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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe71 覚めない夢は、優しくて

 はっ、とランディは目を開いた。
 仰向けで地面に倒れていたらしい、体を起こして立ち上がると、ゆっくりと辺りを見回した。
 辺りは、何も無かった。
 ただ灰色がかった世界、そう形容するしかない。上下も分からない、そんなだだっ広い世界だった。
「んー……」
 ランディは試案顔のまま頭を掻いた。

 ……何か、すごく重要なことを忘れてる気がするんだが……一体何だったっけ?

 まぁいい、とランディは独りごちてからかぶりを振る。
「うえぇぇぇん」
 ふと気づくと、すぐそこで子供が泣いていた。何故か声をかけなければという義務感を覚え、ランディはゆっくりと歩み寄る。
「どうしたんだ、坊主?」
 泣いていたのは、幼いビーストの少年だった。緑の髪にモトゥブ製の上着にハーフパンツで、身の丈はランディの半分ほどの少年だった。小さな両の拳で顔をこすりながら、あふれる涙を拭っているが、涙はとめどなく溢れている。
 ランディは腰を落として目線の高さを合わせ、そっと少年の頭を撫でてやった。
「だって……みんな……死んじゃったんだよ……」
「何言ってんだ、誰も死んでなんかいないぜ?」
 ランディは辺りを少し見回して、自分と少年以外に誰もいないことを確認する。
「うえぇぇん……マックスも、ジェシカも、ニックも、他の仲間たちも……みんな死んじゃったんだよお……」
 その言葉にランディは、はっ、と目を見開く。

 そう、気づいてしまったからだ。

 ……この少年は。

 ……俺だ。

「ねえ、どうして戦うの? どうして死ぬの? どうして殺……」
 少年がしゃくりあげる喉に負けて言葉を詰まらせる。ランディはそれに答えようと口を開くが、言葉が何も出てこなかった。

 ……どんな言葉をかけてあげればいい?
 どう言ってやれば、俺は納得するんだ?

 ――ふと、頭の中によぎる、笑顔。
 アナスタシアの屈託のない微笑みだった。

 ……そう、それだけでいいんじゃねぇか?
 世界の平和だの正義だの、そんな難しい話はさておいて、笑顔を守りたい……それだけでいいじゃねぇか。

「――守りたいものがあるから、戦うんだ」
「守りたい……もの?」
「そうだ。大切な人が、たくさんいるんだ。愛する人、仲間、友達、同族……皆を守りたいからさ」
 ランディは照れくさそうに言いながら、少年の頭をくしゃくしゃにする。
「その為に、力を求めるの?」
「……力……いや、そうじゃない。力なんて結果にしか過ぎない……んだろうな」
 照れたように頬を掻いて、視線をそらしながらランディは続ける。
「俺も少し前までは、そう思っていた。力があれば守れる、と。……だが、現実は違っていた。だから俺が欲しいのは、そんな結果論じゃない。欲しいのは……"真の強さ"だ」
「真の……強さ?」
「そうだ。なんでもいい、格好悪くてもいい、惨めでもいい。守ることができれば、それでいいんだ――なんで今まで、気づかなかったんだろうな……」
 ランディは視線を落として、悲しそうな顔のまま呟くように言った。立ち尽くすその姿は、まるで自分で自分に剣を突きつけているようにさえ見える。
「……欲しいの?」
「?」
 少年の問いかけに、ランディは首をかしげた。
 この時わずかに、場の空気の流れが変わった。だがランディはそれに気づかない。
「……"真の強さ"が欲しいの?」
 少年が顔を覆ったまま言うのに、ランディは少し考えこんだ。それだと、今まで力を欲していた自分と何も変わらない気がしたからだ。
 場に、わずかな威圧感が生まれていた。空気は少年を中心にゆっくりと渦巻き、重みを増して体にのしかかる。
 だが、やはりランディはそれに気づかなかった。
「"真の強さ"か……俺はそれを手に入れることができるのか……?」
「……」
 ランディは斜め上を見上げながら、独り言のように呟いた。少年の顔を覆う掌の下で、ぴくりと口元が動いた。
「……んー、なんか今までとは何も変わらない気がしないまでもないけどな。でも、俺は守りたいものがある。だから、強さを求める」

 少年の体が、明らかに、どくん、と震えた。

「うん、これでスッキリした。それでいいんだ、きっと。……なぁ?」
 微笑みながら少年の方を振り向いて、ランディはここでやっと異変に気づく。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe71 覚めない夢は、優しくて

 ……おかしい。空気が重い。

 体にずんとのしかかり、舐め回すような空気。
 だが、この感覚……初めてではない。

 この感覚を、知っている。

「ま……まさか……ッ!」
『……完璧すぎる模範回答だ、と言っておこう。』
 少年は、掌をゆっくりと下ろす。その下にある顔は、すでに先ほどまでの少年ではなくなっていた。
「ダ……ダークファルスッ!?」
『素晴らしい、まったくもって素晴らしい。くっくっく、待った甲斐があったというものだ。』
「……!」
 全身の血の気が、さぁっと引いていくのが分かった。
 同時にランディは、はっとなって全てを思い出した。

 ダークファルスとの戦闘中、アナスタシアをかばって黒い波動を受けて……ということは、ここはダークファルスの作り出した精神世界……!

『言っただろう? お前には"素質があるから生かしておく"、と……。』
「……そいつぁどうも。で、なんだよ、その"素質"ってぇのは……」
 肩で息をしながら、ランディは聞いた。何もしなくても、体力を奪われている気がする。明らかに、場に呑まれている……。
『簡単な事だ……。人間は生まれながらに業を背負う。その業こそ、我の源の一つ。ただそれだけの事。』
「……」
『人間は、移り気だ。何かを手に入れても、すぐに興味を無くし新しい物を欲しがる。それを業の深さと言わずして、何と言う?』
 ランディは、自分の膝が震えていることさえ忘れていた。ただ青い顔をして、だらだらと流れる汗をそのままに、動けなくなっていた。
 恐怖なんて一言で表せるようなもんじゃあない。
 腹に大穴を開けられ、剥き出しになった内臓をわし掴みにされた気分。なおかつ、ゆっくりと、だが確実に。それは握り潰されようとしている。
 このまま進めば、向かう所はただひとつしかない。
 だが、それを考えるわけにはいかない。

 何故なら、その現実を知れば絶望する以外に何かができるとは思えないから。

『――その業の名は、"渇望"。あの若きヒューマンも、長剣を使うヒューマンも、生きたいと願っていたから、我が取り込んでやった。――もちろん、それが大きければ大きいほど、我の力となる。お前ほど大きな渇望を持つ者を我は知らぬ。さあ、その力を我によこせ。その業により、我はさらなる力を得るであろう……!』
 ぐん、と世界が収縮し始めた。灰色の世界が、黒い煙のようなものに少しずつ削り取られてゆく。
「! なんだ、これは! どういうことだ!?」
『我と共にある事を、誇りに思うがいい……ふははは……ふははははは……。』
 黒い煙は世界を全て飲み込んでゆく。少年だったものも、ランディの体も。
「おい! やめろ!」
 首から下が全て飲み込まれると、体の感覚が無くなる。いや、感覚が無くなるというのは適切ではないかもしれない。
 自分の感覚が奪われ、何か大きな物の一部に同化されてゆく。そんな感覚。
「……!」
 まず、口が飲み込まれた。言葉を発することさえ、できなくなる。
 それから耳、鼻、目。

 五感が、奪われてゆく。

(……アナスタシア……! 俺はまた、守れな……)

 黒い霧が全てを飲み込んで、頭が完全に覆われてしまうと。

 ランディの意識は完全に。

 ――途絶えた。

「ほら、ランディ、起きて」
「……ん……」
 体を軽く揺らされて、ランディは重いまぶたを少し開く。
 何の変哲もない、ガーディアンズコロニーの自室のベッド。そこにランディは寝ていた。
「ん、ああ……うおっ!?」
 ゆっくりと上体を起こしながらそこに立つアナスタシアへ視線を移して、思わず驚きの声をあげた。

 アナスタシアはパーツも服も一切まとわない、全裸だったからだ。

 人口皮膚とはいえ、彼女の体は人間と同じように作られている。僅かな胸のふくらみ、へそや体毛など、言われなければキャストと気づくはずがないほど精巧に作られていた。
「?」
「お、おま、なんで、は、はだ、裸なんだよ!」
 まるで化け物でも見るように、ランディは人差し指を突き付けてわめきたてる。
 アナスタシアはきょとんとした顔でそれを見ていたが、それから不思議そうな顔で口を開いた。
「なんですか? まるで初めて見たみたいに……。まあ、それはさておき。そろそろ準備しないと任務に間に合いませんわよ?」
「うあ、あ、ああ……」
 ランディは、なんだかよく分からないままにベッドから降り始め、クローゼットへと向かう。
 クローゼットを開けて服を取り出しながら、自分の服に交じって見慣れない小さな服やキャスト用パーツも一緒に置かれていることに気づく。彼女も服を着る時があるんだな……と思いながら、いつもの服をひっ掴んで適当に羽織る。

 ズキン、と僅かに頭痛が響いた。

(……なんだ……何か大切なことを忘れている気がする……)

「ほら、襟が」
 アナスタシアが後ろから手を伸ばして、裏返った襟を直してやった。
「……あ、ああ。すまねぇ」
 礼を言いながら振り返ると、アナスタシアはパーツを全て身につけていつもの姿になっていた。
「さあ、歯を磨きましょう」
「あ、ああ」
 まるで母親のように言うアナスタシアに、ランディは付いてゆく。
 洗面台へ向かうと、2本の歯ブラシが並んでいた。ランディのが青色で、彼女のは緑色。ランディはそれをまとめて掴んで、緑色の歯ブラシをアナスタシアに渡す。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 自分の歯ブラシに歯磨き粉をつけてから、アナスタシアに歯磨き粉を渡す。アナスタシアはそれを自然に受け取って、歯ブラシにつけてから返す。

 あまりにも馴染んでいる、日常。
 共有した時間を重ねた者同士のやりとり。
 それが素直に心地よかった。

「ぃつっ……!」
 ズキン、と頭痛が響くのに、ランディが顔をしかめた。
「?」
 それを見て、アナスタシアは不思議そうな表情で、ランディの顔を覗きこむ。
「あ、いや。頭痛がするんだ」
「あら、だから昨日『飲み過ぎです』と何度も言ったではないですか……。任務に影響しますわよ?」
「……そういえば、今日の任務、なんだっけ?」
 頭をかきながら、ランディは口をゆすいで、それから口を開いた。
「……昨日あれだけ説明しましたのに」
 むっとした顔で歯ブラシをくわえたまま、頬をふくらませてアナスタシアは言う。本人は怒っているのかもしれないが、どこかすねた子供のようで、そんな表情もまたランディの心をくすぐるのだった。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe71 覚めない夢は、優しくて
「……すまねぇ」
「――パルムでの、原生生物の討伐ですわ。たまの2人っきりの任務だと、昨日あれだけはしゃいでいたではありませんか」
 アナスタシアは荒々しくコップをひっ掴むと、水を注いでから口をゆすいだ。
「すまねぇ。ちょっとド忘れしただけなんだ」
「……」
 アナスタシアが無言のまま、ゆっくりと大きく息を吐いた。
 ランディは慌てて後ずさる。怒られると思ったからだ。
 彼女はそのまま、ずい、と一歩進み出て、その小さな手を伸ばしランディの上着の裾を掴む。
「――まったくもう、あなたは本当に、わたくしがついていないとダメなんですから」
「……え、あ、うん、すまねぇ」
 ぽかんとしながら答えるランディの上着を、ぐい、と引っ張る。ランディは不意の一撃にそのまま引っ張られ、屈み込むような体制になった。
「……ん」
 アナスタシアが、そっと瞳を閉じた。

 もう、言葉はいらない。
 ランディは右手でそっと彼女の顎を優しく包む。
 それから、自分も顔をそっと近づけて。

 優しく、唇を重ねた。

(この時間が、ずっと続けばいいのに……)
 ただ、それだけを思いながら、お互いを求め続けた。

 僅かな頭痛はまだ続いていたが、ランディはそのことをすでに忘れてしまっていた……。

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