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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe36 そろそろショーを始めようぜ

(ランディ、こっち!)
 ばたばたと大きく手を振りながら、イチコが小声で合図した。ちょうど通路がT字路になっており、その左手前にしゃがんで先を見ている。
 ランディが壁に背をつけてそっと左を覗き込むと、通路はやがてドアにぶつかり、そのまま大きな部屋になっていた。ドアは明らかに力ずくで壊されている。だが、中は暗くてはっきりとは見えない。
「……何人かの人影が見えるな」
 ゴーグルで覗き込んでいたテイルが、小声で言った。
「ヴァル、フォトンの流れは?」
「……うん、4人はビーストのものね、間違い無い。あと1人は……謎のフォトン……けど、これは知ってる」
「……森で会った、犬野郎か」
 ヴァルキリーが無言で頷く。それを確認して、ランディは膝がわずかに痙攣しているのを感じた。
 恐怖?
 ……いや、違う。
 これは奴をぶちのめせるという期待から来る、武者震いだ。そう自分に言い聞かせる。
「よし、ちょっと様子を見よう。あいつら、一体何をやらかす気なんだ?」
「ロクでもない想像しか思いつかないよね。ね、オルハ」
「……え?」
 イチコに話を振られて、オルハはまるで今目覚めたばかりのように、ゆっくりと視線を上げながら、小声で答えた。
(……マズイな)
 それを見てランディは思う。「初めて人を殺した」というショックは、予想以上に彼女を動揺させている。パーティの任務遂行に、良くない影響を与えているのは、間違い無い。
 大丈夫なのか? ……いや、だからこそ、俺がしっかりしなければ。
「オルハ、いけるか? 無理しなくていいんだぞ」
「え、あ、うん。ボクは全然平気だよ、うん。」
 無理に笑ってみせるが、明らかに目が笑っていない。
「指示くれれば、ちゃんと作戦通り動くから。大丈夫」
 笑いながらガッツポーズをしてみせるが、オルハ本人も、どうにも違和感が拭えなかった。
 ……人殺し。
 その単語だけが頭に響く。
 かつてクズ鉄街で、ストリートチルドレンとしてロクでもない事を繰り返していた時にも、人殺しや人間を壊す事、それに繋がるようなことだけは絶対にしなかった。クスリは自分がやる事はあっても売った事はなかったし、人身売買に関連するような事もやらなかった。
 それは自分のささやかなプライドであり、生きるために何をしてもいいと考える奴らと、自分との間に一線を引くために……要するに自分が自分であるために必要だった。そしてそれを理解してくれ、自分を信じてくれる仲間も多くいた。
 だからこそ、ガーディアンズの掲げる思想はすぐに受け入れられた。奪うためではなく、守るために戦うのだという想い。それは、オルハが貫いてきたものと同じだったから。
(……今さらだけど、ファビアがあれだけ落ち込んでいたのがちょっと分かった……かも)
 自分の信念が強ければ強いほど、その反動も大きい。だが、それに負けるわけにはいかない。全ての人に理解してもらえる信念など、元々存在しないのだから。
「よしッ」
 ばちん、と大きな音が響いた。一同が驚いた顔でオルハに視線を集める。
 彼女は、両手で自分の頬を挟むように叩いていた。頬はみるみるうちに赤く腫れ、全力で叩いた事がすぐに分かる。
「準備OK。さあ、行くよッ」
 4人は放心したように、身動きもせずそれを見ていた。
「……? どしたの、みんなポケーっとした顔で」
「あ、いや、うん。それでこそオルハだよ。うん」
 イチコがはっと我に返って、少し気押されながらも微笑む。
「とりあえず、様子を見てこよう」
 ランディが言いながら、一歩踏み出そうとする。
「待った。ボクが行く。ランディみたいにデカイ人が行ったら目立っちゃうよ?」
「いや、それはまぁそうなんだが……」
 "……大丈夫なのか?"
 最後の言葉をそう繋げる事ができず、ランディは口をぱくつかせた。
「まかせてよ。忍び足なんかはボクの得意とする所でしょ?」
「あ、ああ、確かにそうだな。頼むよ」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe36 そろそろショーを始めようぜ
 気押されてそう答え、歩き出すオルハを見守った。全員その気持ちは同じようで、固唾を飲んでそれを見守っている。
「さぁて」
 オルハはゆっくりと息を吸って、足元を意識する。ゆっくりとかかとを地面に押し付け、反らせた足先を順に地面に置いてゆく――足音が、消えていく。
 ドアの近くに、爆破された鉄塊が転がっている。身を隠すのにちょうどいい。小走りでさっと近づき、身を潜める。
 そこからそっと顔を出して、部屋の中を覗き込んだ。
「……!」
 息を飲んだ。金髪の男が1人、そしてビーストが4人いるが、4人が遠目にもはっきりとビーストだと分かる理由があった。
 そう、それは彼らがビーストフォームを取っているからだった。
「あいつら……!」
 言うまでもないが、シティ内でビーストフォームを取る事は禁止されている。その強靭な本来の姿は、普通の人間よりも遥かに大きな力を持っているからだ。帯刀が禁止されているのと、まったく同じ理由だ。
 見ると、ビーストたちは大きなコンテナを運んでおり、それを奥の壁際に置いていた。
(あれが爆弾……!)
 嫌な想像が頭に浮かぶ。1メートル四方もあるような大きさだ、爆発すれば大変な騒ぎになるのは間違い無い。もしスペースポートが機能しなければ、コロニーは物理的に外界から孤立してしまう事になる。
 なるほど、確かに効率的ではあるが、非道な作戦だ。誰しも考えつくだろうが、それを実行する事を躊躇するものだろう、非常にゲリラ的だ。
 オルハはゆっくりと立ち上がり、皆の所まで戻ってくる。
「ランディ! まずいかも、爆弾を設置してる! しかもまたビーストフォームが4人も!」
 離れて声が出せるようになると、オルハは駆け寄る時間も惜しいかのように叫んだ。
「なんだと? まったくもって嬉しい贈り物だな。まさしくツマラ・ナイモノだ」
 苦笑するランディが悪態をついて呟いた。
「よし、突入するか」
「爆弾を爆発させたりしないかな?」
「あいつらも脱出する時間が必要だろう、大丈夫だ。行くぞ」
 ランディの声を合図に、全員が頷いて、得物を取り出した。一同の空気が、すっと研ぎ澄まされてゆく。
「作戦は?」
 ランディの隣を歩きながら、オルハが聞く。
「決まってる。"全てぶっ壊せ"だ」
 ヒュウ、とオルハが口笛を鳴らす。
「分かりやすい作戦だね」
「それがウリでね」
 そんなやりとりをしながら、5人は部屋に向かって進んでゆく。
「……よし、犬野郎は俺とヴァルがやる」
 ランディの声に、ヴァルキリーが振り向いた。それからゆっくりと、強い視線で見つめ返しながら頷く。
「こないだの借りを返そうぜ。あいつのフォトン吸収能力だって無限じゃないだろ、ヴァルの力が必要なんだ。……いけるか?」
「うん。まかせて」
 強い意思を感じる声で、ヴァルキリーは答えた。その声は、これから起こるリベンジに対して、どこか楽しそうでもある。
「オルハ、面倒かもしれねぇが残りをひきつけておいてくれねぇかな。犬野郎がボスだろうから、落とせば沈黙するはずだ」
「OK。存分にリベンジしといで。ボクとイチコのコンビネーションは最強だから」
「うん。ここなら剣も振り回せるし!」
「おいおい、私がサポートしているのを忘れないでくれよ」
 それを聞いて、ランディは冷静に優しく、微笑む。それから大きく息を吸ってから、走り出した。
「よし、行くぞ!」
 4人のビーストが、声に気づいて振り向く。少し遅れてジャッキーが振り向く。
 ……が、彼の形相はまるで別人となっていた。顔の左半分の皮膚が焼けただれ、目もほとんど見開けない状態となっている。
「ああっ……ランディ! 久しぶりだねっ、とっても会いたかったよぉ☆」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe36 そろそろショーを始めようぜ
 ジャッキーは大げさに両手を広げて突き出し、悦に入った表情で言う。
「俺はできれば見たくもなかったがな。……にしても、しばらく見ねぇうちに、ちったぁマトモな面になったじゃないか」
「ふふっ! バーバラさまが治してくれるって言ってくれたんだけど、僕はこのままがいいって言ったんだ。何故か分かるよね?」
「……」
「鏡を見るたび、僕をこんな目に合わせた、君を思い出せるから……さっ!」
 ジャッキーが両手を広げた。四肢が震えたと思うと、右手が、左手が、右足が、そして左足が……ビーストフォーム化してゆく。
「僕はね、バーバラさまの最高傑作なんだ、キラキラ輝く存在なんだ! だから負けないよ☆ キラッ☆」
 ジャッキーが右手をかざしてポーズを取るのを、ランディたちは冷めた目で見ている。そしてそのまま、ランディは両手を広げた。
「いいよな、犬畜生は。人間サマにへーこらしてりゃ、飯が食えるからな。……で、なんだい、コナンドラムってのは記憶をコピーするんじゃなかったか? 何をどうやったらお前みたいのが出来上がるんだ」
「ぷぷっ、しょうがないなぁ、教えてあげるよ☆」
 子供のようにケラケラと笑いながら、ジャッキーは続ける。
「人間は生きている間に10%しか脳を使わないって言うでしょぉ? 記憶ってのはさ、潜在的に眠っているものも含まれるんだよ」
 ふっと我に返ったように、オルハが顔をもたげる。
「まさか……DNAレベルの情報を……!?」
「おや、お嬢ちゃんかしこぉい! その通り、記憶ってのは何も、本人が覚えてることだけじゃあないんだよ☆」
「……ボクを子供扱いするな」
「ははっ! ガキほど背伸びしたがるもんだよねっ!」
「なんだとッ!?」
 クローを抜くオルハを、右手で遮ってランディが制した。
「なるほど、遺伝子レベルでコピーができるから、お前みてぇにビーストの能力を持った犬畜生が生み出されるわけか。その実験のために人を実験台にして……ニューデイズに死体を遺棄したのは、貴様らの仕業か?」
「うんうん♪ ちょっとした手違いだよっ、いつもはちゃんと片づけるんだけどね!」
「……もうひとつ聞く。モトゥブでキャスト隊を使って、ビーストをさらっていたのも貴様らか?」
「材料がなくちゃ、物は作れないからねっ! きゃははっ!」
「……それだけ聞けば充分だ」
 ランディを中心に、フォトンの光が瞬いた。ナノブラストによって、彼は本当の獣となる。
「さ、そろそろショーを始めようぜ。生憎俺は今、非常に機嫌が悪い。お前らのシナリオに従うつもりはない事だけは分かっておけ」
 ランディが親指を立てた指を突き出して、地面に向けた。
「ふふふっ……そうこなくっちゃあ! 楽しくなってきたよぉ!」
 ジャッキーの笑顔は、無邪気を通り越し、狂気すら感じさせていた。

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