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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe38 戦闘開始

 ランディは一歩前に進み出て、ジャッキーと向かいあう。後ろにはヴァルキリーが控え、いつでもテクニックでサポートできるよう、長杖を構えた。
 向こうでは、オルハとイチコが立ち塞がり、ビースト4人の壁となる。その後ろにいるテイルがボウガンとライフルで援護をするつもりだ。
 だが、誰も動かなかった。
 いや、動けなかった。
 ランディとヴァルキリーは前の交戦で手痛い目にあっているし、オルハたちもビーストフォームの強さをよく知っている。迂闊に動くわけにはいかなかった。
「ヴァル、援護頼むぜ」
「うん、分かった」
 振り向きもせず言うランディに、ヴァルキリーは務めて明るくそう答える。
「ねぇっ、早く始めようよ! そっちから来ないなら、僕から行くよっ☆」
 言いながらジャッキーが飛び出した。勢いを乗せて、そのまま右の爪を突き出す。ランディはそれを外に弾いて、軽くいなした。
(やっぱ早ぇな)
 ナノブラストの最大の欠点は、単純に物理的質量が増加する事による、スピードの低下だった。
 だが、彼は最小限の部位をビーストフォーム化する事でその弱点を補っている。ランディにとって、面倒な相手である事は間違いなかった。
「大地よ、そのエネルギーを貸して……ディーガ!」
 ヴァルキリーの杖から巨大な土塊が飛び出し、大きな孤を描いて宙を飛ぶ。ジャッキーはそれに気付き、左手を開いて突き出した。
「いただきまぁす!」
 その手に触れた瞬間、土塊はふわっと空気に溶けるように、四散して消えてしまう。今までと同じ、予想通りの結果だった。
「くッ、やっぱりか」
「A・フォトンの空間制御能力を応用して、フォトンを分解・吸収させているみたいね」
 舌打ちをするランディに続いて、ヴァルキリーが冷静に言う。フォトン感知ができるヴァルキリーにとって、今の出来事を把握するのは難しくなかった。
 前回戦った時は、動揺のほうが大きく分析をする余裕が無かった。種明かしさえ分かればそれほど恐ろしくない……ヴァルキリーは自分にそう言い聞かせる。
「うふふ、さすがだねガーディアンズさん☆ 僕はこの体を維持するのに、たっくさんのフォトンがいるんだよ!」
 言いながら右の爪を振りかざす。ランディはわずかに後ろに飛び、それを避ける。
(……なるほどな、吸収したフォトンを自分のエネルギーに変換してやがるのか)
 ランディは爪を回避しながら、思考を巡らせる。
 ……維持のためにフォトンを吸収するとはいえ、それは無限ではないはずだ。一定量の消費を越えてフォトンを吸収したら、一体どうなる? 器からこぼれたフォトンはどこへ行く?
 最悪、奴の体を通して霧散するだけかもしれない。過剰摂取した栄養素がそのまま排泄されてしまうように。
(だが、俺のビーストフォームだけで渡り合うのは、正直厳しい……)
 確かに、ビーストフォームをとれば有効打を与えられるが、前回1対1の戦いで負けている。ヴァルキリーや他のメンバーにも攻撃してもらわなければ、勝機が遠のくばかりだ。器から溢れる際に、何か隙ができる事を信じるしかない。
「ヴァル、とりあえずガンガンぶっぱなせ!」
「え、ええっ!? 吸収されちゃうだけだよ!」
「奴の器には必ず限界があるはずだ。杖のフォトン全部吸い出して、特大のをお見舞いしてやれ!」
「しょうがないな〜、じゃあしばらく時間稼いでてね!」
 ヴァルキリーが杖を高く上げ、精神を集中させる。大気中のフォトンを、媒体のフォトンを、自分という器に練り込み満たしてゆく……。
「よっしゃ、しばらく遊んでやるぜ!」
 ランディが地面を蹴って、ジャッキーの前に立ちはだかった。視線をヴァルキリーから引き剥がしておくために。
「うらぁっ!」
 左の軽いジャブを2発、顔面に向けて放つ。ジャッキーは手のひらで軽く受ける。
 定石通り、大きく右のストレート。ごっと空気を割く音が響く。ジャッキーは両手でそれを正面から受け止める。
「ふん、パワーもあるのが気に食わねぇな」
「あいたた……ランディ、反則だよぉ。なんでビーストフォームをとりながら、そんな冷静な攻撃ができるかなぁ☆」
「他の奴らとは鍛え方が違うんだよ!」
 言いながら、ジャブを放つ。ジャッキーはそれを少し下がって距離を取り直す。
 2人は、お互いに手の内を探っている状態だった。ランディは前回の反省もあり、闇雲に攻める事はしない。
 そして、あまりの怒りに逆に冷静になってしまっているのもある。涼しい顔をしているが、前回返り討ちにされた事や人命を弄ぶバーバラへの怒りが、内面ではぐつぐつと煮えたぎっていたのだ。
「逃げんなよ、遊ぼうぜ」
「……今日の君は一味違うかんじがするぅ。こわぁい☆」
 ランディは言いながら前に踏み出し、距離を詰める。だがジャッキーも同じ距離を下がり、近距離戦に持ち込ませない。
(無駄に勘がいい奴め……)
 ランディは心の中で舌打ちする。今なら、こいつを殺す事をまったくためらわない自分がいるし、実際そのつもりでいる。
 それを、感覚的に見抜かれている。
 もちろん、先程のオルハの怯えようも影響している。そういう汚れ役は、自分がやるべき仕事なのだと。
「なんだよ、つれねぇな」
 今度は重心を低く落として、一気にタックルで近づく。下半身を捉えたと思った瞬間、ジャッキーは跳躍した。垂直に飛び、ひねりを加えて華麗に舞う。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe38 戦闘開始
「もう、ランディのエッチぃ☆」
 そのまま体重を乗せて、膝を落としてくる。ランディの後頭部に命中する直前、頭上でクロスした腕に阻まれる。そして2人はまた飛び退く。お互いに警戒し過ぎており、勝負がいつになっても始まらなかった。
 だが、これはジャッキーの作戦なのかもしれない。爆弾が時限制なら、時間を稼ぐ意味があるだろうと想像できるからだ。
(……ここは強引に、事を進めるか……)
 ランディはゆっくりと構えた。呼吸を整え、大きく息を吐く。
 瞬間的に重心を低くして、一気に飛び出す。
 ジャッキーの反応が僅かに遅れる。
 飛び退こうとするが、不意をつかれて反応が一瞬遅れる。とっさに右膝を振り上げる。カウンターで膝をお見舞いしてやるつもりだった。
「かかったな」
 ジャッキーの視界から、ランディが消えた。いや、あまりにも素早い速度で右に回りこんでいた。
「くっ……しまった!」
 すでに遅い。がっと左足を掴まれ、手前に引っ張られる。ランディはジャッキーをそのまま引きずり倒してから飛び乗り、マウントポジションを奪った。
「……!」
 ここまで、一瞬の出来事だった。
「さぁ、始めようぜ」
 ランディが拳を振り上げながら、言った。その眼つきは一見穏やかに見えたが、違う。その瞳の奥には、熱いものが見え隠れする。
「くうっ……!」
 悔しそうな顔で暴れるジャッキーの顔面に、ごつっと音を立てて右の拳が叩き込まれた。あまりに強い力に、拳と床に挟まれて頭蓋が跳ねる。激痛に意識が飛びそうなジャッキーの鼻から、赤い血が飛び散った。
(うわぁ……ランディがマジギレしてる)
 それを見ながら、オルハは呑気に思う。こちらは引き付けて適度に遊んでいればいいので、気が楽だ。
「オルハ!」
「ん?」
 イチコの声に振り向くと、ビーストが振りかぶっている。そしてオルハに向けて振り抜かれた。
「やっぱり、覇気が無いなぁ」
 力強いパンチだが、ランディのそれとは全然違う。威圧感のないパンチを爪の甲で軽くいなし、呟いた。
 どうにも、今一つやる気になれず、オルハはのらりくらりと戦っている。
 もちろん、頭部を攻撃すれば倒せるのは先程の戦闘ではっきりしている。だが、殺してしまうような事は避けたいので、なかなか手を出せなかった。
 そんなわけで、オルハはランディが早くジャッキーを倒してくれるのを祈るだけだった。
 見れば、テイルも牽制射撃をメインにして、積極的に戦ってはいない。
「いやあーーーーーぁっ!」
 ……いや、イチコだけは積極的に戦っていた。先程のうっぷんを晴らすためか、3人を相手に長剣を振り回して大立ち回りを繰り広げている。
「オルハ! ちょっとは手伝ってよ!」
「はぁい」
 気乗りのしない返事をして、左手の短銃を爪へと持ち変え、二刀流へと切り替える。
 ……せっかくだし、"アレ"を試してみるかなっと。
「よしっ、イチコ、本気でいくよっ」
「おっ! 自由研究の成果、見せちゃう!?」
 イチコに走り寄って、オルハはその前に出て、ビーストに向かって立ち塞がった。不思議と両手を地面に向けたまま、戦闘体制を取らない。
「リミッター解除!」
「……?」
 見ていても、何も変化が起こらない……とイチコは思う。
 だが、違和感を感じる。いや、威圧感と言った方が正しいかもしれない。
 やがて、オルハが両手に持つ爪に異変が起こる。爪先の輪郭がぼやけ始める。まるで焼かれたパンが徐々に膨らんでゆくかのように、フォトンが巨大化してゆく……。
「オルハ!」
 イチコは思わず叫ぶ。オルハは武器に蓄積されているフォトンを、限界を越えて放出させているのだ。
 蓄積したフォトンを使用しているので人体へ負荷をかけるものではないが、その大きさや重さは、常人に扱えるわけがない。だから"常人が扱えるような放出量"を保つため、わざわざリミッターがかかっているのである事は、説明するまでもないだろう。
「くうぅぅぅぅ……でかっ! おもっ!」
 オルハが緊張感の無い声で叫ぶ。爪先は既にその輪郭はまったくとどめておらず、床まで伸びた大きな塊がぶら下がっているようにしか見えない。だが、実際は高圧縮のフォトンの塊だ。不用意に触れれば弾き飛ばされるだろう。
 その光景を不思議そうに見ていたビーストたちが、顔を見合わせて頷き、それを合図に飛びかかった。
「きたああぁぁぁ……出力MAX!! これがボクの必殺技だ!!」
 向かってくるビーストたちを気にせず、オルハが上体を右にひねった。そしてそれをぐんと反対にひねりながら、軽くステップを踏む。そのまま体を回転させながら、もう1ステップ。着地後ぐっと体を屈め、跳躍しながら体を大きくひねる。
「必殺! オルハ乱舞act2!」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe38 戦闘開始
 先頭のビーストが足を止めた。
 ……これはどういうことだ?
 さっきまで5メートルほど離れていたオルハが、目の前にいるではないか。
「!?」
 何が起こったか分からない。
 ごっという鈍い音と共に胸に強い衝撃が加わって、ぐらりと揺れる。表現しにくいが、大きな質量を持つ"何か"でぶん殴られた……としか形容のしようがない。
 今度は腰だ。がつっと腰骨が叩かれ、鈍い痛みが全身に走る。まるで、剥き出しの骨に鉄球をぶつけられたようだ。
 次は足。右太ももの肉をえぐるような衝撃が走り、ぶちぶちと筋肉が悲鳴をあげる。あまりの衝撃に右足が後ろへ押し込まれ、跳ね上がる。支えを失って、ビーストは前のめりに倒れた。
「うおっ!? うわああぁぁぁっ!」
 それと同時に、オルハが叫びながらふっ飛んでいった。倒れたビーストの頭上を軽く越えてから、地面に叩きつけられる。もんどりうって落ちて地面を勢い良く滑ってから、壁に激しく叩きつけられた。
「えぇ……?」
 口をぽかんと開けたまま、声にならない声でイチコがぼやいた。
(……なんなの、今いったい何が起こったの?)
 オルハが弾丸のように飛び出したと思ったら、ビーストが瞬間的に揺れて転倒し、すぐにオルハはそのままの勢いで飛んで行ってしまった。
 その間、わずか2秒ぐらい。一体何が起こったのか、さっぱり理解できなかった。
「……あたた……今のボクにはまだ、制御できないかぁ……」
 汚れまみれのオルハは、頭を下にして壁に背中を預け、両足をだらりと垂らしている。まるで開脚前転のまま壁に突っ込んだようだ。傍らには先ほどまで着けていた爪が転がり、ばちばちと火花を上げて煙を吹いている。
 その光景を、他のビーストたちもあっけに取られて見ていた。
「オルハ、今の何? 大丈夫なの?」
 駆け寄って手を差し出し、イチコが聞く。その声は驚きを隠せず、やや裏返っていた。
「あー、うん。武器のフォトンをオーバーブーストさせて、その出力で回転に勢いをつけたの。遠心力と慣性ですごいパワーを生むんだけど……まだまだ思う通りに制御できないや」
 答えながら膝とお尻を払って、オルハが立ち上がる。ナノトランサーから新しい爪を取り出して、やれやれと両手を開く。
「まぁ、それより今は、目の前のこいつらをなんとかする事を考えよ?」
「う、うん。でも、どうしよう? 頭殴れないよね?」
「うん。体に物理的ダメ−ジを与えて、動けなくするしかない。足を狙おう」
 なるほど、とイチコは力強く頷く。
「テイル! 足を狙って!」
「分かった。まかせておけ!」
 オルハとイチコが飛び出した。それに気付いて、放心状態だったビーストたちも我に返る。先ほど転倒したビーストは頭に血が昇っているらしく、我先にと飛びかかってきた。
「いくよ!」
「せーのっ!」
 イチコの大剣が、大きく振りかぶられる。半円の孤を描いて、目の前のビーストの右足の脛を横から叩きつける。
「よいしょっ!」
 オルハも飛びかかる。地面を蹴って一気に距離を詰めてその勢いで左膝を蹴りつけ、そのまま左右の爪で交互に切り裂く。
「グアアアッ……!」
 ビーストがうめいた。2人はそれを気にもとめず、イチコは右から、オルハは左から、素早く後ろに回りこむ。
 イチコは長剣を上段に振りかぶり、足首めがけて振り下す。オルハは爪を構え、アキレス腱を狙って突き刺す。
 その直後、テイルのライフルの弾が、足首を叩いた。
「……ッ!」
 ビーストが声にならない声でうめいて、片膝をついた。自らの体重を、両足が支えきれなくなったのだ。
「ふふっ、ボクたちのコンビネーションは最強だねっ♪」
「だねっ♪ オルハ、残りもやっちゃお!」
「うん!」
 2人はまるで玩具を与えられた子供のように微笑んでから、走り出した。

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