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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe30 恐ろしい男

 午後になって、三人はゴーヴァ鉱山へと向かった。リニアトレインで1時間弱、意外とすんなり到着してしまう。
「うわー……なつかし」
 敷地の前に着いて、まずオルハが素直に呟いた。
 高い柵に囲まれた中にはビルや発掘機械、採鉱設備、加工施設、さらには土砂の山などが並び、かなりのスペースが広がっている。ところどころで作業を行っているキャストが見受けられた。
「すっげー広くなってる」
 オルハが驚いて続けた。
「ああ、でも、このマークは同じだ」
 正門に掲げられた、三本のラインをモチーフとしたマーク。これがゴーヴァ鉱山のコーポレートマークだった。
「パパが、子供の頃のボクを見て、猫を連想してつけたらしいんだ」
「爪跡のイメージですか?」
「そうそう。ボク、どんな子供だったんだよって話だよね」
 笑いながらファビアをばちんとはたく。今もコーポレートマークが残っている事に、オルハは興奮していた。例えるなら、まるでお目当てのアイドルグループを見かけたような、浮き足だった状態だった。
「あいたた……オルハ、落ち着いて」
「うん、大丈夫。全然落ち着いてるよ!」
(ああ、オルハがまた暴走している……)
 そんなファビアをよそに、ふと気づいたようにオルハはビルを見上げた。たかだか5階建のビルだったが、いやに高く見えた。もちろんオルハがそのビルに入った事はないが、かつて自分が所属していた組織の発展を見て、正直嬉しい様子だった。
 正門のすぐ右手に詰め所があり、守衛らしきキャストがいた。入り口はレーザーフェンスでふさがれており、人だけでなく車両の出入りも厳しく見張っている。
「本日面会をお願いしております、ガーディアンズの者です」
 とりあえず、ファビアは近づいて守衛に声をかける。
「ああ……聞いてるよ。ビルの入り口から入って、5階に上がってくれ。んで、こいつがゲストカード。つけてねぇと防犯システムが作動して蜂の巣にされるから、首から下げとけ」
 言いながら、守衛は紐のついた透明のケースに入ったカードを、ぞんざいに放り投げる。
「それはご親切にどうも。さ、行きましょう」
 ネイの首にゲストカードをかけてやり、もう一枚をオルハに手渡しながら、ファビアは言った。
「……こんないい門、昔はなかったんだけどねぇ」
 オルハが両手を開いて、おどけて言った。ファビアが「大出世ですね」と苦笑してから、三人はビルへと向かって歩き出した。

「では、こちらでしばらくお待ちください」
 応接室に三人を案内した、給仕服を模したボディのキャスト女性が深々と頭を下げて、部屋を出て行った。
「ふぁびあ、あれはめいどのこすぷれ?」
「いや……主の趣味でしょうか」
「まにあっく〜」
 ネイの素朴な疑問を捌きつつ、ファビアは茶に手を伸ばした。
「……これはまた」
「うあー、高そう!」
 薔薇をモチーフにした、高級そうなティーカップとソーサーに、花の香を持つ紅茶が注がれていた。
「香りまで薔薇ですね。なんとも贅沢な」
「なんかエロいよねぇ」
「……意味は伝わるのですが、せめて"いやらしい"と言ってもらえませんか……?」
 そこでコンコンコン、とノックが鳴る。
「はい」
「お待たせ致しました」
 ゆっくりとよく響く太い声が聞こえてから、ドアが開く。
 ドアノブを握っていたのは長い髪を後ろに流した、筋肉質な男だった。上唇に髭をたくわえ、赤色の上等そうな衣服に身を包んでいる。
「本日はご足労頂き誠にありがとうございます」
 右手を大きく振り上げ、それから左腰まで降ろしながら深々と頭を下げる。
「わたくしがゴーヴァ鉱山の代表取締役を務めております、ラ=シーク・マッケランと申します」
 腰を90度に折る、あまりにも大袈裟なお辞儀にファビアとオルハはあっけにとられる。ネイはただ、それを不思議そうに見ていた。
「えぇ〜と、ファビア殿とオルハ殿でしたかな」
「はい。ガーディアンズのファビア・オルティウスです。こちらがオルハ・ゴーヴァと、ネイ。本日はお忙しい所お時間を頂き、大変恐縮です」
 ファビアが立ちながら右手を指し出すのに、ラ=シークはその手を握り返した。
「なるほど。……んぅ〜ん、ガーディアンというからどれほど無粋な輩が来るのかと思っていましたが……礼儀をわきまえた紳士と、美しいお嬢様がお二人とは! 感謝の極み!」
「お嬢……さま?」
 オルハが露骨にムッとした顔で言った。
「ボクは子供じゃないぞ」
「いえいえ……可愛らしい女性は、いくつになっても"お嬢様"なのでございますよ」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe30 恐ろしい男
 言いながらラ=シークは胸ポケットの薔薇をつまみ、自分の鼻に近づけてその香りを楽しんでから、オルハに差し出した。
「お……かっこいいじゃん」
(それってかっこいいですか!?)
 思わずファビアが心の中でツッコんだ。男性には理解し難いキザさである。
「それで」
 ラ=シークがゆっくりとソファに腰かけ、切り出した。
「本日はどのようなご用件ですかな?」
「はい、実はですね……」
「おっちゃん、バーバラと繋がってるんでしょ?」
「オルハ! ……すいません、いきなり失礼なことを」
 オルハの直接的な問いにファビアは慌てふためく。どうやって話を聞き出すかいろいろと思案を巡らせていたのが、全て台無しだ。
「んぅ、なかなかに素直なお嬢様ですな。そういうのは、嫌いではないですぞ」
 右手で髭をつまんで撫でながら、温厚な笑顔で彼は答えた。
「その通り。私はバーバラに投資を行っております。それに何か問題が?」
「バーバラの研究内容は知ってるんでしょ?」
「存じ上げております。有益な研究だと判断して、投資させて頂いておりますよ」
 それを聞いてから、ファビアはゆっくりと息を吸って、口を開いた。
「彼女の研究は、おいそれと容認できない研究です。よく考えてください、クローン技術が世に出た時、倫理的観念から様々な議論が行われてきました。そして最終的にその技術は政府が取り仕切り、民間には提供されないという事で合議したはずです」
 穏やかなからも強さを感じ取れるファビアの声に、一同は押し黙って、その行方を見守っている。
「彼女の研究は、それと同じ問題を社会に起こそうとしています。それを我々は見過ごすわけにはいきません。多くの人間を不幸にする可能性があります」
「あっはっは……ファビア殿は厳しいお方だ、あっはっは」
 意外にも、ラ=シークは高い声で笑い、そのまま何事も無かったかのように続ける。
「しかし、この技術が確立されれば、人を救えるというのもまた事実でしょう? クローン技術より確実に、事故で記憶を失った人や脳の障害を救う事ができるのですよ」
 ファビアはやはりそう来ますね、と素直に思った。ここまでは想定内だった。
「ですから、それを管理する必要があるでしょう? どんなに立派な技術でも、使う人によっては社会悪になり得る……そう申し上げているのです。しかるべき監査機関を設けるか、政府の管轄下で研究を行うなどの体制が必要でしょう」
「……あーもうまどろっこしい」
 オルハが呟いた。ファビアは嫌な予感を感じるが、すでに遅い。
「ボクが気に食わないのはね、パパが頑張って築き上げたこの鉱山を、そんなことに使ってるのが気に入らないんだよ」
 ファビアはゆっくりとため息をついた。
 彼女の気持ちも分かるのだが、ガーディアンズの任務として動いている以上、私的感情を出すと話がややこしくなってしまう。
「……ほほう? ゴーヴァ姓でもしやとは思いましたが……オルハ殿、貴女が噂の"山猫"ですか」
「そうだよっ、文句あるか!」
「いや……んぅん、こんなに素晴らしいレディを"山猫"よわばりするとは」
(反応するのはそこですかっ!?)
 ファビアがまた、思わず心の中でツッコんだ。
「敬意を込めて、"レディ・ワイルドキャット"とお呼びいたしましょう」
「そんな事より、分かったんだったら、早くこの鉱山から出て行って。そんな悪どい計画に巻き込まないでよ」
 ラ=シークは髭をなでながら、思案顔をした。
「残念ながら……私も色々ありますのでね。その要求は飲めません」
「この……ッ!」
 オルハが激昂にまかせて立ち上がる。
「まぁまぁ、落ち着いてください、オルハ殿。我らコナンドラムは、積極的にガーディアンズとあいまみえるつもりはありませんよ」
 冗談っぽく両手を開いて、ラ=シークは言う。
「……確か、あなたは元ガーディアンズでしたね」
 不意にファビアは口を挟んだ。もしかしたら、元ガーディアンズとして話が通じる部分があるかもしれない――そういう期待がこめられていた。
「ウィ、ムッシュ。その通りでございます」
「なぜガーディアンズを脱退したのです?」
 彼は少しだけ考えるようなそぶりを見せ、
「思想の違いでしょうな。私には理解できない事が多かった」
「? 何がです?」
「このグラール太陽系で一番優れた種は、ヒューマンでしょう? 他種族と平等な扱いを受けるのは耐えられませんな」
 なるほど……ファビアは眉をぴくりと動かして、難しい顔をした。
 ヒューマン以外の種族は全て、過去にヒューマンが生み出している。それゆえヒューマンこそが最高の種族だとし、多種族を攻撃対象とする思想は今だ根強い。
 似たような思想に"ヒューマン原理主義"というものがあり、"イルミナス"という地下組織が活動している、という話をファビアは聞いた事があった。だが結局の所、その実態は無差別なテロ行為を行う反政府団体以上の何者でもなく、ガーディアンズ側でも危険団体と認識していた。
「そうですね」
 ファビアは当たり障りなく、静かに返した。何を言っても無駄だと判断したからだ。
 そもそも、両親の死の原因となったのは、"ビースト迫害"という種族差別思想によるのだ。
 いかなる種族であれ、優越を競う意見に賛同する気にはなれかった。
「でしょう? オルハ殿もそうは思いませんか」
「ん、ボク? 残念ながらまったく思わないね」
 話を振られるとは思っておらず、爪の甘皮をいじっていたオルハが、そのままでぞんざいに答えた。
「クズ鉄街で暮らしていた時は種族も性別も年齢も関係なくて、"何ができるか"だけが問題だった。それは今も同じだよ」
「ほう、それは意外ですね。ヒューマンのオルハ殿ならばこの気持ちを理解して頂けると思ったのですが」
 ラ=シークは心底意外な顔で答えて、両手を広げる。
「……なんかイライラするな。なんでみんな、自分と同じ考えを人に期待すんの?」
 オルハの声は、明らかにトゲがあった。
 そう、彼女の言葉はオラキオの民の事も含んでいる。短時間で似たような話を二回も聞かせられれば、不愉快になるのも当然だった。
「考えが違うのが当然でしょ? それをお互いに理解した上で協力するもんじゃないの?」
「オルハ殿……貴女と私はどうも違うようですね」
「そんなの当たり前でしょ。種族だけで人を差別するような考え方、認められるわけないじゃん」
 オルハはまるであきれたような顔で、ため息と共に言った。
「差別? 違いますよ。"区別"しているのです」
「そういうヘリクツが気に入らないんだよっ!」
 オルハは立ち上がって、ラ=シークを見下ろして睨みつけた。椅子が勢いよく倒れ、激しい音を鳴らす。
「んぅん、話になりませんね」
「……そうだ、いい事思いついた。おっちゃん、元ガーディアンってことは、戦えるんだろ? ボクと勝負しろ」
「ほほぅ?」
 ラ=シークは髭をつまんで撫でながら、無関心といった様子でそれを聞いていた。
「ボクが勝ったら、ゴーヴァ鉱山からは手を引け。おっちゃんが勝ったら、ボクはおとなしく帰る」
 何を言い出すのかとファビアは呆れていたが、あえて黙っていた。そう、その条件なら万が一オルハが負けても何も失わない。
 だが、冷静に考えればラ=シークは勝っても何のメリットも無い。その条件で、ラ=シークがそれを受けるとも思えなかった。
「んぅ、面白い。受けて立ちましょう」
(……受けるんですね)
 ファビアが心の中で、冷静にツッコんだ。

 広い敷地内の駐車場へ三人は案内された。駐車場といっても止まっているのは一般車両ではなく、工業用車両ばかりだ。
 だが、この時間は業務中なのでほとんどの車両は出払っており、充分に広いスペースがあった。
「それではルールを説明します。急所攻撃、回復・支援系テクニックの使用を禁止します。もし怪我が発生した場合は私が回復しますので、それは心配なさらないでください」
「OK」
「ウィ」
 ファビアの声に二人が頷く。ネイが状況をよく分かっていないのか、ファビアの後ろからにこにこしながらそれを見ている。まるでこれから、楽しい"何か"が起こるのを待っている、とでも言わんばかりに。
「では、始め」
 オルハは両手にクローを一つずつ持つ。ゆっくりと腰を落として、獣を思わせる格好で構えた。
 ふとラ=シークの装備を見て、ファビアは驚いた。なんと、両手にひとつずつウォンドを持っているではないか。
「両手にウォンド……ですか?」
 あからさまにいぶかしげな顔でファビアは言った。
 それもそうだ、テクニックはフォトンを練りこむのに精神集中を必要とし、その際に媒体の力を借りる。二本のウォンドを持った所で両方を同時に媒体にする事はできないし、威力が増すわけでもない。真意が見えなかった。
「ご心配なく。通常とは違う使い方を致しますから」
「通常の使い方はしない……?」
 ファビアはその意味が分からず困惑した。一体どんな戦い方をするのか、想像もつかなかった。
 それを気にせずラ=シークはオルハへと向き直る。
「んぅ、なるほど、その戦闘スタイルが貴女を"山猫"と呼ばせる由縁ですか」
「そんなのどうだっていいよ、ボクはボクだ。……さ、行くよっ!」
 オルハが走り出した。
 両手に爪を持った事で近距離戦での高い攻撃能力を得たオルハが、どのような戦いを見せるのか……それはファビアを素直に心躍らせていた。
「んふぅ……来なさい」
 ラ=シークが両手を体の前で交差させると、右手のウォンドが炎に、左手のウォンドが氷塊に包まれた。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe30 恐ろしい男
「!」
 ファビアは明らかに驚いた顔で目を見開いた。
 ……あり得ない!
 元素の源が違うフォトンを同時に二つ操れるほどの素養など……聞いた事が無い。
「はぁぁッ!」
 接近して、オルハは右手の爪でまっすぐに突き刺す。ラ=シークはそれを左手の氷塊で外へと弾く。
 今度は左手の爪が振り降ろされる。ラ=シークは右手のウォンドで受け流し、軽く後ろへ飛んで距離を離した。
(んぅん……思った以上に速い)
 ラ=シークは素直に思った。予想以上の素早さで、的確に急所を狙ってくる。その姿は、獲物を狙う肉食動物に近い。
「いっくぞぉ!」
 すぐにオルハが飛びかかる。左の爪を下からアッパー気味に突き上げる。ラ=シークは掌めがけて右のウォンドで突いた。がつん、と激しい音が響く。
「あちぃっ!」
 一瞬だがオルハがひるんだ。ラ=シークは左半身を前に出し、剣で突くように胸を狙う。オルハもとっさに体を左へひねりながら逃がし、体をかがめながら懐に潜り込んだ。
「……ちぃっ」
「もらったぁ!」
 オルハの右の爪が伸びる。屈んだ姿勢から体を伸ばし、一気に突き上げる。ラ=シークは上体を反らしてなんとかかわす。
 ややバランスを崩したその状態から、右足を突き出す。前蹴りだ。オルハも左手を前に出して、爪の手甲でそれを受け止めた。
(ウォンドを使った格闘術とは……)
 その激しい攻防を見ながら、ファビアは思っていた。
 フォースとして長い間テクニックの実力を磨いてきたつもりだが、このような戦い方など見た事がない。
 そして、二つの媒体にフォトンを固定し続けるなどという発想と、それを実現するだけの能力。どちらもファビアは持ち合わせていないという事実が、肩に重くのしかかった。
「おるは、がんばれー!」
 そんなファビアの心境を知ってか知らないでか、ネイが腕をぶんぶん振り回しながら、オルハを応援している。
「んふぅっ!」
 ラ=シークが右のウォンドを振り降ろす。オルハが軽く反らしたのを確認して、今度は左で突く。それをオルハは甲で下から突き上げて弾く。
 そして再度、右のウォンドで突く。オルハは左で弾きつつ、体を右に捻ってその隙に爪で突く。
 ラ=シークは眼前でウォンドをクロスさせ、その爪をがっちりと受け止めた。
「んふぅ……ふふふ、ここまで緊迫した戦いは久し振りです」
「ボクの力はこれで全てじゃないよ!」
「ほほぅ……これ以上に楽しませてくれるとは……んふぅ、これぞ感謝の極みッ!」
 オルハが一歩後ろに飛びのいて、腰を落として低くかまえた。
「必殺! オルハ乱舞!」
 何かのアニメの影響か、オルハは叫びながら突進する。
 右、左と振りかざし、間髪を入れずに斬撃を見舞う。
「ッ!」
 ラ=シークも負けてはいない。一撃一撃を確実に弾き、体に触れさせない。
 だが、オルハの打撃は除々に速度を増してゆく。まるで転がした雪球が斜面を転がり、どんどん勢いづいて巨大化してゆくように。
(! くっ……なんですと……なんという速さ……!)
 ラ=シークは舌打ちした。単純な攻撃とはいえ、あまりにも手数が多すぎる上に、型の決まった攻撃ではない。上下左右から、予想できない攻撃が襲いかかってくるのだ。
「!」
 ドスッという音と共に脇腹に痛みを感じて、ラ=シークはさらに驚愕した。オルハの右足が、脇腹を打っていた。
 なんと……この速度の斬撃の中で、足技まで組み込んでくるというのか……!?
(まずい、仕切り直さねば)
 ラ=シークは覚悟を決めて右手を突き出した。狙いはもちろん、オルハの顔。顔面を狙われれば、条件反射で回避行動を取るはず。その隙に体制を立て直すつもりだった。
 だが――オルハの右の爪が肩を引き裂くのとほぼ同時に、ラ=シークの腕に鈍い衝撃が走る。
 炎のウォンドが、オルハの額を打っていた。
「なんですと!?」
 これにはラ=シークも驚いた。究極の戦士は、隙を作ってしまう条件反射を自らの意思で封じる事ができるというが……まさか、こんな少女がそれをすでに体得しているのか……!?
 オルハが上体を後ろにぐらりとそらし、2・3歩後ずさった。
「くぅ……急所狙いなんて卑怯だぞ!」
 額を抑えながら片目を閉じて言う。前髪と皮膚が焼け、蛋白質の焦げる嫌な臭いが鼻につく。
「まあ、それはお互い様じゃないですか」
 ラ=シークも左肩から血を流していた。シールドラインを切り裂き、皮膚を深く裂いている。
「顔はオンナの命なんだよっ! ばかっ!」
「んふぅ、当てるつもりではなかったんですけどねぇ」
 両手を開いて、ラ=シークはやれやれと言う。
「さて、そろそろこちらも本気でやらせて頂くとしましょう……ぬぅぅんんん!」
 ラ=シークは両手を広げ、左右へ向ける。やがて、持っているウォンドに変化が起こり始める。
 右手の炎が、ゆっくりと黄色がかった色へと変化してゆく。ゆらりと揺れる炎がばちばちと激しく稲光り、全てを破壊しようとしているかに見える。
 左手の氷は、茶色の粒状のオーラをまとい始める。小さな光群が周囲を漂い始め、氷に反射して幻想的な光景に思えた。
「……!」
 ファビアは驚愕した。
 ……2つを同時に扱うだけでは飽き足らず、4つ同時に!?
 世界を構築する4元素、つまり地・水・火・風を源とするフォトンをコントロールする事で全ての物質は系統づけられる。それを炎・氷・雷・土と再体系化し、一般市民でも媒体を用いる事で扱いやすくしたものが、"テクニック"の基本的な定義である。
 この他にも光と闇という、生物の精神に依存したテクニックも世の中には存在するらしいが、その特性からか使いこなせる者はそういなかった。
 今ラ=シークは、右手の炎に雷のフォトンを、左手の氷に土のフォトンを合成させ、異なる元素を同時に4種類もコントロールしている……!
 違う、彼は器が違いすぎる。
 ファビアは自分の額を伝う汗に気付いた。そして、わずかに震える手先。彼は今、一人のフォースとして、技量の違いを見せつけられ、心から恐怖していた。
「オルハが危ない……!」
 どうする? なんとかこの状況を打開しなければ。これ以上オルハを戦わせるわけにはいかない。
「……よし、今日はボクの負けでいい」
 オルハが左手を腰に当てて、右手で指さしながら堂々と言い放った。
「んぅん?」
「今日は素直に帰る。だけど、次に会った時はこうはいかないからね。……帰ろう、ファビア」
「……は、はい、分かりました。……それではまたお会いしましょう」
 ファビアも言いながら振り返り、すたすたと歩いてゆくオルハを慌てて追いかける。
「んふぅ、またお会いできる事を楽しみにしておりますよ」
「オルハ、一体何が…………あっ」
 追いついてその顔を覗きこんで、ファビアは異変に気付いた。オルハの顔が青くなっており、油汗を額に浮かべている。
「……まさか」
 ファビアはとっさにオルハの肩を抱え、上着をはだけさせる。
「やっぱり」
 胸に巻いた包帯が赤く染まり、血がにじんでいる。激しい運動で傷口が開き、熱を持っているだろう事は容易に想像がついた。
「ファビアの……えっち……」
「それだけ言える元気があれば大丈夫ですよ。失われし力よ戻れ……ギレスタ」
 ウォンドから放たれる淡い光がオルハを包む。少しは楽になったのか、熱を含んだ熱い息をゆっくりと吐いて軽く瞳を閉じた。
「とりあえず、一度コロニーに戻りましょう。まずはあなたの治療が先です」
「おるはぁ……」
 ネイがオルハの手を握りながら、心配そうに呟いた。
「あ……ごめんね、心配かけて。ボクは大丈夫だから」
 オルハは弱々しく微笑んで、答える。ファビアがそんなオルハを促して、背中に担いだ。
「ボクはまだ、負けるわけにはいかないんだ……」
「がんばれ、おるは! まけるな!」
 そんなやりとりを横目に、ファビアはすっかり押し黙っていた。
(……なんと恐ろしい男)
 圧倒的な実力差を見せられ、ファビアのフォースとしてのプライドが揺らいでいた。
 ……ガーディアンズになって、早4年。鍛錬を一度も欠かした事もなく、努力し続けてきた。それだけに、ショックは人一倍大きかった。
 重い足取りのままネイの手を引き、ファビアは放心状態のまま歩き続けていた……。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
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