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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe32 仲間なんだからな。

「おなかへった」
 オルハはベッドで上体を起こし、お腹に両手を当てて呟いた。G本部のメディカルセンターの病室で、また診療衣に身を包んでいる。
「はいはい。ほんとに元気だねぇ」
 隣のベッドでヴァルキリーが、うつぶせに寝転がって雑誌を読みながら、適当に相槌を打つ。明らかに心配はしていない様子だった。
 というのも、オルハの傷はそれほど深刻ではないのを知っているからだ。皮膚組織が完全に再生していなかったため傷が開いてしまっただけだったが、G本部のオルハの主治医からエマに連絡がゆき、『傷が完全にふさがるまで大事をとって安静!』とエマからもこってり絞られた挙句、大事をとって再度入院させられたのである……。
「うー、二日も動けないなんて。ひまだひまだー!」
「本でも読めばいいじゃん。ほら、好きなの読みなよ?」
 言ってヴァルキリーは、自分のベッドの傍らのテーブルに積み上げた、雑誌の山を促した。
「……ファッション雑誌ばっかりじゃん」
「うん、チェックしとかないとね。ホラ、"MATOI"の新作でいいのがあるよ」
 任務に就く際の服装は、指定メーカーの衣服のみに制限されてはいるが基本的に自由で、ガーディアンたちに評判の良いシステムだった。もちろんそれはガーディアンズにとっての規律維持や、機能面での意味もある。どんなに美しい衣服でも保護対象に威圧感を与えてしまったり、剣を扱う時に袖がひっかかってしまったり、その他ガーディアンとしての任務を阻害してしまうような服装だと任務遂行の妨げになるからだ。
 ただし、"ガーディアンズ公認"のお墨付きをもらうのはなかなかに難しい。発表までに数回の審査を受け、その条件を満たして初めてショップに並ぶ事になるのだった。
「どれどれ。へぇ、"ハナウラ"ねぇ……狙いすぎだよこれ。それにボク、スカート好きじゃないし、肌出すとお手入れ大変だしさー」
 オルハは雑誌の山から適当に本を取り、ぱらぱらとめくりながら言う。ニューデイズのMATOIというメーカーが発表したハナウラというシリーズを見ていたのだが、オルハはどうも気に入らないようだった。トップスは袖が無くて露出度が高く、スカートは後ろに大きくリボンのような布が着いており、それがオルハの趣味には合わないようだった。
「いつも太腿出してるじゃん。まあ、今度私がコーディネイトしてあげるからさ」
「うん、よろしくー」
 オルハが両手を伸ばして欠伸をしながら、ぞんざいに答えた。
「……あ、そういえば他のみんなは?」
「ファビアはなんか、ちょっと一人になりたいって。ネイはそれに無理やりついてった。ランディは意識不明の重体で面会謝絶だし、アナスタシアはカズン・ドッグで定期メンテナンス。イチコは"カマイタチ"が片付いたから、また教団の警護に戻ったよ。先生はボクらが持ち帰ったデータの整理と報告とに大忙し。そんなわけでボクは暇なわけだ。……ランディ、大丈夫かなあ」
 オルハはヴァルキリーの質問に答えてから、不意にうつむきながら静かに呟いた。
 ヴァルキリーはふっとその姿に視線を移して、わずかに口を開いたがすぐに閉じる。そしてまた雑誌に視線を戻した。
「……大丈夫だよ、彼はビーストだから回復力が高いし、そうそう死なないよ。心配?」
「ヴァルは心配じゃないの?」
「そりゃ心配だけど。でも、私もまだ完全に回復したわけじゃないから、自分の事で精一杯」
 茶目っ気たっぷりに舌を出して、ヴァルキリーは答える。かれこれ入院も三日目となり、本日午後の診察結果で退院が決まるというような切羽詰った状況で、人の事を心配している余裕はない事は想像がついた。
「あーもう、考える事がたくさんだぁー」
 オルハは体を倒して、ばさっとシーツをかぶった。どうやら、寝てしまおうとしているらしい。
「……もう少し、あと少しで何かが見えそうなんだけどなあ」
「? 何が?」
「ん、ちょっと実力不足を感じてて……必殺技みたいの必要だな、って……」
「あはは、必殺技って。ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし、そんなに気にしなくていいんじゃない?」
 ヴァルキリーは言いながら振り向いて、オルハが寝息を立てているのに気づく。あまりに無邪気なその光景に、思わず微笑んだ。
「うふ、寝る子は育つ、か……。……あれ、そういえばどこが育ってるんだろう……?」
 自分でツッコミをいれてから、寝息を立て始めているオルハを見る。それから視線を戻して、ヴァルキリーはゆっくりと息を吐いてから体を横に倒した。

「ネイ、離れていてください」
「うん」
 とててと走って、ネイが離れる。
 ファビアはそれを見送ってから、ゆっくりと息を吸ってから吐き出し、集中力を高めてゆく。
 彼の目の前には左右に一つずつ台が置かれており、その上にはそれぞれ小さな薪が立てられていた。
「はぁっ!」
 両手に一本ずつ持ったウォンドを同時に振りかざす。そして右手には炎を、左手には氷をまとわせる。
「おー! ふぁびあすごい」
「いえいえ。ここまではなんとかなるんです。問題はこれから……はぁっ!」
 両手を叩いて歓声をあげるネイに答えてから、ファビアは同時に両手のウォンドを振りかざした。右のウォンドからは炎の球が、左のウォンドからは氷塊が飛び出し、薪を狙って放たれる。
 ……が、ウォンドから離れてすぐ、炎球と氷塊は空気に溶け込むように霧散してしまった。
「う〜ん、やっぱりここが難しいですね」
 ファビアはがっくりと肩を落とし、両膝に手をついてため息をついた。
「二つ同時にフォトンを扱う事は難しくないんですが……それぞれを体から離してもフォトンを固定させ続けられるほどのフォトンを練りこむには……う〜ん」
 腕を組んでぶつぶつ言いながらファビアは考える。ラ=シークはフォトンを手元で固定させて戦っていたが、あれは高い格闘技術を持っていたのでそれでも良いのだ。
 だがファビアは高い格闘能力など持ってはいない。通常通りテクニックを使うのと同じ精度で、複数のテクニックを同時行使できなければ意味がなかった。
「練り込むフォトンの量を……いや、そうじゃない。空気中から集めるフォトンの量を……いや、それだとバランスが悪くなってしまう。う〜ん……」
「ねぇふぁびあ、おなかへった」
 独りごちながら考えるファビアにネイは声をかけるが、彼の耳には届いてないらしい。切なく鳴るお腹に手を当てて、ネイはため息をついた。
 ……でも、今自分がご飯を食べられるのはガーディアンの候補生となり、それをファビアが受け入れてくれたから。早く実践で使える能力を身に付けて、ガーディアンズに貢献して自分のご飯代を稼げるようにならなければいけない。
 そんな想いから、そこに置いてあった予備のウォンドを、ネイは何気なく手に取った。
(……ふぁびあは、なんていってたっけ……)
『……たいきと、ばいたいと、じぶん。すべてをひとつにつなげて、カタチにするんですよ……』
(すべてをひとつに……)
 ゆっくりと、ネイは瞳を閉じた。
 ……風。気ままに吹く風。
 ……自由な風も、時として鋭い武器になる。
 ネイは今、オルハの素早い動き、イオリのカマイタチとトモエの素早い動き、そしてファビアの行使するテクニック。全てのイメージをこめて、ウォンドをかざした。
「ええいっ!」
 ごう、と風が鳴った。一陣の風が生まれて渦巻く。そのまま風は塊となって一直線に飛び出し、台を巻き込んで薪を吹き飛ばした。
「!?」
 音に驚いてファビアが振り向く。台とネイを一目見て、全てをすぐに理解した。
「ネイ……まさか……ここまでの素養を持っているとは……」
 ファビアは目を疑って、繋がらない言葉を闇雲に綴った。目を見開き、まるでこの世のものとは思えないものを見るような顔をしている。
 その形相にネイは驚いた。きっと、何かいけない事をしてしまったのだと思い、きゅっと両目を閉じてちぢこまった。
「……ふぁびあ……わたし……」
「……すごいじゃないですか! ネイ!」
 ファビアは思わず、ネイの体を抱え上げた。高く持ち上げて嬉しそうにくるくる回る。
「……え?」
「若い時から、それほどの能力を持った人は見た事がありません! 素晴らしい!」
 ファビアはまるで自分の事のように喜んで、抱え上げたネイを笑顔でぎゅっと抱きしめる。あまりの勢いにネイは驚いて、強く抱きしめられたのに咳き込んだ。
「ネイ、あなたはとても素晴らしい素養を持っています。頑張って、いいガーディアンになってくださいね!」
「う、うん! わたし、がんばる!」
 ファビアはネイを降ろして、あふれる嬉しさを抑えようともせず、口を開く。
「さあ、まずは風の基本テクニックである"ザン"をちゃんと使いこなせるようになりましょう。さて、まずは手をこう構えて……」
 いつしかファビアは、自分の悩みも忘れてネイにテクニックを教え始めていた……。

 ……ああ、またこの光景だ。
 "ゴミ捨て場"に立ちながら、ランディはそう思った。
 直径100メートル、高さ200メートルほどのドーム型の大きな空間に、高さ20メートルほどのゴミが山になっていた。
 天井には直径5メートルほどの穴がたくさん空いている。毎週末の早朝、ここから処理施設から運ばれてきたゴミが投棄されるのだ。ここの住人はそれを"配給"と呼び、有難がっていた。
 ――だが、今日は様子が違っていた。
 ゴミ山の周りで、たくさんの人が死んでいた。喧嘩友達のニックは体がゲル化して内臓を巻き散らせていたし、情報屋のマックスは脳をはみ出させ、だらしなく舌を出したまま山の上で倒れていた。売春婦のジェシカは箱のようなものを抱えて座っているが、胸から上と左腕ををどこかに落としてきたらしい。
 ゴミ山の上に浮かぶ、大きな"邪な存在"。それが原因だ、というのは直感的に分かる。
 それは巨大な上半身、と形容するのが適切かと思えた。肩幅は15メートルほどの大きな体で、首は無い。胸のやや上部に巨大な顔らしきものがついている。大きな体からは20メートル以上ある2本の巨大な腕が生え、そのすぐ下から少し小さな腕が2本生えている。皮膚は黒光りしており、体毛らしきものは一切無い。胴に隆起した肋骨のような蛇腹が見え、所々硬質化した皮膚が鋭利な形状を形成し、そのシルエットをより無骨に見せていた。
「あ……」
 それを見て、ランディは絶望する以外の手段を取れなかった。
 いつも通りゆっくりと呼吸しているだけなのに、肩がいやに上下する。だがその労力に見合わず、肺を満たす空気は凶々しく吐き気をもよおさせた。
「いぃやあぁぁぁぁっ!」
 高い女性の声と同時に、火花が散った。
 長い銀髪の小柄な少女だった。赤く光る金属剣を片手に、その邪な存在と戦っていたのだ。
 戦いは均衡していた。邪な存在が少女を殴りつければ、少女が斬りつける。技と力の応酬が繰り広げられていた。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe32 仲間なんだからな。
 ランディはそれをただ、ぼーっと見上げていた。
(俺は無力だ……)
 この小さな子供の体には、彼女を助けられるだけの力は無い。喧嘩ならともかく、武器を使っての実戦経験も無い。ただ、見守るしかなかった。
 不意に、少女の体が飛んだ。
 剣が左から右へ、横一文字に振り抜かれる。剣から白い光を帯びた衝撃波が発生し、剣先が通り過ぎた後に足跡を残すかのように、空中に孤を描く。
 剣先と白い光が一体となり、邪な存在の顔を切り裂いた。
「わたくしの力、感じなさいッ! 奥義、グランドクロスッ!」
 今度は上から下へ。顔に十字の傷を刻む。
『ぐああぁぁっ……忌まわしい、忌まわしいぞおぉぉぉぉっ。』
 邪な存在の輪郭がわずかにブレた。表面が蒸発するかのように気化し始めている。
「やったのか!?」
 ランディは思わず、ガッツポーズで叫んでいた。明らかにあいつは傷つき、倒れかけている!
『くううぅぅぅ……あと16年。あと16年で"合"が訪れる。我はこの時を1000年も待ったのだぞ!』
「それではもう1000年、休まれるとよろしいのでは?」
『小娘がああぁぁぁ、調子に乗りおってえええぇぇぇ……!』
 邪な存在の腕が少女を殴りつける。軽く宙を舞い、ランディの近くに落ちた。受け身も取れず、地面に直接叩きつけられる。
「……大丈夫です。もう少しですわ」
 少女は四つん這いのまま顔だけを向けて、呟くように言う。微笑んだ額には脂汗がにじみ出ており、大丈夫でない事ぐらいランディにも容易に想像がついた。
「でも、でも……」
「……ふふ。少年、名前は何と言うのです?」
「え? あ、ああ……俺はランディ」
 それを聞いた彼女はまた微笑みながら続ける。
「ランディ……いい名前ね」
 その笑顔を見つめ返すと、急に辺りが白くフラッシュバックしてゆく――。

「う……」
 ランディはゆっくりとまぶたを開く。首だけを動かして、辺りを見渡した。
 見覚えのある、ガーディアンズ・コロニーのメディカルセンター。ランディはそのベッドの上だった。その経緯が分からず、曖昧な記憶を辿る。
 ……フライヤーの中で少しだけ休むつもりで眠って……。
 それからどうなったんだ?
「ランディ……」
 ベッドの横の椅子に座っていたアナスタシアが、遠慮がちに声をかけた。その後ろからファビアとネイが、隣のベッドからオルハが、驚いた顔で覗きこんでいた。
「……何故泣いているのです?」
「……ん? ああ……夢だ。よく見るんだ」
 ゆっくりと上体を起こしながら言って、ランディは手の甲で涙を拭った。
 ……またか……。一体何なんだ、この夢は。こんな体験をした記憶など無いのに。
「ん……?」
 そういえば、こんなに短期間に二度もこの夢を見ている事に気づいた。昔からたまに見ていたが、こんな短期間に二度も見たのは初めてだったのだ。
 ……だが、そんな事を言っている場合じゃない。ランディはかぶりを振ってから、口を開いた。
「ああ、すまん、気にしないでくれ。……それより、すまねぇ。ちょっと休むだけのつもりだったのに」
 ランディは重苦しい感情を押さえつけながらアナスタシアを見て、軽く頭を下げる。
「気になさらないでください。それより、とても危ない状態だったのですよ? 丸二日も眠っていましたし」
「……そんなに寝ていたのか?」
 アナスタシアが無言で頷く。
「あのね、アナスタシアがずっと看てくれてたんだよ〜。ひゅーひゅー♪」
 オルハが右掌を口の横で立てて、にやけながら茶化した。
「それは、指揮官のわたくしの責任ですもの……当然の事ですわ。幸い、睡眠はあまり必要ありませんし」
「それはちょっとうらやましいですね」
 ファビアがサングラスをずり上げながら、ズレた所に感心する。隣でネイが、意味も分からず大袈裟にうんうんと頷いていた。
「回復力が高いので大丈夫だとは思いますが、本日一日は絶対安静にしてください。分かりました?」
「ええ〜……つまんねぇ」
「指揮官命令です。わ、か、り、ま、し、た、か?」
「……へぇい……」
「よろしい」
 うなだれるランディを見て、アナスタシアは満足そうに腰に両手を当てる。悪戯に微笑んでから、オルハたちに振り向いた。
「では、これだけ人が集まったのですから、明日の全体ミーティングに備えて情報交換などをしたいと思うのですが?」
「ほーい」
「はい」
「へいへい」
 アナスタシアは携帯端末を取り出し、画面を見ながら続けた。ランディも上着から携帯端末を取り出し、寝転がりながら画面を指で叩く。
「まずはファビアとオルハ。ゴーヴァ鉱山はどうでしたか?」
「やはり、ラ=シークはバーバラと繋がっており、コナンドラムの資金源となっているようです。また、彼は元ガーディアンで、ヒューマン至上思想を持っていました」
 ファビアの説明にオルハがうんうんと頷く。
「あとさ、あのおっちゃん、フォトンをワンドに固定して、それで戦うという特殊なフォースだったよ。スッゲー強かった」
「なるほど……無視できない存在ですわね」
 アナスタシアが頷きながら端末に入力してゆく。
「わたくしたちの方は、飛び立ったフライヤーを追いましたが、逆にコナンドラムの施設の一つへ誘いこまれ、見ての有様ですわ」
 彼女の言葉に、ランディが両手を広げてやれやれ、と呟いた。
「そういや謎のメッセージカプセルがあったな」
「あれが一体どういう意味を持つのかは分かりませんが……解析結果によると、約30年前、ニューデイズで撮影された事が判明しました。映像に映っていた人物の情報も、ガーディアンズのデータベースには存在していませんでしたわ」
「つまり、ガーディアンズの立場から見て、協力する者でも敵対する者でもない、という事ですか」
 ファビアの疑問にアナスタシアは頷く。
「あと、コナンドラム絡みの任務で怪我人が増えている事もあり、人員増強を本格的に行う事が決まりましたわ。今後どのような戦略で任務に就くかは、明日のミーティングでお話しできるかと思います」
 全員が頷くのを確認して、アナスタシアは携帯端末をしまう。
「では、何か皆さんの方からあります?」
「あー……、あくまで推測の域を出ねぇんだが、聞いてくれるかな」
 ランディが切り出した。
「今回、こちらの行動を把握した上で、向こうは行動しているように見えた。そんなわけで、スパイの存在を懸念してる」
 一同がざわついた。
「情報が漏れてるとしか思えないほど、コナンドラムの対応が早ぇんだ。モトゥブに降り立って、ヴィオ・トンガに向かうまでに包囲網を完成させてるわ、施設内に誘い込まれた挙句に叩くなんて、そう簡単に実行できる作戦じゃねぇ」
「そういえば、ラ=シークは元ガーディアンでしたし、その関係で内部と繋がってるという可能性は否定できませんね……」
 神妙な顔つきでファビアが呟くのに、皆は難しい顔のままで頷く。恐ろしい現実が口を開けているかもしれないという事実が、場の空気を重いものにした。
「……そうですわね。その件に関しては独自調査を開始しますので、何か分かったらご報告いたしますわ」
「……あの、次は私からいいですか?」
 ファビアが軽く手を上げて続けた。
「任務とは直接関係ないんですが、いいニュースです」
 言って立ち上がり、ネイの頭に手を置いて続けた。
「ネイが、風系テクニックである"ザン"を習得しました。今後の実戦経験でさらに能力を上げていくと思います」
 おお〜、とみんなが声を上げる。
「これからも頑張って、立派なガーディアンになってください。期待していますわ」
「よくやったな、おめでとう!」
「おめでと〜! ボクも負けてらんないな」
 全員の祝辞にネイは照れて、ファビアの後ろにひっこんでしまう。そして、聞こえるか聞こえないかの声で、
「あ、ありがとう……」
 と呟いた。

 メディカルセンターの入り口の脇の喫煙ルームで、どっかりと椅子に座って葉巻の煙を吐きながら、ランディは天井を見ていた。当然だが、コロニー内は人工空気で満たしているため空気に関してはとてもうるさく、喫煙所も小屋のような小さな建物が用意してあった。
 ……何が怖いんだ、俺は。
 いや、死にかけた事が怖いのではない。物心ついた時からスラムで暮らしていたランディにとって、死はとても身近でリアルな日常だ。
 ……じゃあ俺は今、何に恐怖してるんだ?
 煙をぷかっとドーナツ型に吐いて、彼は天井を見つめ続けている。例の夢のあとはナーバスになってしまって困る……。
「あら、お上手ね」
 不意の声にランディは振り向いて、そこにアナスタシアが立っている事に気付いた。
「怪我人だとは思えませんわ」
「病室は退屈でね。医療班の看護師はコルトバみてぇだし、何より飯が不味い」
 にやりと笑うランディに、アナスタシアは苦笑して両手を広げた。
「隣に座っても?」
「ああ」
 アナスタシアが隣に腰を降ろす。両手の指を合わせて組んで、太腿の上にそっと置いた。
 身長2メートルを越えるランディから見て、この有能な指揮官はあまりにも小さい。だが、ランディにはとても大きな存在のように感じ始めていた。
 その重苦しい空気に耐えられず、ランディはとりあえず口を開く。
「……迷惑かけてすまなかったな」
「あら、気にしなくても構いませんわ。任務遂行できればそれでいいというものではありません。誰1人死なせない事も、わたくしの任務だと思っていますわ」
 アナスタシアは微笑みながら振り向き、どこか照れたように組んだ指を何度か組みなおした。
「……そもそもあんた、なんでガーディアンズに?」
「そうですわね、いろいろありますけど……」
 不意にランディが聞くのに、アナスタシアは首をかしげて視線を上に向け、しばし沈黙の時間を作る。
「世の中というものは、非常に不公平で理不尽です。わたくしも別に人類皆平等など掲げるつもりはありませんが、時々起こる"不幸"を少しでも減らしたいのです」
「……"不幸"?」
「不慮の事故や犯罪に巻き込まれる……そういった類の悲しい出来事ですわ。人間、どれだけ警戒していても防げないものは防げません。そういった方たちの力になれればと考えております。……これで答えになっていますか?」
 ランディは深く頷いた。
 ……なるほど、そういう観点か……。
 ガーディアンズに求められるものは、ほとんどの場合"守る"こと。それは依頼人だったり物だったりと様々だが、最終的には"グラールの平和"という大義名分に行き着く。そういう観点から見れば、アナスタシアの回答はほぼ100点満点と言っても過言ではない。
 しかし、正直な所ランディにはそこまでの立派な理由は無い。自分の仲間だけを守れれば、それでいいと思っている。その力を得るためにガーディアンズに入ったのだ。
 今だにビースト差別は根強く、"水晶の夜"で多くの同族を失ったランディにとって"平等ではない"という所までは同じ考えだと思えたが、それ以降は正直どうでも良かった。力無き者が死ぬのは自然界の摂理だったし、ランディ自身の存在もその流れのひとつだと考えていたからだ。
「まあ、それは分かるけどな」
 そんなわけでランディは曖昧に答えた。少なくとも、"理由"について自分が問われても、彼女のように優等生的な答えを返せる自信は無かったし、議論しても仕方ないと思ったからだ。
「……こういう事を言うから、キャストといえば"理論的・現実的で感情に乏しい"と思われてしまうのでしょうか」
 ふと、アナスタシアは少し俯いて、独り言のように呟く。ランディはぎょっとした。
「違う、そうじゃねぇ! 俺が言いたいのはそういう事じゃねえ。別にあんたの意見を否定してるわけじゃねぇんだよ。ただ、俺にはそういう考えが無くてだな……」
「……やはり、わたくしの意見は少数派なのでしょうか」
 ランディははっとなって、右手で自分の口を覆った。
 ……しまった。今の発言は"あんたとは考え方が違う"と言っているようなものじゃねぇか。
「あー、そのだな……」
 頭を掻きながらランディは言いかけて、自分を見つめるアナスタシアの視線を見つめ返した。
 その大きな瞳は好奇心で見開かれ、次に起こる出来事に期待と羨望の感情がこめられている。
(……)
 任務中に見せる顔とは違う、一人の人間としての顔。その一面を覗いた気がして、ランディは言葉に詰まった。
 何と言ってやればいいか分からない。次の言葉を考えている今の自分も、分からない。
 ただ、戸惑っていた。
「自分の意見を理解してくれる人が多いか少ないかなんて、大した問題か? あんたは自分の信念を信じる。俺は俺の信念を信じる。それでいいんじゃねぇか?」
「……それもそうですわね」
 アナスタシアが目を細めて微笑んだ。彼女はその言葉が欲しかったのだろうか、それは素直な微笑みに見えた。
「……お話しを聞かせてもらうつもりだったのですが、逆にわたくしが話してしまいましたわね」
「そんなこたねぇさ。あんたの任務に対しての考え方、参考になった」
「そうですか? そう言って頂けると気が楽になりましたわ」
 言いながらアナスタシアは立ち上がり、両手を上にあげて伸びをする。
「……ところで、なんだか顔色が優れないみたいですが。悩み事でも?」
 急に話題を振られてランディは回答に詰まる。
 別に隠す必要も無いが、こっちの都合で相手を悩ませるわけにもない。そういうわけでランディは表情が見えないように太腿に両肘を預けながら、頭を掻いて続けた。
「……病み上がりだから、そう見えるんだよ」
「では、そういう事にしておきましょう。明日のミーティングには、遅れないようにしてくださいね。それでは」
 全てを悟ったような微笑みを見せながら、アナスタシアは歩き出した。
 それから2、3歩歩いてから、思い出したように振り向いて口を開く。
「……何かあったらなんでも相談してくださいね。わたくしたちは、仲間なんですから」
「……ああ、あんたこそな」
 両手を開きながら微笑んで、ランディは答える。
「ええ、もちろん。……あ」
 アナスタシアは微笑んでから頷く。それから思い出したようにはっとなって、続けた。
「あと、コナンドラムの施設では助かりました。改めてお礼を言わせて頂きます」
 両手を前で揃えて、ゆっくりと頭を下げながら言うのに、ランディは少し驚いた顔をした。
 ……そこまで考えていなかった。
 仲間を助けるのは当たり前の事だし、お礼など期待していたわけでもない。
「礼を言うほどの事じゃねぇよ。仲間なんだから当然だろ?」
 にっと八重歯を覗かせてランディは微笑んだ。それにつられて、アナスタシアも微笑む。
「ありがとうございます。それでは、また明日ですわね」
「ああ」
 少し手を振ってから歩き出すアナスタシアの背中を見送りながら、ランディは葉巻をくわえて火をつけた。
 ……正直な所よく分からないが、多少は腹を割って話せた気がするので良しとしよう。
「……しかしまぁ、無邪気に微笑むものだ。キャストというのは感情が無くていけすかねぇ奴ばかりだと思っていたが、そうでもねぇらしいな……」
 無邪気な微笑み……。
 そこまで考えてから、ランディはふと思い出し、動きを止めた。半開きの口から葉巻がぽろりとこぼれて落ちたが、ランディはそれを気にする様子も見せない。
「まてよ……」
 ランディはふと気付いて、考え込んでしまう。
 彼女の無邪気な微笑み……それが自分の心の中の何かを刺激しているような気がする。
 しばらく考えても答えは出ない。ランディは諦めて、病室へと歩き出した……。

「あ〜ひまひま。遊んで、ランディ」
 夕食後すぐ、隣のベッドでオルハがわめきたてた。
「ん……後でな」
 ランディはベッドに横になったまま、天井を見て考え事をしている。その中途半端な返事にオルハはムッとなった。
「なんだよそのそっけない返事!」
 ばっ、とオルハが自分のベッドから飛んだ。ランディの腹にどかっと飛び乗って、ちょうど胴にまたがる形になる。
「げほっ!」
「どうした、今日はノリが悪いぞ」
 そのまま顔をぐいっと近づけて、オルハは悪戯な笑みで聞く。
「なんでもねぇよ。……つか俺、病み上がりなんだが」
「ヴァルが退院しちゃったから、ボクはすごく暇なんだ。だからボクと遊べ」
 ランディの弁解を聞かず、オルハは胸を張って両手を腰に当て、言い放った。
 ヴァルキリーは昨日退院しており、それと入れ替わりでランディが入院したのだが、それを理由にされても困るというのがランディの本音だった。
「……お前は脳天気でいいなぁ」
 まるで子供を見るような目で見つめながら、ぼそっとランディが呟いた。
「あ、今コドモ扱いしたな?」
「してませんオルハ様」
「ならいい。でも、ボクだっていろいろ悩んだりするんだよ」
 即答するランディに、オルハの表情がちょっとだけ曇った。
「分かってる。付き合いも長いしな」
 ランディは慌てて答える。
 付き合いが長い分お互いを理解しあえているという安心感からか、ランディは何気ない自分の言動がオルハを不安にさせた事を後悔した。
「ランディもなんか悩み事があったら、一人で悩まず相談してよ? ボクたち仲間なんだから」
 だが、オルハはすぐにいつもの笑顔になって言う。
「ああ、分かってるよ。オルハも何かあったら相談してくれ」
 やっとランディが微笑んだ。オルハはオルハなりに、自分の事をすごく心配してくれてるのが伝わったからだ。
「とにかく、だ。すまねぇが今日はさすがに疲れてる。寝かせてくれるか?」
「しょうがないなぁ」
 渋々と自分のベッドに戻るオルハを見送って、掛け布団を全身に乗せる。
 ……と、ここでランディは不可解な事に気付いた。急に焦った顔になって上半身を起こす。
「って、ちょっと待て。なんで俺とお前が同じ部屋なんだ?」
「へ?」
 オルハを指さして、今度はランディが喚き出す。
「男と、女だろ! 同じ部屋ってどういう事だって言ってんだよ!」
「あー、SEEDのせいで怪我人が多いからって聞いてるよ。空いてる部屋無いんだって」
 ランディは苦虫を潰したような顔のまま、手のひらで自分の顔を覆って「あちゃー」と呟いた。
「何? ランディ、ひょっとして照れてんの? ……あ、もしかしてエッチな事考えてる?」
「……考えてねぇよ」
「あ、いま変な間があった。やっぱ考えてるんだ、男は狼だもんね、ビーストだけに! あははは!」
 オルハのからかいに少し苛ついたランディは、売り言葉に買い言葉で言い返す。
「いい加減にしろ、お前みたいなガキ相手にそんな事考えるわけねーだろ」
 その瞬間。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe32 仲間なんだからな。
 ぴき、っと空気が凍った。
 オルハの顔が、いやになるぐらいの笑みを浮かべている。その目は怪しい光を放っているように見えた。
 ランディはハッとなって口を覆うが、すでに遅い。ゆらりとオルハは体を揺らして、絞り出すような声で言って、ゆっくりとベッドから降り始めた。
「……ランディ君。いま、ボクを"ガキ"扱いしたね?」
「いえ、してませんからオルハ様、その変な首の傾きがすごく怖……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ……!」
 夜のメディカルセンターに、ランディの悲鳴がこだました。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
※作中の表現や描写、ならびに使用している画像などは、ゲーム内で再現できるものとは限りません。
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