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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe61 カウントダウン

 パルム、13:12。
「……」
 オルハはただ、ゴーヴァ鉱山の門を見据えていた。相変わらず鉱山では人が忙しそうに動き回っており、その繁忙ぶりが窺える。
「……どうしたの? オルハ」
 アルファが気遣って、そっと後ろから肩に手をかけた。
「う、ううん、別になんでもないよ」
「そう? ならいいんだけど……」
 オルハが慌てて首を振るのに、アルファは少し困ったような笑顔で答える。
 ……いくら様変わりしていても、やはりこの場所はオルハにとって思い出の場所だ。冷静でいられないのは仕方ないだろう、とアルファは結論付ける。
「それにしても……近くのシティから煙があがっていたようだが、あれは一体何だったんだろうな」
 ふとテイルが呟いて、それにオルハが首を傾げて両手を広げる。
(……もう始まっているのね)
 だがアルファは何も言わず、僅かにうつむくだけだった。
「よし……ならば行くか」
 テイルがぐんと肩を回して気合を入れながら言うのに、アルファははっとなったように大きく頷く。
 ……なに、問題は無い。物的証拠は無いが、最悪でも任意同行してもらい事情聴取までは持ち込めるはずだ。そう自分に言い聞かせる。
「さ、では行きましょう」
「うむ」
「……分かった」
 アルファが大きく一歩踏み出す。それに続いてテイルとオルハも歩き出した。
 門の入り口には、3本の引っ掻き傷をモチーフとしたシンボルが飾られ、レーザーフェンスで出入りは封じられている。
「はいはい、どちらさんで?」
 3人が近づくと、詰め所の窓から中年男性の守衛が顔を出して、気だるそうに聞いた。
「ガーディアンズ機動警護部所属、アルファです。代表取締役ラ=シーク・マッケランの任意同行をお願いするために参りました」
 アルファはガーディアンズ・ライセンスを見せながら、毅然とした口調で言う。
「任意同行?」
 守衛は意図しなかった単語に顔をしかめ、いぶかしげな表情で睨みつけてくる。
「そうです。とある組織の破壊活動に参加していた疑いがあります」
「そんな事、あっしに言われましてもねえ……」
 守衛は明らかに責任逃れに走る。ガーディアンズの連中を入らせると後でやっかいな事になるし、かといって入らせないよう抵抗するのも正直面倒だ、といったあたりが本音なのは想像がついた。
「では、勝手に入らせて頂きます」
 言うが早いかアルファは、レーザーフェンスの土台に足をかけて、ひらりと飛び越えてしまった。
「! お、おい! 後で怒られるのは俺だぜ!?」
「じゃあ、これでどうかしら?」
 守衛はギョッとして目を見開いた。目の前のガラスに、2丁の銃がつきつけられていたからだ。
「ちょ、おい――」
 アルファはためらいなく引き金を引く。
 銃声が2回と、ガラスの割れる音が辺りに響いた。
「!」
「ちょっと、先生!?」
 それに驚いて、テイルとオルハもフェンスを飛び越えて走り寄って来る。
「――大丈夫、問題は無いわ」
 アルファはにっこりと微笑んでから、守衛に向き直る。
「あなたは通さないように努力した。だけど発砲されたので仕方なく通した。――OK?」
「は、は、はいぃ」
 守衛は腰が抜けたように床にへたり込み、がくがくと首を縦に振った。
 アルファのフォトン弾は天井に2つの穴を作っていた。守衛を狙ったものではなく、規制事実を作る事が目的だったのだ。
「ありがとう。じゃあ、ゲストカードを3枚、頂けるかしら?」
「あ、ああ」
 アルファが微笑みながら言うのに、守衛は机の引き出しから3枚のカードを取り出して渡す。その手は突然の出来事に、明らかに震えていた。
「さ、行くわよ」
 それを受け取って2人に投げてから、アルファは走り出す。2人も慌ててそれを追いかけた。
「しかし、強引だな」
「そうね。でも、時間が無いのよ」
 心配そうにテイルが言うのに、アルファは前を見たままで答える。テイルとオルハは顔を見合わせて、不思議そうに首を傾げた。
(……そうよ、もう時間が無い。でも、ラ=シークを押さえることができれば少しは――)
 3人はビルの正面に着いて、足を止めて上を見上げた。5階建てのビルは相変わらずで、何事もなかったかのようにそこに鎮座している。
「オルハ、ラ=シークはどこにいたの?」
「こないだ来た時は5階の社長室にいたよ」
「OK。じゃあ、5階に直行しましょう」
「おや、物騒ですねえ」
 ビルの入り口から聞こえる声。ガラス張りの正面入り口から見えるのは、1階ホールの奥からこちらへ向かってくる人影だった。
「ラ=シーク……!」
「んむぅ、銃声が聞こえたから何事かと思いましたが……ガーディアンズには心底失望しましたよ」
 見下ろしながら両手を開き、ラ=シークはため息と共に言う。
「それはこちらのセリフよ。コナンドラムは、勝つ為なら仲間に薬を飲ませてでも戦わせるの?」
 アルファが銃口でラ=シークを指して、きっぱりと言い放った。
「戦わせる? それは違いますな。むしろ、ヒューマンがより優れた種になるためのテストに参加できたことを光栄に思って頂きたい」
 その言葉に、オルハはため息をつきながらかぶりを振る。
「あのさぁ……いったい何がしたいのさ?」
「おお……これはこれは、"レディ・ワイルドキャット"。相変わらずお美しい」
「褒められてるんだかなんなんだか、よく分かんないよその呼び方。……で、なんのためにトモエに薬を飲ませたの?」
「簡単なこと……ヒューマンがどの種族よりも優れていることを証明するため。ビーストの力、ニューマンの知能、キャストの精密さ――それら全てを併せ持つ新しいヒューマンの誕生が、このグラールの歴史を変えるのです」
 これにはアルファもテイルもため息をつく。
「……ナントカにつける薬は無い、ってこういう時に使うんだろうな、とボクは思う」
「同感だ」
「それでバーバラの研究に協力していたのね――とにかく、一緒に来て。詳しくは本部で話を聞くわ」
「はっはっは、なかなかに厳しい女性だ。だが……それが美しい」
 ラ=シークはすっと膝まずいて、アルファに手を差し伸べる。
「ごまかさないで」
「これは手厳しい。だが、そのスパイスが貴女と言う星をより美しく輝かせる――」
「いいから、同行しなさい!」
 アルファが両手の銃を構えて、つきつけた。
「まあまあ、とにかく我々に動向してくれないか? 事情聴取がしたい」
 テイルもキリがないと思ったのか、なだめる口調で言う。
「――だが断る……と言ったら、どうしますかな? 気分の良いものではありませんし、何より私は忙しい。これから大きなプロジェクトに参加するために、ガーディアンズ・コロニーに向かわなければいけないのですよ」
「――やはり、便乗する気なのですか」
 アルファが静かに言うのに、ラ=シークは一瞬驚いた顔をしてから、口を開く。
「……おや、あなたは全てご存じのようだ。少し喋りすぎましたかな?」
 その言葉の意味が分からず、オルハとテイルは首をかしげる。だが、それを気にせずアルファは言葉を続ける。
「とにかく、詳しくは取り調べの席で聞きます」
「んむぅ……同じヒューマン同士話が通じるかと思いましたが、そうでもないのですねえ」
「種族に優越など無いわ。ただ"個性"があるだけ」
 アルファが明らかにムッとした声で言い放つ。
「まあ、その話はまたいつかアフタヌーンティーでも楽しみながらするといたしましょう。道を開けて頂けますか?」
「――断れば力づくでも、って?」
 皮肉めいた口調でアルファが言うと、ラ=シークはニヒルに笑ってみせて、腕を組んで頷いた。
「ほっほっほ、これは話が早い」
 ラ=シークが言うが早いか、5つの影が現れてその後ろに立つ。以前オルハとファビアが訪れた際にお茶を運んできたのと同型の女性型キャストだった。それが赤、黄色、青、紫、黒の5色おり、それぞれ頭部こそ違えど基本的な外見はほとんど同じだった。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe61 カウントダウン
「――この親衛隊は自我を持たぬただの戦闘機械、手加減を知りません。それでも構いませんか?」
「望むところだわ」
「先生……落ち着きなよ」
 挑戦的なやりとりに、テイルとオルハも危険を感じたらしい。オルハが冷静な声で言う。
「ごめんね、オルハ。でも、もう時間が無いのよ」
 アルファは振り向きもせずにそう言って、ゆっくりと銃を構えた。
(……そうだ、もう時間が無い――)
「?」
 やはり言葉の意味が分からず、オルハとテイルはまた首を傾げた。
「私とテイルがキャストを引き付けておくから。オルハはラ=シークをお願い」
「うん、わかった。……あ、あと先生」
 オルハが頷いてから、不意にアルファの瞳をじっと覗きこむ。
「言いたくないみたいだから今は詳しく聞かないけど、後でちゃんと教えてよね」
「?」
「急いでる理由」
 微笑みながらオルハが言うのに、アルファは少し驚く。
 ランディといいオルハといい、そこまで信頼してくれているということに。
「ふふ……分かったわ、約束する。だから今は」
 微笑み返してから、アルファは銃を持った右手をラ=シークに向ける。
「こちらに集中しましょう」
 ドンと銃声が響いて、フォトン弾がラ=シークを狙う。

 それが合図だった。

 オルハが地面を蹴った。一直線にラ=シークへ向かいながら、両手に爪を装備する。それに続いてアルファも駆け出し、テイルもライフルを構えた。
 それに反応して親衛隊たちが得物を抜く。赤い者はソードを、青い者は両手にダガーを。黒、黄、紫は槍とグレネードと弓を、それぞれ構えた。
「んむぅ」
 面倒そうに唸って、ラ=シークも両手にウォンドを構えた。右手に炎を、左手に氷をまとってアルファのフォトン弾を弾く。
「はあッ!」
 右手を大きく振りかぶって、オルハの爪が振り下ろされる。ラ=シークは左手の氷塊でそれを軽く弾く。
「んふぅ、相変わらず思い切りの良い一撃ですな。だが……」
 オルハははっと気づく。赤の親衛隊が、オルハめがけて飛びかかっていた。
「今回は個人戦ではありませんよ」
 危ない、と思った瞬間。
 銃声と共に親衛隊の胸に3つの銃創が刻まれる。その反動で体が弾かれ、一歩後ずさった。
「私の狙撃をお忘れかな?」
「あなたの相手はこっちよ」
 アルファは一歩踏み込んで、赤い親衛隊に突っ込む。親衛隊はそれに反応してソードを振りかぶる。
「遅い!」
 アルファはそのままの勢いを乗せて、右手の銃尻で顔面を殴りつけながら、左の銃でソードを握る手を撃つ。そのまま右の銃を顎に押し付けながら、迷い無く引き金を引いた。どん、と顔面が上に跳ね上げられる。
「精進が足らん!」
 テイルのライフルが火を吹く。バカッと割れるような音がして、顔面が吹き飛ぶ。赤い親衛隊は顔面の破片を飛び散らせながら、後ろにふっ飛んで倒れた。
「んむ……」
 ラ=シークは起き上がらない赤色の親衛隊を見ながら、眉をひそめて渋い表情になる。
「脆いですな、キャストは……いや、それとも貴方がたが強すぎるのですかな?」
「知らないよ!」
 言いながらオルハが右の爪でまっすぐに突く。それをラ=シークは右手で弾いた。
 親衛隊たちはアルファとテイルに向かって展開する。青と黒がアルファに接近戦を挑み、それを後ろから黄色と紫が援護する。
「さ……かかってきなさい」
 アルファは両手を突き出しながら、わずかに腰を落とす。親衛隊たちもそれに警戒し、構えた。
「はっ!」
 最初に仕掛けたのはアルファだ。2丁の銃が火を吹く。青と黒は素早く両側に散ってそれをかわして、アルファとの距離を一気に縮める。右から黒が、左から青が飛びかかる。
「その程度で!」
 青の右のダガーを左の銃身で外側へ反らしつつ、黒の槍での突きを横にかわす。その勢いを乗せて右足を振り上げ、黒の横面を蹴りつける。
「……」
 青い親衛隊が左手を振り上げた。アルファは右足を戻す勢いで体を右にひねる。足を下ろしながら左の銃身を戻しつつ、離れ際に1発。右手をぐっと引いてまるで弓を引くような体制になって、今度は両方の銃で2発ぶちこんでやる。
 胸に3発の弾を食らっても、青い親衛隊はひるまない。左手のダガーを振り下ろそうとするが、テイルのライフル弾がダガーを撃ち、左手の勢いが殺される。
「……」
 今度は黒い親衛隊だ。一歩後ろに下がって構え直すと、その槍をまっすぐに突く。アルファはかろうじて両方の銃身でそれを弾き、外へとそらした。
「!」
 アルファはとっさに身を屈める。その頭上をヴンと風を切って、紫の親衛隊の放ったフォトンの矢が飛び越えて行った。
「はぁぁぁっ!」
 左手の銃は青親衛隊に向けて牽制したまま、立ち上がりながら黒親衛隊の顎を右手で殴り上げて、もちろん同時に引き金を引く。反応されスウェーバックでよけられるが、それでも顎を数センチ吹き飛ばした。
「……」
 青親衛隊が飛びかかった。軽く跳躍しながら、両手のダガーを逆手に振り下ろす。
「危ない!」
 テイルが叫びながら引き金を引く。青親衛隊は気づいて、とっさに目の前で腕を十字に組む。肘の付近に着弾してダメージは軽減されてしまったが、攻撃は中断された。
 その隙にアルファは飛び退く。仕切り直しだ。
「はッ、はあッ……ほんと、最近任務に出てないから運動不足ね……ん?」
 ぼん、ひゅうぅぅぅ……という気の抜けたような音に見上げて、アルファは目を丸くした。
「グレネード!?」
 大きなフォトン弾に、迷わず背を向けて走る。後ろで地面に着弾し、どぉん、という大きな音と共に、半径1メートルほどの爆発が起こった。巻き込まれたらただでは済まないだろう。
「なるほど……前衛の2人にばかり気を取られていると、後衛からズドン? なかなか楽しくなってきたわね」
「アルファ、気をつけろ!」
「分かってる、援護をお願い!」
 言いながらアルファは再度走り出す。
「先生が敵でなくてほんと良かったよ……」
 遠目に見ていたオルハが、冷や汗を拭いながら言う。あれだけ格闘術と銃撃をミックスした技を持っている人はそういないだろう。オルハも銃を絡めた格闘術を使っているので、なおさらその恐ろしさが分かるのだ。
「んむぅ、やはりお仲間が気になりますかな?」
「当たり前でしょ! ボクたちは仲間に薬を飲ませるよーな奴らとは違うんだい!」
 ラ=シークが言うのに答えてから、オルハは右の爪を振りかぶって飛びかかる。ラ=シークは左のウォンドに氷をまとい、それを外へと弾いてやる。
 オルハの連撃はまだ続く。今度は左、続いてまた右。ラ=シークはそれもウォンドで外へと軽く弾いてみせた。そこでやっとオルハは地面に降りる。
「……レディ・ワイルドキャット。数ヶ月前に手合わせした時より太刀筋にキレがなくっているように見えるのは、気のせいですかな?」
「!」
 ラ=シークの言葉に、オルハはきっとなって睨み返す。
(……たった数手、合わせただけなのに――!)
 そう、トモエにも見抜かれた通り、オルハは基礎体力が落ちている。それはすぐに見抜かれてしまうほど、明らかだった。
「――っ」
「以前の戦いでは不覚を取りましたが……今の貴方であれば、さほど苦労せずに勝てそうですな」
「! ボクを……甘くみるなッ!」
 オルハが両腕をだらりと垂らしたかと思うと、クローのフォトンがヴンと唸ってぼやけていく。すぐに光るフォトンの塊となった。
「ほう? リミッターをあえて外し、高密度のフォトンの塊を作る――いわば、常識外れの大きな鉄球をぶらさげているようなもの。破壊力は凄まじいでしょうが、扱いにくさも凄まじい。それを制御できますかな?」
「自分の目で確かめてみるといいよ! オルハ乱舞――ACT4!」
 オルハが体を右に捻って、左に戻した瞬間。その姿が消えた。
「!」
 ラ=シークはひやりと汗が冷えるような感触を感じる。
「……他に何か言いたいこと、ある?」
 ざっ、という足音と同時に声が届き、ラ=シークは慌てて振り向いた。
 オルハの技は飛んで着地するまで気配さえ感じさせないほどになっていた。トモエと戦った時よりも、明らかにパワーアップしている。まるでスポンジが水を吸うがごとく、オルハの必殺技はさらに強さを増していたのだった。
「なんと……その暴れ馬を自在に制御するトレーニングをメインにしていた……ということですか」
「そういうこと」
「――ですが、後悔しますぞ」
 不敵に笑って、ラ=シークは続ける。
「今、不意討ちをかけていれば一撃で終わったのかもしれないということを。――私も、この間全てを見せたわけではありません」
「……なんだと?」
「――宣言しておきましょう」
 ラ=シークは右手のウォンドをぐいと突き出し、オルハを差す。
「"私に触れると後悔するでしょう"」
「ふん、そんなの知るかっ!」
 オルハが飛んだ。弾丸のように一直線に、ラ=シークに向かって。次の瞬間、両手を突き出した状態でラ=シークの目の前に居た。それはあまりの速さに、まるでテレポテーションでもしたように見える。
「かかりましたね」
 がぎん、と鈍い音と共に激しい火花が飛び散る。
「!?」
 オルハの体が激しい衝撃に吹き飛ばされ、糸の切れた凧のようにぐるぐると回ってふっ飛ぶ。その勢いのまま、地面に叩きつけられた。
「ぐあっ……! げほっ、げほぉっ!」
 顔面をしこたま地面にこすりつけてしまい、衝撃が肺を強く打つ。口内に入る砂と内臓へのダメージが、激しい吐き気をもよおさせた。
「ですから言ったでしょう……後悔すると」
「? なっ――いったい何が……?」
 オルハは咳こみながら、目を見開いてラ=シークを見上げた。彼は見下ろしたまま、微動だにせず、口を開いた。
「!」
 オルハは異変に気づいた。彼が右手に持っているウォンドから発せられているフォトンの色が、違う。炎の赤ではなく、濃茶のフォトンをまとっていた。
「もしかして……」
「理解したようですね」
 ラ=シークが左手のウォンドを振ると、ヴン、と唸って杖先を中心に氷の盾を打ち立てる。
「さらに――土属性のフォトンの力を加える」
 右手のウォンドをかざすと、氷盾にまとわりつくように土塊が生まれて覆うように定着してゆく。
「この壁はそう簡単に壊せませんよ」
「くっ……」
 オルハは下唇を噛みながら、それを見上げていた。
 ――こんなやり方、今までに見たこともないし、思いついたとしても実行に移すにはかなりの技術が必要なはず。
「また難しいことを簡単にやってくれちゃって……」
「なに、少々昔話をさせて頂きましょう」
 大げさな手ぶりを見せながら、ラ=シークは言葉を続ける。
「かつてガーディアンズに所属していた時期、私は強くなるために様々な技術を身につけ数々の修業をこなし、格闘術とテクニック制御を極めました」
「――ヒューマンという種族がいかに優れた種であるかを見せつけるために?」
「その通りです。だから今の私があるのですよ」
「……」
 オルハはなんとか上体を起こしながら、考えていた。
 ……彼の言っていることは、けして間違ってはいない。むしろ、向上心があるべきと称賛されてもいいぐらいだ。
(――でも、それじゃあだめなんだ)
 オルハの中で、様々な人の顔が思い出されていた。C4、イオリ、トモエ……そしてコナンドラムの他のメンバーたち……彼らと同じだ。
「……うん、それは確かにすごいことだと思うよ。でも……そんな目的のために腕を磨くんじゃない」
「なんとでもお言いなさい。現実として、いま貴女は地面に這いつくばっている」
 ラ=シークの言う通りだが、オルハはそれに抗おうとして無理やり立ち上がると、汚れた膝を両手ではらって砂を落とす。
「ボクは負けない。ボクが戦うのは、自分のためじゃない。パパやママ、それにランディたちガーディアンズの仲間……そのために、戦うんだ。帰るべき場所のために、戦うんだ!」
 オルハは爪を構えると、すぐにリミッターを解除する。フォトンがきらめいたかと思うと、高密度の塊へと変化した。
「んむぅ、勝機の無い戦いに挑むのは、現実的ではありませんな。私のテクニックの恐ろしさは先ほどので分かったでしょう、氷の壁は簡単には壊せませんぞ!」
 言ってラ=シークはウォンドをかざすと、杖先から氷の盾が生まれた。
「そんなもの……打ち破ってみせる!」
 言うが早いか、オルハが体をひねった。すぐにその姿が消える。
「……勝てない戦いに何故そこまでして挑むのか、私には分かりかねますな」
 呆れた口調でラ=シークが言って、ゆっくりと息を吐いた。オルハの気配をわずかに感じながら、杖を構えて待つ。相手は必ず飛び込んでくるのだから。
「!」
 背後から気配が近づいてくる。ラ=シークは咄嗟に振り向いて、盾をかざす。
「――?」
 だが、ラ=シークが見たものはオルハではなかった。

 視界に広がるのは、激しく巻き起こされた砂煙。

(? 地面へ? そうか――)
「よいしょっと!」
 オルハの声と同時に、膝裏へと衝撃が加わる。
「!?」
 いきなりの衝撃に膝は前へと飛び出し、反動で上半身が後ろへと倒れこむ。そのままバランスを崩して後ろに倒れた。
「さて、これでどう?」
 僅かな重みを感じたかと思うと、ラ=シークははっと目を見開く。オルハは倒れたラ=シークの胸に馬乗りになっていたからだ。
「――なるほど、突撃すると見せかけてわざと地面をえぐって視界を奪い、その隙に足払いですか。素晴らしい奇襲ですな」
「それはどーも♪ さて、これでボクの勝ちは決まったよね?」
「さあ。それはどうでしょうね?」
 ラ=シークはわざとじらすように言って、不敵に微笑む。
「むー……素直に降参した方がいいとボクは思うよ」
「――勝ちを確信した時ほど、隙が生まれるものですな」
「!」
 ラ=シークの左手が、僅かに持ち上がった。オルハは反応して爪で突き刺す。
「残念」
 視界の片隅で、ラ=シークの右手がこちらに近づいてくるのが、わずかに見えた。
「――!」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe61 カウントダウン
 どうん、という激しい爆発。ラ=シークの右手のウォンドが体に触れた瞬間、オルハは炎に包まれてふき飛んでいた。
「ぐは……!」
「油断したのが運の尽き。私の最大奥義を受けて、後悔しなさい」
 オルハの小さな体は軽々と宙を舞った。くるくると回転しながら、まるで打ち上げ花火のように5メートルは上空へ吹き飛ばされる。
「うわあぁぁぁぁ……ッ!」
「Good Night――子猫ちゃん」
 ラ=シークはばっと飛び起きて、くるりとオルハに背を向けながら左手のウォンドを地面に向けて、まるで傘に着いた水滴を払うかのように振った。オルハに突き刺された傷から血が飛び散るが、まるで気にせずに。
 次の瞬間、びきびきびきっと音が響いたかと思うと、地面から氷の塔がせりあがってくる。そのまま吹き飛んだオルハを包み込んだかと思うと、上と左右に伸びてゆく。
「ああ……ッ!?」
 高さ3メートルの塔――いや、高さ2メートルほどの部分は左右にも伸びており、それは十字架……そう、はりつけの十字架を連想させた。
 そして、その中心にはオルハの体が埋め込まれている。身動きも取れない状態で、辛うじて呼吸だけが許された状態だった。
「な……なんだよこれ!」
「奥義"ジャッジメントクロス"。んむぅ……山猫の氷像というのもまた、美しいものですな」
「くう……っ!」
 オルハは氷の中でもがくが、まったく動く事ができない。全身を完全に覆われてしまっており、何もできないのだ。
「すぐに酸素が無くなり死に至ります。そしてその死体は、全ての氷が溶けるまで決して救い出されることがないのですよ――」
「うっ……!」
 みるみるうちにオルハの顔色が青くなってゆく。僅かなスペースの酸素はあっという間に消費されてしまったのだ。
 その光景を満足気に見てから、ラ=シークは左肩のマントをばさりと広げて、腕を組んだ。
「!? オルハ! ……あぁっ!」
 遠くから、アルファの悲鳴が聞こえる。
 オルハに気を取られたアルファの左の頬を、黒親衛隊の槍の柄先が殴りつけていた。殴り倒されかけながらも両手の銃を迷わずぶっぱなし、黒親衛隊の胸部に2発の銃創を作る。
「アルファ!」
 テイルが叫びながら引き金を引いた。この隙に飛びかかろうとしていた青親衛隊の肩にライフルの弾がめりこむ。
「くっ……オルハをなんとか助けなきゃ」
 アルファは肩で息をしており、すでにかなり疲弊しているのは明らかだった。オルハが敗れてしまったことで焦りが生まれ、それが危機をより招いている。
「了解! その前に早くこいつらを片づけ……ぐはっ」
 テイルもどこか疲れた表情で、ライフルを構え直していた最中。左肩に衝撃を受けてのけぞった。
「!」
 見ると、紫の親衛隊が弓を構えている。
「くっ……まずいな、じわじわと押されているのか」
 テイルは独りごちる。弓の射程はライフルより短いはずで、それを踏まえた上で射程外で狙撃していたはずだからだ。
「……ああっ、もう! キリがないわ!」
 アルファが叫びながら切り込む。青親衛隊に走りながら2発打ち込むが、やすやすとかわされてしまう。そのままの勢いで左の銃身で殴りつけるが、ダガーの腹で右に弾かれた。体重を乗せた一撃を弾かれたせいで、アルファの体は大きくバランスを崩す。
「!」
 まずい、と思ったがすでに遅かった。がら空きになった胸部を、青親衛隊は左手で斬りつける。脇腹から肩にかけて走る激痛。
「まずい!」
 とっさにテイルは照準をあわせる。
 だが、撃てなかった。
 アルファの体が、射線を塞いでいたからだ。2人の連携は、すでに疲れでぼろぼろになっている。
 そこへ、黒親衛隊が一歩踏み込んだ。槍を大きく突き出しながら。
「ごほっ!」
 胸にどすんと鋭い衝撃が伝わったと思うと、アルファの体が浮いて3メートルほど後ろにふっ飛んだ。かろうじて足から着地するが、そのままがくりと膝をついてしまう。
「アルファ! 上!」
 テイルの言葉が背中にぶつけられる。見上げたが遅かった。
 大きなフォトン弾。グレネードだ。
「――!」
 どうん、と激しい爆音と共に、体が浮いた。全身に焼かれるような激痛が走り、くるくると宙を舞う。
「かはッ……!」
 喉からこみあげる何かを抵抗せず吐き出す。赤い水滴が飛び散った。
 続いて襲いかかるのは、固い地面に叩きつけられる衝撃。ごつんと頭部をぶつけ、ぐらぐらと視界が揺れる。やがてアルファの視界はゆっくりと白くなってゆき……そのまま意識を失った。
「アルファ! 大丈夫か……ぐあっ」
 思わず駆け付けようとしたテイルの胸を、フォトンの矢が撃つ。足が前に出ようとしていたせいで、テイルはそのまま後ろに転倒した。
「ぐあっ……リアクターを狙って……!」
 テイルがノイズ交じりの声で叫んでから、その手に持たれたライフルを取り落とした。それから両手はがくりと地面に落ちる。
 しん、と場が静まった。地面につっ伏す2人と、氷に閉じ込められた1人。

 ガーディアンたちは今、完全に、沈黙した。

「う……うう……先生……テイル……」
 オルハが絞りだすように呻く。
「んむぅ、ガーディアンズもこの程度ですか……愚かな」
「ちくしょう……っ! おまえなんか……!」
「なんとでもお言いなさい、あなたたちの敗北は覆りませんから。……さて、私はそろそろ行かせてもらいますよ。楽しいパーティが始まりますのでね」
 言ってラ=シークはマントをばさり、とはためかせて踵を返す。
「おまえたち、後は適当に片づけておけ」
 親衛隊たちが頷いて、2人の方へ歩き出す。
「それではゆっくりとお休みください」
 ラ=シークはそのまま鉱山の入り口へ向かうと、止まっていた車両に乗って走り出してしまった。
 アルファにとどめをさそうと、青親衛隊が近づいてゆく。胸倉を掴んで持ち上げ、逆の手のダガーを振り上げる――。

 その瞬間。

 ごつんと音がして、青親衛隊の頭が揺れた。何事かと辺りを見回すと、足元に転がっているのは拳大の石。
 これが飛んできたようだった。
「準備よし! 頑張れ、私ッ!」
 草陰から、1つの人影が飛び出した。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
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※この作品は、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているため、暴力・性的な表現を含む場合があります。予めご了承下さい。

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