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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe74 守護者よ、永遠に

「あ、ファビアー! こっちこっち!」
 陽が暮れかけたニューデイズのオープンカフェで、オルハがぶんぶんと手を振っていた。それに気づいて、2人はオルハの元へと歩み寄る。
「オルハ、久しぶりです」
「久しぶりだね、オルハ」
 オルハは短い髪を揺らして微笑みながら2人を迎える。差し出された手を握り返して、それから口を開いた。
「そうそう、来月式挙げるんだって?」
 オルハはニヤニヤと笑いながら、ファビアの隣に立つビーストの少女を肘でつつく。
 少女は赤茶色の髪を肩口で揃え、幼いながらも落ち着いた雰囲気だった。だが、オルハの言葉に戸惑いは隠せない様子で、少し頬を赤らめながら口を開く。
「うん。まだ早いと思うんだけど……ファビアのこと、好きだから」
「っかー! 熱いね、お熱いね♪ 火傷しちゃうぜボク♪」
「まぁまぁオルハ、ネイをいじめるのはそれぐらいにしてあげてください」
 ファビアが微笑みながら、2人の間に割って入った。オルハの性格からこうなるのは分かっていたので、余裕なものである。
「ま、ほんと良かったよね」
「……ええ。皮肉なことですが、SEEDやダークファルスのお陰です」
 ファビアが複雑な表情で答えた。

 何故ネイが生きているのか、事の経緯は少し長くなる。
 ガーディアンズ内で任務の際に殉職する者は決して少ないとは言えなかったため、クローン再生技術の導入は前々から検討されてはいた。だが、様々な障害があり、なかなか話は進んでいなかったのである。
 皮肉にも、コロニーへのイルミナスの攻撃が審議の進むきっかけとなった。
 ガーディアンズ内での多数の殉職者、テロによるウィルス散布で感染し殺処分された多数の民間人。それに、コロニーから切り離された一部ブロックは、パルムのローゼノム・シティ付近に落下し多数の死者を出した。
 これに政府はやっと重い腰を上げ、計画が具体化したのだった。
 ガーディアンズの中からも今回の事件に関わった者から数名の被験者が選ばれることになり、その中でもコナンドラム事件の功績が認められ優先枠が設定された。
 だが――ランディ、ウィンド、ヴァルキリーの3人の遺体はコロニーと共に落下し、その所在は不明となっていた。そのためネイが選ばれ、クローン再生することができたのである。

 あれから1年――ネイは随分大人びた。見た目はあどけない少女のままだが、その立ち振る舞いや発言は成長しているのが分かる。

「しかし……12歳で結婚かぁ。いいのかなぁ」
 大げさに頭を抱えながら苦笑して、オルハは冗談めかして言う。
「……オルハ、何か言いましたか?」
「いや、ボク何も言ってないよ、アハハハハ」
 ファビアが笑顔で――ただし、目は笑っていない――言うのに、オルハは頭を掻きながら笑った。
 まあ、2人とも肉親がいないし、こうなるのは当然といえば当然だった。
「それにしても、大きくなったね」
 不意に、ネイはオルハの腹を指さして微笑む。
 オルハのお腹は、見た目ですぐに分かるほどに大きくなっていた。小さなオルハの体に大きなお腹はとても目立ち、どこか違和感を感じる。
「うん、もうすぐ臨月なんだ。ファビアたちの式が終わってから生まれろ、っていつも言ってんだけどね〜」
 その軽快な口調に2人は吹き出す。その光景が容易に想像できた。
「うちのダンナ、オラキオだからさー。細かい付き合いとか面倒なんだよ。こんなことなら結婚してガーディアンズを辞めるんじゃなかった」
 両手を開いてため息をつきながら、オルハは言う。

 あの最後の戦いでランディが死んでから3ヶ月後。
 オルハは突然、ガーディアンズを辞めると言い出した。
 理由は、妊娠と結婚。詳しいことを本人は話したがらないが、あれ以来オラキオとの交流が深くなり、旦那とはその関係で親しくなったようだった。

「っと、男の子は元気だ。ボクのお腹を中からガンガン蹴ってくる」
 自分のお腹を、ばしん、と軽く平手で叩いて、オルハは笑った。その小さな体に大きなお腹は見ていて不安を覚えるが、彼女からは強いバイタリティが溢れ出している。心配はいらないと思えた。
「名前はもう決まってるんですか?」
「うん、もちろん。……っと、あれ、アナスタシアじゃない?」
 オルハがファビアたちの後方を指さす。振り向くと、向こうからアナスタシアが走って来ているのが見えた。
「――すいません、会議が遅くなってしまって……どうも皆さん、お久しぶりです」
 アナスタシアはいつも通り、冷静に状況を説明してから、定型句の挨拶をする。
「相変わらず多忙のようですね。噂は聞いていますよ、もうすぐ昇任すると」
「ええ、その関係で人と会う機会も増えましたわ」
 アナスタシアは苦笑しながら肩をすくめて答える。
 ――彼女はあれから、今まで以上に仕事に打ち込むようになった。
 悪い思い出を忘れようとしているかのように。

 彼女も今回のコナンドラム事件での功績が評価され、数人の指揮官をまとめる管理業務を主業務としていた。昇任には値するものの、極秘任務の功績は一般のガーディアンには伝わらないため、一定の期間後に昇任することを前提に業務のみ管理職と同じものとしていたのだ。もちろん、裏でアルファを始めとする仲間たちが後押ししたのは言うまでもない。
 そのせいで、今は機動警護部のガーディアンたちと任務に出る機会もほとんど無くなっていた。

「よし、じゃあこれで全員揃った。お店行こっ!」
「はい。ご案内いたします」
 アナスタシアが歩き出すのに続いて、3人が歩き出した。

「……オルハ、妊婦がお酒を飲むのはあまり良くないと思いますが」
「うちの旦那みたいなこと言うなー!」
「オルハ、ネイもそれはあまりよくないと思う」
「まあまあ、固いことは言いっこなし! 今日は無礼講だだだだだー!」
 すでに出来上がってしまったオルハに、ファビアとネイは苦笑する。
 彼らは今、"下町の導き亭"に来ていた。今日は店も貸切にして、アリサも一段落したらこの宴に参加する予定になっている。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe74 守護者よ、永遠に

 コナンドラム事件から、1年。

 事件の傷跡はまだ残るが、事後処理もほぼ片付いた。
 バーバラの残した研究はヴィオ・トンガの施設や作られたキャストを含め、全て太陽系警察が没収した。
 トモエは有罪判決を受けてはいるが牢獄で無事出産したという。C4の本体やコピー、それにプルミエールは太陽系警察の許可を得て、ガーディアンズとGRMによって研究材料として使われているようだった。シノは危険性が低いと判断され、メインメモリのデータを修正されガーディアンズとして採用された。非常に特殊なケースだったが、ガーディアンズの人員不足も後押ししたのだろう。

 そんな折、たまたまアナスタシアの昇任とファビアとネイの結婚が決まった事もあり、あの時のメンバーで集まろう、という話が出た。
 そういうわけで、親睦会という名目で本日の宴が催されたのである。
「オルハ、わたくしもそれはいけないと思いますわ」
 振り返ると、アナスタシアがグラスを持った手でオルハを指さしていた。目は完全に座っており、顔も赤くなっている。
(こ、こっちも出来上がっている……ッ!)
 ファビアとネイが思わず心の中でツッコむ。
「そもそもですね、あなたは注意力が足りないのです」
(しかも絡み酒っぽい……ッ!)
 2人のツッコみをよそに、アナスタシアは話しだす。
「任務にあたる際は万全の準備を以ってですね……」
「へへーん、ボクはもう、ガーディアンじゃないもーん♪」
「早速盛り上がってるね」
 その声に振り向くと、アンドリューとラファエル、それにエレナとシロッソが戸口に立っていた。
「みんな、久しぶり〜」
「久しいな」
 片手を上げながら言うアンドリューに続いて、ラファエルが言った。
「こんばんは、どうもご無沙汰しております」
「しかしまぁ、ガーディアンズも暇人が多いもんだな」
 エレナが深々と頭を下げながら挨拶し、シロッソが相変わらずの毒舌を吐く。
「そういえばアンドリュー、Deo pomumはどうですか?」
 ファビアが微笑みながら聞いた。アンドリューは今回の事件後すぐDeo pomumに入り、活躍の場を移していたのだ。
「うん、忙しいけど気心知れた仲間だから。やりやすいよ」
「助かっています。うちのチームは射撃の得意な人がいませんでしたから」
「工作関係も任せられるし、かなり助かっている。あとはエレナ様が早く結婚でもして、落ち着いてくれれば文句なしなのだが、あてもなくてな」
「ラ、ファ、エ、ルー!」
 赤い顔で口をぱくぱくさせながら、エレナが駆けた。がし、とラファエルの頭を右脇に抱え、そのまま体を肩に乗せて持ち上げる。それから開いた両足首をがっしりと掴むと、椅子、テーブルと駆け上がってから、地面へと飛び降りた。
 ずうぅぅん、と地面が揺れて、その衝撃でラファエルの体のあちこちからぎしぎしと音を立てる。
「あれが、48の殺人技のひとつ……っ!」
 誰に解説しているのやら、オルハが立ち上がって拳を握りしめながら、呟いた。
「さすがはエレナ様……大きくそして柔らかく、重力にも負けない素晴らしさです」
「だからそれは本当に技の話なのか知りたいんだが」
「だよね〜」
 ラファエルが言うのにシロッソがツッコんで、アンドリューも隣で頷いていた。
「あら、盛り上がっているわね」
 アルファが両手に大きな袋を抱えて入ってきた。その後にテイルとイチコが続く。
「すまない、遅くなった」
「おー! オルハー!」
「おー! イチコー! 会いたかったよー!」
 手をあわせてぴょんぴょん飛び上がる2人をよそに、テイルが静かに席につく。アルファはお土産らしいその袋を、アリサに手渡してから席に着いた。
「イチコ、最近忙しいんだって?」
「うん。私もさー、もうすぐ昇任試験で。ほら、去年はイルミナス事件で試験が延期になっちゃったじゃん? だから今はテイルさんの補佐やりながら、勉強してるの」
「おおー、すごい! 頑張れイチコー!」
「おー!」
 ガッツポーズをしてみせるイチコに、オルハがぱちぱちと拍手を浴びせる。いつもの光景なのか、テイルはそれを見ながら少し微笑んで、アルファが2人をたしなめて席へと促した。
「なんだ、みんな早ェなぁ」
「久しいの、皆様方」
 言って入ってくるのはルディとユーシスだ。ユーシスは右手に風呂敷包みを持っており、そこにいたミューにそれを手渡す。
「オラキオ名物オラキオ饅頭と、最高級のギョク・ロじゃ。後で皆に振る舞ってくれぬか」
「はい、わざわざありがとうございます」
 言って不器用な笑顔でミューが受け取る。彼女も1年の間に、少しは感情表現ができるようになっていたようだった。
「今日は招いてくれて感謝するぜ。さ、じっちゃんも」
 言いながらルディはユーシスを促し、2人は席についた。
「みんなお待たせー! イェイ♪」
「すまんの、遅くなってしもうた」
「こんばんは」
 明るい声で入ってくるエマに、カズンとレミィが続く。
「……狭いの。わらわが座るには窮屈すぎる」
 気づけばメァルも入り口で、眉をひそめて席を見下ろしながら呟いている。
「なんだか大所帯になってきましたね」
 その光景に、ファビアが隣に座るネイに小声で言う。
「う、うん……本当に、この中で挨拶するの……? なんだか心配になってきた。ネイ、どうすればいい?」
 ふっと優しく微笑んで、ファビアはネイの頭をそっと撫でる。
「大丈夫ですよ、いつも通りにしていれば」
「ちょっとそこー、何をいちゃついているんだー?」
 不意にオルハが大きな声で叫ぶ。何事かと皆がわらわらと寄ってきて、わざとらしく指を差したり驚いたりしてみせる。
「ロリコーン! 婚前交渉はほどほどにしとけよー!」
「ちょ……ロリ……!」
 誰かの声にファビアはたじろぎ、返す言葉に詰まる。ファビア本人は自覚がないのだが、客観的にそう見えるのは当然だ。
「まあまあ、今日は彼らを祝福する意味もあるのれすから」
アナスタシアが立ち上がりながらろれつの怪しい言葉で言うのに、一同が静まり返る。

(……この人、完全に出来上がってる!)

 全員が同じことを思っていた。
「じゃ、じゃあアナスタシア、皆揃ったし挨拶してもらっても?」
「それもそうれすわね」
 アルファの提案にアナスタシアは頷く。彼女の目は座ったままで、見ている方がハラハラする。
「それれは、本日はわたくしの昇任祝いにお集まり頂き、ありがとうございます」
 おーっ、と一同から拍手と歓声が巻き起こる。
「えー、1年前に皆さんと共に戦った日を、わたくしは今れも時々夢に見ます。犠牲は大きかったのれすが、得たものも大きかったと思います。その仲間たちと、今またこうやって集まれることに、わたくしは心より感謝しております」
 その流暢な謝辞に、皆はうんうんと頷いて聞き入っている。正直、内心は何を言い出すかとハラハラしていたが。
「えー、振り返ればガーディアンズに入って苦節6年、わたくしは毎日毎日邁進してきたわけれすが……」
「……あ、アナスタシア。ファビアたちのことも紹介してあげてね」
 話が長くなりそうと察したアルファが、すかさずそれを制する。皆がほっと胸を撫で下ろした。
「そうれすわね。さ、ファビア」
「はい」
 頷いてファビアがゆっくりと席を立つ。それに続いて、ネイもゆっくりと立ち上がった。
「……えー、もう皆さんの元に招待状が届いているかと思いますが、来月、挙式を挙げる運びとなりました。籍を入れるにはまだしばらくの時間が必要ですが、私たちの新しい門出への区切りとして、催させて頂くという結論を出しました」
「ふつつか者ですので、何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが……ど、どうかご指導ご鞭撻頂きますよう、よろしくお願い……します」
 ネイが言い終わると、ファビアが頭を下げる。ファビアの隣で顔を真っ赤にしながら、ネイも深々と頭を下げた。
「ひゅーひゅー!」
「このロリコーン!」
「変態ー!」
 そんな勝手な野次を気にせず、2人は腰を下ろす。
「まあ、そんなわけれ」
 アナスタシアがグラスを高々と上げた。それに倣って、皆もグラスを高くあげる。
「乾杯!」
「かんぱーい!」

「ふむ、なかなかに旨い」
 メァルはサラダを一口食べて、少し目を丸くして言った。
「ほんとね、ドレッシングの甘みと酸味のバランスが絶妙だわ。あと、野菜の自然の味をきちんと生かしてる」
 それに頷きながらレミィが言う。さすがは調理を仕事にしているだけあって、分析も早い。
「……ったく、食いもんの話になりゃ、すぐこれだ」
 カズンはため息をつきながら両手を広げて呟く。あまり食事を取らない彼には、この手の話題は理解できない部分だった。
「あら、でも食事は栄養だけでなく……もぐもぐ、精神的にもいい影響を与える……もぐもぐ、のよ?」
「まあ、確かにそうかもしれんが……わしらキャストには、あまり関係の無い話じゃよ」
 エマが口一杯に頬張りながら言うのに、カズンは静かに答える。最近はテイルのように料理を楽しむキャストも増えてきたが、古い時代から生きているカズンにはどうも抵抗があるようだった。
「もう、あなたったら。頑固なのは昔から変わらないわね」
 レミィが微笑みながら、カズンの二の腕を肘でつつく。カズンは怒ったフリをして、その肘を肘でつつき返した。
「しかし……わらわも今まで大概の美味なものは食べ尽くしたと思っておったが……まだまだであるのう」
「姫、それ何気にプチ自慢入ってない? もぐもぐ」
 エマが食べるついでにツッコミを入れる。
「仕方が無い。わらわは生まれも育ちも特殊だからの」
「そもそも、そのお姫サマが、なんでガーディアンズなんかになったんじゃ?」
 不思議に思ったのか、カズンが素直に聞いてみる。
「簡単なことじゃ。わらわはいつか家督を継ぐ。それまでに見聞を広め立派な人間になっておらんと、領民からの信頼を得ることはできぬからじゃ」
 メァルは毅然と言ってから、熱いお茶をすすって一息つく。その堂に入った言葉に、一同は小さく拍手をする真似をして、小さく歓声をあげた。
「うんうん、立派よねー。さすがは姫! イェイッ♪」
 エマが親指を立てた両手を突き出すのに付き合って、メァルも親指を立てて右手を突き出した。
「――まぁ、あれじゃ。こうやって美味なものを食するのもまた、見聞を広めることじゃな」
 いそいそと料理を皿に取りながら、瓢々とメァルは言う。それに皆が笑った。
「物は言い様じゃな」
 苦笑しながらカズンは言う。
「はいはい、追加の料理だよ」
 どん、と大皿をテーブルに乗せながら言うのはアリサだ。
「おお、アリサ殿。ご苦労であるぞ。……これは何じゃ?」
 全長1メートル近くはある、茶色い土のような塊を不思議そうに見ながら、メァルは指を差して聞く。
「これは、若いコルトバを岩塩で包み焼きにしたものさ」
 言ってアリサは小型のハンマーを取り出し、岩塩を叩く。ばらばらと岩塩の壁が崩れて、中から美しくピンク色に蒸しあがった肉が顔を出した。
「過剰な水分を塩が吸い出し、塩の旨味がコルトバの肉にも十分に染みわたる。これは美味いよ、何より若いコルトバは肉が柔らかいんだ」
「ほほう……」
 予想を遥かに上回る料理が出てきたことに、全員が視線を奪われて放心状態となっていた。
「料理はまだまだあるからね」
 言ってアリサは、忙しそうに厨房へと戻って行く。
「……世の中は、広いのう」
 メァルがしみじみと言うのに、皆が頷いた。

「ふぅ……」
 夜風が軽く、アナスタシアの火照った頬を撫でていった。外に出て風に当たったお陰で、大分酔いも冷めてきたように感じる。
 宴は開始からすでに6時間が経過して、皆ぐだぐだになっていた。お祝いしてもらえるのは嬉しいが、さすがにちょっと疲れてきた。元々人付き合いが得意というわけでもないし、日々の業務が多忙で疲れているというのもある。
 そんなわけでアナスタシアは、こっそり会場を抜け出して、川べりを散歩していたのだ。
「これで……良かったのですよね」
 ふと、ナノトランサーからヘッドドレスを取り出して、そっと目の前に持ってくる。
「ランディ……」
 ランディにも、もちろんクローン再生の話はあった。彼は今回の事件において功労者であるのは間違いなかったからだ。
 だが、何度かガーディアンズの調査隊が派遣されたにも関わらず、コロニーと共に落下した彼の肉体は発見されることはなかった。それに、黒い波動のせいで変質していた体に、クローン技術が通用するかも疑問であった。
「わたくしは、これからどうすればいいのでしょうね」
 ふっと自分で自分を嘲笑しながら、アナスタシアは呟いた。
 この1年は、地獄としか言えなかった。何度、自分のメインメモリを引きちぎって壊してしまおうと思ったことか。何度、自分の頭を撃ち抜いてしまおうと思ったことか。
 でも、その度に彼の姿が記憶から再現され、目の前に立つ。彼女の電子的な記憶は、人間と違い時間が立っても薄れることはない。いわば録画した映像を再生するような精度で、彼の姿を思い出すことができる。

『……いや、初対面だが』
 初めて会った時、彼ははっとした顔でわたくしを見つめていた。彼もわたくしと同じように、どこかで会った気がしていたから。
 2人とも覚えていませんでしたが、名も無き少女と少年の頃のランディは、一度会っていたから。

『うちの姫様は、おまえみたいなガキとはレベルが違うんだよ。一緒に遊ばせるわけにゃいかねぇな』
 モトゥブでコナンドラムの拠点に侵入し、プルミエールとの戦いになった時に、ランディが助けに入ってくれた。
 わたくしは、その光景を見て彼への認識を改めた。

『……ありがとな』
 最期の彼は、弱々しくもいつものように笑おうとしていた。
 あの時に、もし連れて帰ることができていたら……。
 頭を軽く左右に振って、悪い考えを追い出そうとする。そんなことをしても何の意味も無いのは分かっているのに。
「ランディ……」

 頬をゆっくりと涙が伝う。

 居なくなって初めて、どれだけ支えてもらっていたか気づくとは。
 きっと、彼のことは一生忘れない。ずっと心の中に居続ける。

「……」

 ふと頬を涙が伝うのに気づいて、指で拭う。
 このような感情は初めてだ。
 切なく、そして苦しく、思い出せば辛いと分かっていても思い出す。
 何かを求めているというのとは違う。与えることや求めることを、すでに超越した感情。

 ――でも、できるならばもっと触れていたかった。
 彼の骨ばった頬にそっと触れて、髭の剃り跡の残るざらついた顎を撫でて。
 そっと瞳を閉じて唇の感触だけを確かめて。

 その感触を、もっと知りたかった。
 二度と触れることができないと分かっているから、なおさら――。

「……どうか、見守っていて……」
 アナスタシアは、小声で呟いた。静かに空を見上げながら。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe74 守護者よ、永遠に

「しかし、楽しい宴だな」
「うふふ、そうね」
 不意にテイルがグラスを片手に呟くように言うのに、アルファが微笑みながら答えた。
「料理はどう? 満足した?」
「ああ、最高だな。まだ食い足らん」
 言ってテイルはフォークを掴むと皿に手を伸ばし、肉で巻いたアスパラガスを突き刺すと、口に運んだ。
「よく食べるわね」
 イチコが目を丸くして言うと、テイルは不敵に微笑んで、
「美味いものはいくらでも入る。……そのために、人工胃も最大サイズのものを用意している」
 と、おどけて自分の腹をぽん、と叩いてみせる。
「料理もそうだけど、仲間と話すのも一番の肴じゃない?」
 アルファが微笑んで言うと、テイルは「違いない」と微笑んだ。
「でもさー、楽しい宴の後ほど寂しくなるんだよねー」
 イチコが少し悲しい笑顔で言う。
「ふふ……まったくだ。年を取れば取るほど、帰り道が寂しくなるよ」
 テイルは苦笑しながらグラスの酒をぐっと飲み干して、ゆっくりと息を吐いた。
「――私たちは、いつ死ぬか分からないような所に生きているから、なおさらな」
「もう、テイルさんはいつも、そうやってすぐ大人ぶる!」
 イチコが両手を腰に当てて、ぷうっと頬をふくらませながら言う。それにテイルは豪快に笑ってみせた。
「うふふ、仲が良いわね」
「まさか」
「まさかっ!」
 アルファが冷やかすのに、2人同時に答えた。はっとなって、お互いの顔を見つめる。
「テイル、イチコが立派な指揮官になれるよう、ちゃんと教育してあげてね」
「無論だ」
「これからもよろしくお願いしまーす!」
 イチコがおどけて敬礼をするのに、3人は笑った。

「たまには、こういうのもいいですね」
 エレナが言うのに、皆が振り向く。
「そうだな。我はエレナ様が心配で目を離す隙も無いしな」
「まあね、いつも任務任務でこうやって話す機会もあまり無かったもんね」
「だが怠惰は大罪だ、ほどほどにな」
 Deo pomumの面々が思い思いのコメントをするのを、エレナは目を細めて見ていた。
「皆さん、本当にありがとうございます」
「エレナ、何をいきなり……」
「まあ、聞いてください。私たちは、今まで様々な困難にぶつかってきたと思います。ですが、皆で力を合わせて乗り越えてきました」
 アンドリューの声を遮って、エレナは続ける。
「これからも更なる難関が我々の前に立ち塞がると思います。ですが、これからも私たちはずっとチームです。それを忘れないで欲しいのです」
「うん、これからも頼むよ」
「Deopomumの未来に乾杯!」
 4人は笑顔で、グラスを高々と掲げる。
「――あ、私、メァル姉様の所にちょっと」
「説得力がねぇぜ、お嬢」
 いそいそと席を立つエレナにシロッソがツッコんで、それから皆がどっと笑った。

「おめでと!」
 オルハが言いながら、左手に持った2本の瓶を、ずいとファビアに突き出した。
「あ、オルハ……ありがとう」
 ネイはそれをそそくさと受け取って、1本をファビアに渡す。
「ありがとうございます」
「幸せそーだね、2人とも」
 オルハはテーブルにどっかと腰かけ、持っていた瓶をぐっと煽るように飲んだ。妊婦とは思えない豪快な飲みっぷりである。
「ええ。そう見えますか?」
「ったく、何をノロケてるんだよ」
 ファビアが驚いた顔で見上げると、オルハはにんまりとした笑顔でその髪をくしゃくしゃにする。
「……でもさ、こういうもんなんだろうね」
「?」
 不意にオルハが真面目な顔で言うのを、2人はきょとんとして見つめていた。
「ヴァルキリー、ウィンドのように殉職する者もいれば、ボクたち、それにあのおばさんみたいに新しい命を紡いでゆく者もいる……そういうモンなんだな、って」
「ああ……そうですね。こうやって新しい家族、新しい命が生まれ……そして私たちは生きてゆく……。私たちの両親が、そうだったように」
 ファビアが神妙な顔で言うのに、オルハも頷く。
「ファビア、ネイはこれからもずっとファビアと一緒だから。子供、たくさん作ろう」
 ネイがそっとファビアに腕を絡め、頬を赤くしながらその顔
を見つめる。ファビアも少し頬を赤らめ、微笑んで見つめ合った。
「……それ、なんかエロいとボクは思うな」
 その光景にオルハは、生温かい視線を向ける。
「ったく、見てられねェな!」
「まったくじゃな」
 その声に振り向くと、ルディとユーシスがいた。2人とも完全に目が座っており、かなり飲んでいるのは一目で分かる。
「オルハ殿、これからもオラキオを頼む」
「ん、おっけー、ごくごく」
 ユーシスの言葉の意味が分かっているのか分かっていないのか、オルハは瓶をくわえながら軽く答える。
「――まあ、ボクはさ。グラールとオラキオの架け橋になれたらいいと思うんだ。パパとママがそうだったように」
 オルハはふと、視線を落としながら微笑んで、言った。それに皆が頷く。
「これから生まれる新しい命にも、そうあって欲しいんだよね」
 言ってオルハは、その大きなお腹を軽く撫でる。いとおしいものに触れる時の、穏やかな笑顔。

 それはすでに、"母親"としてのそれだった。

「……そういえば、決めてるんでしたっけ、名前」
「え? うん、もちろん決まってる」
 ファビアが問うのに、オルハはにっこりと微笑んだ。

「この子の名前は――"ランディ"」

「あら、流れ星……」
 店に戻りながらふと空を見上げて、アナスタシアは呟いた。
 この流れ星を、グラールに生きる人たちは見ているのだろうか。このまま、全ての人たちのずっと変わらない平和のために、戦い続けたい。生き続けたい。そう素直に思っていた。
「おー、どこ行ってたんだアナスタシア!」
「まだまだ飲むぞー!」
 店に着くと、皆が迎えてくれる。

 ……ああ、わたくしの居場所はここなのだ。
 これからも、わたくしはこの素晴らしい仲間たちと戦い続ける。生き続ける――。

 ――どうか星霊のご加護が、ありますように……。

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