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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe11 再度、森へ

「……と、いうわけなんです。すいません」
 オルハは、座っている膝に頭がくっついてしまうぐらいに、下げながら言った。
 一部始終を聞いてから、向かいに座るビーストの女性は深く頷いた。肩口までの栗色の髪が揺れる。ビーストらしいしっかりとした体つきに、ニューデイズ製の鎖帷子を模した衣服を身に着けている。
「まあ、怪我が無かっただけで良かったじゃない」
「えっ? 一部の機材はきっと押収されちゃってますよ? ちょっと調べればガーディアンズ製なのはすぐにばれちゃうじゃないですか?」
「ところが、ね」
 言って彼女はモニタのスイッチを入れ、画面に触る。
「全然、話が来てないのよ。毎朝、重要な連絡のために定時通信をしてるのは知ってるでしょ? 今朝の定時通信で、"ダーククロウがガーディアンと交戦した"って話は、まったく出てないの」
「へ? なんで?」
「それはむしろ私が聞きたいけど。ねぇ、ほんとにグラール教団とモメちゃったの?」
「……?」
 オルハは首を傾げた。
「あ、あと、嬉しい知らせよ。ガーディアンズ本部から連絡があって、明日には補助人員が来るらしいわ。これで任務も一気に進むと思うの」
「……はい」
「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。ミッションに失敗なんてよくあるし、そんなこといちいち気にしてたら、私なんてとっくにクビになってるじゃない」
 言いながら彼女は笑う。ビーストらしく、あっけらかんとした明るい笑顔だった。
「はぁ……」
 それとは対象的に腑に落ちない様子で、オルハは答えた。

 ここはニューデイズのガーディアンズ・オウトク支部。夜が開けるのを待ってから帰還し、直接の上司に報告したオルハだったが、なんだか消化不良に終わった気持ちで一杯だった。
 イオリはなぜ、今回の件を報告しなかったのだろうか?
 オルハは支部入り口近くの川沿いで、体育座りでその流れを見ながら考えていた。
 押収した機材を調べれば、ガーディアンズが教団の事を探っているのはすぐに分かるはずだ……。
 確かに、ダーククロウという組織はグラール教団の自警団の中でも異彩を放つ集団ではある。所詮は外部の雇われ者なので、報告をして得られる直接的なメリットは確かに無い。考えられるのは、彼ら自身に弱みがあること。本来の自警ルートから外れてよからぬ事をしていただとか、教団から直接戦闘を禁じられていただとかである。
「あーもうメンドクサイ。考えるの好きじゃないんだ」
 言いながらオルハは頭をぶんぶんと振った。
 なんにせよ、あの場所にはもう一度行かねばなるまい。荷物がどうなったかも確認する必要がある。
「ん? オルハじゃねぇか」
「ランディ!」
 不意にかけられた声に振り向いて、そこに立つビーストの青年の姿に、オルハは満面の笑みを浮かべた。今年やっとガーディアンズ二年目を迎えたオルハは、一年先輩のランディと実地研修などで何度か同じ任務に就いた事があった。種族も性別も違う二人だったが、生い立ちが似ておりノリが近いのか、まさしく"ウマが合う"という感じで親しくなってしまっていた。
「最近見ねぇと思ったら。何してんだ?」
「川の流れを見てたんだよ」
「そりゃ見れば分かる。最近どうしてたんだ、って話だ」
「んー、ちょっとした任務。あ、他の人に喋っちゃダメだよ」
 ランディはなるほど、と真剣に頷いてから続ける。
「まあ極秘任務はよくある話だ、細かい事は聞かないけどさ」
「それよりランディこそ、こんなとこで何してんの?」
「ああ、これからちょっとしたキャンプだ。調べたい事があってな。……どこ行くんだったっけ、ヴァル」
 ヴァルキリーの方を振り向いてから、ランディは首を傾げた。そうだ、そういえばこの二人は初対面のはずだ。
「紹介が先だな。オルハ、今回パーティを組んでいるヴァル……キ……リーだ」
「はじめまして、ヴァルキリーです。……あいたた」
「? どうしたの?」
「ちょっと二日酔い……」
「ぷっ」
 笑い出したランディを見て、オルハも吹き出す。ヴァルキリーはこめかみを指で押しながら、目を閉じて眉をひそめる。
「大丈夫、ぐっすり寝たからすぐ良くなるはず。二日酔いに利くテクニックがあればいいのになぁ……」
「ははっ、俺は潰れた事が無いからその気持ちは分からねぇな」
 渋い顔のヴァルキリーに、笑いながらランディが言った。さすがは身体能力が高い、ビーストらしい意見だった。
「あ、ヴァル、パートナーカード交換しよ?」
「あ、うん、いいよー」
 これはガーディアンズでいう所の名刺交換だ。とはいえ実際に名刺やカードを渡すわけではなく、ガーディアンズから支給されている携帯端末のデータをやりとりする事によって、通信や任務の情報を共有するための仕組みである。
「ん、OK。よろしくね、ヴァル」
「こちらこそ、よろしくねー。……じゃ、地図出すね」
 ヴァルキリーが端末の画面に地図を映し出す。地図はオウトク山の麓を示しており、オウトクシティからは半日はかかると思われた。
「あー、ここだ、ここ。ちょっと調べ物があるんだ」
「ああ、ここかぁ。途中までなら案内できるよ。ちょうどボクも、これから近くまで行くんだ」
「お、それは助かる。じゃあ途中まで頼むぜ」
 言ってランディはオルハの頭にぽんぽんと手を乗せた。
「むっ。ボクを子供扱いしてるな?」
「してないしてない。もしそのつもりなら、持ち上げて高い高ぁ〜いとか言って遊んでるぜ」
 ランディの言い草にヴァルは吹き出した。確かに、身長2メートル以上のランディが、140センチぐらいの少女を持ち上げている様は親子に見えなくもない。そんなビジュアルが浮かんだのだ。
「ぶはっ! あはははははは……!」
「そこ、笑いすぎっ」
「ごめんごめん、つい……あはははっ」
「まあまあ。本当の事を言われるから怒ってんだよな? あっはっは」
「むっ!」
 オルハは不意に右側にいるランディに向き直って、両手で彼の左手を掴んだ。そのまま体を左にひねって足から飛びついて、右足のかかとで顎を、左足で膝の裏を蹴る。
 ランディがバランスを崩したところで一気に左腕にしがみつき、地面に倒しながら絞め上げた。
「あははは……お、おおお!?」
 不意うちにランディは抵抗できない。そのまま後ろに倒れこみ、左腕は完全にオルハに腕ひしぎで決められてしまっている。
「すまん。調子に乗った俺が悪かったごめんなさいあいてて」
「ギブ?」
 ランディの右手がオルハの足をぽんぽんと叩く。ギブアップの合図だ。
「はいすいません、もうオルハさんの事を子供扱いしないので勘弁してくださいあいててててて」
「よし、じゃあ今日はこれで許してやろう!」
 立ち上がり、腰に手を当てて勝ち誇るオルハに苦笑しながら、ランディは立ち上がった。
「ランディの筋力なら、跳ね返せそうなもんだと思ったけど……」
 ヴァルキリーが素直な感想を述べる。
「無理無理。関節技は筋力があればあるほど抜けにくいもんだ」
「だね。それが分かってるからボクも関節技を覚えたの」
「ふーん……」
 なるほど、前衛で戦うための戦術にもいろいろあるんだな、とヴァルキリーは納得する。
「さて、準備ができてるならすぐ出発するぜ。OK?」
「はーい」

 出発して二時間。一行は、オルハが昨日テントをはっていた場所の近くに到着した。
 ゴーグルで100メートルほど離れた所から様子を見る。こちらが調査に戻ってくる事を予想して、向こうが何か仕掛けてる可能性もあるだろうと考えての事だ。ぱっと見た感じでは特に不自然なものは見当たらないが、この状態ではなんとも言えない。
「しかし、聞いてみればなんだか不自然な話だな」
 ランディが言いながら、オルハの隣で呟くように切り出した。道中、皆があまりにも極秘任務に触れないのに苛立ちを覚えたオルハが、全部喋ってしまっていたのである。もちろん信頼できるメンバーだからつい喋ってしまったのではあるが、あまり褒められた行いではない。
「でしょ。何か企んでるとしか思えない」
「まったくだ、裏がありそうだな……そろそろか」
 ランディが、一歩踏み出して言った。
「みんなはここでちょっと待っててくれ、俺が先に行ってみる。何かあったとしても、面が割れてないし多少はトボケられるだろ?」
「うん分かった……気をつけてね」
 ゆっくりとランディが歩き出す。鼻歌など歌いながら余裕なものだった。
「ランディ、大丈夫かな……」
「大丈夫。彼はやればできる子です」
 心配そうなヴァルキリーに、オルハが何故か胸を張って答えた。
「ふーむ……」
 僅かにだが、よくない臭いがする。オイルと、機械油……これは戦場の臭いだ。向こうもプロか?
「やっぱなんかいるな」
 携帯端末から引っ張った胸元のマイクに、小声で言う。
「ランディこそ、無闇に突っ込んじゃダメだよ」
「分かってる。面倒は御免だからな。向こうの出方を待ってからだ」
 冗談めかして言うオルハに、ランディは答えた。
 向こうが先に手を出してくれれば正当防衛が通用するから、始末書も書かなくていいんだがな……などと彼は考えていた。どうせ毎回、過剰防衛で始末書を書く羽目になるのだが。
 ……残り、50メートル……。
 ランディはやたらと乾く喉を抑えるために、唾液をゆっくりと飲み込んだ。さぁ、仕掛けてくるならいつでもきやがれ。
 どう来る? そこの茂みから飛び出してくるか? それとも背後に回り込んで襲ってくるか?
 その時突然、タァンと軽い音が聞こえた。
「!」
 直後、ランディの上半身が弾かれたように揺れる。ライフルの狙撃音だ。それはランディのこめかみを寸分狂わず狙って撃たれている。繰り返し銃声が響き、着弾の反動でその長身が揺れ右に左にと操り人形のようにダンスを踊っていた。
「ランディ!!」
 オルハが飛び出した。とっさに鋼爪と短銃を構えて、駆け寄る。
 まずい、相手はプロだ。迷わずためらわず、相手の急所を的確に狙い最短の手数でチェックメイトを狙っている!
「来るな!」
 ランディが叫ぶが、遅かった。オルハは倒れそうなランディの背中に両手を当てて、その体重を少しでも支えようとしている。
「馬鹿野郎……なんで出てきたんだ。お前が出てきたら意味がねぇだろ」
 少し朦朧とした目で、ランディが絞り出すように言った。髪の隙間から血がしたたり落ち、幾筋かの赤い線が頬をつたっている。
「シールドラインのお陰で、これぐらいなら大丈夫だ」
 確かに出血はしているが、皮膚が切れただけで深刻なダメージではないようだった。シールドラインが皮膚の表面で弾を止めてくれたのだ。フォトン技術を応用し、使用者の体表にシールドを展開する"シールドライン"は、荒事の多いガーディアンズには欠かせないものだった。
 しかし、衝撃を完全に消せるわけではなく、それなりのダメージは受けている。何より、脳を揺らされたのが厳しく、ランディは少し茫然とした目つきでオルハを見る。
「でも、でもっ!」
「……分かった、心配してくれてありがとうよ。とにかく作戦変更だ。ブッ潰すぜ」
 オルハがうなずいた。遠くでヴァルキリーが走り出しながら、杖を構えているのが見えた。
「あいつらは『確信』を得る前にぶっぱなしてきた。意味が分かるか?」
「奴らは、俺以外の人間じゃなくても同じ目にあわせていたという事だ。つまり、関係ない人間を殺しても気にしないぐらいヤバイ連中だ、奴らは」
 赤く染まった唇をぺろりと舐めるランディを見て、オルハは息を飲んだ。
「気合入れて、行くぞ」
 ランディは手甲を模したナノトランサーから、大斧を取りだす。彼の身長と同じか、それ以上はある得物だ。軽々と片手で掴んで引き出し、両手で構え直す。
「生きて帰れると思うなよ!」
 まるで獣のように咆哮して、駆け出した。同時にいくつかの銃弾が彼を狙うが、前方に掲げた斧で弾かれてしまう。一発が顔をかすめるが、大した問題ではない。
 見つけた。左前方。草むらに隠れるようにして、三人のキャストが中腰でライフルを構えている。
「うおおぉぉぉ!!」
 そこへ、獣の一撃。
 大きく振りかぶった斧を、右から左へと凪ぎ払う。ごうっ、っと一陣の風が吹いた。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe11 再度、森へ
 三人の体が宙を舞う。想像を超えた一撃に耐えられる者は誰もいない。放り投げられた空き瓶のように、くるくると孤を描いてそのまま地面や木に叩きつけられた。
 起き上がる者は、いない。
 その光景を見て、ヴァルキリーはぞっとした。一撃で、三人? ビーストの怪力は話には聞いていたが、ここまで凄まじいものだったとは……!
「また始末書かな」
 口から、すでにほとんど血液だけの唾液をぺっと吐いて、ランディは呟いた。
「ヴァル! 治してくれ!」
 ヴァルキリーはその声に我に返る。
「う、うん!」
「オルハ! 右だ! 回り込め!」
「分かった!」
 オルハの方に二人、両手にダガーを構えたキャストが立ち塞がる。
「生命を支えるフォトンよ。傷を癒して……レスタ!」
 ヴァルキリーのテクニックで光の渦が三人を纏い、ランディの傷が癒えて血が止まる。さすがに流れた血液を補う事はできないが、これ以上の出血を防げただけでも充分大きい。
 そしてオルハは立ち塞がる二人と向き合う。
「ボクを甘く見てると痛い目見るよっ」
 短銃が火を吹いて、手前のキャストの足の甲を貫く。バランスを崩して前に傾いた時、顔面が衝撃を受けて火花を散らした。
 オルハの鋼爪が、アッパーカットで顔を貫いていた。予想外の速さに、慌ててもう一人が前へ踏み出す。
「!?」
 足元に違和感を感じた。何か堅い物を踏んだが、明らかに石ころなんかではない。ショックトラップだ。
 バツン、と弾ける電流に体を貫かれた瞬間、衝撃で体が後ろに仰け反る。オルハの爪がみぞおちに深く突き刺さっていた。一人目へのアッパーと同時に、反対の手からトラップが投げられている事に気づいていなかったのが、彼の敗因だった。
「よわよわですね〜♪」
 悪戯っぽく微笑んで、オルハは爪を引き抜いた。火花が散ってキャストが倒れる。
「オルハ! 左!」
 ランディが叫びながら走る。ちょうど二人の中間地点ほどに、三人いる。
「どおおりゃぁぁぁっ!」
 ランディが全体重をかけて体ごと飛び込んでゆく。前傾姿勢でのタックル。先頭の一人だけではなく、二人三人とその勢いに巻き込まれてゆく。
 そして直後。下からの衝撃。斧が地面スレスレの距離を滑空してから、上へと振り上げられる。それを叩き付けられた三人の体が宙を舞う。こんな簡単に人間って飛ぶんだ、とヴァルキリーは妙に感心してしまった。
「オルハ!」
 頷いてオルハが空中めがけて発砲する。空中だと回避行動が取れないのをいいことに、弾はキャストの体を好き勝手に貫いてゆく。
「さてと、お疲れだったな!」
 ランディが降りかぶった。ゴルフのスイングのように体をひねって斧を肩の上に構え、落ちてきたキャストが地面に着く前に一気に振り抜く。
 衝撃でキャストたちの体はただの鉄屑となり、手や足などのパーツがもげて、ばらばらと宙を舞った。
 ヴァルキリーはその光景をただ見ていた。前線への到着が遅れたのもあるが、二人の戦いぶりに圧倒されてしまっていた。コンビネーションも良く、あまりにも場慣れしすぎている。どれほどの戦場を潜り抜けてきたというのだ、彼らは。
「さーて」
 ランディが、斧を地面にどすんと立てた。
「出て来いよ」
「……これは予想外の幕引きですね」
 奥の木陰から人影が現れる。
「これだけの腕を持ったガーディアンが同行しているとは」
 一人のキャストだった。内部が見える頭部パーツに、細いシルエットと無表情なフェイス。そして、左目の下には隈取を模したマーキングがされている。
「……!!」
 その姿に、オルハは息を呑んだ。

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