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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe70 決戦

 ガーディアンズ・コロニー、14:30。
「これは……どういう事だ……?」
 エレナ隊の5人は天井を見上げていたが、ふとシロッソが思ったことをそのまま呟いた。最下層の第3倉庫Dブロックは、すでに見知った風景ではなくなっている。
 壁は、無機質な鉄の壁ではない。
 有機質で不気味な管が表面を這い、表面は変質して蛇腹のようになっている。まるで蜘蛛の糸のような、網目状のどす黒いフォトンがあちこちに張り巡らされていた。内部にもおそらく何かが入り込んでいるのだろう、イソギンチャクのようなものが所々に顔を出し、不気味に蠢いていた。
「乗っ取られかけてる……って事かよ」
 シロッソが焦りながら、独り言のように呟く。
「ひどい……真っ黒なフォトンが、全てを埋め尽くしています……」
 エレナも頭を抱えてきゅっと両目を閉じる。この場を覆い尽くす空気を、敏感に感知してしまっていた。
「く……伝承でしか知らぬこやつと、まさか対峙する時が来るとはの……!」
 メァルは言いながら杖を構えて、見上げた。

 瓦礫の山の上に、それは居た。

 破滅をもたらすもの。

 邪な存在。

 邪神。

 深淵なる闇より生まれし、闇の存在。

 ――"ダークファルス"。

『くくく……は、はは、はは、はははははは! やはり外はいい。』
 不気味に黒光りする肌に浮かびあがる筋肉の質感。肩幅15メートルほどの上半身から、20メートルはある腕が2本、生えている。そのすぐ近くから、一回り小さい5メートルほどの腕が2本、生えていた。
 ちょうど胸にあたる場所に、顔らしきものがあった。それは禿上がった老人を連想させる。
 全身には一切体毛がなく、ところどころに見える蛇腹のような凹凸がその恐ろしさを増長させていた。
 5人は、その姿を見上げていた。
 あまりに圧倒的な存在感に、ただただ呑まれていた。
「……銃が通用するのか……?」
「勝てますわ、必ず」
 アンドリューのぼやきに、不意の声が答えた。全員が振り向く。
 そこには、アナスタシアが立っていた。イチコとテイル、それにファビアもいる。
「援護射撃はまかせておけ」
「よっし、行くよ! 頑張れ、私っ!」
 ライフルを取り出しながらテイルが言うのに、イチコも長剣を構えながら答える。
「大丈夫、私たちは負けません。戦いましょう、グラールのために。私たちの全てをかけて!」
 ファビアも杖をぶんとかざして、力強く言った。
「アナスタシア!」
 後ろから声が聞こえたと思うと、ひゅんと風を切り裂いて何かが飛んでくる。振り向きながら左手を突き出して、アナスタシアはそれを軽く受け取った。
「これは……」
 白い布が巻きつけられた一本の棒のように見える、それは。
「"赤の剣"……! ランディ、ルディ、ありがとうございます」
「なーに、なんてこたぁねぇ」
「こいつは、あんたが持った方がサマになるぜ」
 ランディとルディがアナスタシアに駆け寄って、親指を突き出す。アナスタシアも微笑みながら、親指を突き出し返した。
「よーっし、間に合った!」
 今度はオルハだ。息を切らせながら走ってくる。
「オルハ、どうしたんだ?」
 ランディが不思議そうに聞く。オルハは全身怪我だらけで顔も腫れあがっていたし、いつもの長い三つ編みが無くなり、肩口までの髪を後ろで適当に束ねていたからだ。
「ま、いろいろあってね。さっ、みんな行くよっ!」
 オルハはそれを気にせず、爪をぶんぶん振り回しながら言う。皆が微笑んだ。
「さぁて、役者は揃ったな? 楽しいパーティタイムの始まりだぜ」
 ランディは斧を取り出す。頭上でぐんと回転させてから、眼前にぐっと構えた。
「ふふ、楽しく躍らせてあげますわよ……」
 アナスタシアが白い布を取り払うと、赤く、美しい剣身があらわになる。地下のわずかな光を反射して、鋭くも鈍い光をわずかに放つ。
「……そういえば、バーバラはどこだ? どうやってこいつを復活させた?」
「……」
 ランディの疑問に、アナスタシアはゆっくりとダークファルスの足元を指さす。瓦礫の山の上に広がる、血の海。そして、傍らには血にまみれた1本のウォンドが転がっている。
「古来からよく行われてきた儀式……そう、生贄を使ったのでしょう。人間一人分の魂は、とても大きな力を持つと言いますから……」
「――そういうわけだ」
 不意に、場に響き渡る声。
「バーバラ……!」
 彼女は、ふっと霞が実体化するように、ダークファルスの前に現れた。一同はそれにいぶかしげな視線を向ける。
「何だい、お化けでも見るような顔をして」
 バーバラの姿は、宙に浮いていた。
 僅かに後ろが透けて見え、同じ物質界に存在しているとは、とても思えない。
「……あなたもまた、"深淵なる闇"の一部となる事を選んだというのですか?」
「ち、生きてたのかお前……!」
 バーバラはアナスタシアの姿に舌打ちして、まるで地面に転がるドブネズミの死体でも見下ろすかのような視線を向ける。アナスタシアはそれを気にもせず、ただ睨み返していた。
『なぁに、簡単な事だ。我の復活という偉業を成し得たこの者に、力を与えた……ただそれだけの事。』
「……あっはっは、アーっはっはっは! 全て滅びるがいい、人間などいなくなってしまえばいい! そして私はそこに君臨する、絶対無二の存在として! あーっはっはっはっは、っふぅう、はぁふぁあ!」
 自らの鼻を押しつぶしながら、彼女は笑う。
 この世の全ての者にその声を届かせようとでも言わんばかりに、笑う。
「はッ、誰もいない世界に君臨して、何の意味があるのかは知らねぇがな」
 ランディが一歩あゆみ出て、彼女に人差し指をつきつける。
「俺がぶっ潰してやるよ」
「ふひっ……おお、怖い怖い、好きにするがいいさ! どうせ貴様には何もできやしない!」
「ふざけるんじゃねぇ!」
 ランディは、腰を屈めて地面を蹴って、駆け出す。高く飛び上がって、その勢いのままで斧をぶんと横に凪ぐ。
「甘いね」
 斧が当たったと思った瞬間、何事も無かったかのように通り抜けてしまう。手応えはまったくなく、ただ素振りをしたのと同じだった。
「!」
「私は、すでにこの世界の理を超越した。ここにいる私に、お前らは触れられまい」
「くっ――この野郎……!」
 睨みつけながら、苛つく口調でランディは言う。それをバーバラは満足そうに見下ろして、にやにやと薄笑いを浮かべていた。
「――バーバラ」
 アナスタシアが一歩踏み出して、静かな口調で話し始めた。場がしんと静まり返り、一同はただ次の言葉を待っていた。
「わたくしは全てを知りました。あなたの歩んだ人生、そしてあなたの考え、あなたという人間を……」
「全ては50年前から――そう、ママが生まれた時から始まっていたんだ。だから、今からでも遅くはない。そいつらを殺すのを手伝いな!」
「いいえ」
 興奮したバーバラとは対照的に、アナスタシアはただ静かに冷静に、まるで朗読でもするかのように、静かな口調で続ける。
「わたくしは、あなたとは違った道を歩んできました。様々な人々に助けられ、守られ、共に生きてきました。あなたに手を貸すわけにはゆきません」
「なんだと――!? お前を作ったのは誰だと思ってやがる!」
「――わたくしは、この世界が大切です。皆が生きるこの世界を、そして宇宙を、わたくしは守るためにあなたと戦います」
 バーバラはその言葉の意味が分からない、とでもいうように呆けた顔でそれを見つめていた。それから、はっ、と我に返って、鋭い視線をアナスタシアにぶつける。まるで貫くかのように尖り、憎悪を移そうとでもしているかのように。
「お前……私に作られた恩を忘れたのかッ!」
「……それはとても感謝しております。ですが、今までに歩んできた人生は、わたくしだけのもの」
 その言葉にバーバラはわなわなと体を震わせ、驚きの混じった表情を見せる――。
「お前も……お前も私を裏切るのか……ッ!」
「いいえ、わたくしはあなたの気持ちも全て理解しています。フローラルを犯したビースト、自分を学会から追い出した人間たち。……それらに対する気持ちも持っています。ですが――」
 アナスタシアは一瞬ためらうような表情をして目線を落としてから、もう一度バーバラを見つめた。強い視線で。
「――憎んではいけないのです。恨んではいけないのです。憎しみは新しい憎しみを生み、負の連鎖を生むだけです。ですからわたくしは、人を守るために。そして、この世界を守るために生きるのです!」
「……」
 バーバラは、完全に言葉を失った。
 まるで足元が崩れて落下しているような感覚。ただそれにまどろんでいた。
「……お前の気持ちは、よーっく分かったよ」
 バーバラは右手を大きく突き出し、ゆっくりと顔を上げる。
 その顔は邪悪でいやらしく、憎悪以外の意味を持たない表情。

 ――いわば、純然な"悪"にのみ許された表情だった。

「ならば、その理想論を抱いて死ね! 全てを滅ぼせ……メギドオォォォォォ!」
 がくん、と全体が揺れた。先ほどまでの揺れに加えて、さらに激しい揺れがコロニーを襲う。まるで世界が全て終わるかのような激しさは、言いようのない恐怖を植えつける。
「! まさか……こんな恐ろしいものを使える者がいたとは――!?」
 ファビアは愕然とした表情で言った。驚きと恐怖が入り混じり、その思いをただ言葉にした、そんな声だった。
「ファビア! どういう事です!?」
「彼女が今発動させたのは、"マジック"と呼ばれる古い魔術――。"テクニック"のように誰にでも扱いやすいように論理体系化したものとは違い、その元となった"マジック"は、いわば純然たる"魔法"! 術者の素養だけでなく、感情、精神、全てがその強さと成り得ます! その中でもメギドは、術者の感情の爆発を源とするもの……!」
 ファビアが言うのに、全員が息を飲んだ。一体これから何が起こるというのか、想像もつかなかったからだ。
「つまり彼女の"メギド"は、我々が知っているテクニックの"メギド"とは、比にならないほどに恐ろしいもの……!」
 バーバラがその手を振りかざした。その途端、どずん、と地面がさらに激しく揺れる。壁がその振動に耐え切れず、あちこちで弾け飛ぶ。天井は崩れ、床は陥没する。
 それから全てを覆う、大爆発。極限まで圧縮されたものが、一気に拡散する。炎と熱風が荒れ狂い、壁を、天井を、そしてガーディアンズたちを飲み込んでゆく。
「うわああああっ!」
 あちこちから鉄片が飛び散り、炎が噴き出して全てを灰へと変えてゆく――。
「……ふふん、脆い。人間など脆すぎる。私を学会から追い出したのは、こんな脆い奴らだったのか」
『く、く、くく。おいおい、我の相手がいなくなってしまうではないか……。』
 ごおぉぉ、と空気が唸っている。熱気は上昇気流となり、空気を渦巻かせてゆく。煙が全てを覆い尽くしていた。
「……"マジック"は、その強力さから"禁忌"とされた時代もあったと聞いています」
「!?」

 ファビアの声が、響いた。

 バーバラは驚いた顔で視線を向ける。
 視界を覆い尽くす煙の隙間から、わずかに覗く青白い光。
「ですから、私もこれを使えるという事は公にしたくなかったんですが……」
 徐々に煙が薄れ、その姿が明らかになってゆく。
 大きなドーム状の球体。それが青白く光るものの正体だった。
「なんだと!?」
 青白いドーム状のものが、全員を覆っていた。中心でファビアが杖を掲げ、彼を中心に正三角形を描くようにメァル、シロッソ、エレナが立っている。彼らもまた、各々の得物を掲げていた。
「魔法的な威力を軽減するマジック、"ムワーラ"。それに3人の法撃力を加えたもの……この壁は、そうそう破れませんよ……!」
「わらわたちは一人ではない!」
「全員で力を合わせたら、これぐらいやれるんです!」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe70 決戦
「ったく、脅かすんじゃねぇよ」
 その光景にバーバラは眉をひそめ、明らかに苛ついた表情で口を開いた。
「この糞餓鬼どもが……!」
『……茶番はこのぐらいでよかろう。さぁ、力を貸せ。』
「ああ……こいつらを殺せ! 殺すんだ!」
 バーバラの姿が、ふわり、と揺れた。ゆっくりとダークファルスの体に溶け込んでゆく――。
「合体……した!?」
『合体ではない……同化だ……深淵なる闇は、全ての存在を同化してゆくのだ……。』
 ダークファルスは、その大きな両腕を振り上げ、地面に叩きつけた。激しい振動が起こり、地面には亀裂が走る。
『く、く、くく。貴様らとて数がいればどうとなるものでもなかろう。封印の解けた我の力を、思い知らせてやろう……。』
 その顔が、邪悪な笑みを浮かべる。
 いや、笑みと呼んでいいものかどうか。それはただ欲望、憎悪、狂気。
 それ以外の感情をまったく感じさせなかった。
「テイル、アンドリューは射撃隊として後方より援護を!」
 アナスタシアが声をあげた。一同ははっとした顔で視線を向ける。
「まかせておけ」
「分かった!」
 テイルはライフルを、アンドリューはショットガンを構えながら。
「ファビア、メァルは後方からの援護、シロッソ、エレナは中間距離での攻撃を!」
「分かりました」
「わらわの力、見せてくれるわ」
「OK、ぶちのめしてくるぜ!」
「了解です!」
 ファビアとメァルとシロッソはロッドを、エレナはシャトを飛ばしながら。
「ラファエル、ルディ、イチコ、オルハは目標の注意を分散させ、本隊の突入を援護してください!」
「分かった、まかせろ!」
「ああ、ぶっ潰してやンぜ!」
「ボクたちに!」
「おまかせっ!」
 ラファエルはステイグマを、ルディはラコニアソードとスライサーを、オルハは両手に鋼爪を、イチコは長剣を構えながら。
 全員が、今から始まる最後の戦いへの準備と心構えを完了する。
「アナスタシア、俺は?」
「ランディ。あなたは……私の、傍に」
 アナスタシアは、空いた左手でそっとランディの手に触れる。
「……共にゆきましょう」
 その手も、そして声も。

 震えていた。

 それから、ぐっと大きく息を呑んで。ぎゅっとその手を握り返して。
 力の限り、叫んだ。
「正面から突入します。そして必ず、倒します!」
「OKだ! 頼むぜ、指揮官サマ! いっくぜえぇぇっ!」
 それが合図だった。全員が、走り出す。
 まずは、テイルのライフルが唸った。続いてアンドリューのショットガン。フォトンの弾が、ダークファルスの体を打つ。黒い皮膚の表面で、いくつもの火花が飛び散る。
『小賢しい……。』
 ダークファルスが右腕をゆっくりと上に振り上げてから、ぶんと振り降ろした。
「!」
 全員が察知して飛び退く。直後、ずぅんと激しい音がして、地面ががくんと大きく揺れる。あまりにも激しいそれは、地震というよりも地面がひっくり返ったような錯覚を与える、そんな揺れ方だった。
 地面に叩きつけられたその拳は、床を1メートルほど陥没させていた。鉄を幾層にも重ねて作られた床は、宇宙空間での運用に耐え得るように作られており、そうそう壊れるような代物ではないはずなのに。
 もし、あんなものをまともに受けたら……そんな嫌な想像に、さっと血の気が引く思いをする。
「はあぁぁ!」
 ラファエルが飛び出した。振り降ろされた右腕に向かって飛びかかる。高い跳躍から、体重を乗せた乱れ突きを叩きつけた。がきん、とまるで鉄を叩いているような感触が伝わり、フォトン火花が激しく散った。
「いやーーーーっ!」
 続いてイチコが、激しい縦回転をしながら飛び込んでくる。体重と遠心力を乗せた一撃が斬りつけると、またも激しい火花が飛び散った。
「うわっ、かたーい!」
「まだまだ、もういっちょ!」
 次はオルハだ。体をひねりながら、爪を突き出して飛び込んでくる。ぎゃりぃん、と激しい金属音が響き渡る。
「オラキオの悲願の一撃、食らいやがれ!」
 最後にルディが、剣を振りかぶって飛びかかって斬りつけた。だが、それも激しい火花を飛び散らせるだけで、大きなダメージを与えられているとは考え難い。
『……虫め。』
 ダークファルスが右手を持ち上げ、横に軽く凪ぎ払う。ラファエルにルディ、それにイチコとオルハを巻き込んで。
「!」
「うおっ!?」
「きゃあぁっ!」
「うっわあぁぁっ!?」
 4人はとっさに得物で体をかばう。シールドラインが衝撃を押し返そうとヴンと唸るが、その圧倒的な質量は4人の体を軽く跳ね上げてしまう。
「くっ……!」
 4人はなんとか体勢を立て直し、着地する。反応できたから良かったものの、こんなものにまともに殴られたらと思うと、額を冷たい汗が伝った。
「代われ、俺が出る」
「ゆきます!」
 ぐんと風を切って、シャトに掴まったシロッソとエレナが4人の上を通り越してゆく。
「いくぜ……!」
 2人は左手を挟み込むように降り立ち、構える。
「大地よ、大きな生命の波動を収束せよ……ノス・ディーガ!」
「光よ、聖地はここにあり……レグランツ!」
 2人の詠唱が終わる。エレナのシャトからは白くまばゆい光の塊が大量に吐き出され、シロッソの杖からは地を這う波動が幾多の筋となり放出される。
 右から弾かれては左へ、左に弾かれては右へ。ダークファルスの左手は身動きが取れなくなる。
「メァル、今です!」
 ファビアが言うのにメァルは深く頷く。
「静かに猛る氷神よ、我を媒体に氷の力を行使せよ……ギ・バータ!」
「わらわのいかづちは裁きの力……ギ・ゾンデ!」
 ファビアの周りを乱れ飛ぶ氷塊と冷気が、メァルの周囲で発生していたいかづちが、ダークファルス目掛けて飛ぶ。やがて氷と雷が融合してゆく。冷気が雷をまとい、氷塊はその勢いを増す。
「私たちは1人ではありません――食らいなさい、コンダクトサンダー!」
 氷塊がダークファルスの胴に当たった瞬間、どおぉぉんと激しい音が鳴り、ほとばしるいかづちが大きく弾ける。まるで凝縮されたエネルギーが放出されるかのように、着弾点を中心として直径5メートルほどの範囲を巻き込んだ。
『ぐ……ちょろちょろと……。』
 ダークファルスが、顔をしかめた。これだけの連続攻撃を受けては、さすがに無視できない。
「今だ!」
「はあぁぁぁっ!」
 ランディの声に続いて、アナスタシアが叫ぶ。
 どずん、という音が響く。ランディが斧をかざし、胴体に体重を乗せた体当たりを食らわせていた。続いて、アナスタシアが飛びかかる。
「これでも……食らいなさい!」
 横一文字に振られた、赤の剣。わずかに鈍い光の足跡を残し、ダークファルスの皮膚を斬った。
『! その技……!』
「奥義ッ! グランドクロスッ!」
 今度は縦に振り降ろされる剣。あまりのスピードに衝撃波が発生する。
『……貴様……またも我の前に立ちはだかるか……!』
 ダークファルスの胴体に、十文字の傷が残る。剣は明らかに皮膚を切り裂いていた。傷口からは黒い煙のようなものが漏れている。
「16年前は引き分けでした。ですが、今回は違います! ――わたくしは、1人ではありません!」
『小賢しい! 貴様らごとき虫ケラが、何人集まろうと関係ないのだ!』
 ぞわっ、っと音がした。大量の虫が移動しているような、生理的に嫌悪を覚える音。
『封印が解けた今、我の力はこんなものではない……!』
 音がどんどん大きくなる。今まさに、耳元で鳴らされているような、音量。
 それから、ぼっ、と何かを突き破る音が響いた。
「!?」
『我を支えるのもまた、"人の想い"なのだよ……くくく。志半ばで倒れた者は、我の力となる……!』
 全員が、唖然としてダークファルスを見上げていた。大きなその右肩に、視線が集まっている。
 右肩からは1本、腕が生えていた。人間のものにしか見えないが、そのサイズは大きく長さ20メートルはあるだろうか。

  そして……その手には、流線形の特殊な形状を持つ、大きな剣が握られていた。

「まさか……!」
 ファビアはそれを見上げながら、声を漏らした。その剣には見覚えがあったからだ。
「まさか――あれは、イオリの剣……!」
「なんだとっ!?」
 一同が振り返り、口々に絶望の言葉を口にする。死者を取り込み、己の力へと変えてしまう邪神の恐ろしさに――。だが、それはダークファルスにとっては讃美歌でしかない。
『さあ、来い。貴様らも倒れれば、このように我の力としてくれるわ……!』
 ダークファルスの顔が、にやりといやらしく笑った。
「みんな! 大丈夫!?」
 場に響き渡る、アルファの声。彼女は手にK・Kを構えて、息を切らせながら走って来た。近くにいたファビアが、その見慣れた顔にほっとして声をかける。
「先生、状況は!?」
「ウィンドと交戦しました。なんとか退け説得しましたが、SEEDの大群が現れ、彼はそれと戦うために残りました」
『ほほう……それは、こいつの事かな?』

 ダークファルスの言葉の意味を、誰も理解できなかった。

 呆けた顔で見上げたまま、一瞬動きが止まる。
 そこへ、先ほどと同じ虫の這う音がして、左肩から新たな1本の腕が生える。
「!」
 誰もが知っている、腕。
 黒い袖に、黒く光るフォトンセイバーを握った手。
「お、おい、まさか……!」
 ランディが、目を見開いたまま、呟いた。
「そんな……ウィンドは……!」
 アナスタシアも驚いた表情のままで、言葉を漏らす。
「ウィンド……ッ! ウィンドぉぉぉッ!」
 アルファの悲痛な叫びが、こだました。
『くくく……いいぞいいぞ、もっと盛り上がろうじゃあないか。』
「この……ッ! ふざけるなああぁぁぁっ!」
 アルファが地面を蹴って、飛び出す。
 策など無い、ただの突撃。冷静なアルファだったが、今は感情のみが彼女を駆り立てる。
『おっと。』
 ウィンドの腕がぐんと振り降ろされる。アルファはとっさに飛び退いて、それをかわす。
 反応して銃を向けるが、彼女はその腕に向けて引き金を引くことができない――。
「くっ……!」
 アルファは眉を寄せ、ダークファルスを睨みつけながら見上げる。
「この野郎っ!」
 今度はランディが、跳んだ。空中でビーストフォームをとる。
「ウィンドを……ウィンドを返せ! 貴様は俺が倒す!」
 高く飛翔して振りかぶる。音速を超えるパンチが、ダークファルスの胴を打つ。
 めきめきっ、という軋む音。筋繊維が物理的なベクトルによって引き裂かれる感触が、その拳に伝わってくる。
『……鬱陶しい。』
 ダークファルスの胴から生える小さな右腕が、ランディの体を払いのけるように殴りつける。小さいとはいえ威力は充分で、ビーストフォームの巨体をやすやすと弾いて、ランディの体が宙を舞う。
「うお!?」
「危ない!」
 地面に叩きつけられると思った瞬間――その体が、受け止められた。
「……? お前ら!」
 アナスタシア、ファビアとそれにオルハ。3人が、その体を受け止めていた。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe70 決戦
「ボディの出力を高めておいて、正解でしたわ」
「しかし……重いものですね」
「ボクの細腕じゃ、厳しいよ」
「……お前ら……無理しやがって!」
 降りながらランディは怒鳴る。優しい表情のままで。
「あなたの身に何かあったら、わたくしはどうすればいいのですか?」
「……!」
 アナスタシアがうつむきながら言うのを、ランディは固まったように、ただ見つめていた。
 ファビアはここで何かを悟って、驚いた顔でオルハの方に視線を向ける。オルハは黙って瞳を閉じたまま、ただ頷いていた。
「……すまねぇ」
 申し訳なさそうにランディが言うと、アナスタシアがそっと、その右手を両手で包み込んだ。
「勝ちましょう、必ず」
「もちろんだ。……だが、どう攻める?」
「しばらく動きを見ていましたが、やはり弱点は顔の部分だと思います。そこへ集中攻撃をかけましょう」
 4人がダークファルスの方へ視線を向ける。胴の上部にある、顔。だが、警戒されておりそこへは誰もたどり着けない。
「わたくしたちの最大攻撃を、連携させましょう。わたくしとファビアで両腕を抑えます。その隙に、ランディとオルハで顔面を狙ってください」
「OK、チェインさせるぜ」
 アナスタシアの声に、ランディとオルハが前に出る。
「ランディ」
 それを、アナスタシアの声が呼び止めた。
「必ず、生きて」
 ランディは振り向きざまに微笑みながら、右手の親指を立てて、腕を上げた。
「全員、陽動を開始! 連携攻撃を仕掛けます!」
 アナスタシアの声に全員が展開する。ダークファルスの意識をそらせるために。
「ランディ、生きて帰ろう?」
「――ああ、もちろんだ」
 オルハが言うのに、ランディが力強く答える。
「……あのさ、ボクには故郷がたくさんあるんだ」
 不意にそっと、オルハの左手がランディの右手を取った。
「だから……一緒に帰ろう?」
「……ああ。必ず、な」
 ランディは微笑むと、地面に右膝をついた。そして、オルハに右腕を差し出す。オルハは頷いてその右腕に乗り、しゃがみこんだ。
 オルハはクローのリミッターを解除する。ヴン、とリアクターが低くうなると、その形状がぼやけてゆく。
「……オルハ、行くぜ」
「うん、ボクはいつでもいいよ」
 その声にランディが頷いた。
「炎を司るフォトンよ、氷を司るフォトンよ……光を司るフォトンよ……"宮中三殿(きゅうちゅうさんでん)、祀られしものたちよ"――」
「本部へ要請! SUVウェポン、グロームアタッカーを二門! 使用許可を!」
 ファビアが杖を持って精神集中を。アナスタシアは両手を上げて。攻撃準備を開始する。
 ファビアの前に、炎と氷と光のフォトン弾が生まれる。空からは、グロームアタッカーが二門舞い降りて、アナスタシアの両側に降り立つ。
「いきます!」
 アナスタシアは自分の胸を開いて、手を突っ込む。ぶちぶち、と音を立てながら取り出した手には、何本かのちぎれたコードが握られている。そう、フォトンリアクターへと繋がるコードだった。
「リミッター解除……わたくしのフォトンリアクターよ、最大限の力を出して! わたくしの力……感じなさい!」
「三位一体となりて目標を包み、我らが主に帰す……トリニティブラスター!」
 ごっ、という空気を切り裂く激しい発射音の後に続き、ずどぉん、とまるで砲撃が着弾したかのような音が響く。
 ファビアから放たれる極太のレーザーが右腕を。アナスタシアから放たれる4本のレーザーが左腕を。ダークファルスを直撃した。
『!? なんだと……?』
 あまりの衝撃に押され、ダークファルスの腕の動きが止まった。押す勢いが強すぎて、腕を動かせないのだ。
「よし、オルハ! 飛べ!」
「まっかせといて!」
 ランディが立ち上がり、オルハを乗せた右手をぐんと振りかぶった。そして、そのまま音速を超える拳が、ダークファルスの顔面目掛けて、オルハを投げつける。
「いっけぇぇぇぇっ!」
 オルハの体が、弾丸のように飛び出した。両手のクローを前に突き出し、体全体に徐々に捻りを加えてゆく。ドリルのように激しく回転して、白く輝くフォトンの尾を残しながら。まるで彗星のように一直線に、ダークファルスの顔に吸い込まれるかのように――!
「これがボクの必殺技だ! ――オルハ乱舞 FINAL ACT!」
 ずどぉんと響く、まるで分厚い鉄板をぶち抜いたような音。ダークファルスの顔面で激しく飛び散る、きらめくフォトンと、火花。まるで花火が爆発したかのように、激しいフラッシュが辺りを包み込む。
 そして、明らかにぐらり、と大きく揺れるダークファルスの巨体。
『な……!』
「こいつでとどめだ!」
『!?』
 目の前に見える、ランディの巨体。オルハを投げた直後、彼自身も走り出していたのだ。
「うおおおぉぉぉぉぉっ!」
 振り上げた右手を振りかぶる。
 音速の壁を貫いて、拳が振り抜かれる。
 どぱぁん、という激しい音とともに、ダークファルスの顔面にめりこんだ。
『き……貴様……!』
 わずかに、ダークファルスの輪郭がブレた。明らかにダメージが残っている。
「残念だったな、また1000年眠んな!」
『眠るのは……貴様だ……!』
 ダークファルスが、胴の小さな腕の掌をゆっくりと合わせた。まるで参拝でもしているかのように見えたが、そこからゆっくりとその両手を離してゆく。
 その間には、直径30センチほどの黒い球体があった。表面がわずかに揺れており、波打っている。固体ではないことだけは、はっきりしていた。
「……! やべぇ、みんな逃げろ!」
 ランディが叫んだ瞬間。
 黒い球体から、どばっと小さな球体が飛び出した。まるでおたまじゃくしのように尾を引いて、ぶわっと飛び散る。

 ランディは、それに見覚えがある。
 ニックの命を奪った、黒い波動の塊だ。

「!?」
「これは……黒い波動だ! 食らったら死ぬ!」
 叫びながら、ランディは両手を開いて飛びついた。そして、その巨体で黒い球体に覆いかぶさる。たくさんの小さな球体が、ランディの体に吸い込まれてゆく。
「ぐお……っ!」
 着地しながらナノブラストが解け、体が元に戻ってゆく。ランディはそのまま立ち尽くしていたが、不意にがくり、と両膝をつく。
 彼の体を、鈍い痛みが駆け巡っていた。激痛ではなく鈍痛。ずきずきと響くような痛み。
 だがすぐに、痛みが消えていく。あまりの激しさに、感覚が麻痺したのだった。
「ランディ!」
 ランディの耳に、自分を呼ぶアナスタシアの悲痛な声が入ってくる。だが、ランディはそれが聞こえないかのように、開いた自分の両掌を見つめていた。
「く……俺は……死ぬのか……?」
『くっくっく……わざわざ生かしておいたのだからな。あとは貴様次第だ。』
 ランディの脳裏に、目の前で死んでいったゴミ捨て場の仲間たちの姿が浮かぶ。

 マックス、ジェシカ、ニック……俺も、あいつらみたいに死んでゆくのか……?

 額から脂汗が垂れる。ゆっくりと頬を伝って、顎から落ちてゆく。
 どくん、どくん、と脈打つ鼓動が、まるで耳元で響いているかのように、いやにリアルだった。
「くぅ――っ」
 それから、ランディはわずかに呻いたかと思うと、ゆっくりと前に倒れた。
「ランディ、ランディっ!」
 アナスタシアの叫び声だけが、ランディの薄れる意識の中で、響いていた。

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