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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe27 敵の名は

 今日はいい天気だった。温かい日差しがやわらかに降り注ぎ、張り詰めた冷たい空気を穏やかに変えてゆく。
「うお、さっむー……」
 ランディは言いながらテントから顔だけを出し、吐いた息が白くなるのに寒さを実感した。
 ここヴィオ・トンガは惑星の自転軸に近い場所で日照が非常に少なく、寒いのは当たり前ではある。だが、モトゥブで生まれ育ったランディでも北方大陸での生活経験は無かった。
「とりあえず着替えるか」
 頭を慌てて引っ込めて、ランディは服を着る。テントはシールドラインと同じ技術で包まれており、見た目に反して中は快適だった。裸になって着替えるのにも問題が無い。
 着替えてシールドラインの気温調節機能をオンにすると、ゆっくりと体が温まってゆくのを感じる。
 とりあえず、携帯保存食を取り出してくわえた。時計は午前7時5分前を指しており、昨晩約束した集合時間まであと僅かだと告げている。
「ランディ、起きていますか」
 ちょうどいいタイミングで、アナスタシアの声が外から聞こえる。
「ちょうど今、準備が終わった所だ」
 言って空になったチューブをくしゃくしゃと丸める。
「では、簡単な作戦会議をしたいのですが。入っても?」
「もちろん」
 アナスタシアの小さな手が覗いて、テントの入り口を広げてゆく。入り口は二枚の布を前で重ねただけで、貧相に見えた。
「なかなか広いな」
 覗きこみながらテイルが言う。ランディは体が大きい分、特大サイズのテントを支給されているのだった。
 とはいえ、もともとが一人用なので三人も入ればさすがに窮屈だ。高さも1メートルちょっとしかなく、なおさら圧迫感を増す。
「……なぁ、狭くないか」
 ランディが呟くように提案するが、
「しかし、私たちはもうテントを片づけてしまったんだ。近くにキャスト兵たちがうろうろし始めてね」
「なるほどねぇ」
 確かにテントはレーダー探知されないようにできているし、自動保護色で発見されにくくはなっている。だが、近くに寄られてしまえば簡単に見破られるものだった。
「まずいんじゃないか、この天気じゃ足跡が隠れない」
「だからこそ、急ぐ必要があるのですわ」
 アナスタシアはうつむいたまま、ゆっくりと言った。
「本来なら、陽が暮れてから潜入したかったのですが、そういうわけにもいきません。時間が経てばこちらが不利になるのは目に見えています」
「……そうか、そういえばあのアホメイドが情報を持ち帰ってるだろうしな」
「そういうことです。長期戦になればなるほど、わたくしたちは不利になるのです」
 ランディはその声を聞きながら、指を何度か伸縮させて、手袋を馴染ませた。左掌に右の拳を叩きつけて、
「よし、行くか。最優先事項はなんだ?」
「最優先は施設の存在目的の確認と、その情報入手です」
「分かった。やるか!」
 ランディがすっくと立ち上がり……かけた所で、天井に激しく頭をぶつけて、テントがぐらぐらと揺れた。

「歩きにくい」
 ランディが子供のように、眉をひそめて言った。
 彼は両足に先端が上方に反った板……つまり、スキーを履いていた。長さは2メートル弱ぐらいで、幅が10センチほど。独自に浮力を持っており、常に地面から10センチほど浮いていた。
「あら。フォトンスキーは初めてですか?」
「ああ。……なんか手慣れてるな、お二人さんは」
 アナスタシアが微笑みながら言うのに、ランディは激しく頷いてから拗ねた口調で言った。
「あら。寒冷地仕様では標準装備ですもの」
「製造1年目はまったく滑れなかったがな。慣れると気持ちがいいものだよ」
 テイルが目の前で身軽にターンを決めて、ゴーグルを上げながら言った。
「……っつーか、ズルいなお前らは。ホバー使ってるじゃねぇか」
「ホバー制御が上達のコツなのですわ」
 二人はキャストらしく、肩や背面のホバーを使い、うまくバランスを調整している。
「俺にホバーがついてるはずがないだろーが!」
「ああ、それもそうですわね。では、エアボードなどは? あれも原理は似ていますわ」
「残念ながら。貧乏だったもんでね」
 すねたように言ってから、のろのろと進みだす。まだ歩いた方がマシかと思えるほどの遅さだった。
 よたよたとバランス悪く、倒れそうになって反対側に重心を移しては今度はそちらへ倒れそうになる。そんな事を何度も繰り返しながら、なんとか進んでいた。
 アナスタシアはそれを見送りながら、テイルと顔を見合わせた。それからそっと近づいて、何かを耳うちする。
「……なるほど。それは効率的かもしれんな」
「でしょう? 習うより慣れろ、という言葉もありますし」
「よし、乗った」
 テイルがゴーグルをかけて、腰を落とした。地面を蹴って勢いをつける。それにアナスタシアも続いてゆく。
「ったく……これじゃあ歩いた方がぜってぇ早いな……うおおおおっ!」
 ぶつぶつ独り言を言いながらのろのろ進んでいる所に、突然背中を強い衝撃が押す。ふっとばされそうになって伸ばした両手を、ぐっと掴まれた。
「!?」
 よく見ると、両手はテイルの手に導かれて彼の腰を掴まえている。後ろにはアナスタシアが、両手で背中を支えていた。
「おいおい……こりゃあなんのマネだ?」
「体験してもらおうと思ってね。体一つで時速100キロを走る気持ち良さを」
「ちょっ……!」
「あらテイル、100キロでは済まないかもしれませんわよ? 昔のアニメで、"四人繋がれば四倍の早さ"というのを見た事がありますわ」
 テイルがふっ、と渋く笑ってから、答えた。
「では、三人だと300キロか? ……久しぶりだな、その世界は」
 よく見ると、何やら希望と夢に満ちた熱い視線で、テイルが微笑んでいた。
「ちょっと、ちょっと待て旦那! 目的がすり変わってるぞ!」
「かつて"疾風の貴公子"と呼ばれたのは伊達ではない! ゆくぞ!」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe27 敵の名は
 ヴン、と板がまばゆいフォトン光を放つ。ため込んだパワーを一気に吐き出し、最高のロケットスタートをするために。
「おい、おいおい! 本気か!? というか、なんだよそのちょっとした過去自慢は!」
「テイル、その腕前に期待していますわ」
「だから、あんたも炊きつけ……」
 ランディが最後まで話す前に、ドン、と激しい音が鳴った。
 次の瞬間、彼らを中心に激しい上昇気流が発生した。足元の雪がえぐれて吹き飛び、大きな穴が開く。煙のように雪が舞い、はらはらと空中を漂う。
 その中に、三人の姿は無い。あまりのスタートの早さに、すでに遠くまで行っているのだ。
「うわあ〜〜〜あぁぁああぁぁぁぁ……」
 その証拠に、森の向うからランディの絶叫が響いていた。

「なるほど」
「出口の近くに警備兵がいなかったのはそういう事か」
 アナスタシアの声にテイルが同意した。
 窪地の中の施設まで500メートルといった所だろうか。二人は崖の上から様子を見ていた。
 建物は、窪地に立っていた。大きく鋭くそびえ立ち、尖った山頂が天を仰ぐ、氷山のようだ。その壁面には大きな門らしきものがあり、門の前に二人のキャストが立っている。
 その周辺には周囲を警戒して草むらに潜む者、木の上に昇って遠くを警戒する者など、20人ほどのキャストが確認できる。彼らの様子はとても尋常なものとは思えず、かなりの厳戒態勢が敷かれていることがうかがえた。
「……すでに警戒されているようですね」
「なるほど。これはやっかいだな」
 テイルが腕を組んで、難しい顔で頷いた。
「……どちらにせよ、情報が欲しいですわね。ランディ、また昨日みたいに一人捕まえ……あら」
 アナスタシアは振り返って、ランディの姿が無いのに気づく。
 ……いや、いた。地面にしゃがみ込み、悪い顔色のまま全身で呼吸をしている。
「どうしたのです? 気分でも?」
「……お蔭様で。時速300キロの世界は寒さが見せた幻影だと思いたいね」
「あら、スリルを楽しむ余裕がありませんと」
 微笑みながら楽しそうな声でアナスタシアは言う。その表情はどこか高揚しており、まるで好きな異性の事を語っている時のそれに近い。
「……それは分かるが向き不向きってもんがある、スピード系は苦手なんだ。……とりあえず、回復したら行くから、しばらく時間をくれ」
「ごゆるりと。……テイル、私は様子を見にひとまわりしてきますわ。ランディの傍にいてあげてくれません?」
「分かった。気をつけてな」
「ええ」
 言ってアナスタシアはフォトンスキーに飛び乗る。ちょうど窪地の周りの崖に沿って、一周するつもりだ。
 ゆっくりとまわってゆくと、建物は意外と小さい事に気づく。たかだか直径50メートル程度だ。
 突然、ゴゴゴ……と地鳴りが響いた。とっさに木陰に身を寄せ、辺りを窺う。
 施設の前には100メートル四方程度の平地があるが、そこが割れている。
 カメラのシャッターのように、中心から穴が大きく広がり、平地にぽっかりと穴が開く。そこからゆっくりと何かがせり上がり、地表に姿を表した。
「あれは……!」
 例のキャリアーだ。せり上がる床に止まっており、床が地表と同じ高さになった所で動きが止まった。
「……なるほど、いやに小さいと思ったら、ここはあくまで入り口で、施設は地下に広がっているのですか」
 建物の門が開く。何人かのキャストに囲まれて、見覚えのある人物が見える。
「バーバラ……!」
 べったり張り付くようにジャッキーが、その後ろにプルミエールがいた。
「なるほど、この厳戒態勢はそれが理由なのですね」
 団体はそのままキャリアーに近づき、そこでバーバラが振り返る。プルミエールと何かを話した後、彼女を残した全員がキャリアーに乗り込み、すぐに飛び立って南の方へ消えた。
 アナスタシアは地面の穴がふさがり、プルミエールが入り口へ消えるのを見てから、ゆっくりと息を吐いた。
 バーバラがいる時に潜入できていればという後悔と、プルミエールがいるという事実からこちらの動きはばれているだろうという懸念からである。
 とりあえず、アナスタシアは皆の元へと戻る。
 二人もまた、近くの木陰に潜んでいた。……が、もう一人来客が居る。
「あら。もう捕まえちゃったのですか?」
 キャスト警備兵が、後手に縛りあげられ猿ぐつわをかまされていた。
「ああ、近くをふらふらしてたからな……ホレ、きりきり喋ってもらおうか」
「え、ちょっと、なんだこれ」
 ランディが言いながら猿ぐつわを外すと、キャストが戸惑いの表情で口を開く。
「えーっと、とりあえず、知ってる事に答えてくれ」
「ちょっと待てよ、そもそもお前ら何者だ? 一体何の目的があ……げふっ」
 ランディの裏拳が顔面を打って、ふと動きが止まる。
「……って、あれ?」
「おかしいですわ」
「……これはどういう事だ?」
 三人がいぶかしげな表情で顔を見合わせた。
 ――そう、このやりとりは昨日のキャストとまるで同じではないか!
「……これはまさか」
 アナスタシアが視線を落として暗い顔で続ける。
「バーバラの研究によって……量産されているというのですか……?」
 か細い声で一番聞きたくなかった結論を聞いて、一同は押し黙った。
 人間の記憶をコピーする技術。そんなものが存在するとは聞いていたが、その非道な行いを目の当たりしてしまうとその恐ろしさは筆舌にできない。冷たいものが背筋を走り抜け、包み込み、その中でもがいているような感覚に落とし入れられた。
「なんだよあんたら。何がしたいんだ?」
 キャストが、何も知らないが故の疑問を口にした。
「……悪ぃな、データはもらうぜ」
 静かにランディが呟きながら右腕を伸ばし、キャストの顔面を掴む。その指はわずかに震えて、手の甲には血管が浮き出す。明らかに力をこめて握っていた。
「!? お、おいお前――」
 ビシッ、と音が鳴って、キャストの顔面に亀裂が走る。決してもろいとは言えないキャストの装甲が、びしびしと音を立て始める。
「や、やめ――」
「……お前が悪いんじゃねぇ事は分かってる。だがよ――」
 バキン、と折れる音がしてキャストのヘッドギアが吹き飛ぶ。
 アナスタシアとテイルは、その光景をただ見ていた。その目線は座った眼つきで、言いようの無い絶望と怒りを感じさせた。
「――やっていい事と悪い事があるだろうがぁ!」
 ぐしゃっという音と共に、キャストの顔面が握り潰された。わずかにうめいて、彼は後ろに倒れる。ランディの手はわずかに血がにじみ、今もなお震えていた。
「……コナンドラム……ッ……!」
 嫌悪感をあらわに吐き捨てて、ランディはその拳を握りしめた。それからアナスタシアは鋭い視線で顔を上げて呟く。
「コナンドラム……」
 ――それが、我々が叩き潰す敵の名だ。

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