学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

8th universe 任務、始めました(4)

 そして次の日、午前九時。

 ガーディアンズ・コロニー五階の本部受付前に、ネージュは立っていた。
(早く来すぎだよね……)
 実は昨晩、ネージュは緊張のあまり寝付けず、明け方に眠りに落ちたもののすぐに目が覚めてしまい、結局早朝からずっと起きてしまっていたのだった。
 予定時間は午前十時。確かに遅れるよりは良いとはいえ、いくらなんでもちょっと早すぎた。その証拠にクラスメイトは誰一人来ておらず、現役のガーディアンたちが慌ただしく走り回っているだけであった。
(忙しそうだなあ……)
 その光景にネージュは何やら申し訳ないような恥ずかしいような感覚にとらわれ、人目を避けるように壁の方へと向かって行く。それからいくつか並ぶベンチに腰かけると、ゆっくりと息を吐いた。

 ガーディアンズ・コロニー五階の本部前は、広いスペースが広がっている。扉をくぐると、幅十メートルほどの通路が百メートルほど続いていて、途中で瓢箪のように幅が広がっている箇所がある。そこに直径五メートルほどの円形カウンターが置かれた受付が設置されていて、揃いの制服に身を包んだ職員たちが慌ただしく対応を行っていた。奥の壁にはエレベーターが設置され、そこへ向かうように左右からスロープが伸びている。ここからガーディアンズ本部の内部に繋がっているのだった。

 ネージュはふと、ナノトランサーから一冊の本を取り出した。薄い桜色の透明なカバーがかけられたそれをぱらぱらとめくり、水仙をあしらった栞を取って、本文に目線をやった。そして、ものの数秒で本の世界へと入り込んでゆく。
 背表紙には“ソード・ワルツ“とタイトルが書かれている。作者は“ルイーザ・バッジオ“という女性で、巻数は六巻とあり、長編シリーズのようだった。
 ネージュは、このシリーズが大好きだった。話はいわゆる"中世ファンタジー"。つまり、フォトン科学が一切存在せず文化レベルも低い原始的な惑星に生きる人々が、今やレプリカとしてしか存在しない重量のある金属の実剣と、テクニックとは理論体系の違う"魔法"と呼ばれる不可思議な力を駆使するという独創的な世界観だ。
 ストーリーは、冒険大好き元気少女・ティルティの冒険譚だ。彼女は、怪力自慢の底抜けに陽気な男バハムート、影のある美青年魔術師グレイ‘(ダッシュ)、強さに貪欲な少年冒険者ラッシュ、失踪した夫を探す怪力主婦メルセデスと共に、冒険の旅に出る。家族のように助け合いながら生きる五人の冒険は、笑いあり感動ありのドタバタ劇。ネージュはこの物語が発表され始めた五年前から、ずっとこの作品を読んで育ったのである。
「あの、ひょっとして星グラール学園の生徒さんですか?」
 ふと、呼び掛ける声があった。それに気づいたネージュが少し視線を上げると、受付カウンターの中に立つ、茶色の長い髪で人なつっこく小動物を連想させる笑顔の女性が、こちらを見ていたのだった。
「……はい? 私?」
 立ち上がりながら本を閉じて、ネージュは早足でカウンターへ向かう。別に急かされたわけでもないのだが、そういう性分なのだ。
「そうです、星グラール学園の制服だから、ガーディアンズ科の生徒さんだと思って。実地研修の話は聞いていますから」
「は、はい……」
「……あ、私は受付のミーナです。よろしくお願いしますね、将来のガーディアンさん」
 言いながら微笑みを投げ掛ける彼女につられて、ネージュも思わず微笑み返してしまっていた。
「私はネージュ=ブリュショルリーです。こちらこそよろしくお願いします」
 ネージュは深々と頭を下げると、ミーナも軽く会釈してから微笑む。それから「あ、そうだ」と呟いてから、ディスプレイを指で軽く叩いた。
「確かまだ時間ありますよね? お暇なら、研修について簡単にお話ししましょうか?」
「あ、はい、よろしくお願いします」
 ネージュの答えにミーナはまた微笑んでから、流暢で流れるアナウンスのような口調で続けた。
「まず、簡単にシステムについて説明しますね。ガーディアンたちは任務に向かう際、ここ本部の受付か各惑星の支部で任務の受諾を行うんです。いわば、全ての任務をこちらで管理しているんですよ」
 うんうんと頷くネージュに、ミーナは説明しながらディスプレイを指で叩いてゆく。
「ですから、こちらに情報が……あ、ありました。星グラール学園ガーディアンズ科、一年B組二十名。旧ローゼノム・シティでの実地研修ですね」
「旧ローゼノム・シティ?」
 ネージュはそれに思わず聞き返してしまった。
 大気圏外からの巨大な質量の落下で、街は消し飛んだ。幸いコロニーは街を少し外れた箇所に落下したものの、それでもその衝撃は大地に激しい傷跡を残し、衝撃波が街を破壊した。具体的な数は明らかになっていないが、行方不明者もあわせると被害者は数万にのぼると伝えられている。そんなこと、グラール太陽系に住む者なら誰でも知っていることだった。
「な、なんでそんなところに……」
 だからネージュは、その単語に必要以上に畏怖して、震える声で聞き返した。耳も少し垂れてきており、完全にぺったりとなるまで時間の問題である。
「目的は、旧ローゼノム・シティの定期調査です。すでに調査隊は何度も入ってきており安全性は高いんですが、難民たちが入り込んだりモンスターがどこからともなく入ってきており、定期的な実態調査が必要なんです。そういう任務ですので、ガーディアンズ科の皆さんの研修材料として活用して頂こう……というわけです」
「なるほど……」
「もちろんですが、これはれっきとした任務ですので、油断はしないでくださいね。SEEDの驚異は去ったとはいえ、凶暴化した原生生物やSEEDモンスターの影響で生まれた新種なども確認されていますから」
 その言葉にネージュは、びくっ、と体を震わせ、両手で体を抱くような仕草を見せて半歩ほど飛び退いた。ついに両耳が完全にへたりと垂れて、彼女がいかに動揺しているかがすぐに分かる。
「まあ、大丈夫ですよ、現役のガーディアンも同行しますし、ガーディアンズ科の三年生も同行するようですから」
「ほっ……良かった……」
 あからさまに安心した表情を見せて、ネージュはほっとした顔で大きく息を吐く。その大袈裟な仕草にミーナは、思わず心配そうに微笑んでしまうのであった。
「はーい! おっはよおぉ!」
 元気すぎるその声にネージュは振り向いた。そこには制服のミルが元気良く両手をぶんぶんと振りかざしながら、入り口から走ってくる所だった。その良く通る明るい声に、周囲の人々が何事かと視線を向ける。
「ミル!」
 まるでデパートの迷子保護施設に親が迎えに来たように、ネージュはミルに飛びつく。誇張ではなく、本当に三メートルほど吹っ飛んだのだ。
「うわあぁぁぁっ!?」
 二人は身長差が頭一つほどもあり、おまけに体格も全然違う。言うなれば巨大な犬にじゃれつかれたようなものだ。哀れミルはその勢いに抵抗できるはずもなく、派手に吹っ飛んで二人して地面に頭から突っ込む羽目になった。
「あ〜あ……」
 それにミーナは思わず顔を手で覆って、どすーん、という地面にぶつかる派手な音を聞いたのだった。
「いったぁ……どうしたのネージュ?」
「だって……旧ローゼノム・シティに行くとかって聞いたから、心細くって……!」
 ちょうど仰向けに倒れたミルの上にネージュがのし掛かりながら、泣きそうな目で訴える。
「もう、もうすぐ出発なんだからいまさら心配してもしょーがないじゃん! ……それよりネージュ、おっきくならないから胸をつぶさないで〜!」
 ネージュははっとなって視線を落とすと、ミルを組み敷く両手はミルの胸を鷲掴みにしていたのだった。
「あ、ご、ごめん」
「――もう、ネージュはほんとに心配性なんだから。落ち着いて、大丈夫だから。ね?」
 ミルはいつものように微笑んで。両手をネージュの首にまわしてやり首を少し傾けると、まるで子供にでも言ってやるかのようにそう言うのだった。
「ぁう……ありがとう、ミル。ちょっと安心してきた……」
「よしよし♪」
 ミルはネージュの頭に右手を乗せて、軽く撫でてやる。それにネージュは明らかにほっとした顔で、ふにゃり、と微笑んだ。
「……あの、お二人さん。美しい友情を確かめてる最中悪いんですが……その、見えてますよ」
 不意にミーナが頬を赤らめながら声をかけて、それに二人は振り返る。それから顔を見合わせて、
「!」
 と、はっとした顔で慌ててスカートの裾を押さえた。
 そう、勢いよく吹っ飛んでしまったせいでスカートがまくれ上がってしまっており、ミルの白地に薄緑の横縞の入った下着と、ネージュのスパッツのお尻が丸見えになってしまっていたのだった。
「もうっ、ネージュが飛び込んでくるから! ううー、知らない人にぱんつ見られちゃったよぉ」

こちらグラール学園! | スカートがまくれ上がってしまっており、丸見えになってしまっていたのだった。
 ミルの声に、ラッキーな通行人男性たちは知らないフリをして、また歩き出す。今日一日彼らは幸せに過ごせることだろう……多分。
「ほら、みんなも集まってきてるからもう行こうよ」
 ミルに促されて入り口を見ると、入り口近くにクラスメイトや三年生たちが集まってきており、わいわいと修学旅行のような光景が繰り広げられていた。時計に目をやると、すでに九時四十五分になっている。二人は慌てて立ち上がると、入り口に向かって走り出した。
「星霊のご加護がありますように」
 ミーナが微笑んで見送りながら手を振ってくれたので、ネージュもそれに手を振って応える。
「――よし。これで全員揃ったな」
 並ぶミルたち二十名の顔を見回して、フランチェスコは頷く。少し離れた場所に赤いタイの三年生が十人ほど待機していた。
「それでは、簡単に説明する。全員二人一組になれ。それに現役ガーディアンと三年生が一人ずつ入って、合計四人でパーティを組んでもらう。今日は俺も引率をするからよろしく頼む」
 それに生徒たちは少しざわめきたって顔を見合わせてから、仲の良い者同士がペアを組んでいった。もちろん、ミルはネージュと組むことにする。
「……よし、別れたな。次、三年生」
 フランチェスコが三年生の方へ言って手を振ると、それに気づいてぞろぞろとこちらへ向かってくる。
「適当なペアについてやってくれ」
 投げっぱなしもいいとこであるが、とにかく三年生は手近なペアに歩み寄り、同伴するペアを決めていった。
「あ!」
 不意に、ミルがびしっ、と指を突きつけながら、素っ頓狂な声をあげた。クラスメイトたちはいつものことなので気にもしなかったが、ミルの奇行に慣れない三年生たちは何事かと視線を向ける。
「……ん? ミル、それにネージュ。……ああ、そうだった。ミルとネージュはB組だったな、失念していた」
 そう、三年生の中にヴィンセントがいたのである。
「はい、そうです」
 それにネージュが答えて、頷いた。
「ういーっす、なんだ二人とも居たのか。……お、ミルちゃん。ちょっと胸でかくなった?」
「もー、なんで真っ先にそこを見るかなあ」
 いつも通りのセクハラ発言をするのは、もちろんセルジュである。ミルも手慣れたもので、両手で胸を隠すように体を抱くと、おもいっきり舌を出してやって怒っている仕草をみせる。
「ミルにいやらしいことをするのはやめてください!」
 その光景に、ネージュは少し苛ついたように鋭い口調で言って、両手を広げて立ちはだかる。先程まであれほど怖がっていたというのに、友情が彼女に力を与えてくれるのだ。
「してねぇよ。言ってるだけだ」
 自覚はあるらしい。
「じゃあ、ネージュちゃんの胸で……おお〜、相変わらずご立派なことで」
 セルジュが言いながらにやけた笑いを浮かべて、露骨にネージュの胸に視線を向ける。ネージュはそれに胸を隠す――ことはせず、右手をぐん、とわざとらしいほどに大きく振りかぶったかと思うと、セルジュの顔面めがけて渾身のストレートパンチを放つ。
 ぼっ、と周囲の空気を貫いて放たれた拳。あまりの速度にその影がぶれ、まるで大気圏に突入した隕石が目の前に現れたような、そんな印象を与えた。
「っと。……おいおい。ビーストの全力パンチなんか食らったら、鼻が折れる」
 それをセルジュは軽く身を反らしてかわすと、からかうような口調で言う。
「だからわざと分かりやすく、予備動作を大きくしてあげたんです!」
 それにセルジュは両手を広げて首を横に傾けると、
「分かった分かった、悪かったよ」
 と、苦笑しながら答えた。
「――で、俺はどこのペアを担当したらいいんだ?」
 セルジュが言うのに、ミルとネージュはヴィンセントの上着の裾を掴んでさっと背中に隠れる。そこから顔だけを出して、おどけて舌を出した。
「残念でしたー♪」
「他を当たってください」
「……おいおい」
 それにヴィンセントは後ろとセルジュの顔を交互に見ながら、困った表情で言った。相変わらず冷静な声ではあったが、動揺しているのはすぐに分かる。
「ちぇっ、いつもヴィニーが美味しいとこ持ってくんだよなぁ。まあいいや、俺は他のねーちゃんのとこに行くから」
 言ってセルジュは歩きながら頭の上で手をひらひらさせながら、三人に背を向ける。すぐに向こうから、
「きゃー、せんぱーい! こっちが空いてますぅ!」
「先輩、いろいろご指導くださぁいっ!」
 と、一つの女性ペアから黄色い声が上がり、それに手を振りながら向かっていった。女生徒はきゃいきゃいと声をあげながら、わざとらしく手を握って引っ張ったりとスキンシップを取りたがっている。
「へぇ、モテるんだあのヒト」
 ぼそり、とネージュが呟くように言った。なんだか含みのある地の底から響くような低いトーンの声で、正直恐ろしい。
「元俳優だし外見はかなりいいからな。本能に素直すぎるけど、女性の扱いも心得てるからかなりモテるよ、あいつは」
「ヴィニーだってモテそうだけど?」
 呟くヴィンセントに、ミルが不思議そうに言う。恐るべし天然リップサービスは今日も調子がいい。
「ああ、俺はモテないよ。近づいてくる女の子のほとんどは、セルジュ目当てだから」
 ヴィンセントは両手を広げながら困ったように言う。先程の女生徒の反応を見ると、あながち嘘ではなさそうだ。
「よし、これで全員だな。ガーディアンの方たちが来るまでしばらく待機」
 フランチェスコがそう言うと、生徒たちは同伴する三年生を交えての挨拶大会を繰り広げ始めた。それに従って、ヴィンセントも右手を差し出す。
「まあ何にせよ、改めてよろしく頼む」
 ミルとネージュはその手を握り返して、
「うん、ヴィニー。こちらこそよろしくね!」
「ヴィンセントさん……よ、よろしくお願いします」
 と、ミルはいつも通りにこにこと笑いながら、ネージュは人見知りスキルを発動させながら。三人は握手を交わしたのだった。

「――だから、ボクは言ってやったんだ。"御託はいいからストライカーに乗らせてよ"って!」

 不意に、奥のエレベーターの方から、元気な声が聞こえてきた。明るくよく通る、まるで夏の野に咲くサン・フラワのような元気さだ。
 それは十人ほどの現役ガーディアンの先頭を歩く、一人の少女――オルハだった。今は彼女もガーディアンズの制服である白いブラウスに青いプリーツスカートに身を包んでいる。
「あはは、それは私も見てみたかった〜!」
 それに答えながら隣を歩くのは、イチコである。彼女もガーディアンズの制服を着ており、オルハの言葉にきゃいきゃいと楽しそうに笑いながら歩いていた。その二人に続いて、さらに七人ほどのガーディアンがこちらへと歩いて来ている。
「あ、フランコじゃん。じゃあ星グラール学園の生徒さんって、ここ?」
「ああ、そうだ。今日は俺も教官として出るから、よろしく頼む。――ああイチコ、今日は生徒を剣に巻き込まないでくれよ」
「えー。今日はそんなことしないよー」
 フランチェスコが真面目な顔で――当人はおどけているつもりなのだろうが――言うのに、イチコは明るく答えた。……いや、問題なのはそこではなく、“今日は“と言っていることなのだが。
 とにかく、ガーディアンたちが適当に別れて、生徒のペアについていったのだった。
「ボクはオルハ=ゴーヴァ。今日はよろしくねー」
 ミルとネージュ、それにヴィンセントの前に現れたのは、オルハだった。ひらひらと手を振りながら、気の抜けた……いや、肩の力の抜けた軽い挨拶を投げ掛ける。
「ミル=ウジェーヌです。よろしくお願いしまーす!」
 ミルは元気そうに両手を差し出して、オルハの右手をがっしと掴むと、ぶんぶんと上下に振る。
「ネージュ=ブリュショルリーです。よ、よろしくお願いします」
「ヴィンセント=チェンバレンだ。今日はよろしく」
 それに続いてネージュとヴィンセントは少し不思議そうな顔をしながら、握手を交わした。それから二人はばち、と視線が合って、同じことを考えていたのに気づいたらしく小さく頷く。
(……ガーディアンズって未成年でもなれるんだっけ?)
(まあ……満十四歳以上でもなれるけど、研修講師であることを考えると……)
 二人はそんなことを小声で言いながら、首を傾げている。そう、オルハは身長が低く体つきも幼児体型なのである。第一印象では彼女が既婚者で子供もすでに居ることなど誰にも分からない。
「じゃあ、これからスペースシップでパルムに降りて、それからリニアラインで旧ローゼノム・シティまで移動するから」
 戸惑うヴィンセントとネージュを気にせず、オルハは言う。それに三人は頷いた。
「おい、ヴィニー! 見ろよ、うちの教官スッゲー可愛いんだぜ!」
こちらグラール学園! | 「おい、ヴィニー! 見ろよ、うちの教官スッゲー可愛いんだぜ!」

 ……ここにも空気を読まない者がいた。セルジュはイチコの手を引っ張りながら駆け寄ると、ヴィンセントの肩をがくがくと揺らしながら興奮した様子でまくしたてる。イチコはそれに唖然とした様子で、状況を理解できていない、という顔で無理矢理引っ張られてきていた。
「ああ、ほんとだ。やったじゃねぇか」
 相変わらずヴィンセントは、そんな調子でぞんざいに答えてやる。
「えっと、名前なんだっけ。イチ……イチゴ?」
「イチゴじゃないよ、イチコだよっ!」
 ここでやっとイチコは我に返ったように、言った。彼女の出身地はニューデイズでもやや外れた場所にあり、グラール人には発音が難しいのである。
「なあなあ、そんでお前んとこの教官美人か?」
 だがセルジュはそれを聞いているのかいないのか、相変わらずなのだった。
 それからセルジュはミルたちを見回して、オルハとばっちり目が合う。

 ……一瞬、セルジュの動きが止まった。
 驚いたままこわばった顔で、オルハの頭のてっぺんから足元を見て、それから視線を胸に戻して。また固まってしまう。

「……」
「……? ボクの顔に何かついてる?」
 セルジュは完全に固まって、立ち尽くしていた。たっぷり五秒ほど経ってからふと我に返ったように、飛び上がってオルハに指をつきつける。
「おいおい、なんだぁ!? なんで教官にガキが――」
「ボクを子供扱いするなあぁぁぁっ!」
 セルジュが素頓狂な声で叫んだ途端、その右腕を絡め取られて地面に組み伏されてしまったのだった――。

 

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