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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe31 立派なガーディアンですわ

 第二層。ここは地図データによると研究設備が整った、研究者のための階層だった。
 エレベーターホールの正面の長い廊下の両側には、たくさんの扉が並んでいるはずだが、目の前の扉で塞がれている。
「さて、どうやって扉を開けるか……」
 ランディが呟くように、歯切れの悪い言葉を綴った。目の前の大きな両開きの扉は閉ざされ、重厚な雰囲気で見る者を圧倒する。
「さて、どうしたもんか」
「まずは警備室を落としましょう」
 アナスタシアのあまりにも単純で簡単な事を伝えるような言い草に、二人は返答に困る。言うのは簡単だが、それが難しい事だというのは想像がついたからだ。
「まあ……確かにそうだな、このフロアがどうなっているかの情報も欲しい所だしな」
 ランディがその意見に、納得して答える。
「そうですね。今このフロアがどうなっていて、どのような動きをしているかなどの状況を知ってから作戦を考えましょう。もちろん、ついでに警備システムをフリーズできればなお良しですわ」
「ごもっともだな。抑えちまおう」
 言いながらランディはアナスタシアの端末を覗きこんだ。
 地図を見ると、長い通路の両側にいくつかの扉があり、それぞれの研究部屋へとつながっている。やがて通路は左に折れて、そこに非常用の階段があった。
 一番手前、エレベータールームのすぐ右手に、警備室はある。奥へ行く際には必ず警備室の前を通らなくてはいけないようになっており、当然の仕組みと言えた。
 地図上で見ると、警備室は出入りをチェックする窓口を兼ねた2メートル四方の部屋がまずあり、その奥に4メートル四方の部屋があった。
「とりあえず」
 ランディは言ってエレベーターホールの右端を促した。ちょうど警備室の受付から死角に入る場所だった。
 全員でそこに移動してから、ランディがゆっくりと口を開く。
「問題はどうやって突破するかだな。ま、ジャマートラップの効果があるうちに扉を開けてしまって、中に入っちまうのがいいか?」
「確かにそうですが……わたくしたちが協力できませんので、一人に負担がかかってしまうのが心配なのと、脱出方法が分からない、この二点が気になる所です」
「ううん……なぁ、地図と一緒に奪った認証用センサーは使えないのか?」
 ランディの提案に、アナスタシアは渋い顔をする。
「おそらく入れるとは思いますが……カメラに姿が残ってしまうのが問題だと思います」
「ああ、分かった。じゃあ、両方使やいいんじゃねぇか?」
「ですが、それだと警備室内部の探索ができませんわ」
 首をひねりながら、すぐにアナスタシアが答えた。
「じゃあ……どうする?」
 ランディは少し苛ついた表情で言った。
 面が割れる事は確かにリスクを背負う事なのは分かっているが、アナスタシアはバーバラに面が割れているし、ランディ自身もコナンドラムの面々とは何人か遭遇してしまっている。
「それより、情報を優先すべきじゃねぇかと思うんだが?」
 確かに、ランディの言う事ももっともだった。確かに今、なりふり構っていられない状況に3人は直面しているのだ。細かい事を考えても仕方が無い、ランディが言うことも当然だ。
「……」
 アナスタシアは無言で天井を見ながら、考えていた。
 ……そもそも、だ。
 なぜ、この潜入はうまくいっているのだろう?
 プルミエールと交戦した時点で、周辺にガーディアンズがウロついているのは分かっているだろうし、もう少しは警戒してもいいものだ。確かにここへ向かっていると公言したわけではないが、可能性は否定できないはず。厳戒態勢もバーバラたちが去るとすぐに解除されてしまった。もう少し警戒してもいいだろうに……。施設から近い場所で敵対組織と交戦したのだ。警戒し過ぎて取り越し苦労、で終わるのが一番良い結末ではないのか?
 ……もし自分が管理者だったらどうする?
「……アナスタシア?」
 沈黙に耐えられずランディが声をかけた。急な機能停止を心配したという理由もある。
「……わたくしだったら……answer1、周辺の警備を固め、侵入者の存在を気にしますわ。そう、近辺に確実に敵がいるのですもの。何かの間違いでこちらに来る可能性はありますわ」
「……?」
「……ああ、お気になさらず、考え事ですわ。……answer2、存在を発見次第、殲滅するための専用部隊を編成して、捜索にあたらせますわ。……何せ施設内には組織のボスもいますもの。何かあっては問題ですわ」
 きょとんとしてランディとテイルは顔を見合わせていたが、彼女の発言を聞いてだいたい分かったらしい。テイルがその後に付け加えた。
「この施設がどういう意味を持つか、というのが分かれば、まだ明確な考察ができるのだが……」
「それもその通りですわ。扱っている情報はどのようなものか、施設の位置づけは……」
 テイルとアナスタシアの顔を見てから、ランディが口を開いた。
「……まぁ、逆に考えてみようぜ。コナンドラムの目的はなんだ? 研究を進める事が大事なわけだろ?」
 はっ、と弾かれたようにアナスタシアが顔を上げる。同時に、エレベーターのランプが付いて、第二層を示した。アナスタシアは迷いなくマシンガン2丁を両手に構え、エレベーターに銃口を向ける。
 バーバラが去り際にプルミエールに何かを耳うちした事、バーバラが残した「また会おう、アナスタシア」という言葉、そして、あまりにも不自然に緩い警備。
 そして……前回"してやられた"という事。
 全てが瞬間的に一致した。
 それに二人も反応する。ランディが斧を取り出しながら、アナスタシアの小さな背中に合わせるように警備室側を向く。テイルもボウガンを構え、エレベーターと警備室、その両方を見渡せるように少し下がった。
「answer3、誘い込んで殲滅する……!」
 エレベーターのドアが開くと同時に、ためらわず引き金を引いた。中にはキャストが二人。油断していたのか、ろくな回避行動も取らずに銃を取り落とし、蜂の巣にされる。
 銃声が響いて5秒、警備室の奥からドアの開く音が聞こえた。ランディは迷わず斧を振り上げる。ひと呼吸置いてから、ドアに向けて左から右へと叩きつけた。ドアが開いたと思った瞬間、ドアの破片と一緒にキャストの破片が飛び散った。
 10秒たって、天井の赤い回転灯が回りだし、ブザーが鳴り響く。
「閉じ込められましたわ」
 エレベーターのスイッチを叩きながら、アナスタシアは苛ついた口調で言う。エレベーターはスイッチを押しても、何の反応も示さなくなっていた。
「脱出経路は?」
「非常階段が扉の向こう、一番奥に。それ以外には一切ありませんわ」
「なら、やるしかない!」
 ランディが斧を振り上げて、奥へと続く扉に叩きつけた。めきめきと不吉な音を立てて、扉がひしゃげる。数回叩きつけると、扉は変形した鉄の分厚い板となり、床に転がった。
「わたくしがすぐに警備情報を集めます。二人は奥へ」
「しかし、それは危険だ」
 テイルが眉をひそめて悲痛な顔で言うのに、アナスタシアはゆっくりと息を吸ってから、静かに口を開く。
「ですが、どのような警備状態かを把握し、それを解除できれば他に脱出手段を見つけられるかもしれません。だからお二人は先へ。大丈夫、すぐ追いかけます。二人とも、インカムを着けていて。随時状況を報告します」
「……分かった、なんとかしよう」
 奥から足音と声が聞こえてきた。ひとつしかない非常階段から、キャストたちが来ているのだろう。
「テイル、ありがとう。ランディ、お願いしますわね」
「分かったよ。安心してこっちはまかせときな」
 ランディが走り出した。その後ろからテイルが追いかける。
 アナスタシアは警備室に駆け込んだ。奥の扉を蹴り開け、壁に並んだモニターとコンソールをざっと眺める。
 ……第二層をコントロールしているのはどれ? もしくはメインコンピューターと接続しているものは……?
「どれだけの権限を持っているのかしら、ここは……」
 キーボードを叩きながら、少し早口で独りごちる。
「埒があかない。フルパワーでいくしかないですわ」
 アナスタシアの両手のカバーが開く。そこから何本ものコードを引っ張り出し、手際よくコンピューターに接続してゆく。
「強制的にこじ開けさせて頂きますわよ……」
 アナスタシアがゆっくりと瞳を閉じた。壁の向こうで、喧騒と共に激しい打撃音が聞こえた。
 キーボードを叩きながら、脳内に直接流れるインターフェースを瞬時にコントロールしていく。
 ――あった。まずは厳戒体制を解除。すぐに回転灯とブザーが動きを止めた。
 次は施設の機能制限を解除。エレベーターなどの機能を回復……エラー。管理者権限を持った端末以外からは解除できない? じゃあ、ホストはどこ?
 施設内の地図を引っ張り出してきて……確認。第三層にコンピュータールームと格納庫がある。
 ならば、第三層まで降りてホストを操作し、そのまま格納庫のフライヤーを奪って脱出。これが一番現実的だ。
 アナスタシアは端末からコードを引き抜く時間も惜しいと言わんばかりに立ち上がる。また、壁の向こうから激しい打撃音が響いた。
「さて、次はどいつが相手だ?」
 肩で息をしながら、ランディが不敵に笑いながら言った。足元には20体以上のキャストが倒れているが、ランディ自身も体の至る所から血を流している。テイルも明らかに疲れた表情をしていた。
 その状況に怖じ気づいたのか、四人のキャストが目の前で銃をかまえたままで躊躇していた。
 通路はまっすぐ伸びてから、左に曲がっていた。この先には研究者用の娯楽室、喫煙室があり、通路の突き当たりに非常階段がある。
 ランディはその角の手前に陣取り、角から姿を表したキャストを片っ端から打ち倒していた。奥には狙撃手もいたため、下手に出ると蜂の巣にされかねない。
「あ〜……旦那、大丈夫かい?」
「私はまだ大丈夫だ」
 答えるテイルも、明らかに声が疲れていた。
 しかし、角を越えると狙撃されてしまうのでなかなか先に進めない。
 ……なんとかして階段まで向かう方法はないだろうか……?
 確か、左側は喫煙室になっていたはずだ。この壁をぶち抜いて、さらに奥の壁をぶち抜けば一直線に向かう事ができる。だが、壁をぶち抜く前にこちらがやられてしまうのは目に見えている。
 ……どうする?
 ランディは考える。目の前にいるキャストを旦那に担当してもらってそのうちに……いや、そもそも狙撃と牽制を得意とするテイルにまかせるのは間違っている。なんとかキャストたちの動きを止め、壁をぶち抜く方法はないものか……!
「……お、おお? そうだ、なんで気付かなかったんだ。これがあったじゃねぇか!」
 ランディは不適に笑いながら、大きくガッツポーズを取ってみせる。
「旦那! 合図の後に、目の前のこいつらを頼む!」
「分かった!」
 ランディはナノトランサーから引っ張り出す。
 全長1.5メートルの破壊兵器、バランツランチャーを。そのまま脇に抱えて、キャストたちに向けて引き金を引く。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe31 立派なガーディアンですわ
「!」
 キャスト兵たちだけではない、テイルもこれには驚いた。
 室内で、しかもこの至近距離で、ランチャーをぶっぱなすだと!?
 ドシュッと四発のミサイルが飛び出す。弾速は遅いものの、確実にキャスト四体にめがけて飛び込んでゆく。反動でランディはよろめき、二歩ほど後ずさった。
「うおおぉぉぉっ!?」
 ドガァンと激しい爆発音と、飛び散る火花と煙。衝撃でキャストたちは壁に叩きつけられ、転倒する。
 テイルはこの隙を逃さない。煙にまぎれて飛び込む。
「恨みはないが、まだ死ぬわけにはいかないのでね」
 倒れたキャスト兵の顔面にボウガンをつきつけ、ためらいなく引き金を引く。
「ヒュウ! たまらねぇな!」
 子供のようにはしゃいで、ランディは左の壁に向き直ってもう一発ぶっぱなす。激しい爆発と同時に、壁が吹き飛び曲がり角が吹き飛んでしまう。
「よっしゃ! ……ん?」
 見ると、白衣を着た研究者らしき男性が二人、部屋の隅で震えていた。ランディはすたすたと歩み寄ると、頭を抱えておびえる研究者たちを気にせず言った。
「おっと、邪魔したね。まあ、入り口が増えていいよな?」
 ランディは彼らの足元に落ちる煙草を一本左手で拾い上げながら、口にくわえる。
「こいつは工賃としてもらっとくぜ」
 研究者は人形のようにカクカクと首を縦に振る。
 ランディは先ほどの爆発で引火した個所から煙草に火を点けて、一息吸ってからゆっくりと吐き出した。
 それから、右奥の角に向けてもう一度ぶっぱなす。激しい音と共に壁が吹き飛ばされ、非常階段へと視線が通る。煙の中の悪い視界が幸いだ。ランチャーをナノトランサーに放り込みながら、ナックルを取り出し、そのまま走り出す。
 煙の中から素早く飛び出す影に、狙撃手は対応できない。ランディは跳躍の勢いで拳を狙撃手の顔面へ叩きつける。その勢いでふっ飛んで、後ろの階段から転げ落ちた。
 残るはもう一人。煙の中から現れた獣にひるんで、一瞬動きが止まる。そこへ、煙の中から何かが飛び出してくる。テイルの左腕だった。
「一人じゃ寂しいだろう?」
 至近距離でボウガンの矢をまともに顔面にもらう。反動で銃を取り落とし、そのまま階段を転げ落ちた。
『ランディ、テイル、聞こえますか? 第三層にホストコンピューターと格納庫があります。ホストを操作して施設の機能回復を行い、格納庫のフライヤーを奪取して脱出します。いいですか? 私も今そちらへ向かいます』
「ナイスタイミングだ。じゃあこっちは塞いでおこう」
 インカムから聞こえる声に答えながら、ランディは上り階段の踊場にトラップを放り投げた。踊場に転がったと思った瞬間、激しい豪火が荒れ狂う。ランディは短くなった煙草を、そこめがけて指ではじいた。
「これで増援は経った。行くぞ!」
 ランディが階段を一気に飛び降りる。先ほど落ちたキャストを思いっきり踏みつけ、下へと向かう。
 その後にテイルが続き、少し遅れてアナスタシアが続いた。

 第三層。階段を降りるとまるで地下駐車場のような、いやに広いスペースが広がっていた。フライヤーが何台か止まっており、奥の壁面近くに出動時の発射台のようなものが見える。出動時にはその床がせり上がって、地表まで運んでくれるのだろう。
「あの扉ですわ」
 このスペースの壁面にあるいくつかの扉。左側のひとつに、"コンピュータールーム"と書かれた扉があった。
 迷わず駆け寄り取っ手を引くと、すんなりとドアが開く。
「ロックは上で解除してあります。あとはわたくしが。お二人は、フライヤーの準備をお願いいたしますわ」
 アナスタシアが中へ入り、ランディとテイルが手近なフライヤーに駆け寄る。
「お、こいつロックかけてない。不用心だな」
 ランディは言いながら、フライヤーの入り口を開ける。四人乗りの小型フライヤーで、全長10メートル未満の小さなものだった。
「動きそうか?」
「ああ、問題なさそうだ。ただ……」
 テイルが言って、上を見上げる。
「アナスタシアに期待するしかないな」
 その頃アナスタシアは、腕のケーブルを端末に繋ぎキーボードを叩いていた。
「管理者権限認証……OK、ロック解除。ハッチオープン……OK、5分後にオープン開始……まったく、旧式は準備に時間がかかりますわね」
 言いながらアナスタシアは端末からコードを引き抜いて、インカムに叫ぶ。
「ハッチが開くまで5分かかります。それまでに準備を」
 どうやら、追っ手に追いつかれる前に脱出できそうだ……と思った瞬間だった。
「こら! この@#!けもの!」
 どこかで聞いた声が、フロアに響いた。
「おやまぁ……最悪のデザートだぜ」
 ランディが毒づいた。
 階段からわらわらと降りてくるキャストたちを率いているのは、プルミエールだった。以前の戦闘で破損したボディは完全に修復している。
「あんたたち、私から逃げられると思ったら大間違いよ!」
「……なんだか誤解を招きそうなセリフだな」
 ランディが面倒そうな顔で呟いて、頭を掻いた。キャスト兵たちは左右に展開し、包囲網を形成しようとしている。プルミエールはランディを見上げながら、つかつかと前へ歩いて来る。
 アナスタシアがコンピュータールームを飛び出した……所で、ちょうど目の前を歩いていたプルミエールとばったり出くわしてしまう。
「あら、おねえさま! またお会いできましたわね♪」
「くっ……」
 アナスタシアは目の前に広がる状況を見て、言葉に詰まった。
 プルミエールを中心に、キャスト兵が20人ほど。5分間も……持ち堪えられるか?
「おねえさま、私と遊びましょ?」
 言ってプルミエールはバトンを取り出す。頭上でくるくると回転させると、フォトンが伸びて戦槌を形成する。
「さ、あんたたちは向こう!ホラ、さっさと走るッ!」
 ランディたちを指さして、プルミエールが叫ぶ。キャスト兵たちがわらわらと、フライヤーめがけて走り出した。
「ここは俺が守る。旦那、フライヤーの準備を進めてくれ。ギリギリに飛び乗るから」
「あ、ああ。無理をするなよ」
「まかせとけ!」
 笑顔でウインクして、ランディが飛び出した。そのままバランツランチャーを取り出し、キャストたちめがけて引き金を引いた。
「!」
 飛び出した四発のミサイルが、キャストたちの真ん中に着弾する。
 これが合図だった。
 アナスタシアは短剣を両手にひとつずつ逆手に持って、走り出した。プルミエールが爆発の方を見ている隙をつく。
「ぃいやぁっ!」
 右手のダガーを上へ振りかざし、先制攻撃を見舞う。
「いやん!」
 プルミエールが戦槌の柄でそれをはじく。
「久しぶりの再開なのに、おねえさまつれな〜い♪」
「……」
 ……気分が悪い。目の前の女は、わたくしの気分を悪くさせる。
 アナスタシアは不快な表情ををあらわにして、続けた。
「子供と遊んでいる暇はありませんわ。そこをおどきなさい!」
「いやん、おねえさまがそう言うと、なんだかすごくハァハァしちゃう♪」
 イライラする。これは本能的な嫌悪感なのか、それとも女性としての性か。
 とにかくアナスタシアは飛びかかった。左のダガーを振り上げる。プルミエールはそれを柄で弾く。
 次は右のダガーで斬りつける。柄で弾くが、連撃にわずかによろめく。
「はあぁっ!」
 アナスタシアが飛んだ。軽い跳躍から、両手のダガーを逆手に振り降ろす。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe31 立派なガーディアンですわ
「くっ!」
 プルミエールもとっさに飛び退くが、鋭い刃先が腕をかすめる。服を切り裂いて、装甲の表面に浅い溝を刻んだ。
「いやぁん! おねえさまのえっちぃ!」
「その程度ですか? 児戯に等しいですわね」
 そのまま距離を詰め、左右からの連撃。プルミエールは防戦一方を余儀なくされる。
「いやん、おねえさま怖ぁい!」
「軽口を叩いていられるのも、今のうちだけですわよ?」
 アナスタシアは執拗に攻めたてる。右と左のコンビネーションを繰り返し、時には足技も混ぜ込む。一撃一撃は軽いが、正確に急所を狙い攻撃を上下へと振られる。
 プルミエールは反撃の糸口を掴めない。どうにも、プルミエールにとって相性の悪い相手だった。隙をついて反撃で大きな一撃を見舞いたいのだが、アナスタシアの正確な攻撃には隙が無い。
「ほら、足元がお留守ですわよ」
 顔面を狙った一撃の直後、下段へのローキック。膝を横から蹴りつけられ、プルミエールの体が大きく揺れた。
「あらら?」
 迷い無く、アナスタシアが地面を蹴った。両のダガーを下に向け、飛びかかりながら振り降ろす。その刃は的確に胸を狙っていた。
「やだ、おねえさま早すぎっ!」
 バランスを崩しながらも、プルミエールは両手で戦槌の柄を握り、地面と平行のままに上へと振り上げた。
「!」
 アナスタシアの手首が、がつんと柄にぶつかる。プルミエールはそこに体重を預けて踏ん張り、その柄をぐんと持ち上げた。
「いちっ!」
 アナスタシアは柄に持ち上げられながら、判断に一瞬迷った。逆手に持っているダガーがひっかかってしまうため、獲物を手放さなければ脱出できないからだ。
「にぃ!」
「!?」
 一瞬迷ったせいで、機を逃す。勢いでぽぉんと上に放り上げられてしまい、ゆっくりと後ろへ回転している。
 ……このままでは、プルミエールに背を向けてしまう……!
 プルミエールは逆転のチャンスを見逃さない。くるりと戦槌を回転させ、ぐんと一気に振りかぶる。くちばしの側を叩きつけ、アナスタシアの小さなボディを粉砕するために。
「のぉ、」
 空中では、回避行動を取れない。アナスタシアは覚悟して、ゆっくりと瞳を閉じた。
 ……感情にまかせて詰めが甘くなった、自分の責任だ。
 ごうと空気が唸り、戦槌が振り抜かれる――。
「さぁんっ!」
 激しい金属音と共に火花が飛び散り、アナスタシアの背中にくちばしが突き刺さった。
 ……と思った瞬間、プルミエールは手に伝わる感触が違う事に気付いた。すぐに、がしゃっとアナスタシアが地面に落ちる音がする。
「姫様は頂いてゆくぜ?」
 目の前に立っていたのは、ランディだった。
 両手を突き出し、ウォーハンマーのくちばしを受け止めてはいたが、その勢いは完全に殺せず胸に数センチ刺さってしまっている。受け止めた両手もズタズタに傷ついて、血がしたたり落ちていた。
 プルミエールがふと振り返れば、20人はいたキャスト兵たちは、すでに全員沈黙していた。
 ランディ自身もすでにボロボロだった。今までの戦闘でもかなりの傷を負っていたため、足元には赤い水たまりが出来始めている。血液が腕を伝い肘から落ち、体からの出血が服や靴を赤く染めている。これで立っていられるのが不思議なほどだった。
「ちょっと! 何すんのよ、@#!けもの」
 ランディは掴んでいた戦槌を離し、両手を開いてやれやれとかぶりを振った。
「うちの姫様は、おまえみたいなアホとはレベルが違うんだよ。一緒に遊ばせるわけにゃいかねぇな」
「ランディ……」
 立ち上がりながらアナスタシアは、ほぼ無意識にその名前を呟いた。
 ……こんなにボロボロになっているのに、彼はどうして立っているのでしょう? そこまでして、任務を遂行する精神力は一体どこから……?
 ふと見ると、ハッチが大きな音を立てて開き始めた。ゆっくりと床がせり上がり、テイルの待機しているフライヤーが上へと上がっていく。
「あ、分かった! 私とおねえさまにヤキモチ焼いてるんでしょ!? だから男ってやつは!」
 プルミエールが胸の前で握り拳を作って、喚き立てながら言う。
「そんな事しても無駄なんだから! 私はおねえさまで、おねえさまは私なのよ?」
「……それより、スカートの後ろがめくれてパンツ見えてるんだが」
「えっ!? やだ、嘘っ!?」
 プルミエールが慌てて、両手でお尻を押さえる。取り落とされたハンマーが地面に転がるのを気にせず、プルミエールは振り向きながら見下ろした。
 ……が、別にスカートはめくれていなかった。
「あー!」
 不思議に思って視線を戻すと、すでにランディとアナスタシアはいない。フライヤーに向けて全力で走り出していた。
「このっ! うそつきけもの! お前なんか@#!で@#!してしんじゃえ!」
 プルミエールは子供のように足をどたどたと踏み鳴らし、地団駄を踏んでいた。ランディは走りながら振り向いて、その光景に笑いながら思いっきり舌を出してやる。
 視線を戻して見上げると、フライヤーを乗せた床はすでに地上3メートルぐらいの高さになっていた。
「先に乗れ。よいしょ」
 ランディは、まるで子供のようにアナスタシアを抱きあげて上へ乗せてやる。すぐに自らも縁に飛びつき、フライヤーへと乗り込んだ。
「ふー……待たせたな、旦那」
 言いながらランディは後部席にどっかりと腰を降ろす。背もたれに体を預け、首まで後ろに倒してゆっくりと息を吐く。
「それより……大丈夫なのか、その傷?」
「いや、問題ねぇ。一晩寝りゃ治る」
 心配して言うテイルの声に、ランディはきっぱりと答えて、続けた。
「だがな……悪ぃが、着くまで少しだけ寝かせてくれねぇか。今日はさすがに疲れた……」
 言うが早いか、ランディはゆっくりと瞼を閉じはじめる。まるで貧血でも起こしたかのように、そのまま横に倒れた。
 ちょうど、隣に座っていたアナスタシアの太腿に頭をぶつける形になったが、気にせず彼は寝息を立て始めている。
「……ひどい目にあわせてしまいましたわね……一昨日に重傷を負ったばかりでしたのに……」
 アナスタシアはランディの頭を両手で持って、寝やすいようにずらしてやる。そしてそのまま、少しだけ微笑んだ。
「だが……彼のお陰で我々は脱出に成功している。感謝の言葉も無い」
 テイルは優しくそう言って、ゆっくりと操縦桿を引いた。フライヤーのエンジン音が響きだし、ゆっくりと地上を離れてゆく。
 先ほどまで潜入していた施設が、少しずつ遠くへと離れてゆく。何人かのキャスト兵たちが地上で何かわめいていたようだが、それもすぐに豆粒のように小さくなっていった。
 アナスタシアはふと、大きな寝息を立てるランディを見降ろしながら、優しく目を細める。それは、どこか安息を匂わせる、優しい微笑みだった。
「ランディ、ごめんなさい……。わたくしは、あなたの事を少し誤解していたようです」
 アナスタシアは言いながら、申し訳なさそうな表情を見せる。それからゆっくりと息を吸って、言葉を続けた。
「……あなたは立派なガーディアンですわ。ありがとう、ランディ」
 彼女は言いながら微笑んで、ランディの髪をそっと撫でた。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
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