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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe53 深き闇の淵、乙女の祈りが疾風を呼ぶ

"ウィンド……生きて……!"

 僅かに、耳の奥に残るソプラノ。
 体の中で何度も反響して、染み渡って、それから綿菓子を口に含んだような心地よさと共に、消えてゆく。

 それは、いつ聞いたんだろうか?
 誰が、俺に託したんだろうか……?

 ただ、目の前に広がるのは闇。
 どこまでも広がる、闇。

 瞳をしばたいても変わらないその光景に、ウィンドは考えるのをやめた。

 考えても、未来は何も変わらないから。

「ん……っ」
 僅かにうめいて、ウィンドはゆっくりと目を見開いてゆく。
 だが、何も見えない。辺りは暗闇だった。上下左右も分からないが、地面に仰向けに寝転がっているらしい。
 なんとか上半身を起こそうとすると、体のあちこちが悲鳴をあげる。
「いつっ……」
 全身が痛むが、無理に動かしてみて怪我の状態を見る。ずきずきとあちこちで痛みが走るが、ただの打撲で済んだようだ。
 背中に手を当てて、ナノトランサーも壊れていないことを確かめる。急いで飛び出して来たので、武器以外にはほとんど何も入れてこなかったのだが。
「っと、いいものがあったっスね……」
 ウィンドはゴーグルを取り出して、すぐに装着する。ガーディアンズの標準装備にも数えられるこれは、赤外線視能力も備えていた。
 それから携帯端末を取り出して、本部へ連絡を取ろうと試みる。だが、ここいら一帯は意図的に電波が妨害されているらしい。おそらく、これもコナンドラムの仕業なのだろう。
 ウィンドはゆっくりとため息をついてから、ゴーグルのレポート機能をオンにして、念のため映像と音声情報を保存しておくことにした。
 視界を得られたので、現状を把握しようと考えてウィンドは腰を上げて辺りを見回す。それから、大きく息を吸って、大声で叫んだ。
「ヴァルキリーさん! メァルさん! アナスタシアさん! どこにいるっスか!?」
 声を張り上げながら一歩踏み出す。水たまりに踏み込んだらしく、ぱしゃっと水の飛び散る音が足元から聞こえた。
 ヴァルキリーとは一緒に落ちたのだから、近くにいるはずだったが、見当たらない。落下の最中、恐怖にウィンドは途中で意識を失ってしまっていた。そのせいでヴァルキリーがどうなったか、彼には分からなかったのだった。
「ウィンド殿、無事か?」
 すぐ近くから、メァルの声が聞こえた。前方から聞こえる声に安心して、すぐにそちらに駆け寄る。
「大丈夫っス! メァルさんは!?」
「わらわも無事じゃ。じゃが……」
 斜めに横たわった岩盤の表面に、メァルが腰かけていた。右手で左肩を抑え、後ろの岩にぐったりともたれて体重を預けている。不謹慎だが、ほつれた前髪が頬にぺたりと張り付いているのが、いやに色っぽく見えた。
「落下の衝撃でナノトランサーは壊れ、杖も落としてしまった。わらわは、何もできそうにない」
 見れば、メァルの体はあちこちに傷があった。手足にはいくつか擦り傷や打撲があり、肩を抑えた右手の隙間からは血が流れている。腰に着いたナノトランサーは無残に壊れて真ん中がへこんでしまっており、ぱちぱちと小さな火花を時折放っていた。
「……大丈夫っスか?」
「うむ……落ちた時に全身をぶつけてしまった。特に頭部を激しく打ちつけてしまったので、意識が朦朧としておる……」
 元々ニューマンは体力に乏しく、大きな出力を持つシールドラインを装備する事ができない。ウィンドよりもメァルの方が怪我がひどく、ナノトランサーまでも破損してしまったのはそういう理由もあったのだろう。
 とにかくウィンドは、大昔放り込んでそのまま忘れていたような包帯を取り出して、手早く傷口へと巻いてゆく。何も無いよりは全然ましだ。
「これで大丈夫っス。応急手当っスけど」
「すまんの、だいぶ楽になった。……肩を貸してくれんか、辺りを調べよう」
「はいっス」
 メァルの体重を左肩に抱えて、ウィンドはゆっくりと歩き出した。それから2人で辺りを見回す。赤外線視では色や質感などの細かい部分は分からないため、メァルのフォトン知覚は非常に有難かった。
 ここはどうやら天然の洞穴らしい、ごつごつした岩壁がぐるりと取り囲んでいる。この空間の中心近くに、柱のように巨大な岩が鎮座していた。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe53 深き闇の淵、乙女の祈りが疾風を呼ぶ
 見上げると、遥か上空に円形に切り取られた空が見える。暗いせいもあり上までの距離ははっきりとは分からなかったが、これだけ高い場所から落下して大きな怪我をしなかっただけでも儲けものだろう。
「ヴァルキリーさんは俺と一緒に落下したんスが、近くにはいなかったっス。あと、アナスタシアさんは?」
「わらわが落下した時、プルミエールと揉みあっておった。じゃが、その後どうなったかは分からぬ」
「そうっスか……結局俺ら、奴らの術中にまんまとはまったわけですね……」
 メァルは神妙な表情で、何も答えなかった。それは、アナスタシアを煽った1人としての自責の念もあったのかもしれない。
「ともかく……手早く2人を探し出し、脱出するぞ」
「了解っス」
「……おお、あそこから出れそうじゃな」
 メァルが前方右側を指さす。壁の一部が崩れており、その奥には崩れた岩がなんとか登れそうな斜面を構成していたのだ。
「良かった、これでなんとか脱出できそうっスね! 早くみんなを探さないと……」
「うむ。どこにおるのか……」
 メァルの視線が四方八方に動いた後、遠く前方の地面を見つめて止まった。わずかに身震いし、その感触はウィンドの体へも伝わる。
「……これは」
 2人が近寄って見下ろすと、おびただしい量の機械部品が、まるで工具箱でもひっくり返したかのように辺り一面に散乱していた。緑色と赤色の外装やバネやネジなどの細かい部品に混じって、生体素材の皮膚が引き裂かれて散らばり、ぼろぼろになったレース付きの白い布切れなども落ちている。
「まさか」
 はっとなってウィンドがメァルに向き直る。メァルは目を見開いたまま、地面を見つめ続けていた。
「そうじゃ。アナスタシアとプルミエールは、一緒に落下したとみえる」
「それじゃあ、まさか!」
「いや、待て……」
 不自然なことに気づき、メァルは右手を顎に当てた。ウィンドは彼女の口から明るい言葉が出ることを期待して、その続きを静かに待つ。
「ふむ、かなりの量のパーツじゃが……2人のヘッドパーツとおぼしきものがまったく見当たらん」
 確かに、アナスタシアの銀の髪やプルミエールの赤い髪が落ちていれば目立つだろうが、それがまったく見当たらない。眼球やアンテナなど、それなりに目立つ部品が一切転がっていないのは、"そういうこと"なのだと。メァルはそう結論づけた。
「ということは、アナスタシアさんは」
「……うむ。コナンドラムに捕獲された、と考えるのが自然じゃな……」
 言ってメァルはしゃがみこみ、地面に視線を落とす。確かによくよく見れば、そこいらの岩には明らかに人の手で動かされた形跡がある。
「なるほど、だからそこに出口みたいなものが開いておるのか……」
 メァルは先ほど見つけた壁の穴を促して言った。
 つまり、コナンドラムの作戦は単純明快だ。プルミエールとアナスタシアを交戦させ、ここへ落として行動不能にする。それを他の者が回収に来る。おそらく、そういう手筈だったのだろう。
 最初から普通に戦闘で打ち負かすつもりがない辺りから、プルミエールもC4と同じようにコピーが可能な存在であることまで想像がつく。
(……じゃが、殺されなかっただけでもまだマシか)
 アナスタシアだけでなく、ウィンドもメァルも完全に気を失っていたのだ。殺そうと思えば簡単に殺せたはずだ。
「……何故、殺さなかった?」
「……?」
「わらわとウィンドは、殺そうと思えば簡単に殺せたはずじゃ。なのに何故、あえて放置して、アナスタシアだけを殺さず捕獲した?」
 メァルが首を傾げながら、小声でまくしたてる。それにウィンドは不思議そうな顔をしていたが、ああ、と何かに納得したような声をあげてから、続けた。
「つまり、どーでもいいんじゃないんスか、俺たちは」
 ウィンドは軽く冗談めかして言ってみる。ところがメァルは予想に反して、深く頷いてから続けた。
「……そうか、そうじゃ。コナンドラムにとってはアナスタシアの捕獲が第一目的で、わらわたちの事はどうでもいいのじゃ。ふむ、ウィンド、なかなか切れるな」
「それほどでもあるっスけど」
「……調子に乗るでない」
 メァルがぐさりと釘を刺すのに、ウィンドは悪戯っぽく笑う。
「しかし、コナンドラムは何故、そこまでアナスタシアに執心する? これではまるで、アナスタシアを捕獲するためだけにわざわざ見つかったフリをして、おびき出したようではないか」
 メァルは眉根をひそめてうぅんと唸ると、苛ついたような口調で呟く。
「それじゃあ、早く助けに行かなきゃいけないっスね。そしたら答えもきっと分かるっスよ」
「……うむ、そうじゃな。じゃが、今はヴァルキリーを回収して脱出するのが先じゃ」
 メァルは息を吐きながら視線を上げ、周りを見渡した。ヴァルキリーの姿を探すが、それらしき姿はまったく見えない。
「? 水たまり……?」
 メァルはぼそりと呟いて、少し離れた地面を見つめたまま止まった。その言葉はいやに真剣さを含んでおり、まるで何か重大なものを見つけたかのような口調だった。
「ああ、それならさっき、俺も踏んだっス。地下水なら飲めるし、ラッキーっスよね」
 それに答えず、メァルの視線が動いた。そこからゆっくりと左のなだらかな坂を登り、柱の方へ。おそらく、水の流れをたどっているのだろうとウィンドは思う。
 柱は、高さ10メートル幅5メートルはある巨大な岩塊が2つ、落下してつき刺さって柱のように見えるだけだった。2つの塊はぶつかりながら落下したものらしく、ほぼ密着した状態で地面につき刺さっている。よくよく見れば、ヴァルキリーと一緒に落ちた際、2人が乗っていた地面であることにウィンドは気づいた。
 その間に挟まれるようにして、人間大の岩が下敷きになっていた。水が出ているのは、どうやらその付近らしい。
「……残念じゃが……飲めるものではない……」
 わずかに震える声で、メァルが言った。あまりに真剣な声にウィンドは戸惑う。たかだか水たまりを見つけただけなのに、何故そんなに目を見開いているのだろうと、もっともな疑問を抱く。だが、些細なことだと思ってそれには追及しなかった。
「あ、じゃあ、しょうがないっスね。いざという時に助かるかと思ったんスけど……」
「……違う……。そういう意味ではないのじゃ……」
 メァルは、今度は絞り出すような声で答えた。ウィンドはよく分からないまま、不思議そうに水たまりに視線を向けた。何をそれほどまでに、深く考えているのだろうか。
「……? どういう意味っスか?」
 ウィンドは水たまりを見たままで、不思議そうな声を上げる。赤外線視では色の判別は不可能のため、単なる赤黒い水に見える。メァルの視界では、普通の水に見えているのだろうが。
「……ウィンド……それ以上は見ない方がいい。見てはならぬ……」
「? 何がっスか……?」
 メァルが青白い顔で言う言葉の意味が分からず、ウィンドは水の出ている付近をただ見つめていた。

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