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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe19 繋がってゆく、糸

 午後4:00。秋口の涼しい風が、日没が近い事を教えている。オウトクシティから2時間ほど歩いた時には、すでに太陽が傾きかけてた。
 自然の中を黙々と歩いていると、不意にオルハが「は〜ぁ」と大袈裟なため息をついた。
「どうしたの?」
 様子を察して、イチコが声をかける。
「昨日から、この辺に来るの三回目なんだけど……」
「おお〜。そんなにこの辺が気に入ったの?」
「そうそう、近くには温泉もあるしね……って違う! 任務だよ!」
「温泉ですか」
 二人の話に、意外にもファビアが食いついた。
「私、子供の頃からよく行ってたので、温泉が大好きなんですよ。何か良い効能があると聞いては、家族で出掛けたものです」
 体が弱いからだろうな……とオルハは思ったが、あえて声にしなかった。代わりにイチコが答える。
「へぇ、そんなにいい所があるの?」
「ありますよ。ニューデイズだと、自然と一体型の露天の温泉が多いですね。モトゥブ奥地には休火山の近くにたくさんありますし、パルムだと都市型の温泉があります。一番覚えてるのはモトゥブ奥地の秘湯ですね。周りが雪に囲まれていて、景色が最高なんですよ」
 ファビアはまるで、水を得た魚のように喋り出す。心からの笑顔で、楽しそうに語っていた。
「その効能も、女性が喜ぶようなものが多く、とにかくすごいんです」
「へぇ、どんなの? どんなの?」
 反応したオルハに、ファビアが笑顔で手招きする。オルハが嬉しそうに近づいて、耳を向けた。
「……オルハ、気づいてますか?」
「えっ?」
 急にファビアが真面目な顔で見つめるのに、オルハは一瞬戸惑った。
「……ああ、尾行ね。うん、もちろん。街を出てすぐ、ずっとだ」
 だが、オルハすぐにその言葉の意味を理解して答える。
「そんなに早くから? ……それをあえて無視してたんですか?」
「うん。昨日はダーククロウのボスと一戦交えたし、今日は昼にキャスト集団と一戦交えたし。正直、めんどくさい」
 オルハがため息をつきながら、両手を開いて答えた。
「……ほんとに豪胆な人ですね、あなたは」
 ファビアはあきれた、というよりほうけた顔で呟くように言う。それもそうだ、何があるのか分からないのに、その危険性を放置し続けていたのだ。
「それ、褒めてるの? ゴータンってどういう意味?」
「ねーねー、何そんなに楽しそうに話してるの? 私もまぜてよ」
(……どこが楽しそうに見えたんでしょうか……?)
 腕をばたばたさせながら言うイチコに、思わずファビアが心の中でツッコんだ。
「あのね、イチコ」
 オルハがささっと近づいて、彼女の耳元に顔を近付ける。
「なんか尾行されてるみたい」
「えっ! 尾行!?」
「ちょっ! 声がでかいよ!」
 オルハの小さな手が、慌ててイチコの口をふさぐ。もがもがとイチコはもがいて、ばつが悪そうに小さい声で話し始めた。
「ごめんごめん……で、どうするの?」
「とりあえず当面は……何も知らないフリをするのがいいんじゃないでしょうか」
 ファビアが会話に入ってきて、小声で提案した。その表情は予想外の出来事の対処に困っているように、わずかに眉をひそめて暗い顔だった。
「相手が何者なのか、目的は何なのか、何も分からないですから。機を見て情報を得ましょう」
「じゃあボク、今から見てこようか? そういうの得意だし」
 オルハが自分を指さして言った。確かに小柄で素早いオルハが適任ではあるが、役割が役割だ、危険性が高い。二人はそれを思い、渋い顔で唸る。
「オルハ一人じゃ危険だよ」
「へーきへーき。遠くから見てくるだけだよ」
 ファビアとイチコは迷った表情で顔を見合わせた。確かにそれは助かるのだが、そのリスクはどの程度のものか、想像もできないのだ。
「じゃあ、行ってくるね♪」
「ちょっ」
 無言を了承と捉えたのか、オルハはそのまま草むらの中に飛び込んで行ってしまう。
「行っちゃった……」
「……仕方ないですね。まあ、何かあれば携帯端末があるので、大丈夫でしょう……」
 ファビアがため息をつきながら、言った。
 それをよそに、オルハは来た道とつかず離れずの距離で、森の中を街へと走っていく。
 草木は少なくはなかったが、オルハも手慣れたものだ。足音の起こりやすい落ち葉や足跡の残る土の上は避け、素早く走ってゆく。生い茂る草木に触れる事は痕跡を残す事というのも当然理解しており、障害物を避けながら走り続けていた。
 500メートルほど走ると、人影が見えてきた。とっさに大木の影に隠れて観察する。
 ヒューマンが二人。黒い半被を羽織っているという事は……彼らは、ダーククロウの団員だ。
 一人は、左右の腰にこれ見よがしに二丁の銃を差している。パルムのデザインらしい、洗練されたラインの入った上着を羽織り、スリムなシルエットのパンツをあわせていた。髪形も短髪ですっきりとまとめており、細身の男性特有の色気を醸し出していた。もう一人はワイルドにモトゥブ製の上着に、ハーフパンツをあわせている。一見ぼさぼさの髪がワイルドさをさらに増長する。
 二人とも散歩気分なのだろうか、あくびをしたり雑談に花を咲かせたりと緊張感を感じない……が、油断はできない。これも作戦かもしれないのだ。
 さて、どうするべきか……オルハは腕を組んで、思考を巡らせた。
 優先事項はまず、相手の情報を少しでも多く。交戦する可能性は低くはない。
 次に、目的の見極め。尾行をすることによって、何を達成しようとしているのか。偵察? それとも斥候?
 しかし、彼らはあまりに緊張感が無いのでそれほど血生臭いことではないだろう。恐らくはイオリに言われてこちらの情報収集といった所だろうけど……でも、それならこんな奥地まで尾行しなくても良さそうなものだ。
「もしもし、ファビア?」
 埒があかないと思ったオルハは、端末を取り出して小声で話し始める。
「ああ、オルハ。いきなり飛び出していかなくても……」
「ゴメンゴメン。とりあえず奴ら、"ダーククロウ"の団員だよ」
「!」
「すぐに戻るね」
 ファビアが何か言いかけていたが、オルハは気にせず通話を切って、端末をポケットに放り込んだ。
 迷わず踵を返して、来た方向へと走り出す。ものの5分もかからないうちに、皆の元へ戻ってきた。
「おまたせ−」
 オルハは草むらから言いながら姿をあらわす。
「で、どうする? 向うはすっげーやる気なかった。なんか放置してても害はなさそうだけど」
「もうしばらく様子を見ててもいいんじゃない?」
「……そうですね。ですが……」
 言ってファビアは空を見上げた。西の空が赤く染まり、美しい夕焼けが見えた。木々の葉を赤く染め始めており、幻想的な光景が広がり始めている。
「陽が暮れてしまうと、怖いですよ。何をするにもやりにくくなります」
「うーん……それは確かに……。じゃあもう、やっちゃお?」
 オルハは腕を組んで眉をひそめながら、残酷な事をさらりと言い放つ。
「そんなぞんざいな」
 ファビアは苦笑しながらサングラスを中指でずり上げてから、答えた。
「……でもまあ、それが一番手っ取り早いでしょうね。増援や他の危険性は無さそうですか?」
「あはは、きっと無いよ。やつら緊張感ゼロだったから、奇襲すればきっと一網打尽。だから負けない!」
「なるほど……」
 ファビアは少しだけ考えて、
「イチコ、やつらの後ろにまわりこんで退路をふさいでもらえますか?」
「え、私?」
 イチコが驚いて瞬き、自分の顔を指さす。ファビアは微笑んだまま、ゆっくりと話を続ける。
「長剣使いのあなたなら、強力な打撃を叩き込めます。それは、相手に心理的なインパクトを与え、退却しにくさを覚えさせられます」
「ファビア、それは危険だとボクは思うよ」
 オルハが慌てて間に入る。
「確かに言ってる事は分かるけど……ニューマンのイチコ一人にまかせるのって、ちょっと大変だと思う」
 オルハの言う事ももっともだった。ニューマンはテクニックの素養には長けているが、肉弾戦に必要な筋力や体力は、持ち合わせていない。
「うん、心配してくれてありがとう。でも大丈夫」
「でも……」
「だって、あくまで足止めだもん。深入りする必要はないし、危なくなったら逃げるから大丈夫」
 絞り出すようなオルハの声に、イチコはあっけらかんと答える。
「ありがとうございます。では、相手がまごついている間に私たちが近づきます」
「うん、分かった。じゃあ、行ってくるね」
 イチコは笑顔で言って、草むらに飛び込んでゆく。
「……さて、しばらく様子を見ましょうか」
 言ってファビアは腰に手を当て、後ろを振り返った。
「うん」
 オルハも腕を組んで、同じ方向を見る。
「大丈夫、イチコは強いから」
「はい。信じていますよ」
 ファビアが目を細めて、優しく言った。

 そっと、イチコが草むらから顔を出した。尾行している二人は緊張感無く、だらだらと歩いている。こちらに気づいてる様子はもちろん、無い。
「よし」
 小声で呟いて、イチコはさらに後ろへと回り込む。街へ繋がる道を塞げば、彼らの退路を完全に断つ事ができる。
 背後10メートルほどに回り込み、イチコはゆっくりと息を吸った。
 ナノトランサーに手をやり、愛用の長剣を取り出す。剣身2メートルはあり、身長150センチも無いイチコには、大きすぎる獲物に見えた。
「……準備よし。頑張れ、私!」
 ざっ、と草を踏み分ける音が響いた。男たちがはっとなって振り向く。すかさずイチコは走って距離を詰める。
 両手で柄をしっかり握りしめると、頭上でぶんと振り回してから、眼前に振り降ろして構えた。
「なんで尾行してるの?」
「ち……どういう事だ」
 パルム製の服に身を包んだ細身の男が、イチコと前方を見比べながら呟いた。はるか遠くではあるが、ファビアとオルハがこちらに駆けて来ているのが見える。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe19 繋がってゆく、糸
「ええいっ!」
 イチコが仕掛けた。左足を大きく一歩踏み出し、剣を上へと振り上げる。だんっ、と地面を踏み込みながら、右上から剣を振り降ろす。目の前でごうっと風を切る音が聞こえて、刃が空を切る。男たちは慌てて後ろに飛びのき、「うおっ」と洩らした。
「これは……ひ弱なニューマンが、あえて長剣を選ぶか」
 モトゥブ服の男が言いながら、爪を取り出して両手に着ける。
「……おおかた、重力と遠心力を利用してるんだろう。それが我々に通用するとは……思わん事だ」
 パルム服の男が呟いて、短銃を両手に持った。
 どうやら、コンビネーションが売りの二人のようだ。爪男が前衛で目標と戦い、影から銃男がサポートするのだろう。正直、ぞっとしなかった。こちらは重みで打撃力を高める武器で、当たれば大きいが隙は大きい。相性がいい相手だとは思えなかった。
 やたらと乾く口内を潤すためにゆっくりと唾を飲み、柄を握り直した。
 ……ほんの数分だ。この壁は守り切ってみせる!
「ああああぁぁぁぁっ!!」
 発する声を気合にして、一歩踏み出した。狙うは、爪の男。奴さえ打ち倒せば、銃のみの男はなんとかできる。爪を構える男に、走って隣接した。
「このッ」
 双短銃が火を吹いた。さすがに素早く動く標的を射止めるのは容易ではない。二発の青い銃弾が空を切り裂いたが、イチコに当たったのは一発。肩をかすめただけだ。シールドラインがダメージを緩和してくれ、しもやけのようにちりっと痛むにすぎない。
 氷属性を帯びたフォトンをこめた銃弾は、直撃すると最悪身体を凍結させる可能性がある。だが、そんなことで攻めあぐねている場合じゃない。
 距離は充分。長剣の間合いだ。ぐんっ、とのけぞるほどに剣を振り上げる。
「はああぁぁあっ!」
 そのまま大きく、まっすぐに前へと振り降ろす。直後に大きく飛び、剣の遠心力にまかせて体を前方回転させる。空中で回転しながら剣を振り回すその動きは、まさしく旋風と呼ぶにふさわしい。
 爪男がとっさに両手で体をかばう。甲で剣を横にそらせ、かろうじて直撃をまぬがれる。だが、剣の勢いはその程度で止まるはずがない。初撃は防御した腕を切り裂き、そのまま一回転。着地はせず地面を蹴って、その勢いでもう一撃を叩きつける。
「ぐっ」
 なんとか爪ではじこうとようとするものの、その重い一撃を完全に止める事はできない。その打撃の重さが足に来てわずかにふらつく。
 銃男も相棒にあまりに密接しているため、誤射を恐れて撃つ事ができない。それを確かめてから、地面に着いた足でもう一度飛ぶ。空中で勢いにまかせて前方回転して、その勢いのままもう一撃を叩き込む。
「うお……おおっ!」
 爪男が眼前で両腕を交差させる。がきぃんと激しい音が響いて、剣の勢いを逃がす。剣は地面につき刺さり草と土が吹き飛んだ。
 そのまま着地してすぐ、ひるんだ男のがら空きの腹部を蹴りつけ、その勢いを利用して剣を戻す。
「……マジかよ。あんな正面から突っ込んでくるか、普通?」
 銃男が驚愕した表情で呟いていたが、そんな事は気にしない。爪男がよろめいた所に、剣先を向けてまっすぐに突く。男はそれを爪で下から叩きつけて軌道をそらす。
「なるほど、確かに身の軽いニューマンならではの技……あえて振り回されるのを制御し、戦術に組み込むか……」
 爪男が体制を戻しながら、舌打ちの後に言った。
「ケガする前に降参した方がいいよ!」
 イチコは剣を上段に構え、不敵な笑みを浮かべて言う。
 ちらりとファビアたちの方を見る。到着まであと1分もかからないだろう、勝負はほぼ見えた。
「ハッ、勝つのは俺たちだぜ!」
 銃男の銃が火を吹いた。一瞬の油断をついて銃弾がイチコを襲う。
 とっさに持った長剣の影に体を隠し、一発の銃弾が剣身ではじけたが、もう一発は脛に当たる。凍りつく激痛が足に広がってゆく。表面がわずかに凍りつき、力を奪われてゆく。
「くっ……!」
 上半身へはオトリで、最初から足狙いで動きを封じにきた、というわけだ。なるほど理にかなっている。
「しゃああぁぁっ!」
 その攻撃に連携して、爪男が飛んだ。
 両手を左右に大きく広げ、上体をそらす。そのまま地面を蹴り、頭上から襲い掛かる。そして両手をX字の形で前から振り降ろす。その様はまるで死の抱擁を与えようとしているかのようだ。
「!」
 イチコは咄嗟に反応する。
 ――早い!
 だが、こちらも負けてはいられない。剣を上段へ振り上げ、その重みを乗せて振り降ろす。素早く振られた剣は、男の手と体の間に滑り込む。
「うああっ!」
 長剣が激しく男の顔面を打ち、ごつっ、と激しく骨を打つ音がした。額が割れ、赤い血が噴き出してイチコの顔にかかる。刃が顔を切り裂き、縦に一文字の傷がざっくりと刻まれる。傷は明らかに頭蓋骨まで達するほどの深さである事は間違いない。
 爪男はそのまま吹き飛ばされ、地面に不様に落ちる。
「ぐぅっ……!」
 だが、X字に切り裂く爪がイチコの体を同時に引き裂いていた。左の肩口から右胸へ、右胸から左の脇腹へ。シールドラインの防護を引き裂いて、上着どころかアンダースーツまでも切り裂き、皮膚への傷を深く刻む。
「ははッ! もらったぁ!」
 動きが一瞬止まったのを銃男は見逃さない。二発の銃弾が飛び、一発はイチコの右腕へ、もう一発は右脇腹へ叩き込まれる。
「うっ!」
 びきびきっ、と皮膚が凍る音が聞こえた。激痛が体じゅうを駆け巡り、イチコはがくりと片膝をつく。
「この……生きて帰れると思うなよ!」
「……あはは、これで私たちの勝ちだよ」
 絞り出すような声でイチコは呟いた。
「……なんだと?」
「ほら」
 油汗を浮かべながらも、イチコは笑顔で森の先を指さした。
「時間切れだよ」
「!」
 銃男はそこではじめて意味が分かった。すぐに振り返って、そこにファビアとオルハが立っていることに気づく。
「イチコ!」
 オルハが両手にクローを持ち、迷わずイチコに駆け寄る。
「ち……早すぎるぜ!」
 銃男が額に汗を浮かべた。油断していたのもそうだが、爪男があまりに短時間で落ちたのが致命的だった。
「畜生、ダーククロウをなめるなよッ!」
 銃男は言い放つも、その行動は正反対。迷わず背を向けて、シティの方へと走り出す。
「今助けます!」
 ファビアが右手に持ったウォンド――長さ1メートル未満の、片手で扱う杖――を掲げながら言った。
「癒しの力を我に……レスタ!」
 体がまばゆい光に包まれてゆく。裂かれた皮膚がゆっくりふさがり、何事も無かったように傷が消えた。
「イチコ! だいじょぶ!?」
「大丈夫、大した事ないよ。服はボロボロだけど」
 肩を貸そうとするオルハを振り切り、イチコは立ち上がった。
「まだ頑張れる!」
 すぐに長剣を振り上げ、上段に構える。
 ファビアが左手に持った、"投刃"――扇形のフォトンが広がり、そこから目標を打つフォトンの誘導弾を飛ばす武器だ――を振りかざした。
「これでも食らいなさい」
 投刃から三つのフォトンの弾がゆっくりと高く飛んだと思った瞬間、目標めがけて矢のように一直線に飛び、そのまま銃男の体に突き刺さった。
「うがっ!」
 逃げる銃男の背中を打ち、その足がもつれて転ぶ。そこへオルハとイチコが接近する。
「ぐは……! 何しやがんだ!」
 叫びながら男は立ち上がる。だが、振り向いてその眼前に広がる光景に、男は後悔した。
 オルハの爪が右上から振り降ろされ、イチコの長剣が右下から上へと振り上げられた。
「お疲れサマ♪」
「ぎゃああ!」
 上下から体を切り裂かれ、銃男は悶絶した。衣服を軽く貫いて皮膚を裂く。
 オルハが飛んだ。体重をかけて右足で男の太ももを踏む。そのまま流れるように左足で胸を。まるで地面を歩くかのごとく、滑らかに踏みつける。最後に右足で顔を踏み台にして、高く飛んだ。空中で体をそらせ、後ろにくるりと回転する。
「イチコ!」
 オルハが叫んだ。
「うん!」
 イチコが答える。
 振り上げられた長剣が、上から下へ一文字を描く。剣先が銃男の額にごつっとめりこんだ。そのまま前身を胸から腹へ、腹から足へと切り裂く。それでも勢いは止まらず、剣身は地面に叩きつけられる。
 そして、空中のオルハが右手を振りかざす。重力の落下の勢いで爪を振りかざし、男の登頂部に叩きつける。そのまま勢いにまかせて、下まで一直線に切り裂く。
 顔面をえぐる一撃。縦に深い傷が三本刻まれる。
 シールドラインでダメージは軽減されているとはいえ、この連携攻撃に男は成す術がなかった。
「ぐ……あぁ!」
 男は天を仰いだまま、がくっと地面に膝をつく。それからゆっくりと倒れ始めて、力尽きたように地面につっぷした。
「コンビネーションなら私たちの方が上だね」
「出直しておいで♪」
 二人は悪戯に微笑んで、ぱしん、とハイタッチで締める。
「さて、目的を教えて頂きましょうかね」
 フォトンロープを取り出し、二人を後ろ手に縛り上げる。それからテクニックで傷を治してやり、武器は奪ってそこいらに捨て置く。
「うう……畜生……」
「……なんだこりゃ……くそッ」
「さぁ、答えてください。なぜ私たちを尾行していたんです?」
 ファビアが腕を組んだまま、二人を見下ろして問う。
「その前に、話したら逃がしてくれるっていう保証が欲しい」
「まったくだ。喋ったのにグサリなんてゴメンだ」
 オルハが腰に両手を当てたまま、大きなため息をついた。
「あのねぇ、ボクらはガーディアンズだよ、人殺しじゃないの。今ボクたちが聞きたいのは、尾行してきた理由、それだけ聞きたいの」
 二人は怪訝そうな顔を見合わせた。それから爪男が、銃男に顎で三人を促す。銃男が頷いてから、口を開く。
「……俺たちは団長に言われて、あんたらを尾行しただけだ。……あんた、前にうちの団長とやっただろ」
 銃男はオルハの方を見上げて言った。
「ん? ボク?」
「そうそう。あん時から、団長がうるせえんだ。『ガーディアンズと死合いがしたい』、と。だから、尾行して調べてこいと。そしたら、あんたらがあまりに普通にピクニックをしてるもんだから、大した情報は得られてないけど」
 なるほど、やたらと緊張感が薄かったのはそのせいか、と三人は納得した。
「……私たちの腕を確かめて来いと?」
 ファビアはふと気付いて、首をかしげた。
 どうも違和感を覚える。腕を見たいなら団長自ら出てこれば良いだけの事だし、この二人をけしかるのであればもっと早い段階で襲いかからせれば良いはずだ。
「……素直に話してもらえませんか? 全部話してくれるのであれば、私たちもすぐ解放してあげられるんです」
 言ってファビアは、いきなり銃男のロープを解く。
「!」
「だから、素直に教えてください」
 これには全員が驚いた。オルハとイチコは思わず武器を取り出す。
 銃男はぽかんとしている。まさかこんな簡単に解放してくれるとは思っていなかったのだろう。
「……あ、ああ」
「早く俺もほどけ!」
 爪男がわめいた。
「素直に喋れば、彼のようにすぐに解放してあげますよ?」
「わかった、わかったよ」
 銃男が観念したように両手を広げて、口を開き始めた。
「……俺らも詳しくは知らねぇんだが、団長は何かの組織活動に参加してる。で、オウトク山の近くに拠点がひとつあるらしいんだ。で、そこのお嬢ちゃんが……」
 言って爪男はオルハを横目に見る。 お嬢ちゃんと言われてオルハがムッとするが、ファビアが「まぁまぁ」とそれを制した。
「……その近辺を探ってるみたいなんで、尾行して来いと言われたんだ。俺の知ってるのはそこまでだ。さぁ、こいつの縄も解いてくれ」
 三人は顔を見合わせた。
「なるほど。ボクと交戦した事が教団に伝わってなかったのは、だからなんだ」
 つまり、ダーククロウは"教団に所属する"のが目的ではない。何かの目的を"教団に所属する"事で成そうとしている……。イオリの参加する"組織活動"というのは、一体どのようなものなのだろうか。
「さ、全部喋ったぞ。縄をほどいてくれ」
 爪男がうるさく喚くので、ファビアは縄をほどいてやる。
「団長にお伝えください。ガーディアンズはあなたたちの思い通りにはならないと」
「へいへい。あばよ……うおっ!?」
 男たちは街に向かって去ってゆこうとした……その矢先。いきなり背後からの衝撃に爪男は吹き飛んで転倒した。
「……ボクをガキ扱いするな」
 オルハの飛び蹴りが炸裂していたのだった。
「お、大人気ない」
 ファビアが頭を抱えて呟いた。
「……返事は?」
 オルハが仁王立ちで爪男を睨み付ける。
「は、ハイぃ!?」
 爪男は事態をよく把握できないまま慌てて立ち上がり返事を返す。
「行ってよし!」
 オルハがびしっと街のほうを指すのに、爪男は驚いた顔のまま条件反射で走り出す。それを両手を腰に当てながらうむうむと頷いて、満足そうに見守っていた。
 その時。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe19 繋がってゆく、糸
 不意に、がさがさっ、と草をかき分ける音が響いた。
 まさか、新手か?
 慌てて三人は振り向く。
「よう、何か楽しそうだな」
 草むらをかきわけて出て来たのは、ランディだった。
「ランディ……ちょっと、何その傷」
 オルハが駆け寄る。彼は全身ぼろぼろだった。全身が自らの赤い血に染まっており、走ってきたせいか傷はまったく塞がってはいない。
「ヘマうっちまってね。それより、ヴァルの方がヤバい」
 ランディの左手に抱えられたヴァルキリーは、胸は自らの鮮血で赤く染まり顔は真っ青。呼吸する胸の上下は弱々しく、傷が深いのは明らかだった。
「これは……二人ともかなりひどい。……失われし力よ戻れ、ギ・レスタ!」
 ファビアのウォンドを中心に、光の輪が展開され二人を包み込んでゆく。ランディは傷が塞がっていくのを実感したのか、幾分顔色がよくなってゆく。
「ふぅ……助かる。すまねぇな」
「……二人とも、失血量が多すぎてテクニックでは完全に治せません。早く街に戻ってしかるべき治療を」
「そうだな……ヴァルの傷も浅くはないだろうし」
 ランディがヴァルキリーを抱えて歩き出そうとする。
「ちょっとちょっとランディ、けが人なんだから無理しないの」
 オルハが慌てて駆け寄って、上着の裾を掴みながら前に回り込む。
「ん? ああ、こんなのケガのうちに入らねぇよ」
「そんなわけないでしょ! 何その真っ赤な服! ここはボクらにまかせてよ!」
「悪いな」
 不意に、ランディの表情が厳しく変わる。真面目な顔で、彼はゆっくりと噛み絞めるように言葉を紡いだ。
「……同行していた俺の実力不足もあるんだ。後生だから、街まで運ばせてくれ」
「……」
 その言葉に、オルハは返す言葉が見つからない。一旦うつむいてから、顔を上げて何かを言おうとする。
 しかし、そのまま視線を落として、唇を噛んだ。
「オルハ……言いたい事は分かりますが、ここはとにかく街へ」
 促すファビアに、一同は頷いた。

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注意事項

※この物語は株式会社セガが提供するオンラインゲーム「ファンタシースターユニバース」を題材としたフィクション(二次創作物)です。世界観、固有名詞、ゲーム画面を使用した画像など、ゲーム内容の著作権は株式会社セガにあります。
※小説作品としての著作権は勇魚にあります。
※登場する団体名・地名・人物などは、実在する名称などとは一切関係ありません。
※作中の表現や描写、ならびに使用している画像などは、ゲーム内で再現できるものとは限りません。
※この作品は、「戦い」「人間ドラマ」をテーマの一部としているため、暴力・性的な表現を含む場合があります。予めご了承下さい。

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