学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

11th universe 任務、始めました(7)

「その根性は買うよ。だが、この人数を相手にどう立ち回るつもり?」
 オルハたち四人を囲む二十人以上のストリートチルドレンたち。技量は疑わしいとはいえ、この人数を相手にすればただでは済まないことなど、想像がついた。
「相手が悪かったね――レイラ」
「……!? 何故、私の名前を――」
 レイラ、と呼ばれた彼らを仕切る黒髪のヒューマン女性が、明らかに動揺した。隣に立つパーマがかった金髪のヒューマン女性も同じような様子で、手に持った光波鞭を弄びながら、オルハとレイラの顔を交互に見比べる。
「ええ、なんであたいたちのこと、知ってんの!?」
「キミも相変わらずだね、ジュディ」
「!」
 完全に、場の流れが変わった。
 一瞬にして、この場の主導権をオルハは握ってしまったのだ。
 ストリートチルドレンたちも自分たちのボスの動揺を受け、微動だにできなくなっている。
「――この顔を忘れたとか、言わないよね?」
 オルハは場の空気にふさわしくないほどの笑顔で、静かに言う。レイラとジュディは顔を見合わせて、それから首を傾げた。
「! まさか!」
 ジュディが目を見開いた顔を上げて、
「オルハ!?」
 と、素っ頓狂な驚いた声で叫ぶ。
「ええ!? まさか――髪型が違う! それにオルハは私たちと同じ年のはず。もっと成長しているはずじゃ……!」
「ボクを子供扱いするなあぁぁぁ!」
 オルハは勢いよくレイラに飛びかかり、毎度お約束の寸劇が始まったのだった。


「――任務は大丈夫か?」
「うん、たいちょー! ウォルター博士とヘレン女史の近辺には特に問題なし、引き続き警護を続けまっす!」
 ヒューバートはバインダーを閉じながら、目の前に座るキャスト女性に語りかけた。キャスト女性は身長が低くて、どう見ても少女にしか見えない。髪は頭部でシニヨンを二つ作っており、エメラルドグリーンの髪が明るさを感じさせる。体には前で合わせる上着とショートパンツ、花柄のアクセントのついた帯を腰に巻いており、“ミヤビカタ“と呼ばれる、浴衣のような服を着ていた。露出した肌はヒューマンそのもので、頭部にアンテナがついていなければキャストとは分からないだろう。
 とにかく彼女は、同盟軍兵士には見えない外見で、ヒューバートを笑顔で見つめていたのだった。
「ま、そこまで気合入れなくてもいいぜ。適当にやれ」
「だいぢょぶ、それほど真面目にはやってないから」
「……なんでこう、クソッタレばかりなんだ俺の部隊は」
 ヒューバートは苦虫を噛み潰したような顔をしてから、机の上にバインダーを放り投げた。
 ここは同盟軍本部内のヒューバートの隊長室だった。四メートル四方ほどの小さな部屋で、所狭しと本棚や机が並んでいる。入れば充分窮屈な部屋だというのに、部隊会議を行うこともある。
 そんなわけで、二人は向かい合って席に着いて、話をしていたのだった。
「……まあそれはさておき。フィオナ、まだうちの部隊に入って間もないが、少しは慣れたか?」
「うん、いい人ばっかでやりやすいよ。副たいちょーもまじめだし」
「そうか、それはめでてぇな」
 ヒューバートはぞんざいに言ってタバコに火をつけると、大きく吸ってから煙を吐く。
「もう一人ジムってのがいるんだが、そいつは広報部も兼務しててこっちにあまり顔を出さない。まあそのうち会う機会もあるだろ。……それはさておきフィオナ、あんたは体内に特殊装備を搭載した隠密特化型の機体だと上から聞いてる。一体どんな装備を積んでるんだ?」
「あー。フィオナの装備はすごいよ。自己修復能力はもちろん、対生物兵器のステイシスビーム、共鳴振動兵器のフォノンメーザーとか、バリアフィールドも展開できる……などなど」
「ほほー。そんな高性能な機体が、よくうちの部隊に配属されたな」
 ヒューバートが、ヒュウ、と唇を鳴らしてから、少し驚いた表情で言った。
「うん。性格プログラムの診断で、なんかたいちょーと気が合うかも、ってことらしいよ」
「……どういう意味だろうな」
 と、ヒューバートは呟いた。
「ま、それはさておき任務の報告していい?」
「ああ、それもそうだな」
 ヒューバートは答えながら灰皿に手を伸ばすと、タバコをもみ消しながら煙を吐く。
「尾行してきたキャストの情報なんだけど、これを見て」
 と言って、フィオナは自分の服の襟首を両手で掴むと、そのまま左右を二の腕までずり下ろして、ウィンクしながら胸を寄せて谷間を作ってみせる。本人は色気を出しているつもりかもしれないが、どう見ても子供のような体型なのだ、そんなものは微塵もない。
 だからヒューバートはそれに動じることなく、
「……それで?」
 とだけ、じとつく目線で言った。
「じょーだんじょーだん! んで、本題はこれなんだけど」
 言ってフィオナは服を元に戻しながら、懐から一枚のチップ状の記憶媒体を取り出す。ヒューバートはそれを受けとると、肩を開いてカードリーダーに差し込んだ。
「こないだ、博士がケーキ食べたいっていうから、連れてったげたの。そん時の映像」
「……どうにも緊張感が無いな、あの人は」
 視界の端にチップに収められた動画が再生され始める。映像は基本的にフィオナ視点だったが、飛行タイプの小型カメラの映像と同期が取られており、合計四つの視点からの映像を見ることが可能であった。
「見ながら説明するから、シェアして」
 フィオナは言いながら二の腕から一本のコードを取り出すと、ヒューバートはそれをカードリーダーの横にあるソケットに差した。すぐに同じ映像がフィオナの視界にも映りだす。
「もーちょい後なんだけど、尾行してるキャストらしき姿を撮影できたの」
「ほほう」

 映像は、ウォルターとフィオナがパルムの市街を一緒に歩いている所だった。身長差があるとはいえ、ウォルターは重度の猫背のため、隣で歩いていても違和感はない。
『ね、手つなご?』
『え? なんで僕と君が?』
『恋人同士のフリしてたほーが、密着してても違和感ないでしょ。フィオナは繋いだ手からハカセの身体情報欲しいの。何かあった時の予防として』
『う、うん、分かった』
 マイペースで強引なフィオナの提案に、ウォルターは明らかに動揺している。頬を赤らめて視線を不自然に逸らし、咳き込む姿がまたわざとらしかった。
 そのまま二人は歩いてゆく。時々フィオナがウォルターをからかったりしながら、パルムの中央広場へ到着する。それから広場の端にある、いやに派手な装飾とライトアップが悪趣味に思えた。看板には、“ナウラのケーキ屋“と書いてある。
『こんなところにケーキ屋があってごめんなさい!』
 店の前に立つ水色の衣服を着た女性が、大きな声で客引きをしているが、その言葉はどうにもおかしい。

「……なんで謝ってんだ?」
「たいちょー、そんなんだとモテないよ? “ナウラのケーキ屋“って店があって、パルムの洞窟で営業してんだけど、客がガーディアンズと同盟軍とリトルウイング社員しか来なくてもーかんないから、たまに市街地でケーキ売ってるの。だから、あの呼び方で客引きしてんのよ」
「……じゃあこっちを本店にすりゃいいじゃねぇか」
「た・い・ちょー!」
 フィオナが不意に、テーブルを踏み台に飛び上がったかと思うと、ヒューバートの肩に飛び乗った。ちょうど顔にべったり張り付くような姿勢になったかと思うと、そのこめかみを両の拳でぐりぐりしてやる。
「! 苦しい、そして痛ぇ! 何すんだ、落ち着け!」
「たいちょーが人の話を聞かねーからでしょ!」
「うるせえ、報告は結論から言え!」
「ちぇっ、早い男は嫌われるよ?」
「なんの話だ!」
 言ってヒューバートはフィオナの体を剥がしてひょいと抱え上げると、そのまま向かいの椅子に投げ捨てるように置いた。立ち上がったままでぜいぜいと肩で息をしている。
「もう、隊長のえっち。乙女の胸に顔を埋めるなんて……」
「てめぇが勝手に飛び込んで来たんだろが! それ以前に洗濯板にゃ興味ねぇ!」
「む。確かに貧乳ユーザーは少ないかもしれないけど、リピーターが多いって統計結果が出てんだよ?」
「知るか! いいから早く報告を続けやがれ!」
 ヒューバートは相変わらずぜいぜいと息をしながら、また椅子にどっかりと腰を下ろす。
「はいはい。――とにかくナウラのケーキ屋はさ、ぢょしこーせーに人気の店なわけで、先月のパルムウォーカーでも紹介されてたの。だからハカセはどうしても行きたかったんだって」
「なるほどねえ」
 ヒューバートは目もあわせずぞんざいに答えて、意識を映像に戻した。

『おおっ、ぢょしこーせーだ! あのせーふくは星グラール学園かな?』
『……』
 無駄にテンションの上がるフィオナだったが、ウォルターは変わらずいつもの様子で落ち着いたものだ。
『おや? ハカセはせーふく好きじゃない?』
『え?』
『なんでテンションあがんないの? あんな若いムスメさんたちがカワイイせーふく着て、太ももをうにょーんと出して、そこらじゅうをウロウロしてんだよ? 一人ぐらい持ち帰ってケンキューしたくなんないの?』
 フィオナが倫理も何もないムチャクチャなことを言うと、ウォルターはそれに特に驚くでもなく、ただ困ったような表情のままで見つめていた。
『ちぇ、ノリわりー!』
『いや、違うんだ。――いくら綺麗に着飾っても……中身が違うんだ』
『?』
 不意にウォルターがぽつりぽつりと話し始めるのは、誰かに話している言葉ではなく、単なる独り言。そうとしか思えないほどの小声だった。
『僕が求めているのは……大地を創造し全てを抱く母のような優しさ……いや、違う、それじゃあ完璧なものは出来ない……』
 ウォルターはまるでフィオナがそこに居ないかのように、虚ろな目線を遠くに向けてただぶつぶつと呟いている。その光景に、遠慮や謙譲や常識を置き忘れてきたフィオナとしては、
『ハカセ、きんもい』
 と、素直に思ったままの言葉を口にした。
『……そうかな?』
 ウォルターもウォルターで、罵倒に対して不思議そうな顔で聞き返す。
『そーだよ。もうちっと向き合ってトークしよーよ? 会話はキャッチボールだよ、キャッチボール』
『……』
 ウォルターはそれに答えず、ただうつむいていた。口では何かをぶつぶつと呟きながら。
『ま、いーや、とにかく並ぼー!』
 埒があかないと思ったのか、フィオナは彼の手をぐいと引っ張って、強引に長い列の最後尾に並ぶ。それからものの数分で二人の順番がやってきて、晴れてめでたくケーキにありつけたのだった。
 ぺらぺらのパルウッド紙でできた使い捨てのトレイに乗ったケーキとフォークを受け取って、二人は近くのベンチに腰を下ろす。フィオナはスイーツ・ベリーの乗った一般的なショートケーキを、ウォルターはクゴ栗の実の乗ったモンブランを注文していた。
 フィオナはそのまま慌てたようにケーキにがっつくと、感嘆の声をあげる。
『おおっ、これは美味だ! スポンジの焼き加減、クリームの配合割合、糖分の混合率もまったく文句ない! ……で、ハカセは何頼んだの? 一口ちょーだい』
『あ、ああ、モンブラン。昔からクゴ栗が好きなんだ、もっと言えば皮を剥く、という行為そのものが大好きだ』
『へぇー』
 フィオナはまるで興味のない相槌を打って、ウォルターのケーキをフォークでつつく。一口分を口に運ぶと、おおー、と小声で讚美した。
『栗はいいよ……あんな棘のある殻の中に、こんな美味しい実が入ってるんだから……』
『味はカンケーないの?』
 フィオナは自分のケーキも平らげていて、クリームまみれの口を手でこすりながら、聞き返した。
『食物の味は食べる前から始まってるんだ。器に盛り付けられた見た目もそうだし、食材そのものが生まれ持った形だって、影響する。そういうことだよ』
『――!』
 だが、フィオナはその視線をすぐに鋭いものへと変える。先程までとはまるで違う目付きに、ウォルターは思わずぎょっとした目をしていた。フィオナは鋭い視線のまま、膝からトレイとフォークが取り落とされるのも気にせず、ウォルターの手を握る。
『――ハカセ、フィオナの傍から離れちゃダメだよ』
『!?』
 フィオナはそのままの姿勢で、体内の機器に意識を向ける。フォトンレーダーに反応がある。
 距離、三百メートル。目標はキャスト一体。

 個体識別……unknown。

 製造メーカーであるGRM社部品特有の信号も発せられていない。GRM社以外にキャストを製造することは、技術的には可能でも法的に禁じられているはず。

 ――ならば、あれは何者だ?

 飛行型小型カメラを放つと、すぐに目標の近くへと向かわせる。植樹された木影に、確かに人がいる。影になっているせいでその姿ははっきりと分からないが、確かにこちらを窺っている。
『!』

こちらグラール学園! | いやに小さな影は、飛行カメラに向けて引き金を引いた。
 人影が反応した。いやに小さな影は、ナノトランサーからハンドガンを取り出し、飛行カメラに向けて引き金を引いた。消音装置付きの銃は静かにフォトン弾を吐き出し、カメラに吸い込まれるように着弾した。カメラの残りは、あと二つ。
『――!』
 カメラが破壊されたことにフィオナは、思わず小さな煙の影を見つめてしまう。
『あの小型飛行カメラを撃ち落とした――?』
 いくら精密さがウリのキャストとはいえ、空中を自由に飛行する全長一センチ未満の目標を一発で撃ち落とすなんて、常識で考えられることではない。

 ……フィオナの中に焦りが生まれた。

 今までは、その戦闘力は未知数だった。だが、これで目標はかなりの腕前であることがはっきりした。フィオナは遠距離からの偵察・隠密に特化したキャストだ、正面から戦って勝てる気がしない。
『……』
 だから、フィオナは飛行小型カメラを引き上げさせた。それから人影の方にゆっくりと体を向けると、そのまま睨みつけた。すでに発見していることをあえて明らかにして、場を掌握しようとする。
 幸い、人影は想定通り反対側へと走り去った。
『……髪?』
 僅かに日光を反射させ、きらりと一筋の光が見える。おそらく銀髪だろう、それが太陽の光を反射させ、僅かな煌めきを一瞬見せた。
『まあ……いっか』
 レーダーを確認すると、謎の機体はすでに区域外へと消えていた。それにフィオナは大きく息を吐いて、無い胸を撫で下ろす。もしこの場で本格的な戦闘が行われていたら、ナウラのケーキ屋も群がる女子高生たちも無事には済まなかっただろう。
 それに安堵を覚え、フィオナはもう一度、ゆっくりと息を吐いた。
『……ハカセ、もう大丈夫。あいつ逃げた。詳しい情報は得られなかったけど、少しはカメラに映ったし、解析できるかも』
 いつになく真面目に言いながらフィオナが振り向くと、ウォルターはそんな状況などお構いなしで、ケーキ屋に並ぶ人の群れを食い入るように見つめていた。
 それにフィオナは両手を広げてため息をつく。まあ確かに、遠距離の一瞬の攻防で緊張感は伝わりにくかったかもしれないが、女子高生に気を奪われているとは、なんとも報われない。
(ぢょしこーせーに興味なさそーだったのに……お目当てのムスメさんを見つけたと考えれば、ま、結果オーライかねえ)
 フィオナはそう自己解決して、ウォルターの後ろに立つ。不意に腰を掴んで、上体だけを左から回りこませて、彼の視線を追いかけた。
『こら、キョーミなさそうだったくせに』
『……』
 だが、ウォルターはそれに答えない。
 食い入るように見つめるその先には。

 ――ミルとネージュが列に並んでいた。


「なるほど、これが尾行者の姿か……早速解析を開始するか」
「ちょっと! 勝手に巻き戻しすんなー! このハゲ!」
「ハゲてねぇよ!」
 見るのが面倒臭くなったヒューバートは、勝手に尾行者の映っている箇所まで巻き戻して、話を進めることにしたのだった。


 ――“クズ鉄街“。
 学究都市ローゼノム・シティから出される廃材や研究材料を目当てに、いつしか人が集まって形成されたスラム街である。ある種のコミュニティとも言えるここは、あちらこちらにゴミが山のように積み上がっており、それを老若男女が漁る。そんな光景が、広がっていた。
 多数の犠牲者と半分以上の領域を消失しながらも、幸いにもシティの最も隅に隠れるように存在していたため、スラムそのものは存続し続けている。
 依存していたシティが消失しても、人々の生活はそこに息づいていたのであった――。

「いやあ、悪いねえ。まさかオルハが、昔のまんまだとは思っていなかったら。あはははっ」
 レイラが失礼なほどにけらけら笑って、ジュディも同じように堪えきれない笑いを洩らす。それを目の前にして、オルハはぷぅと頬を膨らませて、ぶすったれていた。
 ここはクズ鉄街の片隅にある、廃材の山で作られた丸テントのような小屋だった。つぎはぎの鉄板に腐りかけた材木、それを曲がった釘や錆びた針金で固定しているという、なんとも危なっかしい造りになっている。ただ、直径五メートルほどと広さだけはある。レイラとジュディに加え、ミルとネージュとオルハ、それにヴィンセントが入ってもまだ余裕があった。
こちらグラール学園! | レイラとジュディに加え、ミルとネージュとオルハ、それにヴィンセントが入ってもまだ余裕があった。

「ほお……廃材からここまでちゃんとした家屋を作るとは……」
 ヴィンセントはカメラを片手に、天井や壁に思いのままにシャッターを切っている。
「いやあ、ごめんごめん……にしてもあれから何年だっけ? 久しぶりだね」
「えっと……五年ぐらい」
 レイラが笑いの合間になんとか言うのに、オルハは拗ねたように素っ気なく返す。
「久しぶりも何もないじゃん! いきなり“ガーディアンズに入る“って言って姿を消したのはオルハじゃん! そして久々に現れたらもう結婚してるとか子供いるとか、一体どーいうこと!? あたいたちは仲間なんじゃないの!?」
 それにジュディが喚くと、オルハはばつの悪そうな顔で、
「んにゃ、まあ、いろいろあってさー。話すと長いんだけど……」
 と、静かに答えた。
「まあ、元気だったら別にいいんだけどさ。……で、ここに来たのは任務のためだろ? 何を調べに来たんだ?」
 埒があかないと思ったのか、喚くジュディを制してレイラが口を開く。
「あー、うん。コロニーの落下の影響でこの辺がどうなってるのか、定期的に調べてるんだよね」
「なるほど〜。どうりで今日は綺麗な装備の奴等がいっぱいいると思った♪」
 ジュディがにんまりと笑いながら言う。よく見ると腰にかけた光波鞭は、新品同様だった。
「……何組“狩った“の?」
「いや、たいしたことないよ。たったの三組! 大猟だった♪」
 無邪気にジュディが言うのにオルハは反論する気を無くして、ミルたちの方を苦笑しながら振り向く。それからがっくりと肩を落として、ため息をついた。
「……ま、ボクも人のことを言える立場じゃないしね」
「オルハさん、そもそも何故彼女たちと知り合いなんです?」
 ヴィンセントがもっともな質問を口にした。それにオルハは視線を逸らしながら静かに口を開く。
「あー、その……クズ鉄街はボクの故郷でもあったりするんだな。十一歳から十七歳になるまで、ずっと過ごしてた。だから、レイラとジュディは、幼馴染みなの」
「そうそう。オルハはあたいたちのリーダーだったんだよねっ」
 その言葉にジュディが補足して、ミルたちはおおー、と驚いた声をあげて少しどよめく。
「むかしガーディアンズの医療班を襲撃したことがあって、こてんぱんに返り討ちにされちゃった。そん時にエマって人と会って、その人が今はボクの師匠。それでガーディアンズに入ったんだよね」
「へえ……なんか意外! オルハさんって、裏の世界とは無縁の人に見えるけどなあ」
「ボクだって、できれば普通の生活がしたかったよ。でもねー、なかなかそういうわけにもいかないんだよねー」
 照れ臭そうにオルハが言うのを、ミルは不思議そうに見ていた。

(――十一歳の頃のあたしって、何考えて生きてたっけ?)

 ミルは右手で顎を撫でながら、うんうんと思考を巡らせる。
 ……だが、すぐに思い出せないあたり、本当に何も考えてなかったらしい。

 なので、ミルはものの数秒で考えることをやめた。
「……でも、すごい! あたしって、普通の家庭に生まれて普通に育って、なんの苦労もしてないかも……」
「み、ミル、考えすぎだよ!」
 眉間に皺を寄せてうつむきながら、あまりに深刻に唸るミルにネージュが慌てて声をかけた。
「別にいいじゃん、ミルにはミルの悩みだってあるでしょ?」
 動揺しながらフォローするネージュだったが、彼女だって客観的に見てミルより苦労しているのは確かだ。それを思ってか、ミルはネージュの言葉をどうも素直に受けとることができないでいた。
「あたし……」
 あまりに深刻な顔で口を開いたので、ネージュは思わずぎょっとなって上体を後ろに反らしてしまった。斜め後ろにいるヴィンセントに肩がぶつかるが、そんなことは気にしていられない。
「……壁から落ちかけたり、戦闘中も役に立てなくて……ちゃんと一人前のガーディアンズになれるかな……?」
「大丈夫! ミルなら絶対なれるって!」
 ネージュは身を乗り出して、両手でミルの肩をがっしと掴んだ。あまりに力が入っているのか、指先が皮膚に食い込む。ビーストの握力はミルの柔肌には強すぎる刺激だった。
「ネージュの言う通り。人にはいろんな個性がある、それでいいじゃないか」
 それを援護するように、ヴィンセントも口を開く。両手を広げて、まるで子供を諭すような口調で。
「……ねえオルハさん、立派なガーディアンズになるには、何が必要なんです?」
 うつむいたまま、ミルは静かに言う。どこか申し訳ないような、小さな声で。
「……なんだろ? ボクもよく分かんないなあ」
「……」
 ミルはオルハの顔を見てから、ちらり、と視線をその胸元にやる。それから、
「……体格とかじゃなくて、きっと内面的なものなんだろうなあ……」
 と、呟くように言った。
「ちょっと待てーい! 今どこ見て言ったんだよっ!」
「まあまあオルハさん。後学のためにも、ガーディアンズに必要なものってどう考えてるかだけでも、教えてもらないですか?」
「……え?」
 それに目を丸くしたのはオルハの方だった。

 ……正直、なーんにも考えてない。
 みんな一緒にいて楽しいし、戦うことはストレス発散のよーなもんだし。

 ――ああ、そうだ。
 ただ、強いて言うならば。
 思い当たることがひとつある。

『よう、オルハ』

 声量が大きくよく伸びる音は、一見しつこくそれでいて恐怖を感じるはず。だが、彼の声は違っていた。
 耳元を撫でるのは、太いけれど心地よい声。
 優しく撫でて、するりと鼓膜を通り抜け、ゆっくりと脳に染み渡る。
 それに一度満たされてしまうと、常に満たし続けていないと時々禁断症状が起こる。

 入隊して周りとうまくやれず、孤立していたあの頃。
 いつからか聞くようになった、自分の名を呼ぶあの太い声が好きだったから。


(――なんて、口が裂けても言えるはずないだろ)
 オルハは視線を落としてうつむくと、大きなため息をついた。
「……恋、ですか」
「え、ええっ!?」
 全て見透かしたようなミルの言葉に、オルハは口から心臓でも飛び出すほどの大口を開けて、素っ頓狂な声をあげる。
「だってほら、なんか赤くなってるし。その慌てっぷりも怪しいです」
「い、いや、別にそういうわけじゃ……!」
 慌てて否定するオルハだったが、説得力はあまりない。顔をますます赤くして、目の前でぶんぶんと振る掌もどうも動きが変である。
「言われてみれば、オルハさんは結婚して幸せな家庭を築いてるわけだし……。うん、分かった。――あたし、立派なガーディアンズになるために、もっと恋をしなくちゃいけない!」

「「「「……はああぁっ!?」」」」

 あまりにも右斜め上を行くミルの言葉に、全員が思わずハモってしまったのであった――。

 

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