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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe72 またね。

 ガーディアンズ・コロニー、14:42。
『くっくく……ははははぁぁぁぁっ!』
 ダークファルスのいやらしい笑い声が響く。
 ぞわぞわっ、っという音がまた響いた。どんどん大きくなってゆくが、その音量は先ほどとの比ではない。あまりにも、大きすぎた。
「ランディ、ランディ!」
 アナスタシアは地面に寝かせたランディに心臓マッサージを行っていた。すでに呼吸は停止しており、心臓もその動きを止めている。
 だが、わずかな希望を捨てたくはなかった。
『やはり、我を滅ぼせる者などおらぬのだ!』
 続いて響く、何かを突き破るような音。これも、先ほどとは比べ物にならないほどの大音量だ。
「……!」
 ガーディアンズたちは全員、戦うことも忘れて、ダークファルスを見上げていた。ぼたぼたっ、と音を立てて、イオリとウィンドの腕が落ちる。

 そして、その肩に生えてきたもの。

 それを見て、一同は絶望した。

「なんですかあの腕は……まるで……!」
 ファビアが叫ぶ。ただ、思いついたままに。
「ちょ、ちょっと……アレ、どう見ても……」
 オルハも愕然とした顔で、見上げていた。
「あの腕は……あまりにも、似過ぎていませんか……?」
 アナスタシアが呟いた。

 ダークファルスの肩から生えたそれは、赤い皮膚に白い刺青を持つ、筋肉の塊。もともとあった大きな腕と同じく、20メートルほどの長さを持っている。

 そう、それはまさしく。

 ビーストフォームをとった、ビースト男性の両腕。

「いやあぁぁぁぁっ! ランディぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 両手で自らの頭を挟み、絹を引き裂くような悲鳴をアナスタシアが発した。
『ふむ……馴染む、馴染むぞっ。』
 その両腕をぐんと振り回して、ダークファルスは言う。指を曲げては伸ばしてから、ぐんと上に伸ばした。
『ふははははぁぁぁぁっ! これはいい!』
 それから、まるで子供のようにくるくる回して、地面に振り降ろした。
「!」
 驚愕が、反応を鈍らせた。
 どずぅん、と激しく揺れる地面。直下型地震かと思えるような振動。激しく舞う埃。
『素晴らしい! やはり我の目に間違いはなかった! くははぁぁぁっ!』
 笑いながら腕を上げてゆく。地面には、直撃を受けた何人かが倒れていた。
「イチコ!」
 慌ててオルハが駆け寄る。イチコは全身を強打し、意識を失って剣を持ったまま倒れていた。
「ああっ……アンドリュー! シロッソ!」
 エレナが驚いて叫ぶ。アンドリューは左側面がぼろぼろで左腕が全壊しており、シロッソも地面に片膝をついたままうつむいていた。
「ぐ……ごめん、これじゃあ銃が握れない……」
「げほっ……おいおい、マジかよ」
 びちゃっと音がして、シロッソが大量の血を吐き出す。
「大丈夫ですか!? 失われし力よ戻れ……ギ・レスタ!」
 ファビアを中心に、きらめくフォトンが包み込む。イチコは血を吐き出してから咳込んで、意識を取り戻す。シロッソも痛みが軽減されたらしく、ゆっくりと息を吐いた。
「アンドリュー!」
 アルファが駆け寄って、その口にリペアキットを含ませる。破壊された表面でナノマシンが動き出し、ゆっくりと破損した箇所が修復されてゆく。
「3人とも、とりあえず下がって!」
「先生……どうしましょう? 何か策はありますか?」
「ありません!」
 ファビアが聞くのに、アルファは勢い良く即答する。確かに、ただでさえ13人しかいないのに、すでにそのうちの4人が倒れた。勝てる可能性が減少した以外の何物でもない。
「ですが、やるしかありません!」
「――そうだな。その通りだ。Deo pomumはどんな任務でも必ず帰還する!」
 槍を構え直して、ラファエルが言い放つ。
「ああ、私は君たちを、ずっと援護し続ける」
 ライフルを構えながらテイルが同意した。
「……ですが、アナスタシアもあのような状態ですし」
 ファビアが促すのに、一同が視線を向ける。アナスタシアはランディの横にしゃがみこみ、まるでおかしくなってしまったかのように悲鳴をあげながら、心臓マッサージを続けていた。
「闇の波動の持つ力は、私のテクニックでは回復不可能でした……」
「……」
 アルファが難しい顔のまま、頷いた。

 ……勝機を見つけられない。

 思い出せ、どうすればあれを倒せる?
 ……確かランディの話では、想いをこめた赤の剣で打ち倒し、欲望の箱に封印したという。

 ――ならば。

「……選択肢は一つしかないじゃない!」
 アルファが苛つきながら言い放って、すたすたと歩き出す。彼女はそのままアナスタシアのところまで歩み寄ると、いきなりその肩を引っ張りこちらを向かせる。
 唖然とした顔のアナスタシアの左頬に、いきなり平手打ちを食らわせた。
「っ……!?」
「アナスタシア、よく聞いて。ダークファルスを倒すために、赤の剣にみんなの力をこめるわ。それしかないの。みんなが生き残るには、それしかないの!」
 唖然としたままのアナスタシアに、アルファはまくしたてる。
「でも……ランディが――」
 アナスタシアは視線を落として、まるですねた子供のように言う。
「いい? ランディはまだ死んだわけじゃない。ビーストはとても強靭な肉体を持っているわ。今ならまだ間に合うかもしれない、早くダークファルスを倒せばまだ助かるかもしれない! そして、ダークファルスを倒さないと、犠牲者は増えるばかりなの。コロニーが落ちるかもしれないの。分かる? そして、我々ガーディアンズが今ここで成すべきことは何?」
 ここで地面がガクン、と揺れた。イルミナスの総攻撃により、コロニーは危機に陥っている。いつ落ちるかも分からない状態。
「倒すのよ! それにはあなたの力と、赤の剣が必要なの! そして守るの、グラールを! 三惑星を! 全ての人を!」
 アナスタシアの頭の中に、様々な思いが渦巻く。

 カズンの信念、ガーディアンズの存在意義、そしてランディの信じたものを……!

 彼女は答えずに、ゆっくりと立ち上がる。赤の剣を持って。
「そう――守らなきゃ。だから守る……わたくしは、守るために産まれた! 剣よ、わたくしの声を聞いて! 力を貸して!」
 ゆっくりと赤の剣を眼前に掲げ、アナスタシアは叫ぶ。
「皆さんも! 力を貸して!」
 皆が頷き、剣に手を触れる。1人2人、やがて全員が。
 ファビアとテイルが神妙に手を触れる。
 オルハはイチコに肩を貸しながら2人で。
 ラファエルはアンドリューとシロッソを支え、その脇からエレナが手を伸ばす。
 メァルに続いて、アルファも手を伸ばす。それにルディが続く。
 剣はわずかに赤く光り出し、鈍く発光し始める――。
「想いを。その想いを私に貸してください!」
 ぐおっ、と空気の流れが変わった。赤の剣を中心に、大きな力が場を包み込む。
『茶番は終わったかね。』
 退屈そうにダークファルスが言う。だが、ゆっくりと前に歩き、それと対峙するアナスタシアは、堂々と大きな存在に見えた。
「茶番とは……あなたの存在を言うのですわ!」
 アナスタシアが走り出す。それに続いて、全員が。
「全員、アナスタシアの援護を! こちらに気を向けさせるんです!」
 ファビアの声に皆が頷く。その表情には、一遍の迷いも無い。
「フォトンよ、鎧となれ……デフバール!」
「わらわに全てを感知する力を与えよ……ゾディアール!」
「炎をつかさどるフォトンよ、裁きの力をこの銃に、そして愛する生徒たちのために! アグタール!」
 ファビアが、メァルが、そしてアルファが。各々のテクニックを詠唱する。青、黄、赤のフォトンが皆を包み込んだ。
 アナスタシアは、走る。ただ闇雲に、ただ一直線に。

 ダークファルスに向けて。

『くく……勇ましい事だ。』
 ダークファルスがビーストの右腕を振りかぶる。そして、そのまままっすぐに殴りつけた。
「はあぁぁぁぁっ!」
 アナスタシアが跳んだ。ひらりと拳をかわして、その手の甲に飛び乗り、腕の上を走り出す。
『ち……!』
「お前の相手はこっちだ!」
 ラファエルが槍を振り上げ、左腕に斬りかかる。堅い皮膚を貫くような乱れ突きが、その表面をえぐるように斬りつけてゆく。
「鬼さん、こーちら!」
「やーいやーい!」
 オルハとイチコは2人で右腕を攻撃する。イチコが体重を乗せて斬りつけると、オルハがフォトンの塊を叩きつける。終わりなく繰り返される攻撃に、右腕は動くことを許されない。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe72 またね。
「さぁ、今のうちだ!」
「アナスタシア、お願い!」
 テイルとアルファが胴を狙って射撃を。繰り返し一点に集中される攻撃は、少しずつではあるがその皮膚に弾丸がめりこんでゆく。
「静かに猛る氷神よ、我を媒体に氷の力を行使せよ……ギ・バータ!」
「わらわのいかづちは裁きの力……ギ・ゾンデ!」
 ファビアとメァルのコンダクトサンダーが胴体に炸裂する。ばちばちと青くほとばしるいかづちが炸裂し、激しい爆発が包み込む。
「光よ、聖地はここにあり……レグランツ!」
「よっしゃあ、任せとけ!」
 エレナの杖がまばゆく光を放ち、光のエネルギーが左腕を包む。その隙にルディが飛び上がった勢いを乗せて腕を斬りつける。
『小賢しい……小賢しいぞ!』
 邪神は苛ついたように言って、ビーストの両手を振り回す。だがガーディアンズたちはそれをかわし、攻撃の手を休めようとはしない。
「わたくしたちは勝ちます、必ず!」
 アナスタシアは二の腕まで走り、そこから飛び降りる。落下しながら、顔面へ向けて上から剣を振り降ろす。
『ぬ……!?』
 振り降ろした剣から発する、赤いオーラ。まるで、剣が長く伸びたかのように包み込み、その長さは3メートルを越える。振り降ろした軌跡が衝撃波を発生させ、宙に赤い孤を描いてゆく。
「いやあぁぁぁっ!」
 ダークファルスの顔面に、オーラが叩きつけられる。やすやすと皮膚を切り裂いて、深さ20センチ以上の傷を刻む。
『ぐお……!?』
 それだけでは終わらない。振り降ろした右手をぐんと左に振りかぶり、右に薙ぐ。
「グランドクロスッ!」
 ばさぁ、と厚手の布地を切り裂いたような、信じられないほど軽い音。ダークファルスの顔に、深い十字の傷が刻まれる。
『な……んだと!?』
「あなたは人の想いを生かしてなどいない――単にそれを利用し、破壊のエネルギーとしているだけ。わたくしたちは、人の想いを生かしているのです。あなたに勝ち目はありません!」
『認めぬ。我を超える存在など……!』
 赤の剣が、ヴンと唸る。そのオーラはさらに大きくなり、その力を増してゆく。
「待たせたな!」
 突然、場に声が響く。そこに立っていたのは、ユーシス。それに、数百人のオラキオたち。
「すまない、SEEDが多くてな到着が遅れてしまった! アナスタシア殿! どうか、我らの悲願を!」
 わあぁぁぁっ、と声が上がる。オラキオたちは各々の得物を手に、ダークファルスへと向かってゆく。
「皆さん……!」
「じっちゃん、おっせェぞ!」
 ルディがユーシスに明るく言うのに、アナスタシアは目を細めて微笑みながら見守る。それから強く頷いて、もう一度剣を握り直す。

 ……力がみなぎる。

 この剣は生きている。人々の想いを受け、生きている――!

『なんだと……認めぬ、認めぬぞ!』
 ダークファルスの輪郭が、わずかにブレ始めている。明らかに、邪神の存在は否定されようとしているのだ。
「――ふふ、うふふ」
 不意に、アナスタシアが口から笑みをこぼす。それに苛ついたのか、ダークファルスはそちらを振り向いて睨みつけた。
『? 貴様……何を笑っている。』
「いえ、これで全てが片付くと思うと嬉しくて……また1000年ほど、休まれるとよろしいですわ?」
『この……虫ケラどもがぁ!』
 ダークファルスが獣の右腕を振りおろす。
「……」
 アナスタシアは剣をまっすぐに突き出す。そのオーラはオラキオたちの想いも受け、長さ5メートルを越えるほどになっていた。
「言いましたでしょう? わたくしたちは人の想いを生かしているのだと」
 剣のオーラは振り降ろされた拳をやすやすと貫き、受け止めていた。
『……!』
「後悔なさい」
 アナスタシアはゆっくりと、剣を振り上げる。
『や……やめろ! やめろ!』
 アナスタシアの右足が、地面を蹴って跳ぶ。それから剣を振り降ろす――。

 様々な想いがよぎる。
 様々な人との出会い。
 家族たちとのひととき。

 そして――ランディへの想い。

 その全てを乗せて、振り降ろした。

『ぐあっ……ぐあああぁぁぁっ!』
 剣がダークファルスを切りつけた箇所から、かっ、と大きな光の環が生まれる。幾重にもなったそれは、ダークファルスを中心に広がってゆく――。
「わたくしたちの力……ガーディアンズの力……そして、グラールに住む全ての人々の力! その身をもって感じなさい!」
『ぐああぁぁぁ……我は滅びぬ、滅びぬぞ! 1000年後、必ず甦る! 深淵なる闇が存在している限り、我は何度でも甦るううぅうぅぅぅぅううぅぅ!』PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe72 またね。

 ダークファルスの体に、ノイズが走り出す。ゆっくりとブレ始め、やがてゆっくりと空気に溶け込むように薄くなってゆく――。
 アナスタシアは着地して、バーバラの使っていた機械の中心に落ちている、欲望の箱を拾い上げる。そして、それをダークファルスの顔面に投げつけた。
 ざざっ、とひときわ大きく走るノイズ。それから、まるで煙が換気扇に吸い込まれるように、箱へと吸い込まれていく。
「――任務完了」
 箱の中に全てが吸い込まれると、蓋が閉じて地面へと落ちる。
 それからアナスタシアは、ゆっくりと息を吐いた。
 その瞬間、皆がわあっと歓喜の声をあげる。

 そうだ、我々は、勝ったのだ。

「やったぁ! 勝った、勝ったよ!」
「うそぉ! ボクたち、本当にダークファルスを倒しちゃったんだ!」
 イチコとオルハは手を取り合い、ぴょんぴょんと跳ねながら驚きと喜びを表現する。
「……」
「……勝った、ね」
 テイルがアンドリューに親指を立てた右手を突き出す。それにアンドリューは、呆けたような口調で呟く。
「ついにやりましたね……」
「エレナ様、ついに我々は勝ったのです」
「……それより体がいてえ」
 エレナが呟くのに、ラファエルとシロッソが答える。
「なんとも恐ろしい存在じゃった……」
「でも、勝てました……皆が力を合わせれば、何だって越えられる気がしますよ」
 メァルが額の汗を拭いながら言うと、ファビアも肩で息をしながら答える。
「……ほんと、体がなまってるわ。もっと任務に出なきゃ……」
 アルファも両手を膝について、ゆっくりと息を吐きながら独りごちる。
「やった、やったぜ! じっちゃん!」
「おおっ!? やめんか、子供みたいに……!」
 ルディが飛びついて抱きつくのを、ユーシスは顔をぐいぐいと押しながら苦笑する。
「――これで、全てが終わったのですね」
 アナスタシアは、どこか現実感のない口調で呟いた。
 ――長い戦いだった。
 それがやっと終わったということに、どうもリアリティを感じられなかったのだ。
「ぐ……」
 不意に足元から呻き声が聞こえた。
 アナスタシアが視線を落とすと、全身傷だらけのバーバラがうつ伏せに倒れていた。
 顔面には、大きく目立つ十字の傷。同化していた彼女もまた、ダメージを受けていたのだ。全身ぼろぼろで、白い服はほとんど真っ赤に染まっていた。
 アナスタシアは、その姿をじっと見つめていた。
 ただ、何の感情も持たずに。
 怒りや憤りなどは、そこには無かった。
「……」
「ちっ……さぁ、殺すなら殺せ……げほっ」
 口から吐き出される血液。もう長くないだろうことは、容易に想像がつく。
「……殺しません。ですが――助けもしませんわ」
「くっくっく……ふはぁあ、ふふふ……」
 アナスタシアが静かに言うと、バーバラが鼻を抑えながら、笑う。
「……オリジナルの私が死ぬのか……これは予想外だ、面白い、実に面白い……」
 ずるっ、とバーバラが這いだした。その後にはおびただしい量の血の跡が残っている。
「――そんなこと、どうだっていいではないですか。誰しも皆、一所懸命生きている……。ただ、それだけで」
 アナスタシアは静かに言った。何の感情も見えない、抑揚を抑えた、穏やかで静かな声だった。
「ふはは、人間が……できてやがる……げほげほっ……」
 少しずつ、バーバラはアナスタシアへと近づいてくる。だが、アナスタシアはそれに対して何の行動も取ろうとはしなかった。
「――私はずっと、お前に嫉妬していた。何故お前はガーディアンズで居場所を見つけ、仲間に恵まれ、生きているのか。そして何故、私はいつまでも地べたを這いずりまわらなければいけないのか……」
 ぶるぶると震える右手で、ゆっくりとアナスタシアの左足首を掴む。血にまみれた指は赤く、その跡を残す。
「……」
「……だが、私が死んでも何も変わらない。悪人は存在し続けるし、ダークファルスはまた甦る……」
「ならば、また封印する。ただ、それだけのことですわ」
「くはは……はは……畜生……死にたく……ない……。私は……素晴らしい人間なんだ……知識もある、研究成果も残している……何故……認められない……のだ……」
 バーバラの震える左手が、ゆっくりとアナスタシアに向けられる。だがアナスタシアは、やはり何の行動も取らない。いや、取ることに意味がないことをよく分かっていた。
「ああ、学会に……ちやほやされていた頃は……楽しかった……。誰もが……私を"先生"と呼んだ……誰もが……私に媚びた……誰もが私に抱かれることを……望んだ……」
 バーバラは左手を伸ばして、アナスタシアのホバー部を掴む。だが血で手が滑り、そのままべちゃっと地面に倒れ、つっ伏した。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe72 またね。
「……あなたは、母を想うあまり急ぎすぎたのです……」
「何故だ……ママは何も悪くない……! 悪いのは……世の中じゃないか……悪いのは私を認めない人間どもじゃないか……! 何故私が……私が死ななくては……ならないのだ……っ!」
「……」
 アナスタシアは無言で、ゆっくりと腰を落とす。それからバーバラの頭に右手を乗せて、穏やかに声を発した。
「――あなたは誰かに認められたかったのですね。自分を愛してくれる人が欲しかった。わたくしはあなたを受け入れることはできません。ですが、あなたはわたくし。常に愛しているのは確かですわ――」
「く――!」
 バーバラの瞳から、大粒の涙が流れ落ちる。ぼろぼろと、どこからこれほどの想いがあふれてくるのだろうと思えるほどに。
「――ママ……」
 バーバラは静かに呟くと、頭を撫でるアナスタシアの手に、自分の右手を重ねた。
「……ママ……ママ……ごめんね……研究……できな……く……て……」
 バーバラは、そのままぶつぶつ呟いていたかと思うと、がくり、と首を落とす。
「……ありがとう。わたくしはこれから、わたくしとして生きるのです……」
 そう言うアナスタシアの目は、わずかに細められていて。
 バーバラを責めるわけでもなく、憎むわけでもなく。
 ただ静かに、切なく、そう言うだけだった。
「アナスタシア! ランディが目を覚ましました!」
 ファビアの呼ぶ声に弾かれたように振り向いて、アナスタシアは駆け寄る。倒れているランディに寄り添って、上半身を抱え起こした。
「ランディ……!」
「……いつつ……なんだ、せっかくいい夢……だったんだぜ……」
 アナスタシアは、彼を抱え上げたまま抱きしめて、その感触にぞっとした。
 全身のあちこちが、変質している。骨があるはずなのにまるで軟骨のような感触の箇所、固いはずの筋肉の隆起を感じない箇所……様々だった。
「アナスタシア……あんたと2人で暮らしてる夢……だった。いつも通り……俺たちは同じベッドで眠って、同じ食事をして、同じ任務に就く……ずっと、ずっと……一緒にいられるものだと……思ってたんだけど……なあ……」
「! ランディ……!」
 ランディの瞳から流れ落ちる涙。アナスタシアも、気づけば泣いていた。
「……はは……なに……泣いてんだよ?」
「ら、ランディこそ! あなたがいけないのですわ。わたくしを心配させることばかりするから……」
 アナスタシアはすねたように顔を赤らめ、涙をごしごしとこする。
「すまんすまん……でも、守れた」
「?」
「前は俺が、守られた。でも……今回は、君を守れた……結構満足してんだぜ……俺は」
 不意にずん、と地面が揺れた。先ほどより激しい振動が響く。
「全員、ガーディアンズ本部へ! 本部は重要区画を除いたコロニーの一部を切り離すことを決定しました! この区画もすぐに切り離されます、全員退避を!」
 アルファが叫ぶのに、一同は走り出した。
「……」
「……オルハ、どうしたの?」
 走り出そうとしていたオルハが急に立ちどまり、イチコが不思議そうに聞く。だがオルハはそれに答えず、ランディの方を振り返って、大きく息を吸って。それから、大声で叫んだ。
「ねぇ! ランディー!」
「……お……お前も無事か。良かった」
 辛そうにそちらを振り返って、ランディは軽く手を振ってみせる。
「うん、ランディのお陰で助かったよ、ありがと! 先に、本部に戻ってるからね!」
 オルハは笑顔で、両手をぶんぶんと振る。いやに元気で、いやに明るく。オルハは笑っていた。
「ランディ、また後でね!」
「おう」
 それにランディもつられて微笑んで、素っ気なく答える。オルハはぴょこん、と踵を返して走り出す。それを慌ててイチコが追いかけた。
「ちょ、ちょっと、オルハ!」
「――うっ……ううっ!」
 その顔を覗きこんで、イチコは言葉に詰まった。

 オルハは、泣いていた。

「……オルハ……」

 ……分かっている。
 ランディとはもう、二度と会えないだろうということぐらい。

 思えば、人を好きになった経験など、ほとんどない。クズ鉄街では、生きるか死ぬかしか考えていなかった。むしろ、人に心を許す、ということは弱みを握られるとさえ思っていた。
 だから、恋愛の仕方なんて、知らない。知らなくてもそれでいい。そう思っていた。

 そう思っていたはずなのに。

「ちくしょう……恋愛が始まる前に失恋って……なんだコレ! しかももう二度と会えないとか! おかしいじゃん!」
 走りながら涙を手で拭って、オルハが喚き散らす。
 何物でもない、ただ叫びたかったから叫んだ。
 ただそれだけだった。
「……」
 イチコはどう声をかけるか悩んだが、あえて何も言わないことにした。
「イチコ! 今日は朝まで飲むからねっ!」
「――うん、付き合うよ」
 イチコは、ただそれだけ優しく言って、そのまま2人は走り続けた。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
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