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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe26 やるしかない! 頑張れ、ボク!

「ねー、お見舞いってこれだけ? ボク、おなか減ったよー」
 オルハは診療衣に身を包み、ベッドで上体を起こした状態で足をばたつかせながら、言った。
「……死にかけたとは思えない元気さだね」
 隣のベッドで、ひきつった笑いを浮かべたままで、ヴァルキリーが言う。彼女もまた、診療衣に身を包んでいた。
 ここはガーディアンズ本部・メディカルセンター内の入院施設。通常の病院となんら変わりないが、設備的には充実している。
 重傷を受けたオルハは、ファビアの連絡で駆け付けた医療班によってセンターに運び込まれ、緊急手術を受けた。それからなんと、ものの一晩で意識を取り戻したのである。周りの心配もどこ吹く風、「見舞いが少ない」とのたまうほどの回復を見せていた。
 重体だったヴァルキリーも順調に回復しており、昨日からG本部の一般病棟に移っている。比較的短期間で退院できる者同士、2人は同じ病室だった。
「だって、する事ないしさー」
「ほんとオルハは食いしん坊だなー。……はい、おやつに持ってたチョコレートあげるよ」
 言いながらイチコは立ち上がって、ポケットから取り出したチョコレートを渡す。
「やっほぉい! ありがとう!」
「……病人とは思えないわね。でも、本当に危なかったのよ?」
 あきれ顔で、ベッドのわきに座っていたアルファが言った。
「そうなの? もぐもぐ」
「幸い、ファビアがテクニックである程度治してくれたから助かったようなものよ。ねぇ、ファビア」
 言いながら一同はファビアを見るが、彼は椅子に座ったまま暗い顔でうつむいていた。隣に座るネイも、ファビアの服を掴んだまま、同じような表情でうつむいている。
「先生、ファビアどうしたの?」
「オルハを運んできた時から、ずっとこうなの」
 小声で問うオルハに、アルファは小さく両手を広げて、小声で囁き返した。
 すぐ傍で2人が話しているにも関わらず、ファビアの耳には周りの声が聞こえていないようだ。うつむいたまま時々腕を組んだり、独り言を言ったりしている。
「……まあ、放っておこう。そのうち動くよ」
「そんなぞんざいな」
 アルファが苦笑しながら答えてから、続ける。
「ところで話は変わるけど、イオリたちがオルハの事を知ってたって本当?」
「うん。トモエはボクの名前を聞いて『あんたが鉱山育ちの山猫ね』って言ってた」
「そう……一度イオリと戦った時に、オルハの事を調べたのかしら?」
 アルファが顎に手をやりながら考える素振りを見せるのに、オルハは首をかしげながら答えた。
「それはないと思うよ、それならイオリから話を聞いているだろうし。むしろ、すでにゴーヴァ鉱山の存在を知ってて、ボクが名乗って繋がった、って感じだった」
「ふむ……」
 アルファが右手に顎を乗せ、左手でその腕を包みながら考え込んだ。
「怪しいわね。オルハのお父様は9年も前にゴーヴァ鉱山を譲渡しているのよ。 そんなに昔の事とすぐに繋げる事ができるかしら? ……何かひっかかる……私の方でもちょっと調べてみるわ。何か分かったら、ファビアとオルハで偵察に行ってちょうだいね」
「うん、分かった。ね、ファビア」
「……」
 相変わらずファビアは渋い表情だ。
「……ファ、ビ、アー!?」
「はっ……はい?」
 オルハに叫ばれて、やっと呼ばれている事に気づいた。一同がどっと笑って、視線がファビアに集まる。ファビアはきょとんとした顔で、周りを見回した。
「……えっと、今、呼びました?」
「呼んだも何も、ボクたちの話聞いてた?」
「……あ、すいません」
 ファビアが我に返ったように顔をもたげ、照れるように笑いながら口を開いた。ネイが「もうおわり?」と言いながら、きょとんとして首をかしげる。
「で、何の話をしてたんです?」
「イオリとトモエの事よ。ゴーヴァ鉱山の事を知ってるみたいだから、調べる必要があるなって思って」
 アルファの簡潔な説明を聞いて、ファビアは難しい顔をした。
「最低限の事はすでに調べてあります。9年前に経営者が変わり、今はGRM系の企業が経営しています。代表取締役はラ=シーク・マッケランという実業家ですね」
「そうなんだ。なんで知ってるの?」
 あまりに自然に答えが出てくるのに驚いて、オルハが思わず聞き返す。
「オルハと組む事が決まった時に、鉱山の現状についても調べたんです。何かの役に立つ時もあるかと思ったので」
「うわーファビア、なんかえろーい」
 オルハが目を細めながらおどけて言う。
「えろーい」
「えろーい」
「えろーい」
 それに続いて、みんなが連呼する。
「! なんですか、イチコもヴァルキリーも、先生までみんなして」
「ま、冗談はさておき」
 アルファが笑いながら続けた。
「詳しく調べてみるから、また後でね」
「うん、先生もがんばってね」
 オルハたちが手を振りながら見送る中、アルファは部屋を出た。
「ところでファビア、なんでそんなに落ち込んでたの?」
 不意にオルハが言って、ファビアが驚いた顔をした。
「あ、いや、その。相手が誰であれ、恨まれるのは気分の良くないものですよ」
「ふーん……でもあいつら、わるいやつらだよ?」
 ファビアは少し困った顔で答える。
「確かにそうかもしれませんが、世の中裏側から見ると真実は他にある場合があります。私たちにとって彼らは敵ですが、彼らから見れば私たちが敵なのです」
「ふぅん」
 オルハが首をかしげて曖昧に答えた。どうにも意味がよく分かっていないようなのは、その返事からもすぐ分かる。
「けどさ……ボクたちはあいつらを、ぶちのめさなければいけない。それがガーディアンだよ」
「もちろんです、それは分かっていますよ」
 ファビアは苦笑しながら答える。どこか歯切れの悪い答えだった。
 その曖昧な答えにオルハは小さく息を吐く。
 ……ほんと、ファビアは頭が良すぎるのか、何でも考えすぎるんだとボクは思うなあ。
「ファビアがした事は悪い事じゃないよ。悩む必要なんてない。ボクらはガーディアンズの信念の通り、やるべき事をやった――OK?」
「ああ、それはもちろんです。決して、自分の行いを後悔しているわけではありません。ただ……」
 不意にファビアが視線を逸らす。
「……ただ?」
「己の実力不足を攻めている、というのもあります。私の腕が未熟でなければ、手元が狂う事もなかったのかと。トモエをあれほど傷つける必要はなかったのは事実ですから」
 ふむ、とオルハはため息をつきながら頷いた。
 ……その気持ちは分からないまでもない。けど……。
「あ、の、さぁ」
 言いながら、オルハは両手でファビアの顔をばちんと挟む。
「!?」
「ネイが狙われて、危うく殺されかけたんだよ! 人を殺そうとする人は、自分が殺される事も覚悟しなきゃいけないんだよ!」
「ふぁ、ふぁい……」
「だから、ファビアのした事は正しい。間違ってない! ボクはそう考えてる! ねえ、みんなもそう思うっしょ!?」
 その剣幕に押されて、全員がうんうんと頷く。
「ファビアのした事は、正しい判断だよ」
「そうそう。こんな可愛いネイちゃんを狙うなんて、考えられない!」
 ヴァルキリーが頷きながら答え、イチコはネイを抱きしめて頬擦りしながら言う。「うっうー」とネイが苦しそうに呻いた。
「……皆さん……」
 ファビアが言葉にならないといった様子で、呟いた。
「……あのね、ふぁびあ」
 ネイの手がきゅっとファビアの服の裾を掴んで、言った。
「たすけてくれて、ありがとう。あしでまといになって、ごめんなさい」
 泣きそうな顔でぺこんと頭を下げながら、ネイは言った。ファビアは少し呆気に取られていたが、「は、はい……」と漏れる言葉を垂れ流す。
「ほら、だから気にしなくていいんだよ、分かった?」
 オルハがケラケラ笑いながら、ファビアの肩をぽんぽん叩いて言う。
「……はい。皆さん、心配をかけてすいませんでした」
 申し訳なさそうに苦笑して、ファビアが頭をさげる。
「すいませんでした」
 ネイもそれを真似して、頭をぺこりと下げるのに、皆が笑い出した。
 ファビアは、心から申し訳なく思っていた。
 ……私は、1人ではないのだ。私の行いひとつで、皆を心配させてしまう事もあるのだ……。まだまだ精神修行が足りないな……。
「そういえば、ヴァルキリーは具合良くなったの?」
 不意に思い出したように、イチコが口を開いた。
「うん、昨日やっと昏睡状態から目覚めたの。危なかったみたいね」
「ボクは一晩で回復したのに」
「オルハは若いしヒューマンだもん。そりゃ私よりは早いよ」
「あっはっは、ニューマンは貧弱だなぁ! ボクの体力を分けてあげたいぐらいだ!」
 笑いながらオルハが声高らかに叫ぶ。明らかにむっ、とした表情でヴァルキリーとイチコが眉をひそめた。
「オルハ……お仕置きだね」
 ゆらりとイチコが立ち上がる。
「ん?」
「そうだね」
 ヴァルキリーが松葉杖を手に取った。
「んん?」
「手伝いますよ」
 ファビアもゆっくりと立ち上がった。便乗して、ネイも立ち上がる。
「んんん? もしかして……」
 オルハは気づいた。
 そう。この室内は、オルハとネイ以外は全員がニューマンなのである。
「くすぐりの刑!」
 イチコが叫んで指をつきつけた。それが合図だ。
 ヴァルキリーが隣のベッドから杖でつつく。イチコは両手でいろんな箇所をわきわきと。ファビアはネイをオルハの足に乗せ、二人がかりで押さえにかかる。
「ひゃは! あはははは! はははひぃ、ゴメン、ボクが悪っ……ひひゃひゃひゃひゃ!」
「なんて〜? よく聞こえないよぉ〜?」
 いじわるな顔でイチコが聞き返す。
「ひひゃひゃ……だから、ゴメンって……あはははは!」
「みんなどうする?」
 全員が顔を見合わせてから、イチコに向き直る。
 そして同時に頷いた。
「まだ、許さないって♪」
「うひぃ〜〜〜〜〜ぃ! ふははは、ゴメン! 悪かった、勘弁してください! ふひゃはひゃっはははひゃああ! ちょ、ちょっと、誰か今、胸触っただろ!」
「そんなぺたんこなの触るわけないじゃん」
 ヴァルキリーが杖でつつきながらいじわるな顔で言う。
「さすが、杖の扱いは慣れてますねぇ」
 見ていたファビアが変な所に感心している。
「おるは、ぎぶ?」
 足を抑えながら、八重歯を覗かせたネイがにこっと笑う。
「ギブ! ギブ! ていうか、さっきからずっとギブって言ってるっっっ!!」
「よし、くすぐりやめっ」
 イチコの号令で、皆がぴたっと手を止めた。
「お疲れさーん」
 笑いながらヴァルキリーが言って、杖を壁に立てかけた。
「ったく、心配かけちゃって」
「ホントだよ。オルハに何かあったらどうしようかと、一晩すごく悩んだんだから」
 両側からヴァルキリーとイチコに挟まれて、オルハはたじろぐ。
「うっ……ご、ゴメン。ボクが軽率だった」
「分かればいいんだけどね」
 満足そうに微笑んで、イチコが席についた。
「しかしまあ、昨日の今日でよくそこまで回復しましたね。あれだけの刃渡りの短剣を胸に突き刺されたのに」
「だよね。……あー」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe26 やるしかない! 頑張れ、ボク!
 おもむろに、オルハが診療衣をもぞもぞと脱ぎ始めた。
「! オルハ、何を!」
 赤面して顔をそむけるファビアを気にせず、オルハは診療衣を脱ぎ捨てた。上半身に巻かれた包帯を無理やりひっぺがし、患部に当てられていたガーゼも剥がす。
「……ありゃ」
 その傷跡を見て、オルハはなんとも言えない苦い顔をした。
 傷跡が、左胸に残っている。
 横5センチほどの傷が、中心より左寄りに一筋。出来ていた。
「名誉の負傷、か」
 ゆっくりとため息をついて、押し黙った空気の中でオルハは続けた。
「ガーディアンズって、ほんと危険なんだな。これからはもっと気をつけなくっちゃ」
 イチコが微笑みながら、ぽん、とオルハの頭に手を乗せた。
「……うまいこと肋骨の隙間に刃を差し込まれても、生きてたんだもん。それで良かったじゃん」
「……うん、そうだね。まだまだボクは甘すぎた。これを教訓だと思うようにする」
「ん、それでこそオルハ」
 イチコが満足そうに微笑む。
「……でもオルハ、こっちは全然成長してないね」
「どれどれ? ほんとだ」
「! ちょっと! どこ見てんだよ!」
「ねーイチコ、オルハって二年前からずっとこれぐらい?」
「うん、身長も胸も成長しないねー」
「おるは、わたしとおなじ」
「こらっ! 見るな! 触るな! やめろってば!」
 何やら愉快な光景が繰り広げられている中、それについていけない者が一人いた。
(……ああ、なんでしょうこのノリは。昨日まで死にかけていた重病人が二人もいるのに。なんでこんな流れに……ああ、父よ、母よ……)
 ファビアは目を固く閉じて耳を両手でふさぎ、床にうずくまっていた……。
「ちょっとみんな……って、何してるの?」
 アルファが自動ドアが開く間も惜しいぐらいの勢いで飛び込んできて、この修学旅行のようなノリに目を丸くする。
「オルハの身体測定?」
「触りすぎ! イチコのえろおやじっ」
「いーじゃん減るもんじゃなし」
「あはは……ごめんね、お楽しみの最中。でも、ちょっとやっかいな話があるの」
 アルファは手に持った紙を見ながら続ける。
「ゴーヴァ鉱山についてなんだけど、経営者のラ=シークは、バーバラと昔から繋がりがあったのよ」
 一同がざわめく。多少は想定していた事態だったが、改めて聞かされるとその現実にどう対処していいか困ってしまう。
「ラ=シークは実業家として、バーバラの研究に投資していた時期があったの」
「……という事は、偶然ではありませんね」
 厳しい口調でファビアが呟く。アルファは大きく頷いてから、口を開いた。
「そう。ラ=シークは間違いなく、バーバラと繋がりがある。ファビア、オルハ。ラ=シークとコンタクトを取って。この件についての見解を聞かなきゃ」
「うん。早速明日向かおう」
「オルハが大丈夫なら、私も問題ありませんよ」
「じゃあ、明日までに資料用意しとくから、今日はゆっくり休んでね? 私は早速資料の準備をしてくるわ」
 言ってアルファは部屋を出て行った。
「よし、じゃあボクも荷物の準備しとく」
 オルハが両足をベッドからおろしながら言った。
「……うっ」
 ズクン、と胸を締め付けられるような激痛に、オルハは顔をしかめた。さーっと顔から血の気が引き、変な汗が頬を伝っていくのがいやにリアルに感じられる。
「? オルハ、どうしました?」
「う、ううん、な、なんでもない。ボク、ちょっと自分の部屋に行って来るね」
「分かりました。明朝、ガーディアンズコロニーの本部前で落ち合いましょう」
「うん」
 オルハはそこにある自分の荷物をひっ掴んで、病室を出てゆく。
 しばらく歩いて、振り返る。誰もいないのを確認してから、口を開いて独りごちた。
「まずいなぁ……」
 傷はふさがってはいるが、切り裂かれた筋組織はまだ本調子ではないらしい。あの傷の深さでは当然だが、正直ここまでのものとは思っていなかった……。
「でも……しょうがない。やるしかない! 頑張れボク!」
 オルハは両の握りこぶしを固め、決意を新たにしたのだった。

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