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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe52 堕ちる者と、落ちた者

「……静かに」
 絞り出すような声でアナスタシアは言った。
 その声に全員が、静かに見下ろす。そこに、奴らはいた。
 バーバラと、15人のキャスト兵。キャスト兵はヴィオ・トンガやその道中で交戦したものと同じ形式である。彼らは谷に走る、かろうじて歩けるような山道を行軍していた。
 バーバラは背中しか見えないが、その大きな体を揺すりながら先頭をすたすた歩く。
 アナスタシアたちはそこより50メートルほど上の岩棚から、それを見下ろしていた。見通しが非常に良く、視界を阻むものはほとんど無い。
「奇襲をかければ一発っスよ」
 それを見下ろしながら、ウィンドが思った事を素直に口にする。だが、その言葉に対してアナスタシアは何も答えなかった。
 もちろん、彼女自身もすぐに仕掛けたいのは言うまでも無い。だが、2度も辛酸を舐めさせられた事は忘れてはいなかった。このまま奇襲をかけても、また何か手痛い反撃を受ける気がしていたのだ。
 ……だから。
 確信が取れるまでは動くわけにはいかない。知らない事が多すぎるのだ。

 総兵力は今いるだけなのか?
 交戦して勝機はあるのか?
 ……そして、彼女らがここにいる目的は……?

「ねぇ、どのタイミングで襲撃するの?」
 ちょっと興奮して舞い上がったような表情で、ヴァルキリーが言った。久々のコナンドラム戦に、素直に期待している事が見てとれる。
「ふむ。この人数では奇襲が大前提となるな。慎重かつ大胆にゆかねばなるまい」
 メァルも真剣な表情で言う。目を細めて見下ろしたまま、静かなに冷静な口調だった。
「ですが、あまりにも情報が足りません」
 だが、アナスタシアは平坦な声でそう言う。それに全員が、少し鋭くなった視線を向けた。
 アナスタシアの言う事は、至極もっともだ。諜報部からの情報はとっくに打ち止めだし、バーバラたちは特に不審な行動はまったく取っていない。まるで、彼女らの目的はハイキングで、歩く事そのものを目的としているかのようだ。
(……あまりにも、不自然すぎますわ)
 アナスタシアが今まで指揮官として学んだ全てが、"まだ早い"と言っている。確かに、彼女らは油断しているだけかもしれない。
 だが、あまりにも不気味すぎないか?
「ああ、早く追いかけないと逃げられちゃうっスよ……!」
「だね、15人ぐらいなんとかなるって! すぐとっちめて情報引き出せばいいじゃん!」
 ウィンドとヴァルキリーが焦る声で訴えて、アナスタシアを急かす。
 確かに、現在の状況は彼らの言う通りなのだ。戦力で劣るこちらは、不意をついて奇襲をかけ、より素早い殲滅を行い情報を聞き出す。具体的な手段はそれしかないのだ。
「ですが……」
 アナスタシアは呟く。言葉尻は、消え入りそうな小さな声になっていた。
 個人感情で言えば、今すぐにでも襲撃したいのだ。だが、指揮官たる者個人感情で部隊を動かすわけにはいかない。
 何より、あまりに情報が少なすぎるのだ。戦術を立てられなければ、勝機は遠のく。ごくごく当たり前の事だった。
「……皆さん、気持ちは分かります。ですが、まだ早いかと思います」
 静かにアナスタシアは言う。その声は小さく、いつもの自信が見えてこなかった。言葉からは迷いだけが見え隠れしている。
「けどさ、視界は良いし周りに部隊がいる様子もないし、これを逃すわけにはいかないよ」
 ヴァルキリーが悲痛な瞳で訴える。
 それに、アナスタシアはすっかり考え込んでしまった。
 ……以前、ヴィオ・トンガの施設に潜入した事を思い出す。完全に手の上で踊らされていた。パラカバナ・レリクスでも手痛い目に会った。
 ……今回はどうだろう?
 ヴァルキリーの言う通り、周りにはコナンドラム兵がいる様子はない。フォトンレーダーにも変な反応は無く、周辺には大量の兵が隠れられる場所も見当たらない。

 ……だが、違和感を感じるのは何故だ?
 彼女らの最終目的は何だ?

 何も見えない状況に飛び込むことほど、恐ろしいものは無い。
「アナスタシアさん、以前してやられたから警戒するのは分かるっスけど……考えすぎじゃないっスか?」
 珍しく、ウィンドが少し苛ついた声で言った。彼もまた、ヴァルキリーと同じく今が好機だと信じて疑っていない。
(……確かに、考えすぎなのかもしれません。違和感の正体は分かりませんが、単に不安なだけなのかもしれませんわ……)
 アナスタシアがそうやって思慮を巡らせていると、不意に地面がずん、と揺れる。大きな地震だ。
「わああぁぁぁっ!」
 すぐにキャスト兵の声が響く。どうやら振動で地面が崩れるのに、キャスト兵の1人がそれに巻き込まれて崖から落下したようだった。バーバラやキャスト兵たちが崖下を覗き込んでいる。
(……そうですわ、ここいら一帯は地盤が脆い……)
 アナスタシアは冷静に考えていた。地盤の脆さは戦いにくさと直結する。半面、うまく使えば戦術にも組み込む事ができるのも確かだが、特殊地形での戦闘経験を持っている者はいない。準備をしている暇も無い。
「アナスタシア!」
 ヴァルキリーが叫んだ。それ以上の言葉は、もう必要無い。
「無茶苦茶じゃな……」
 メァルがぼそり、と悲痛に呟いた。
 見ると、バーバラが近くのキャスト兵の背中を蹴りつけていた。キャスト兵はそのまま崖に飲み込まれて消えてゆく。その姿をバーバラは指をさして笑っていた。
 ……信じられない。人を何だと思っているのだろう。
「アナスタシアさん!」
 ウィンドが言う。彼も目の前で起こる光景に、それ以上の言葉は必要無いと思っている。
「……潮時、じゃな」
 メァルがゆっくりと息を吐いて呟いた。
(……やるしかない、か……)
 アナスタシアはゆっくりと息を吸って、それから口を開いた。
「……分かりました。ウィンドは私と共に来てください、突貫します。姫は全員に"ゾディアール"の後、わたくしたちの援護を。ヴァルキリー、開戦のラッパをお願いいたします」
「了解!」
 アナスタシアが的確に言葉を紡ぐのに、皆が大きく頷く。その瞳はまっすぐで明るく、これから起こる任務達成にのみ向けられていた。
「さあ、行くっスよ」
 ウィンドが両手に剣を握って、真剣な面持ちで言う。ゆっくりと立ち上がって、ざっ、と地面を踏みしめた。
「よーっし! 暴れちゃうぞーっ!」
 ヴァルキリーは両手杖を構えて意気揚々と。ぶんと風を切って、その杖が唸る。
「わらわのテクニック……食ろうて後悔するがよい」
 メァルも両手杖を取り出し、静かに笑う。自信と気品を溢れさせながら。
「目的はバーバラ率いる部隊の殲滅、ならびに捕獲」
 アナスタシアは右手にダガー、左手にマシンガンを持って、抑揚を抑えた声で続ける。
 それからゆっくりと息を吸って、次の言葉を続けた。
「……任務を開始いたします」
 アナスタシアの声に、メァルが杖を振り上げた。
「わらわに全てを感知する力を与えよ……ゾディアール!」
 4人を黄色い光が包み込む。ゆっくりと広がる光が、まるで体に染み込むような感覚を覚える。
「うお……」
 眼前に広がる世界が変わってゆくのに、ウィンドは思わず声を漏らした。
 ゾディアールとは、反射神経と処理能力の向上を促すテクニックだ。技量の高い者よりその加護を与えられた者は、世界の動きがスローモーションに見えるという。
「行きますわよ!」
 アナスタシアが崖下へと飛び降りた。ウィンドがそれに続く。
 2人はほぼ垂直に切り立った壁を、容易に降りてゆく。わずかな突起につま先だけで乗っては飛び降り、くぼみに踵だけを乗せてはまた飛び降りる。ゾディアールによって極限まで反射神経が上昇した2人には、このような事など造作も無い。
「はぁっ!」
 残り5メートルほどの高さから、ウィンドが飛んだ。空中で華麗に体をひねり、くるりと宙返りをしてみせる。
 落下する小石の音に、コナンドラム兵たちが気付く。隊列の後ろに、ざん、と2人が降りてくるのにざわめき始める。
 通路の幅はわずか3メートルほど。アナスタシアが切り込んで、マシンガンの弾をバラ捲いた。
「うおおぉぉぉぉぉッ!」
 その後に、ウィンドが咆哮しながら飛びこんでゆく。末尾の2人は突然の出来事に混乱し、仲間に押されるようにして崖へと足を踏み外した。
 ここまでわずか、10秒。残り、11人。
「全ての源、大地の力よ集まれ……ラ・ディーガ!」
 ヴァルキリーの声が響いたと思うと、コナンドラム兵の頭上に直径3メートルほどの岩が姿を表す。岩は重力にまかせて落下し、キャスト兵を押しつぶす。3人が岩の下敷きとなり、勢いで地面が崩れるのに飲み込まれた。
「唸れ、弾けよ。全てを無に帰せ、いかづちよ……ノス・ゾンデ!」
 後に続いて崖から降りてきたメァルが、杖をぶぅんと振りかざす。杖先から金色のいかづちがほとばしったかと思うと、雷で作られた直径1メートルほどの球体がいくつも現れ、キャスト兵たちに飛びかかった。
 激しい光と共に雷球が炸裂し、周りの者を巻き込んで激しい音を立てる。高圧電流を強制的に流し込まれたキャストは、煙をあげながら膝を落としてゆく。3人のキャスト兵が、沈黙した。
 15秒経過。残り、5人。
 ここでやっと、キャストたちが戦闘体制に入る。片手剣やショットガンを構え、迎撃準備を今更整えた。
 アナスタシアは内心ほっとしていた。奇襲はとりあえず成功、今のところ不審な動きは見えなかったからだ。後はイニシアチブを取り続ける。
 それ以外の事を考えては、ならない。
「はぁッ!」
 アナスタシアはダガーを振りかざして、飛びかかった。キャスト兵を軽く切り裂いて押しのけ、奥へと進む。
 もう少し。バーバラまで。
 アナスタシアとバーバラの距離は約5メートル。残るキャスト兵は4体。ここまでは順調だったが、アナスタシアは楽観視してはいなかった。
 そう、バーバラはこんな状況であるにもかかわらず、腕を組んだままでこちらを見下すような目で見ていたからだ。
(……何か策があるのは間違い無いですわね……)
 アナスタシアは確信する。
 ここまでの我々の行動は、彼女にとって"想定内"なのだと。
 ウィンドとメァルの攻撃が、それぞれ1人ずつのキャスト兵を打ち倒す。残り2人。
「その余裕が!」
 アナスタシアは目の前のキャスト兵を下から上へ切り上げる。
「気に食わないのですわっ!」
 キャスト兵がよろめいた所へ、体重を乗せたタックル。数メートルふっ飛ばされて、バーバラへ向かって突っ込む。バーバラは右手だけを突き出して、キャスト兵を崖下へとためらいなく叩き落とす。
 残り、1人。
「……?」
 バーバラは、手にウォンドか何か棒状のものを持っている。バトンのように見えるが、武器だろうか。それに、バーバラが武器を持っているのを誰も見た事が無いので想像がつかない。
 ……まただ。また違和感だ。
 何かがつながりそうで、つながらない。
「かかったね」
 バーバラが口を開いた。だがアナスタシアは答えない。術中にはまっているのは認識している。あとはどう対処するか、だ。
 後ろで、ヴァルキリーのディーガを食らったコナンドラム兵がまた1人、倒れた。
 これで、0人。残るはバーバラのみ。
「がら空きですわよッ!」
 アナスタシアはダガーを振り上げて、一気に詰め寄った。もう、間を阻むものは何ひとつ無い。後ろにメァルが続き、ウィンドやヴァルキリーも距離を詰め始める。
 だが、バーバラは動じなかった。持った棒状のそれをぽーんと上に放り投げる。空中でくるくると回転するそれは、片方からフォトンが伸びて、大きなくちばしを形成する。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe52 堕ちる者と、落ちた者
「!」
 アナスタシアは驚愕した。
 先ほどまでの違和感の正体が分かったからだ。
 なぜ気づかなかったのか。

 あれは……プルミエールが持っていた、ウォーハンマーではないか!

「惜しかったわね、おねえさま♪」
 ジジジ、とバーバラの体をノイズが包み込み、表面を覆う幻覚が崩れ落ちていく。まるでテレビのチャンネルを変えたかのように、プルミエールの姿をとってゆく。
 一同が呆気に取られている間に、プルミエールは頭上でハンマーをくるりと回すと、地面に激しく叩きつけた。
「まずいですわ!」
 アナスタシアは思わず叫ぶ。それが合図かのように、激しい音を立てながら、亀裂が走った地面がぼろぼろと崩れてゆく。
「ここら一帯はね、地面がスッカスカなんだよね。みんなまとめて落ちちゃえ♪」
「くっ……!」
 メァルがとっさにテクニックの詠唱をしようとするが、足元が安定せずフォトンを練る事ができない。ちょっと足に力を入れると、そこから崩れそうだった。
「うお……おあっ!?」
 がくん、と揺れたと思うと、ちょうどアナスタシアとメァルの後ろで通路に亀裂が走り、ばっくりと口を開ける。部隊は完全に分断された。
 次の瞬間、その亀裂から後ろ10メートルほどの地面がまとめて崩れる。雪の塊が滑り落ちて雪崩が起こるように、岩の塊が谷底へと滑ってゆく。
「きゃあぁぁぁっ!?」
「うわああっ!」
 岩はウィンドとヴァルキリーを乗せたまま、ぽっかりと口を開けた穴へと滑り落ちてゆく。
「この……ッ!」
 ウィンドがヴァルキリーの腰を掴んで、とっさに地面を蹴る。だが、その蹴った勢いで足場はまっぷたつに折れて、バランスを崩した2人はそのままもがきながら谷底へと消えてゆく。
「ウィンド! ヴァルキリー!」
 だが、その叫び声は空しく、谷底へと響いてゆくだけだった。
「く……!」
 アナスタシアは、きっ、と向き直って、プルミエールに飛びかかる。せめて一太刀。一太刀だけでも浴びせてやりたい。それで、戦況はきっと変わる。そう信じるしかない。
 がぎぎぎ、と激しい金属音を立てながら、ダガーの刃がプルミエールの体を切り裂いてゆく。左の脇腹から右肩まで、一筋の傷と激しい火花が飛び散る。
「おねえさま、一緒に堕ちましょ♪」
 プルミエールはかわす気配すら見せず、むしろゆっくりと両手を広げた。まるで全てを抱擁しようとする聖母のように。
「ねっ?」
 プルミエールの左腕が伸びたと思うと、アナスタシアの右手首を掴んだ。予想外に強い力に、抗うことができない。
「!?」
 そのまま力任せにぐっと引き寄せて、両手でアナスタシアの小さな体を抱きしめてしまう。
「いやん、おねえさまスゴクいい匂い……ハァハァしちゃう! おねえさま萌え〜!」
 プルミエールは瞳を閉じて、ん〜、と大きく息を吸い込む。それから恍惚の笑みを浮かべて頬を赤らめ、アナスタシアの髪に顔をうずめた。
「ちょ……離しなさい!」
 アナスタシアはもがくが、体を完全に抱きしめられているため抵抗できない。そもそも、ボディのパワーが違いすぎる。もがいてもまったくほどけない。その上、顔がちょうどプルミエールの胸にうずもれてしまい、呼吸もままならなかった。
「らめぇ〜! 絶対離さない♪」
「アナスタシアッ!」
 メァルが杖を掲げて一歩進み出る。踏み出した勢いでわずかに揺れたと思った瞬間。道を分断するように亀裂が走り、そのまま折れて崩れた。
「くっ……! 無念……ッ!」
 メァルの体はそのまま、崩れた岩と共に深淵へと姿を消してゆく。
「……!」
「うふ、これでおねえさまと2人っきり♪」
 アナスタシアはぎりっと下唇を噛んで、言葉にならない想いを噛みしめた。
 罠、だった。
 バーバラはわざと見つかるように行動し、アナスタシアたちを誘い出したのだ。そして、この近辺は地盤が弱いことを知った上で奇襲をかけさせた。
 しかし、解せない点がある。
「……一体何が目的なのです?」
 そう、バーバラは一体、何がしたいのか?
「おねえさまの、"脳"が欲しいの。おうちに帰ってから、ぐっちょぐちょにしてあげるね♪」
「……!」
 言ってプルミエールは、愕然としたアナスタシアを抱えたまま、予想外の行動を取る。
「せーの、っと!」
 なんと、自ら谷底に飛び降りたのだ。
「何を!? 自殺するつもりですかっ!?」
「大丈夫、私は本部にバックアップがあるから、いくらでも生まれ変われるもの♪」
「なっ……」
 アナスタシアははっと気づく。
 ……そうだ、コナンドラムはキャスト量産技術を持っている。C4が倒されてもまた姿を現したように、彼女もまたそうであるのだろうと。
「……!」
 ……屈辱。
 またも相手の思うままに踊らされていた。どうしてこうもいいようにあしらわれるのだろう……。
(……3人は無事なのでしょうか……これでは指揮官失格ですわ……)
 遥か下まで落下しながら、その恐怖は転落する事には向けられず、捕獲された後に向けられていた。
 アナスタシアは落ちてゆく中で、そのこらえきれない想いに包まれ、下唇をきゅっと噛んだ。

「情報によると、おそらくこの近辺でしょう」
 ファビアが端末の地図を見せながら言った。
 ダーククロウが根城にしているらしい、シコン諸島の名も無き小さな島。フライヤーから降り立つと、そこには小さい森が広がっていた。
「……もうすでにダーククロウのテリトリーかもしれないわね。気をつけて行きましょう」
 アルファの声に一同が頷いた。それぞれ各々の得物を抜き、警戒を始める。
「でもさ、隠密行動しなくていーの?」
 オルハがぶらぶらと歩きながら、ふと思った事をそのまま口にする。
「ええ、問題ないわ。すでにダーククロウの逮捕状は出ているし、教団を抜けたんだったら遠慮する理由も無いし」
 前回、ファビアとオルハがイオリたちと交戦した際、本当ならすぐに逮捕状を出す予定だった。だが、教団との政治的理由で、上層部は表立って動くのをよしとしなかったのだ。
 しかし今は、遠慮する必要などまったくない。
「じゃあ、堂々と名乗りを上げたりしていいんだね? 『遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ』……とか!」
「……オルハ、アニメや漫画の見過ぎです……」
 オルハが手を突き出してびしっとポーズをとるのを見て、ファビアが顔を覆って呟いた。ネイもオルハの真似していたが、そんなファビアを見て慌てて顔を覆う。
「……っと、さっそくお出ましみたい」
 ふと我に返ったように、オルハが言った。両手を耳の後ろに当て、目を閉じる。
 ……足音がひとつ……ふたつ、みっつ……。足音からは隠密行動をしている気配は無い。気づいていないのか、単なる巡回なのか……。
「……相手は3人。警戒している気配はないよ」
「来ましたね。……ネイ、下がって」
 ファビアがそれに頷いて、杖を構えながら小声で言うのに、ネイがファビアの後ろへまわる。
「テイル、援護頼むわね」
「了解だ」
 アルファが両手に短銃を持ちながら言うと、テイルはライフルを取り出して構える。もうすでに、足音はすぐそこまで来ていた。
「派手にやらかしていいんだよね?」
「ええ、存分に」
 オルハが聞くと、アルファが真剣な顔で頷く。
「ゴホン。……やぁやぁ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よっ!」
「本当に言ってるー!」
 皆の心が1つになった。綺麗にハモってツッコミを入れる。
「! 何者だ!?」
 当然、足音の主たちはそれに気づいて飛び出してくる。
 人影が3つ。全員片手剣を持っており、黒い半被を羽織っている。間違い無く、ダーククロウの団員たちだった。
「覚悟!」
 テイルのライフルが火を吹いた。手前の男がとっさによける。体制を直して向き直るが、その眼前にはすでにアルファが駆け寄っていた。
「はッ!」
 左の銃口を顔面に突き付け、至近距離で迷わず引き金を引く。男は銃を外側に押しのけて外す。
 すぐにアルファの右手が振りかぶられる。銃の台尻でその頭部を上から殴りつけた。頭がぐわんと揺れてぐらりと世界が揺れる。
「……!?」
 男は、朦朧とする頭を振りながら、自分の置かれた状況と、知識を見べる。
 銃を使った格闘術があるのは当然知っていたが、それを自分が食らうとは思ってもいなかった。それほど使い手も多くはないのは、単純に習得が困難だからだ。銃撃の技術に加え、格闘の技術まで学ばなければならない。
 男は頭を戻して向き直った瞬間――嫌な物が視界に入ったのに気づいた。
「お疲れ様」
 アルファの左手の銃口。ドン、とフォトンが打ち出される音と同時に、眉間に激痛が走り後ろへとふっとばされる。空中でくるりと縦に半回転して、顔面から地面に落ちた。
 シールドラインの防護があるといえ、この至近距離で激しく脳を揺らされてしまう。男は意識を失ってそのまま倒れた。
「あーあ、こりゃ先生の独壇場だね」
 後ろでオルハが両手をぶらぶらさせながら、眠そうに欠伸をした。それから頭の後ろで腕を組んで、のんびりと見守ることにする。
「次っ!」
 倒れた男の両側に、残り2人。アルファはそれぞれに片方ずつ銃を向け、ぶっぱなす。
「うおっ!」
 その弾丸は、正確に男たちの足を叩く。衝撃に、2人はわずかによろめいた。
「凍える爆発よ、目標を包み込め……ラ・バータ!」
 ファビアの杖がうなる。右の男は体制を崩しており、回避行動が取れない。体を冷気が包み込み、男は衝撃に1歩後ずさる。
「足元がお留守だな」
 テイルのライフルが左の男の右膝を撃つ。勢いで足が後ろに弾かれ、男は顔から地面につっ伏した。
「はい、お疲れ様」
 倒れた直後、どん、と後頭部に衝撃が走る。そう、アルファの左足が男の頭を踏みつけていた。直後に、ごり、と首筋に押し付けられる、熱を帯びた鉄の感触。
 左の銃がその後頭部を撃ち抜く。わずかにうめいて、男は沈黙した。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe52 堕ちる者と、落ちた者
 直後、振り向きざまに右手の銃の台尻で、最後の1人の顔面を殴る。その勢いで反時計周りにくるりと回転して、両手の銃を至近距離で突きつけた。
「はい、お疲れ様でした」
 長いポニーテールを揺らしながらにっこりと微笑み、アルファは引き金を引いた。
「相変わらず的確だなー」
 オルハが頭の後ろで腕を組みながら、とぼけた声で言う。それと同時に、どさ、と音がして、最後の1人が倒れた。
「……オルハ。敵がいたんだから、緊張感を持たないといけないわよ」
 振り返りながら、アルファはナノトランサーに銃をしまう。それから肩にかかった髪を後ろに流すと、真剣な顔のままで言った。
「えー。だって、先生が真っ先に突っ込んでいったから、どうせ出番が無いなーって」
 けろりとした表情で悪びれた様子もなく、オルハが言う。
「ボクさぁ、むかし先生の講習受けた事あるんだけどね、ほんとひどい目に会ったんだよ。先生が出るならボクの出番なし!」
 ファビアとテイルはふとお互いの顔を見つめて、それから頷いた。2人もアルファの戦い方を見たのは初めてだったらしい、少し呆けたような驚いたような顔で、思いつくままに口を開く。
「……確かに、先生の動きはとてもスピーディで、私も出る幕がありませんでした」
「ああ、あそこまで後方援護を意識した動きは、そうそうできるものじゃない」
 ファビアとテイルは賛辞を述べて、何かを納得したように深く頷く。流れるような動きはとてもスピーディだったし、目標の頭を踏みつけてためらいなく後頭部を撃ち抜くとは、よほど場慣れしていないとできるものではない。
「だってほら、どうせシールドラインを装備してるんだから。こめかみをぶち抜いた所で死ぬわけはないですよ?」
 ふと、アルファは自分を見上げる視線に気づく。
 ファビアの後ろに隠れて顔だけをひょっこりと出しながら、ネイが口を開いた。
「せんせー、こわーい……」
 その声に一瞬空気が凍り、全員がリアクションに困ってしまい、不自然な苦笑を浮かべる。何故なら、全員がネイと同じ事を思っていたからだった。
 確かに、戦いの最中にそんな甘い事は言えないのは分かっている。だが、目の前でそこまでためらいなく行われると、驚くのは仕方が無い。一部の例外があるとはいえ、ガーディアンズは"守るために戦う"のが目的であって、戦いに勝つことが目的ではない。
「なんですか、その微妙なリアクションは。保護対象を守るためには、ためらったり気を抜いてはいけませんよ」
「……普段は天然のくせに」
 アルファが人差し指を立てて講義している最中、オルハがぼそりと呟いた。
 それを聞いたアルファの顔に影が落ちる。だが、一同の視線はオルハに向けられており、誰もそれには気づかなかった。
「先生さ、隠してるけど実はすっごい天然さんなの。こないだもさ、風呂の掃除してて、カランとシャワーのスイッチを間違えて、服を着たままシャワー浴びちゃったらしいよ……ぷぷぷっ」
 笑いをこらえながらオルハが言う。その仕草もまたおかしくて、耐え切れずにファビアとテイルも吹き出した。
「? おふろといっしょに、おせんたく?」
「ぶはっ!」
 ネイが不思議そうに呟いたのが、ツボだった。笑いが笑いを呼び、皆は笑いが止まらなくなってしまう。オルハは腹を抱えて両手両足をじたばたとばたつかせ、ファビアも我慢しようとして顔が真っ赤になっているし、テイルは豪快にがははと笑っている。
 主犯格であるネイ1人だけが、なぜ爆笑の渦が起こっているのかがわからず、ぽかんとしていた。
 ……いや、もう1人、笑っていない者がいる。
「おーるーはー?」
 ゆらり、と動く影。いつの間にか、アルファの姿がオルハの後ろにまわっていた。
 それに気づいて冷や汗を流しながら、オルハは上体を起こす。足を伸ばして座った体勢になってから、ゆーっくりと、振り返った。
「……えへ?」
「『えへ』じゃないッ!」
 オルハはとっさに、体をぐるりと縦に回転しつつ地面に伏せる。ちょうど腕立て伏せの体勢になり、アルファが伸ばした両手の下をくぐる形になる。それから横に転がりながら体を起こして向き直り、後ろへと大きく跳んだ。
「!」
 だが、そこにいるはずのアルファの姿は無い。ほんの僅かな時間で、視界から完全に消えた。
「お仕置きです」
 背後から声がしたと思うと、両のこめかみにがつ、とアルファの拳が押し付けられる。それからぐーりぐーりと、ひねりながら押しつけられてしまった。
「うぎゃー! あいたたた、先生ごめんなさい! ボクが悪かったですうぅぅぅ!」
 オルハの絶叫を聞いてもアルファはその手を弱めようとはしないのを見ながら、一同は苦笑していた。

「なんだ……あれは?」
 ランディたちは、暗がりに照らし出されたものを見て、愕然とした。
 壁一面に広がる、巨大な像。四本の腕と、大きな体。
 それが今まさに、壁から飛び出して来ているようにさえ見えた。
「これは大きいね〜……」
 アンドリューが見上げながら呟く。何せ高さは10メートルほど、横幅は15メートルはあるだろう。直径20メートルほどの円形の部屋に、その像は圧倒的な存在感を持って鎮座していた。
「ダークファルス……」
 ランディは思わず口にしていた。像に彫られた、その邪神の名前を。
「……ランディさんが実際に見たものと、同じですか?」
「……あぁ。細部は違うが、ほとんど同じだ」
 エレナの問いに振り向きもせず、ランディは答える。完全に視線を像に奪われていた。
(……まったく、嫌なものを思い出させてくれる。ゴミ捨て場で殺戮劇を繰り広げ、俺から全てを奪った元凶……!)
 思い出したくはない、だが、忘れることはできない。忘れてもいけないのだ。
「しかし、よくもここまで精巧なものを作ったなぁ……」
 アンドリューが像に近づいて、手の甲で何度か叩いてみる。それから両手を組んでうぅん、と唸った。どうやら、アンドリューの才能を持ってしても、この像の構造はすぐには分からなかったらしい。
「調査隊の報告によると、この"祭壇"が最深部です。いつ頃作られたか、何のために存在するのか等、詳しくは調査隊の詳細報告を待たねばなりませんが……」
「そんなに深く考えるなよ。ダークファルスを奉ってンだってことだろ、よーするに」
 ラファエルが端末を見ながら言うのに、ルディが単純明快に答える。確かに、最新部まで特に怪しいものは無く、何の問題もなかった。深く考えようにも、疑う材料が無さすぎる。
「確かに何もなかったですからね……しかし、空気が非常に悪いです。星霊の力が極端に弱まっています」
「気分悪いから、早く出ようぜ」
 眉根をひそめながら、エレナとシロッソが訴える。フォトンを感知できる2人にとって、この場所の負の空気はとても辛かったのだった。
「……何もなさすぎる?」
 ふと、何かに気づいたように、ランディが独りごち始めた。
 ……何も無い、というからには、理由があるはずだ。例えば誰でも奥まで簡単に辿りつけるようにだとか、そういった理由が。
 だが、ダークファルスを崇める祭壇など、そんなに多い需要があるはずもない。この場所を知っている者も来る者も多くないはずのに、その者のために分かりやすい構造にしてやる必要などないのだ。
「? ランディ、どうした?」
「いや、不自然に思ってな。何故ここの構造は、こんなに簡単すぎる?」
 不思議そうに言うシロッソに、ランディは真面目な顔で向き直って、言葉を投げかけた。
「ああ、なるほどな。そういう事か」
 ランディの言いたいことを瞬時に理解したらしい、シロッソは答えてから、深く頷いた。
「信者が多いから構造が簡単ってのは無いな。あと、物資の運搬が激しいとか、奥まで像の材料を運ぶのが大変ってのもない。大容量のナノトランサーを用意すれば解決できるはず」
 シロッソは思いつくままとは思えないほどに、さらりと答えてみせる。
「さて、ここで考え方を変えてみる。こんな像を作るような奴だ、どう考えてもマトモじゃない。真面目な人間心理学を語った所で意味がない」
「あー、なるほど。それもそうだな」
「そうだな……」
 そこまで言って、シロッソは視線を上に向けて、口をわずかに開いたまま、沈黙の時間が訪れる。一同は次の言葉を静かに待っていた。
「……興味無いんじゃないか」
「……はぁ!?」
 ランディがあきれた顔で素頓狂な声で言う。たっぷり時間をかけた成果としては、明らかに不満のようだった。
「まあ待てよ、話は最後まで聞け。ここまで来る時に、おかしいと思わなかったか? 人が集まる場所に本来あるべきものが、何ひとつ無かっただろ?」
「! 確かに、水まわりもトイレもここにはありません……!」
「お嬢、ご名答だ。普通、人が集まる所は水引くよな? トイレあるよな? じゃあ、何故それが無いか。答えは簡単だ」
 シロッソがつらつらと流暢に回答を示してゆくのに、一同は驚いた顔でそれを聞いている。
「ここには人が集まらない。そして、作った奴はそういう事に興味が無いか、必要無い。そういうことだ」
「必要ない……だと?」
「ああ。……キャストが一番先に浮かぶだろうが、ここが作られたのは、おそらくそれよりずっと前だ。……そうだな、お嬢?」
 ランディの呟きに、答えるどころか一歩先に進んだ意見を提示するシロッソに、エレナが頷く。
「はい。間違いなく、600年ほど前に作られたものでしょう」
 言ってエレナは床を撫でるように触れて、続けた。
「この材質は、現代には存在しない材質……500年の戦争で地表は荒れ、それは気候や地質までも変えてしまいました。この床には、その戦争で失われた材質が使われています」
 エレナが言うのにシロッソは、ひゅぅ、と口笛を鳴らして、
「さすがは地理学・歴史学に強いグラール教大学を飛び級で卒業した博士サマ、完璧すぎる模範回答だな」
 とおどけて言ってみせた。
「もう、茶化さないでください。……でも、建築学的観点でも、宗教学的観点からも、どうも違和感を感じます」
「ふむ……」
 エレナの言葉にランディが頷いて、唸り声をあげる。正直、話が難しくてよく分かっていないようだった。
「やっぱり、何かあるよこの像」
 ふと、アンドリューが壁に手をかけて向き合ったままで言った。答えを待たずに壁を何度も叩いたり、顔を近づけてみたりする。
「不自然なんだ。振動の反響にわずかに歪みがある。何か仕掛けがあるのかもしれない」
「なんだって?」
「この像は、直径5メートルの立方体を積み上げ、それを掘ってあるものなんだ。だから、振動はもっと素直に伝わるはずなんだけど……」
 アンドリューが熱心に像を叩きながら続ける。二の腕のカバーを開いて、いくつかのコードを引っ張り出す。先端が吸盤になっているそれを壁にいくつか張り付けて、本格的な調査に入った。
「……よし、俺もやってやるか」
 シロッソが独りごちながら壁に近づき、右手をべたりと着ける。ゆっくりと息を吐き出して、集中し始めた。
「あ、では私も……」
 エレナも手伝いを申し出る。青白い顔で体調が良いとは思えなかったが、申し訳無く思ってか、慌ててシロッソに駆け寄る。
「お嬢は休んでな。あんたに働かせると、後でラファエルが五月蝿い」
 シロッソは冗談めかして言ってから、左手をひらひらとして追い払う。その後ろでラファエルが、「さすがシロッソ殿は分かっておられる」と言わんばかりに、何やら頷いていた。
「さて……」
 シロッソは呟いてから、乾く下唇を舐める。それからゆっくり瞳を閉じて、フォトンの流れを感知し始めた。
 切り出した岩……所々で流れがひっかかるのは、岩の継ぎ目か。にしても、かなりの大きさだ。奥の方のフォトンを感じ取るのは困難を極める。だが、やるしかない……。
 シロッソはここで大きく息を吸って、数秒止めてから少しずつ吐き出してゆく。
(奥へ、さらに奥へ……)
 今の所、おかしな部分は一切無い。一体、どこまで行けば異変を感じ取れるのだろうか。
(奥へ、奥へ……)
 シロッソは全身の全てを右手に集中する。手の甲には静脈が浮かびあがり、指はわずかに痙攣していた。
(まだか……まだなのか……)
 ふぅっ、と肺の中の空気をほとんど吐き出してから、残る僅かな空気を絞り出すように息を吐いてゆく。
 ふっ、と何かが抜ける感覚。
「!」
 シロッソははっとなって目を見開いた。脱力して壁に体重を預け、右手一本でかろうじて支えているような状態。全身の毛穴という毛穴から、汗が噴き出してくると錯覚する。一気に体温が奪われて頭がすっきりとしてくると、シロッソはゆっくりと息を吸って、それから吐き出した。
「お、おい、大丈夫か?」
「……ははっ」
 慌ててランディが駆け寄って肩を貸すが、シロッソは薄笑いを浮かべていた。
「さすがはアンドリューだ。細かい調査無しで、よくそんな奥の異変に気づけるな」
 シロッソはどっと流れる額の汗を拭いながら、弱々しく微笑んで言った。全員の視線が集まり、その続きを静かに待っている。
「……間違い無い、かなり奥に空洞がある。相当深いぞ。とにかく、何かあるのは確かだ」
「さすがはシロさん、さすがだよね、ありがとう。……じゃあ、あとは構造を調べて開けるだけだね」
「……って、これどうやって開けるんだ……?」
 ランディが像に近づいて、手をついて顔を寄せる。すん、と鼻を鳴らしてみるが、何か匂うはずもない。
「普通ならコンソールとかあってもいいと思うんだけどね。それらしいものが何も無いから困る」
 アンドリューがゴーグルを着けて調査を再開しようとして、ため息をついて言う。
 その時だった。

『……のよ』

「……?」
 ランディは、誰かの声が聞こえた気がして、顔を上げて辺りを見回す。だが、そこには仲間たち以外に誰かがいるはずもないし、その誰かの声とは思えない声だった。
『……うを……者よ』
 絞り出すような、声。しわがれた響きはあまりに重低音で、例えるなら長い期間使われていなかった喉を久しぶりに使って、なんとか聞き取れる言葉の形にした、というような印象を受ける。
「……なんだ?」
 ランディは思わず声にして、辺りを見回す。特に不自然な様子は無い。相変わらずこの場にいるのは6人だけだ。
「……? ランディさん?」
 ランディの様子がおかしいのに気づいて、エレナが声をかける。その表情は不思議そうで、わずかに細められた瞳から心配が漏れていた。
 だが、ランディはそれを気にせず辺りを見回し続ける。不安に駆られて、無意味だと分かりながらもそうしなければ落ち着かないというように。
『黒き……どうを……れし……者よ』
 その声は徐々にはっきりとしてゆき、明らかに言葉となってランディの耳に届く。ランディはムキになってその主を探すが、辺りには何も見つからない。
「……おい、ランディ。どうした?」
 さすがに事態を重く見たルディが、ランディの肩を両手で掴んだ。だが、ランディはそれに気づいてすらいないように、左右を見回し続ける。

『黒き波動を受け入れし者よ』

「!」
 はっきりと、直接脳裏に聞こえる言葉。
 ランディはルディの手を振り払ってとっさに飛び退く。そのままナノトランサーから斧を取り出して、眼前に構えた。
 一体何が起こったのか、さっぱり分からない一同が、それにざわめいた。
「!? ランディ、どうした!?」
「……誰だ……?」
 ランディは今にも襲いかからんばかりの鋭い目付きで、ダークファルスの像を見据えていた。わずかに腰を落とし、斧を力強く握っている。いつでも飛び出せる状態だった。
 彼は今、極度の緊張状態にある。肩で息をして、触れた者は斬られる――そんな空気を醸し出していた。
『さあ、中へと入れ同胞よ』
「!」
 ランディは、頬を幾筋もの汗が伝うのを感じていた。
「……入れ、だと?」
 向き直って像を見据える。入れと言われても手段が分からない。
 だが、ランディは像へ近づいて歩いていた。無意識にその表面に触れようと、手を伸ばす。
「同胞……だと……?」

『お前には資格がある。だから、扉を開こう――』

 ランディが像に手を触れた瞬間。

 その姿が、消えた。

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