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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe21 奥地へ

 スペースポートの出口をくぐって、ランディとアナスタシアはモトゥブに降り立った。
「うーむ、狭かった」
 肩をぽきぽきと鳴らしながら腕を回して、ランディは言った。
「二人用のPPTシャトルは狭いですものね」
「ああ。もうちょっとビーストの体形を考慮してくれると助かるんだがね」
 PPTシャトルとは惑星間航行用の宇宙船の事だ。コロニーと各惑星にひとつずつのスペースポートが設置されており、ガーディアンたちは任務の際にこれを使って惑星間の移動を行っていた。
 技術の発達により惑星間移動は安く手軽に行えるものなってはいたが、それでも一般人はそれほど気軽に移動できるものではなかった。
 二人は話しながら中央市街を歩いてゆく。
 ここダグオラ・シティは、巨大な岩山に作られた都市だ。開拓時代に開拓民たちが移り住み、気づけば巨大な街になっていたという歴史を持つ。無計画に洞穴を拡張したり、崖っぷちを削り出して道を作ったりとしているうちに、街は巨大な迷路のようになってしまった。
 そしてこの街には、建築物がほとんど無い。なぜなら、施設は壁をくりぬいて作られているからである。これはもちろん、家を建てるより穴を掘る方が資源の消費が少ないという理由と、より資源量の多い場所に移動し続けるために定住の概念が希薄だったためであった。
「で、酒場だったか、待ち合わせ場所は」
「そうです"ガイークの酒場"ですわ」
 広くスペースを取られた中央市街から、脇の細い通路に入ってゆく。通路はそのまま下り階段となり、やがてドアへと突き当たる。二人が近づくと自動ドアが開いた。
 中に立ちこめるのは酒の匂いと、ざわつく声と、煙の影。この煙が何であるかは分からない。様々な種類の煙が混じってしまっていたし、それを追及する人間もいなかった。
 店内はまるで穴ぐらという印象だ。所狭しと傾いた木製のテーブルや椅子が置かれ、汚れた金属のジョッキと罵声が交差している。客もビーストばかりで決して裕福には見えず、鉱山帰りの労働者や怪しげな占い師などがたむろっている。
 それを横目に、二人は空いているテーブル席に着いた。
「ふぅ。やっぱここは落ち着くな」
「……そ、そうですわね」
 アナスタシアは苦笑しながら返した。
 ……野蛮。
 それが頭に浮かんだ言葉だった。洗練さのかけらも無い空間。混沌とした雰囲気。どれをとっても彼女にとっては馴染みの薄い空間だった。
「無理しなくてもいいぜ」
 それを察したのか、ランディは葉巻に火を着けながら、ゆっくりと言った。
「……すいません」
「謝る必要はねぇよ、しょうがねぇ。人はそれぞれ違うから面白い……だろ?」
 気を使われてしまい、アナスタシアは逆に申し訳無く感じてしまう。誰かが悪いのではなく、単純に文化と好みの違い……それは分かっているのだが、どこか釈然としない。
「俺が好きなのは、この気取らない部分なんだ。余計な飾りをつけない、という意味では非常に洗練されてる。シンプルだ」
 煙をぷかっとドーナツ状に吐いて、彼は言った。それは別に諭したり説得したりするような口調ではなく、むしろ独り言に近いものだった。
 アナスタシアはどうにも返答しにくかった。彼の言う通り、しょうがない事だとは思う。
 ……しかし、同じ任務について背中を預ける立場だ。価値観は近いに越した事はない……。
「……で、もうすぐ来るのかい? その"目撃者"は」
「あ、はい。10時に約束していますわ」
 アナスタシアは話題が変わった事にほっとしながら、店にかかっている時計に目をやった。9時50分。
「どんな奴なんだ?」
「キャストの男性です。腕のたつガンナーで、銃器の扱いに長けていると聞いておりますわ」
「なるほどなぁ」
 あまり興味が持てないのか、ランディがそっけなく返す。この情報量では当然だった。
「そういえば、例の武器テストについてなんだが」
「はい、準備しています」
 言って頷く彼に、ナノトランサーから銃を引っ張り出す。長さは1.5メートルほどと巨大で、アナスタシアの身長より大きい。濃緑のごつごつした直線的なボディラインで、ほとんど四角形の柱のような形状だった。
「でかいなこりゃ」
 言ってそれを掴み、肩に乗せてみる。
 店内で武器を構えるなど本来はあり得ない事だったが、この店にいる者は誰一人気にもしなかった。
「ロストテクノロジーで作られた実弾ランチャーですわ。弾は回収したものから複製し、ナノトランスで自動的に装填されるようにしてあります」
「なるほどね。こりゃ、確かに俺向けの武器だな。でかいし重い、それが頼もしい。有事の際には使わせてもらうぜ」
「存分に」
 自分のナノトランサーに放り込んで、ふと思い出したようにランディは口を開いた。
「ちなみにこれ、名前あるのか?」
「いえ、特に。本体に刻まれた刻印から、開発中はコードネーム"Baranz"と呼ばれていたみたいですけど」
 人差し指を顎に当て、思い出しながらアナスタシアは答えた。
「なるほどな。じゃあ"バランツランチャー"と呼ぼう」
 言うランディは新しい玩具をもらった子供のように、はやる気持ちが見え隠れしており「なんか出ねぇかな」と不謹慎な事を呟いている。
「すいませんが……もしかしてあなたがアナスタシア?」
 ふと、後ろから尋ねる声が届いた。
「そうですわ。じゃあ、あなたが目撃者の」
「ああ。私が"テイル"だ」
 彼は青年と呼ぶには貫録がありすぎた。人間年齢で30台半ばといったところだろう、落ち着きと上品さを兼ね備えた雰囲気と、濃紫のボディパーツが彼をより大きく見せていた。髪を短く刈り、顔には年齢相応のしわが刻まれている。
「はじめまして。アナスタシアです」
「俺はランディだ」
 二人の手を順に握り返してから、皆が席に着く。
「……それで、詳しい状況を教えて頂きたいのですが」
「ああ。……あの日は、私は他の任務でシティから北に2,400キロほど離れた場所にいたんだ。谷に住み着いたヴァンダの一団を追い払う任務に就いていた」
 二人は頷く。ヴァンダというのはモトゥブ全域で見られる、人間大の二足歩行をするモンスターだった。爬虫類を連想させるのっぺりとした顔と、岩を連想させるごつごつした体で不気味というより単純な恐怖を醸し出す。大規模な群れを成して生息しているため、一匹見かけただけでも不安にさせてくれるモンスターだった。
「その時、私は確かに見たんだ。山の向こうからオレンジ色の光が飛んでゆくのを。ゴーグルで確認してみた所、かなり大型のフライヤーだった。恐らく20人以上が乗れる規模のものだろう」
「そりゃ、確かに怪しいな。人もまず住んで無い地域だろうに」
 煙をくゆらせながら、ランディがいぶかしげに言った。
「そう、だから気をつけて見ていたんだ。分かったのは、見た事の無いフライヤーだった事と、北……つまり、"北方大陸ヴィオ・トンガ"へ向かったという事だけだ」
 モトゥブ北部には、極寒の大地が広がっている。
 そこは一年中雪と氷に包まれ、人が住むような土地ではない。だが、それは同時に豊富な資源が眠っている事を表す。だから、それを求めて北部に旅立つ人間も少なくは無い。環境に適応した凶暴な原生生物が多数いるにも関わらず……だ。
「ますます怪しいな」
「ですわね。おそらく、奥地に拠点があるのでしょう」
「だな。……よし、行くか。途中まではフライヤーで入れるはずだよな?」
 ランディが気も早く立ち上がりながら言った。
「ええ。街より3,000キロ地点ぐらいまでは入れるでしょう。そこから奥は分かりませんが……」
 奥地は気候の変化も激しいため、フライヤーでは限界がある。それもまた、人が住まない理由のひとつだった。
「よし! じゃあ、出発だ」
 ランディの声に、二人は頷いた。

 山岳地帯が続いていた。ここモトゥブは岩山が多く、自然が少ない。街から3,000キロも離れてしまうと自然はほぼ存在せず、ごつごつしたむき出しの岩がほとんどで、モトゥブの過酷な環境を物語っていた。
「これで大丈夫でしょう」
 手をぱんぱん、と払いながらアナスタシアは納得した。フライヤーを岩山の影に止め、ネットをかぶせて岩などでカモフラージュしたのだった。
「手際がいいな」
「まったくだ、お見事としか言いようが無い」
 関心したようにテイルが覗き込み、それにランディが同意した。
「……褒めても何も出ませんわ」
 アナスタシアは顔をぷいとそむけてしまう。照れているのは明白だった。
 ランディが悪戯を思いついた顔で、にいっと笑ってこっそり近づき、耳元で囁く。
「……照れてる?」
「!」
 アナスタシアは驚いて、跳ねるように振り返る。
「褒められ慣れてないんだな、あんた」
「……それが何か問題があるんですか?」
 アナスタシアは、明らかにむっとした表情でランディを睨みつける。
「いやいや、そういうんじゃなくて。やっぱり同じ任務についてるわけだし、ざっくばらんに仲良くやりたいと思ってさ。旦那もそう思うだろ?」
 両手を広げて力説するランディは、振り返ってテイルに同意を求める。彼は「ふむ」と頷いて、腕を組んで立ったままで頷いた。
「それはもちろん賛成なんですが……」
 アナスタシアは困った。提案には素直に賛成だが、どうも上手く距離を縮められない。
「何か問題が?」
「……なんでもありませんわ」
 アナスタシアは視線を落として、呟いた。
 ……どうにも苦手ですわ。
 彼の求めている距離感は、自分には近すぎる。お互い本音をさらけ出し、隠し事無く、肩を組んで歩くのを彼は求めている。それは分かりますが、それは信頼関係の後に来るものではないでしょうか……?
「深く考えすぎじゃねぇかな」
 ランディは笑顔で息を吐いて、両手を広げた。
 ……どうにも苦手だ。
 アバウトな人間関係しか経験が無いから、規律のしっかりしたやりとりは得意じゃない。彼女の言い分も分かるが、どうも深く考えすぎというか気負いすぎという感じがする。素直に自分をさらけ出してくれると気楽なのだが……。
「まあ、慌てる必要は無いんじゃないか」
 仲介するようにテイルが一歩進み出た。
「任務の中でおいおい、お互いの事が分かっていくだろう?」
「そうですわ。慌てなくてもいいと思いますわ」
 少しほっとした表情で、アナスタシアは同意した。
「今回は初めて組むメンバーですから、お互い分かりあうために自己紹介などいたしませんか? 戦力も把握しておきたい所ですし」PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe21 奥地へ
「それはいいな。じゃあ俺から」
 ランディが一歩踏み出した。
「見ての通り、モトゥブ生まれのビーストだ。いろいろあって、天涯孤独の所をガーディアンズに拾われた。戦闘は殴るのが得意で、斧とか鋼拳が好きだ。あとトラップも使う」
「なるほど、じゃあ私が後ろから援護しよう。私はライフルとボウガンが得意だ。パルム出身で、今年で結婚5年目になる妻がいる」
 ランディに続けて、テイルが渋い声で続ける。
「じゃあテイルは後衛をお願いいたします。わたくしはマシンガンとダガーを使った中間距離戦が得意なので」
「なんだ、役割分担がはっきりしてるんだな。テクニックの得意なのがいないのがちょっと不安ではあるが……誰か使えないか?」
 アナスタシアとテイルは顔を見合わせてから「まさか」という顔で向き直る。キャストは精神力という概念に乏しいため、生まれつきテクニックは得意ではなかった。愚問であった事を悟り、ランディは気まずそうに頭を掻く。
「うーん……アナスタシア、苦手なのは分かるけど、戦局判断をしながらテクニックでの援護にまわってくれると助かるんだが」
 彼の言う事はもっともだった。指揮官が戦闘に集中してしまうと、全体の戦術がおろそかになる。
「やめた方がいいと思いますわ」
「え?」
「見てみれば分かります」
 言って彼女はナノトランサーから一本のウォンドを取り出した。
「我を動かす歯車よ。命の原動力を回せ……レスタ!」
 言いながら杖を振りかざす。杖がわずかに光を放ったと思うと、急速にしぼんでゆく。まるで豆電球のような光になったかと思うと、すぐに消えてしまった。
「……………………うわ」
 口をあんぐり開けたままでランディは、よろめいて半歩下がった。
 ……こんなに小さなレスタ、見た事が無い。
 いくらキャストはテクニックが苦手とはいえ、これほどまで小さいものは初めてだ。
「……これは……」
 テイルが呟いた。どうにも表現しにくい、不思議そうな顔をしている。
 アナスタシアが無言で、上目使いに睨みつけながら、右手に持った杖をランディに突き出した。
「確かに俺だって得意じゃねぇけどさ……肉よ、骨よ、再生しろ! レスタ!」
 杖をまばゆい光が包む。半径1メートルほどの淡い光が彼を中心に広がってゆく。
「……俺でもこれぐらいは出せるのか」
 自分でも驚いたように彼は呟いた。全種族の中でキャストの次にテクニックの素養に乏しいビーストだが、アナスタシアとの差は明白だった。
「とにかく」
 彼女は杖をむしるように受け取りながら口を開いた。
「これで分かって頂けましたでしょう?」
「あ、ああ。すまん」
 何故かランディがとっさに謝る。パーティの安全性を高め任務遂行率を上げるための提案だったはずだが、藪の蛇をつついてしまったようだ。
「なぜか、昔からテクニックは大の苦手なのです」
 申し訳なさそうに彼女は呟く。
「ガーディアンになってかれこれ5年が経ちますが、テクニックはまともに使えないのです。いろんな方に教わったり、勉強したりしてはいるんですが……」
「まぁそれはしょうがないさ。……できる事でいいから、いざという時は援護を頼むよ」
 テイルが優しくフォローして、アナスタシアの肩にぽんと手を置いてから微笑んだ。
「とりあえず、そろそろ先に進むとしよう。陽が暮れる前には山地の手前ぐらいまでは行きたい所だ」
「……そうは問屋が降ろしてくれなさそうだぜ」
「?」
 アナスタシアはランディの言葉に驚き、思わず辺りを見渡した。
 ……特に怪しいものは見当たらない。
「それはどういう意味ですの?」
「何かいるぞ」
「え? レーダーには何も……」
 アナスタシアが言う。体内に搭載されたフォトンレーダーは、半径数キロの感知ができる。しかし、怪しい反応はまったく無い。
「空気だ。不穏な空気が流れてきてるぜ」
 二人はランディの言葉に顔を見合わせた。無理も無い、人工的な感覚器しか持たないキャストには"感覚"という概念は理解しにくいものがある。
「なんにせよ……障害は排除しなくてはな」
 テイルがボウガンを取り出した。左手に固定し、右手にはライフルをぶら下げる。
「分かりました」
 アナスタシアも、右手にダガーを持ち左手にはマシンガンを構えた。
「……レーダーに映らないって事は、だ」
 言いながらランディは斧を取り出して、頭上でぶんと振り回してから構えた。
「ステルスモードを搭載した機械兵器!」
 はっとなってアナスタシアは顔を上げる。
「油の匂いがするな。しかも洗練された動きをしている……間違い無い。キャスト兵だ」
「やりにくいな。視界も足場も悪い」
 テイルが眉をひそめて言った。
 視界と足場が悪い岩山で、敏捷かつ正確さがウリのキャストの相手をするのは、正直げんなりした。
「しかし……情報が早いな。待ち伏せされたか?」
「なに、まかせておけ」
 言ってから、テイルがライフルを構えた。やや上に向け、遥か向こうの岩山に狙いを定めた。
 そして、辺りにどぅんと響いて、一発の弾が撃ち出される。
「おい、旦那?」
 ランディが驚いてテイルを振り向いた、次の瞬間。ぎゃあ、という叫び声がわずかに響いて、どさっと何かが落ちる音が聞こえる。
「キャスト兵……?」
 ゴーグルで遠くの山を見てキャスト兵が倒れている事を確認し、ランディは驚く。テイルの狙撃能力と、その索敵能力に。
「精進が足りん。……さて、任務開始だ」
 それが合図だった。
 岩陰からわらわらと人影が飛び出し、三人を囲むように展開した。
 キャストたちは全部で20人は下らない。全員が迷彩柄のボディパーツで、個体差もほとんど無い。斧や長剣だけでなく、棍の両端に刃を付けた"両剣"と呼ばれる武器を持った者もおり、全員が大型の武器を構えている。
「……? 違和感があるな」
 ぼそっとランディが呟く。
 じわじわと近づいてくるキャストたちのいやに重厚な装備を見て、違和感を覚えたのだ。
「三人ずつでチームを組んでいるようだな」
 テイルが前を見据えたまま言う。
「ではこちらも、三人で向こうのチームひとつずつ潰していく方が得策ですわね」
「了解だ」
 アナスタシアの声に、三人はわずかに腰を落として戦闘体制を取る。
 来た。まずは斧使いで構成されたチーム。
「戦を制するには、先手を"撃つ"べし」
 テイルのライフルが火を吹いた。フォトンの弾が先頭のキャストの首に命中する。
「うお……おお?」
 もがくキャスト。動作が緩慢になったと思うと、そのまま動かなくなる。
「おお? すげぇな旦那。なんだそりゃ?」
「武器開発部が開発した、"キラーシュート"と呼ばれる新しい弾だ。機械の動力系を強制的に遮断する。だが、ライフルに負担がかかりすぎるのが難だがね」
 言って、高い熱で陽炎を生み出すライフルをナノトランサーに突っ込み、新しいライフルを取り出した。
 残り二人のキャストは歩みをやめない。徐々に速度を上げて近づいてくる。
 テイルが左手のボウガンを突き出した。三発の弾が扇状に飛び出す。キャストの体をかすめて飛んでゆく。ダメージこそ少ないものの、牽制としては充分だ。
「よし!」
 距離は約5メートル。ランディが飛び出した。足が止まった所に接近し、斧の間合いで仕掛けるつもりだ。
 その時、マシンガンの銃撃音が同時に鳴った。
「ぐあぁ! いってぇ!」
 直後響いたのはランディの悲鳴だった。
「!?」
「あ……」
 アナスタシアのマシンガンが、ランディの背中に命中していた。
 彼女は銃を持った左手を突き出したまま目を見開き、唖然とした顔で見ている。
「ごめんなさい! まさか飛び出すとは思いませんでしたわ」
「おいおい、勘弁してくれよ! 味方に撃たれるなんてあり得ねぇぜ!?」
「ですが! まさかこの距離で前衛の貴方が飛び出すとは思いもしませんわ!」
 振り向いたランディとアナスタシアは、感情を露わに叫ぶ。
「おい、二人ともやめろ! そんな事をしてる場合じゃないだろう!」
 ボウガンで牽制しながら叫ぶテイルの声で二人は我に返る。
 キャストとの距離は、あと3メートル。
「〜っく! この話はまた後だ!」
 ランディが反時計周りに振り向きながら、体を大きくひねって一歩踏み出す。ちょうどピッチャーがボールを投げるように、体は大きく傾いて前へ出し、右腕は大きな溜めを作る。斧は右の脇に挟んで肘先で固定し、斧頭は遠心力で大きくたわむ。そのままぐんとしなって、テイルの頭上を孤を描いて飛び越えた。
 そのまま大きく上から下へ、遠心力を乗せた一撃が振り降ろされる。キャスト二人は反応はしたが、遅かった。しなってから勢いを増した斧頭に気づいた時、すでに何も見えなくなっていた。
「!」
 ごしゃあっ、と音がした。
 比較的柔軟性のあるボディや生体パーツがひしゃげて破壊される音と、詰め込まれた機械部品が圧倒的火力によって違うベクトルに吹き飛ばされた音が、不協和音を奏でた。
 一人は胸から上を吹き飛ばされ、もう一人は右肩から腰までまっぷたつにされていた。
「……!」
 アナスタシアもこれには驚いた。
「……一体どのような身体組織を持てば、こんな非論理的かつ非現実的かつ非常識的な事ができるのでしょう」
 あまりにあり得ない現実から目を背けたくなったのか、小さく左右にかぶりを振りながらアナスタシアは呟いた。
「まずは1チーム!」
 嬉しそうにランディが叫んで、斧を頭上で振り回した。一瞬で1チームが繊滅された事で、キャストたちは明らかに動揺している。
 驚いている場合じゃない、今こそ攻め時だとアナスタシアは判断する。
「ランディ! 左のチームへ仕掛けます。テイル、援護を!」
 アナスタシアが言い終わるより早く、ランディが飛び出した。続いて彼女自身も走り出す。
 左前方から近寄るチームまで、距離は10メートル。長剣を持つ者ばかりだ。
「うおおおぉぉぉっ」
 おたけびをあげながら斧を頭上に掲げ、ランディは仁王立つ。そのあまりにも大胆な行動に、アナスタシアは思わず叫んでいた。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe21 奥地へ
「ちょ……そんな無防備な!」
 ターゲットの眼前で動きを止めるなど、愚行以外の何者でもない。キャストたちもじわじわと距離を縮めて来てるではないか。
「どおりゃぁぁぁ!」
 その声を気にせず、斧を肩に抱えたまま巨体が飛んだ。ビーストの優れた身体能力をすべて使った跳躍は、ゆうに3メートル近くの距離を跳んだ。
 いや、飛んだと形容するほうがふさわしい。
 空中で体をひねり、縦回転をつける。その勢いを斧に乗せ、激しく地面へ向かって叩きつける。
「無茶苦茶だ」
 見上げながら、テイルがぼやいた。
 凄まじい衝突に、激しい土煙が巻き起こる。遠目に、何が起こったのか分からなかった。とりあえず状況を確認するため、二人は駆け寄る。
「……?」
 足裏の感触に気づいて、アナスタシアは足元を見下ろす。キャストの腕が落ちていた。よく見ると、辺り一面ネジやバネなどの金属片が散らばっている。どれも力まかせに吹き飛ばされ、ボロボロになっていた。
 土煙が晴れ始めると、そこには斧を担いだランディと、破壊されたキャスト三体分の破片。
「あっけねぇな」
 ニヤニヤと不敵に笑いながら、ランディは勝ち誇ったように言う。
「……無茶苦茶ですわ」
 ふぅ、と小さくため息をついて、アナスタシアは漏らした。
「とにかく!」
 思わず駆け寄って、ランディの胸倉を掴んだ。
「勝手な行動をすると指揮が取れませんわ! 危ないじゃないですか!」
「いいじゃねぇか。結果オーライだぜ。突破口は開いた」
 声を荒げる彼女に対して、あまりに悪びれず言うのでアナスタシアは返答に困る。
「なら、一人で好きにやればいいんです。あなたの自分勝手な行いの巻き添えになるのはごめんですわ」
 ぷい、とアナスタシアは踵を返す。
「テイル、作戦を変更します」
「お、おい」
 慌ててランディが口を開くが、振り向いたアナスタシアの表情は、キャストらしい無表情のそれだった。
「何でしょうか? こちらはこちらで動きますので。どうぞ、お好きなように」
「……ちっ、分かったよ。好きにさせてもらうさ」
 ランディが苦虫を噛んだような顔で吐き捨てて、そのまま背を向けた。
 それを見届けてから、アナスタシアはテイルに近づいて小声で囁く。
「……予想通りです。敵がランディに気を取られてる間に、他のチームを順番に叩きます」
「なるほどな、それは合理的だ。了解した、指揮官殿」
 現在、残っているキャストは合計5チーム15人。ランディから目を離せないといった状態で、取り囲むように放射状に散っている。
 アナスタシアとテイルはこの隙に距離を離して左へと回り込む。
「包囲網の外から逆に包囲致しましょう」
「心得た」
 テイルがライフルを構えた。アナスタシアも両手にマシンガンを持ち、中・遠距離からの狙撃に備える。
「かかってこいや!」
 ランディが叫びながら斧を頭上でぶん回す。もちろん、この状態で飛び込む勇者などいない。彼が一歩踏み出すと一歩引き、しばらくするとまた彼が一歩踏み出して一歩引く。そんな発展性の無い睨み合いを繰り返していた。
「……火蓋を切りましょう」
「だな」
 二人が、左側のチームに近づいた。彼らは完全にランディに気を取られ、背後から近づいている事に気づかない。
「Ready set……GO!!」
 彼女の声に、ライフルが火を吹いた。一番近くのキャストの頭部に命中して転倒させる。同時にアナスタシアが飛び出した。転倒している所に銃弾の雨を浴びせ、もう片方の銃で残り二人に無作為に弾をバラ巻く。
「やってくれるね」
 ランディは振り向きもせず呟いた。
 ……この俺の行動さえも、任務遂行への近道とするのか。
 だが、この機を活かさない手はない。体が自然に反応する。体を屈めて地面を激しく蹴り、正面にいるチームに向けて飛び出した。
「!」
 一瞬反応が遅れた所に体重を乗せたタックル。3人がまとめてふらついた所で斧を振りかぶる。右から左への、豪快なスイング。
 彼らはとっさに長剣で受け止めようする。だが、遅い。竜巻にでも巻き込まれたように、めちゃくちゃになって飛び散った。
 残り、4チーム。
 テイルのライフルが、とどめを見舞う。額を撃ちぬかれたキャストが、膝を折ってその場に崩れた。
 アナスタシアのマシンガンが体を蜂の巣にしてゆく。足の関節をぶち抜かれて、キャストがもんどりうって倒れる。
「よい夢を」
 言いながら引かれた引き金は、頭を吹き飛ばした。
 残り、3チーム。
 状況は圧倒的に有利だった。
「あーもう、だらしない!!」
 場に、女の高い声が響いた。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
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