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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe55 絡み合う世界は何処へ向かう?

「もーすぐ拠点みたい」
 先頭を進んでいたオルハは、前の方を指さしながら言った。
 先ほど打ち倒した3人から情報をすんなり聞き出した5人は、どんどん奥へと進んでいた。交戦した箇所からしばらく歩くと、森はやがて竹林となっていたのだった。
「あれね……」
 アルファがオルハの指さす方に視線を向けた。竹の隙間から、古い建物が見えている。いかにもニューデイズらしい建築様式の建物で、平屋だが幅は20メートルほどはあり、まるで長屋のように見えた。
「……ついに総力戦ですね」
 ファビアが言いながら、長杖を取り出して構える。それに倣って、皆が得物を取り出し始めた。
「ああ。ダーククロウは闇から生まれ、闇へと消えてゆく。そういう運命だったのだよ」
 テイルがライフルを肩にどんと乗せて、どこか寂しげに呟いた。
「――さて、準備はいいわね? 目的はダーククロウの壊滅、ならびに主犯格であるイオリとトモエの捕獲! 一気に叩き潰すわよ!」
 アルファの声に一同が頷いて、走り出した。
「向こうに気づかれる前に、イニシアチブを取りたいものだな」
「……何を取る気かしら?」
 テイルの声に続いて、女の声が響いた。
 正面に見えるその人影に、オルハは視線を奪われる。目を見開いてその姿を見直した。
 紅の長い髪に青い紅を引き、肩と足を露出した服。その上に黒い半被を羽織った、1人の女性。
「……おばさん!」
 そう、そこに立っていたのはトモエだった。
「うふふ……久しぶりね、小猫ちゃん」
 ゆらりと体を揺らして、トモエは一歩踏み出す。以前戦った時と外見は同じだが、決定的に違う点が一つある。
 それは、両目を黒い布で覆っていること。肉感的に濡れてぽってりとした唇が強調され、彼女をより性的に見せていた。
「うふっ……準備運動は万全よ。さあ、私と遊んで欲しいのは誰かしら?」
 トモエは腕を組み直しながら、にやにやといやらしい笑みを浮かべて言う。
(……空気が違う)
 オルハは、トモエの姿に素直に驚いた。以前はどこか真剣味がなく、弄ぶのに夢中な子供のような一面を覗かせていたはずだ。だが、今の彼女は以前より自信にあふれ、より艶やかなのだ。
 彼女がまとう空気はとても黒く、鋭く、研ぎ済まされている。まるで細い針のようなそれは、触れるもの全てを貫く――そう思えた。
「ここはボクがやるよ」
 オルハが一歩踏み出して、両手にクローを構えながら言う。皆の方を振り向きもせず、真剣な声で。
「オルハ、ここはみんなで協力して……」
「そうですよ、むしろ私が行くべきで……」
「ごめん」
 アルファとファビアが慌てて言うのを遮って、オルハは謝った。心配をかけたくないので、できるだけ明るく聞こえるように。でも、強い口調で。
「……」
 それに全員はしんとなる。なんと言葉をかければいいか、分からなかったからだ。
「うん、ごめんね。でもボク、負けたくないんだ。だから、ボクにやらせて」
 オルハは振り向きながら、親指を立てた右手を差し出す。
「そこまで……」
 アルファは茫然としたままで口を開いて、それからゆっくりと息を吸った。それから、不意に微笑んで、親指を立てて突き出す。
「オルハ、無理はいけませんよ。昔教えたことを思い出し、初心を忘れずに戦うんですよ」
 アルファが笑顔で言うのに、ファビアたちは一瞬驚いた。それから3人は顔を見合わせて、それから少しだけ微笑む。
「……私はあなたを信じていますよ」
「そうだな、良い報告を期待している」
「おるは、がんばれ!」
 皆が口々に応援の言葉を言って、親指を立てた手を突き出す。まるで打ち合わせていたように息のあったそれに、オルハは少しだけ目を丸くした。さすがにオルハも予想外だったらしい。
 だが、それからオルハの表情はじわじわと変わり、やがてにんまりとした満面の笑みになる。
「うん、まっかせといて!」
 大きな声で、努めて明るく答える。――そう、わずかに膝が震えているのを気づかれないように。彼らの期待に答えられることを願いながら。
「さ、みんなは先に行ってて。すぐ追いつくからね!」
「いいですか、無理をしちゃいけませんよ!」
 アルファたちは口々に叫びながら、そのまま奥へと走って行った。
「――というわけで、おばさんの相手はこのボクだ。この間の借りを返すよ」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe55 絡み合う世界は何処へ向かう?
「少しは成長したかしら? 確かめてあげるわ……」
 にやりと笑って、トモエはちろりと舌を出して唇を舐めた。青い唇がより光沢を帯びる。その微笑みがいやに不気味に見えて、オルハはもう一度、ぐっと拳を握り直した。
「おばさん、始めよう。ボクはこの間のボクとは違うって事を、分からせてあげる」
「ふふ、ガキは口だけは達者ね――かかっておいで」
 トモエは半被をばっと脱ぎ捨てる。それが合図だったかのように、しなやかな2人の獣が、走り出した。

「ここは……?」
 ランディは、はっと我に返って上体を起こす。それから辺りを見回した。
 そこは、無粋な石壁に囲まれた、10メートル四方ほどの部屋だった。部屋の中心を上下に貫く直径3メートルほどの大きな石の柱と、傍らに3つの棺が置かれ、それを取り囲むようにいくつかの機械が小さな唸りと振動を吐き出している。
『黒き波動を受け入れし者よ……』
 また、先ほどと同じ声が響いた。辺りを見回しても、誰の姿も見えない。
「貴様……誰だ?」
 ランディは言いながら柱を蹴りつける。八つ当たりされた柱はぐらぐらと揺れ、埃を辺りにばらまいた。
『……我らは、ダークファルス様と共に生き、共に眠る者。"三賢者"が1人、ギ・ル・ファーグ』
『同じく三賢者が1人、ル・ファウ・ガン』
『同じく三賢者が1人、ダ・エルム・ラース』
 3つの声は同じように抑揚の無い声で、同じように無機質に響き渡っていた。
『よく聞け、同胞よ……ダークファルス様の封印が解ける日は近い。共に祝おうじゃないか』
「祝う……だと?」
『そうだ。間も無く完全に力を取り戻し、現世へと戻られる』
『……"赤の剣"に封印されたダークファルス様が』
『ついに甦るのだ……!』
 先ほどまでの声に加えて、もう2つの声が追いかける。3つの声が重なって脳内でいやに響くのは、どこかリアリティが無く、まるで夢のようにさえ思える。
 ランディは興味なさそうに、柱に手をついて寄りかかる。ふと、手の感触が特殊な事に気づいて、その柱を見つめた。
 表面に、文字が掘られている。どうやら、古代文字のようだった。
「揺けき……つむぎし……魂の祭……なんだこりゃ」
 ……どこかで聞き覚えがある。あれはどこだったか……。
 そうだ、アナスタシアたちがパルムのパラカバナ・レリクスを探索した時に見つけたものと同じものだった。
「しまったな、真面目に古代文字の勉強をしておくべきだったか……」


"……揺けき時の彼方より つむぎし
魂の祭 果て
在りし者 其を天空に掲ぐ
成すは死の点鐘
成すは紫紺の灯火
成すは絶えなき千年紀……"

「……!」
 ランディはぎょっとして、視線を改めて柱に向ける。そう、これはダークファルスを意味する詩だ。言葉の意味は詳しく分からないが、非常に嫌な感じがする。彼の直感がそう告げていた。
『ダークファルス様の邪魔をする"大いなる光"……』
『さぁ、同胞よ。ダークファルス様と共に、力をあわせて戦おうではないか……』
「なるほどな……」
 ランディはナノトランサーから斧を取り出し、迷いなく振り上げた。
 理由は自分でもよく分からないが、"苛つく"。それだけが行動理念だった。
『……何を?』
「これが――答えだ!」
『!』
 ランディは斧を振りかぶると、棺の1つに向かって全力の一撃を叩きこむ。棺の蓋が激しい音と共に砕け散った。
『貴様……!?』
 棺の中には1人の人間の姿が見えた。仮面と一体化した青色ローブのような不思議な服を着ている。なんとも形容し難いそれを、ランディは気にすることはしなかった。
 砕け散った蓋の破片は、石だけではなかった。明らかに鉄製の部品や、硬質ガラスと思われる物も混じっている。砕けた棺の隙間からはもわっと冷気が広がってゆき、これがただの棺ではない事は明らかだった。
「ははぁん、コールドスリープか。じゃあ、これがお前らの"本体"って事でいいか?」
 ランディは斧を肩に担ぎ、にやにやと笑いながら棺を見下ろす。形勢逆転とでも言わんばかりに。
『やめろ! 貴様……同胞ではないのか!? ならば何故、黒い波動を感じる!?』
「知らねぇよ」
 ランディは素気なく答える。例えるなら、機嫌が悪いときに限って、興味も発展性も無い今日の天気の話題でも振られたかのように。空気を読め、とでも言わんばかりに。
『何……同胞ではないのに、闇の波動を感じるだと!?』
「昔それを食らった事はあるがな。だが、何故それがダークファルスを信望する理由になる?」
『闇の素質を持たない者にとってあの波動は脅威となる』
『……そう、素質を持たない者は』
『死に至る』
「……ちょっと待て」
 あの時、ダークファルスは何と言っていた?

"……お前は素質がある。だから生かそう"

「素質? なんだよそりゃ。そんなふざけた素質なんか、俺は持っちゃいねぇぞ!」
『……くっくっく』
『くくく……』
『ふははは……』
 3つの声が重なり、笑い声が場を包み込む。ランディはその意味が分からず、むっとした表情で棺を睨みつけた。別におかしなことを言ったつもりはない、ただ思ったことを素直に言っただけだ。
「……何がおかしい」
『ダークファルス様も粋な計らいをなさる!』
『このような者をあえて生かすとは!』
『そうだ、このような者にも慈悲をかけるとは、さすがはダークファルス様だ!』
「おい……貴様、早く結論を言えよ。ブッ壊されてぇのか?」
 詳しい理由も分からず一方的に笑いものにされ、ランディは明らかに苛ついていた。今にも斧を振り下さんばかりの勢いで、吐き捨てる。
『お前が知る必要は無い』
『ただ、ダークファルス様に認めてもらえた喜びを感じながら……滅べ』
『愚か者は滅んでしまえ』
「……そうかい。分かった、もういい」
 ここで、ランディの何かが限界に達した。ためらいなく、いきなり斧を振り下ろす。棺に叩きこまれた斧頭は激しい音を立て、岩と機械の破片をばらまいた。中で眠っていた男性の体もまた、落とした氷が砕け散るように、破片を飛び散らせていた。
『ぐああぁぁぁぁ……!』
『ふははは! 流石だ、これは面白い』
『面白い面白い』
「!?」
 ランディはその声に戸惑う。目の前で仲間が1人殺されたにも関わらず……「面白い」とは。
「……一体、何者なんだお前らは。ダークファルスが復活すると、どうなるというんだ?」
『ふはは、愚かだ、愚かすぎる。少しは自分の頭で考えたらどうかね』
「あいにく、学が無いもんでね。斧をぶん回すのにもそろそろ疲れたから、教えてくれると助かるんだが?」
『仕方が無い。……ダークファルス様が復活すれば、世界は滅びる。その時に、我らもお前も、全て滅びるのだ』
「……」
 ランディはそれをただ静かに聞いていた。
(……滅びるために生きているのか、こいつら……)
 もう、彼らの言っていることの意味がさっぱり分からない。ランディはもう、全てが面倒になって、考えるのを放棄することにした。それに、彼らとは会話が成り立たない。
「はッ。セージだかソーセージだか知らねぇが」
 ランディは鼻で笑って、斧を担ぎ直す。そのまま斧を振りかぶって、先ほどとは違う棺に叩きつけた。
『!』
「もういいや。ダークファルスの復活には、寝坊しちまったってことでOK?」
 氷と石の破片が飛び散り、激しく勢いでばかまかれた。残った最後の声の主は、声こそ出さなかったが明らかに動揺している。
「ああ、心配すんな。後でダークファルスも送り込んでやっからよ」
『! 貴様、ダークファルス様を呼び捨てにするとは何事……』
 そしてランディは、最後の棺に斧を振り下ろす。
 急に空気がしんとなって、声は聞こえなくなった。
 ランディはやれやれとかぶりを振ってため息をついた。
(――まったく、どうなってやがんだ。ガキの時にダークファルスと会って、全てがメチャクチャになってしまったぜ……)
 そこでランディは我に返って、辺りを見回した。部屋に散らばる石と機械と氷の破片。
「しかし……まずかったかな」
 辺りに散らばる石と肉体の欠片。それを見ながら、ランディは頭を掻いた。ついカッとなってしまい、全て叩き壊してしまった。ガーディアンズの捜索班が調べれば、新たな情報が手に入ったかもしれないのに……。
「……ま、いいか」
 斧をナノトランサーに放り込んで、ランディは悪びれず言った。どうせ、ここには誰も入ることなんてできないだろう。それでいいじゃないか。
(……というわけにも、いかねえよなあ……)
 やっと落ち着いたのか、ランディは頭を掻いて部屋を見回す。……あまりにも無残な光景に、ランディはため息をついた。
 それからせめて何かの役に立てばと、機械や氷などを適当に拾って、ナノトランサーに放り込んだ。戻ったら鑑識にでもかけてもらおう。
「……にしても、結局なんだったんだ、あいつら……」
 ランディは独りごちて、腰に手を当ててから考えこんだ。今思えば、全てを知っていたのかもしれないが、それを確認する手段はもう無い。
 それよりも――。

 "……お前は素質がある。だから生かそう"

(――どういうことだ?)
 まるで、過去にダークファルスが自分を生かしたのは必然だというような言い回し。それが"慈悲"だと言う三賢者の言葉。ランディには、何が何やら、よく分からなくなっていた。
「考えても、仕方ねぇか……」
 呟いて、ランディはかぶりを振った。分からないことを考えても、仕方が無い。運命だとか、そういうものは信じない。ただ、自分の道は自分で切り開く。邪魔する奴はぶちのめす。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe55 絡み合う世界は何処へ向かう?
(……それだけが俺のルールだ)
 ランディはふと、自分の中にふつふつと湧き出たものに気づく。
 それは、怒りや憎しみではない。
 むしろ、"楽しみ"。
「ダークファルス……早く復活しやがれ。俺の手でブッ壊してやるからよ……!」
 そう、これから甦るダークファルスを、自らの手で再度ぶちのめせるという、未来。自分の人生を変えたあいつの、運命を変えてやれる可能性。
 そういったものに対する、喜びだった。
「……そういや、みんなも心配してるだろうな。帰らなきゃ……」
 ランディは言いながら壁に向き直る。来た時と同じように壁に触れると、すっと手が通り抜けてゆく。わずかに体の周りを空気が流れたと思った直後。
 ランディは、ダークファルスの像の前に立っていた。
 突然戻ったランディに、5人は驚きの声をあげる。ランディはそれに気づいて、軽く手を振った。

「もうすぐよ!」
 アルファが先頭を走りながら叫んだ。長屋まではあと少し、これでダーククロウの本拠地に突入できる。
「このまま突入しますか?」
「もちろん! ダーククロウを解散に追い込めるチャンスなんだから!」
 4人は建物に向かって走り続けていた。あと10メートルほどで、ダーククロウの本拠に突入できるのだ。
 不意に、周囲でざざっ、と大人数の足音が聞こえた。
「これから先には進ませねぇぜ!」
「ダーククロウを甘く見んじゃねぇ!」
 黒い半被を羽織った団員たちが、わらわらと現れる。その数、およそ50人ほどはいるだろうか。4人を取り囲み、包囲するように現れたのだった。
「これはまた……まだこんなにいたとはな」
「やるしかないわね」
 テイルがやれやれと呟くのに、アルファは短銃を構えて答える。
「来たな、ガーディアンズよ」
 イオリの声が響いた。建物の屋根の上に、腕を組んでイオリが立っていた。まっすぐに立つその姿はどこか神々しく立派で、どこか不敵で飄々としている。
「先生、私がイオリを抑えます。逮捕の優先対象はイオリとトモエだけですよね?」
「もちろん、その他の雑魚はどうせ大した刑罰にはならないから」
「はい、じゃあ雑魚をお願いします。この信念にかけても、イオリは私が抑えます」
 アルファたちは足を止めて散開する。テイル、ネイと背を合わせて、にじり寄る団員たちへ向き直った。それを確認してから、ファビアはまた走り出す。
「おっと! 団長には近寄らせないぜ」
 ばっ、と団員の1人が叫びながら、ファビアの目の前に飛び出す。
「……邪魔です」
 ファビアはさっと体を屈めてスライディングした。細い体は男の股下を用意にくぐり抜け、ファビアはそのまま走り続ける。何が起こったか分からない団員は、辺りをきょろきょろ見渡しており、次のアクションに繋げられなかった。
 その隙に、ファビアは建物の目の前まで走り寄る。
「イオリ! 私が相手です!」
 ファビアが言うのに、イオリは両腕を組んだまま見下ろす。下は腰まわりの飾りが派手な袴を履いており、風で黒い半被が揺れて、はためいていた。
「久しいな、"子連れ"。卑怯者が何の用だ?」
 にやりと笑いながら、イオリは屋根から飛び降りる。そのまま愛刀を抜き放ち、挨拶代わりに上からの一撃。ファビアは長杖で宙に円を描き、氷の板を作り出してそれを受ける。
「く……!」
「くく……くっくっく。いい"死合い"になりそうだ」
 にやりと笑いながら、イオリは顎を撫でた。これから起こる出来事を楽しみにしている、とでも言わんばかりに。
「……イオリ、あなたを"カマイタチ"事件、並びに"カミカゼ"事件の重要参考人として、逮捕します」
「逮捕だと? つまらない事を言う。生きるか死ぬか……それが戦いというものだろう?」
 その口調は心底驚いたような雰囲気を醸し出していた。両手を広げて眉をひそめ、"空気を読めよ"とでも言いたいのだろうか、期待していた言葉ではなかったということはよく伝わった。
(……戦いに対しての価値観が違うのは分かっていましたが、ここまで致命的に違うものだとは……)
 ファビアをはじめほとんどのガーディアンは、"戦う"ことそのものにはあまり意味を見出さない。護衛対象を守る上で必要だから、戦う。それだけだった。
 もちろん、戦うことを楽しむことは否定しない。だが、ここまで戦いを楽しめる者など、そうはいなかった。
「……教団を抜けたそうですね。戦いができないからですか?」
「その通り」
 当たり前とでも思っているのだろうか、悪びれないままに言い放って、イオリは続ける。
「拙僧は、父の影響でかつてはグラール教の信者だった。僧兵として生きる道もあった……だが、つまらぬ。戦いで得られる高揚、快楽、痛みそして喜び……! それを知ってしまった今、そんなものはどうでもいい!」
「あなたがコナンドラムに所属しているのは、それだけの理由ですか」
「そうだ。コナンドラムに籍を置いていれば、手練のガーディアンと剣を交えることができる。様々なつわものと戦うことができる。そして、ダークファルス復活の暁には、剣の力のみが存在意義となる時代が来る。それだけよ」
 ファビアがゆっくりと、唇を噛む。すでに、彼に対する感情は、怒りや憤りではなかった。

 ……慈愛。
 なのかもしれない。

 間違った道へと進む彼に、世の中の何たるかを説教したい、そんな気分だった。
「……"カマイタチ"も、"カミカゼ"も……」
 ふと、嫌な考えが頭をよぎり、ファビアは思うままに言葉を綴る。
「……不自然だとは思っていました。あえて証拠を残し、犯人を特定できる材料を残すのは、懸命ではありません。ですが……」
「その通り。ガーディアンズを釣る、いわば"捲き餌"よ。"カミカゼ"はトモエのトレーニングも兼ねている。事件は、視力を奪った貴様の責任でもあるのだ」
 その答えに、ファビアは眉をつり上げ、不快な表情を見せる。彼には、客観的な視点というものが、著しく欠如していた。そんな理由で責任転嫁されるのは、間違っていることだと断言できる。
「そんな理由で……そんな自分勝手な理由で、人を殺して良いはずなどないッ! あなたには、絶対に負けてやりません!」
「ほう? なかなか言うな」
 にやにやとイオリが笑いながら、顎をさする。まるで人を品定めするような、嫌な眼つきだった。
「私は受け継いだこの信念にかけて……私が持つ全てを持って……あなたを倒します」
 ファビアはロッドを持った手を突き出し、イオリを指さした。鋭い視線が睨みつけ、イオリを貫くかのように。
「面白い」
「以前の私とは違うという事を、お見せしましょう……!」
 ロッドの先端に炎が灯り、末端を冷気が包み込む。それを見て、イオリがにやりと笑ってみせる。
「! なるほどな、予想以上に精進しておるわ……それでこそ、殺し甲斐があるというものだ! くっくっく……はっはっはっはぁぁああァァァァーッ!」

 ――笑った?

 いつもの陰鬱な笑いではない。イオリは声をあげて笑っている。あまりにも無邪気で純粋すぎるその笑い声は、どこまでも高らかに響き渡ってゆく。
「面白い、面白い! 面白すぎるぞ! あまりの愉快さに、勃ってしまったぞ! はっはははああァァッ!」
 ……なんとも言えない歪んだ笑顔。そこには明るさは一切なく、むしろ一片の狂気を感じさせる。イオリは笑いながら半被をびりびりと引き裂き、そこいらに投げ捨てた。
「ならばこちらも……楽しませてもらうか!」
 イオリは、言いながら剣を投げ捨てた。そしてそのままナノトランサーに手を突っ込んで、あるものを取り出す。
「久々に、本気でやらせてもらうぞ……!」
 それは、一対の長剣。いつもの愛刀とは違うデザインのもので、長さは軽く2メートルはある。凶々しい流線系のフォルムが、いやに不気味に見えた。フォトンの刃は赤い光を帯びているものと、青い光を帯びたものだった。
「! その大きさで……一対!?」
「元はどこぞのエネミーが使っていたものらしいがな。常人には、片手で扱うにはちと持て余す。だが――」
 だが、イオリは右手に青い剣を、左手に赤い剣を軽々と構えてみせる。まるで、片手用に作られた剣を扱うが如く、軽々と。
「――拙僧には、これぐらいが丁度良い。……さぁ、楽しもうではないか! あーっはっははああああァァァァァッ!」
 イオリが天を仰いで叫ぶ中、ファビアの頬を一筋の汗が伝っていった。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
※作中の表現や描写、ならびに使用している画像などは、ゲーム内で再現できるものとは限りません。
※この作品は、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているため、暴力・性的な表現を含む場合があります。予めご了承下さい。

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