MANIAX☆TOYBOX

2006.11.14

MANIAX02:「森の中の純潔」

「少女たちはどこから来て、どこへ行くのか?
深い森の中、高い塀で外界と遮断された秘密の学校(エコール)。
男性のいない完璧な少女たちの世界で、6歳から12歳までの少女たちが生活している。
学年を区別する7色のリボン。かわいらしい制服は清楚な白。
深い緑の森と、青い空を映す湖の前で、妖精のように戯れる少女たち。
彼女たちは棺で眠らされたままここに連れてこられ、自然の生態やダンスを学ぶ……」

今回は独自の世界観を作り出す映画をご紹介します。

   

麻酔にかかったような美しさに、魂がかき乱される。

──マーティン・スコセッシ(映画監督)

   
 

世の中には多くの映画があります。
そのほとんどが様々な熱意、人生、物語などを感じられるものばかりです。
その中でも、 今回は特殊な空間に広がる耽美な世界を舞台とした映画「エコール(ECOLE)」をご紹介したいと思います。

 
   
 

ねぇルシール、私達大人には何色のリボンが手渡されるのだろう?

──猪俣ユキ(『ユモレスク』映画監督/女優)

 
   
 

物語は、6歳の少女イリスが運ばれて来たところから始まります。
イリスは7〜12歳までの6人の少女たちに見守られて目覚めます。少女たちは一人一人が年齢の色に合わせたリボンをしており、イリスに最年少を意味する赤いリボンを手渡します。
そして少女たちはイリスの目の前で、自分より一つ下の少女に自分のリボンを手渡すのです。

イリスはこの豪華な公園の中に建つ家で、この少女たちと暮らすことになります。公園の中には中心から星型に5軒の家が点在しており、各家にグループに分かれて少女たちが住んでいます。
少女たち以外は、年をとった召使と、エディットとエヴァという若い女性教師の二人だけ。
少女たちは毎日大きな家に通い、ダンスと生物を勉強しています。

訪問客はいっさい禁止されていて、公園は外界と遮断された巨大な壁に覆われ、よじ登るも禁止されています。
壁をよじ登って外に出ようとするものは足を折られ召使と化し、永遠にここから出られないと噂されているのです…。

ECOLE  
 

↑原題は「INNOCENCE」。無実や純潔を意味するタイトルだったが、製作段階ではフランス語で「学校」を意味する”ECOLE”だったという。監督と協議の上、邦題は「ECOLE」を採用した(同名の邦画作品との混同を避けるため)。

   
 

まるで蝶のように美しくはかない少女たちの変態模様をこれほどまで残酷かつ優しく描いたフィルム、僕は知らない。

──古屋兎丸(漫画家)

 
   
 

この作品は大きく分けて、三部構成となっています。

最初は、イリスの物語。
春、ここに来たイリスは不安で一杯です。
別れた弟のことも心配ですし、何より「帰りたい」と言ってもここからは出してもらえません。 彼女の面倒を見る最年長のビアンカも「ここからは出られないわ」「規則違反よ」としか答えてくれないのです。

ですが、やがて夏が来て、秋になると、イリスは以前の生活を完全に忘れてしまいます。自分の世話を焼いてくれるビアンカに対して尊敬と憧れを抱き、それが心強かったのです。
しかし、新入生のローラは違いました。
環境になじめずここから出ようとボートで脱出しようとします。
夜になって嵐になり、イリスは黙っていた自分を責め、ビアンカに泣きながら言います──「ねぇ私も罰を受ける?」

翌朝、溺死したローラの葬儀がしめやかに行われるのです。

次は、アリスの物語。
年に一度、冬に校長先生が10歳の少女たちに会いにきます。校長先生にダンスを認められると、6年生に進級する前にここを去ることを許されるのです。
アリスは外の世界を夢見て、猛練習を重ねてきました。

しかし他の少女が選ばれ、アリスはダンスの教師であるエヴァに詰め寄ります。
「私が選ばれるって言ったじゃない」
「──そんな事言った覚えはないわ」

ずっと憧れてきた外の世界。
そこへ行けないと知った彼女は倒れてしまいます。
やがて、 気付くと壁の前にいました。
そして壁を見上げ──よじ登り、壁の向こう側へと消えてゆきました。

…それからは、アリスの噂や話題をすることは、一切禁じられました。

ECOLE

 

↑閉鎖された公園の中、少女たちは自由に(──もちろん、限られた中での自由──)に過ごす少女たち。「妖精」と言えば聞こえはいいが、彼女たちはまだまだ「孵化する前の蝶」を連想させる。
そう、揃いの白い制服はさなぎのようなものなのだ。

ECOLE

↑倒れたアリスを心配そうに囲む面々。彼女たちには助け合う以外の手段はない。
大人たちがほとんどいないこの世界で、彼女たちは手を取り合って生きている。
──そうしなければ、辛いから。

   
   
 

その世界が隔離された薄暗い場所だと分かっていても、舞台のあちら側からでなく、ステージの裏側から静かに彼女達の事を観ていたいと思うのは、どうしてなのでしょう…。(―MARQUEE vol.57より抜粋―)

──カヒミ・カリィ(ミュージシャン)

 
   
 

最後は、ビアンカの物語。
やがて、春が戻ってきます。
先生たちは12歳の少女たちに、じきに起こる体の変調について話します。

そう、彼女たちの体に、卒業の時期が近づいているというサインが表れているのです。

ある晩、ビアンカは1歳年下のナディアを、秘密の劇場に連れてゆきます。
そこは下界と地下のトンネルで通じており、こっそりとやってくる正装の観客の前で、少女たちはダンスを披露していました。
これからナディアは、じきに卒業するビアンカに代わってここでダンスをすることになるのです。

好奇心から、客席に降りたナディアとビアンカは地下のトンネルに足を踏み入れます…。
「どこに行く気だい。金でも落ちていたのか?」
現れた召使の老婆。「お金」を知らない二人に老婆は言い放ちます。
「見るかい? この金であんたちの生活を養ってるんだよ」

──そしてついに、最年長の少女たちが永遠に学校を去らなければならない日がやって来ました。
電車に乗せられた五人の卒業生たちは静かに席に座っています。
不安から、ビアンカは同行するエヴァに聞きます。
「私たちはどうなるの?」
と。
彼女は煙草を深く吸い…静かに答えました。

「──すぐに私たちを忘れる」

 
  ECOLE 〜秘密のダンス〜  
   
 

…決して、この映画は美しいだけの映画ではありません。
大人たちの都合がそこには確実に存在しており、それが手綱を握っているような気にさえなります。
それゆえ、少女たちの素直な想いが踏みつけられることもありますが、屈しない無邪気さに憧れる部分は素直に美しいと思えるでしょう。
明るいラストシーンは多くの謎を残しますが、少なくとも少女たちは明るく前向きで、それが心に残ります。

監督が描きたかった世界は、楽園(エデン)でも理想郷(シャングリラ)でもない。
ただ、そこにある、世界。
それを表現したかったのだと。
そう感じられました。

これから世の中へと羽ばたいてゆく蝶たち。
いつまでも、幼児期から思春期へと向かう儚い美しさを忘れず、大切な気持ちを思い出し……そして、見た人々たちにもその気持ちを思い出させて欲しい──その想いを忘れてはいけないのだと思えました。

ナボコフがもし、この作品を見たら…彼はなんと答えるのでしょう?
ふと思いました。

余談になりますが、アニエスベーの協賛で人形展も開催され、写真集も発表されています。
興味のある方は、是非調べてみてはいかがでしょうか。

 

■ECOLE

監督+脚本:ルシール・アザリロヴィック
原作:「ミネハハ」フランク・ヴェデキント著
出演:マリオン・コティヤール/エレーヌ・ドゥ・フジュロール他
ベルギー・フランス・イギリス合作/121分/シネマ・スコープ/Dolby SRD
字幕翻訳:加藤リツ子
PG-12

提供:キネティック+レントラックジャパン
協賛:アニエスベー 
配給:キネティック(公式サイト:http://www.kinetique.co.jp/

公式サイト:http://www.ecole-movie.jp/
人形展について(ニュース記事):http://www.cinematopics.com/cinema/news/output.php?news_seq=5438


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