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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe63 現実の、悪夢

 パルム、13:45。
「イチコ……!」
 草影から飛び出してきた人物に、オルハは絞り出すように感激の声を漏らした。
「えへっ、いてもたってもいられなくて来ちゃった!」
 イチコは黒い髪を揺らしながら、舌を出してお茶目な笑顔を見せる。すぐにポケットからスターアトマイザーを取り出してアルファに投げると、地面にぶつかって瓶が割れた。その香りが広がったかと思うと、呻きながらアルファがその瞳をしばたく。
「うぐ……っ、はぁ……」
「先生、大丈夫!?」
「……いえ、正直あまり……でも、お陰でかなり楽になりました」
 体を起こしながら、アルファは腕で顔をこする。ほつれた前髪を指でさっと分けてから、なんとか立ち上がった。
「テイルさんはこれね」
 イチコは小さな筒状の瓶を取り出して、テイルの口に含ませる。
 キャストは疑似生命体なので、モノメイトなどは効果が無い。今テイルに含ませたものは"リペアキット"と呼ばれるもので、液体に含まれたナノマシンが疑似体液に浸透し、全身の破損を修復するというものである。
「――む……すまん」
 上体をゆっくりと起こしながら頭を左右に振って、テイルは申し訳なさそうに言う。
 そのままオルハに駆け寄ろうとするイチコの前に、ラ=シークの親衛隊が立ちふさがった。
「いくよ、みんな!」
 イチコが愛用の長剣を抜き放って走り出す。
「援護はまかせろ!」
 それに続いてアルファも走り出し、テイルがライフルを構える。
「はあーーーーっ!」
 イチコは長剣を大きく振り上げ、ぶんと横に薙ぐ。黒と青の親衛隊が慌てて飛び退いた。
「イチコ、オルハを!」
「分かった!」
 アルファが引き金を引きながら言うのに、イチコが突貫する。弾丸が前衛の2人を牽制し、その隙にイチコが走り抜けてゆく。
「やあーーーーっ!」
 走りながら剣先を前に向け、勢いを乗せて黄色親衛隊に突っ込む。重いグレネードで身動きが遅く、咄嗟にグレネードで体をかばうものの、長剣はやすやすと貫いてその体をかすめてゆく。
「……」
 致命傷ではないが横腹を大きくえぐり、ばちばちと火花が飛ぶ。ひるんだ隙に再度走り出し、オルハの方へ向かった。
「うわー、なにこれ。でっかいなあ」
「イチコ……!」
「ちょっと待ってて、すぐ助けてあげるからね」
 イチコは言いながら、上段に構える。ゆっくりと息を吸って、瞳を閉じた。
「……せーのっ!」
 かっと大きく目を開いて、イチコが飛んだ。その跳躍は2メートルをゆうに超える。
「えーーーーーいっ!」
 空中でぐんと勢いを着けて縦回転。ぐるりと一回転した勢いのまま、氷に剣を叩きつけた。
 氷に剣先がめりこんだまま、重力にまかせて落下する。びきびきと柱を引き裂きながら、イチコは着地した。
「さて、最後の仕上げっと!」
 頭上でぐるんと剣を回転させてから、野球のスイングのように剣を振って、柱に叩きつける。その衝撃で先ほどの亀裂がより深く、より大きく。ばきばきと音を立てながら、柱は崩れ落ちてゆく。
「ぷはーっ、酸素、酸素!」
 オルハは満面の笑みを浮かべて、柱から飛び出した。くるりと華麗に回転して、難なく地面に降り立つ。それに長い三つ編みが、ふわりと流れるように揺れた。
「イチコ、ありがとっ!」
「どーいたしまして。ほんとに無事で良かった!」
「わぁい! イチコ、愛してるぅ!」
 2人は両手を取りあって、ぴょんぴょんと飛び上がって無邪気に喜ぶ。この場面に不似合いであることなど、どうでも良かった。
「っと、あいつら片づけなくちゃ」
「あの変な色の人たち?」
「そう、ラ=シークの親衛隊だって。やたら強いんだ」
「OK、まっかせといて!」
 2人が走り出した。オルハは左の紫親衛隊に、イチコは右の黄色親衛隊に。
「うりゃあぁぁぁ!」
「ええーーーーいっ!」
 紫の親衛隊は弓を引き絞って矢を放つが、オルハはそれを軽くかわしてみせる。無防備になった体に、勢いを乗せて右、左と交互に引っ掻いてやった。近距離戦になればこっちのもの、親衛隊は反応できず、されるがままだ。
 イチコが剣を槍のように構え、勢いを乗せて黄色親衛隊を突き刺す。親衛隊は反応してかわそうとするが、先ほどのダメージが残っており反応が遅い。ごっ、と激しく空気が貫かれたと思うと、左肩が爆発したように吹き飛んだ。
「もいっちょ!」
 オルハは間伐入れずに攻め立てる。右のクローを激しく突き刺し、それに体重を預けて飛び上がり、左足で顔面を激しく蹴りつけるサマーソルトキック。勢いでクローを引き抜いてくるりと回転し、着地してすぐに体を時計回りに回転させる。右足に勢いを乗せて、側頭部へのソバット。紫の親衛隊は右側へよろめいた。
 イチコは剣を振り上げ、右から左へと大きく振り抜く。黄色親衛隊は飛び退こうとするが、遅かった。胸部に剣の腹が打ちつけられ、ふっ飛ばされる。
 がん、という金属のぶつかる音。
 そう、黄色と紫の親衛隊は背中合わせにぶつかっていたのだった。
「2人まとめてぇ!」
「反省しなさーーーい!」
 イチコの剣が2人まとめて腹部からまっぷたつに。直後、オルハの爪が2人まとめて頭部を貫く。
「よし!」
「ハイターッチ!」
 2人はぱしんと手を合わせて、きゃっきゃと飛び跳ねた。
「……ふう、これで終わったわ」
 アルファの声に振り向くと、青と黒の親衛隊も沈黙していた。
「うわー、2人とも首ぶちぬかれてる。先生こわーい」
「……2体まとめてまっぷたつにした挙句、頭部を貫いてるような人には言われたくありません」
 オルハが茶々を入れるのに、アルファが苦笑して答える。
「にしてもイチコ、昇任試験は大丈夫なの?」
「うん、大丈夫じゃないけど……非常時に出動できなきゃ、ガーディアンズの意味がないしね」
「そっか……ごめんね。でも今、本当に余裕が無いのよ」
 そんなアルファは肩で息をしているし、そのスタイリッシュなジャケットとパンツが所々破れて血が滲んでいる。テイルもボディパーツの塗装が所々剥げており、金属の無機質なシルバーを覗かせていた。
「とにかく、ラ=シークを追いかけないと……」
「そういえば、ガーディアンズ・コロニーに向かうって言ってたね、あのヒゲ」
 アルファが独りごちるのに、オルハが答える。そう、ラ=シークはガーディアンズ・コロニーに向かうと言っていた。大切なプロジェクトがあると。
 オルハは、ゆっくりとアルファの方へ振り向いて、何も言わずにただ見つめていた。アルファはそれに気づいたが、すぐに視線をそらしてしまう。
「……先生、そろそろ全部話してもらえないかな」
「そうね……」
 アルファは観念したように呟いて、目線を落とした。どれほど重い内容なのか、想像がつかない。うつむいた弾みで、緑色のポニーテールの穂先が揺れた。
「――ずっと言わなきゃいけないと思っていたのだけど、ガーディアンズ内部で戒厳令が敷かれていたの。このことを知れば、混乱するのは目に見えていたから……」

 アルファがそう答えた瞬間だった。

 ごごごごご、と低く響く轟音が辺りを包みこみ、地面が激しく揺れた。

「!?」
 足元からびりびりと伝わるような振動。地面が――いや、星が揺れているかのように。
「な、な、なにこれ!?」
 揺れる足元に、イチコは両手を広げてバランスを取りながら言う。
「先生……まさか」
「……ええ。言えなくてごめんね、トップレベルの機密だったのよ」
 オルハが神妙な顔で言うのに、アルファは小さく頷いた。
「今朝、グラールの3惑星で同時にテロ活動が開始されたのよ。その首謀者は恐らく――ヒューマン原理主義団体"イルミナス"……」
「イルミナス……!?」
「私たちはコナンドラムの件で動いていたでしょう? だからイルミナス関連の任務に出る事も無かったけど……ここ数ヶ月で活動が表立ってきた、"全ての物事はヒューマンより始まる"事を理念とし、破壊活動を行っている組織よ」
 アルファが少し視線を落として言うのに、一同は押し黙った。
「そうか、あの煙は……」
 テイルが思い出したように呟く。パルムに降り立ってすぐ、遠くに見えた煙はそのせいだったのだと。
「イルミナスはSEEDウィルスを散布し、無差別に感染を広げているわ……そして、それに便乗してダークファルスを復活させようと、コナンドラムも動いているみたい……」
「……あっ……!」
 オルハが急に叫んで見上げる。
「この振動や爆発音は……そういうこと?」
 一同もその視線の先を追って、口々に呻き混じりのため息を漏らす。形容し難い重い空気が、一同を包み込んでいた。
「まさか、コロニーが……」
 テイルが愕然とした顔で呟く。
「ちょっと……あれ何? 何が起こってるの?」
 イチコが、焦って挙動不振に手をばたばたさせながら言う。
「……」
 全員が見上げる空、そこに浮かぶガーディアンズコロニー。

 表面で、大規模な爆発が起こっては、消える。
 そんな事を繰り返していた。

「戻らなきゃ!」
 我に返ったように、オルハが悲痛な声で叫ぶ。だが、他の3人は呆けた顔でただ空を見上げていた。
「このままじゃ、コロニーが!」
「……いけない、早くコロニーへ!」
 アルファが我に返ったように叫んで、フライヤーベースを促す。テイルとイチコも事態を飲み込めたらしく、走り出す。
「早く! 急がないと!」
 激しい振動と地鳴りを切り裂いて、オルハの声が辺りに響き渡った。

 ガーディアンズ・コロニー、13:50。
「おお、始まったみたいだね」
 バーバラが、激しく振動する天井を見上げながら、楽しそうに呟いた。
「そうっスね……今のうちに準備を進めてしまいましょう、バーバラ様」
 ウィンドが言って、まるで屋根のついた手押し車のような物体――どうやら大型ナノトランサーのようだ――から、様々な機械を取り出してゆく。
「ふむぅ、しかしこれほど簡単に潜入できるとは思っておりませんでしたな」
「元々この最下層は倉庫だったり設備維持装置が置いてあるだけっスからね。警備もかなり甘いし、出入りもガーディアンズの新人が担当してるんで、入るのは容易っス」
 ラ=シークが髭を指でつまみながら素直な感想を呟くと、ウィンドが何故か自慢気に言ってみせる。
 そう、ここはガーディアンズ・コロニーの最下層部分。かつてランディたちが、ジャッキー率いる爆弾設置部隊と戦った場所の近辺であった。
「ま、ガーディアンズ・ライセンスがある者はノーチェック、という警備体制は問題があり過ぎるね」
 バーバラが髪をかき上げながら、不敵に微笑んで言った。
 そう、ここに潜入する際にもウィンドのガーディアンズ・ライセンスを使って、すんなりと入ることができたのだった。
「それもそうっスよね、今度厳しく言っておくっスよ」
 にやにやと笑って、ウィンドはおどけてみせた。そう、ガーディアンズを裏切ったはずのウィンドが問題なくガーディアンズ・コロニーに入れること自体が、不思議なのだ。
 ウィンドの言葉に、バーバラもにやにやと笑い返す。
「なんにせよ、これでダークファルスの復活は問題なさそうですな。……しかし、封印を解く装置は完璧ではないはず。どうするのです?」
「そういえばそうっスね。結局プルミエールが作った解除装置は間に合わなかったんスよね?」
 不思議そうにラ=シークが言うと、ウィンドも思い出したように答える。だが、バーバラは気にせずにやにやと笑っている。
「なに、機械や星の軌道に頼らずとも、封印を解く手段はある。面倒なのであまり気が進まなかっただけさ」
 その言葉の意味が分からず、ウィンドとラ=シークは不思議そうな顔を見合わせた。
「それより、準備はどのくらい進んでいるんだい」
 見ると、3人の足元には大きな魔方陣が描かれ、それを囲むように高さ1メートルほどの機械がいくつも並べられている。その中心には"欲望の箱"が置かれていた。
「――これで、ついにヴァルキリーが生き返るっスね……」
 ウィンドも地面を見下ろしながら、ぼそりと呟いた。
「さあウィンド、やれ」
「了解っス」
 バーバラの声にウィンドは、魔法陣の周りに置かれたいくつかの機械の電源を入れてゆく。
「――バーバラ、本当にやる気なのですか?」
 不意に、ラ=シークが口を開いた。
「今更なんだい。あんたは私の計画を理解してくれてたんじゃあないのか?」
「んむぅ、それはそうですがねぇ……」
 曖昧に答えて、ラ=シークは腕を組んだ。

 ……誤算、だった。

 彼はあくまで一実業家として、投資する価値があったからバーバラに投資していた。それに、実験が成功すればヒューマンがいかに優れた種であるかを、世間に知らしめることができる。彼はそのために活動してきたのだ。
 ナノブラストさせる薬も最終テストを経てほぼ実用の域に達している。新たなビジネスチャンスも見え始めているというのに。
「なんだい、何か文句でもあるのかい」
 煮え切らない態度で首を傾げるラ=シークに、苛ついた顔でバーバラが言う。ラ=シークはゆっくりと息を吐きながら両手を広げて、「いや」とだけ答えた。
「この期に及んでグダグダ言うんじゃないよ。……なあ、ウィンド?」
 ラ=シークに背を向けながら、バーバラは言う。
「そうっスよ。もうすぐヴァルキリーが生き返るんスから」
「ところでウィンド、ひとつ頼みたいことがあるんだが」
「?」
 バーバラはウィンドの肩に馴れ馴れしく腕をまわすと、ぐいと引き寄せた。そして耳元で、小声で囁き始める。
「ダークファルスが甦れば、ヴァルキリーは生き返る。それは分かっているな?」
「? それはもちろんっスよ」
「上出来だ。……ただ、封印を解くのにひとつ、やらなきゃいけないことがある、それをお前に頼みたいんだ。やってくれるな?」
 バーバラは不思議そうな顔をするウィンドの耳に口を近づけてぼそぼそと一言呟いた。
 次の瞬間、ウィンドの顔からさあっと血の気が引いてゆき、目を見開いて振り返る。
「――!」
「いいかいウィンド、落ち着きな。人の想いとやらを生かすのがガーディアンズなんだろう? だったら、私の想いを生かすために手を貸しちゃあくれないかねえ?」
「しかし……!」
「はっきりしない奴だね。ヴァルキリーを生き返らせたいんだろう?」
 バーバラのきつい言葉に、ウィンドは押し黙ってしまった。
 ヴァルキリーを生き返らせるためなら、どんなことでも受け入れるつもりでいた。だが、彼が本来持つ優しさと常識が、"受け入れるな"と、激しく抗議している。
「ああ、分かった分かった、1人じゃ足りないんだな? ならば私の技術でもう2人ほど作ってやろう。もちろん、お前の好みに合わせて性格も外見も自由に直してやる。もっと胸を大きくして欲しいのか? それとも尻か?」
 押し黙ってうつむいたままのウィンドに、バーバラはまくしたてた。だがウインドは何も言わず、うつむいたままだった。短い栗色の前髪が顔にかかり、その悲痛な表情を覆い隠していた。
「俺はヴァルキリーを生き返らせたいだけっス……」
「そのために必要だと言ってるだろう。お前のヴァルキリーに対する想いはそんなもんだったのかい?」
「! そんなことないっス、ヴァルキリーのためならどんなことでもやるっスよ!」
 弾かれたように顔を上げ、ウィンドは声を裏返らせて叫ぶ。それを待っていたかのように、バーバラは目を細めていやらしく見つめていた。
「じゃあ、私の話は分かったね?」
「――」
 ウィンドは答えず、ゆっくりと目線を落とす。拳を軽く握り、重力にまかせて垂らしたままで。

 ……そうだ。
 ダークファルスを復活させれば、ヴァルキリーは甦る。
 そのためにガーディアンズを裏切って、ここまで来たんじゃあないか……。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe63 現実の、悪夢

「……分かったっス」
 うつむいたままで静かに呟きながら、ウィンドの両手をフォトン粒子が包み込んだ。そこに握られているのは、愛用の2本の剣。濃紫のフォトンの刃を持つ、過去の遺産を模倣した剣だった。その光景を、バーバラはにやにやといやらしく笑って見ていた。
「……んむ?」
 機械のディスプレイに向かいながら画面を指で押していていたラ=シークが、そんなウィンドに気づいて不思議そうに顔を上げた。
(……?)
 何故、剣を抜いたのか。
 それが何を意味するのか、ラ=シークには分からなかった。
「ウィンド……?」
「ヴァルキリーを……」
 ウィンドが、ラ=シークへ向かって歩き出した。足取りは重いが、踏みしめるようにゆっくりと、一歩、また一歩、と歩いている。
「……バーバラ?」
 ラ=シークが不思議そうに呼び掛けるのに、バーバラは答えなかった。ただ腕を組んでにやにやと笑いながら、それを見ていた。
「ヴァルキリーを……生き返らせるんス!」
 ウィンドが、地面を蹴った。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
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