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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe28 過去を越えて

 ホルテス・シティのフライヤーベースに降り立って、三人は歩き出した。
 オルハはどこか物憂げな様子で、いつになく静かに。ファビアもまだ悩んでいるのか、どこか虚ろに。彼の裾を掴むネイもそれを知ってか、きょろきょろと物珍しそうにはしているが大人しい。
「ラ=シークって、どんな人なんだろうね」
 フライヤーベースの建物内を歩きながら、不意にオルハが口を開いた。
「パルム生まれのヒューマンで、投資家です。今年40歳の独身男性のようですね」
 まるで今日の天気について語るかのように、表情を変えることなくファビアは言う。
「16年前にバーバラが表舞台を追われた頃から、それを助ける形で投資を始めたようです。マッケラン家は元々大変な実業家で、彼は気に入った者には投資を惜しみません。その半面……モラルがないというか、好奇心が強いというか……」
「……投資する相手を選ぶ基準がおかしいんだね?」
「そういう事です。また、ヒューマン至上主義者としても活動をしているようですね。その手の組織とも関係が噂されています」
 オルハは少し難しい顔をして、首を僅かに傾けた。
「なんだか面倒くさそう……ぅあぁ!」
 建物から外へ続く自動ドアが開いて、広がる光景にオルハは思わず声を漏らした。
「うわ〜ホルテス・シティに来たの久しぶりだなぁ〜!」
 嬉しそうに両手を天に向けて伸ばし、大きく伸びをする。
「おるは、うれしそう」
「うん、だって久しぶりだもん! ああ〜、レイラやジュディは元気かなー。あいつらも大きくなってんだろうなぁ〜」
 ネイの言葉にオルハは最高の笑顔で答える。
「"クズ鉄街"の仲間ですか?」
「そうだよ、ローゼノム・シティの近くになんだよね。近くに行くことがあれば、寄りたいなぁ」
 元気そうに言うオルハは、いつもの元気を取り戻していた。
「そうできればいいですね」
 ファビアが微笑みながら答えて、ネイの頭を撫でる。
 ――よくよく考えれば、ネイも孤児なのだ。ネイの場合はたまたまファビアがいたから、こうやって保護してあげる事ができた。
 本人の意思もあり本来なら研修生とすべきなのだが、それには14歳以上という年齢制限がある。ファビアはガーディアンズと交渉し、最終的に特例として"候補生"という形になった。コロニー内のファビアの自室に同居し、任務もファビアの判断で参加させる事ができる。おまけに、生活費の一部はガーディアンズが負担してくれる。
 ガーディアンズにとっても若い人材確保の可能性を持つ事ができるし、ファビアも1人の子供を救う事ができる。悪い話ではなかった。
 だが、世の中には恵まれない子供の方が多いのが現実だという事をファビアはよく知っている。
 自分の無力さを思ってか、瞳を閉じてゆっくりと息を吐いてから、はっとなって口を開いた。
「……ああ、そうだ、大事な情報を忘れていました」
「ラ=シークの?」
「そうです、彼は……元ガーディアンズです。腕はあったそうですが、ガーディアンズの理念に相反する行動が多かったため、ほぼ除名に近い形で10年以上前に脱退しています」
「……面倒だなぁ」
 オルハが口を尖らせてぼやくが、任務なのだし仕方ない事は本人もよく分かっていた。
 ゴーヴァ鉱山は、パルムでも1・2を争う規模の鉱山だった。そもそも、もとから資源が豊富な星ではないので競合が少ない事もあるが、9年前にラ=シークが経営を手掛けるようになった時から、急激に事業拡大したのもまた事実である。
 ここホルテス・シティから北へ100キロほど向かった所に、ゴーヴァ鉱山はある。本部でフライヤーの手配はすでにしており、午後から鉱山へと向かうという段取りだった。
 オルハは街の露天でメセタカードを渡し、コルトバジュースを受け取る。ストローをくわえて弄びながら、口を開いた。
「まあ、行くしかないのは分かってんだけどね」
 時計を見ると、まだ午前11:00。出発まではあと2時間といった所だ。
「あ、そーだ。時間あるなら、墓参り行っていい?」
「……墓参り? 時間的に問題が無いなら構いませんが……誰のですか?」
「うん。ボクのパパの」
 オルハがあまりにも自然に言うのに、ファビアは一瞬解答に困った。
 ……それほど軽い話ではないのではないだろうか?
「ええ、それはもちろん、問題ないですよ」
 そういえば、彼女も天涯孤独の身なのだ。わずか10歳で社会に放りだされた彼女に比べれば、自分はなんと幸せなのだろうとファビアは思う。
「ふぁびあ、のどかわいた」
 オルハを見てうらやましいと思ったのか、裾をくいくいと引っ張りながらネイが言う。
「はいはい。コルトバジュースでいいですね?」
「うん!」
 ……本当に、自分は幸せだ。自分を必要としてくれる人間が周りにいる。トモエとの件でかなり落ち込んでしまっていたが、冷静に考えれば自分はなんと幸せなのだろう。自分はなんと恵まれているのだろう。
 その人たちのために何か出来る事はないだろうか? 自分が分けられるものは何なのか?
 そして……自分はどうあるべきなのか……?
「実は、初めてなんだよね」
 オルハがまるで、初恋の思い出話を語るようなはにかんだ微笑みで切り出した。
「……?」
「パパのお墓参り。ずっと、なんか受け入れられなかったのかな。行けなかったんだよね」
「なるほど……それは分かります」
 かく言うファビアも、両親が死んだ時にその現実を受け入れるまではかなりの時間がかかった。そのせいもあり両親を崇拝するようになったが、その間の苦悩は筆舌に表し難い。
「もし良ければ、私も連れてってください」
「え? そりゃ全然構わないけど。面白くないよ?」
「ええ。ただ、耳を傾けたいと思って。……先人の思いに」
 ファビアがいやに微笑んで言うのを見て、オルハは首をかしげた。

 ホルテス・シティから北へ、リニアトレインで30分ほど。リニアトレインとは、交通公社であるTTB社が運営している交通手段のひとつで、フォトンの推進力を使った列車の事だった。
 リニアトレインのホームを降りると、そこはすでに片田舎という風情だった。しばらく進んでゆくと、やがて竹林へと入ってゆく。道は狭く、建物は古く、首都から近いという雰囲気を感じさせない。
「この辺、保護区域なんだよね。古い建物がちょっとあるから」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe28 過去を越えて
 オルハが言いながら歩き出した。
 かつて500年の戦争で圧倒的強さを誇った"オラキオの民"と呼ばれる民族がいた。彼らはヒューマンの味方として活躍したという、伝説の民。
 そのオラキオの民を祭っている社がパルムにあるのだという。その流れで近くに寺院ができ、現在に至っている。
 その寺院に、オルハの父は眠っているのだ。
「500年戦争ですか……」
「幾度の激しい戦闘を勝ち残ったという昔話を、子供の時よく聞かされたよ。『だからお前も強くあれ』って。パパはオラキオの血を引いてるんだ」
「ほほう、だからここにお墓を、ですか」
「そーゆーこと」
 樹木の生い茂った、石畳の細い道を歩きながら、虫の声のBGMに耳を傾ける。本当に、のどかな場所だ。
「あそこだよ」
 オルハが指を指す方向を見ると、丘の上に木々に囲まれた、古めかしい建物があった。ニューデイズ様式に似た、瓦の屋根に漆喰を塗った壁、木材で出来た柱。どれもが古い建物である事を告げていたが、あくまでそれは見た目だけで、フォトン加工を施されているため、機能的には現代のものと遜色ないのだという。
 長い石畳の階段を上ってゆくと、やがて建物の前に出る。地面より高い箇所に床を設けたり、外に面した場所が廊下だったりする建築様式がニューデイズらしい。柱となっている木々は黒ずんでいて古さを物語っており、伝統を感じさせる。
 二人が建物を見ていると、一人の男が竹帚を持って現れた。
「おや」
 気づいて男は言う。ヒューマンの若い男性で、前で合わせる衣服に袴を履いていた。優しく細い目で微笑む。
「すいません、お墓参りに来たんだけど……場所が分かんなくて」
「はい。どちら様の?」
「ゴーヴァ……ケイン・ゴーヴァです」
「はぁ。どういったご関係ですか?」
「娘です」
 男はしばらく考えてから、急にはっとした顔で目を見開いた。まるで死んだはずの人間を見るような目つきに、オルハはたじろぐ。
「まさか……いや、そんなはずは。なぜ今になって……」
「?」
「……オルハ・ゴーヴァ、生きていたのですか」
 男が潤んだ目を細めて、よろよろと近づく。そのまま両手でオルハの肩を掴む。
「え、ええっ? なんでボクの事知ってるの?」
「……詳しい話は、住職から直接聞いた方が良いでしょう。こちらへお越しください」
 言って男は、寺院の横の建物を促す。
「……オルハ、どういう事なんです?」
「それはボクが知りたいよ。ボクのパパって一体何者だったの?」
「詳しい話を聞いてみなければ……という事ですね」
 二人はよく分からないまま、男の後ろについて行った。

 通された客室は、畳を敷いた和室で、真ん中に大きなテーブルが置いてある。廊下の向こうには広い庭が見える。小さな池といくつかの木が、風流だった。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe28 過去を越えて
「おお……初めてお目にかかる、オルハ殿。拙僧はこの寺院の住職を務める、ユーシスと申す」
 しばらくして姿を表したのは、立派な袈裟を羽織り、白い髭をたくわえた老人だった。
「ボクのパパの事、知ってるの?」
「……詳しく話せば長くなる。何から話せばいいものか……」
 小姓が盆に茶を乗せてきて、人数分を置いた。喜んで手を伸ばすネイに「熱いから」とファビアが制する。
「……結論から言うと、我々は、グラール太陽系の人間ではない」
「えっ!」
 オルハが思わず声を漏らした。目を見開いて、弾かれたように震える。
「500年戦争以前、違う太陽系から脱出してきた一族……それが我々"オラキオの民"じゃ。すでにほとんどグラールに適応しておりこの事は別に気にもしていないが、それでも今も強い横のつながりを持っておる」
 ファビアが考え込むように腕を組んだ。別に違う星の人間である事は驚かないが、そのような事実があったとは。
「じゃあ……ボクのママもオラキオだったの?」
「いや、マーリナはグラールの者じゃ。様々な問題があって、駆け落ち同然で出て行った。……こんな事になるのであれば、ちゃんと祝福してあげるべきだったと思う」
 ぴく、とオルハが眉を動かした。うつむいたままで、
「……そういえば、パパとママは苦労していた。鉱山が危ない時にも、力を貸してくれる人が誰もいなかったみたいだった。ボクが覚えてる子供の時の思い出は、いつも暗いものばっかりだよ」
「……だからオラキオから嫁を取れと言っておったのだが……」
 ユーシスは歯がゆいような、すねたような、難しい顔で呟くように言った。
「なんだよそれ……種族が違うとか民族が違うとか。そんな事を理由に人を見捨てる事って、正しい事?」
 ためらいのないオルハの言葉は、正論だった。住職がちらりと目線を向け、目が合うと逸らして外へ向ける。
「……わしらにはわしらのルールがあるのじゃ」
 だんっ、と音が響いた。オルハの拳がテーブルを叩いていた。
「クズ鉄街では種族も何も関係なかった、みんなで協力して身を寄せ合って生きていた! ガーディアンズだって同じだ、協力して大きな任務にあたってるんだ! ただそれだけの事じゃないのかッ!」
 オルハがうなる猫のように、荒げた息を吸って、吐いた。
「……あんたらの理屈は、閉鎖的なくだらないプライドの産物だッ! 反吐が出る!」
 オルハの声に誰も異論を唱えない。
「……そう言われると返す言葉はない。だが……わしらはわしらで、この連帯を守るために努力してきたつもりじゃ。それだけは分かって欲しい」
 言ってから彼はゆっくりと茶をすすった。
「……これ、この茶はどのような茶か」
 そこで座っていた小姓が急に声かけられて、慌てて答えた。
「ニューデイズのギョク・ロです」
「そうか、いい茶だ」
 ユーシスはもう一口すすってから、ゆっくりと続ける。
「……オルハ殿、許してくれとは言わぬ。だが、こちらの事情も察してはくれんかの」
「……」
 オルハはまるで、全てを封じ込めた貝のように、うつむいたまま何も言わなかった。
「……ケインの墓に、案内しよう」
 彼は言いながら、ゆっくりと立ち上がった。

 裏の丘に広い土地が広がっていた。そこには石を切り出して作った墓が多数並び、その歴史を物語っていた。
「……ここには、歴史が詰まっておる。500年戦争の勇者として名を馳せた者たちが……そして、ここにケインも眠っておる」
 住職の声をオルハは気にせず、片っ端から墓を見てまわり、『ケイン・ゴーヴァ』と書かれた墓を見つけ、その前に膝まづいた。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe28 過去を越えて
「……パパ」
 絞り出すような声に、ファビアは何も言えなかった。ただ、その光景を見守るしかない。ネイもよく分からないままに、オルハの真似をして手を合わせている。
「ケインが病院で息をひきとってすぐは、我々は動けなかった。ケインの身元を確認するのに、多少時間がかかったからだ。……わしらと密接な繋がりがあれば、すぐに分かったんじゃが……」
「その状況を作ったのはあんたたちだ」
 オルハが墓前に手を合わせて頭を垂れたまま、鋭い言葉を吐いた。
「パパ、今まで来れなくてごめん。ボクは一人で頑張ってたつもりだったけど、そうじゃないのに気付いた。パパがいて、ママがいて、そのお陰でボクがいるんだ。それに気付いた」
 その声に、皆がしんとなって動けなかった。まるで空気が凍ったような時間が訪れ、動く事さえやましい事なのかと思えた。
「でも、ごめんねパパ。……ボクは、ボクのために生きる。期待には添えないと思う。……でも、見守っていて」
 言い終えてさらに深く頭を垂れ、それから弾かれたように飛び上がった。
「よしっ、墓参り完了!」
「……あはは」
 ファビアが苦い顔で笑った。両親を崇拝している彼には分からない部分が多かったが、同時に理解できるものでもあった。
 ……辛かった時期の違いだとファビアは認識する。
 オルハにはもう、分なのだと。
「……ファビア、戻ろう。そして、行こう」
「え、ええ。いつでも大丈夫ですよ」
 オルハの瞳が、輝いていた。純粋で前向きな瞳はファビアに向けられているが、それよりもずっと先を見ているように見えた。はるか先、遠い未来を見ているようなまなざしにファビアは戸惑う。
 ……彼女はこれほど強い人だったか? 周りの空気を震わせるほどの強さを放出しているようなタイプの人間ではなかったはずだ。
 思えば昨日から、彼女は妙に強くなっている。もしかして、彼女が成長する瞬間を目の当たりにしたのか……?
 三人は虫の声を聞きながら、リニアトレインのホームまで黙々と歩き出す。
 その光景を、寺の境内でユーシスはずっと眺めていた。掃き掃除をしている小姓に振り向いて、独り言を言うように口を開いた。
「あの子は我々を許してくれるじゃろうか。それとも、我らに刃を向けるのじゃろうか……」
 ユーシスの言葉になんと返答していいか分からず、小姓は言葉に詰まった。
 だが、ユーシスは別に答えを期待していなかったのだろうか、ただずっと三人の後ろ姿を見ていた……。

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