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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe22 いいこいいこだー!

「ふわぁ〜あ」
 オルハが両手を伸ばして、大きくあくびをした。
「……レディがはしたないですよ」
「あ、ごめーん。ついつい夜中までイチコと長電話しちゃったの」
 ファビアは苦笑した。彼女は本当に大物なのか、それとも何も考えていないのか、判断がつかない。
 ここはガーディアンズ・オウトク支部。出発前に簡単にミーティングしておこうという事で、二人はミーティングルームにいた。
「とりあえず、地図を出しますね」
 ファビアがリモコンのスイッチを押すと、壁にニューデイズの地図が映し出された。
「昨日、ダーククロウと交戦した場所がここ。そして、そこから数キロ離れたここが、ランディたちがジャッキーと交戦した場所です」
 オウトク山周辺の地図に、二つの赤い点が記される。
「ジャッキーとの交戦が行われたこの場所から、半径5キロ圏内を重点的に捜索したいと思います」
「はーい」
 今一つ真剣味を感じられないオルハに、ファビアは小さくため息をつく。まぁ要点は話したので良しとしよう、と彼が思った時だった。
「だめですっ!」
 突然、外から声が聞こえた。間違い無く、受付のレイナの声だった。
「?」
 素早く反応したオルハが入り口に駆け寄り、ひょこっと顔を出して覗きこむ。
「オルハ……」
 オルハのあまりの反応の早さに唖然としながらも、ファビアは入り口に近づいて、廊下に出た。
「なんでしょう、今の声は」
「見に行こ?」
 言いながらすでにオルハは歩き出していた。ファビアも慣れてきたのか、頷いてから一緒に歩き出す。
「だから、そういうのは無理なんです!」
 ミーティングルームを出て、聞こえてきた第一声はレイナの叫びだった。
「……レイナが声を荒げるなんて珍しい」
 ファビアが呟きながら下を見下ろす。カウンターは左右の階段から中二階に上がり、奥へと続いている。二人はそこから見下ろしていた。
「どうしたんですか」
 ファビアは階段を降りながら声をかける。
「ああ、ファビアさん、いい所に」
「?」
 階段を降り、カウンターの真横に降りて、やっと意味が分かった。
 カウンターにしがみつく小さな人影。それがレイナと話している相手の正体だった。
「……ネイ!?」
「あ。ふぁびあー!」
 ネイも気づいて、ぱたぱたと彼に走り寄る。相変わらず、うす汚れたワンピースのままだった。ファビアの足にぽふっと飛び込んで、おもむろに両手でしがみつく。
「この子が、ガーディアンズになりたいと言ってきかないんです……いくら研修生とはいえ、若すぎますよ」
「うん。わたし、がーでぃあんになる」
「そして、ファビアさんに会わせろと……。心当たりはあります?」
 ファビアは困った顔でレイナとネイの顔を交互に見比べた。
「……確かに、個人的な知り合いではありますが」
「おおー。ファビアも意外とやるね。ロングフット気取り?」
 階段の手すりに頬杖をついて、ニヤニヤしながらオルハが言う。
「……何を想像してるんですか?」
「いろいろ♪」
 ファビアは嫌になるぐらいの笑顔のオルハに、頭を抱える。"人の不幸は蜜の味"と言うが、その通りなのかもしれない。
「とりあえずさ、人目もあるし、会議室行かない?」
「オルハさん、一般人を中に入れるのは……」
「うん、確かにそうかもしれないけど、ガーディアンズの力になりたいって言ってるわけでしょ? それを拒むわけにはいかないじゃん?」
 慌てて制止しようとするレイナに、にんまりと微笑んでオルハは言う。
「オルハ……」
「詳しい話は中で。……あ、レイナ、この子の分、オレンジジュースひとつよろしくね♪」
 言いながらオルハはすたすたと階段を上り、奥に入っていこうとする。
「ほら、早く早く」
「え? え、ええ……」
 手招きをする彼女に気圧されて、あわてて二人は階段を登った。

「ほえー。この子、ネイっていうんだ」
 オルハが素頓狂な声を上げて、目を丸くした。ファビアの隣に座る彼女に、腰をかがめて目線を合わせる。
「ネイ、いくつ?」
「んーと、10さい」
 ネイは不器用に指を折りながら数えて、その広げた両手を突き出す。
「10歳? ありゃま、こりゃ奇遇だわ」
「?」
「あ、ゴメン。なんでもない」
「さ、ネイ。それを飲んだら帰りなさいね?」
 ファビアがゆっくりと優しく、しかし強い口調で諭すように言った。
「やだ。ふぁびあについてく」
 ぶんぶんと小さな頭を左右に振りながら言う。
「だめです。ガーディアンズの任務は危険すぎます。何があるか分かりません」
「やだ! ついてく!」
「だめです。危険すぎます」
「やだやだ!」
 ネイはその大きな瞳に涙を溜めて、全力で抵抗する。
 オルハはゆっくりと息を吐いて、嬉しそうな、それでいて何かを懐かしむような、そんな複雑な表情で微笑んでいた。
「……ねぇ、ファビア。連れてっていいんじゃないかな」
「! オルハ、あなたまでそんな事を……ガーディアンとしての任務の厳しさはあなたもよく分かっているでしょう!」
 ファビアが思わず席を立って訴える。オルハの言葉が本当に予想外だった。
「……あのね、ボクのパパとママが死んで、生きるために"クズ鉄街"に足を踏み入れたのって、ちょうどネイと同じ年なんだよね」
 ……まったくもって奇遇だ。なんだか他人事のような気がしない。
 オルハはそんな想いのまま、話を続けた。
「……!」
「生きるためにいろんな事をやってきたよ。ガーディアンみたいに命のやりとりはなかったけど、それでも毎日食べ物を手に入れるだけで大変だった」
 無理に微笑んでみるが、目は笑っていない。心から笑えないのだが、それでもオルハは笑おうと努力していた。
「だからさ、どっちにしてもネイにとっては辛いんだよ。せめて、好きな方を選ばせてあげようよ? 自分の身は自分で守るのは生きる上での鉄則だし、最悪の場合はボクらがフォローすればいいじゃん」
「……」
 ファビアは視線を落として考え込む。
「ネイ、もしボクらについてきて、ひどい目にあったらファビアを恨む?」
 ネイは返事に困った。オルハの顔を驚いて見つめて、ファビアを見る。それをたっぷり時間をかけて数回繰り返した。
「……ううん、しない」
「だよね。自分で決めた事にはちゃんと責任持たないとね。あとは……」
 オルハがファビアの方へゆっくりと向き直って、しばしの沈黙が訪れた。
 ……ファビアの言う事は、よく分かるしもっともだと思う。ガーディアンとはそんなに甘いものではないし、彼女の身に何かあれば、引き込んだ罪悪感が生まれる。だから、ファビアの対応は至極当然だと思う。
 だが、オルハはその経験から、同時になんとかなる事も分かっていた。それは自分に似た境遇の子供に、何かを見い出そうとしている、という形容が正しいのかもしれない。
「私は、守れる自信はありません、自分の事で手いっぱいですよ。……今までの任務の中で、力無き者が倒れるのを何度も見てきました。私にその理不尽な運命に加担しろと?」
「変えようとしてみたらいいじゃん」
 ファビアはオルハを見つめたまま動かない。
「うまく言えないけど、頑張ってみよう? できることを頑張ってみようよ。何もせずに結論を出すんじゃなくさ。理不尽な運命とやらを、ボクらの前に膝まづかせてやろうよ?」
 オルハがゆっくりと言葉を綴った。
 ネイは詳しい状況が分かっているのかいないのか、ファビアの服を小さな手でぎゅっと掴んだまま、歯を食いしばってオルハを見つめている。
「しかし、危険すぎます」
 毅然とした口調で言い返すファビアの言葉。それに反応して、ネイがファビアの服をぐいっと引っ張り、急に叫ぶ。
「ふぁびあ、おねがい! わたしもつれてって。ふぁびあのためならなんでもするからっ!」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe22 いいこいいこだー!
「……」
 ゆっくりとオルハが、ファビアに向き直って口を開く。
「……ボクたちの"負け"だよ、ファビア。いいよね?」
 オルハが苦笑しながら両手を開いて、ファビアに言う。彼は視線を落としたままで、観念したようにゆっくりと息を吐いてから、静かに答えた。
「……分かりました。そこまでの覚悟があるのなら、私にはもう止められません」
「良かったね、ネイ」
 オルハが笑顔でネイの頭に手を乗せ、そっと撫でた。
「うん!」
「じゃあ、ボクからいいものあげよう♪」
 オルハが取り出したものは、大きな手甲に見えた。肩まで覆い兼ねない菱形の手甲の先に、楕円の球がふたつ伸びている。その先端には穴が開いている事から、そこからフォトンの爪が放出され、片手で扱う武器としての形状を取る事は容易に想像できた。
「これね、"ネイクロー"っていうの。レリクスから出土した、今とは違うテクノロジーの産物。ネイと同じ名前だし、あげる」
 "レリクス"とは時折発見される古代遺跡の総称の事だった。"古代"とはいっても、現代より大幅に進んだ化学文明が興っていたのは確かで、グラール太陽系のテクノロジーを越えた物が出土されていた。
 ネイは、オルハからそれを受け取ってその重さにふらつく。何せ、全長70センチ近くあるのだ。見た目よりは軽くできているようだったが、小柄な彼女にとっては充分に大きかった。
「ありがとう、おるは」
「頑張って使いこなせるようになれよー♪」
 オルハの右手がネイの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「……」
 ファビアは、自分でも意外なほど冷静にそれを見ていた。
 ……私は、もしかしてひどい選択をしてしまったのではないだろうか。確かに、彼女の日常はひどいものなのかもしれない。だが、少なくとも命の危険にさらされる事はないはずだ。
 本当に、これがネイにとって幸せなのだろうか?
「ネイ、違う違う。爪を振る時はこう! 脇を絞めて一気に突き刺す!」
「わかった! えぇいっ!」
 二人の楽しそうな表情を見て、ファビアはとりあえず考える事を保留にした。本人がいいと言ってるんだから、後は自分たちがやるべき事をやればいいだけだ。自分の運命を変えるのは自分しかいないという事を、ファビア自身もよく分かっている。
 そう思って、彼はゆっくりと息を吐いた。
 ……それにしても、オルハは面倒見がいいとファビアは素直に思った。教えるべき事はしっかり教え、小手先でごまかしたり騙したりしようとはしない。その姿勢は立派だ。
 ストリートチルドレンたちには彼らの秩序があると聞く。きっと彼女は、"クズ鉄街"でも弟や妹たちとこのような付き合い方をしてきたのだろう。
「まだまだですね、私も」
 聞こえないようにぼそりと独りごちて、ファビアはゆっくりとため息をついた。

「なんだかな……見飽きたなこの光景」
 不意にオルハが呟いた。
 街から出て、ダーククロウの尾行を追い払った場所を過ぎ、オルハがテントを張っていた場所を越えてさらに1時間ほど進んだ所で昼食を取っていた時だった。
「木と草ばっかでつまんない。っていうか4回目なんだけど!」
 ここは木々は多いが所々丘や草原が広がっている。三人は眺めの良い、小さな丘の上で食事を広げていた。
「でも……ほら、喜んでいるようですよ」
 促すファビアの視線の先に、手に持った携帯食を忘れたように、辺りをきょろきょろと見渡すネイがいた。
「ネイ、面白い?」
「うん。とりとか、どうぶつたくさん」
 振り向きながら、にまっと無邪気に笑ってネイが答えた。
「確かに街中じゃあまり見ないですからね」
 ファビアは言いながら、服にこぼれた携帯食をふき取ってやる。
「……ん? 誰か来る」
 オルハが不意に首をもたげて言った。
「まさか……人が住む地域ではないのに」
 ファビアが答えながら反射的に杖を握る。
「別に警戒しなくてもよろしいですよ? 御顔を拝見しに来ただけですから……」
 森の獣道に見える独特のシルエット。クセのある高い合成音。
 オルハには聞き覚えのある声だった。
「C4……! 生きてたの!?」
 ゆっくりと日陰から姿を表し、右手を上げてから降ろして、深くお辞儀をした。
「ははは、私は不死身ですよ。……おっと、警戒されなくても大丈夫ですよ、オルハ様」
 笑顔で両手を頭上に上げ、危害を加えるつもりがないとアピールする。
「……」
「ああ、不信に思いますよね? どうやって再生されたのか、と」
 無言の空気がそれを肯定している。
「クローンキャストですか……?」
 ファビアが呟いた。
 遺伝子から人間を再生するクローン技術。それをキャストに応用し、データの再生や構築を行うものがクローンキャスト技術である。
 だが当然ながら、人道的観点からおいそれと行われる技術ではなく、ごく限られた機関しかその技術は保有していないはずだった。
「それよりも確立されたある技術のお陰、とだけ答えておきましょうか。クローンキャスト技術は、未だに劣化の可能性を秘めていますから」
「……で、何の用なの、C4」
 オルハが少し苛ついた口調で切り出した。
 ……相変わらず、彼は何がしたいのかよく分からない。目的があっての手段なのは分かるが、その目的の隠蔽が巧妙すぎて、オルハにはさっぱり分からなかった。
 もちろん、それが不信感を煽っている。
「オルハ様がビーストのような劣等種族などと、一緒に行動されているので、つい。それだけです」
 C4はちらりとネイに視線を向けて言った。
「C4……もうその話はいいよ。ランディもネイも、ボクの友達なんだから」
「なるほど、若いうちから手なづけて使役するおつもりで? それは賢い選択です」
 一瞬だけ、オルハの眉がぴくりと動いた。
「……コナンドラムに所属しているんでしょ」
 彼の言葉をあえて無視して、オルハは自分の聞きたい事を聞いた。
「ですが、残念ながら私は彼女の理想に共鳴するつもりはありません。自由に動くための土台として使っているだけの事。この世から劣勢種族を滅亡させるための"手段"です」
 その答えを聞いているのかいないのか、オルハはC4を見つめたまま、動かなかった。
 それからゆっくりと、大きく息を吸って顔を上げる。その表情は、異常なまでの笑顔……ただ、とにかく、満面の笑みだった。
 視線を上げ、C4の瞳を見つめ返してから、オルハは口を開く。
「……キミが何を考えているのか、ずっと分からなかった。今も分からない。……けど、今日はっきりと、ひとつだけ分かった事がある」
「?」
 右手をゆっくりと上げ、人差し指をつきつける。
「ボクは、キミが嫌いだ」
 にっこりと笑ったまま、まるで談笑でもしているかのように、オルハは言った。
 C4はひゅう、と軽く口笛を鳴らし両手を広げ、参った、とおどけて見せる。
「オルハ様、それがあなたの"知"が導き出した答えですか」
 その質問にオルハは答えなかった。
「まさか……」
 代わりに、ファビアが小声で呟いた。
 一瞬だけだが、何か違和感を感じた。そう、彼の周りのフォトンの流れが一瞬変わったのだ。それをファビアは見逃さなかった。
(まさか……あのキャストは……いや、そんな事、あり得ない)
 己の発想のあまりのおぞましさに思わず吐き気をもよおして、ファビアは手で口を覆った。
「次に会う時は、ボクも容赦しないからね」
「分かりました。……ああ、オルハ様が劣等種族に毒されてしまった」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe22 いいこいいこだー!
 C4は右手で顔を大袈裟に覆い、天を仰いでみせる。
「ではオルハ様、またお会いしましょう。次は戦場で……ふふふ……」
 背を向けて手をひらひらさせながら、C4は森の中へと消えていく。三人はただそれを見ていた。
「……オルハ、大丈夫ですか?」
「……うん? ボクは全然平気だよ」
 ファビアの声に振り向きもせず、答える声はいつもの明るい声だったが、わずかに肩が震えていた。
 その光景を、きょとんとした顔でネイが見ている。
「……ネイには難しい話だったね、ごめんね」
 その視線に気づいて、オルハはネイの頭を撫でる。
「……おるは」
「ん?」
 ぽふ、とネイの手が頭に乗った。
「いいこいいこ」
 オルハは一瞬驚いて目を丸くしたが、すぐにちょっと頬を赤らめて微笑んだ。
「……ありがとう。うりゃー、ネイにもいいこいいこだー!」
「いいこいいこだー!」
 頭撫で合い合戦を見ながら、ファビアはこらえきれず吹き出した。
 ……とりあえず、今のままでいいだろう。
 これ以上追及するのは、誰も喜ばないから。

 もうすぐ陽が完全に傾いてしまうだろう。ファビアが時計を見ると、午後3:30を指していた。
 辺りの森はよりいっそう生い茂っており、オウトク山の樹海もどうやら近いようだった。
「ランディが交戦したのはこの辺りのはずです」
 三人はきょろきょろと見渡すが、別に不自然な所は見当たらない。
「……こんな所で探しモノって、不毛だね〜」
 オルハが呟いて、足元の石を蹴り飛ばした。
「ランディの話を聞いたところでは、かなり派手にやらかしたみたいですけどね。……しかし、どうしたものか」
 ファビアは少し途方に暮れながら、辺りを見回した。今まで野外活動はアナスタシアにまかせっきりだったので、どう追跡していいものかさっぱり分からない。
「んー……」
 オルハは両の人差し指でこめかみを左右にぐりぐりと押しながら、渋々続ける。
「しょーがないな、ボクの出番かぁ。でもさ……」
「?」
 もったいぶって言葉を切るオルハに、空気が止まった。
「……捜索って、面倒なんだよねぇ」
「……」
 頭を掻くオルハに、ファビアの冷たい視線が突き刺さる。慌ててオルハが口を開いた。
「だってホラ、こういうのってすごく神経使うんだよ? ボクがそんなにマメだと思う?」
「……まぁ確かにそうですけれども」
「うん、そうだよねー……って、ここは"そんな事ないですよ"ってフォローする所じゃあ?」
「まぁまぁ、細かい事はさておいて」
 ファビアもオルハの扱いに慣れてきたのか、さらりとあしらって話を本筋に戻す。
「どのように捜索します?」
「じゃあ、ファビアはフォトン見てて。後はボクがやる」
 言ってオルハは辺りを見渡した。
 自然界での探索は、自然と一体化し、その違和感を見つけ出す事が大事だ――。わずかな風が、ゆっくりとオルハの頬を撫でて行った。
 情報では、この辺りで戦闘を行ったはず。となれば、その痕跡があるはず。この場にあるはずがないものを探し出す事が先決だ。
「あった」
 オルハは一本の木に気づいた。その木は、明らかに葉の並びがおかしかった。本来なら葉があるべき場所が、数枚分空いているのだ。
 下まで行って、見上げる。明らかに、衝撃でむしり取られた跡。振り上げた腕や武器が当たったか何かだろう。見下ろしてみると、踏みつけられた草があちこちにある。
「ここら一帯で戦闘があったのかぁ」
 オルハはしゃがみこんで、地面を見る。よく見ると、わずかに地面をならしたような部分がある。コナンドラムがあと片づけをしたからだろう。
 しかし、詰めが甘い。よくよく調べると、はっきりとした足跡がいくつか残っている。
「……?」
 不自然なものにオルハは気付く。
 比較的新しい、ヒールの足跡と、その近くにある新し目の足跡。そっと土に触れ、足跡のへりがまだ乾ききっていていない事から、半日以内のものだと判断する。
「ファビア! ちょっといい!?」
 声に気づいたファビアとネイが駆け寄り、三人でそれを見下ろした。
「おかしくない? 女性がいたという報告は、聞いてないよね」
「そうです。……ヴァルキリーのものでは?」
「ううん、違う。この深さからすると、体重は50キロぐらいで、身長160センチぐらいだと思うな。ヴァルはニューマンだし、もっと軽いはず。何より、こんな跡の残るヒールじゃなかったはずだよ」
「ほお……」
 ファビアは素直に感心した。普段はそんなそぶりは微塵も見せないが、かなりの知識量を持っている事に。
「大きい足跡は男。靴の溝がかなりすり減ってるから、かなり歩く仕事をしているか、すり足をする武術家とかかな。どちらにしても、報告に無い足跡だよ」
 オルハは立ち上がって、その足跡を見下ろす。
「で、見ると同じ所を何度もうろうろしてるから、何か探してるんだと思う。で、ここに向き合っている深い足跡があるでしょ。ここでしばらく立ちどまって話しこんだ、と」
 言いながらオルハも腕を組みながらうろうろ歩いて見せた。
「で、話がまとまってこっちへ」
 足跡の続く方向へ促しながら、オルハは歩き出す。
 足跡はそのまま薮を越えて、森の奥へと向かっていた。陽が当たらなくなり、空気が急に冷え始める。
「ここで何かあったね。足跡の淵が崩れて、深さも地面に水平じゃないでしょ? 走り出してる。慌てたのか、何かを見つけたのか……」
 薮に入りながら話すオルハに続いて、ファビアたちも下を見ながらついてゆく。
「で、これがまっすぐ続いて……」
 足跡はそのまままっすぐ伸びており、大きな木の近くで消えていた。
「ここで木に上った。木の幹に泥がついてるし、間違いないよね?」
 三人で木を見上げてみる。確かに木のところどころに、土がついていた。
「……オルハ、素晴らしいです。見直しました」
「んー、まあ、生きるために必要だったからね。……って『見直した』ってどういう意味?」
「でも、新しいですね、この足跡」
 ファビアの声に頷いて、オルハが指を伸ばした。幹に残る土にそっと触れる。
 ……まだ土が乾いていない……?
 という事はこれ、まだついたばかりの……?
「まったく、山猫は勘がいいな」
 男の声が、響いた。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
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