還らざる半世紀の終りに > universe29 涙
<< universe28

PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe29 涙

 案の定、施設は地下に広がっていた。
 三人は捕らえたキャストから搬入口の地図データと認証用センサーを奪い、搬入口から潜入していた。
「しかし、意外と平和なもんだな。もっとわらわら出てくるかと思っていたが」
 ランディが拍子抜けしたと言わんばかりに呟く。
「まぁまぁ、潜入するには好都合ですわ」
 それに苦笑してアナスタシアが答えた。
 三人は第一層の直通エレベーター脇のスペースに身を潜めていた。ここは掃除用具や大小のコンテナなどの物置となっており、一事的に隠れるには充分だ。
 潜入したはいいが先ほど何かの搬入があったらしく、人通りが絶えず身動きが取れない。三人は息を潜めて様子を見ていた。
「で……地図はどうなってるんだったっけ」
 思い出したようにランディが小声で聞いた。
「第三層までの深さがあるようですわ。第一層は施設としての機能維持部分、第二層が研究施設部分。第三層は、あのキャストも何も知らされていないようで、データがありません」
「ふむ……」
 ふとランディが考え込んだ。普通に考えれば第三層が一番機密性が高いのは明白だが、第二層に重要な情報が無いとも言い切れない。
「上から順に調べてゆくしかなさそうだな」
「結局、そうなってしまいますわね……っと」
 エレベータのランプが第一層を示して点灯したのに気づいて、アナスタシアは伸ばした掌で自分の口を覆った。三人はすぐに呼吸を整え、安定した姿勢で動きを止める。隠密の基本中の基本だった。
 やがて、ドアが開いて二人組のキャストが姿を表す。
「おい、そっちしっかり支えてくれ」
「ああ。何かあったら、プルミエール様に大目玉もらっちまう」
 怒り狂った彼女が戦槌をふり回すイメージが容易に想像できて、三人は危うく吹き出しかける。
「……あれは……?」
 アナスタシアが小声で呟いた。彼らはレストランで給仕が使うようなワゴンに乗せて、長さ2メートル以上はある箱のようなものを運んでいる。
 箱は天面がガラス張りになっているが、濃緑になっているため中身ははっきりと見えない。底のほうは分厚く、側面に操作盤のようなものが見える辺りから、この箱は何かの機能を持った機械である事が分かる。
「……どこかで見たことがあると思ったら……モトゥブの廃鉱に潜入した時に、同じ物を見ていますわ」
 キャストたちが遠くへ行った事を確認してから、アナスタシアが口を開いた。
「地下牢を発見したとかいう、あの時か?」
「そうですわ。コンテナなどと一緒に、通路脇に積み上げられていました」
 少し思い出すように視線を上げて、彼女は答えた。
「しかしあの箱……いや、まさかとは思うが」
「? どうした旦那、何か知ってるのか?」
「以前任務で見かけたものと似ている。……生命維持装置だ」
「!」
 二人は思わず、テイルに向き直った。
「つまり、中には人間が入っていると……?」
 テイルはゆっくりと息を呑んでから、静かに頷いた。
「……いよいよ、核心に近づいてきたみてえだな」
「彼らの行った先は……第一層と第二層をつなぐエレベーターがあるようですわ」
「追うか?」
「ええ。搬入も一段落したようですし、詳しく調べたいですわ」
 言ってアナスタシアがゆっくりと立ち上がった。振り向いてまっすぐな瞳で頷く。
 任務開始だ。
 アナスタシアが両手にマシンガンを構えたまま、慣れた足取りで静かに走り出す。そのまま通路の角に張り付き、先を覗いてから振り返って頷いた。
 ランディは両手にナックルを。テイルは左手にボウガンを。各々の獲物を持って走り出す。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe29 涙
 角は左に曲がっており、その先は十字路になっていた。人影や物音が無い事を確認して、アナスタシアが走り出す。
 彼女のOKサインを確認してから、その後に続いた。
「……左が第一層〜第二層のエレベーター、右は事務室のようですわ。奥は倉庫のようですわね」
 ドアのプレートと端末の地図を確認して、アナスタシアが言う。
「事務室も念の為確認しときたい所だな」
 ランディが言って駆けだした。ドアの前でしゃがみこみ、耳を当てる。
「……気配は一切無い。レーダーの反応は?」
「残念ながら、中に入ってから機能しておりませんわ」
「なるほど。まあ、もしかしたら向こうもレーダーが使えないかもな。だったらラッキーか」
 ランディが立ち上がりながら、
「入ってみよう。狭い場所だし探索にさほど時間はかからないだろう」
「そうですわね。何がメインイベントか分かりませんし」
 頷いてから、ランディはゆっくりとドアノブを捻った。
 扉を開くと4メートル四方ほどの小さな部屋で、デスクが3台ある。その上には書類や小型端末が散乱しており、いかにも"業務している"という雰囲気が漂っていた。
「……経理関係の業務書類のようだな。資材や機材の搬出入を管理してる」
「……こちらも特にめぼしいものは」
 端末を叩いていたアナスタシアが渋い顔で言った。
「施設維持管理に必要な情報のみですわね……コピー完了」
 言ってアナスタシアは、腕から伸びているコードを端末から引き抜く。
「とりあえずは何もなさそうですわね……あら」
 部屋の中を見回していた彼女は、ふとテーブルの脇に置いてあったメッセージカプセルに気付いた。
 メッセージカプセルとは立体映像や音声を再生するもので、様々な機能を持つものがあり種類がとても豊富だ。見た目は円盤型の平べったいもので、上部にはガラスのようなものがはめこまれており、そこにホログラムが映し出される仕組みだ。
 だが、これは通常のものとは違い、脳へデータを送り直接体験するもののようだ。傍らには丁寧にヘッドフォン型の受信装置が付属されている。
「危なくねぇか?」
 アナスタシアの肩口から覗きこみながら、ランディが言った。それも当然だ、なにせ脳内に直接データを送るのだ。もしこの中に有害なデータが含まれていれば、脳に障害を被る可能性があるのだ。
「大丈夫です、わたくしは有害性のある情報に対するプロテクトプログラムをインストール済ですわ。もし、ホログラムやわたくしに不審な動きがあればすぐにカプセルを叩き壊してもらえれば大丈夫かと思います」
 ランディは少し考えたが、どうにも専門外の事で良い意見が出てこない。
「あ、そうだ。旦那は?」
「私はまだ正式な指揮官ではないからな。その危険度に見合ったプロテクトプログラムしか支給されていないよ」
「ああー……それもそうか」
 困った顔でランディが頭を掻く。確かに、このような種類の仕事は諜報部の役目に近い。テイルが通常のプログラムしか持っていないのは、当然の事だった。
 ランディの複雑な表情に、テイルがにやにやと笑って続ける。
「そんなに彼女の事が心配か?」
「! い、いや、そんなんじゃねえよ。ほら、女性を危険な目に合わせるわけにゃいかねえだろ!」
「そりゃまあ、私もそう思うがね。今回の件に関しては、アナスタシアが一番安全なのは明白だよ」
「さあ皆さん、お遊びはそこまでですわよ」
 厳しく言いながら、アナスタシアはヘッドフォンを着ける。自分の話が発端だというのに、涼しい顔でカプセルの側面にある再生スイッチを押した。
 ヴン、と鈍い音がして天面のガラスが黄緑のフォトンの光に包まれた。しばらくの間ノイズが走り、やがてそれが映像っぽく形を整えてゆく。
 映像はかなり古いのか、劣化しているのか……とにかく見やすい状態ではなかった。
 ……何かが、動いている。それは"何か"としか形容できない。何故なら、何やら白色の物体がゆらゆら動いているのが見えるのだが、ピントが合ってないのでボケているのだ。
「?」
「……ふむ、白いワンピースを着た女性……じゃないか?」
「ああ、なるほど。さすがだな旦那」
 ここで、徐々にピントが合ってきた。
 それは純白のワンピースを着た、若いニューマン女性だった。
 服に負けない白い肌で、腰まで届く長い髪をたくわえている。釣り上がり気味の瞳や、すらりと通った鼻筋は充分に美しく、赤い紅の乗った唇は女性としてのつややかさを証明していた。
 強いて言うなら、顔にそばかすが無ければ"完璧"だったのかもしれない。
「さぁ、おいで?」
 柔らかく微笑んで、彼女はその右手を差し出した。右下から、小さな左手が伸びてその手を取る。
 そこまで見せてから映像にはノイズが走りだしてやがて映像は消えた。天面のガラスも光を失ってゆく。どうやらこれで映像は終わりのようだった。
「これは……一体何なんでしょう」
 アナスタシアがゆっくりとヘッドフォンを外しながら振り向いて、言った。
「!? お、おい、あんた……!」
「え?」
 ランディは思わず彼女を指差して叫ぶ。
 アナスタシアは、一瞬何の事か分からなかったが、違和感に気付く。頬を何かが伝っているのだ。
「……涙?」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe29 涙
 まるで他人事のように呟いて、頬を手の甲でこする。そこには、擬似体液で作られた液体――涙で、濡れていた。
「わたくしが? 涙?」
 信じられないとばかりに言って、ごしごしと拭う。
 確かにアナスタシアは涙を流す機能も備えていたが、問題は"なぜ、泣いているのか"だった。
「あんた、どうしたんだ? 今の映像、何を意味していたんだ?」
「……正直、わたくしにも分かりません。ただ、見ているうちに心をわし掴みにされたような気分になってしまい……とても複雑な感情が渦巻いていますわ」
「さっぱり意味がわからねぇ……」
 ランディが素直に呟いた。体験した本人にもよく分からないものを、彼に分かるはずはなかった。
「とりあえず……何か意味があるのかもしれません。データはコピーしておきます」
 手際よくコードを取り出し、カプセルに繋ぐ。
「……コピー完了。これでもう、ここにはめぼしいものはなさそうですわね」
 アナスタシアはまるで何もなかったように言って、笑顔で振り返った。
「あ、ああ。というか、大丈夫なのか……?」
「え? 何がですか?」
 ランディがおそるおそる聞く声に対して、彼女は目をぱちくりとして答える。
「いや……その……泣いてたじゃねぇか」
「あ……いえ、大丈夫です。私の感情ではありません、あくまでカプセルの映像の影響での涙ですから。むしろ、すっきりしたような、安心したような……形容し難い感情です」
 ランディが口をぱくつかせて、何か言いたそうな様子だったが、ほどなく口を閉じた。出る幕は無いと判断したらしい。
「では、探索を続けましょう」
 言って彼女は、出口のドアノブに手をかけた。
 その表情は、清々しい笑顔だった。

<< universe28

注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
※作中の表現や描写、ならびに使用している画像などは、ゲーム内で再現できるものとは限りません。
※この作品は、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているため、暴力・性的な表現を含む場合があります。予めご了承下さい。

本サイトは全ての利用者に対して「エンターテインメイト小説」として娯楽を提供するものであり、閲覧・投稿についての保障・責任は一切行いません。
また、上記注意事項を越えたご利用によって生じた損害に関して、当サイトは一切責任を負いません。予めご了承下さい。

拍手

作品へのコメント、感想や質問などはこちらからお願いします。
(無記入でも押せますが、何か書いてくれるとすごく嬉しいです)