学園生活恋せよ乙女っv ガーディアンズは大・変・だっ!

小説・ファンタシースターユニバース Episode2 こちらグラール学園! 1年B組ガーディアンズ科

1st universe 蕾のように(1)

 下校時間になって学校を出たミルとネージュは、そのままホルテス・シティの西地区へと向かう。西地区はGRM社のお膝元であり、大型の直営ショップを設けている。すぐ近くには同盟軍も本拠地を構えており、少し離れた所にはインヘルト社という服飾や化粧品業界で多くのシェアを持つ総合商社があった。
 だが、二人はそういったものには当然興味などなく……。
「ねえねえ、これなんかどう?」
「うん、いいと思うけど……もうすぐ暑くなるし、ミルはもっと露出してエロカワ狙った方がいいと思う」
「そーだね、夏に向けてダイエットして肌出すか〜。胸がこれ以上減らないといいんだけど」
 GRM社直営ショップの近くにショップが立ち並ぶ商店街があり、その中には衣服を扱う“CUBIC DESIGN“というお店があった。ガーディアンズ向けに“シールドライン“というフォトン防護システムを組み込んだ服が一番のウリだったが、それ以外にも様々な衣服を取り扱っているのだ。
「ねね、ネージュ。これなんかどう?」
 ミルが持ってきて見せるのは、一枚のミニスカート。腰のラインにぴったりと合うタイトスカートで、左右に深いスリットが入っている。白地に赤い斜めのラインが入っており、とてもスタイリッシュな印象を受けるものだった。
「え……こんなの、恥ずかしい……」
 ネージュがそれをじろじろ見ながら言うのももっともで、スカートの丈は三十センチも無い。ネージュは身長百七十六センチもあるのだ、あまりにも丈が短すぎるではないか。
「いいからいいから、試着試着!」
「ちょ、ミル、お願い押さな……ぁうっ」

 そんなわけで、強引に試着室に放り込まれて数分後――。

「ぅう……やっぱりこれ、短すぎるよぅ……」
 恐る恐るフォトンカーテンを開けながら、もじもじと姿を表すネージュは内股になって頬を染めており、両耳はへたりと垂れてしまっていた。制服のシャツとジャケットはそのままにスカートだけを履き替えたており、右手でスカートの前の裾を掴んで引き下ろそうとしている。だが、すぐに裾がずり上がってしまうのだ。
「おおー、エロい! これはすごい!」
 その光景にミルは思わず手を叩いて喜んでいる。それから品定めするようにじろじろと左右から見て、それから今度は下からも覗き込む。赤い下着がちらちらと覗くのを確認して、それからミルは満足したように大きく頷いた。
「うん、いい、いいよネージュ。これでどんな男だってイチコロ!」
「ダメだよぅ、これ短すぎる……」
 確かに、裾は股下からわずか数センチ。普通に歩いているだけでも下着が見えてしまいそうなほど。確かに今はネージュが手で抑えているからいいものの、手を離すといろいろな意味でマズイだろうことは想像がつく。
「何言ってんの。ネージュはスタイルがいいんだから、どんどん出してかないと!」
 ミルは恥じらうネージュにお構い無しで飛び付いて、その大きな胸を鷲掴みにする。
「はぅ、ダメ、やめてえぇ」
「あのね、ネージュ。見せてなきゃダメなの。見せてると胸もおっきくなるし、足だって細くなるの。だから、どんどん出してかなきゃダメ!」
「そ……そうかなぁ……?」
 ミルがあまりに真面目な瞳で言うのに、ネージュは少し考え込むような表情でおずおずと答えた。
「そう。ネージュはスタイル抜群なんだから、隠しちゃダメ。それはグラール全体の損失なんだから!」
「そ、そうかなあ……」
 ミルの言葉にネージュはますます深刻な顔になって、眉根をきゅっと寄せる。
「そうだよ。だってネージュ、また胸おっきくなったでしょ?」
「う、うん……こないだ計ったら、Fカップになってた……」
「え、マジ? あたしなんてCから成長してないのに……決めた、ネージュに絶対これを買わせる!」
「え、ちょ、待って……きゃぁぁぁ……!」

 そして、数分後――。

「ありがとうございます。二百メセタになります」
 店員が爽やかな微笑みを浮かべているのに反して、ネージュは半泣きで、
「あうぅ……今月もうお小遣いピンチなのにぃ……」
 と、財布を取りだしながらぼやいていた……。


 それから二人は、しばらく服を見てきゃいきゃいとはしゃいでから、店を後にした。ウィンドゥショッピングをしながら、表通りを外れた道へと入ってゆく。少し歩くと、店舗の密集地帯を抜けゆったりとした大きな道に穏やかな町並みへとなっていった。
 ミルとネージュの目的は、ここに建つニューデイズ様式の建物だった。建物は六角形で、くすんだ濃紺に染められた六角すいの屋根が遠くからも見える。窓は出窓で、六角形を半分にした形で外に突き出し、窓枠も濃紺に彩られていた。壁はニューデイズ特産のニュー・ウッドという木材を使った、暖かみ溢れる木造。入り口のドアは今時珍しく、自動ではない普通の開き戸で、上部に釣られた鐘が開くと心地よい音で鳴るだろうことは想像がつく。入り口の上には木製の看板が掲げられ、そこには“Cafe六月館“と書かれていた。
「こんにちは〜!」
 ミルが勢いよくドアを開けると、からんころん、と鐘の音が軽く響き渡る。それに気づいて、一人のウェイトレスが二人に近づいてきた。
「こんにちはっ! ぼくのカフェにようこそっ♪」
「わーい、コノギちゃん! いつもカワイイねっ! ほんと、あたしが男だったら放っておかないよ! あははは」
「あはっ、ミルちゃんってばいつもそんなことばっかり言って! ぼくを誉めても何も出ないよっ」

こちらグラール学園! | 一人のウェイトレスが二人に近づいてきた。「こんにちはっ! ぼくのカフェにようこそっ♪」
 ミルの声に明るく答えるコノギは、肩にかからないほどの紺の髪を持つキャスト女性だった。頭部にはヘッドドレスを乗せ、体のパーツは給仕係を模したものとなっている。顔立ちはやや幼く、身長も百六十センチ弱のミルとほぼ同じで、それがなおさら彼女の印象を元気なものにしていた。
 そんなやりとりをしながら二人は席に案内され、窓際の席へ腰を下ろす。
「あたし、コールドベリーソーダ!」
「私はスパイシアミルクで」
「はいはーい。よろこんでー!」
 コノギはお冷やをテーブルに置いてからさらっとメモを取ると、そのまま奥のカウンターキッチンへ向かい、グラスを準備し始めた。
「今日の適正試験、どうだった?」
 おしぼりで手を拭きながら、ふとネージュが口を開く。
「ああー、あたしはニューマンだから。“フォース“になるのがいいと思ってるよ。ネージュは?」
「うん……私、暴力とか好きじゃないんだけど……先生が、『お前は立派なハンターになれる』とか言うから……」
 元来、ニューマンもビーストもかつてヒューマンに造られた種族である。ニューマンは膠着していたフォトン研究を進めるために、ビーストは過酷な環境での惑星開発を進めるために。
 そんな適正を考えれば、ミルはテクニックの扱いに長ける“フォース“を、ミルは前線での戦闘に長ける“ハンター“としての戦闘スタイルを推奨されるのは、当然だと思えた。
「でもさ、なんだか楽しそうだね、これからのことを考えると」
 ミルがにこにこと嬉しそうに微笑むのに、ネージュが訝しげな目線を向ける。
「うん……まあ、それはそうだけど」
「おや、元気ないねー。どしたの?」
「もう、ミルも知ってるでしょ、母さんのこと……」
 静かに言うネージュに、ミルも珍しく真面目な表情へと変わってゆく。
「私、ほんとはガーディアンズなんてなりたくない。戦いとか、好きじゃないし。病床の母さんの治療費が結構かかってて……ガーディアンズは給料がいいって話だったから、頑張って奨学金ももらったけど……ほんとは図書館の司書か本屋の店員になりたいのに」
 ネージュが耳をぺたりと垂れさせてしょんぼりした顔で言うのに、ミルは何も答えられなかった。少し驚いたように目を大きくしたまま、口を何度かぱくつかせている。
「あ……ごめん」
 ミルが返す言葉に詰まっていると、その空気を察したのかネージュは慌てて謝る。それから続けて、
「ミ、ミルは、なんでガーディアンズを目指すことにしたの?」
 と、慌てて聞き返した。
「あー……考えてなかった。なんとなく日常に刺激が欲しいだけだからなあ」
 ミルは真顔でそんなことを言って、考えるように視線を右上に向ける。
「あたしには何もないんだよねー。世界平和だとか種族統一だとか大それたことは考えないし、別に漫画が書けたり美人だったりもしないし、どこにでもいる普通の女の子だから」
 頭を掻きながらミルは言って、一息つくようにお冷やのグラスを口に運ぶ。少し考えるように目線を動かしてから、こくり、と小さな音を立てて一口飲んだ。
「だから、普通のことしか望んでないよ。今欲しいものは、イケメン彼氏とMATOIブランドのバッグ。あ、胸も、もーちょっと欲しいかなぁ」
 ミルはあっけらかんと言い終えて、眉をひそめて自分の胸を持ち上げたりして、それにネージュはいつも通り苦笑する。
「――でもさ、それでいいんじゃない? あたしは別に英雄でもなんでもないし、別になろうとも思わない。ネージュだってそれでいいよね?」
「うん……やっぱりそうだよね」
 ミルの言葉に少し気楽になったのか、ネージュは納得したように言って頷く。
「もう、相変わらず夢も希望もない会話だねっ」
 その声に顔を上げると、コノギがトレイにグラスを二つ乗せて、苦笑しながら立っていた。
「だって、ガーディアンズって怖いよ……死ぬかもしれないんだよ」
「確かに、ぼくも任務のたびに毎回思うけど……それほど悪いとこでもないよ。みんな仲がいいし」
 言いながらコノギは、二人の前にグラスを置いてゆく。コノギ自身もガーディアンズであり、いわばミルとネージュの先輩にあたるのだった。
「……まあ、やってみればぼくの言ってる意味が分かると思うよ。じゃ、ごゆっくりどうぞっ!」
 コノギは微笑みながら手を振って、仕事へと戻ってゆく。それにミルたちも軽く手を振り返して、テーブルへと視線を落とした。
「――そんなに夢も希望も無いかなあ」
 マドラーでグラスの中身をかき混ぜながら、ネージュが呟いた。ミルはグラスの底に沈むコールドベリーの果実をマドラーでぷちぷちと潰しながら、「んー」と曖昧に答える。砕けた果実が炭酸を泡立たせ、しゅわしゅわと軽い音を立てていた。
(……でも、そんなもんだよね)
 ネージュは、自分を慰めるように心の中で呟く。
 そう、ガーディアンは別に夢のある仕事なんかじゃない。むしろ、任務で命を落とすこともある危険な仕事だ。だから、一般の職業より給料が高めに設定されていたりするわけで。

 ――でも、もし母親が病に伏していなければ。

 本当になりたい図書館の司書や本屋の店員になって、ささやかな幸せに包まれた穏やかな毎日を送りたいと。

(――!)
 ネージュははっとなって、ぶんぶんと大きくかぶりを振る。

 なんと恐ろしいことを考えてしまっているのだ。
 たった一人の家族に対してそんなことを思うなんて……!

「……別にさ、働いて楽しくなかったら仕事変えればいいだけだと思うよ」
 たっぷり遅れてから、ミルはストローをすすりながら軽く言った。確かに言う通りで、ガーディアンズは軍役ではなく民間警護会社なのだ。常識的な手続きさえ行えば、いつでも退社することはできるはず。
「うん、そうだよね……」
 ネージュも曖昧に答えて、グラスを口元へ運ぶ。一口すすると、辛さが口内に広がってからミルクの甘さがそれに調和してゆく。モトゥブの伝統料理の味を踏襲した飲み物は、コクのある辛さでビーストに人気のあるメニューだった。
「それより、おなかすいちゃった。何か食べよう?」
 言いながらミルはさっさとメニューを開いて、鼻歌など歌いながら物色を始める。
「何か注文かなっ?」
 それに気づいたコノギがすぐに近寄ってくる。さすがはキャストだけはあり、客の状況を正確に把握しているようだ。
「ねえ、コノギちゃん。この仕事、楽しい?」
 そんなコノギに、不意にミルが問いかけた。
「うん、楽しいし好きだよ」
「ガーディアンズとどっちが楽しい?」
「うーん、それは難しい質問かなー」
 言ってコノギは首を傾げて、少し困ったような顔を見せる。それから五秒ほど動きを止めてから、
「どっちも同じぐらい楽しいよっ」
 と、微笑んで答えたのだった。
「……どうして?」
 その回答では納得いかなかったのか、ネージュが不思議そうな声で問いかける。
「うーん、比べてもしょーがないからねっ。ガーディアンズは任務を達成した時の充実感は他では味わえないし、この仕事はいろんなお客さんに会ってその人生を垣間見ることができる。どちらも同じくらい楽しいし、同じくらい辛いこともあるよ」
「へえ……」
 ミルもネージュも、その回答が分からず唖然としたままで答える。だがコノギにとってその回答は想定内だったらしい、うんうん、と二度頷いて、
「だから、ぼくはさっき言ったんだ。『やってみれば分かると思う』って」
 それに二人はますます困惑した顔で見つめ返すのだが、コノギはそれに楽しそうな笑顔を返すだけであった。
「――あ、あたしサラダ食べたい」
 ミルがふと思い出したように、メニューを指差しながら言った。相変わらずのマイペースぶりに、ネージュは頭を抱えるような仕草を見せ、コノギも苦笑を返す。
「この、"春野菜サラダ・ラフォン草原風 〜季節の果実ソースを添えて〜"ひとつちょーだい」
「はいはい。じゃ、ちょっと待っててねっ♪」
 コノギは元気そうに答えると厨房の中へと入って行った。
「そういえば、ダイエット続けてるの?」
 それを見送ってから、ネージュはミルに聞いてみた。
「うん。目標まであと五キロ。先は長いなあ」
こちらグラール学園! | 「そういえば、ダイエット続けてるの?」「うん。目標まであと五キロ。先は長いなあ」

「別にミルはダイエットなんかしなくてもいいと思うけど……」
 ネージュの言う通り、ニューマンは生まれつき骨や腱が細く、体脂肪や筋肉がつきにくい体質である者がほとんどだ。
 確かにミルはニューマンにしては少しふっくらしていたが、もともと骨が細いせいもあり客観的に見て太っているとはとても思えない。むしろ、豊満とは言えないが標準サイズのバストと、細い腰や四肢のバランスは、充分に魅力的といえる。
「いやぁ、絶対無理、マジやばいもん。おなかとか内ももとか、見えないとこがほんとひどいんだって。スレンダーなネージュがうらやましい!」
 大袈裟に熱く語って、ミルは首を左右にぶんぶんと振る。ビーストはアミノ酸による筋繊維の超回復能力が高く、日常生活を送っているだけでも自然と筋肉質になってゆくので、うら若き乙女には悩みの種であった。
「そんなことないよ。本格的な運動なんてガーディアンズ科に入って初めてやったの、知ってるじゃない」
「それでそのボディってのが信じられない! かーっ、うらやましす!」
 ばたばたとしながらヒートアップするミルをいつも通り優しく見守りながら、ネージュはまあまあ、となだめる。
「でもさ、男の子は少しふっくらしてるぐらいの子が好きなもんだよ」
「え、マジ? ……うん、そうだよね。ガリガリの子を抱きしめてもきっと手ごたえなくてつまんないもんね!」
 勝手に自己解決するミルをそのままに、ネージュはなんとなく考え込んでしまっていた。

(……うまくできるかな……)

 正直、あまり自信がない。
 荒事は苦手だし、怖いのも苦手。
 そもそも、少しでも目立つこと自体が好きじゃない。
 給料に惹かれてガーディアンズを目指したはいいけど、大丈夫なんだろうか……。

「あ、そうそう、これありがとー」
 不意にミルがナノトランサーから一冊の本を取り出して、ネージュに差し出す。文庫本には"最強! 駄洒落コミュニケーション術"とタイトルが書かれていた。
「どう? 勉強になった?」
「うん、駄洒落って難しいねー。すごく勉強になった」
「でしょう、いい本だよ」
 ネージュはそれを受取りながら頷くと、ミルが真面目な顔で感想を述べる。
「これ書いてる人、現役のガーディアンズなんだよね?」
「そうだよ。ラジャさんっていう人で、上級指揮官で偉いんだって。重要な会議の最中に駄洒落を言って、場をなごませるらしいよ」
「へぇ〜! 会ってみたいなあ。ちなみにイケメン?」
 目をきらきらさせながら言うミルに、ネージュはいぶかしげな視線を向けて、
「……いい年のお爺さんだよ……」
 と呟くように言った。
「ちぇっ」
 舌打ちして口を尖らせるミルに、ネージュは愛想笑いを返す。
「……でもほんと、あたしはネージュにすっごく感謝してるんだって」
 不意に、ミルが少しだけ視線を落として、真面目な表情で言った。
「子供の時からずっと、嫌な顔ひとつしないでいろいろと付き合ってくれるし。あたしが楽しくやっていられるのは、ネージュのお陰。ガーディアンズ科に入ろうって言い出したのもあたしだし」
 この二人のはじまりは、十五年前に、父親が開拓民だったブリュショルリー家がウジェーヌ家の隣に引っ越してきてからである。それからずっと続いているのだ。
 見ての通り、ミルは明るく元気で活発だが、ネージュは大人しく穏やかで繊細。正反対の性格が逆に良かったらしく、二人の付き合いはここまで発展したのだった。
「……嫌な顔をしないんじゃなくて、してもミルは気づいてくれないだけ」
「そう? あたし、ネージュのこと、世界で一番分かってる自信あるけどなあ」
 ミルは恥ずかしげもなく言い切って、テーブルに乗せられたネージュの手を取って両手で包み込む。
 それにネージュは「もうっ」と怒った真似をして手を払うと、ミルは小さな舌をちろりと出して悪戯に微笑んだ。

 

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