげな視線で言うのはネージュだ。首まで包むホルスターネックの赤いビキニに身を包んでいた。恥ずかしそうに頬を赤らめながらもじもじと身をよじりながらも、目の前のミルに精一杯の抗議を展開している。水着から溢れんばかりのバスト、引き締まって腹筋の割れたウエスト、そこから流れるように腰のラインは骨盤へと繋がっている。褐色の肌がなおさら彼女を引き締まっているように見せていて、正常な男性ならば興味をそそられるものに違いなかった。

こちらグラール学園! | その控え室で、訝しげな視線で言うのはネージュだ。

 ミルの方はそれを気にするどころか、むしろあっけらかんとした笑顔と真剣な瞳でネージュの両肩をがっしりと掴んで、
「ネージュ、よく聞いて。このコンテストでCafe六月館の宣伝をするの」
 と、違う意味で真剣に言うのであった。
 もちろんミルもすでに水着に着替えていて、白地に太いエメラルドグリーンのストライプが入ったビキニに身を包んでいる。腰にはパレオを巻いており、それがいっそう華やかさを彩る。
 確かにメリハリはネージュと比べ見劣りするが、肌には若さ溢れる張りがあり、まるで琥珀のように白く透き通っている。触れたら呑み込まれてしまうのではないと思うほどの柔らかさを感じさせていた。
「ミル……気持ちは分かるけど、宣伝なんて楽なことじゃないよ……」
「大丈夫! コノギちゃんが看板を用意してくれたから。ホラ」
 ミルは言って、木でできた手持ちの看板を取り出してくる。看板にはでかでかとCafe六月館のロゴが書かれていて、目立つ配色ということもあり充分に視線を引くものとなっていた。
「……それはそうかもしれないけど……そもそもなんで私たちが……?」
「宣伝したら、コーヒーの回数券がもらえるの。お客さんが増えれば、永久無料パスだってもらえるかもしれないの! だから頑張らなくちゃ!」
 あまりに真面目な顔でミルが言うので、ネージュは反論する気力も失せてしまった。行動の原動力は回数券という、あまりに現実的かつ物欲的な理由であったということも含めて。
「やだ……だって、恥ずかしいよ、この格好……」
 ネージュは自分の体を見下ろして、あまりにも高い露出に戸惑う。ビキニタイプの水着だからへそも出しているし、パンツはかろうじてホットパンツぐらいの布があったが、それでも体のラインはくっきりと出る。
 それに、ガーディアンズ科に入って四ヶ月、みっちり鍛えたせいで腹筋もしっかり割れており、体は筋肉質になりつつあった。この体を衆人にさらすのは複雑な、そんな乙女心なのである。
「何言ってんの! ネージュはスタイルいいんだから、出さなきゃ損なんだって!」
 言いながらミルはネージュに抱きついて、その胸を鷲掴みにしてやる。
「はうぅ……ちょっと、やめてよぅ」
「ほら、胸だっておっきいし、学園で毎日トレーニングしてるからウエストだって引き締まってる。すっごくいいスタイルだって!」
 ぺたぺたとネージュの体を好き勝手に撫で回しながら、ミルはまるで演説のように熱い勢いで語り続ける。それにネージュは悪い気はしないのか、少し困ったような表情を見せる。
「そんなことないよ……」
「大丈夫! 絶対セクシーだから!」
 あまりにも真面目な顔でミルが断言するのに、ネージュも反論の余地がなくなってくる。首を傾げながらも、ミルの言葉に納得し始めている様子だった。
「でも……みんなにいろいろ見られるんでしょ? やっぱり恥ずかしい……」
「何言ってんの! 見られたら足も腰も細くなるし、胸もお尻もおっきくなるんだから!」
 ミルの理論は相変わらず無茶苦茶なものではあったが、これだけの勢いで捲し立てられると、説得力を帯びはじめる。ネージュもなんだかその気になりつつあったのだった。
「そうかな……?」
「うん、絶対そうっ! だから、ちょっとだけ出てみようよ。恥ずかしくなったら舞台の袖にひっこめばいいだけだって!」
「そうなんだ……? ……じゃあ、ちょっとだけなら……」
 かくして、ネージュという堅固なはずの城はミルの言葉に納得してあっさり開城と相成った。……まあ、いつものパターンなのだけど。
「はい、じゃあ決まりっ! こっちこっち!」
「ぁうぅ……慌てないでよぉ……」
 ネージュはミルに手を引っ張られ、会場へと向かうのであった……。


「ううっ……こんな格好、恥ずかしい……」
 そして、こちらはまた別の控え室。
 濃茶色の長い髪をたくわえ、その間から長い耳を覗かせるニューマン女性は、鏡に写る自分の姿をちらちらと見ながら呟いた。ニューマンらしからぬFかGかHほどの豊満な胸に、安定感のある大きなお尻のライン、それが足首へと向かって流れるようなスタイルを形成している。
こちらグラール学園! | その体には白いビキニを身につけており、その豊かなボディラインを極限までに見せつけていた。
 その体には白いビキニを身につけており、その豊かなボディラインを極限までに見せつけていた。胸は布が小さく完全に覆いきれずに強引に包んでいる印象だったし、下もお尻を包むというより、申し訳程度に腰にひっかけているような感じである。
「ふむ、まあ我にはそういった衣服のことは分かりませんが……確かに動きやすそうなお姿ではあります、エレナ様。肌の露出が激しいため、シールドラインの装備は必須でしょう」
 その様子を傍らで腕を組みながら見ていたキャスト男性が、少しズレた言葉を返す。それもそうで、彼のボディパーツは全て強固なアーマーといった様子で、生体パーツは一切使われていない。裸に近い姿を晒すことに対する女性の羞恥心など、理解できるはずもなかった。
「ラファエルに衣服のことを聞いてもしょうがないだろ。……しかしまあ、お嬢も随分思いきったもんだな」
 椅子にどっかりと腰かけていた小柄なニューマン青年は、エレナの頭のてっぺんから足先まで見渡して、帽子の位置を少しずらしながら不思議そうに言った。緑色のパルム製ワーカースタイルに近い衣服で、長く伸ばした銀髪が鋭く引き締まった顔つきによく似合う。
「もう、シロッソまで。……とにかくあまりじろじろ見ないでください、あくまでこれはチーム“Deo Pomum“の知名度を高めるためにやるんですからっ」
「にしても、その水着サイズが合ってないと思うんだが」
「やっぱりそうですよね、胸もお尻もとても窮屈で……。昨日買ったばかりなのですが、水着など買うのは生まれて初めてだったのです」
 言いながら眉をひそめて、エレナは指でお尻の部分を調整するのだが、少し動くとすぐにずり上がって食い込んでしまう。ずっとその繰り返しだった。
「まあ正直、何故そこまでして水着大会なのかはよく分からんが……お嬢の言うことも一理ある。ここ最近、資源不足のせいで景気も低迷し、俺たちのようにチームを組んでいるガーディアンズの仕事が明らかに減ってきた。人の集まる所でアピールを行うというのは、至って効率的だ」
 と、ゆっくり噛み締めるように続けた。
 彼らは、ガーディアンの中でも常に同じメンバーで任務にあたることが常で、そういった任務の受け方をする者の集まりを“チーム“と呼ぶ。人数はさまざまだがメンバーによって得意とする任務を専門化することができ、連携も得意とするので特殊な任務に就くことが多かった。
 シロッソが言うのは、チーム“Deo Pomum“が特化しているが故に、一般的な任務を受けにくく任務が少ない、という意味である。エレナとシロッソはニューマンのフォースでテクニックに特化し、ラファエルはキャストのハンターで強襲から斥候まで格闘戦ならなんでもござれ。もう一名、アンドリューというキャストのガンナーがおり、ハッキングなどのサイバーミッションや破壊活動に特化している。そういうわけでチームにしてはバランスは良い方なのであるが、ビーストが居ないため防衛は得意でないのと、汎用性に乏しいのがネックだった。
 ……で、何故この場に三人しかいないのかというと……。
「おい、まただ」
 シロッソが言って、親指を立てた右手でちょいちょいと部屋の隅を促す。そこには、厚い装甲に身を包んだキャストが、壁に頭で寄り掛かって直立不動のまま、動かなくなっていた。肩には蛇腹状の肩当てがついた”ムサガンテ・アーム”、厚みのある胸部が目立つ”ギムナス・トルソ”、がっしりとした装甲の”エヴォルス・レッグ”に身を包み、長身のせいもあり重厚な装甲は見る者に威圧感と安心感を与えてくれる。
 彼はよく聞くと小さくいびきをかいて、不自然な姿の割にぐっすりと眠っているようであった。
「おいアンドリュー、起きろ」
 ラファエルが近づいて、その肩を揺さぶる。アンドリューの目の部分にポウ、と鈍い灯りがともり、メインカメラの電源が入った。
「ん……あれ?」
「また発症してたぞ」
「そっか、ごめんごめん。最近疲れてるのかな、よく落ちちゃうよ」
 頭を掻きながらアンドリューは照れ臭そうに答えた。
 彼が“発症“と言うのは、持病である"キャスト・ナルコプレシー病"のことだ。"ごくまれに起こる、電子頭脳とその周辺機器の相性によるバグ"と定義付けられ、不意に原因不明の強烈な眠気に襲われて省電力モードに入るという、キャストだけが持つ奇病である。製造メーカーであるGRM社も原因究明のために様々な研究を行ってはいるが今だ具体的な解決策は判明しておらず、部品交換での対応は行っているがそれで解決することはまれだった。
「……で、なんの話だっけ」
 ラファエルとアンドリューが席に着いたのを見計らって、シロッソが口を開く。
「パラカバナ花火大会で、“Deo Pomum“のアピールを行うんです。そのために私がこんなはしたない格好を……ううぅ……星霊よお許しくださぁい……」
 エレナが答えながら、少し涙目になっている。言い出したのは自分でわざわざ水着まで買いに行ったというのに、どうも忘れてしまっているらしい。
「まあ、いいんじゃないか。お嬢のエロいボディをがっつり披露すれば、世の男性がさぞかし喜ぶだろ」
「おいシロッソ、エレナ様を愚弄すると我の聖槍“ステイグマ“の錆にするぞ!」
 シロッソが冗談めかして言うと、ラファエルがムキになって言う。だがそれもいつもの光景で、シロッソは面倒臭そうに手をぱたぱたとさせながら、「ハイハイ」と適当に答えた。
「とにかく、エレナが優勝してDeo pomumの宣伝をすれば仕事がたくさん入るようになる。……ということだよね」
「そうです、その通りです。そのためには、必ず優勝しなくてはなりません!」
 アンドリューに答えて、エレナは握った拳をぐっと差し出す。それに全員が頷いた――が、またお尻の部分を指で直し始めるエレナに、内心不安を覚えたとのは言うまでもなかった。


 ――この部屋には、日光など差し込まない。

 ヘレンは内蔵された光波時計で午後一時を過ぎた所であることを確認してから、両腕を上にあげて大きく伸びをした。スリープモードから平常モードへと移行しながら、もぞもぞとベッドから上体を起こし、その脇から両足を垂らす。
 衣服は何も身に着けていない。細い肩から豊かで形の良い胸、それにくびれた腰から豊満で重心のしっかりしているヒップライン、そして太股から足首への美しいシルエットが露になっていた。今日は珍しく仮面を外していたが、長いブロンドが顔を覆い隠している。
 彼女は手を伸ばして枕元の仮面を顔に着けると、ベッドの上を振り返った。
「……ウォルター様?」
 ベッドではウォルターがぐっすりと眠っていた。彼は裸のまま胎児のように丸まって背を向け、呼ぶ声には答えず歯軋りを鳴らした。

 ……思えば、こんな生活が始まって約三年ほど。
 ウォルターに製造され、彼に仕えるキャストとして、私は作られた。

 私の持つ全ては、ウォルターのためにある。想う気持ちも、この人工皮膚の体も、その機能も。全てが彼を最優先し、受け止め、抱擁するように作られている。
 ただそれだけで満足なのだ。

 ――安息に対しての懸念点が、無いわけでもない。

 GRM社の専売特許であるキャストを一介の研究員が製造してしまったこともそうだったが、一番気になるのは特にキャストの多い同盟軍にいるということ。
 皆、ウォルターにはマザーブレインの呪縛から救ってくれたことに感謝してはいるが、何故今でも軍に籍を置いているのか、そしてキャストには理解できないニューマン独自の感覚的な思考と言動。ウォルターを組織内で孤立させるには充分な材料だった。

(そして……)

 ――夢。

 おかしなことに、最近よく夢を見る。
 培養によって造られた生物脳を使用しているので、それ自体はごく当然なのだが問題はその内容だ。

 ……視線の高さからすると、自分は十歳前後の子供。
 白いドレスに身を包んだ、一人のニューマン女性を追いかける夢。
 そして最後は必ず、女性は振り向きながら手を差し出し、私はそれを喜んで握り返すのだ。

 私には当然子供の頃があるはずもなく、ここ三年の間にインプットした情報から構成されたものだろう。だが、そんな映像やストーリーを見たことなど記憶に無い。私の世界はこの地下室だけ。外の世界はほとんど知らないし外界からの情報を仕入れる方法も無い。
 この小さな世界のみが、私のビオトープなのだ。

「けれど――」

 それに対して、不満などまったく持っていない。この小さな世界だけが、私の全てなのだ。ウォルター様がいれば、それだけでいい――。

「……それで別にいいワケよ、私は」

 グラール教団の聖書に登場する、かつて世界に初めて生まれたヒトの男女は、“知恵の実“を食べて楽園を追い出されたいう。閉鎖的な空間に生きる私たちは、まさしく今その楽園にいるようなもので、相違点があるとすれば私はウォルターに製造されたということ。
 だから私は知恵の実をウォルターに求めている。それならば、神は私たちを追放する理由が無い。

 つまり、この閉ざされた世界は未来永劫続くのだ。

 ヘレンはかぶりを振りながら立ち上がると、眠っているウォルターへ視線を向ける。気づくと、先ほどまで響いていたウォルターの派手ないびきが聞こえない。ヘレンはそれにため息をつくと、
「……本日は目覚めが悪そう……喜ばせてあげなきゃいけないわ」
 と、独りごちた。それから裸のまま立ち上がるとクローゼットへと向かう。足元に置かれたいつものボディパーツには目もくれず、ハンガーにかけられた服を確認していった。そこには看護師、太陽系警察官、ブレザーなど、いわゆる“制服“と呼ばれるものが多数並べられていたのだった。
「今日はコレ……かしらね」
 言ってヘレンが取り出したのは、星グラール学園の制服。赤いタイはガーディアンズ科三年生のものである。ヘレンはそれを身に付けると、姿見の前でくるり、と回ってみせた。
 体型にメリハリがあり制服のサイズがやや小さいせいか、どうも学生らしくは見えない。仮面で表情が見えないのもその理由のひとつであるが、それをヘレンは気にしない。理由は簡単だ。

 ウォルターが、目覚めの悪そうな時はここにある服のどれかに着替えて起こせ、と命令したから。

 それは絶対であり当然であり常識なのだ。

「ウォルター様……本日は出かけられるのでしょう?」
 ヘレンはふわりとスカートを翻させながらベッドに近づくと、片膝をついてウォルターの肩を優しく揺すってやる。
「……ん……ぷはあ……はぁ、はぁ……」
 彼は寝ぼけながら大きく息を吸うが、またすぐに呼吸音が聞こえなくなる。重度の睡眠時無呼吸症候群を患う彼は、目覚めた時にまるで深海から上がってきたかのような状態になっていることがあるのだ。その呼吸停止時間は一時間あたり十五分を越え、医師からも外科手術を勧められているが、ウォルターは頑としてそれを拒んでいた。
「……うん……起きなきゃ……研究を……進めない……と」
 ウォルターは自分に言い聞かせるように言って、背を向けたまま目をこする。それからゆっくりと上体を起こして、両手をベッドについてうなだれたまま、もう一度大きく息を吸った。
「おはようございます、ウォルター様」
「うん、おはよう」
 ゆっくりと振り向きながら、ウォルターはヘレンに視線を移す。ヘレンの格好に驚くこともなく、ただ当然のことと言わんばかりに、まるで赤子のように両手を伸ばして二の腕にしがみつく。それをヘレンは受け止めて、優しく抱き締めた。
「今日は星グラール学園の制服を選んだワケですが……似合ってます?」
「も、もちろん……最高だよ」
 言ってウォルターはヘレンの胸に顔を埋めて、落ち着いたようにゆっくりと息を吐いた。まるで命からがら逃げ延びた直後に行う最初の深呼吸ように、ただ大きく、ただ深く、ただゆっくりと。
「それで……どこへ向かわれるんです?」
「パラカバナ海岸だよ。祭の余興で武闘大会があって、それが見たいんだ。――素晴らしい女性を探すために」
「なるほど、それではすぐに準備をしなくてはなりませんね。もちろん私も将来のファミリーを知るために同行します。……あ、あとフィオナにも連絡いたします」
「あの女は呼ばなくていい、げ、下品な女は嫌いだ」
 拗ねた子供のように言うウォルターをなだめつつ、ヘレンは抱き起こそうとするが、ウォルターは立ち上がる気が無いらしい。しがみつく手の力を強めて、なおがっしりと掴むだけだった。
「――も、もうちょっと」
 言ってウォルターは背中にまわした左手に重心を預けると、右手をヘレンの上着の裾にすっ、と差し入れた。
「ん――ウォルター様、時間が……」
「あ、慌てないで。ヘレンは僕の言うことを聞いていればいいんだ」
「……はい」
 ヘレンは静かに答えるとそっと瞳を閉じて、肌に感じる感触に身を委ねた。


 晴れ渡った空、頬を撫でる潮風。午後の日差しは夏らしく暑かったが、塩気を含む風が全身に心地よい。
「それでは皆さん、お待たせしました。これよりパラカバナ花火大会名物、水着大会を行います!」
 ステージの上でマイクを持って声高らかに言うのは、司会を務めるキャスト男性だった。ダークイエローのボディカラーで、ヘルメットのような頭部に小柄だがごつごつしたパーツを身につけており、箱のように大きなトルソやレッグガードが目立つ。特に大きな肩パーツが印象的で、戦闘にも耐えうる構造になっているようだ。見れば胸には同盟軍所属であることを示すバッジがつけられていた。
「さて、いよいよ水着大会が始まりました、私は一年前からずっとこの日を楽しみにしていました。とても美しいお姉さんたちが自慢のボディを惜しげもなく披露しています、舐め回すように見るだけじゃなくて、実際舐めたいですよね!」
 不意に発せられた若干オヤジギャグの入った不謹慎な発言に、客席はしん、と水を打ったかのように静まり返った。だが彼はそんなことなど微塵も気にせず、言葉を続ける。
「司会は私、同盟軍広報部のジム=マクガイヤーがお送りします! いや〜、やっぱり女性のボディは最高ですね、キャストのパーツは色気がなくて……やっぱり人工皮膚が最高ですよね」
 司会とは思えない危ない発言にか、それとも早く水着を見せろということか、観客からブーイングが起こり始める。だが彼はそれにも動じず、手元のプログラムを見ながら続ける。
「さて、今日は総勢二十名の方に集まって頂いてもらってます。これだけあればしばらく困りませんよね。ほんと、おっぱいがいっぱいです、なんてね」
 そのダジャレにまた会場がしんと凍えてしまう。まるで冷気を撒き散らして目標を凍らせてしまう、フリーズトラップのように。
「そんなわけで写真撮影は自由に行っていいんで、後で私にも写真データくださいね。あ、できれば動画で」
 それに最前列に陣取り大きなフラッシュや一眼レフを構えた猛者たちが、おーっ、と気合いの入った声を返す。
「さて、それではエントリーナンバー、一番! パルムからいらっしゃった……」

 ――かくして、暑い夏のイベントの幕が今、開いたのであった!

 

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