還らざる半世紀の終りに > universe47 君に似てるんだ
<< universe46

PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe47 君に似てるんだ

「モトゥブにこんな道があったとはなあ……」
 ランディが辺りを見渡して呟いた。小さな明りがランディの周りをふわふわと飛び、暗い坑内を僅かに照らし出す。ガーディアンズの装備の1つ、"フォトンフラッシュライト"と言われるもので、両手を塞がずに辺りを照らし出せるものであった。
 地下1000メートルぐらいは潜っただろうか、ここまで来ると地質が変わるらしい。壁は鋭く硬質な岩となり、高い天井の広い洞穴が続いている。
 3人は、モトゥブの裏道からゴミ捨て場へと向かっていた。岩の間をすり抜けたり、急な段差を越えたりと道なき道を進んでいると、高さ300メートル程度の吹き抜けにぶつかった。念の為、危険が無いかランディが先行して先に降りたのである。
「特に問題無いようだな……OKだ、降りて来てくれ」
 端末に言うと、しばらくしてアナスタシアとパティの姿が上から降りてきた。腕輪から伸びるワイヤーを使って、落下速度を調節しながら降りてくる。
「なんだか不気味な所ですわね」
「ああ……この辺は何もないし生物もいない。まるで墓地だな」
 2人が地面に降り立ち、アナスタシアが言うのにランディは渋い口調で返した。
「ここからもう少し行きますと、ゴミ捨て場に到着いたします」
「……もっとまともな道は無かったのか?」
 パティの声に、ランディは思った事を素直に聞いた。
「もともとこの辺りはローグスが隠れ家を作ったりするのに、非公式に開拓されている場所ですから。それに……」
 ちらりとランディを横目に見て、続ける。
「ワタクシ1人であればもっと選択肢があるのですが……生憎、マスターは特別大きいですから」
 悪びれる様子の無いその言葉に、アナスタシアが吹き出した。笑いを抑えようとするが、それがむしろ悪循環となりまた吹き出すというのを何度か繰り返す。
「道無き道ばかりですので、いつ崩れるやも分かりませんから、できるだけ安全な道というのも考慮しております。ぶっちゃけ一番手軽なのは、ゴミ捨て場の上層から飛び降りる事ですね。2キロほど落下してうまく着地できれば、約20秒ほどでたどり着けますが?」
「分かった分かった、俺が悪かった。先を急ごう」
 冷静に話すパティの言葉に焦るランディを見て、アナスタシアはまた吹き出す。気まずそうなランディをそのままに、2人は奥へ向かって歩き出した。慌ててランディが追いかける。
「そういえば、アナスタシアさんはキャストなのに小さいですね。機能性を追及した結果ですか?」
 不意にパティが口を開いた。アナスタシアはあら、と驚いたような顔をしてから、笑顔になって答える。
「よくお分かりですね、その通りですわ。機敏な動きをするには物理的重量は不要ですから」
「それはよく分かります、ワタクシたちもそうですから。邪魔にならないジャストフィットなサイズ、それでいて戦闘も行える高性能サポートメカ、それがパートナーマシナリーです!」
「そうです。物事は何でも、巨大な物より小型化をする方が大変なのですから」
 わいわい盛り上がる2人の言葉に、ランディが気まずそうにずんずん先を歩く。

 ……なんだ、この疎外感は……。

 ランディは後ろをついてゆきながら、どうしようもないこの空気に戸惑っていた。
「なのに、マスターったらいつもワタクシを軽々しく扱うのですよ。片手で掴み上げて頭上で回して投げつけるわ、必殺技の練習とか言ってなんとかバスターをかけるわ、額に肉と書くわ……ほんともう、困ってしまいます」
「まあまあ、そう言わずに。ランディも立派なガーディアンですわ、しっかりとサポートしてあげてください」
 アナスタシアのその声に、ランディの表情が意気揚々とする。まさか、フォローされるとはランディは思ってもいなかったのだ。
「立派? ぶっちゃけどこがですか?」
 それはパティも同じようで、少し驚いてからイラついたような口調でばっさりと言い放つ。
「ちょっ、パティ」
 その言葉に、ランディが驚いて言葉に詰まる。だがその様子を気にせず、アナスタシアは口を開いた。
「そうですね……前線拡大能力はかなりのものですわよ。部隊の壁から斥候まで何でもおまかせですわね。後は、任務遂行に対する責任感と精神力が高い。それは誰もかないませんわ」
 アナスタシアが微笑んで言うのを、2人は黙って聞いていた。パティはまるで叱られてうなだれたように、少し下を見つめている。
「……それって……」
 それからパティはゆっくりと口を開いて、ぼそりと言葉を漏らした。
「……パティ?」
 うつむいたまま動かないパティの様子に、ランディは恐る恐る声をかける。
「……それって、遠回しに単純バカって言ってません?」
「台無しっ!?」
 きっと顔を上げて言うパティに、ランディは思わず声をあげる。
「まぁ、確かに直情的すぎるとは思いますが……」
「そこフォローする所じゃね!?」
 ちょっと首を傾げて、アナスタシアが困ったような顔で言うのにも、ランディは思わず声をあげる。
「ですが、ランディが立派なガーディアンである事に変わりはありませんわ?」
 2人を見つめて、アナスタシアは微笑んで言った。声の僅かな抑揚が、その言葉に信憑性を与える。
 パティはしばらく視線を落としたままだったが、不意に振り向いて、拳を握りしめたまま口を開いた。
「……では、アナスタシア様っ」
「はい?」
 妙に真剣な強い口調でパティが言うのに、アナスタシアは微笑んで頷く。
「是非、うちのマスターと、けっこ……もがっ」
 ランディは慌ててその口を覆い、そのまま小脇に抱えて物影に駆け込む。それからパティをどん、と置いて両肩に手を置き、口を開いた。
「ちょっと待て! おまえ今なんて言おうとした!?」
「……ワタクシは、お2人の中を取り持とうと」
「それは分かるが、なんでそんなに直球勝負なんだよ!? なんかこう、うまい事盛り上げたりだとかやり方はいろいろあるだろ!」
「だって……ぶっちゃけ、マスターのマシナリーですよ? そんな器用な事ができるはずもないじゃないですか」
 ランディは、あー、と声を漏らしてから、がっくりと頭を垂れて両手で抱える。ごもっともだ、返す言葉が無い。
 だが、これでは同行してもらった意味がない。ランディはゆっくりとため息をついてから、口を開いた。
「とにかく、これ以上余計な事は言わないでいい。分かったな!」
「ちぇ……」
 ランディはしょぼくれたパティを連れて、不自然な笑顔を作りながらアナスタシアの元に戻ってくる。
「? どうしたのですか?」
「いや、パティがちょっと暴走しかけてた。危ない危ない。あっはっは」
「あら、それは一度メンテナンスをした方が良さそうですわね」
「そうだな、こいつ頭の中がおかしいから……いたっ!」
 ランディが痛みに驚いて足元を見ると、パティが頬をふくらませながら、つま先をぐりぐりと踏みつけていた。
「なんでもありません。行きましょう、アナスタシア様?」
 にっこりと微笑みながら言うパティを見ながら、ランディはどっぷりと後悔していた。

「かなり広い場所ですわね……」
 遠目に見える光景に、アナスタシアはもっともな意見をこぼした。
「あれが"ゴミ捨て場"だ。モトゥブの吐きだめさ」
 ランディが鼻と口を押さえて、吐き捨てるように言う。複雑な感情を持っているのだ、当然の反応だった。
 階段状のくねくねと曲がった道が長く続いてから、急に広い場所に出る。その広い場所こそがゴミを投棄する場所で、ものすごい悪臭にアナスタシアも眉根をひそめて不快な顔をする。
「では、とっとと剣を回収して戻りましょうか」
 パティは疑似嗅覚を持っていないため、そんな2人を不思議そうに見ながら、どんどん歩いて行く。その後に2人が続いた。
 大きなドーム状の屋根を持つ部屋には、ゴミが山になっていた。投棄されたゴミはまだ新しい物もあり、腐敗臭を漂わせている。
「……ずっと、こんな場所で生活していたのですか」
 不意に、呟くようにアナスタシアが言った。ランディはちらりと目線をやってから、口を開く。
「まあな。物心ついた時から居たから、正直違和感はあまりない」
 なるほど、ガイークの酒場のような混沌とした場所を好むのも分かる、とアナスタシアは思う。彼は人間の飾らない欲望が日常だった環境で育ったのだ。つまり、彼にとっての"シンプル"とはこういう事だと。
「俺がねぐらに使ってたのはこっちだ」
 ランディが言いながら、歩き出す。脇道を1本入ると、道は岩の隙間に強引に曲がりくねって伸びており、蟻の巣のように分岐している。だがランディは、まるで自宅を歩くかのように迷いなく進んでいった。
 ところが道に沿って行くとすぐ、道は大きな壁で完全にふさがれていた。
「……マスターの嘘つき」
「違う、ここは地盤もそれほど強固じゃない上に無理やり道を広げてるもんだから、道が減ったり増えたりしてんだ。……まあ、こっちが無理なら……」
 ランディは、呟きながら来た道を戻ってゆく。それからいくつかの横道を見送ってから、
「ここだ。こっちから迂回して行けるはず」
「よく、分かりますねえ……」
「……ワタクシの地図とも、まったく一致しませんのに……」
 アナスタシアが素直な感想を口にするのに、パティが同意した。
「ん? ああ。まあ、ずっと住んでた所だしな」
 ランディは別に驕る様子もなく、しれっと答える。何事も無かったようにすたすたと歩いて、いくつか現れた分かれ道を迷う事なく進んで行った。
「……着いた。ここだ」
 道は行き止まり、直径2メートルほどの空間があった。中には大量のゴミが散らばっており、そのほとんどは風化でかさかさになっている。空間の端にひときわ大きな山があり、高さ1メートルほどのゴミが積みあがっていた。
 ランディはそのゴミ山に手を突っ込み、がさがさとまさぐる。そして引き抜くと、その手には1本の剣が持たれていた。
「これだ」
 決して特別飾り立てられているわけでもなく、何か特別な光をまとっているわけでもない。シンプルな装飾の一振りの剣だった。剣身はわずかに赤く光る金属でできており、灯りの少ないここでも、僅かな光を反射して、その存在感を示している。
「……」
 アナスタシアは思わず、一歩踏み出していた。理由はよく分からない。その剣身に吸い込まれそうになった、という表現が一番ふさわしいのかもしれない。
「……持ってみても?」
 彼女の戸惑いながらの問いに、ランディは頷いて剣を渡した。
 アナスタシアはランディからその剣を受け取って、まじまじと見つめる。剣身は1メートル程度で、片手でも両手でも扱えるバスタードソードほどのサイズだった。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe47 君に似てるんだ
 軽く上段から振りおろしてみて、そのまま返す刃で横へと払う。
(……まさか……)
 アナスタシアは今、錯覚していた。この剣は、自分のために作られたのではないかと。それほどにその存在は違和感がなく、アナスタシアの手に収まっていたからだ。
「……」
 ランディが懐かしいものを見るように、目を細めてそれを見つめていた。

 ……やはり、似ている。あの名も無き少女に。
 こうやって剣を持つと、本人だと思えてしまうぐらいに。

「……」
 アナスタシアは不思議に思いながらも、自分の要望に剣が答えてくれているかのような錯覚に戸惑う。
 まるで手のひらに吸いついているかのように……いや、手が剣になっているかのように、振るう事ができる。

 ……なんだろう、この感覚。自分ではない自分が、求めているような錯覚。

「……」
 それから、ゆっくりとかぶりを振ってから、アナスタシアは動きを止めた。ずっとこの感覚に漂っていたいが、そういうわけにもいかないからだ。
「……似てる」
「?」
 どこか呆けたような顔で見つめながら、ランディが呟く。それは誰かに意思を伝えるための言葉ではなく、漏れてきた感情をただ吐き出したような、そんな呟きだった。
 その言葉の真意が分からず、アナスタシアはランディを見つめ返す。
「アナスタシアは、あの少女に似てる」
「……あなたの前でダークファルスと戦ったという、"名も無き少女"ですか?」
「ああ。その剣を持つと、ますます似てる」
 少し照れくさいような表情でランディは言った。それから、静かに言葉を紡ぎ出す。
「……俺さ、あんたに初めて会った時から、どこかで会ったような気がしてたんだ」
 その言葉に、アナスタシアははっとなる。ただ聞いているとどこかの安物ドラマのような台詞だったが、それはアナスタシアの心に響いたようだ。彼女もまた、驚いた顔でランディを見つめ返した。
「……ランディ、あなたにとってその方はとても大事だったのでしょうね」
「大事? どうなんだろうな、会ってすぐ彼女は死んだから……」
「時間は関係ありませんわ。要は心に残ったのか残らなかったのか……それだけのこと」
「むしろ……助けられなかったトラウマだけが残っているのかもしれねぇな」
 少しうつむいて、ランディは悲しそうに笑う。それは自嘲的な笑いで、むしろ自分を責めているかのようにも見えた。
「そんな事はありませんわ……きっと、彼女は安らかに逝けたと思います」
 アナスタシアの言葉に少し驚いたような目で、ランディは顔を上げる。
「彼女はずっと1人で戦ってきて、常に孤独と戦っていたのです。しかし、最期の時に彼女は孤独ではなかった。様々なものが、未来ある若者に受け継がれたのですから」
 ためらいなく、一息でアナスタシアは言い切る。その言葉は説得力を持ち、ランディははっとなって彼女を見つめ返した。
「……」
「ランディ、あなたが暗い顔をしていては彼女は浮かばれません。彼女は生きています」
 ぐっ、と不意にアナスタシアが詰め寄った。ランディの胸に右手の甲をどんと当てて、見上げながら続ける。
「あなたが彼女を覚えている限り、彼女はここに生き続けているんです」
「……」
 ランディは言葉に詰まった。
 寸分も迷いの無い、彼女の言葉に。

 ……なぜ彼女は、まるで見てきたかのように言うんだ? 
 まるで知っているかのように語るんだ?

「……あんたもなかなか言うな」
「あら。あなたこそ」
 "お手上げだ"とでも言わんばかりのランディに、微笑みながらアナスタシアは応えた。すでに、ランディの自嘲は無くなっていた。
 その光景をじーっと見ていたパティが、2人の顔を交互に見る。それから、おずおずと口を開いた。
「あのー、任務も達成したわけだし、そろそろ帰りません?」
(……ほんとだ、空気読めない所まで俺そっくりだ)
 ランディは今更ながらにその現実に気づき、素直に驚いた。
「……ですわね」
 ランディの思惑を知らず、アナスタシアは静かに答える。
 それから、ナノトランサーから用意してきた布を取り出して剣をぐるぐると巻いた。それを抱きしめるように持ってから、続けた。
「では、戻りましょうか」

「このアームなんていいんじゃないか? ごっつくて」
 言いながらランディが指さす方向を見て、アナスタシアとパティがいぶかしげな眼つきで見つめた。彼の指はショルダーががっちりとした、太い腕のパーツを指さしている。
「……じょ、冗談だぜ?」
「あまり笑えませんわね」
 ランディがたじろぎながら気まずそうに言うのに、アナスタシアは少し憮然としながら答えた。
 回収した剣をガーディアンズ本部に預けて解析を依頼してから、3人はクライズシティのG'S:STYLEで買い物をしていた。
 とはいえ娯楽目的などではなく、アナスタシアのパーツを見ているのである。ボディのパワーアップが必須だと考えていたので、どうせなら皆で見た方がいいのではないか、という事で話がまとまったのだった。
 余談ではあるが、買い物に行くというアナスタシアに同行を申し出たのは、パティが気を利かせたのであったという事を、彼女の名誉のために付け加えておく。
「マスター、この流れでその冗談はないです。ぶっちゃけ、空気読んだ方がいいですよ」
(……お前に言われたくない)
 パティが耳元で小声で言うのに、ランディは素直な感想を心の中で言う。
「……すまん。沈黙に耐えきれなかった」
 だが、パティの言う事ももっともなので、ランディは素直に謝る。
 正直、パーツを見てまわるアナスタシアの真剣味に、ついていけなかったというのもある。かれこれ、1時間以上は店内をうろついている。見るものが無いランディにとって、そろそろ疲れてきているのもまた事実だった。
「どんなのがいいか、俺には正直分からないんだよな。なあアナスタシア、どんなパーツがいいんだ?」
「……出力は最低でも25%アップ、それでいて、機動性の減少は15%未満に抑えたい所ですわね」
 ランディは腕を組みながら、ううんと唸る。キャストのパーツの仕組みは最低限しか知らないが、なかなか難しいだろうと思ったからだ。
 もちろんだが、何かを強化すれば、何かが弱体化する。至って当たり前の事だからだ。
 そもそも、アナスタシア愛用の"エラシエルアーム"は、独自のカスタマイズを施されている。なかなかそれに代わる物は難しいだろうとランディは思った。
「なかなか難しいな」
「それは分かっています。ですが、今後の戦いを乗り越えるには、それぐらいのパワーアップが必要と考えております」
「ふむ……」
 ランディは顎に手を当てて考える。確かに、アナスタシアの言う事ももっともだ。わざわざパーツを換装するぐらいなのだから、メリットが無ければする必要がない。
「……とりあえず、店員に相談してみないか? 何かヒントになるかもしれないし。……おーい」
 ランディの声に、若い男性の店員がやってくる。アナスタシアが、店員に要望を簡潔に伝えた。
「なるほど……」
 店員が腕を組みながら店内を見渡し、思案に暮れる。
「それでしたら、これなどはいかがでしょう?」
 言いながら店員は、ディスプレイしてある細身のアームを手にとって、アナスタシアに渡す。
「……これは軽いですわね」
「これが最近発売された最新型のアームパーツ、"ヒューキャシアーム"です。今までのアームより平均12%の軽量化、ならびに122%の出力を確保しております」
「ふむ……」
 くるくると様々な角度から見渡しながら、アナスタシアは難しい顔をする。
「機動性はどうなっておりますの?」
「お客さまのエラシエルアームに比べれば劣りますが、それでも86%は確保しています」
「悪くないんじゃねぇか?」
 ここでランディが口を挟む。それならば、アナスタシアの要望に充分応えていると思ったからだ。だが、彼女は渋い顔でアームを見つめたままだ。
「確かにそうですが、わずか数パーセントが任務失敗に繋がると考えると、妥協はできませんわね……」
「それでは……ご一緒にトルソも合わせてみてはいかがでしょう?」
 言って店員がディスプレイを促す。そこには台座に乗せられたボディパーツが飾られていた。トルソとはボディパーツの中でも、上半身を包むものを指す。
「"ヒューキャシシリーズ"は最新の規格で配線の効率化がされておりますので、それだけでも数パーセントの性能向上が期待できます」
「確かに。それなら悪くはありませんわ」
「さらに、レッグパーツも合わせますと、さらに性能向上が期待できますが……」
 店員がディスプレイを促すのに、アナスタシアは一瞬視線を向けるが、すぐに向き直って微笑んだ。
「御免なさい、レッグは代えるつもりはないのですわ、どうもありがとう。このトルソとアームを試着させていただいても?」
 アナスタシアが聞くのに店員は頷き、試着室へと向かう。試着室とは言っても、体のパーツを装着するわけだから実際はガレージに近い。彼女が中に入ってから10分ほど待つと、先ほどのトルソとアームを見に着けたアナスタシアが姿を表した。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe47 君に似てるんだ
「アナスタシア様、とてもよくお似合いですよ。流れるようなフォルムがとても素晴らしいです」
 無邪気に手を叩きながら、パティが言う。アナスタシアもまんざらではないようで、少し頬を赤らめると、改めて自分の体を見下ろした。
「うん、とてもよく似合ってるぜ。なんだかすげーシャープな印象になったな」
 ランディが明るい顔で口を開いた。アナスタシアの要望に近いパーツが見つかった事より、この長い買い物が終わる事に喜んでいるようである。
「ありがとうございます、問題なさそうですのでこれにいたします。帰ってから調整すれば、理想通りのものができそうですわ」
 アナスタシアの微笑みに、ランディもつられて思わず微笑む。
(……男の甲斐性とは、よく言ったもんだ)
 ランディは心の中で、そう独りごちた。

「カズンさん! 久しぶりじゃないですか」
 ゴミ山のふもとで座り込み、休憩していたカズンに声をかける者がいた。
「エディか。久しいな」
 エドワードは細身のニューマンで、短い髪に白衣を羽織っている。ニューマンは全体的に体躯に恵まれていないはずなのだが、彼は全体的にぽっちゃりとしており、耳が尖っていなければヒューマンと言われても気づかなかっただろう。
 彼は、大きく広がる鉄クズの山を休憩時間に見る習慣があった。そこでカズンと何度か顔を合わせて話をするうちに、親しくなったのである。
「今日もこれから発掘ですか?」
「ああ。最近、なんかいい話はないか?」
「そうですね……確か先日、キャスト工学のプロジェクトがひとつ終わったと聞いています。その廃棄物が出てると思います」
「なるほど、それは良い物が出てそうじゃ。ありがとうよ」
「いえいえ、内密にお願いしますよ」
 エドワードは、ローゼノムシティの研究施設でキャスト力学についての研究を行っている、GRM社の研究員だった。だから当然、内部事情に詳しい。その情報をカズンはいつも教えてもらっているが、これが表沙汰になるのは正直まずい事は言うまでもなかった。
「"家族"は順調に増えているんですか?」
「ああ、実はこの間、わしら夫婦の子供をもうけてな」
「おお、それは素晴らしい! おめでとうございます」
「エディのお陰じゃ。ほんとに助かっとる」
 エドワードは驚いて恐縮しながら、目の前で両手を開いて何度も振る。
「いえいえいえ! カズンさんの理想に少しでも協力できれば、それでいいんです。我々研究者は、新しいものを生み出す研究のためとはいえ、様々なものを無駄にしていますから……」
「まあそう謙遜するな。お陰で、うちの家族がどんどん充実して困っておるわい」
 2人は顔を見合わせてから、笑った。まるで、子供の頃を知っている間柄同士が、大人になってから当時を思い出して笑うかのように、無邪気に。
「……そういえば、彼女はお元気ですか?」
「ああ。最初はどうなるかと思ったがな。問題なく過ごしておるわい」
「それは良かったです……しかし、誰があんな無造作に、キャストのメインメモリを捨てたんでしょうね? そのような研究をしていたとはまったく聞いていませんし……」
「すでに10数年以上前の事じゃからな、もう探す手段もなかろう。順調に育っておるし、問題無かろうよ」
「それもそうですね。……ところで、今夜のご予定は? よければ、後で久々に」
 言いながらエドワードは右手でジョッキを持つ仕草をしてから、「やりませんか?」と続けた。
「そりゃあいい。仕事が終わったら携帯を鳴らすよ」
「はい、お待ちしていますよ。では私はそろそろ戻ります」
 言ってエドワードが軽く手を振って、立ち去っていった。それをカズンは笑顔で見送る。
「……さて」
 カズンはそこに腰かけ、ゆっくりと息を吐いた。
「……そうか、もう10数年も経つのか……」
 静かに呟いてから、カズンは鉄クズの山を見上げた。
 高く積み上げられた鉄クズは、天を目指してどこまでも積みあがっていた。

「次はこれです、マスター」
「も、もう勘弁してくれっ!」
 服の山を抱えて詰め寄るパティに、ランディは悲鳴をあげて、思わず逃げ出す素振りを見せる。
「あらランディ、これなんか似合いそうですわよ」
 にっこりと微笑んで、アナスタシアが1枚のコートを差し出した。
「ハイ、着させて頂きマス」
「マスター……」
 アナスタシアのパーツを見た後、3人はコロニーのG'S:MODEに来ていた。帰り道で、パティが突然「マスターの服のセンスは良くない」と言い出したのだ。挙句にアナスタシアを巻き込み、「マスターの服を見るのを手伝ってください」と帰るつもりのアナスタシアを捕まえたのだった……。
 しかし、女性2人に着せ替え人形にされて早2時間。さすがにランディもうんざりしていた。
 なぜなら、明らかに似合わない服を着せられては大笑いされる事が大半だったからだ。
「……疲れた」
 試着室に入って小さく呟いてから、鏡に手をついてぐったりと頭を垂れた。

 ……なんで、2時間もこんな事で楽しめるんだ。
 ほんと、女ってやつは……。

 受け取ったコートを羽織って、袖を通す。モトゥブ製の長いコートは、身長の高いランディでさえ膝までの丈がある。前は合わせず露出させ、袖もない。まるでローグスのような、荒っぽいイメージを醸し出していた。
 また、ランディ自身も体格が良いため、そのようなスタイルが似合ってしまう。本人も、そんな格好をするのに違和感を持たなかった。
「ふむ」
 今まで着せられたものに比べれば、かなりまともだった。ランディは自分の体を見下ろしながら、おそるおそる試着室から出る。また、2人にいじられるかもしれないと思いながら。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe47 君に似てるんだ
「……どうだ?」
「あらマスター、ローグスっぽくなりました」
「あらパティ、それがいいのですよ」
 すでにガールズトークになっている2人の会話に、ランディはとりあえず耳を傾けてみる。
「その荒っぽさが、ランディのワイルドさを表現できていると思いません?」
「確かにそうですわね。……もしかして、ぶっちゃけアナスタシア様の好みですか?」
 間伐入れずにパティが言う。ランディは内心「ナイス!」と呟いて、その答えを心待ちに待つ。
「うふふ、そうですわね……私はどちらかといえば、清潔で気品のある服が好きですわ」
 その言葉に、パティがしまった、という顔で慌ててランディの方を振り向いた。ランディはがっくりと肩を落としており、なんとも言えない燃え尽きたような表情をしている。
「……うん、そうだよね……清算してくる」
 重い声で言いながら、ランディはとぼとぼとレジへと向かう。その暗い背中に、2人は声をかけられなかった……。
 ランディは歩きながら、ふとショーケースを見る。そこは女性向けの髪飾りなどの小物が置いてある棚があった。様々なアクセサリ類が並び、どれも凝ったデザインである。
「うげ……こんなちっこいので10万メセタ? あり得ねぇ」
 純金や宝石をあしらったものなど様々な商品が並ぶが、そういうものに詳しくないランディにはただの異世界にしか見えなかった。
 だが、その中でひとつだけ、ランディの目を引くものがあった。
 それは黒のバンドに小さなレースをあしらった、ヘッドドレス。
 特に理由は無かったが、直感的に似合う、とランディは思ったのだ。そう、彼女の銀の髪にとても似合うのではないかと。
 アナスタシアの方を振り向いて、しばらく考え込む。
 買い物に付き合ってくれたお礼、というような名目で渡せばいいだろう、チャンスは今しかない……。
「お客さま、お目が高い!」
「わっ」
 目の前に、店員がいた。禿あがった頭で身長もとても低い男が、にこにこと微笑みながら、ランディの目の前に立っている。
「それは入荷したばかりの品で、なかなか手に入らないものでして。今を逃すといつ入荷するか分かりませんよ? グラール太陽系内で今とても注目を集めているアイテムでして……」
 べらべらとまくしたてる店員に、ランディは閉口する。なんというか、とにかく面倒だった。
「……分かった分かった。それも買うから。プレゼント用に包んでくれ」
「毎度ありがとうございます!」
 清算を済ませてから包装した品を受け取って、ランディは戻ってくる。買った服は、持ち運ぶのが面倒なのでそのまま着て帰るつもりで、古い服はナノトランサーに放り込んだ。
「お帰りなさいませ、マスター」
「ああ。……そうだ、アナスタシア」
 ランディは言って、包装された箱をぶっきらぼうにアナスタシアに差し出す。
「?」
「買い物に付き合ってくれた礼だ。とっといてくれ」
「有難うございます……開けてみても?」
「もちろん」
 その展開を、パティは内心興奮しながら見ている。
(……プレゼントで女心をがっちり鷲掴み作戦ですか……ガンバレ、マスター!)
「あら」
 袋の中から出てきたヘッドドレスに、アナスタシアとパティの動きが止まった。ランディはそのリアクションに、正直戸惑う。

 ……あれ?
 別に感激されるのを期待していたわけじゃないけど、なんだこの空気?

「ランディ……気持ちは有難いのですが……」
 遠慮しているのか、アナスタシアが静かに口を開く。それが示す意図が分からず、ランディは首をかしげながら振り向く。
「……?」
 不思議そうにしているランディに、パティもおずおずと口を開く。
「……あのう、マスター。ぶっちゃけ、これは給士係用のヘッドドレスです……」
「……え?」
 ランディの顔から、さっと血の気が引いてゆくのが分かる。

 ……なるほど、店員の言う"人気がある"とは、そういう意味だったのか……!?

「うふふ……でも、有難う、ランディ。その気持ちは伝わりました。大切に使わせてもらいますわ」
 アナスタシアは照れながら微笑んで、ランディの手を取った。それからそっと自分の手で包んで、ランディに微笑みかけた。
「いや、その……」
「有難う」
 戸惑うランディを気にせずにアナスタシアは微笑んで答える。
 その言葉は優しく、それでいて強さを感じさせるものだった。

<< universe46

注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
※作中の表現や描写、ならびに使用している画像などは、ゲーム内で再現できるものとは限りません。
※この作品は、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているため、暴力・性的な表現を含む場合があります。予めご了承下さい。

本サイトは全ての利用者に対して「エンターテインメイト小説」として娯楽を提供するものであり、閲覧・投稿についての保障・責任は一切行いません。
また、上記注意事項を越えたご利用によって生じた損害に関して、当サイトは一切責任を負いません。予めご了承下さい。

拍手

作品へのコメント、感想や質問などはこちらからお願いします。
(無記入でも押せますが、何か書いてくれるとすごく嬉しいです)