学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

12th universe あたし、ちょっぴり大人に近づいた!

 実地研修から、約半月の時間が過ぎた。
 ミルやネージュも初めての任務・戦闘という貴重な体験を通じて、よりガーディアンらしくなったはずだ。

 ――たぶん……。

「ハッピーバースデー!」
 惑星パルム北のパラカバナ海岸で、明るく元気な声が響いていた。笑顔のミルを、ネージュたちが囲むように取り巻き口々に祝辞を述べる。
 今日は土曜日ということで学園は休みであり、昨日の五月十四日にめでたく十六歳の誕生日を迎えたミルを祝うため、皆はバーベキューを楽しんでいたのだ。
 この辺りの海は浅くなだらかなリアス式の海岸が広がっている。そのため海岸の後ろに砂浜と岩山が広がっているという、ちょっと変わった光景が広がっていた。
「えへっ、みんなありがと〜!」
 輪の中央で嬉しそうに微笑むミル。ちょっぴり涙ぐんだりして、今日は本当に一人の少女としての笑顔を振り撒いている。

こちらグラール学園! | 輪の中央で嬉しそうに微笑むミル。

「ミル、おめでとう! これ、前にミルが欲しがってたスカートだよ」
 ネージュもつられて涙ぐみながら、桜色の包装紙と大きなリボンの目立つ紙袋を渡す。ミルはそれを受け取って中を覗き込むと、
「ありがとー! ネージュだいすき!」
 と、ネージュに飛びついて抱き合う。ミルはおどけて、ネージュの頬に軽く、ちゅっとキスをした。それからネージュの耳たぶに軽く息を吹きかけて、ぱくり、と甘噛みしてやる。
「きゃあ! ちょ、や、だめ、耳、耳はらめっ」
 ネージュは顔を真っ赤にして、慌ててミルを引き剥がす。仲のいい二人のこなれたやりとりを、皆が微笑ましく見守っていた。
「ミル、おめでとう。これは俺とセルジュから」
 カメラを片手に薄い包みを差し出すのはヴィンセントだ。今日は彼も私服で、細身のパンツに半袖のシャツを羽織っている。撮影係も兼ねているため、今日は大忙しであった。
「きゃあ! ヴィニーもありがとー!」
「!」
 ミル振り向きながらの勢いで、今度はヴィンセントに抱きついた。突然のことに、ヴィンセントは完全に身動きが取れなくなってしまう。
「ありがとう、ヴィニーもだいすき!」
「……あ、ああ、うん」
 さすがにキスまではしなかったが、それでもヴィンセントは顔を赤らめながら固まってしまっていた。
「ありゃま。罪作りだねー」
「なんで俺には抱きつかねえんだよ」
「……いろいろな意味で危ないからでしょ」
 それを見ながら、オルハとセルジュは思うままに言葉を交わしていたのであった。
「ミル、おめでとう。これは私から」
 今度はエーデルシュタインだ。今日は彼女も私服で、シルエットの柔らかなロングスカートに、薄手のカーディガンを羽織っていた。
 フォトンの刃を収納した一本のダガーを持ち、柄をミルに差し出している。あまりに武骨な渡し方が彼女らしい。
「えっ! いいの!? 超カワイー!」
 受け取ったダガーは手甲の部分にラッピー――“巨大なヒヨコ“と形容するのがふさわしい、この世界において愛玩の対象になることもある鳥型モンスターだ――をあしらっている、“ラピ・ティピ“と呼ばれるダガーだった。握って振ると、ちゃんと本物のように可愛い声で鳴くように作られているあたり、開発者のこだわりは並大抵のものではない。
「ええ。フォースだって必要になる時があるかもしれないから」
「ありがと! 超大事にするね!」
 それからミルは、皆にしたように飛びついて、エーデルの頬にキスをする。どうやら、一応男女で待遇は変えているようだ。
「おい、いつまでやってる。肉が焦げるぞ」
 いつも通り無愛想に言うのは、フランチェスコ。今日はその巨体にカッポウギを身につけており、頭には白いバンダナを巻き付けている。
 彼は別に遊びに来たわけではなく、たまの休みだというのに「保護者がいないと危ないから」という可愛い生徒(?)たちのあまりに一方的なお願いを受けざるを得なく、今日はあくまで監視役、というわけである。その割には調理全般は彼の仕事になっており、包丁片手に慌ただしく動き回っていた。
「さあ、美味しいお茶が入りましたよ」
 その隣で言うのはヨシノで、ネージュに頼まれて同じように監視役で参加していたのだった。いつものカッポウギでお茶や食器を用意したり、バーベキュー台の火を調節したりと駆け回っている。
「わーい! いっただっきまーす!」
 ミルが元気良く駆け出すのに、皆もそれに続いた。


「!」
 エーデルシュタインは、わいわいとバーベキューを楽しむ群れの中にいる一人を見つけて、思わず固まってしまった。
「貴方は、あの時の変態男!」
「んあ?」
 肉を頬張りながら気だるそうに振り向くのは、セルジュである。彼もやはり制服ではなく、裾が広がったワイルドなパンツに派手に襟を立てたシャツを羽織って、胸元を見せつけている。
「よう、エーデル。なんだ、あんたもミルやネージュと友達なのか?」
 この間の一件でしたことを忘れてしまったかのように、意外とまともな解答が返ってくる。
「うっ……友達? ……そうなのかしら」
「おいおい。そこで疑問を抱くなよ、そこで。――それより、あれから少しは腕が上がったか?」
「もちろん、鍛練は欠かしてないわよ」
 エーデルシュタインは腕を組んでぷい、と顔をそむけながら、少し拗ねたようにふくれて言い放つ。だがセルジュはその反応を楽しむかのように無邪気に微笑んで、続けた。
「それは何より。まあそれより、俺としては色気のあるパンツなのかどうかが気になる」
 言ってセルジュは、エーデルシュタインの全身を上から下まで露骨に見渡した。エーデルシュタインはそれに気づいて、顔を赤くしながら飛び退いて、両手で胸を隠す。
「こ、こ、この変態!」
「ま、男はみんな変態さ。それはさておき、食わないのか? うまいぞ」
 変態よわばりされたのを気にせず、セルジュはフランチェスコとヨシノの方を顎で促す。
「え、ええ、もちろん食べるけど……」
「早くいっとけよ。すげー旨ぇぞ」
 手元の皿に乗せた肉串を少し掲げてみせて、セルジュはウィンクなどしてみせる。あまりに悪びれた様子の無いその仕草に、エーデルシュタインは小さくため息をつく。
(……ほんっと、調子狂う……)
 エーデルシュタインはまるで、これ以上関わりあうことが無駄だとでも言わんばかりに踵を返す。それから耳にかかる髪を後ろへかきあげて、すたすたと焼き台の方へと向かって行った。
「あ! エーデルせんぱぁぁい!」
 叫ぶのはミルである。まるで飼い主を見つけた子犬のように、瞳をきらきらと輝かせて飛びかかってくる。そしてそのままの勢いで飛び込むと、がっしと抱きついた。
「ぐはっ……何よぉ!」
 さすがに油断していたので、ミルの体重を受け止める形になりエーデルシュタインは思わず癇癪に近い声をあげてしまう。
「えへへ、せんぱい。来てくれてありがとう!」
「うっ……」
 ……なのに。
 あまりに素直にミルが言うもんだから、エーデルシュタインは返す言葉に詰まってしまった。
「せんぱいって一人が好きみたいだから、来てくれるかどうか心配してたよ」
「ま、まあね。私だって暇じゃないんだから。か、勘違いしないで。たまたま空いてたんだから、たまたまよっ」
 ぷいと顔を背けて、エーデルシュタインは不機嫌そうな声で言う。だがミルは相変わらずの調子で、
「わざわざありがとうございます! ところでせんぱい、その服可愛いですね、いつもどこで買ってるんです? ……へぇ、せんぱいって白い下着が好きなんですか?」
 と、勝手にエーデルシュタインのキャミソールの胸元を指で引っ張り、谷間を覗きこんだりし始めている。
「発言と行動が違ぁう!」
「えー、いいじゃないですか、減るもんじゃないし。羨ましいなあ〜」
 ミルは相変わらず、勝手にエーデルシュタインの胸を両手で鷲掴みにしたりしてやりたい放題である。エーデルシュタインも慣れてきたのか、頭を抱えつつも好きなようにさせてやることにした。
「――で、こないだ実地研修があったでしょ。どうだったの?」
「あ、はい。なんかあたし、フォトン感知能力が鋭いらしくて。倒れてみんなに迷惑かけちゃいました。あとは初めての戦闘……怖かったです」
「なるほどね」
 エーデルシュタインはまるで子供のように胸にすがりつくミルの手を退けてから腕を組み、それから深く頷いて、
「最初は誰だってそんなもんよ」
 と、ありきたりの言葉を口にした。
「いろいろ考えさせられちゃった。あたし、まだまだなんだなあ、って」
 ミルはそれを気にせず続けて、しょんぼりと首を倒す。それにエーデルシュタインはどう声をかけてやるべきか、迷ってしまった。

 何故なら、彼女自身はこういった所で悩まなかったからだ。

 初めての実地研修でも、物怖じすることなく進んで研修教官を驚かせたし、そもそも感情の起伏がやや乏しく、物事に動じることがあまりない。
 そんなわけで、ミルの心境は正直よく分からないというのが本音なのであった。
「……大丈夫よ、貴方ならうまくやれるわ」
 だから、エーデルシュタインはよくある激励の言葉を口にすることにした。
「はいっ、あたし頑張りますね、せんぱいっ! だからこれからも友達でいてくださいねっ! じゃああたし、挨拶まわりの途中なんで!」
 急に元気になったミルは、手をぶんぶんと振り回しながら走り去ってゆく。それにつられてエーデルシュタインも手を振って、それからはっと我に返る。
 上げた右手に視線をやって、それから頬を赤らめて。慌てて手を背中の後ろに持ってゆくと、ぶんぶんと大きくかぶりを振って、
「……あああああっ! 何を和んじゃってるのよ私は!」
 と叫んで、だん、と地面を踏みしめた。それから大きくため息をついて、小声で呟いた。
「――友達、か……」

 ……自分に、そんなものができるとは思っていなかった。

 親に捨てられた時点で、そういった人の繋がりは無縁なのだと思っていたから。気づくと人を遠ざけてしまっていたのは、自分の所為だ。
 だが、あの無邪気な後輩は自分を友達だと言うし、あの変態男も自分に対して同じ目線で接してくれる。
(……ほんっと、ここんとこずっと調子が狂うことばかり……)
 エーデルシュタインはかぶりを振って大きくため息をつきながら、フランチェスコから器をもらう列に並んだのだった。


「ねね、似合うでしょ?」
「おおー」
 カッポウギを身に着けてきゃいきゃい騒いでいるのは、ネージュとオルハだ。身長が高く褐色の肌のネージュはしっかりと着こなしていたし、小さく幼児体型のオルハは、まるで学校給食の配膳係のようであった。これはこれでごく一部のマニアックな皆さん向けに似合っている。
 そんな格好で二人はくるくる回ってみたり、手を取り合ってポーズを決めてみたりと、楽しそうに戯れていた。
「ふふふ、微笑ましい光景ね」
 それを見ながらヨシノは、のほほんと言った。まるで我が子や孫でも見つめるように、瞳を優しく細めて。
「お、なんだ手伝ってくれるのか。皆食うのが早すぎて困ってた所なんだ」
 そんな状況を理解していないフランチェスコは、そんな二人を見て太い声で静かに言う。それにネージュはどう返答しようか困っていると、
「まずは、野菜を切ってくれないか」
 と、巨大なザルに山と積まれた野菜を渡されてしまう。ネージュは何か言いたそうな顔だったが、すぐに諦めたのかまな板にそれを乗せて、包丁を手に取った。ちなみに、オルハはとっくにどこかへと逃げている。
「先生、どのように切ればいいですか?」
「ああ。いいか、バーベキュー用の野菜はどういう風に調理した方が喜ばれる? それを考えてみてくれ」
「……そうか、じゃあちょっと厚みを持たせて……」
「そうだ。噛んだ時に食感を楽しめるよう、ちょうどいい厚さにしておいてくれ」
「はい!」
 まるでスポ根のようなやりとりをしながら、ネージュは包丁を動かしてゆく。その手つきは危なげがなく、手慣れた様子で野菜をスライスしてゆく。厚みは五ミリ程度に等間隔で、綺麗に仕上がっていた。それを腕を組みながら見ていたフランチェスコが、うむ、と頷いている。
「先生、料理は得意なんですか?」
 少しは余裕ができてきたのか、ネージュは切った野菜をボウルに移しながら口を開いた。
「ああ。ここ五年ほど自炊している」
「すごい……だから、料理が上手なんですね」
「いやいや、ネージュこそ。料理はよくするのか?」
 至って普通のやりとりなのだが、ネージュは少しだけぴくりと震えて、トーンを落とした口調で、
「うち、母さんが病気で。家事はほとんど私がやっているんです」
 と、淡々と答えた。
「……すまん。そういうつもりじゃなかった」
「いえ、私こそ暗い話ですいません」
 形通りのやりとりを交わして、しばし無言の時間が訪れる。特に気まずい空気が流れるわけでもなく、単に作業に集中するきっかけとなったらしい。
「……あ、先生。これいっぱいになっちゃいました」
 切った野菜が山盛りになったボウルを見せて、ネージュが言う。フランチェスコは相変わらず無表情なままそれを見つめていたが、うむ、と頷くと、
「ああ、ありがとう。なかなかよくできているな」
 と、言った。ネージュはそれに嬉しそうな微笑み返すと、フランチェスコも少しだけ微笑む。

「――!」
 ネージュは思わず、その顔をまじまじと見つめてしまう。
 何故なら、フランチェスコの笑顔など初めて見たからだ。
 普段は岩のような怖い顔をしているが、微笑むとそれが緩んでなんとも言えない落ち着きと優しさ、それに少年のような素直さを感じさせる、優しい顔になったのである。
(あれ、可愛く笑うんだ……)
 あまりにネージュが見つめるているので、フランチェスコは不思議そうな顔で見つめ返していた。
「疲れたか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「そうか」
 ネージュはまたまな板に向き直って、フランチェスコの笑顔を思い出してしまう。それから、なんだか少し微笑んでしまった。


 それからもバーベキューは続いて、やがて夕方になると太陽が傾き始めた。遥か遠い水平線に向かって、夕陽がゆっくりと沈んでゆく。水面は暖かな色に染まりはじめ、どこかもの哀しい雰囲気を醸し出していた。
「もうちょっと暖かったら、泳げたのになあ」
 波間でしゃがみながら水平線を見つめて、ミルが呟いた。今年は例年よりも気温が低く、天気予報も冷夏になるとやたらと報じていた。
「それもそうだな。なんだか少し損した気分だ」
 傍らに立ちながら、同じように水平線を見つめてヴィンセントが答える。ポケットに手を突っ込みながら、ただ見つめていた。
「そういえば怪我、大丈夫だったか?」
 ふと思い出したように、ヴィンセントが聞いた。実地研修で上から落下したミルは、ヴィンセントの体がクッション代わりになったとはいえ、木の枝でこすった擦り傷や落下の際の打撲などの軽傷を負っていた。任務中は気を張っていたので気づかなかったが、シティに帰って大小さまざまな傷の痛みに気づき、慌ててガーディアンズ公式の医療施設であるメディカルセンターに駆け込んだのだった。
「うん、もう大丈夫! あの時はヴィンセントのお陰で助かったよ、ほんとにありがと!」
「ああ、次からは気をつけろよ。もう俺の上に落ちてくるなんてことは――」
 そこまで言いかけて、ヴィンセントの頭の中にその時の映像が蘇る。
 あまりに激しい落下の衝撃と、霞む視界。貫く激痛と、その恐怖感。そして、光差す中に見えたのは……。

 ――ミルのしましまぱんつ。

「――。」
 ヴィンセントはあの時の映像を思い出してしまって、頭が真っ白になってしまった。口を開いたまま、斜め上を見上げて止まる。
「……どうしたの?」
 不思議そうな顔で、ミルはひょい、と懐から顔を見上げる仕草をみせる。それにヴィンセントははっ、となって、
「――あ、いや。恐ろしい思いはもうごめんだよな」
 と、不自然に微笑みかけながら、かろうじてまとめた。
(うーむ、参った。あの時のことを思い出すと、ついでにそれも思い出してしまう……)
 ヴィンセントは拳でこめかみを軽く押しながら落ち着きを取り戻そうとするが、さすがにインパクトが強すぎたせいか忘れることができない。焦れば焦るほど泥沼にはまっていくのが目に見えていた。
(……ミルの顔を見るたびに、パンツもセットって……俺は変態か)
 心の中で自嘲を繰り返しながらため息をついて、ヴィンセントはがっくりと肩を落とす。しかもミルは裾にフリルのついたジャケットにショートパンツと膝上のタイツという格好で、嫌が否にも視線が行ってしまうではないか。
「――ねえ」
 そこへ、不意にかけられるミルの声。視線は先程と同じく水平線に向けられている。
「ねえ、ヴィニーは海って好き?」
 予想外の助け船に、ヴィンセントはほっとしながら、静かに口を開いた。
「……ああ、実はあまり好きじゃない。昔、海でツレが死んだ」
 あまりに軽く言うのに、ミルは呆けた顔で振り向いた。それもそうだ、この流れでそんな話が出てくると思いもよらなかっただろう。
 その重い空気にヴィンセントはすぐにはっとなって、
「あ、悪い。もう過ぎたことだしあまり気にしてないんだ。だから、あんまり深刻に受取らないでくれ」
 と、慌てて言った。
「ううん、あたしはいいけど――辛くないの?」
 ミルは驚くばかりか、逆に不思議そうな視線を送りながら言う。それは同情や心配ではなく、知的好奇心なのか、それとも単なる気まぐれか。とにかくミルはいつもの明るい口調で、普通にそう言ったのだった。
「ガキの時の話だから、さすがに忘れつつあるよ。――けど、あいつのお陰で、人生の目標ができたのは感謝してる」
「へぇ〜、そうなんだ」
 僅かに微笑みながら、ミルは感心したような声をあげる。波風がミルのツインテールを撫でてゆき、その一房が首にかかる。ミルはそれを指で後ろにかき分けながら、期待のこもった瞳でヴィンセントを見つめ続けていた。
「ほら、当時って無知だったから。人工呼吸とか、心臓マッサージとかの蘇生術って何もできなくてね。もし何かできてたら、助かったのかもしれないなー、なんてね」
 わざと明るく微笑んで振る舞うヴィンセントに、ミルも明るく微笑みを返す。
「それから俺は、“知る“ために生きてる所がある。知ってれば助けられたかもしれない、知ってれば大丈夫だったかもしれない、なんて後悔して悩むのはもうゴメンだ」
 微笑みながら両手を広げて、大袈裟におどけてみせる。それにつられてミルも笑顔を返す。
「だから俺は、全てを知る、聞く、見る。そんなことばっか考えてる」
「エライな〜。あたし、そういう目標みたいなの、なんにもないから」
「目標ってほどじゃないかな。なんか生きてゆく上でのポリシー……みたいなものかな」
 ヴィンセントは照れ臭そうに頭を掻く。なぜこんなことを真面目に話してるのか、彼自身もよく分からなかった。
「……あたしね、立派なガーディアンズになるために、こないだ目標を立てたんだ」
 そこへタイミング良く、ミルが口を開く。
「ほう、それはいいことだと思うよ。……それで、どんな?」
 興味深そうにヴィンセントが聞くと、ミルににっ、と無邪気に笑ってみせる。それから、いつものように元気な声で続けた。
こちらグラール学園! | 「あたし、もっと恋をするんだ!」「……そ、そうか。頑張れよ」
「あたし、もっと恋をするんだ!」
「……そ、そうか。頑張れよ」
 ヴィンセントは一瞬目眩を感じながらも、すぐに持ち直して励ましの言葉を投げる。常に想定の右斜め上をいくミルへの返答としては、おそらく最短記録を更新しただろう。
「うん! ガーディアンズにはイケメンが一杯いるらしいから、それも期待してる。……あ、ヴィニーやセルジュがイケメンじゃないって意味じゃないから。もしかしたらそういうコトになっちゃうかもね、あははっ」
「――ははっ、それは光栄だね」
 これまたミルへの返答としては最短記録で、なおかつ満点に近い回答だったといえよう。
(まあ、こういう奴だからな……)
 ヴィンセントは小さくため息をついて、頭の中で独りごちた。彼女との会話は、常に話半分で聞いておけばいいんだろうな、ということを体感的に理解したからだった。
(でもまあ、そういう意味では――)

 ――知的好奇心をくすぐられる。

 周りにこんな面白くてブッ飛んだ奴はそういない。いや、セルジュも充分に面白いのだが、それとは違う面白さがある。
(……やめよう、趣味が悪いな。それじゃあまるで、研究動物を観察するようなものじゃないか)
 知識を求めているとはいえ、友達に対して一瞬でもそんなことを考えたことをヴィンセントは反省して、小さくかぶりを振った。
「おーい、ヴィンセント! なにミルちゃんを口説いてんだ、片付け手伝え!」
 不意に、セルジュの声が響いた。見ると、五十メートルほど向こうで、両手をぶんぶんと振り回している。もう陽が暮れかけているので、片付けを始めたらしい。バーベキューセットなどが解体されかけており、ゴミを集めている者もいる。
「お前じゃあるまいし、口説くわけあるか! 今行く! ――じゃあ、また後で」
 ヴィンセントは言いながら走り出しかけて、ミルを振り返って手を振ってから、また走り出した。ミルはそれに手を振って笑顔で答える。
「うぅん……」
 ヴィンセントの姿が小さくなると、ミルの笑顔にふっと影が落ちる。振った手もそのままで動きを止めて、
「……『口説くわけあるか』……かあ。あたしって、女の子として魅力ないのかな……?」
 と、静かに呟いた――。

 

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