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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe40 力が欲しいか?

「さて、そろそろチェックメイトか。意外とあっけなかったな」
 ランディが悪童のように笑って、マウントの姿勢から左の拳を叩き込む。めきめきと骨が軋む音がして、まるでバウンドするボールのようにジャッキーの頭が跳ねた。
「くっ……!」
 意識が朦朧としてきており焦点の合わなくなった瞳をこじ開けながら、ジャッキーは両腕で顔を守ろうとする。だが、その隙間を縫ってランディの拳は顔面を叩く。ぱっと赤い飛沫が上がって、ジャッキーの鼻から鮮血が噴き出した。
「ぐっ……やっぱり、ランディはすごく強いね☆」
「当たり前だ。お前とは背負ってるものが違うんだ」
「ふふ……それはどうかな? 僕とそんなに大差無いんじゃない?」
「……なんだと?」
 ジャッキーの声に振り上げた拳を止めて、ランディは明らかにムッとした表情で睨みつける。
「僕だって普通のヒューマンとして生まれてれば、きっと今頃はスポットライトの下で踊ってたはずなんだ。こんな世界にはいなかったはずなんだよ。それが気づけばこの有様なんだよね」
「……」
「そもそもさ、"人類皆平等"なんて嘘つき人間たちの大好きな常套句じゃない。戦争から500年経った今でも人種差別が絶えないこの世界で、ランディはどうしたいの?」
 ランディの体が僅かに体が震えた。
 ふと頭をよぎる、嫌な記憶。
 ……"水晶の夜"。
 ランディは、何も言い返せなかった。
「まさか本気で思ってるわけじゃないよね、すべての人が平等になるなんて。絶対それに従わない者が出て来て、迫害する、攻撃する、略奪する☆」
「……このッ……!」
「ああそうか、ランディには僕の言っている事を否定できる材料があるんだね?」
「……っ」
 ランディは弾かれたように眉を寄せて、下唇をきつく噛む。反論材料が無いだけでなく、それを覆す声も持たなかったからだ。
 それを感知したのか、ジャッキーの言葉はとどまる事なく流れ続ける。
「所詮人間なんて、自分が良ければいいんだよ。自分が得すればそれでいい。他人の事なんてどうでもいいんだ」
「やめろ……」
 ランディは、振り上げた拳のやり場を見つけられなかった。これを振り下ろせば全てが楽になるとは、とても思えなかったからだ。
「平等なんてあるわけないじゃない。力の強い者がいれば弱い者もいる。自然社会、動物、昆虫。どこでも当たり前の事じゃない? 人間はいつからそんなにワガママになったの?」
「やめろ!」
 頭にのしかかる悪夢を打ち砕くべく、ランディは拳を振り下ろした。ごつんと音が響いて、ジャッキーの鼻柱を打ち抜く。拳と地面の間で頭がバウンドして、ごとりと床に転がる。
 だが、現実は何も変わらなかった。この状況も、かつての悪夢も。
「く……やめないよっ☆ ランディ、君は偽善者だ。世の中の矛盾を解決するフリをして、自分の満足を探してる……そうでしょ?」
 地面に頭を寝かせたまま、鼻から流れる出血をそのままに肩で大きく息をして、ジャッキーはランディを見つめて続ける。
「ランディ、素直になりなよ☆ 力が欲しいんだろ? 世の中を覆す力が!」
「!」
「ランディ、コナンドラムにおいでよ。君ほどの素質があれば、きっともっと強くなれる。僕が保証するよ! ランディばんざーい☆」
 わざとらしく言うジャッキーに、ランディは真剣にうなだれこんでしまった。返す言葉はもちろん、動く気配を見せない。
 ただ、ゆっくりと口を開いて、自然と溢れる言葉を静かに綴った。
「……力が欲しい。全てを守れる力が」
「うふふ、やっぱりね☆ 16年前の二の舞にはしたくないよね!」
 その言葉にはっとなって、ランディはいぶかしげな視線を向けながら続ける。
「16年……前? なんの事だ?」
「あはっ」
 まるで子供を驚かせた事に満足したクラウンのように、ジャッキーは楽しそうで滑稽な笑みを浮かべて笑う。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe40 力が欲しいか?
「あははっ、そっか、覚えてないんだ☆ まあ普通そうだよね!」
 意味ありげに、悪戯に微笑んでジャッキーは続ける。
「まあいいや。ほら、『水晶の夜』の事は忘れてないよね?」
「……!」
 思い出したくない、でも忘れられない。嫌な記憶が脳裏をよぎる。
「あの時、君に力があればどうなってた? 仲間を救えたんじゃない?」
「!」
 ランディの振り上げた腕がゆっくりと、下がった。太い両腕は重力にまかせてだらりと垂れ下がる。
 それはまさしく、今のランディそのものを表していた。
「……ランディ、何してるんだろ」
 その光景を見ながら、オルハが呟いた。
「早くぼっこぼこにしてやればいいのに」
 イチコとテイルとの3人がかりでビースト集団を撃破した後、ランディたちの様子を見てこぼれた言葉だった。
「ほんとだよね。せっかく捕まえたのに」
「ふむ、何か会話しているようだが」
 イチコが同意して、テイルが見たままの所感を述べた。
「ちょっとボク行ってくる!」
「あ、ちょっと!」
 イチコが言うよりも早く、オルハは飛び出していた。そのまま、後ろに離れて立っているヴァルキリーに駆け寄る。
「ね、ランディどうしたの?」
 問いかけてみるが返事はない。ヴァルキリーは杖を掲げてテクニックの詠唱中で、周りの情景が分からないほど集中していた。
 それを見たオルハはため息をついて、イチコたちを振り返りながら、両手を広げた。
「ランディ、力が欲しい?」
「力が……欲しい」
「じゃあさ、コナンドラムにおいでよ。君の脳を改造して、ビーストの腕力とニューマンの知識を持った素晴らしい新人類にしてあげる。今ならもれなく、キャストの精密さとヒューマンの万能さもプレゼント! 君は世界で最強の人間になるんだ!」
「最強の……人間に……?」
「そう。君は全てを凌駕する力を手に入れるんだ!」
 ランディの目線はどこかうつろだった。ゆっくりとまばゆい光に包まれ、ビーストフォームが解除されてゆく。
「世界で……最強に」
「そうだよランディ。だから早く僕から降りて……いや、乗られるのは好きだからいいや。とにかく一緒にコナンドラムへ帰ろう? ね?」
「最強……ううっ……頭が……」
 ランディは両手で頭を抱え込んで、上体を屈める。両手の指は頭を掻きむしる。まるで、脳内にある何かを掘り出そうとしているかのように。
「ちょっと! ランディ!」
 会話が聞こえたオルハが、かん高い声で叫んだ。
 ……まずい。詳しくは分からないが、ジャッキーの言葉は明らかにランディの心を深くえぐっている。
「ランディ、大丈夫!? 落ち着いて、こいつらは悪人なんだ、こんな奴らの言葉に惑わされちゃだめだ!」
「ううっ……うがあぁぁ……頭が痛い……16年前……」
 ランディはオルハの声に答えず、両手で頭を掻きむしって、身を屈めた。
 ……様子がおかしい。惑わされているというより、苦しんでいるようにも見える……。
「ちょっと、僕たちの時間を邪魔しないでよ、ガキんちょ」
 それを見ていたジャッキーが、不機嫌そうな声で言う。
「……子供扱いするな」
 すぅっ、とオルハの視線が冷たさを帯びてゆく。そのまま、ジャッキーの顔面をげしっと踏みつけた。
「はうっ」
「あんたたちの非道な行いにランディを巻き込むなんて、ボクが許さないんだからねっ! ほらランディも早く、ぼっこぼこにしてやって!」
 言いながらランディの腕をぐいぐい引っ張るが、彼はまるで寝起きのように曖昧に頷くだけだ。
「しょうがないなぁ、もうっ」
 面倒臭そうに言って、ジャッキーの右腕が振り下ろされる。鋭い爪がオルハの左足を斬りつけた。
「うあっ!」
 オルハがよろめいた隙に、ジャッキーは振りかぶった右腕をそのまま地面について、素早くマウントの体制から体を引き抜く。
「うあぁぁ……すまん、オルハ……!」
 ランディは頭を抱えたまま、ゆっくりと首を左右に振りながら呻くような声で言った。
 ……俺は力が欲しい、ただそれだけなんだ。なのに……なんだ? 俺の頭の中で、一体何が起こっている?
「しょうがないな〜。ガキんちょの相手を、この僕がじきじきにしてあげよう☆」
「この……ッ」
 オルハも両手に鋼爪を構え、身構える。
 ……だが、どう戦う? フォトン吸収能力を持っている相手にフォトン武器は通用しない。ランディもアテにならないこの状態で、どうすれば?
「よぉっし、完成!」
 ヴァルキリーが杖を頭上に振り上げながら言った。
「大地よ、そのエネルギーを貸して……」
 頭上に土塊が浮かぶ。最初は30センチぐらいの球体が、どんどん肥大化してゆく。3メートルになっても、5メートルになっても止まらない。
「で、でかっ!」
 直径10メートルに達しようかとした時、やっと土塊は肥大を止める。ヴァルキリーの頭上に浮かぶものを見上げて、オルハたちは絶句した。
 ――あれはすでに"土塊"などと形容できるような大きさじゃない、まるで"隕石"だ。
 杖に蓄えられたフォトンを全て吸い出すだけでなく、それを制御できるヴァルキリーの法撃の素養に、味方であることを感謝せざるを得ない……素直にそう思えるほどの圧迫感が場を支配した。
「いっけぇ! ディーガ!」
 杖をぶんと振りかざすと、その巨大な塊が孤を描いて飛んでゆく。その様はあたかも大気圏を突破し、地表へと向かう隕石のようだった。
「ふふっ、そうこなくっちゃね! 吸いつくしてあげるよ☆」
 ジャッキーはそれに動じる事なく両手を前に突きだして、舌なめずりをしてみせる。まるでおもちゃを前に我を忘れた子供のように、素直な衝動に駆られた勢いのある喜びの表情だった。
 どぅん、と激しい音と共にジャッキーの手に着弾し、その勢いを止める。塊はぐんぐんと吸い込まれてゆき、徐々に小さくなってゆく。
「うーまーいーぞー! すごいや、食べても食べてもなくならないぞっ☆」
 その光景にオルハはゾッとした。あれだけのフォトンの塊をどんどん吸収していっている。どうやれば彼を倒す事ができるのだろう?
「うっそ、フルパワーだったのに……」
 その光景を信じられないかのように、ヴァルキリーは呟く。イチコとテイルも、それをぽかんと口を空けて見ていた。
「……そうだ、ランディは!?」
 そうだ、今のうちにランディをなんとかしなくては。オルハはこれがチャンスとランディに駆け寄る。彼はマウントの姿勢のまま両膝で立ち、眼前に自分の両手を持ってきて、その掌をただ見つめていた。
「ランディ! どうしたんだよ、あいつをぼっこぼこにするんじゃなかったの!?」
「……力……力が欲しいんだ。俺は誰も守れない、無力だ……ああ、頭が割れる……許してくれ……」
 今にも泣き出しそうな情けない声。消え入りそうな小さな呟き。
 ゆっくりとオルハに視線を向けるが、その瞳は弱々しく焦点が合っておらず、こちらを見ていてもオルハの事は見ていないようだった。
「ランディ……」
 ……こんな弱々しい彼は、長い付き合いの中でも初めて見る。
 まるで子供のように1人で歩く事を嫌がって、誰かが手を差し伸べて引っ張ってくれるのを待っているような、悲しい人。それが今のランディだった。
 オルハはそんな彼の姿に、心底戸惑った。今の彼には、何を言っても心に届かない気さえする。
 だが、それはすぐに違う感情へと変わる。そんな事を言っている場合じゃないからだ。
「何を馬鹿な事言ってんだよっ!」
 両手を広げて、ランディの顔を挟むように力一杯ひっぱたく。ランディが痛みに顔をしかめてから、驚いた顔をゆっくりと上げた。
「今の状況を見てよ! そんな事言ってる場合じゃないよ! 戦わなきゃボクたち死ぬんだよ!?」
「……俺は無力だ……何もできない……何も守れない……」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe40 力が欲しいか?
「じゃあ一生そう思ってたらいいじゃないか。ボクは頑張る。ヴァルもイチコもテイルも他のみんなも頑張ってる。力があるからじゃない、自分の弱さを分かっているから頑張ってるんだ。辛いのは自分だけだと思わないで」
 オルハは険しい顔のまま踵を返して、歩きながら爪を両手に着ける。そしてそのまま、ジャッキーに向かってすたすたと歩いて行ってしまった。
「ああ……俺は……あの時も……」
 儚く、弱く、迷いのある呟き。ただただそれは、人間の脆さと悲しさを含んだ、脆弱な声だった。
「……あの時? ……16年前……あの時……君は目の前で……?」
 ランディはぼそぼそと呟いていたが、頭を抱えて上体を屈めると、丸くなってそのまま動かなくなってしまった。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
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