学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

5th universe 任務、始めました(1)

 それから、一ヶ月ほどの時間が流れた。

 ガーディアンズ科の新入生はその間、基礎的な授業を受け続けてきた。基礎として、フォトン科学、ガーディアンズの歴史、サバイバルの知識。戦闘知識として、適正を考慮した武器の扱い、テクニックの原理とその基礎。初めて触れることに生徒たちは戸惑いながらも、日々の訓練に励んでいた。
 カリキュラムは一・二年で基礎を修得し、三年生からはより専門的で実践的な授業になる。アシスタントとして実際に任務に同行し、戦力として期待される。卒業証書と共に訓練校での実地研修を免除され、すぐに一人前のガーディアンズとして任務に就くことができるようになるのだ。
 確かに、公式には十四歳以上で健康であれば、誰でもガーディアンズに入隊できることになってはいる。訓練校に入学して、三ヶ月の訓練後に訓練教官の指導の元で実地研修を受ければ、任務を受諾することが可能なのだ。
 だが――敷居が低いからと安易に入隊して、殉職する者も少なくはない。そういった事情もあり、星グラール学園では三年もの間、びっしりとカリキュラムが組まれていたのだった。そのため、生徒たちは真剣に授業を受けていたのである――。

「せーの……爆発しちゃえ、ラ・フォイエ!」
 ミルが杖を降り下ろすと、三メートルほど離れた所で爆発が起こる。だが、爆発は半径一メートルにも満たない小さなもので、とても攻撃テクニックとは言い難い威力だった。
「はあ、はあ……っ」
 ミルはぽたぽたとこぼれ落ちる汗をそのままに、両手を膝についてがっくりと腰を折った。
「ミル=ウジェーヌ! まだまだバテるには早いわよ!」

こちらグラール学園! | その様を見て、水色の髪を短くまとめたニューマンの女性がミルを叱咤激励した。
 その様を見て、水色の髪を短くまとめたニューマンの女性がミルを叱咤激励した。上には首から肩を露出した青いホルスターネックの”ファニエスアッパーズ”というパルム製の上着を身に付け、下は足のラインの露な青い”ファニエスパンツ”というパンツに身を包んでいる。
「シェスせんせー、あたし無理。もう死んじゃう」
 それに振り絞るような声で答えて、ミルは手の甲で額を拭う。
 今はまだ、二時間目。授業は九時より始まり、一コマ五十分の授業の後に十分の休憩。これが六時間目の終了時刻である十五時五十分まで続く。だからまだ、時間は十時をまわったばかり。なのに、ここまで疲労しているのは授業がハードであるからに他ならない。
 場所は、ホルテス・シティより少し山へと入った、ラフォン草原近くの森の中。そこで十人ほどのフォースを目指す生徒たちが、いつもの制服に身を包んでテクニックの練習を行っていた。
「ミル、あんたは精神的なムラが激しすぎるのよ。普段は小さく安定させといて、必要な時に一瞬だけ爆発させてテクニックを放つ。……分かる?」
「いえ、正直さっぱり」
「……そういうことは堂々と言うもんじゃないわよ。まあ、説明するより見せた方が早いわよね」
 言ってシェスはウォンドよりひとまわり以上大きく、両手で扱う長杖、“ロッド“を取り出した。ウォンドよりサイズが大きく扱いにくいが、フォトンリアクターの出力や容量が大きく、高いポテンシャルをもってテクニックを引き出すことができる。その中でも高位の”カザロドウ”と呼ばれるこのロッドはニューディズのヨウメイ社製で、熟練したフォースでないと扱えないものだ。
「いい? 確かにテクニックは媒体である杖の力を引き出すものだから、誰にでも発動させることはできる。詠唱だって精神を集中させるのを補助するだけよ。でも――」
 シェスはロッドをくるりと回してから眼前で構える。
「……!」
 ミルはその姿に思わず息を飲んでしまった。

 ――その構えはあまりにも自然体すぎた。

 杖を持つ固定された肘にも、体を支える背骨も、流れる髪でさえも。
 全てが、自然にそこに在るのが当たり前のように、ただシャープなシルエットを形作って、シェスはそこに立っていた。

「――本来の力を発揮するには、素養とお勉強が必要。余計な力が入っていると、最高の状態でテクニックは発動できないわ」
 言ってシェスは、ゆっくりと流れるような動きで杖を振り上げた。大きく息を吸いながら、まるで深呼吸でもするかのように。
「――我は命ずる、内より生まれし焔よその胸を掻き毟れ……ラ・フォイエ!」
 シェスは杖先をぐん、と前に突き出す。その瞬間、今まで自然体だった彼女の体が鋭い一本の針のように研ぎ澄まされ、周りの空気がごうと音を立てて唸った。
 それから彼女の前方十メートルほどの地面で、激しい爆発が巻き起こる。地下のマグマが吹き出したと錯覚するような勢いの炎が、半径五メートルほどの空間を包みこんで荒れ狂った。
「!」
 ミルはそれに思わず一歩後ずさり、他の生徒たちもそれに感嘆の息を漏らす。あまりに激しい爆炎に、ではない。シェスがその瞬間に見せたフォトンの動きに、驚愕したのだ。
 ニューマンは元々、フォトンの研究開発を推進するために産み出された種族だ。生まれつきフォトンの扱いに長け、少しの修練を行えばフォトンの動きを感知する能力を容易に会得する。ミルや他の生徒たちも当然、ここ一ヶ月の授業でそれを会得していた。
「……」
 だからミルは、先程シェスの言っていることが目の前で現実に行われていて、瞬時に理解したのである。

 まずは、シェスの肉体が自然界に漂うフォトンに溶け込んだように見えた。本当にフォトンと同化したように感じたのだ。
 それから大きく息を吐くのと同時に、フォトンたちは一瞬にしてシェスの体内に吸い込まれた。彼女を中心に半径五メートルほどの球状に磁場が発生し、シェスの体にフォトンを一気に流し込んだ。
 そのフォトンはそのまま媒体である杖に流し込まれる。杖はそのフォトンを一気に圧縮・増幅し、本来杖が持つフォトンと合成し、テクニックとして解放する――。

 それら全ての流れを、ミルは感知していた。

「――せんせーって……実は凄かったんですね」
 ミルは、思った言葉をただ口にしていた。圧倒され、そう呟くしかなかったのだ。
「“実は“って、どういう意味よそれは」
 シェスはちょっとおどけて言いながら、杖頭でミルの頭を叩く真似をしてみせる。それにミルもおどけて頭を覆いながら、いたずらに舌をちろりと出してみせた。
「危うくせんせーに惚れちゃうとこでした」
「残念ながらそんな趣味はないわよ。私はルツ様一筋なんだから」
 相変わらずのミルに、シェスもいらぬ自己主張で返す。
 “ルツ“というのはグラール教団のトップである、星霊主長を勤めるイズマ=ルツのことだ。クールなマスクとどこか影のある雰囲気が若い女性に人気がある。最近は観光親善大使にも就任しており、メディアへの露出も多く女性ファンがかなり多いそうである。
「あー、確かにルツさんはイケメンですよね!」
「でっしょお!? この間もさぁ、オウトク山で観光推進のアピールイベントがあったわけ! で、私に微笑みかけて手を振ってくれたのよ。もう死んでもいいとか思っちゃったわ!」
 シェスは首を左右にぶんぶん振り、まるで夢見る少女のように頬を赤らめ、乙女のような恥じらいを見せる。その微妙に痛々しい光景に、生徒たちがじとつく視線を冷たく浴びせたのは言うまでもない。
 それに気づいたシェスは我に返って頬を少し赤らめると、
「はっ……えーと……ほら、手を休めてんじゃないわよ。ささっ、授業を続けるわよ!」
 と、大きな声で言った。


 ――あれから五年以上経ったというのに。

 忘却の渦の中に全てが消えてしまうには充分な時間が過ぎた、と言い切れるというのに。

 それでも、それでもまだ。

 彼と初めて出会った時のことは、今でも鮮明に思い出すことができる。

『よう、俺はランディってんだ。よろしく頼むぜ』

 初めて任務で会った時、身長二メートルを超えるビースト男性は抑えきれないぎらぎらとした熱意をオーラのようにまとって、大きな右手を差し出した。
 それは、ボクの小さな手の二倍はあるかと思うほどに大きくて、
『うお、手ちっせぇ! 子供か!?』
 とか言うから、思わずその腕に飛び付いて関節技を極めてやったんだ。
『いってぇ……初対面のくせに腕を極めやがったのはお前が初めてだぜ……。まあいいや、よろしく頼むぜ、オルハ』

「オルハ?」

「!」
 オルハははっと我に返って、思わず辺りを見回してしまった。その大きな瞳を見開いて、肩口で切り揃えられたブロンドの髪が揺れて水滴を飛び散らせる。そばかすの残る頬が赤く上気していた。
 彼女は今、小さな露天風呂のへりに座って足だけを湯に浸していた。体にはバスタオルをぐるっと巻いてそのボディラインを露にしているのだが、身長百四十センチほどで凹凸に乏しく、どうにも色気を感じるにはほど遠い……いや、これはこれで一部のマニアな方にはいいかもしれない。
「……?」
 青がかった銀髪の青年が、腰にタオルを巻いただけの裸のままで立ち上がって、不思議そうに目を丸くしてオルハの顔を覗きこんでいた。
「どうしたんですか、ぼーっとして?」
「あ、アイン。……ううん、なんでもない。家族団らんの幸せを噛み締めていただけさっ」
「……?  ならいいんですけど……」
 照れ隠しにわざと強がってみて、オルハは鼻をこすりながら答える。それにアインは明らかにほっとした顔で、湯船の向かいにまた腰を下ろした。
「ままー?」
 茶色の短髪が似合う少年が、湯船の中で立ちながら不思議そうにオルハの顔を見上げていた。
「ああ、ごめんねランディ。なんでもないから」
 オルハは微笑みながら、体に巻き付けたバスタオルの胸元をずり上げて直した。

こちらグラール学園! | 三人は今、ニューデイズのクゴ温泉の旅館で個室露天風呂に入っていた。
 三人は今、ニューデイズのクゴ温泉の旅館で個室露天風呂に入っていた。いつからか流行りだした、客室に専用の露天風呂が備えつけられている宿泊施設で、三階の部屋のベランダから露天風呂の部分が大きく外へと張り出している。壁はもちろん外側からは見えないが中から外はよく見えるようになっており、湯と景色を一度に楽しめるという贅沢な作りだった。
 秋ならば視界全体を紅葉が彩り、湯気にかすむ山脈と自然のコントラストが絶景を作り出すのだが、残念なことに今はオフシーズン。青々とした自然が若い躍動感を醸し出していたが、これはこれで豊かな自然の恵みを全身で感じることができるというものである。

「でもさあ、安く来れて良かったよね」
 オルハはばたばたと不器用に泳ぐランディの腰を掴みながら、湯船に腰まで浸かって言った。向かいに座るアインはそれに大きく頷いて、
「そうですね……でも、ちょっと遅めの新婚旅行になってすいません……」
 と、申し訳なさそうな表情で頭を掻きながら言う。しゅんとしたその姿は、まるで親に叱られた子供のようで、見ているこちらの方が申し訳なくなるほどである。
「アインが謝ることじゃないよ。結婚してしばらくは育児のこともあったし、ボクもガーディアンズに復帰しちゃったりしたし……」
 オルハが気まずそうに視線を上げて、その頬を人差し指で掻く。確かにランディを身籠ったのが分かってから籍を入れたし、ランディが生まれてからは育児に忙しく、落ち着いたと思えばガーディアンズからの復帰要請に従い再入隊。籍を入れてから三年も新婚旅行に行けなかったのは、大部分がオルハの都合だということは本人も自覚するところだったからだ。
 そんなわけで、多少遅めの新婚旅行は親子三人で仲良く、となったのである。
「いえ、僕も何かと忙しくて、申し訳ないです」
「そんなことないよ。アインは頑張ってるって、ルディも言ってたよ?」
「そうでもないです、未だにルディ隊長から一本取れたためしがないんです……」
 アインはがっくりとうな垂れながら言うのだが、その声の末尾は弱気で小声になっていた。
(……まあ、相手が悪いような気もする)
 オルハ自身とルディは、それなりに関係が深いので、彼のことはよく理解しているつもりだ。

 ひとつ、外宇宙から大昔にグラールへ飛来した“オラキオ一族“。彼らは戦闘に優れた一族であり、ルディはその全部隊を治める立場を実力のみでもぎ取ったような男だ。
 ちなみにオルハの父もオラキオであり、グラール人とのハーフであるオルハはガーディアンズ内でオラキオとの連絡役が主な仕事となっている。
 ふたつ、三年前に“SEED事変“の際、オルハは別の極秘任務を受けていた。“コナンドラム事件“と呼ばれるそれは、バーバラ=キンケードという科学者がアドバンスド・フォトンの空間転移能力を転用し“記憶“の操作を行い始めたことに端を発する。その任務はオラキオの協力なくしては達成できなかった。
 追い詰められたバーバラは、千年に一度蘇るという全ての生命体の敵とでも言うべき破壊神・ダークファルスを復活させた。その最後の戦いには、オルハもルディも参加していたのである。

 そんなわけでルディのポテンシャルの高さは理解していたし、この数年での著しい成長も目の当たりにしている。
 対するアインはといえば、決して戦闘民族の血を受け継いだとは言い難い。どうにも繊細すぎるし、目標を打ち倒すという思考がそもそも無い。目の前の裸を見れば解るように決して体格にも恵まれておらず、むしろ“痩せすぎ“と診断するのが妥当だと思えるほどだ。
 そして、良く言えば穏やかで優しく、悪く言えば優柔不断。武器を持ったローグスが不意に襲いかかってきたとしても、まずは「話し合いをしましょう」と言い出すだろうことは想像がつく。

 要するに、アインはまったくもって戦闘に“向いてない“のだ。

「……まあ、そういうとこがいいんだけどさ」
「……?」
 オルハの独り言にアインは首を傾げて、不思議そうな視線を向ける。
「な、なんでもないよ。とにかくさ、ルディは特別なんだって。あいつ、栄養が全部筋肉にいってるんだから。ヒトがどんなに頑張っても馬より速く走れないでしょ、それといっしょ」
 哀れルディは、もはやヒト扱いすらされなくなってしまった。
 とにかく、アインはそれを聞いてもどこか納得のいかない表情で、うーんと唸って両腕を組む。すっかり考え込んでしまった。
(……時々ムダに頑固だよなあ、アインは……ま、いいか。ほっとこう)
 オルハは優しい息を小さく吐くと、ランディの小さな体を抱き上げて、膝の上にひょいと乗せる。オルハ自身が小さく、ランディも三歳児にしては身長110センチほどと大きいため、どうにも親子というより年の離れた姉弟という印象である。
(あー、これが終わったらまた仕事かぁ……そういや確か星グラール学園の実地研修の同伴があったなあ……)
 そんなことを考えながら、オルハはまたバスタオルの胸元を直す。起伏が乏しいのですぐにずり落ちるのだ。
「僕ももっと腕を上げないと……」
「……もういいじゃん、考えすぎるのも良くないよ」
 呟くアインに、オルハはため息まじりにつっけんどんな答えを返す。正直、ちょっと面倒になってきたのだ。
「そう言うオルハも、ガーディアンズとしていろいろと努力し続けないといけませんよね。お互い頑張らないと……」
 アインの言葉を遮って、オルハは少しムッとしたような顔をして。
「……ったくもう、アインは女々しいなあ」
 オルハはずかずかとアインに歩み寄り、膝に乗るランディを抱きかかえたまま、彼の膝にどっかり、と座った。それもアインの方を向いて。
「あうっ」
「ったくもう。ボクはどれほどの愛の言葉を囁けば、キミは満足するわけ?」
 オルハはそのまま、眉根を寄せたままのじとついた目線でアインに言う。
「ね、ランディ。パパはほんとワガママだよねー?」
「きゃははっ! ぱぱ、わがまま!」

 ……そんな微笑ましい(?)光景の中、アインの脳裏には。

 “鬼嫁“という文字だけが、思い浮かんでいたとか、いないとか。


 ガーディアンズ・コロニー本部の前。入り口上部に掲げられたロゴマークを見上げて、一人の男が立っていた。
「――」
 男性は全身を厚手のローブですっぽりと覆っている。隙間から、ちらちらと濃緑の短い頭髪と長い耳が覗き、彼がニューマンであることを物語っていた。
 白いシャツに青いスラックスという、近年導入されたガーディアンズの指定服に身を包んでいる。だがその体躯は体格に恵まれないニューマンとはいえ、あまりに細すぎた。
「お待たせ、ファビア」
 そんな彼に声をかけるのは、ビーストの少女だ。赤褐色の髪を胸ぐらいまで伸ばし、きっちりと切り揃えている。丸く人なつっこそうな大きい瞳とぷっくらとした頬、そこから溢れる自然な微笑みが、彼女の素直な性格を表していた。法衣のような白い上着とピンクの袈裟一体になったような”カラワイワンピース”を着て、巻いた布にリボンをあしらったようなソックスを履いている。
 両手を後ろで組んで、どこか気恥ずかしそうにもじもじとしながら、上目使いでファビアを見つめている。
「ネイ、どうでした? 登録は問題なく進みましたか?」
 ファビアは彼女に歩み寄りながらローブのフードを捲りあげると、心配そうに微笑みながら言った。
「うん。ちゃんと研修生に登録されたよ。これから、いろいろと訓練を受けなくちゃ」
「それは良かった、これでネイも一人前ですね。おめでとう」
「そんなことないよ! まだ全然経験不足だし」
 ネイは慌てて目の前で両手をぶんぶんと振って、謙遜してみせる。ファビアは彼女の前で屈み込んで目線の高さを合わせると、
優しく微笑みながら手を伸ばして彼女の頭にそっと置いた。
「技術的なことはこれから学べばいいんです。今はとにかく、ガーディアンズへの第一歩を踏み出せたことを、素直に喜びましょう」
「う、うん……」
 あまりにまっすぐな瞳で見つめながらファビアが言うのに、ネイは顔を赤らめながらうつむいて小さく頷く。それにファビアは満足そうに微笑んでから、ゆっくりと立ち上がった。
「さあ、今日は帰りましょう。お祝いにご馳走を作らないといけませんからね」
「手伝う! ネイも手伝う!」
 ファビアが言うのにネイはばっと左手を上げて振ってみせ、右手の人差し指で自分の鼻を熱心に指差す。
「だめです、今日はネイのお祝いなんですから。私に作らせてください。いいですね?」
 ファビアは優しく説きながら彼女の手を取って、歩き出す。ネイも自然にその手を掴んだまま、歩き出した。
「……ああ、そうです。ネイが研修生になったお祝いに、何かプレゼントをあげようと思うんですが、何か欲しいものはありますか?」
「……欲しいもの……?」
 優しく投げ掛けられたその言葉に、ネイはぽかんとした顔で見上げて、首を傾げる。それから、うぅんと唸って急に視線を落としたかと思うと、わなわなと僅かに震え始めた。
「えっと……その……っ」
「? どうしたんです、遠慮なく言ってください」
 ファビアは突然の状況を把握できず、不思議と驚きのこめられた表情で優しく言う。だが、ネイは胸の前で両の拳をしっかりと握りしめたままで、わなわなと震えていた。
「ネイ……ずっと欲しいものがあるの」
 ネイは顔を真っ赤にしたままで、強い視線で顔を上げる。あまりに決意に満ちたその表情に、ファビアは驚いてしまった。

 ……これほど思い詰めているとは、一体どれほど高価な物が欲しいのだろう……と。

こちらグラール学園! | 「あのね、ネイ……赤ちゃんが欲しいのっ!」
 「あのね、ネイ……赤ちゃんが欲しいのっ!」

 ――周囲に響き渡る大声でとんでもないことを言われて、ファビアは一瞬硬直してしまった。周囲の通行人たちも複雑な視線を二人に向け、ファビアは我に返ると両手をぶんぶんと振り回しながら、挙動不審な動きをしている。

 そう、年齢の問題こそあるものの、すでに二人は事実上の夫婦なのだ。

 そして、結婚生活もすでに三年が過ぎた、ある日の出来事であった……。

 

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