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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe51 想いは星の海を越えて

 午後11:58、モトゥブ。
 フライヤーでダグオラ・シティから北東へ100キロほど移動したアナスタシアたちは、谷の中を進んでいた。
「ひー。怖いねこれ」
「うわ……これはすごいっスね」
 ヴァルキリーが崖下を覗き込んで言うのに、ウィンドが答えた。確かに崖は深く、靄がかっていてどの程度の高さなのかさっぱり分からない。
「えいっ」
「うおおおっ! ……ヴァルキリーさん、何するんっスか! ほんとに落ちるかと思ったじゃないっスか!」
 ヴァルキリーはウィンドの背中を軽く押し、その慌てふためく様子を指を指して笑っていた。
「いいじゃん1回ぐらい」
「……無茶を言わないで欲しいっス」
 怪訝な表情のウィンドを見て、ヴァルキリーはますます笑う。
「現在地点で標高1000メートルぐらいですから、ストレートに落ちればさぞかし気持ち良いかと思いますわ」
「だから、落ちないっスから!」
 アナスタシアが真面目な口調で言うのに、ヴァルキリーはさらに大笑いしている。
「……」
 そんな光景をよそに、メァルが谷を覗き込んで真剣な瞳で見つめていた。それに気づいたアナスタシアが、不思議に思って近づいてゆく。
「姫? どうしたのです?」
「……いや、自然の脅威はすごいものだと思ってのう。どんなに科学文明が進もうとも、このような谷を形成してしまう自然の大きさにはかなわないのじゃ」
 メァルは見つめる視線をそのままに、呟くように言う。
 確かにモトゥブという星はあまりに環境が厳しく、ビーストたちに開拓されたという歴史を持つ。現在でもそのせいで、サテライト・ベルトに居住している者も少なくない。
「確かに、素晴らしいっスね……ちょっと怖いっスけど」
 ウィンドが言って、考えるような表情を見せた。
「自然の大きさに比べたら、人間など小さなものじゃ。今、わらわがそう思っているこの気持ちも、いつかは無に帰す……」
 言ってメァルは顔を上げて歩き出す。ウィンドとすれ違い様に、肩をぽんと叩いて耳元で呟いた。
「……後で後悔せぬようにするんじゃぞ」
 ウィンドは、ばっ、と慌てて振り返り、顔を赤くして驚いてから、複雑な顔になった。明らかに動揺しており、口をぱくぱくさせているが、声は出てこない。
「……っ!」
「? ウィンド、顔赤いよ、どーしたの?」
 ヴァルキリーが、後ろから無邪気な声で聞きながら、ウィンドの顔をひょいと覗きこんだ。数センチの距離でばっちりと目が合ってしまい、ウィンドは慌てて飛び退く。
「うわあぁぁっ!? な、なんでもないっスぅ!」
 ウィンドはいきなり、叫びながら走り出した。そのまま手近な岩壁の向こうへと姿を消してしまう。
 一同は目を丸くしながらその光景を見つめていた。
「……? 変なウィンド」
 ヴァルキリーが不思議そうにして呟くのに、メァルがこらえきれず吹き出す。
「さぁ皆さん、お遊びはそこまでですよ。早く目的地に向かいましょう」
 しれっとそんな事を言うアナスタシアに、メァルはさらに吹き出してしまう。
「バーバラが目撃された地点まで、ここから15キロはあります。道のりは長いですわ」
(……そうですわ、今回こそは必ず……!)
 アナスタシアは無意識に拳を強く握りしめている自分に気づいて、ゆっくりと引きはがすように指を広げてゆく。まるで、力の加減を知らない子供にしてやるように、反対の手を添えて広げさせてゆく。
「面倒だねー。なんか最近歩いてばっかり」
「仕方ないのですわ。この付近はこのような地形ですから、谷風がひどくフライヤーが飛べる状況ではありません」
 ヴァルキリーがぼやくと、アナスタシアがもっともな説明をする。それに苛ついたのか、ヴァルキリーは両手を振り上げて抗議した。
「じゃあ……高い所を飛べばいいじゃん!」
「被雷の危険性が高いですわ」
「じゃ、じゃあ、雲の上を飛べばいいじゃん!」
「気圧の違いは様々なトラブルを招き、燃料消費が激しくなります。――そもそも、フライヤーを着地できるポイントが近くになく、これでも一番近い場所なのですよ」
 ヴァルキリーは口をぱくぱくさせていたが、やがて大きなため息をついて、がっくりと肩を落とす。
「おなかへったぁ……肉ぅ……」
 呟きながらとぼとぼと歩き出す後ろ姿を、アナスタシアは微笑みで見送ってから、自分も歩き出す。
 先に行っていたウィンドにメァルとヴァルキリーがすぐに追いつき、そこへアナスタシアも合流する。
「しかし、よくコナンドラムの連中を見つける事ができたね」
 歩きながら、ヴァルキリーが思い出したように言う。
「ガーディアンズもかなりの人数が居ますから」
「でも、極秘任務っスよね?」
「そうそう。ほとんどのガーディアンはこの事知らないんでしょ? 情報収集にも限界がありそうなもんだけど」
 ウィンドがふと気づいて、不思議そうな声で会話に入ってくる。それに続けて、ヴァルキリーも呟いた。
 彼らの言う通り、コナンドラム追跡、ならびにダークファルス討伐任務は極秘任務だ。ほとんどのガーディアンたちは、そのような任務があることすら知らないままに毎日を送っている。アナスタシアたちも極秘任務に参加する際は、表向きには"長期休暇"だったり"研修旅行"などの名目がつくのだった。
「――お主ら、"日刊ガーディアン"の指名手配犯コーナーを見ておらぬのか?」
 メァルの呆れたような声に、ウィンドとヴァルキリーは顔を見合わせる。それから同時に振り向いて、2人揃って不自然な微笑みを見せる。
「諜報部もそれは考えておりますわ。コナンドラムのキャスト兵や重要人物は、巧みに凶悪な指名手配犯に仕立て上げており、諜報部に情報が集まるよう促しております」
「あー、なるほど。それなら他のガーディアンたちに知られる事なく、ネットワークを利用できるっスね」
「そういう事じゃ。凶悪犯扱いなら、気安く手を出す馬鹿もそうおらんじゃろうしな」
 ウィンドとヴァルキリーもそれに納得して、うんうんと頷く。まるで子供のような素直さだった。
「今回は近くで任務にあたっていた、ガーディアンズのパーティがいたのですわ」
「それで目撃したと?」
「そうですわ。まあ、正確には交戦ですわね」
 メァルががっくりとした表情で、「馬鹿がおる……」と小声で呟く。
「若いガーディアンたちだったせいか、諜報部が止めるのを聞かずに後をつけ、先ほど返り討ちにあってシティに帰還したようです。ですが、お陰様で向こうの戦力も把握できましたわ」
 アナスタシアはゆっくりと息を吐く。この後に続く言葉はどうせ嬉しくないプレゼントだと分かりきっているので、3人は何のリアクションも見せずに、静かに待った。
「バーバラ、それにキャスト兵が15人。武装は主にショットガン。格闘戦を行う者が数名。ただしバーバラに関しては未確認。……彼女たちはこの近くにいるはずです」
 全員が息を飲む。コナンドラムのボス、そして今回の事件の元凶であるバーバラが、すぐ近くにいるのだから。
「それ……ひょっとして、ものすごいチャンスじゃないっスか?」
「まあ落ち着け。向こうの動きが分かるまでは、うかつには動けんじゃろう?」
 いきり立つウィンドをメァルがたしなめる。確かにメァルの言う通りで、目撃された人数がこの場にいる全勢力とは限らない。何より、バーバラ自らこんな所で何をしているのか、その目的は何なのか……疑問はまだ山積みで、減る様子を見せない。
「警戒は怠らないようにしましょう。危険性は高いのですが、確かにチャンスでもあります……ふふふ……ふふふふ……」
 不意にアナスタシアが、ゆっくりとうつむいたと思うと。直後に怪しい笑いを漏らしながら、不気味に微笑む。
「こっ……怖いっス……」
 ウィンドは、アナスタシアが以前レリクスで、恐ろしい言葉を呟いたのを思い出していた。
 ……確かに、彼女からは時々、凶々しく狂気に似た恐ろしさを感じる事がある。言葉だけではなく、雰囲気や空気、わずかな頬の筋肉の動きなど、様々な姿でそれを匂わせていた。
 それは彼女が有能すぎるがために理解できない部分なのか、それとも他の理由があるのか。それはウィンドにはまったく判断できなかった。だから左右にかぶりを振って、恐ろしい考えを追い出す。
「ウィンド、あなたは悔しくないのですか? 以前あれだけ一方的にしてやられたのですわよ?」
 アナスタシアはぐっと詰めよって力説するが、ウィンドは勢いに押され、「う、うん」と曖昧に返事をするだけだった。
「姫、あなたもそう思いませんか?」
「ふむ、確かにそうじゃな。わらわは直接怪我をしたわけでないから、すっかり失念しておったわ。……くくくく……次は見ておれ」
 メァルはにやり、と切れ長の目を細めて冷たく笑う。その冷酷な表情は、思わず見入ってしまうほどに冷たく、厳格で、そして美しい。
「うふ、うふふ……」
 後ろから聞こえる声に振り向くと、ヴァルキリーがうつむいたままで小さく肩を上下させている。まるで今まさに海中から陸に上がった妖怪のようにゆらりと動き、表現し難い表情で微笑んでいた。
 さすがのウィンドも困り顔で、その怪しい生物の動きをとりあえず見守ることにする。
「私、バーバラと直接会った事ないけどさぁ……私を病院送りにした奴のボスなんだよねぇ?」
 ゆっくりと首をもたげるヴァルキリーの笑顔は、あまりにも邪悪すぎた。思わずウィンドは苦笑して後ずさってしまう。
「ふふふ……」
「くくく……」
「うふふ……」
「……何っスかこの空気」
 ウィンドは後ろに退け反りながら、その不敵な共鳴を生温かい視線で見守っていた。
「まぁいいか……無事に帰れれば……」
 彼はため息をつきながら独りごちる。みんな意外と冷静だから、あまり心配しなくても良さそうだ、と思ったのだ。むしろ任務に対してやる気をもってくれているのなら、予定以上に事が早く進むかもしれない。
 それからウィンドは、ふと思い出したようにポケットの中に手を突っ込む。中にあるのは、ヴァルキリーから預かった"共鳴石"。
 結局あれから返す機会がなく、ウィンドは石を預かったままだった。返すと言っても、どうせ「まだまだ甘い」などと言われるのも目に見えている。
「……後で後悔しないように……っスかぁ」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe51 想いは星の海を越えて
 ウィンドはメァルの言葉を思い出しながらぼそりと呟いて、石を目の前に持ってくる。
 それから、若い女性3人とは思えない真っ黒なガールズトークを続けるヴァルキリーの方を見つめて、わずかに目を細めた。

 ……自分のこの想いは、これからどうなるんだろう。
 そもそも、自分がどうしたいのかもよく分からない……。

 ウィンドはかぶりを振って顔を上げた。
 そうだ、考えてもどうにかなるものではないし、慌てる必要も無いだろう。
 何せ、時間はまだまだあるのだ。
「さあ、早く進むっスよ!」
 根拠の無い不安にあえて気づかないふりをして、ウィンドは皆を促すことにした。

「ランチを5人前、お願いします」
 注文を取りに来た店員にそう伝えてから、アルファは全員の顔を見渡した。
 5人は13時前に一通りの情報収集を終えて、再度集まっていた。6人掛けの大きなテーブルに着き、昼食を取りながら報告をしようという所である。
 そう、ここは"下町の導き亭"。ランディが馴染みにしているので、アルファも何度か一緒に来た事があった。アリサはガーディアンズたちに対して理解が深く、任務中だという事を悟ってか、何も言わずにドア付きの小さな個室へと案内してくれた。
「皆さん、どうもお疲れ様でした。ではまず、テイルとファビアとネイ、そちらはどうでした?」
 まず、アルファが口を開いた。それにテイルとファビアが頷く。その様子に気づいたネイが、それを真似して頷いてみせた。
「ああ、午前だけで4人の被害者のキャストと、7人の目撃者と話をしたんだが。いやぁ、驚くほど同じ答えばかりだったよ」
 テイルが両手を開いて、ゆっくりと、しかししっかりとした口調で説明を始める。
「分かってて一応聞きますけど、皆さんはなんと?」
「"いきなり目の前でバラバラになった"」
 その答えにアルファも両手を開いて、ため息をついた。オルハも背もたれに倒れこみながら、苦笑している。
「……ですが、有力な情報がありました。目の前で被害者がバラバラになった後、野次馬の中に不審な人物を目撃した者がいたんです」
 ファビアの声に、皆は吸い込まれるように聞き入る。まるでその真剣な声が、何かの救いとなることを信じているかのように。
「太陽系警察が現場検証を行っている際、野次馬の中に顔に黒い布を巻いていた者がいたそうです。鼻から上をこう……」
 ファビアは掌を下に向けて鼻に充て、上へとゆっくり上げながら、「すっぽりと」と説明した。
「目まで布で覆って、見えないのに野次馬? 変なの」
「その通り。目撃者はそれを不思議に思って、覚えていたようです」
 オルハの呟きに答えてから、ファビアは続ける。
「オルハ、覚えがありませんか?」
「ほえ? 何が?」
「その不審者は女性で、肩を露出した上着にボディラインのはっきりと出るパンツ……それに、長い紅の髪だったそうです」
 ガタン、と椅子が鳴った。オルハは、思わず立ち上がってしまっていた。
「まさか……トモエ!?」
「外見情報から察するに、おそらく。……同じような状況で、彼女の姿が何度も目撃されています。偶然にしてはできすぎてはいませんか?」
「あのおばさん……しばらくおとなしいと思ってたら!」
 いきり立つオルハに、ファビアは複雑な表情で笑ってみせた。
(……少なくとも、元気にはなったんですね。良かった……)
 そう、以前の戦いのことを思い出してしまっていた。手元さえ狂わなければ、彼女の光を奪ってしまうことは無かったろうに。
 その彼女が外で目撃されているという情報は、ファビアの心を幾分か軽くしてくれた。
「ところで、教団の方はどうだったんですか?」
 ファビアが両手を前に出してオルハをたしなめながら、アルファの方を向いて話題を切り替える。
「んー、こちらはあまり直接的に有益な情報が無かったのよね。……でも、その話を聞いてからだと、とても意味のある情報だったと分かったわ」
 アルファが説明するのに、オルハがにやにや笑いながら席について、腕を組んでから大袈裟に頷いてみせる。それを見て、ファビアとテイルが顔を見合わせて首をかしげた。ネイは分かっていないのだろうが、そんなファビアの真似をする。
「実はさ、先月に自警団の再編成が行われてたんだよね〜」
「そう。以前に大規模な募集をかけてから初めて、再編成が行われたの。引き続き雇用されている者もいれば、任を解かれた者もいるわ」
 オルハの言葉に続いて、アルファが補足する。それでファビアはピンと来たらしく、首を傾けたかと思うとすぐに「ああ」と呟いて、それから口を開いた。
「……なるほど、ダーククロウのメンバーは、教団を去ったのですね?」
「あらお見事、その通り」
 どうやら大正解だったようだ、アルファは少し驚いてみせてから、微笑む。
「そうよ、ダーククロウはその際に教団自警団を辞めているのよ」
「……解せませんね。彼らが教団に対して未練がないのはともかく、コナンドラムの思想に従っているようにも見えませんが……彼らの目的は?」
「そこまでは分からないけど、今はシコン諸島を根城にしているらしい、という所までは掴んだわ」
 シコン諸島とは、オウトク・シティより南西に向かった個所にある、大小様々な島がある区域である。大きなシティが存在しないため生活人口はあまり多くなく、今なお大きな開発は行われていない。
 確かに、人目を忍ぶにはちょうど良い場所だった。
「お待たせ……しました……」
 皆が押し黙っていると、ノックする音が聞こえて店員の声が聞こえた。ドアが開くと、大きな丸盆にミソスープとゲンマイ、それに漬物などを乗せた、赤い髪をセミロングにした若いキャスト女性が立っていた。生体パーツを多様したボディはパワー型には見えないが、その盆を片腕で支えているのだから、まったく大したものだ。
 彼女はその代わりに、愛想はどこかに置いてきてしまったらしい。無愛想にどん、と盆を置くと、全員に配らずに目の前に置いて、無言のままで立ち去ろうとする。終始表情は変わらなかった。
「ったく、ミュー。接客も仕事のうちだと何度言えば分かるんだい?」
 ミューの後ろに立って居たのはアリサだった。汗だくで大きな前掛けをしている辺り、今日は厨房で調理をしているらしい。左手にはミューと同じように大盆を持っているが、彼女が持つと盆がとても軽く見えるから不思議なものである。
「……すいません……でした……」
 元気が無いどころか生気が無いと表現した方がいいと思われる声で、言う――というより呟いて、ミューはそのまま厨房へと戻って行った。
「すまないね、ちょっと変わった子なんだよ。許してやっとくれ」
 アリサは目の前に片手を出して謝罪を表現してから、盆をテーブルに置いた。それから乗っていた魚の刺し身を手際良く配ると、盆を脇に挟んで中腰になる。
「いえいえ、全然気にしていないですから。――でも、あの方はけっこう長い事働いていますよね」
 皆は刺し身に気を取られているが、アルファは自然に気遣って、アリサに声をかける。
「なかなかいい新人が来ないのさ。うちの大盆に10キロ以上乗せて、片手で持てる奴しか採用しないから」
「……その時点で、ハードルが高すぎる気がします」
 ファビアがいぶかしげな顔で呟いて、ずり落ちるゴーグルを指で押し上げる。ネイがきゃっきゃっと「もちたい!」と飛びつくので、アリサはその盆を持たせてやる。
「にしてもアルファ、来るのはけっこう久しぶりだね。"便りが無いのは元気な知らせ"とは言うけれどね、男でもできたのかい?」
「まさか! そんな暇ありませんよ。ずっと本部にカンヅメになっていまして……家に帰れないどころか、任務で外に出るのも結構久しぶりです」
 アリサが茶化すのにアルファは苦笑して答える。それにオルハは何がおかしいのかけらけら笑いながら、
「そうだよ、先生に彼氏できても、生活指導とかしちゃうからすぐ逃げちゃうって」
「……そこは力説する部分じゃないです。あと、理由も勝手に作らないでください」
 オルハはふへへ〜とお茶目に笑って、舌をぺろりと出しておどけて見せた。それにアルファは、半目でじとつく視線を浴びせてやる。
「ああ、そうだ。そういえば先週、ランディが来たよ。あいつも忙しいみたいだね。……ところでさ、ちょっと聞きたいんだけど」
 そこでアリサが言葉を切る。不思議に思って、皆がその続きを待った。
「あいつ、最近何かあったか?」
 その声に、皆は一同の顔を見回す。その視線は明らかに、知ってる人がいないか探す視線だった。
 だが、誰もその期待には答えられないと判断したらしい。視線をまたアリサに集めて、言葉の続きを待つことにする。
「最近明らかに変わったよ、雰囲気が。以前は焦燥感や迷いがあって、足元が安定してなかった。最近は何かに目覚めたようにどんと構えてる。気づいてないのかい?」
「ああ、もしかしたら……ですが」
 ファビアが控えめに言って、腕を組み直してから続けた。
「先日の任務で、ずっと忘れていた過去の記憶を、完全に思い出したようです」
「過去の事件……?」
「ええ、非常に奇妙で衝撃的な事件だと聞いています、詳しくは本人に聞いて欲しいのですが……とにかく彼は、その事件で"ふっ切れた"ようですね」
 なるほどね、とアリサは呟いて、噛みしめるように頷く。
「ああ、そういえばもう1つあるな」
 そこでテイルが思い出したように、視線を上げながら言った。
「彼はどうやら、想い人がいるようだな。守るために強くなりたいのではないかな?」
(……)
 その言葉にオルハは、まるで電流でも流れたかのように、一瞬だが僅かに身震いした。それから、きゅっと軽く唇を噛んで視線を落とす。だが、それに気づいた者は誰もいなかった。
「なるほどね、あいつも成長してるんだな。うんうん、良かった良かった」
 豪快な笑顔で言って、アリサは笑う。
「ありがとよ、食事の邪魔をして悪かったね。……さあ、ネイ。盆を返しとくれ」
「うん! ねい、おっきくなったらここではたらく!」
「お、ネイはビーストだし、将来に期待できそうだね。ありがとよ」
 アリサはネイの頭を、豪快にわっしゃわっしゃと撫でまわしてやる。ネイはまるで投げたフリスピーを取ってきた犬のようにご満悦で、されるがままに撫でられていた。
「じゃあ、ゆっくりしていくんだよ」
「ええ、ありがとうございます」
 アリサは手をひらひらさせながら、部屋を出てドアを閉めた。
「それじゃあ、とりあえず食事を済ませちゃいましょうか」
 アルファが言いながら手を合わせると、皆もそれに習って食事を始めてゆく。
「偉大なる神よ、フォトンを捧げし者よ……」
「……みよ……げしも……」
 ファビアが祈りを捧げ始めると、それに合わせてネイも祈り始める。不思議な光景なのだが、みんな慣れているので気にせず食事を始めていた。
「……ボク、刺身ってあんまり得意じゃないんだよね」
「好き嫌いしていると大きくなれませんよ」
 オルハが口を尖らせて呟くと、アルファが先生らしい口調で答える。オルハはぷぅと頬を膨らませてから、両胸を包み込むように両手を当てると、渋々と箸をつけ始めた。
「それでは頂きましょう」
「いただきます!」
 祈りが終わって、ファビアとネイも食事を始める。
「……そういえば」
 ファビアが、思い出したように口を開いた。
「テイル、普通の食事で良かったのですか?」
 確かに、キャストにはカズンのように、食事は固形物やタブレット、さらには燃料類で済ます物が多い。"食事を楽しむ"という概念すら、持ち合わせていない者が大多数だった。
「あら、そういえばそうね」
 アルファが呟いた。ランチを注文したのは彼女だが、どうやらキャストの事情は失念していたらしい。
「ああ。私は消化器官を備えているので、食事はヒューマンたちと同じものを頂いている」
 へぇ、と皆が驚いた声をあげる。
「妻も私も料理が好きでね。時間がある時は私も作ったりするな」
「そうなんですか。ちなみに、得意料理は何ですか?」
「うーん、なんでも作るが……一番得意なのはニク・ジャガだな」
 その返答に一同が大いに湧く。ニク・ジャガといえば、動物の肉や野菜などをあっさりと甘辛く煮付けたもので、いわば"母親の味"の代表格とも言える食べ物だ。それをテイルが作れて、なおかつ得意料理であるという事実は、声を大にして言う価値があることだったといえよう。
「最近はモトゥブ料理に凝っていてね。あの乱暴かつクセのある食材をいかにまとめるか、というのがなかなか面白いと思うが、皆はどうだい?」
「……マニアックすぎますね」
 全員がきょとんとした表情の中で、その意味が分かったファビアだけが、目を細めて呟いていた。

 レリクスの中は、情報通り落ち着いたものだった。
 明らかに長い期間放置されており、これといって目立つものは何も無い。経年劣化を感じさせる空き缶や、迷いこんだ原生動物のものと思える白骨など、まったく人の手が入った形跡が無かった。
 肝心の調査についても、めぼしい物はすでに調査隊が回収しており、6人は気楽に進んでいたのだった。
「……そういえば、爺さんは元気か?」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe51 想いは星の海を越えて
 不意にランディが、ルディに聞いた。
「ん? ああ、じっちゃんは殺しても死なねェよ」
 さらりと、ルディもとんでもない悪態をつく。
「まぁでも、前に比べて元気になったかな? 若い者たちの鍛錬に顔を出すようになったし、なんというか……何かと外に出るようになったな」
「おお、そりゃあ良かったじゃねぇか」
「ああ、でもなあ、ちょっと心配なンだよなァ」
 ルディがうつむきながら、呟くように言う。ランディは不思議に思ってわずかに首を傾けた。……あのご老体が元気になってやる気を出しているのに、何か問題があるのだろうか?
「あまりにも元気過ぎてね。この間も"新しいネイムレスの血筋を作ろうか"とか言いだしてさ……ッたく、いい年をして何考えてンだか」
 ランディはその言葉の意味がすぐ分かって、危うく転びかけた。
「あれ? ヒューマンって、そんなに高齢でも子供をもうける事ができたっけ?」
 その会話を聞いていたアンドリューが後ろから、日常に数多くある覆せない常識を覆され、驚いた声で疑問形という、不自然な声で言う。
 そう、"血筋を作る"、というのはすなわち、子供をもうけるという意味だ。
 ルディはもう一度、思い出したように大きなため息をついてみせる。その背中ににランディは苦笑しながら、なるべく穏やかな声を意識して口を開いた。
「まぁまぁ、今までずっと暗かったんだろ? 元気になっただけでいいじゃねぇか。元老院との話もうまくまとめたんだろ?」
「ああ。熱意と勢いも凄かったが、何せ先代のネイムレスなわけだ、元老院とは持ちつ持たれつだろ。その辺を巧みに突いて、うまくまとめちまった。もちろん俺の出番はまったく無し、っと。……正直さ、あれだけ凄い人だなんて、今までまったく知らなかったンだよなぁ……。ずっと見てたはずなのに……」
 ふ、と視線を宙に向けながら、ルディは静かに言う。最後の一言はランディではなく、明らかに自分に向けた呟きだった。
 ランディはそれにかける言葉を頭の中で探すが、うまい言葉が見つからない。なので、考えるのを3秒でやめる。
「はっは! お前もまだまだ、ひよっ子ってことだな!」
 ランディは、ばしばし、と豪快に背中を叩いてから、にやけた笑顔で肩をがっしりと組んで、悪戯心たっぷりの言葉をくれてやることにしたのだった。
「! ランディ、てめェ……!」
「……ったく、なぁにシケた面してやがんだよ。俺の知ってるルディは、もっと前向きな奴だったぜ?」
「……まァな、俺だって鍛練や勉強は欠かしてねェよ。特に、じっちゃんが部隊の指導をやり始めたお陰で、若いモンたちの戦闘力が全体的に底上げされてらァ。俺もウカウカしてられねェ」
 ルディは言いながら無意識に剣の柄に手をかける。顔は笑っていたが、言葉はどこか鋭く、磨かれた鋭利な刃物に似た真剣さを匂わせた。
「……そういえばルディ、お前は剣しか使わないのか?」
「ん? いや、飛刃も使うぜ。便利なんだ、これ」
 言いながらルディは、ナノトランサーから"くの字"に折れ曲がった棒状のものを取り出す。その先には柄がついており、さしずめ持ち手の着いたブーメランのように見える。これが"飛刃"、もしくは"スライサー"と呼ばれる武器だった。
「俺、銃は苦手だからな。中距離や遠距離ではこいつを使う。最悪、こいつでもぶん殴れるしな」
 飛刃は、戦闘時には棒状の部分にフォトンを蓄える。振りかざすとそのフォトンを刃にして飛ばす武器だった。振りかざす角度によって刃をコントロールする事ができ、飛び道具ではあるが、銃より投てきに近い。
 ……ちなみにもちろんだが、これで直接殴りつけてもそれほどの打撃は与えられないのは言うまでもない。与えるられるのは、予想外のサプライズと仲間の失笑ぐらいだろう。
「ま、ランディもたまにゃこういうの使ってみろよ。意外といけるかもしれねェぜ?」
 ルディはスライサーをくるくると指で回してから、ナノトランサーに放り込んだ。ランディは「俺にゃムリムリ」と言わんばかりに、目を細めて眼前で手をぱたぱたと左右に振った。
「スライサーは制御が慣れるまで難しいよねえ」
 ふと、それを聞いていたアンドリューが声をかける。
「そっか、いつも銃ばかりだもンな」
 なるほど、と頷いてランディが言う。それにルディも頷いた。
「うん。男は黙ってショットガンだよ」
「……まったく、7年前から同じ事言ってるぜ」
 前を歩いていたシロッソが、振り向きもせずにぶっきらぼうに言う。
「7年! 付き合いが長いのですねぇ」
「……あのさ、お嬢。あんたとラファエルの付き合いの方がもっと長いと思うんだが」
 アンドリューの言葉にエレナが驚きながら声をあげるのに、シロッソはいつものように冷静な声で、静かにツッコんだ。
「そうだ。我はエレナ様のおしめを代えた事だってあ……ぶは」
 ラファエルは、最後まで言葉を発する事ができなかった。
 理由は簡単である。
 いきなりエレナが飛んで、ラファエルの顔面に飛びつき、両足で挟みこんだからだ。
「――!」
 完全に首を足で絞めてから、後ろへ体を倒しその重みに上体が傾いた瞬間を狙って、一気にひっこ抜く。ラファエルの足が地面から離れだと思うとぐるりと回転し、そのまま前頂部から地面に叩きつけられた。
「ラファエル! そんな昔の話をしないでください、恥ずかしいじゃないですか!」
「人前で、スカート履いてるのにフランケンシュタイナーかます方が、恥ずかしいと思うが」
 シロッソが、静かにツッコんだ。
「くう……っ、エレナ様、立派になられましたな。危うくメインカメラが壊れるかと思いました」
「それは物理的なのか視覚的なのか、むしろ俺はそっちが知りたい」
 またもシロッソがツッコむ。まるで台本があるかのように、息のあったやりとりがあまりにも秀逸すぎた。
 そのやりとりにアンドリューがぷっと吹き出す。
「あ〜、シロさんの言ってた意味がよく分かったよ」
「だろ? ここにいると飽きない」
 アンドリューが挙げた手を、シロッソはぱん、とハイタッチで叩いてみせた。
「……まあ、オルハとは気が合いそうだな」
 何を言っていいか分からなかったランディが、ここでようやく口を挟む。無駄に旺盛な行動力が、よく似ていると思ったのだ。
「――っと、そろそろだぜ」
 少し先行していたルディが、立ち止まって振り向きながら、静かに言った。わいわいとやりながら歩いているうちに、気づけば最深部にまで到着してしまったようだ。
「さ、ピクニックは終わりだ。正面の扉を抜ければ、最後の部屋だ」
 ルディが言って、進行方向を指さした。そこには高さ5メートルはある、巨大な両開きの扉がある。
「……でけぇな。カギとかかかってないよな」
 ランディが素直な感想を呟きながら、そのまま近づいてゆく。すでに調査隊が入っていることもあり、警戒心はどこかに置いてきたらしい。
「調査隊がすでに開けているようです」
 確かに、ラファエルの言う通り扉は少しだけ開いており、隙間から暗闇が覗き込んでいた。
「んじゃま、早速お邪魔させてもらおうかね」
 ランディたちはドアに近寄り、全員で押す。さすがに6人もいれば、これだけ大きな扉でも開くのはさほど苦労しない。
 ぎぎぎ、と蝶番が気持ちの悪い音をあげて、扉がゆっくりと開いてゆく。中は当然明りなどなく、真っ暗だ。シロッソが杖の先にテクニックの炎を灯らせ、部屋が明るくなってゆくが、部屋が広くてまだ足りない。
「お嬢、もひとつ」
「はい」
 エレナがシロッソに答えて、ナノトランサーから全長30センチほどの機械を取り出す。猫のような形状のそれは"シャト"と呼ばれるもので、エレナの肩の上にふわふわと宙に浮かんでいた。
「……なんだそれ?」
 ランディがそれを指さしながら、不思議そうに聞く。テクニックに縁の無い彼にとって、未知の物体だった。
「これは"マドゥーグ"ですよ。杖と同じように、テクニックの媒体として使います。通称"マグ"とも呼びますね」
 マドゥーグは主にフォースに愛用される、テクニック媒体のひとつだった。その形状には様々な種類があり、まるでペットが主人を慕ってついてくるようにも見えるため、人気の高い武器である。
 装備開発部が旧テクノロジーを参考にして開発したとも言われているが、その真偽は定かではなかった。
「よいしょ、っと」
 説明を終えると、エレナもマドゥーグに明かりを灯す。2つの明かりで部屋が照らし出され、やっと全体が見えるようになった。
「……!」
 部屋の奥に浮かび上がる、影。
 その大きさと姿に、一同は上を見上げたまま、息を飲んだ。

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