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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe25 上陸作戦

「……ち、ここもか」
 ランディが舌打ちして、呟いた。
「だめだ、ここら一帯にもうろうろしてやがる」
 三人は茂みの中にしゃがんで隠れ、そこから周りの様子をうかがっていた。
 戦闘後、奥地へと向かうものの、北方大陸に近づけば近づくほどあちらこちらに先ほど交戦したのと同じタイプのキャスト部隊が配属されている。なかなか思うように進めない事に、一同は苛立ちを感じ始めていた。
「ヴィオ・トンガはもう目の前ですのに……」
 アナスタシアが携帯端末の地図を見ながら、渋い顔で言う。テイルも胡坐をかいて腕を組みながら、うんうんと頷いた。
「このルートが使えないとなると、かなりの遠回りをしなくてはなりませんわ」
 北方大陸ヴィオ・トンガは氷に覆われた極寒の大陸で、上陸する手段は限られる。フライヤーはその気候のせいで使えないし、船で渡るのはやたらと目立ってしまう上に逃げ場がない。当然、キャストたちにとって水はあまり嬉しいものではないという理由もある。
 そこで、アナスタシアたちは洞穴を使って上陸するつもりだった。北方大陸に繋がっているものは二つ確認されており、そのうち近い方の入り口がここだった。
「やっぱり、要所は押さえてやがるな」
 ランディがいぶかしげに言う。壁にぽっかりと空いた入り口の前には、二人のキャスト兵が立っていた。その近辺にも、何人かが見回りをしている。
「……どこまでこちらの情報を掴んでいるのでしょう」
 アナスタシアが首を傾げながら言う。
「わたくしたちがヴィオ・トンガに向かっているのを知ってこの警備体制なのか、それとも」
「普段から厳重に警備する必要があるのか……か」
「そういうことですわ」
 テイルの返答に、アナスタシアは頷いた。
「とにかく、目を盗んで中に入ってしまわねぇか? そうすりゃなんとかなるだろ?」
  内部は、元々鉱山跡だった。たくさんの洞穴が網の目のように張り巡らされている上に、ローグスが掘り進めた抜け道も数多く存在する。中に入ってさえしまえば、コナンドラムに発見されず上陸できるはずだ。
「それはそうですが……情報が少ないせいもあり、判断材料が足りません」
「……まぁ、ベタな手だが、一人とっ捕まえていろいろ聞き出すってのはどうだい? 遠回りよりゃ楽だと思うが」
 確かに、もう一つの入り口は遠く、移動だけで丸一日はかかるだろう。
 アナスタシアは少し考えてから、「ランディ、お願いできます?」
「まかせとけ!」
 いやに明るい笑顔でウインクして、ランディが茂みから飛び出した。
「……ちょ……ぁ……おぃ……!」
 何やら遠くで叫ぶ声が聞こえた。
「こういう荒事があると非常に助かるな」
「ですわね。得意でないわたくしたちには、有難い事です」
 のんびりと言うテイルに、アナスタシアものほほんと答えた。
「お待たせ」
 ランディが茂みの中に戻って来る。小脇に、縛り上げて猿ぐつわを噛ませたキャストを荷物のように軽く抱えて。それをまるでおもちゃの人形を座らせるように、三人の真ん中にどん、と置いた。
「え、ちょっと、なんだこれ」
 猿ぐつわを解かれ、キャストが放つ第一声は不安とハテナマークの入り混じった、そんな言葉だった。
「えーっと、とりあえず、知ってる事に答えてくれ」
 ランディが言った。別に尋問するような口調ではなく、例えるならば週末の飲み会の打ち合わせをしているような、そんな明るい声だった。
「ちょっと待てよ、そもそもお前ら何者だ? 一体何の目的があ……げふっ」
 言い終わる前に、ランディの裏拳が顔をどつく。
「とりあえず、勝手に喋るな。こちらの質問にだけ答えろ。OK?」
「は……はいぃぃい」
 嫌になるほどに微笑んでいるランディの言葉に、キャストは首が外れるかと思うほど頷いた。
「では……とりあえず、ここら一帯の兵力を教えて頂けますか」
「この入り口は8人が見張ってる。周辺に20人、あとは大陸の向こう側にも20人。合計で50人ほどだ」
 それを聞いて一同は顔を見合わせた。
 ……いやに多くないか?
「なんでそんなにいるんだ? いらねーだろ、そんなに」
「ですわ。そもそもそれだけの人員を集めるのも大変でしょうに」
「いや、それが……あ、いや、でもこれ話しちゃまず……げふん」
 不自然な回答に、ランディの裏拳が入る。
「……ひぃ……その、最近、人員増強が多いんだ。ここも最初は俺ら8人だけだったのに、気づいたらこんな人数になっていた。詳しくは知らないが、新しい施設を建造したらしく、その関係らしい」
 アナスタシアが考え込むそぶりを見せたが、ランディはそれを気にせず問う。
「どんな施設だ?」
「詳しくは聞かされていない。本当に俺たちは何も知らないんだ。下っぱで、隊長から言われた任務を遂行するだけだ。他はまったく知らない」
 三人は考え込んだ。その様子から察するに、彼は本当に何も知らないのだろうと判断するしかない。
「お聞きしますが、所属部隊と隊長は?」
「我々はホワイトラビット隊。隊長はプルミエール様だ」
 その名前にランディが、あちゃー、という顔をして掌で自分の額を叩いた。
「あのアホメイド野郎か……。つまり、洞穴周辺にはあいつの部隊が60人ほどで警護にあたっている、って事か」
 ランディがため息をつきながら頷いて、アナスタシアに向き直る。
「こんなもんか?」
「そうですね……これ位でしょうか」
「OK。……じゃあしばらくお休み頂いてから、情報を抜き出させてもらうとするか」
 振り返ったランディのガキ大将のような微笑みに、キャストは恐怖した。

 三人は、入り口の近くまで進み、茂みの中から覗きこんでいた。入り口からは向かって右側にあたり、その距離は約10メートルぐらいだろう。
「無駄な交戦は避けたいですわね」
「ふむ、これを使うか」
 ランディがごそごそとナノトランサーから、何かを取り出した。円形の平べったい物体で、分厚いフリスピーという印象である。
「ジャマートラップだ。キャストのレーダー系を混乱させ、探知、知覚機能を無効化させる。おまけに何事も無かったように見せかける、まるで素敵な夢を見せる魔法の玩具のようなものさ」
 アナスタシアとテイルは頷く。異論を唱える必要はないし、その時間もなかった。
「分かりました。それでいきましょう。日没と共に、アタックを開始します」
「持続時間は数分だったかな?」
「旦那の言う通り、3分だ。その効果時間内に中に飛び込む」
 気づけば、日没までものの数分。三人はしばらくの時間を待つ事とした。皆が緊張した顔つきで黙りこむ。わずかの時間が悠久と思えるほどだった。誰かがゆっくりと息を吐いて、沈黙の中で各々の思考を巡らせる。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe25 上陸作戦
「……ところでさ」
 その沈黙を破り、不意にランディが口を開いた。
「あんた、指揮官経験何年だったっけ。慣れてるよな」
「? わたくしは指揮官に任命されて、4年目ですが?」
「いや、その……」
 ランディが顔をそむけた。今一つ、何が言いたいのか分からず、アナスタシアは首を傾げる。
「さっきは済まなかったな。あんたにはあんたの、俺には俺のやり方があるって事を、分かって欲しいんだ」
「?」
 アナスタシアは明らかに返答に困る。ランディが何を言いたいのか、分かっていないようだった。
「……何を仰られたいのかが、今一つ見えません」
「ああ、いや。悪かったと思ってさ。俺はあんたの信念やそのやり方を、認めてないわけじゃないんだぜって事さ」
「? そういったお話なら、『邪魔にならないのであれば、自由にして構わない』という事でまとまったはずですが?」
 ランディが苦虫をつぶしたような顔で頭を掻く。
「……いや、それはそうなんだが」
「アナスタシア、察してやってくれ。ランディは、『皆で仲良く任務にあたろう。だから仲直りしよう』って言ってるんだ」
「おい、旦那!」
 思わずランディの手が伸び、テイルの肩を掴んだ。
「だが、そういう事に違いはないだろう?」
「……まぁそれはそうなんだが」
 照れくさそうに頭を掻くランディと、腕を組んで頷くテイルを交互に見て、アナスタシアはなるほど、と状況を理解した。
「ああ、いえ。わたくしが『自由にして構わない』というのは、あなたがやりやすい方法でやって頂く事が効率を高め、皆にとって良い事だと考えているのです。そういう意味での『自由』なのですわ」
 アナスタシアはいつもと違い、ややまくしたてるように言う。意外そうな目で、ランディがぽかんと見つめていた。
 ……確かにわたくしは、戦闘中は熱くなりやすく厳しい事を言ってしまう。思いっきり胸倉も掴んでしまった。だが、決してケンカしたいわけではないのだ。
 ただ、任務遂行を第一に考えている、ただそれだけ。そこには一点の迷いも無い。
「……そうなのか? そんな風には見えなかったが」
「戦闘中はどうしても熱くなりがちなのです。それはお互い様という事でご容赦頂きたいですわ」
 アナスタシアはためらいなく強い口調で話す。
「ああ、分かった。理解してくれているのならそれでいい」
 ランディが右手を開いて、差し出した。アナスタシアがその手を握り返す。
「こちらこそ。ご理解頂けて助かりますわ」
 それから彼女は空を見上げて呟くように続ける。空は暗くなり始め、すでに太陽は完全に沈む直前だった。
「……そろそろいい時間ですわ。作戦を開始しましょう」
 二人がその声に頷く。
「これは俺が行くしかないな。あんたらをジャマーに巻き込んじまう可能性がある」
「すいません。よろしくお願いします」
「では、私がやつらの気を引き付ける」
 テイルがライフルを取り出して構えた。三人が顔を見合わせて、大きく頷く。
 作戦開始だ。
 入り口の右側に1本の木があり、いくつかの果実が生っている。テイルのライフルが唸り、フォトン弾が闇に紛れて飛び、その一つのヘタを見事に打ち抜いて、果実が落下する。
 ボトッ、と音がして果実が地面に落ちた。キャストたちが振り向く。
 同時にランディも弾丸のように飛び出した。茂みを飛び越え、一切の音をさせない。地面を蹴る音さえもだ。獣の本能が研ぎ済まされ、ランディはひとつの疾風のように駆ける。
「ん? 何の音だ?」
 キャストたちが右へと歩き始める。
 闇に紛れたランディはあと3メートルの距離。
 ここが肝心だ。ジャマートラップの範囲で入り口をふさいでしまうと、後に続く二人も影響を受けてしまう。うまく入り口に入れるように、通り道を用意しておかねばならない。
 走りながら入り口付近にトラップを放り投げ、地面に着く前にリモコンスイッチで起爆させる。ぼうん、と音がして、きらきらきらめく煙が噴き出した。
「ん? 果実が落ちたような音がしたんだが……」
「俺もそう思ったんだが……気のせいだったかな」
 二人のキャストが地面を見下ろしながら言う。
 だが、確かにそこに果実は落ちている。ランディはその光景を見て、にやりと笑った。
 すぐに振り返って、手で合図を送る。アナスタシアとテイルも飛び出した。
 ランディが洞穴に駆け込むのに続いて、アナスタシアたちも駆け込む。かろうじて煙のすきまを潜り、そのまま振り返らず走り続けた。

「このまままっすぐ……あと500メートルといったところですわ」
 3時間は歩いただろうか。アナスタシアが端末を見ながら奥を指さした。
「思ったより長かったな……もう夜9時か。腹が減るはずだ」
「あっ!」
 アナスタシアが素っ頓狂な声をあげる。
「……忘れてましたわ! あなたはお腹が減るのですね。すいません、私たちキャストはあまりそういう概念がないので」
「我々の空腹感は、生物のそれとは違うからな。食べ貯めもできる」
「ああ、なるほどな」
 ランディはいたく納得した顔で、顎に手を当てながら答えた。
「まあ、しょうがねぇよ。任務の途中だしな」
「いえいえ」
 その言葉を遮るように、アナスタシアは否定の言葉を放つ。
「そういうわけにもいきません。体調管理も私の仕事です。これでは指揮官失格ですね」
 予想外のリアクションにランディは困った。何気ない一言でこんなに動揺させてしまうとは。別に「任務中だから」の一言で片づけてもらって構わないのに。
「あー……、じゃあさ、こうしよう。上陸して、安全な場所に落ち着いたら飯にしよう。どうだ?」
「分かりました。では、そうしましょう」
 ランディの妥協案に、アナスタシアがほっとした笑顔で答えた。気を抜いたのか、穏やかな笑顔にランディは再度驚く。
(キャストらしいガチガチの現実主義者かと思えば、こんな無邪気な笑顔か。変わった奴だな……)
 ランディは少し戸惑いながらも、「ああ」と答えて歩みを進める。じきに、空が見えてくるはずだ。
「さて、出口には何人いるかな……?」
 ランディは額に掌を当てて覗いてみるが、そこには人影が無い。
「? なんだ? 誰もいねぇぞ?」
 ゆっくりと出口から顔を出して見渡すが、そこには人の気配が感じられなかった。
 見えるのは、ところどころ雪に包まれた風景だけ。
「……? おかしいですわね。こちら側にも20人ほどいるとの事でしたのに」
 アナスタシアもレーダーの反応を見るが、特に怪しい反応は無かった。
 辺りを見回しても、冷たい空気が広がっているだけだ。地面にもしばらく人が歩いた足跡は見受けられず、近辺には本当に人がいないようだ。
 その時だった。
 高速で近寄る反応が、あった。
「! レーダーに反応! 何かが7時方向から高速で近づいて来ています!」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe25 上陸作戦
「隠れろ!」
 三人はそれぞれ近くの茂みに飛び込む。
 キィィィン……と空気を切り裂く音がして、フライヤーが姿を表した。そのままゆっくりと速度を落とし、数キロ先でホバリングしている。幾筋ものライトが夜空を照らし出していた。
「あれは……!」
「旦那、て……か?」
 すぐ近くに飛び込んだテイルに、ランディが見上げながら小声で言う。
「ああ。間違いない。私が見たフライヤーと、同じものだ」
 それは大きなフライヤーだった。ガーディアンズが主に任務で使うような、2〜6人乗りのものとは比べものにならない。胴体部は通常のものより大きく高さ20メートルはあるだろうか、大きな筒に羽がついているという印象だ。胴体の前面は開閉式になっているようで、大型の乗り物を運ぶ事ができるようだった。
「フライヤーというより、キャリアーだろうな、ありゃ」
 見上げながら呟くランディの声にテイルが頷いた。
 しばらくキャリアーはホバリングしていたが、ゆっくりと降り始める。やがて音が聞こえなくなるとライトも消え、夜はまたいつもの静寂を取り戻した。
「……あれが例の施設だろうな」
「おそらくは、な」
 がさがさと茂みをかき分けて、アナスタシアが二人のもとにやって来る。
「二人とも、見ましたか?」
「ああ。どうやら、あそこが施設のようだな。キャリアーも、旦那が見たのと同じタイプだったようだ」
「了解しました。それでは闇に乗じて潜にゅ……」
 ここまで言って、アナスタシアははっと気づく。先ほど落ち着いたら食事にすると言ったばかりなのに、また失念しかけた。
「……ごほん。本日はこの近辺で休み、明日から本格的に捜索を開始しましょう」
「よし、やっと飯が食える!」
 明るく言うランディの本音に、三人は笑った。

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※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
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