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PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる時の半世紀の終りに〜 universe09 その孤独な背中を、焼き付けるように

 いつの間にか、机につっぷして寝てしまっていたようだ。
 ヴァルキリーは重いまぶたでしばたきながら、少しだけ首の位置をずらした。背中に毛布が乗っている事に気付き、その暖かさにほっとする。
 そもそも酒は得意でないのに、調子に乗ってしまった。いくら任務は明日からといっても、ちょっと羽目を外しすぎたか。
「いや……そんなんじゃねぇ」
 不意にランディの声が聞こえた。ヴァルキリーは暗がりに目が慣れはじめてきて、周りの状況に気づく。
「でも、あんたはそのためにガーディアンになったんだろ?」
 照明をほとんど落とした店内のカウンターで、アリサとランディが並んで座ってグラスを傾けている。ランディは葉巻を強く吸って、ベージュがかった煙を吐き出しながら、反論した。
「……そんな大それたもんじゃねぇよ。俺は力が欲しいだけだ。力が無いばかりに、数多くの仲間が死んだ。……不当な扱いに抵抗しただけなんだがな」
 自分をあざ笑うように微笑んでから、グラスの中身を飲み干した。
「……戦争が終わって100年も経ってるのに。根強いねぇ」
「まったくだ。ビーストは下級種族だ、という連中は今だ多いからな。確かに粗暴な奴は多いよ。けど、ヒューマンだっておっかさんみたいにいい奴がいれば、ロクでもない奴だっている。そういう事だろ?」
「まったくだね」
 ヴァルキリーは、まだもやがかった頭で、ぼんやりと話を聞いている。口を挟める空気ではなかった。
「10000人だったっけ? あの時って」
「惜しい、おっかさん。12000人だ」
 『あの時』とは、水晶の夜の事を言っているのはヴァルキリーにもすぐ分かった。
 2年前にモトゥブで起きた、人権解放を求めるビーストの暴動だ。
 500年の戦争が終わってからも、ビーストに対しての差別は根強く、ヒューマン至上主義も今だ存在している。そんな中、一部の人間がビーストを不当に労働させていたという事実があり、ビーストたちはデモ行進を行いながら企業に向かった。最初は1000人以下だったのが、数時間で話を聞きつけた者や人権解放団体などが参加し始め、気づけば10000人を越えていた。
 だが……不幸はその後だった。行列に石を投げた通行人がいたのだ。
 それがきっかけで行進は暴徒と化した。もちろん、便乗暴動に加わった無関係な者も多くおり、彼らは壊し、奪い、殺した。やがて同盟軍が出動し、武力鎮圧という最も安直で効果の高い手段を選択し、半数が殺された。無関係な市民や、列に参加していた多種族たちも犠牲になった。
 おびただしい破壊活動でモトゥブのあちこちでガラスの破片が飛び散って水晶が散らばっているように見えたため、この暴動の事を『水晶の夜(クリスタル・ナイト)』と呼ぶようになったのである。
「死者は全体の半数、負傷者も2000人をこえる大惨事だ。この時の傷が元で死んだ奴も500人は下らないだろう……あの時俺は、奴らを見ながら何もできなかった」
 ランディがおもむろに、ボトルをひっつかんで自分のグラスに酒を注いだ。どことなく、背中が第三者を拒絶しているように見えた。
「あんな思いはもうしたくない。死に行く者も見たくない。そのために力が欲しいと言ったら、おかしいかい?」
「いや。間違ってないよ。大切なものを失いたくないってのは、あたしにも分かるさ」
「だろ? 死んだ奴らも無念だと思う。……ただの虐殺だ、あれは。俺はこれ以上、犠牲者を出したくない。だからガーディアンになった。その何が悪い?」
「悪くないさ」
 言いながらアリサは、葉巻に手を伸ばして一本掴み取る。
「モトビアン・スパゲティかい」
「ああ。香草の香りが気に入っててね」
 それからしばし、無言の時間が流れた。たっぷり一分は経ってからアリサは答える。
「モトゥブを思い出す香りだ。懐かしい……」
「ああ、あの時を思い出すな。あの時はがむしゃらだった。生き延びる事以外に興味がなかったからな」
「まったくだね」
 アリサの答えを受けて、ランディが続ける。
「もう、剣は握らないのか?」
「無理だね。年なんだよ、あたしゃ」
「もったいない。おっかさんなら現役でいけるぜ」
 ランディは言いながら椅子から降りて、右手で逆の手を支えながら上へと伸ばして、伸びをする。
「ははッ」
 アリサが鼻で笑って続ける。
「戦いなんざ、何も生まないんだよ。新たな被害者と新たな確執を生むに過ぎないさ。……死んだ兄貴も浮かばれない」
「分かってる。おっかさんが正しい。……それでも、俺は力が欲しいんだ」
 アリサはゆっくりと息を吐きながら、遠い目で壁を見つめるランディを見た。PSU小説・ファンタシースターユニバース 〜還らざる半世紀の終りに〜 universe09 その孤独な背中を、焼き付けるように
 ……彼は孤独だ。
 自らに重い制約をかけることで、その中に存在意義を見出している。
 いや、彼はそうするしか選択肢が無かったのだろう。一見愚かな行為に見えるが、それを生き様に忠実に反映させているのは、ある意味究極のモラリストだと思えた。
「……死ぬんじゃないよ」
「おっかさんこそな」
 ランディがアリサに近づき、拳の裏で肩を押した。アリサも気づいて、拳の裏同士を合わせて押し返す。
「俺が死ぬまで、この味は守り続けてくれよ」
「無茶言うね」
「なに、俺らビーストはやや短命だ、老衰まで生きてもおっかさんの方が長く生きるさ。何より、おっかさんは殺しても死にそうにない。まるで"ダークファルス"だ」
 アリサは苦笑した。深淵なる闇より、千年に一度現れるという破壊神と同列に扱われるとは。
「そいつは光栄だね」
「ははっ。……すまねえ、なんか湿っぽい話になっちまったな。今日の酒はあまり良くない酒になっちまったか」
「いや別にかまわんよ。たまにはそういう酒もいいんじゃないか」
「違いない」
 二人は顔を見合わせて笑った。
「さて、そろそろ帰るよ。日付も変わっちまったし」
 ランディはメセタカードを出して、カウンターの機械に認証させる。「メセタ」とはこの太陽系における通貨単位で、物理的な貨幣制度はすでに廃れており、カードを使ってデータのやりとりをするのが普通だった。
「OKっと」
「ヴァル、ヴァル、起きれるかい? ……だめだね、すっかりつぶれてる。うちで預かろうかい?」
「そうしたいんだが……あいにく明日は任務があってね。担いでくよ」
 言いながらランディは、ヴァルキリーの横に腰を落として屈む。アリサが彼女をランディの背中に乗せた。
「んじゃおっかさん、またな」
「ああ。気をつけな」
 アリサは、見えなくなるまでずっとランディの背中を見ていた……まるで、その姿を目に焼き付けるかのように……。

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